最後のぬくもり
翌日、ゆあみの儀式が行われた。
控え室には白いバスタブが運び込まれ、外から引いたホースで簡易のシャワーが設置されていた。
葬儀社のスタッフが、手際よく準備を整えていく。
じいちゃんの体が外に見えないように、やわらかなタオルでそっと覆われる。
温かなシャワーの音が、静かな部屋に優しく響いた。
泡立ったボディーソープの香りが、ほのかに漂う。
スタッフたちは、まるで赤ん坊を扱うように、じいちゃんの体をやさしく、やさしく洗ってくれた。
冷たかった肌に、ふわりとぬくもりが戻ったような気がして、胸がいっぱいになる。
仕上げに、ミルクを手に取り、丁寧に肌に塗り広げてくれた。
乾いた皮膚が、ゆっくりと潤っていく。
「じいちゃん、きれいになったね……」
私は、声には出さずに、心の中でそうつぶやいた。
ほんの少しだけ、じいちゃんが微笑んでいるように見えた。
ゆあみの儀式が終わると、しばらくして、親戚たちがぽつぽつと集まってきた。
久しぶりに顔を合わせる人ばかりだった。
誰もが、少しよそよそしく、でも、どこか懐かしそうな表情を浮かべている。
やがて通夜が始まり、葬儀へと続く。
慌ただしく時が流れ、心を落ち着ける間もないまま、火葬場へと向かった。
慌ただしく過ぎていく別れの時間の中で、ほんの一瞬でも、じいちゃんと向き合えたあの儀式の記憶は、これからも私の心の奥に静かに残り続けるだろう。
忘れたくない、小さなぬくもりを、そっと胸に抱いて。