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転生乙女ゲーヒロインは第2の人生もエンジョイしたい  作者: 雨花 まる


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27.舞踏会に参戦する

 春の陽気と建国祭の熱気が、恐怖を少し和らげる。異例の昼中に開催される運びとなった舞踏会が始まろうとしていた。

 学院長に許可を貰い、レラの用意は学院で早朝から行われた。早起きは得意なので苦ではないが、あれもこれもと磨かれるのはあまり慣れていないのだ。流れが分からず、レラも少し疲れてしまった。


「お待たせいたしました」

「別に待ってねぇ。ん、似合ってる」

「ありがとうございます」


 ぶっきらぼうに、しかし、しっかりと褒めてくれたジルドに、レラは少しの照れを滲ませる。初めて向けられたそれに、ジルドの方が頬を赤に染めた。


「い、いくぞ!!」

「ふふっ、はい。よろしくお願いいたします」


 ジルドの腕を取って、校舎の中をエスコートされながら進む。ジルドが用意したお針子が誂えてくれたドレスは素晴らしい出来映えで。流石は皇族御用達といった腕前だ。

 ブルーのドレスは、澄んだ青空を思わせる。美しい刺繍が銀糸で施されている点については、何も言うまい。そうレラは気付かぬふりをした。

 ジルドは、いつもかけている伊達の丸メガネをしていない。それどころか、前髪もセットされており目元がしっかりと見えていた。

 誰が流した噂であるのか。今年の建国祭、第二皇子が舞踏会のパートナーに、陽守の民をつれてこられる、と。だから、なのだろうか。それとも、他に理由があるのか。分からないが、それを聞くほどレラは野暮ではなかった。


 校舎を出て、馬車が停めてある場所に向かう。そこで待機していたオノフレが、ぐったりと項垂れている隣のベネデットに声を掛けているのが見えた。ベネデットは気怠げに、顔を上げる。

 ベネデットは、護衛なので外で控えている。舞踏会用の正装はいらないとゴネていた。しかし、ジルドに押し負けたらしい。

 かっちりとした正装に身を包んだベネデットは、レラと目が合うとパッと顔色を変える。嬉しそうに頬を緩めながら、レラに向かって手を振った。


「わぁ! 師匠、輝いてるね!」

「それは、俺の台詞だよ。似合ってる、綺麗だ」

「ありがとう」


 我が師匠ながら、格好がよすぎるな。そうレラは、はにかむ。それを見て、ベネデットは感慨深そうに息を吐いた。


「子どもってのは、こんなに早く成長するもんなんだなぁ」

「ベネデット卿、そろそろ出発しませんと」

「そうしてくれ。何か泣きそう」


 感極まってしまっているベネデットに、レラは不思議そうに目を瞬いた。学院の制服姿を見せた時は、こんなことになっていなかったのに。

 貴族出身だと、感動する場面が少々違っているのだろうか。社交界に出て一人前だとするならば、ベネデットの様子にも合点がいく。


「おい、足元気を付けろよ」

「え? あぁ、なるほど。今日は殿下と同じ馬車に乗るのですね」

「当たり前だろーが。パートナーだぞ」


 そう言われれば、そうだ。前回と同じく当たり前にベネデットと乗るのだと思い込んでいたレラは、へらっと笑って誤魔化す。ジルドが呆れたように溜息を吐いた。


「ほら、お手をどうぞ」


 しかし、瞬時に気持ちを切り替えたのか。皇子らしくレラに手を差し出した。遺跡でもそう感じたが、ジルドのエスコートは完璧だ。流石としか言いようがない。


「ありがとうございます、殿下」


 素直に手を取って、馬車へと乗り込む。ちらっと見えたジルドの顔は、大変に満足そうであった。はて、何故なのか。レラは不思議そうに小首を傾げたのだった。


 いつも遠くから見ていた宮殿が、目の前にある。別に嬉しいとかは全然ないなと、レラは真顔で宮殿を見上げた。寧ろ、関わりたくなかったまである。


「緊張してんのか?」

「いえ、特には」

「そこは、緊張しとけよ」


 舞踏会は初めてであるが、パーティーの場数はそれなりに踏んでいる。あれは、浮かれるような代物ではないのだ。


――――シャンデリアの煌びやかさに比例して、暗い影も色濃くなりますからね。あそこは、戦いの場なのですよ。気を引き締めなさい。


 そうレラは、教えられた。なので、今日も油断など一切していない。気合い十分である。


「まぁ、いい。俺から離れるなよ」

「はい! いざ尋常に!!」

「いや待て、何と戦う気だお前は。そこは、俺に守られてろ」


 離れるなは、守られてろと言うことであったらしい。まぁ、この夜が侵食してきている大変な時に、妙なことをしようなどという者はいないだろう。いや、混乱に乗じてということもあるか。

 ジルドの言う守るの範囲は、恐らく政争の部分も入っているとみて良いだろう。この国のいざこざや貴族の関係性を学院の範囲でしか知らないレラは、情報収集くらいに留めておくことにした。


「承知しました」

「絶対だぞ」

「えぇ、勿論です」


 いまいち信用ならないという顔を向けられたが、レラはニッコリと笑顔で躱しておいた。


「あー……。少し良いですか?」

「どうした、ベネデット」

「やはり、俺は外で待機しと――」

「やあやあ、ベネデットじゃないか!」


 聞き慣れた声が後ろからして、ベネデットは固まる。錆び付いたブリキのように首を向けた先、ニコニコと柔和に笑む大公がこちらに手を振っていた。


「ご機嫌麗しゅうございます」

「今日の舞踏会は楽しみに来たんだ。勿論、僕の相手をしてくれるんだろう? ねぇ、ベネデット」

「いや~、俺は護衛ですので」

「正装なのにかい?」


 大公に微笑まれたベネデットは、諦めたように苦笑した。結局、「俺でよければ、よろこんで」と了承する。


「しかし、悪目立ちしますよ絶対」

「いいね、楽しみだ。僕相手にどこまでしてくるかな?」

「それは……。まぁ、そんな勇気ある者がいるなら見てみたいですね」

「見れたらいいね」


 大公の声が楽しげに弾む。ベネデットは、空笑いするしかなかった。しかしこれは、平和に舞踏会を終えられるかもしれない。


「叔父上、珍しいですね。貴方が舞踏会に出席されるなんて。何年ぶりでしょう」

「ふふっ、北部は仕事が多いから。それに愛する妻も、騒がしいのは好かない」

「今回もお姿が見えませんね」

「体調不良だよ。残念がっていた、ということにしておいてね」

「あぁ、なるほど」


 大公は奥方を溺愛している。これは、社交界で有名な話だ。なので、この場の誰も驚かない。因みにレラは、大公領でその溺愛ぶりを目の当たりにしお腹が一杯になった。


「今回は、特別だよ。陛下の勅命を受けてね。私だけでも来ないわけにはいかなかった」

「勅命ですか?」

「あぁ、これを君に。レラくんに届けるようにと」


 大公が後ろに控えていた側近に指示を出す。側近は、手に持っていた箱を開けた。中に入っていたのは、遺跡で発見した首飾り。


「なるほど。本気で公表するつもりなんですね」

「君がパートナーにしてしまったからね」

「俺のせいにされては困ります。好きな相手を誘えと言ったのは、父上だ」

「あぁ。ではこれは、兄上なりに自らが発した言葉に責任を持とうとしておられるのかな」

「……どうでしょうね」


 ジルドが微かに目を伏せる。そこに滲んでいたのは、何処か幼子が拗ねるような気色であった。


「相変わらずジルドは、陛下が大好きだね」

「はぁ!? んんっ、いや、何を言っておられるのやら」

「構って貰えて嬉しいのではないのかい?」

「違いますよ……。それに、そういう目的で誘った訳ではありませんので」

「そうかそうか。それは、そうだね。大事なことだ」


 大公が穏やかな目でジルドを見る。次いで、レラへと視線を移した。


「ジルドが守ってくれるから、側を離れてはいけないよ。まぁ、君ならば心配はいらないだろうけれどね」

「承知いたしました」

「もっとしっかりと釘を刺しておいてください」

「おや? そういう感じなのかい?」


 興味深げに観察されて、レラは再び笑顔で躱す。大公はそれに、笑みを深めた。これは敵いそうもない。レラは早々に白旗を振っておくことにした。


「殿下のお側を離れません」

「そうしろ」

「ふふっ、仲良しだね」


 何と返すのが正解か分からず、レラは苦笑する。ジルドは「パートナーですからね」と、喜色の滲んだ声音で言いきったのだった。

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