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エピローグ
菜月は、自宅の玄関で動けなくなっていた。
出勤の日になっても、身体は重く、立ち上がることができなかった。
細野からの着信にも、母からの着信にも応えられず、ただじっと玄関にうずくまっていた。
心配した母が家を訪ねてきたとき、そこには、やつれ果てた菜月の姿があった。
「どうしたの、菜月……」
母が震える声で問いかける。
しかし、菜月は顔を上げることもなく、小さな声でただ、
「じいちゃん……そっちに行きたい……」
と、かすかに呟くだけだった。
声を上げることもできず、静かに崩れていく心がある。
菜月は、誰にも助けを求めることができず、壊れていった。
元気に見えた日々も、ただ必死に耐えていただけだった。
やがて、笑うことも、立ち上がることもできなくなった。
絶望は、ある日突然やってきたのではない。
少しずつ、静かに、気づかれないように、菜月を押しつぶしていった。




