第12話 雨上がりの虹、神様と私の永遠の誓い!
あの奇跡のような大雨が上がり、翌朝、水見里はまるで生まれ変わったようにキラキラと輝いていた。
朝日が、雨粒をまとった草木を照らし、そこかしこで鳥たちが楽しそうに歌っている。村の空気はどこまでも澄み渡り、土の匂いが優しく鼻をくすぐった。
「うわぁ……すごい……!」
社殿の前に水晶様と二人で立つと、村人たちが次々と集まってきて、私たちに温かい拍手と感謝の言葉を贈ってくれた。
「萩乃ちゃん、水晶様! 本当にありがとう!」
「お二人のおかげで、村が救われただ!」
(うぅ…なんか、すごいことになっちゃったけど…でも、これが現実なんだよね! 私、本当に村を救うお手伝いができたんだ…! 水晶様と一緒に!)
村の中央にある、あのすっかり干上がっていたはずの「命の泉」からは、信じられないことに、再び清冽な水がこんこんと湧き出していた 。村人たちはその周りに集まり、まるで宝物を見るように、その輝きに見入っている。
私と水晶様も泉のほとりに並んで立ち、そっとその澄んだ水に手を浸してみた。水面に映る私たちの姿は…うん、なんだか本当に、夫婦みたいに見えるかも 。
「水晶様…本当に、本当にありがとうございます。私の、私たちのために…」
「礼を言うのは、むしろ私の方だ、萩乃」
水晶様が、私の濡れた手をとって、優しく微笑んだ。
「お前がいなければ、私は永遠にあの社殿の奥で、冷たい石のまま眠り続けていただろう。お前の涙と…その真っ直ぐな心が、私を再びこの世界に繋ぎ止めてくれたのだ」
(もー! 水晶様ったら、またそういうサラッと言うと私がめちゃくちゃ照れちゃうことをー! でも、嬉しい…!)
それからというもの、水晶様は約束通り、その神様パワーを存分に発揮して、村の古くなった水路を整備し直し、新たな水源を見つけ出す手助けをしてくれた 。
私はといえば、そんな水晶様の「助手」という名目で(実際はほとんど足手まといだったかもしれないけど!)、毎日一緒に村を歩き回った。
「水晶様! そこの岩、そんな軽々持ち上げちゃダメですよ! 村の人が見たら腰抜かしますから!」
「む…? だが、こうするのが一番早い」
「早いですけど! もうちょっとこう、オブラートに包むというか、神様っぽく奇跡っぽくお願いします!」
なんていう、ちょっとコミカルな(私だけがそう思ってる?)やり取りは日常茶飯事。それでも、水晶様が時折見せる、ほんの僅かな表情の変化――例えば、私がドジを踏んだ時に、口元がほんの少しだけ緩むのとか――を見つけるのが、私の密かな楽しみになっていた。
数ヶ月も経つと、水見里は見違えるように活気を取り戻した。
田んぼには青々とした稲がそよぎ、畑には色とりどりの野菜がたわわに実っている 。子供たちは、新しくなった水路で元気に水遊びを楽しんでいた 。
社殿も村人たちの手で美しく修繕され、近々、何十年ぶりかに盛大な水龍祭が再興されることになった 。
そして私は、いつの間にか「雨乞い巫女」としてだけでなく、「水龍様のお嫁さん」とか「水晶様の可愛い奥様(自称)」として、村人たちから尊敬と親しみを込めて…まあ、主にからかわれる対象として、すっかり村の人気者(?)になっていた。
響斗も小萩も、そんな私と水晶様の姿を、毎日ニコニコと嬉しそうに見守ってくれている。
あの日から一年が経った、春の日。
夕焼けが西の山を茜色に染める頃、私と水晶様は、村を見下ろす丘の上に新しく植えられた、満開の桜の木の下に二人で寄り添っていた 。
「綺麗ですね、水晶様…。あの干ばつが嘘みたいです」
「ああ。すべて、お前のおかげだ、萩乃」
水晶様が、私の肩を優しく抱き寄せてくれる。その温もりが、たまらなく愛おしい。
「水晶様…」
私は、いたずらっぽく水晶様を見上げて、お願いしてみた。
「あの…私たち、ずーっと、ずーっとずーっと! 一緒にいましょうねっ?」
水晶様は、愛おしそうに私の瞳を見つめ返すと、私の髪に、ふわりと優しい口づけを落とした。
「ああ、永遠に。お前の涙も、その太陽のような笑顔も、この先もずっと…全て私が守り続けると誓おう」
そして、どちらからともなく、私たちはそっと唇を重ねた。
ひらひらと舞い散る桜の花びらが、まるで私たちを祝福してくれるかのように優しく降り注ぎ、そして、雨上がりの空には、七色の大きな虹が、未来へと続く架け橋のように、美しくかかっていた 。
(神様との契約結婚は、たくさんの涙で始まって、そして、とびっきりの愛と笑顔で満たされた、最高のハッピーエンドになりました! これからも、この大好きな水見里で、大好きな水晶様と、ずっとずっと一緒に…!)
私の人生は、あの日、神様と出会って、百八十度変わった。
でも、一つだけ確かなことがある。それは、このどうしようもなく不器用で、泣き虫で、それでもちょっぴり強くなれた私が、世界で一番、幸せな花嫁だっていうこと!
――完――