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第18話 明かされる神様の過去と、四人の決意! いざ、決戦の禁足地へ!

「神喰らいの影」の圧倒的な力の前に、ほうほうの体で禁足地から逃げ出した私たちは、ひとまず例の泉のほとりで息を整えつつ、今後の対策を練ることにした。…って言っても、あの絶望的な強さの相手に、一体どうすればいいっていうのよ!?


「あの影の正体だけど…」綾織様が、厳しい表情で切り出した。「わたくしの知る古の文献に、それらしき記述があったわ。『虚無より生まれ出でて、神々の魂を喰らい、その力を己がものとする存在』…と。でも、それがなぜ今になって、あんなにも強大な力を持ってこの神域に現れたのか…それは謎ね」


「水晶様…」私は、隣で唇を固く結んでいる水晶様に向き直った。「あの影は、やっぱり水晶様の過去と何か関係があるんですよね…? 無理にとは言いません。でも、もし話せるのなら…私たちにも教えてくれませんか? 何か、力になれることがあるかもしれないから…!」


 水晶様は、私の言葉にしばらくの間、何かを深く、深く考えるように目を伏せていた。そして、重々しく、けれど絞り出すような声で、ぽつり、ぽつりと語り始めた。


「……あれは、まだ俺も、がんも、神として未熟だった遠い昔のことだ」


 その声は、いつもの冷静沈着な水晶様からは想像もできないくらい、後悔と痛みの色を滲ませていた。


「好奇心と、ほんの少しの若気の至りから…俺たちは、固く立ち入りを禁じられていたあの『禁足地』に、足を踏み入れてしまったのだ。そして…そこで、俺たちは、意図せずして、封じられていた『小さな影の欠片』のようなものに触れてしまった…。当時は、それがどれほど危険なものか、分かっていなかった。だが、それ以来、巌の山の力は徐々に衰え始め…そして、あの影は、俺たちの愚かな行為によって、長い時間をかけて力を蓄え、今の姿になったのかもしれない…」


(水晶様……そんなことが…。ずっと、ずっと一人で、そんな重たい秘密と後悔を抱え込んでいたんだ…)


 胸が締め付けられるように痛い。いつもクールで、何でもできちゃうスーパー神様だと思っていた水晶様の、初めて見る弱々しい姿だった。


「だとしたら、巌固様も…!」

「ああ。あいつもまた、あの時のことを深く悔いているはずだ。そして、山の力が弱まる苦しみを、誰よりも感じている…」


「行きましょう、水晶様!」私が力強く言った。「もう一度、巌固様のところへ! 巌固様だって、水晶様と同じように苦しんでいるのなら、きっと分かってくれるはずです! あの影は、水晶様だけの責任じゃありません! 今こそ、二人で…ううん、私たちみんなで力を合わせる時です!」


 私の言葉に、水晶様はハッとしたように顔を上げ、そして、綾織様もまた、強く頷いてくれた。


 三人は再び、巌固様の住まう岩屋へと向かった。

 巌固様は、相変わらず不機嫌そうな顔で私たちを迎えたけれど、以前のような激しい敵意は感じられない。私たちが禁足地で感じた邪悪な気配と、萩乃の祈りが彼の山にわずかながら良い影響を与えたことを、彼自身も感じ取っているのかもしれない。


「巌固様!」私は、まっすぐに彼の目を見て訴えかけた。「水晶様は、ずっと後悔していました! あの禁足地での出来事を! あの影は、水晶様だけの責任じゃありません! どうか、私たちと一緒に戦ってください! お願いします!」


 水晶様もまた、深く頭を下げ、巌固様に向かって静かに、しかし心の底からの言葉で協力を請うた。


「巌……俺の、そして俺たちの過ちだ。だが、今度こそ、お前と共に、この手で決着をつけたい。力を貸してくれ」


 巌固様は、しばらくの間、腕を組んで黙り込んでいた。その厳めしい顔には、苦悩と、後悔と、そしてほんの少しの安堵のようなものが入り混じって浮かんでいる。やがて、彼は大きなため息をつくと、ぶっきらぼうに、けれど確かな力強さを込めて言った。


「……フン。貴様一人の手柄にさせるのも、どうにも癪だからな。今回だけだぞ、水晶! 足を引っ張るなよ!」


(やったー! 頑固親父…じゃなかった、巌固様が、ついに仲間になってくれたー! これで百人力…いや、神様だから百万力くらい!?)


 こうして、私たち――水龍神・水晶様、山の神・巌固様、風の女神・綾織様、そして人間の巫女である私、萩乃の四人は、「神喰らいの影」討伐隊(仮)を結成したのだ!


 早速、泉のほとりで緊急作戦会議が開かれた。


「あの影の本体は、間違いなく禁足地の最深部、汚染された神力の源泉の底にいるはずよ」綾織様が、地図のようなものを広げながら説明する。「問題は、そこまでどうやって辿り着くか、そして、どうやってあの強大な邪気を打ち破るか、ね」

「道中の邪気や雑魚どもは、俺と水晶で切り開く」巌固様が、力強く拳を握りしめた。「小娘!お前は、その清浄な力で、俺たちや源泉の浄化の援護をしろ。いいな!」

「は、はいっ! 精一杯頑張ります!」


(私にも、ちゃんと役割があるんだ! みんなの足を引っ張らないように、私にできることを全力でやらなくちゃ!)


 作戦は決まった。固い決意を胸に、私たちは再び、あの邪気に満ちた禁足地へと向かった。

 前回よりも、さらに濃密になった邪気が、まるで生き物のように私たちにまとわりついてくる。


「ククク…また来たか、愚かな神々と、美味そうな小娘よ…」


「神喰らいの影」の声が、直接頭の中に響き渡り、不快な笑い声と共に、強烈なプレッシャーが私たちを襲う。

 木々が不気味にざわめき、地面からは黒い瘴気のようなものが立ち昇り、私たちの行く手を阻もうとする。


「負けるな、萩乃! お前の祈りが、我々の力になる!」

「そうだぜ、小娘! お前の笛の音で、この薄汚ねえ邪気を吹き飛ばしてやれ!」


 水晶様と巌固様が、左右から私を守るように立ち、それぞれの神力を解放して邪気を切り裂いていく。綾織様は、巧みな風の力で私たちの進路を確保し、的確な指示を出す。


(すごい…! これが、神様たちの戦い…! 私も、負けてられない!)


 私は必死に笛を吹き、祈りの言葉を紡ぐ。その清らかな音色と祈りが、邪気をわずかに押し返し、傷ついた仲間の心を癒していく。

 しかし、禁足地の最深部に近づくにつれて、「神喰らいの影」の妨害は、さらに陰湿で強力なものになっていった。

 それは、水晶様の心の最も柔らかな部分――過去のトラウマを、容赦なく抉り始めたのだ。


「う…あ…やめろ……! 俺は…俺はまた、同じ過ちを繰り返すというのか…!? 巌を…そして、萩乃まで危険に晒して…!」


 突然、水晶様が苦しげな声を上げ、その場に膝をついた。その瞳は虚ろで、若き日の過ちの光景、巌固様を危険に晒してしまった記憶、そして神としての責任を果たせなかった無力感といった幻覚に、心を苛まれているのが分かった。彼の体から発せられる神力が、急速に弱まっていく…!


「水晶! しっかりしろ! 奴の術中にハマるな!」巌固様が叫ぶ。

「まずいわ! 水様の心が折られてしまったら、私たちも…!」綾織様の顔にも焦りの色が浮かぶ。


「水晶様っ!!」


 私は、たまらず水晶様のもとに駆け寄った。

「神喰らいの影」の、嘲るような声が、禁足地の闇に響き渡る。


『ククク…そうだ、苦しめ、絶望しろ、哀れな水龍よ…。お前のその美しい魂は、最高の味になりそうだなぁ…』


(水晶様が…! どうしよう…このままじゃ、水晶様の心が、本当に壊れちゃう…!)


 私の心臓が、恐怖と焦りで張り裂けそうだった。


(次回、絶体絶命の水晶様! 萩乃の愛と涙は、彼を救えるのか!? そして、ついに「神喰らいの影」との直接対決へ!)

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