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愛は蒼穹の彼方に

 

 山の季節の移ろいは早い。

 澄んだ空、森の木々がその葉を赤や黄に染め、燃える紅葉、雲海の秋。


「おい、またお前宛てだぞ。この、色男が~」

 長身で端正な顔立ちの穂高は、山ガールたちの注目の的だった。

 今日も穂高宛てにファンレターが届いた。苦笑いを浮かべる穂高。

 その中の一通の手紙に目が止まる。

 穂高は他の手紙には目もくれず、その手紙を手にすると直ぐに目を通した。

 送り主は本条明日香だった。



 手紙には穂高への感謝の言葉が綴られていた。

 何より興味深かったことは、穂高が事故現場で回収したカメラのデータを復元することができたという内容だった。

 奇跡だ。そうとしか言いようがない。

 手紙には、要救助者が遺族に残したカメラに写っていたものについて書かれていた。

 それは、最後の一枚の写真を除いたすべてが、本人たちも知らないうちに撮影された、妻と娘の日常生活の写真だったそうだ。

 そこまで読み終えると、穂高は胸をなでおろし、安堵の表情を浮かべた。

 更に便箋を一枚めくった瞬間、穂高は衝撃のあまり感極まる。

 突如、視界に飛び込んできた一枚の写真――

「これは・・・・・・」

 穂高の胸に熱いものがこみ上げる。

 あの日、最期の撮影となった写真と思われた。


 それは――。

 目が覚めるような果てしない蒼穹に、大きな弧を描いた美しい二重の虹、そして撮影者の指ハートが映された写真だった。


 それは、要救助者の家族への想いを、溢れる愛を強く感じさせるものだった。

 愛は蒼穹の彼方に、その美しい瞬間を捉えた一枚の写真となって映し出されていた。

 手紙には、更にこう書かれていた。


『二重の虹を目撃したら幸運が訪れる・・・・・・』生前そう話していた夫。

 あの日、偶然二重の虹を見つけた夫は、私達にも虹を見せたかったのではないかと思います。

 皮肉にも、幸運は訪れませんでしたが。

 私は、つまらない喧嘩で意地を張ったことを後悔しています。

 だから「想いは伝えられるうちに伝えよう。決して悔いのないように・・・・・・」そう思っています。

 私と娘は、夫が最期の最期に伝えてくれたメッセージを胸に、これからも強く生きていきます。


 ファインダー越しの瞳は、いつも妻と娘をだけを見つめていた。

 最期に残した一枚のその写真は、これからも妻と娘の心をあたため続けることだろう。


『想いは伝えられるうちに伝えよう。決して悔いのないように・・・・・・』

 そう綴られた妻の想い。要救助者の家族への溢れる愛。

 それは、穂高の美月への想いと重なり、胸が痛いくらい締め付けられた。

 穂高は、その場で俯いたまま立ち尽くし目頭を押さえ涙を堪えた。

「やってくれたな・・・・・・小僧! ひと月、便所掃除の刑にでもするか!?」

 悪びれた表情で声を張る隊長に対し、穂高の先輩である藤堂はおどけた表情でサムズアップして見せた。

 少し離れた場所から、隊長と隊員たちは、穂高をあたたかな眼差しで見守った。


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