第4.5話 図書館
──ダイバー大図書館──
ここは“死者の国”にある最大の知識施設。
A~Zエリアに分けられていて、1エリアに30万冊もの本が保管されているらしい。
えーっと、だから26エリアあって、そのうち5エリアは60万冊保管されてるから、9千…いやもっとあるのかな。
有害図書とか魔術書とかの禁書が保管されてる裏図書館もあるから……それを入れたら本の数は……えーっと……
もういいや。考えると頭痛くなってきた。
ともかく「ここにはこの世のすべての本がある」と言われるほど巨大な図書館。
にしても、どうやって集めたんだろう。
そんな事を思わせる大きな図書館は、今日も静かな荘厳さに包まれていた。
「……し、静かね」
「まぁ、見たい本はダウンロードできるしね」
「そ、そうなの……にしても……すごいわね、これ」
猿渡さんは口を半開きにしたまま、本棚を見つめて足を止めていた。
棚は20メートルの天井まで届いていた。
その巨大な棚が、列になってずらりと並んでいる。さらに、天井を支える柱さえ本が並べられていて
そして天井には、私たちがいる一階の“鏡写し”みたいに、机や椅子やカウンターが配置されていた。
「はえー……おぉぉ……うわぁ……すご。ノリタケの森の本屋みたい。いや、それ以上にすごいし……あの壁一面、ぜんぶ本? デザインとかじゃなくて本物?」
「何言ってんの読めない本置く図書館がどこにあるのさ」
「それは……そうだけど。その…天井のやつ何? なんで天井に机があんの。鏡かなって思ったけど、私たち写ってないし」
「あ〜、あれはね……ちょっとこっち来て」
「なによ」
私は猿渡さんの服の裾を軽く引っ張り、白い床へ連れていく。
茶色一色の床の中に、一箇所だけ白い床がある。猿渡さんをその床に案内すると、私たちはそこに一緒に乗る。
「……これが……なんかの?」
「まあまあ」
白い床を足でトントンと叩くと、その小さな床が、すっと浮き始めた。
「うわぁ!!」
驚いて落ちそうになった猿渡さんの手を掴んで引き戻す。
「なななな、なにこれなにこれ!!」
「これで天井まで行けるんだ。上下をつなぐ“反転エレベーター”」
「行ってどうすんのよ」
「まあまあ」
私たちがだいたい十メートルぐらいの高さまで来たところで、白いタイルがくるりと裏返った。
「落ち――あれ?」
と呟いた瞬間、身体が“上”へ引っ張られた。
「10メートルを境に、重力の向きが切り替わるんだ。よいしょっと」
天井側の床に、靴底が吸い付くように着く。
白いタイルから、ゆっくり降りた。
「とうちゃーく」
「………おぉお…」
猿渡さんは上を見上げ、さっきまでいた床を見つめる。
「ど、どうなってんのよこれ……途中で重力の向き戻るとかないわよね」
「そんなことあるわけないじゃん」
「というか、重力の向き変わったところで、十メートルのところにある本なんてどうやって取んのよ」
「それなら、読みたい本をあそこのパネルで入力すれば、機械が取ってきてくれるよ」
パネルが並んだカウンターを指差す。
「また機械かぁ……」
「どったの? 機械だとなんかあるの?」
「私……もっとこう、ちっちゃいお化けとかが本を運んでくれるの想像してた。ほら、ルイージマンション的なやつ」
「そんなの想像してたの……?」
「だって、死者の国でしょ? モヤが漂ってて、足がなくて、ふわふわ浮いてるおばけがいたりして……みたいな」
外の人の幽霊のイメージって、そんな感じなんだ。
「ルイージマンションとかアダムスファミリーみたいな、少し不気味なイメージだったんだけど……なんか思ってたより近未来。空飛ぶ車とかありそう」
「何言ってるの。空飛ぶ車なんて普通じゃん」
「えっ、あるの!?」
「結構高いけどね、にしてもなんでそんなに驚くの」
「驚くわよ……はぁ。この街、イメージと全然違うから頭痛くなりそう。で、このパネルで検索するんだよね?」
猿渡さんがパネルを操作し、若干戸惑いながらも「地図」と「電話帳」を入力する。
「これで……いいのよね」
「そうそう。で……『持ってくる』を押して」
「ポチッとな」
『了解いたしました』
そんな音声がパネルから鳴ると、本棚近くの一部の床が消え、そこから機械アームが現れた。アームは地図と電話帳を回収し、そのまま床下に消える。
「……え?」
床下に消えた本は、地下の空間を通って、カウンターの上に現れた。
「よし、これで見れるね」
「もうツッコミ入れるのがめんどくさくなってきた」
そんな文句を垂れながら、猿渡さんは電話帳を手に取り椅子に座った。
「じゃあ私は地図見てるね」
1ページ、2ページ、3ページ……。
あ、果樹園だ。そんなに広い印象なかったけど、こうやって地図で見ると広いな……じゃない、森のページは飛ばして街に……
おっ!! 海だ。最後行ったのいつだっけな。
いや、だから海じゃなくて住宅街に……あ、遊園地。
「……ねえ、さっきからあんた観光地調べてない?」
「ギク!! ち、違うのこれは……その……あ、ねぇ、外の世界ってどんな感じ?」
「いきなり話変えるわね」
「気分転換。ちょっとさ、ほらダレてきたし……」
「まだ二分も経ってないわよ」
「だ、だって……」
「うーん……ここと比べると、少しレトロ……かな。あと倫理観がちゃんとしてる」
「なにその雑な説明。あと、なんか倫理観がおかしいみたいな言い方……」
「おかしいでしょ。店でいきなり人殺し始める奴らのどこがちゃんとした倫理観なのよ」
「それは……そうだけど」
「ていうかさ。あなたの友達って、ちゃんと“生きてた頃”の記憶あるんでしょ? 別に私から聞かなくても、どんなもんかわかるでしょ」
「あるにはあるけど、みんな口を揃えて“ちょっとレトロ”って言うんだよね」
「そりゃ……そうでしょ」
「だから他の言葉ないのかって思って、彩香さんに聞いたの」
「はいはい。期待に応えられず、申し訳ございませんでした〜」
真剣に聞いてるのに、適当に返すなこの人。
猿渡さんは電話帳から手を離し、あくびしながらスマホを取り出した。
「チッ……そうだった。圏外だった。そういえば、あんたスマホ持ってたけど、圏外なのに動くの?」
「この街に圏外なんてないよ」
「は?」
「ここのネットは独自のもの。外の世界とは完全に遮断されてるの。だから猿渡さんのスマホは圏外だけど、私のは余裕で使えるんだ」
「ずる。テザリングさせてよ」
「やだよ、テラ減っちゃう」
「テラ!?」
何をそんなに驚いてるんだろう。
「………」
「……まぁいいけど。それより、ちょっといい?」
「え?」
そう言うと猿渡さんが、ふと私の頬に触れた。指先でそっと、頬をつまんでくる。
「い、痛いよ……何するの、いきなり」
「いや、とんでも設定のオンパレードだったから……確認したくて」
「なにを」
「本当にここが死者の街なのかって。でも……やっぱり、“死んでる”感じがしないのよね。どう考えても、これはちゃんとした肉体」
「そんなこと言われても」
「心臓も血も流れてて……間違いなく生きてる身体。魂だけのふわふわしてる存在じゃない」
「魂だけで生活なんて、どうやるのさ」
「知らないわよ……ほら、最初に言ったじゃん。ルイージマンションとかアダムスファミリー的な死者の世界を想像してた人だって」
「そんなにイメージと全然違う?」
「ええ」
会話に飽きたのか、猿渡さんはため息をこぼしてスマホを置き、ページをめくる。
猿渡さんは真剣に探してるし、私も集中力戻して探そう。
そうして地図のページに目を戻そうとした、そのときだった。
――コツ、コツ、と。
静寂の中に、誰かの足音が混ざった。
私は反射的に振り返る。
一人の女性が、こちらを見つめていた。
「……あ、あの。何かご用ですか?」
その女性はゆっくり歩み寄り、猿渡さんの背後で足を止めた。
「何よライリー……って……」
猿渡さんが振り返った瞬間、その顔が凍りつく。
「……なんで、ここに……」
女性は、静かに言った。
「やっぱり、彩香……あなた、死んだの?」
その名を呼ばれて、猿渡さんはゆっくり口を開く。
「あ……アリサ……なんでここに」
※今回なぜ5話ではなく4.5話なのかというと、今回の話は元々前回と合わせて4話でしたが、分量が5000文字以上だったため、2つに分けました。
ただ、2つに分ける選択をした時には15話ぐらい書いており、話数を変えるためだけに全ての話数をいちいち変えるのに時間がかかりそうだったので、4.5話にしました。




