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転生乙女ゲーヒロインは第2の人生もエンジョイしたい  作者: 雨花 まる


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32.現状を把握する

 一人、二人と不成者達が地に伏していく。不意に何処からか、馬の嘶きが聞こえた。その場にいた全員がそれを拾ったようだ。不成者達が焦っている様子を見るに、こちらの援軍であるらしかった。


「レラ殿ー!!」


 聞こえた声に、レラは勝利を確信する。馬から颯爽と降りたセレーナと、レラは背中合わせで武器を構え直した。


「助太刀いたす」

「恩に着ます」


 気づけば馬は消えていた。ペルリタの召喚魔法だったのだろう。ここまでセレーナを連れてくるのが、命であったらしい。

 あぁ、本当に――――。


「友に恵まれました」

「それは、こちらの方よ!!」


 レラとセレーナは、同時に敵に向かって地を蹴る。セレーナの槍術を初めて見たが、それはそれは見事なものであった。まさに豪傑。

 戦いは、即座に終結した。レラとセレーナの大勝利で。レラは、安堵の息を吐く。そこで初めて自身の手が微かに震えていることに気付いた。実戦経験不足だなと、レラは苦笑する。


「レラ殿、ここは私に任せて行かれよ」

「それはどういう……?」

「いまだ夜は、明けぬ」


 そう言われれば、その通りだ。ビアンカは、ゲームのシナリオを全て知っている風であった。であれば、もう夜が明けていても可笑しくはない筈だ。


「どうなっている……?」


 現状を把握する必要があるようだ。レラは荷馬車の馬に乗って、引き返すべきかと迷う。ここで選択を誤れば、取り返しがつかない事になる気がした。


「レラ!!」


 聞こえる筈のない声に名を呼ばれ、レラはほぼ反射で上空を見る。ワイバーンが優雅に下りてきている所であった。


「無事か!?」

「殿下……?」


 ワイバーンに乗っていたのは、ジルドであった。どうやらこのワイバーンは、ジルドの使い魔であったらしい。


「どうしてここに?」

「俺の名を呼んだのは、お前だろ!!」


 ジルドは、慌ててレラに駆け寄る。しかし直ぐに、「無事……だったか。お前ら、派手にやったな」と現状を把握して安堵の表情を浮かべた。

 レラは、はてと小首を傾げる。そしてある可能性に辿り着き、自然と手首で輝くバングルに視線を遣っていた。


「待て、違う。それは、あくまでも保険であってだな」

「名を呼ぶと、発動するのですか」

「事前に言ってなかった事は謝る。だが……」


 どうやらレラの予想は当たったらしい。このバングルは、位置情報が分かる魔道具であったようだ。まぁ、レラが陽守の民であることを考えると妥当な対処ではあるか。


「外すのか?」


 何処かシュンとした声音だった。あくまでも保険ということは、バングルは本気で全方位への牽制だったりするのかもしれない。


「いいえ、外しませんよ」

「そうか」


 ついついジルドを甘やかしてしまいたくなるのは、よくない気がしてきた。しかし、今はそれどころではないので、レラは後で考えることにする。


「今現在、どのような状況なのですか?」

「あぁ、そうだな。移動しながら説明する。前に乗れ」

「承知しました」


 どうやら危機的状況であるらしい。レラはジルドの言葉に従い、迷うことなくワイバーンの上に乗った。


「お前、ワイバーンに乗ったことあるのか?」

「ありません! 馬はありますが」

「そうかよ……」


 レラはお利口にしているワイバーンをよしよしと撫でる。ジルドの使い魔なのだ。何を恐れることがあるのか。

 優しげに目を細めるレラに、ジルドも釣られるようにして頬を緩める。しかし直ぐ表情を引き締めると、レラの後ろへと飛び乗った。


「しっかりと掴まってろ!」

「承知しました!」

「この場は任せるぞ、アラトーヴォ辺境伯令嬢」

「御意に」


 恭しく礼をしたセレーナに、ジルドは一つ頷くと前を見据える。手綱を握ったジルドの「行くぞ、ステッラ!」その声を合図に、ワイバーンは羽を広げた。

 上空へと羽ばたいたワイバーンは、そのまま安定して空を行く。そのような場合ではないと分かってはいるが、思わずレラは瞳を輝かせた。


「レラ」

「はい!」

「あぁ、いや。大丈夫そうだな」

「問題ありません!」

「そうか。なら、いい」


 ジルドは、安心したように息を吐く。何故かどんどんと、ジルドがベネデットと同じく過保護になっていっている気がして、レラは小首を傾げた。どうしてなのだろうか。


「本気で魔力を感じないな」

「流石は殿下ですね。ふむ、魔力探知も完璧なのか。羨ましい。今度、教えてください」

「あぁ、今度な。それよりも、本気でしっかりと掴まってろよ。落とすようなミスはしねぇが」

「分かっております。どちらも」


 柔く笑ったレラに、ジルドは耳まで赤に染めた。誤魔化すように咳払いをするが、熱はそう簡単には引いてくれないようだ。


「あー、あれだ。状況説明だったな」

「よろしくお願いします」

「ひとまず、お前に何があったのかを知りたい。俺はアイツの言葉を全く信用していないが、一応はな」

「……? 分かりました」


 レラは、ペルリタがエリゼオの伝言を持ってきた辺りから、必要な情報を簡潔にジルドに説明していった。勿論、妙な魔道具の件も洩らさずに。


「なるほどな。やはり嘘だったか」

「殿下?」

「いや、悪い。今度は俺の番だな」


 ジルドは一拍、考えるような間のあと深々と溜息を吐いた。


「まず、その魔道具だが」

「はい」

「お前が予想した類いの物で間違いはないだろう。まぁ、アイツはお前が自らその魔道具に魔力を譲っただとか意味不明な事を宣ってたがな」


 小馬鹿にするように、ジルドが鼻を鳴らす。レラは、流石にジルドの言う“アイツ”が誰だか分かって何とも言えない顔をした。


「レーヴェスティ様が、ですか?」

「そうだ。ジェミンブル公爵令嬢に、その魔道具を渡そうとしていた」

「そうですか……」

「まぁ、公爵令嬢の様子からしてお前の誘拐及び魔力窃盗は、エリゼオの独断だろーぜ」


 レラは、ジルドの推量に何処か安堵感を覚えた。どうやら、ビアンカは主犯ではなかったらしい。しかし、動機ではあったと。そういうことのようだ。


「そうだな……。俺は、第二皇子として皇太子殿下の召集に従い生徒会室に行った。勿論、話し合いは陽守の民であるお前を交えるべきだとなった」

「ふむ。まぁ、事態が事態ですからね」

「だが、エリゼオがお前は逃げ出したと言い出してな。例の魔道具を取り出した。物は、ニコロが作ったらしいが」

「あぁ、なるほど。マジーア様も共犯ということですか?」

「どうだろーな。本気で逃げたのかと憤っていたあれが演技でなければ、体よく利用された可能性も多いにある」


 レラの記憶では、ゲームのニコロはそのような演技が出来るタイプではなかった。であれば、エリゼオに騙されたという方が納得は出来る。しかし、プライドの高いニコロが真実を知れば、傷付く処の騒ぎではなさそうだ。


「まぁ、生徒会の奴らはお前と碌に関わって来なかったからな。エリゼオの話を信じる他なかったらしい。アルフは否定していたが」

「殿下も信用しておられなかったのでしょう。何か言ったのですか?」

「意見は求められたが、現時点では不明とだけ返した。下手なことを言って、お前に何かされたら……困るだろ」

「そうですか」

「なんだよ」

「いえ」


 レラの表情が見えなくて、ジルドはもどかしそうに眉根を寄せる。


「それで、生徒会の皆様はどうされたのですか?」

「あ? あぁ、ジェミンブル公爵令嬢が夜の神がいる場所に心当たりがあるとかで。半信半疑だったが、皆でそこに向かっている」

「では、移動中ということですか?」

「そうだな。その途中でお前が俺を呼んだから、用事が出来たと返事は聞かずに飛び出してきた」

「そうだったのですね。ありがとうございます」

「ん、別に」


 それは、さぞ怪しまれたことだろう。主にエリゼオには、警戒されているかもしれない。事を急いて、無茶をしなければいいが。


「ふむ……? しかし、途中で抜け出してきたのならば、目的地は分からないのでは?」

「問題ない。協力者がいるからな」

「アルフ様ですか?」

「アイツは向いてねぇよ。ドが付く真面目だからな」

「それは、んん、まぁ」


 レラもそこは、濁すしかなかった。ジルドの言い方からして、協力者とは恐らくスパイのような役割を担っている者であるようであったからだ。

 その時であった。遠くで炎が竜のように立ち上る。今の状態のレラにも分かった。


「師匠!!」

「結界は安定してたが、流石にこれじゃあ無理があってな」


 きっと今頃、世界中がこのような状況に陥っているのだろう。早く何とかしなければならない。しかし、どうやって?

 すると、まるでベネデットの炎に鼓舞されたように、学院裏の森で木々が次々と倒れ出した。何事が起きたのかと、レラは目を丸める。


「この魔力、アルフか?」

「え!? アルフ様ですか?」

「あぁ、それと微かにグラッカロ伯爵令嬢の魔力も感じるな」


 どうやら一人になってしまったペルリタのピンチに、アルフが駆け付けたらしい。あれだけ派手にやっているということは、相手は狂った夜の眷属だろう。


「アルフ様が一緒ならば、大丈夫でしょう」

「腕は確かだからな」


 その点は、ジルドも認めているようだ。レラは、思わず嬉しくて頬を緩めた。アルフは鍛練仲間であるので。


「もうすぐ目的地だ。下りるぞ!」

「承知しました!」

「アイツが、上手く時間稼ぎをしてるとは思うが……。それも限界だろーからな」


 ジルドのいう協力者は、生徒会の面々の中にいるようだ。まぁ、スパイならば当然なのだろうが。

 では考えられる人物は……というレラの思考は、ワイバーンが下降し始めた事によって止まってしまったのだった。

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