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第19話 絶望の淵で愛を叫ぶ! 涙雨の巫女、魂の覚醒!

「ククク…そうだ、苦しめ、絶望しろ、哀れな水龍よ…。お前のその美しい魂は、最高の味になりそうだなぁ…」


「神喰らいの影」の嘲笑が、禁足地の淀んだ空気に響き渡る。

 水晶様は、その邪悪な声と、過去のトラウマからくる悪夢に完全に囚われ、美しい顔を苦悶に歪ませてうずくまっている。その体から発せられる神聖なオーラも、まるで風前の灯火のように弱々しくなっていくのが、私にもはっきりと分かった。


「水晶! しっかりしろ! 貴様、こんなところで終わりかよ!」

 巌固様が、歯噛みしながら叫ぶ。彼も綾織様も、影の強大な力の前に思うように動けず、水晶様を助けることができないでいた。


「水晶様っ! しっかりしてください! 聞こえますか!? 水晶様っ! 戻ってきてください、お願いだから…!」


 私の必死の呼びかけも、今の水晶様には届いていないみたいだ。その瞳は虚ろで、もう私のことすら見えていないのかもしれない。


(嘘だ…! 水晶様が、こんなところで…こんな奴に負けちゃうなんて、絶対に嘘だ! 諦めるわけにはいかない! 私が…! 私が、水晶様を助けるんだ!)


 恐怖で全身が震える。でも、それ以上に、愛する人をこんなにも苦しめる「神喰らいの影」に対する、燃えるような怒りが私の胸の奥から湧き上がってきた。

 私は、水晶様を背中にかばうように、彼の前に立ちはだかった。そして、ある一つの、大きな決意を固めた。


「水晶様を…! あなたなんかに、絶対に渡さないんだから! たとえこの身がどうなろうともねっ!」


 私は一度ぎゅっと目を閉じ、心の奥底から、水晶様への溢れんばかりの愛、巌固様や綾織様、そして水見里のみんなへの想い、この世界に生きとし生けるもの全てへの慈しみの感情を、力の限り呼び覚ました。


(私の涙が、私の祈りが、本当に誰かの力になるのなら…今こそ、その全てを、この瞬間に捧げる…!)


 次の瞬間、私の体から、今までに感じたことのないほど清らかで、温かくて、そして力強い光が、まるで内側から溢れ出すように放たれ始めた! それは、私の魂そのものが、愛という名の炎をまとって輝いているかのようだった。

 私は懐からあの古びた笛を取り出し、震える唇に当てる。これはもう、ただの雨乞いの舞のための笛じゃない。愛する人を守るための、私の魂の歌なんだ!


『ピィィィィィィヒャラララ――――――』


 禁足地の邪気を切り裂くように、清らかで力強い笛の音色が響き渡る。その音色は、私の体から溢れ出る光と共鳴し、聖なる波動となって「神喰らいの影」の邪悪な力を、ほんのわずかだけれど、確実に押し返していく!


『……な、小娘が…! その力は、一体…!?』


「神喰らいの影」の声に、初めて焦りのようなものが混じった。

 私の笛の音と、魂の光は、悪夢に囚われていた水晶様の心の闇にも、一条の光として届き始めていた。


(水晶様…聞こえますか…? あなたは一人じゃないですよ…私が、私たちが、そばにいますから…!)


 暗闇の中で、苦しみもがいていた水晶様の意識に、萩乃の温かい声と、優しくて懐かしい光が、確かに届いた。そうだ、俺には…俺には、こんなにも強く、こんなにも愛おしい光を放つ、萩乃がいるじゃないか…!


 水晶様の虚ろだった瞳に、微かに、けれど確かな光が戻り始めた。


「小娘…!いや、巫女よ! お前さん、大したもんだぜ、本当に!」巌固様が、感極まったような声を上げた。「水晶! いつまで寝ぼけてやがる! こんな健気で、気合いの入った嫁さんをいつまでも泣かせやがって!それでも神か、この朴念仁がぁっ!」


「そうよ、水様!」綾織様も、目に涙を浮かべながら叫んだ。「萩乃さんのその真っ直ぐな想いに、あなたが応えないでどうするの! 私たちも、全力であなたたちをサポートするわ!」


 巌固様と綾織様も、萩乃の決死の覚悟と、そこから生まれる奇跡的な力に勇気づけられ、再び立ち上がった。二人の神もまた、それぞれの神力を最大限に解放し、萩乃を援護するように「神喰らいの影」の邪悪な波動を防ぎ始める!


 そしてついに――。


「……萩乃……みんな……!」


 水晶様が、ゆっくりと、しかし確実に顔を上げた。その瞳には、もう迷いの色はない。あるのは、過去のトラウマを振り払い、愛する者たちと共に戦うという、鋼のような決意だけだ!


「俺は……もう、迷わないッ!!」


 水晶様の体から、失いかけていた神力が、まるで堰を切った激流のように、以前にも増して強大な奔流となって溢れ出した! その姿は、天を統べ、万物を潤す、まさしく偉大なる水龍神そのもの!


 水晶様は、力強く立ち上がると、私の手をぎゅっと握りしめ、その深い愛情と絶対的な信頼が込められた瞳で、私を見つめた。


「ありがとう、萩乃。お前のおかげで、俺は俺自身を取り戻すことができた。…さあ、行こう。我々の手で、あの忌まわしい影を、完全に祓うのだ!」


「はいっ、水晶様!」


 私も、涙で濡れた顔のまま、満面の笑みで力強く頷いた。

 四人の心が、今、確かに一つになった。

 神域の存亡と、愛する者たちの未来をかけた、「神喰らいの影」との最終決戦の火蓋が、今まさに、切って落とされようとしていた!


(水晶様…! よかった…本当に、よかった…! さあ、ここからが本当の戦いよ! 私たちの愛と絆の力で、絶対に、みんなで未来を掴み取るんだから!)


 私の胸は、恐怖よりもずっと大きな、希望と勇気で満ち溢れていた。


(次回、最終決戦!愛と涙と神々の力、全てをかけた戦いの行方は!? そして、神域に真の平和は訪れるのか!?)

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