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第10話 龍神覚醒! 涙の奇跡と神様の初めての…!?

 枯れた川底から陽炎のように立ち昇っていた龍の幻影が、次の瞬間、天を衝くほどの圧倒的な姿を現した!

 青白い鱗は月光を浴びて神秘的に輝き、天を睨む鋭い瞳は星々をも従えるかのよう。そのあまりの威容に、私だけでなく、その場にいた誰もが息をのんだ。


「ば、馬鹿なぁ…! ただの言い伝えでは、なかったというのかぁ…!?」


 榎崎の顔から、いつもの嫌らしい笑みが完全に消え失せ、恐怖と狼狽の色が浮かび上がっている。


「こ、こんなもの…! こんなもの、聞いてないぞぉぉぉぉ!」


 その龍の幻影が咆哮したのか――いや、音はなかった。けれど、世界そのものが震えるような、絶対的なプレッシャーが場を支配する。そして、先程まで光の粒子のように降り注いでいた雫が、次第に濃くなり、まるで霧雨のように村全体を優しく包み込み始めたのだ。肌に触れると、ひんやりとして、どこか懐かしいような、心地よい感覚。


「ひぃぃぃ! た、助けてくれぇぇぇ!」

「もうダメだ! こんな化け物相手にどうしろってんだ! 逃げろーっ!」


 榎崎の手下たちは、完全に戦意を喪失し、蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ出していく。


「お、おのれぇぇ! 覚えておれぇぇぇっ!」


 榎崎もまた、情けない捨て台詞を残し、手下たちを追いかけるようにみっともなく逃げ去って行った。あっけない幕切れだった。


 商人たちの姿が見えなくなると、村人たちは目の前で起きている奇跡のような光景に、最初はただただ呆然としていた。けれど、やがて誰からともなく、わあっ!という歓声が沸き起こった。


「龍だ…! 本物の、水龍様が戻ってこられたぞーっ!」

「やった! やったぞぉぉぉ!」

「萩乃様! いや、萩乃ちゃん! あんたのおかげだ! 本当に、本当にありがとうよぉぉ!」

「俺たちは…俺たちはなんて馬鹿なことを…! 萩乃ちゃん、今まで本当にすまなかったぁ!」


 これまでの蔑視や冷たい視線が嘘のように、感謝と称賛の言葉が、まるで温かいシャワーみたいに私に降り注ぐ。

 その輪の中から、月岡村長が、涙でぐしゃぐしゃになった顔で私の前に進み出て、深々と土下座をした。


「おお…萩乃…! 我々は、我々はなんと、なんと愚かだったことじゃ…! この子が、こんげな小さな娘御が、我々を、この水見里を、救ってくれたのじゃ…! なんとお礼を申してよいか…!」


(村長さん…! み、みんな…! そんな…私なんて、そんな大したこと…)


 村全体が、龍の放つ淡い光と、心地よい湿気に包まれて、まるで夢の中にいるみたいだ。私は、村人たちの温かい声援を背中に感じながら、最後の力を振り絞って、祈りの舞を続ける。

 もう、笛の音は途切れ途切れかもしれない。足元だって、正直ふらふらだ。でも、私の心は、不思議なくらい穏やかで、温かくて、満たされていた。


(届いたんだ…! 私の想いが、みんなの想いが…龍に…そして、水晶様に…!)


 涙が、もう止めどなく溢れ出てくる。それはもう、悲しみとか苦しみとか、そういうネガティブなものじゃなくて、ただただ純粋な感謝と、安堵と、そして、自分でもよく分からないくらい大きな、大きな愛から来る涙だった。

 その涙が、私の舞に合わせて、キラキラと光の粒子みたいに宙を舞っているように見えた。


 隣に立つ水晶様が、その私の姿を、そして私の涙を、じっと見つめている。その深い瞳には、今まで見たこともないくらい、本当に、本当に優しい光が宿っていた。


 舞が自然と終わり、全身の力が抜けて、私がその場にへたり込もうとした、まさにその瞬間。

 水晶様が、音もなく私のそばに寄り添い、そっと、その大きな手で私の体を支えてくれた。


「す、水晶…さま…?」


 掠れた声で呼びかけると、水晶様は、私の涙で濡れた頬に、ためらうように、けれど優しく指で触れた。その指先はやっぱり少し冷たいけれど、なぜか、今まで感じたどんなものよりも温かく感じた。


「……萩乃」


 いつもよりずっと穏やかで、慈しみに満ちた、甘い声。私の名前を呼ぶ、その声だけで、胸がきゅんと締め付けられる。


「お前が流した、その涙は……」


(私の…涙…? 水晶様…一体、何を……?)


 水晶様が、何かとても大切なことを伝えようと、ゆっくりと口を開きかけた、その時――。


(次回、神様からの衝撃告白!? そして、ついに恵みの雨が…降るの、降らないの、どっちなのー!?)

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