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第16話 神力の源泉と巫女の祈り、そして禁断の地へ…!

 綾織様の案内で、私たちは神域のさらに奥深くへと足を踏み入れた。

 そこには、息をのむほど広大で、かつてはきっと瑠璃色に輝いていたであろう聖なる湖――神々の力の源、「神力の源泉」が静かに広がっていた。

 でも、今のその湖は、綾織様が言っていた通り、水量が目に見えて減り、湖面は生気を失ったように淀んで、弱々しい光を放っているだけだった。周囲の木々や花々も、どこか元気がなさそうだ。


「……これが、今の神力の源泉よ。わたくしたち神々の力が、ここから生まれているのだけれど…見ての通り、以前のような神々しい輝きは失われてしまっているわ…」

 綾織様が、痛ましげに湖を見つめて呟く。


「……ここまでとはな」

 水晶様の低い声には、隠しようのない衝撃と、そしてどこか責任を感じているような響きがあった。


(うわぁ……本当に、神様たちの元気の源が、こんなに弱っちゃってるんだ…。これじゃあ、巌固様だけじゃなくて、他の神様たちもパワーダウンしちゃうわけだわ…。水見里の「命の泉」が枯れた時みたいに、みんなの心がどんどん乾いていっちゃう…)


 私は、いてもたってもいられなくなって、自然と湖に向かって一歩踏み出し、そっと手を合わせた。

 水見里で、必死に雨を願った時のように。水晶様の心を動かした、あの時のように。


(どうか…この美しい湖に、そして神様たちに、再びお力が戻りますように…! そして、遠くにいる巌固様の山にも、優しい緑と、安らぎが戻りますように…!)


 私の目から、ぽろり、ぽろりと温かい涙がこぼれ落ちた。その涙の雫が、まるで吸い込まれるように湖面に落ちた、その瞬間――。

 弱々しかった湖の光が、ほんの一瞬だけ、ふわりと優しい力強い輝きを放ったのだ! そして、周囲に漂っていた淀んだ空気が、わずかに浄化されたような、清々しい感覚が広がった。


「……!」

「…すごいわ、萩乃さん! あなたのその祈りが、源泉に力を…ほんの少しだけれど、確かに!」


 水晶様と綾織様が、息をのんでその光景を見つめている。水晶様の瞳には、驚きと、そしてどこか誇らしげな、優しい色が浮かんでいるように見えた。


(え…? うそ!? 私の涙で…? また…? 少しだけだけど、湖が、ほんのちょっとだけ元気になった…かも? やった! 私にも、やっぱり何かできることがあったんだ!)


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 その時だった。遠く、巌固様の住まう霊山の方角から、ほんのわずかだけれど、清浄な風がそよ、と吹いてきたような気がした。そして、風に乗って、巌固様の苦しげな呻きのようなものが、水晶様の耳にだけ届いたのかもしれない。


「……巌か」水晶様が、険しい表情のまま呟いた。「萩乃の祈りが、ほんのわずかだが、あいつにも届いたのかもしれん」

「だとしたら、巌固様のあの頑なな心の氷も、少しは溶かせるかもしれないわね!」綾織様が、パッと顔を輝かせた。


(巌固様にも…! よかった…! でも、これだけじゃ、まだまだ根本的な解決にはなってないんだよね…。この湖が、こんなに弱っちゃった本当の原因を突き止めないと…)


「綾織様」水晶様が、静かに口を開いた。「この源泉の汚染が、特に酷い場所があるのだろう? …それは、どこだ」

 その問いに、綾織様の表情が、さっと曇った。


「ええ…。湖の、さらに奥…古の盟約によって、わたくしたち神々でさえ、特別な理由がない限り決して足を踏み入れてはならないとされている、『禁足地』があるの。おそらく、今回の異変の大元は、そこにあるのではないかと…わたくしは睨んでいるのだけれど…。でも、あそこは…」


「禁足地」という言葉を聞いた途端、水晶様の纏う空気が、ぴりりと張り詰めた。その横顔は青ざめ、過去の忌まわしい記憶が蘇ったかのように、苦しげに目を伏せる。


「水晶様…?」

 私は心配になって、そっと水晶様の袖を掴んだ。彼の指先が、微かに震えているような気がした。


(禁足地…! やっぱり、綾織様が言ってた、水晶様が昔、巌固様とこっそり忍び込んだっていう、あの場所のことなんだ…! そこに、この神域全体の異変の原因があるの…?)


 水晶様は、しばらくの間、何かと必死に戦っているかのように唇を固く結んでいた。けれど、やがて顔を上げると、その瞳には、痛みを乗り越えようとする、決然とした強い光が宿っていた。


「……行かねばなるまい。このままでは、神域も、そしていずれは地上界も…持たぬ。過去に犯した過ちは、いつか誰かが清算せねばならんのだ。…それが、私自身の過ちであるのなら、尚更だ」


 その言葉には、神としての、そして一人の存在としての、重い覚悟が込められていた。


「はい! 私も行きます、水晶様!」私は、水晶様のその覚悟を受け止め、彼の大きな手をぎゅっと握り返した。「どんな危険な場所でも、水晶様のそばにいますから! 私、もう守られるだけじゃ嫌なんです!」


 水晶様は、私の言葉に力強く頷き返してくれた。その手の温もりが、私に勇気をくれる。


「決まりね!」綾織様が、緊張感を振り払うように明るく言った。「それじゃあ、私たちの次の目的地は、神域の最深部、『禁足地』よ! どんな邪気が待ち受けているか分からないけど、三人で力を合わせれば、きっと道は開けるわ!」


 こうして私たちは、神力の源泉である聖なる湖の、さらに奥…邪悪な気配が色濃く漂い始める、禁断の地へと足を踏み入れることになった。

 そこは、陽の光さえ届かないかのように薄暗く、空気はずっしりと重く、不気味なほどの静寂が支配する場所だった。


(なんだか…すごく嫌な感じがする…。ここが、禁足地…。水晶様、本当に大丈夫かな…? 私、今度こそ、本当に水晶様の力になれるのかな…)


 私の胸は、未知への恐怖と、愛する人を支えたいという強い想いで、張り裂けそうなくらいドキドキしていた。


(次回、ついに禁足地の秘密が明らかに!? 待ち受けるのは、神喰らいの影!? そして、水晶様の過去の過ちとは…!?)



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