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第14話 いざ神域へ! ご挨拶は頑固一徹の山の神!?

「……分かった。一緒に行こう、萩乃。だが、決して無茶はするな。私のそばを離れるなよ」


 水晶様の、いつになく真剣な声と、その瞳に宿る私への深い信頼(だと信じたい!)に、私は力強く頷いた。

 こうして、私と水晶様、そして案内役の美人女神・綾織様の、ちょっぴり不安だけど、なんだかドキドキする神域への旅が始まったのだ!


「それじゃあ、お二人とも、しっかりわたくしにつかまっていてくださいましね? ちょっとばかし、風を使いますから!」


 綾織様がそう言うと、ふわりと私たちの体を柔らかな風が包み込んだ。次の瞬間、景色がぐにゃりと歪み、体が宙に浮き上がるような不思議な感覚!


「ひゃあああああ!?」

「萩乃、目を開けてみろ」


 隣から水晶様の落ち着いた声がして、恐る恐る目を開けると――そこはもう、水見里とは全く違う、神々しい光に満ちた世界だった!

 空はどこまでも高く青く澄み渡り、見たこともないような美しい花々が咲き乱れ、空気そのものがキラキラと輝いているみたいだ。


(うわぁ……! な、何ここ!? 天国!? 天国なの!? それとも私、ついに夢見てるの!?)


「ふふ、萩乃さん、初めての神域はいかがかしら? 地上とは時間の流れも、空気の濃さも少し違うから、あまりはしゃぎすぎると風邪を引いてしまいますわよ?」

 綾織様が、いたずらっぽく微笑む。


「は、はひぃ! なんだか空気が美味しいというか、濃いというか…! 水晶様は全然平気なんですね…って、神様だから当たり前か!」


 私が一人で感動と興奮の渦に巻き込まれていると、水晶様がそっと私の手を握ってくれた。


「……離れるなよ、萩乃」

 その声はいつもより少しだけ低くて、なんだかすごく頼りになる。


(きゃっ! 水晶様ったら、こんなところでいきなり手を握ってくるなんて大胆! でも、嬉しい! しっかり握り返しちゃうんだから!)


 綾織様の案内で、私たちは風に乗るように(本当に風に乗ってた!)、巌固様が住まうという険しい霊山へと向かった。

 しかし、その霊山に近づくにつれて、神域の美しい景色は一変した。山は生気を失い、木々は力なく枯れ、鋭い岩肌はあちこちで崩落している。不気味なほどの静寂が支配し、鳥や獣の気配は全く感じられない。


「……これが、今の巌固様の山よ。わたくしが幼い頃に見た時は、もっと緑豊かで、たくさんの命が賑やかに息づいていたというのに……」

 綾織様の美しい顔が、悲しげに曇る。


(うわぁ……これが、神様が荒ぶってるってことなの…? 水見里の干ばつも本当に酷かったけど、これはまた別の意味で、心が締め付けられるような光景だわ…)


 山の頂上近く、まるで巨大な獣が口を開けているような、古びた大きな岩屋の前に私たちは降り立った。ここが、巌固様の住処らしい。


「巌固様ー! 綾織ですわよー! 大事なお客様をお連れしましたー!」


 綾織様が呼びかけると、岩屋の奥から、ゴゴゴゴ…と地響きのような足音が近づいてきた。

 そして、岩屋の暗闇からぬっと姿を現したのは――。


(で、でかーーーいっ!!!)


 筋骨隆々とした、まるで岩から削り出したかのような壮年の男性だった。無骨で厳めしい顔つき、鋭い眼光はまるで猛禽類のよう。古風な狩衣をワイルドに着崩していて、その全身から「俺は機嫌が悪いんだ、話しかけるな」オーラがビンビンに放たれている!


「……何の用だ、綾織」


 その声は、腹の底から響いてくるような、ドスの利いた低い声だった。


「また小娘なんぞを連れてきおって。目障りだ。そして水晶…! 貴様、どのつら下げて俺の前に現れたぁっ!!」


 ビリビリと空気が震えるほどの怒声!

 ひぃぃぃ! こ、この方が山の神・巌固様!? 思ってたより百倍くらい、いや、千倍くらい怖いんですけどー!? しかも、明らかに水晶様に対してお怒りモード全開じゃないですかー!?


がん、久しいな。……その様子では、息災そうには到底見えんが」


 水晶様は、巌固様の怒声にも全く臆することなく、平然とそう言い放った。


「フンッ! 貴様に心配される筋合いなど、爪の先ほどもないわ! 用がないならとっとと失せろ! 今の俺は、虫の居所が悪いんでな!」

「その荒れ果てたお前の山を見れば、嫌でも分かる。一体何があった? お前ほどの神が、ここまで力を弱らせ、気を乱すとは尋常ではない」


 水晶様の言葉に、巌固様の眉がピクリと動く。


「……知ったことか! 人間どもが、好き勝手に山を汚し、木を切り倒し、神への信仰も忘れおって! 全ては自業自得だろうが!」


 巌固様の声には、人間への深い不信感と、やり場のない怒りが込められているように聞こえた。


(うわぁ…なんだか、水晶様も巌固様も、一触即発って感じのピリピリムード…。昔の悪友同士の再会って、もっとこう、感動的なものじゃないのぉ!?)


 私と綾織様は、二人の神様の間に流れる険悪な空気(と、飛び散る火花)に、ただただオロオロするしかなかった。


「あ、あの! 巌固様!」


 このままじゃラチがあかない! 私は、なけなしの勇気を振り絞って、一歩前に出た。


「わ、私は、水見里の巫女を務めております、萩乃と申します! 水晶様は、本当に、巌固様のことを心から心配されて、それで…!」


 巌固様が、ギロリと私を一瞥した。その鋭い視線に、足がすくみそうになる。


「……巫女だと? フン、近頃の人間は、神を敬う心などとっくに忘れ果てたものとばかり思っていたが……まだ、そのような殊勝な小娘もいたものだな」


 意外にも、少しだけ声のトーンが和らいだ…気がする?


「だがな、小娘! 神の世界に、人間が面白半分で首を突っ込むのは早すぎるわ! さっさと水晶にでも連れられて、地上へ帰るがいい!」


(こ、小娘って言われたー! でも、ちょっとだけだけど、話を聞いてもらえた…かも!?)


 私が内心でそんなことを考えていると、すっと水晶様が私の前に立ち、まるで私を庇うように巌固様と向き合った。


「萩乃は、私の妻だ。無礼な口をきくのは許さんぞ、巌」


(つ、妻!? 水晶様、今、私のこと妻って…! しかも巌固様から庇ってくれてる!? きゃー! 不意打ちの男らしさ、反則ですー!)


 私の心臓が、ドッキンドッキンと高鳴る。

 一方、巌固様は、水晶様の言葉に目を丸くした後、盛大に鼻で笑った。


「妻だと!? この俺が聞き間違えたか!? あの朴念仁で女心のカケラも解さんかった貴様がか!? それはまた…面白い冗談だなぁ、水晶よ!」


(え、え、え!? 朴念仁で女心のカケラも解さんかった、ですって!? 巌固様、水晶様のこと、めちゃくちゃ的確に分析してるじゃないですかー!? そ、そして水晶様! ちょっと! ちょっとだけ顔赤くなってません!? ねぇ!?)


 私の視線に気づいたのか、水晶様は少しだけ気まずそうに咳払いを一つした。


「まあまあ、お二人とも! せっかくの再会なのですから、そう熱くならないでくださいまし。ね、巌固様? 今日はひとまずご挨拶ということで。私たち、少し麓で休ませていただきますわね?」


 綾織様が、ナイスタイミングで割って入り、強引に話をまとめる。さすが女神様、場を読むのがお上手だ!

 巌固様は、フン、と不機嫌そうに鼻を鳴らして岩屋の奥へと戻ってしまった。嵐のような山の神様だった…。


 私たちはひとまず、綾織様の案内で山の麓にある、かろうじてまだ清らかな水が湧いている泉のほとりへと移動した。

 水晶様の表情は硬いままだ。でも、その瞳の奥には、何かを決意したような、強い意志の光も感じられる。


(巌固様、すごく怒ってたけど…なんだか、すごく苦しそうにも見えたな…。水晶様と巌固様の間には、一体どんな過去があるんだろう…? そして、この神域で、私にできることって、本当にあるのかな…)


 神様たちの世界の複雑な事情に、私の頭は早くもパンクしそうだった。


(次回、神域探索開始! 荒れた山に隠された秘密と、水晶様の過去がちょっぴり明らかに…なるの!?)

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