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転生乙女ゲーヒロインは第2の人生もエンジョイしたい  作者: 雨花 まる


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31.魔力を奪われ誘拐される

 今日は、サマーバケーションを一週間後に控えた暑い日だった。いつも通りに登校して、朝日が昇るのを待ちながら授業を受けていたのだが……。

 その日、遂に朝日は昇らなかった。世界は夜に沈んだのだ。

 皇帝が国民に緊急事態を布告した際、夜に沈むのはまだ先の事であると述べられていた。しかし、どうやら予測よりも早まってしまったらしい。

 レラが一番最初に思ったのは、夜の神は大丈夫なのだろうか、だった。遺跡で見た涙を流す夜の神の壁画が浮かんで、レラの心は痛んだ。


「本日は全て休講。皆、寮で待機しなさい」


 そう教師からの指示が出る。それに従いレラは、セレーナと隣り合い教室から寮に向かって移動を始めた列に加わった。


「ど、どうなってしまうのでしょうか……」

「きっと大丈夫。そう信じましょう」


 どこか確信めいた声音でそう言ったレラに、セレーナは目を瞬かせる。どうしてだろうか。不安など微塵もないレラの夜明け色の瞳に見つめられると、セレーナの心は熱く燃え上がるような心地になるのだ。鼓舞されているように。


「は、はい、きっと!」

「えぇ、陽は昇ります。また、夜が愛しくなりますよ」


 セレーナから不安そうな雰囲気がなくなり、レラはほっと胸を撫で下ろした。しかしと、レラは暗い窓の外へと視線を遣る。セレーナにはああ言ったが、別にレラは今この瞬間も夜を恐れてなどいなかった。

 今日は新月であるが、それ故に星の輝きがよく分かる。加えて夜の静けさは、レラにとって愛しいものであった。何故これ程までに美しい夜を恐れてしまうのだろうか。

 あぁ、そうだ。だからこその“暁を守るもの”であるのだった。この夜を終わらせるのは、きっと陽守の民であるレラなのだろう。


「セレーナ! レラ!」


 慌てたように寄ってきたペルリタに、レラとセレーナはどうしたのだろうかと顔を見合わせる。ペルリタは二人の反応に、はしたなかったと思ったのか、勢いを落としささっと身なりを整えた。


「どうされたのですか?」

「め、珍しいですね」

「非常事態だったものだから……」

「私達のクラスは、寮で待機という指示だったのですが」

「わたくしの所もよ」

「なるほど。私達を心配して来てくださったのですか?」

「そっ!? ま、まぁ、それもなくはないけれど……」


 ペルリタは照れたように、もごもごと曖昧に誤魔化す。気を取り直すように咳払いをすると、レラを真っ直ぐに見た。


「レーヴェスティ大公家のご令息が貴女を呼んでいらっしゃるの」

「私をですか?」

「えぇ、貴女にやって欲しい事があるそうよ」

「それは……」


 レラは返事に迷って、目を伏せる。通常のシナリオであれば、ここは直ぐに駆け付ける場面であるのだろう。

 しかし、レラはエリゼオと関わった記憶がとんとないのだ。寧ろ、常日頃から敵意を向けられている。つまり、怪しい事この上ない。


「レラ?」

「いえ、そうですか。分かりました。場所はどこでしょう」


 レラは、誘いに応じるという選択をした。伯爵令嬢のペルリタに伝言を頼む所が抜け目ない。ここで大公令息のエリゼオを無視すれば、ペルリタに迷惑が掛かるかもしれない。

 レラが断り辛い誘い出し方をよく理解しているようだ。ただここで、ジルドの名を出してもジルドは別に怒りはしないのだろうとは思う。寧ろ、守られてろと言いそうだ。

 レラは思わず、頬を緩めそうになる。何とか耐えて、キリッとした表情を作った。時が来たということなのだろう。ならば、いざ尋常に受けてたつまで。


「わたくし達も一緒にと言われたのよ。だから、案内するわね」

「“達”ということは」

「わ、私もですか?」

「そうなの。何故かは教えて下さらなかったのだけれど……」

「ふむ。断る訳にもいきますまい」

「そうなのよね。それに、まぁ、わたくし達にも何か出来ることがあるのかもしれないじゃない? だから、その」

「レラさんの助けになれるかもしれないのなら、嬉しいです!」

「そういうことよ!!」


 セレーナの純粋なそれに、ペルリタは吹っ切れたように叫ぶ。レラは、本当に友に恵まれたなと今度は素直に頬を緩めた。

 しかし、これはどう考えても罠である。このままでは二人を傷つけてしまうかもしれないと、レラは不安になり掛けて思いとどまった。

 いや、大丈夫。二人ならばやり返すくらいの事はしてくれる筈だ。共に鍛練を重ねてきた仲なのだからと、レラは二人の強さを信じた。


「では、参りましょうか」

「はい!」

「こっちよ」


 ペルリタが示したのは、どう考えても人気も人目もない学院裏の森である。レラは笑顔で頷いたものの、内心は分かりやすいなと思ってしまったのだった。


 辿り着いた場所にいたのは、どこをどう見ても怪しい不成者達。レラは、ここまで汚い手を使うかと思ったが、貴族であるエリゼオが自ら汚れ仕事などしないかと考え直す。

 そんな一瞬の隙が命取りだと、レラはベネデットから教えられた筈だったというのに。後ろからした短い悲鳴は、ペルリタとセレーナのものだった。


「動くなよ。お友達の可愛い顔に傷がつくぜ」

「れ、レラさん……」

「これは、どういうことなの!? レーヴェスティ卿に何をしたのよ!!」


 ペルリタが震えを耐え気丈に放った言葉に対して、不成者達は嘲笑を返した。下卑たそれに、レラの眉間に皺が寄る。


「な、何なのよ!!」

「これだから、温室育ちのお嬢様は」

「カワイーでちゅねぇ」

「ギャハハハッ!!」


 そこそこ頭のある連中のようだ。依頼主の情報は漏らさないらしい。レラは、反撃の機会を見逃さないため周囲の様子の把握に努めた。


「おっと、何もするなよ。用があるのはお嬢ちゃん、アンタだけなんだから」

「二人には、手出ししないと?」

「当然さ。アンタが大人しくするなら、だけどなァ?」


 頭領らしき男が、レラへと近付いてくる。ひとまずは、抵抗の意志がない事を示すためにレラは両手を上げた。


「イ~子だ。そのまま、じっとしてろ。なに、直ぐに終わる」


 男が、部下から何かを受け取る。丸い水晶玉のようなそれを男は、レラへと近付けた。


「……っ!?」


 それが放った眩い光が、レラの最後に見たものであった。


******


 あれのせいで気絶していたらしいと、レラは結論付ける。恐らく魔力を感じないのもそうだろう。ということは、あれは魔道具の類いと見て間違いはなさそうだ。


「であれば、目的は……」


 この夜をビアンカが終わらせるため。それしかレラには、思い付かなかった。どうやら、フィナーレにヒロインは不要ということらしい。

 ならば、それに従おうじゃないか。重要なのは、“誰が”ではなく、“この夜を終わらせる”ことだけなのだから。

 ただし、この荷馬車からは脱出させて貰う。そうレラは決意して、袖に隠していた小型ナイフを取り出した。手を前で結ぶとは随分と舐められたものだ。まぁ、後ろで結ばれていても同じだが。

 レラは、もしもに備えて色々と仕込んでいた。それもベネデットの教えであるからだ。しかし、よほど慌てていたのか。それとも小娘と油断していたのか。分からないが、不成者達の仕事は雑極まりなかった。


「さて、全員捕まえるか」


 この荷馬車が何処に向かっているのかは知らないが、碌な目的地ではないだろう。大人しく誘拐される気はない。

 セレーナとペルリタは無事だとレラは確信していた。セレーナがあの程度の者達に遅れを取るわけがない。そうなると、この荷馬車を固める人員もさぞ減らされたことだろう。


「……ジルド殿下」


 別に危機的状況ではないが、レラは思わずその名を呼んでいた。どうしてだろうか。しかし、名を呼んだことで気合いが入ったのは確かだ。

 レラは手早く縄を切ると、周りの気配を探った。十数名程度だろうか。荷馬車の速度はゆっくりであるので、飛び降りても問題なし。武器は相手から奪い取るので、そこも問題なし。


「喧嘩を売る相手は、よく吟味すべきだ」


 レラは荷馬車から飛び出し、地面に着地した。何が起こったのかを相手の脳が処理するより前に、レラは一瞬で相手の顎を蹴り上げる。


「な、なんだぁ!?」

「どうなってる!?」


 お誂え向きに、倒した相手が持っていたのは木剣であった。これぞヒロインの天運というものだろうか。随分と恵まれている。


「覚悟は勿論、出来ているな?」


 レラは、問答無用で地を蹴った。

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