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そとがわ  作者: 山口
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プロトタイプ② 夜襲部~その1

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 突然の強行軍に、私たちの足は感覚を失いかけていた。ふと振り返ると、ぼうっと揺曳する、数十の松明の縦列が無心の輪郭を浮かびあがらせている。この焔が、私だけがこの任務に従っているのではないことを示してくれるようで、少しばかり勇気づけられた。そして、どこまでも続くかのような夜道を進んだ。

 日が落ちて二時過ぎたころ、木々の隙間から覗いていた星々が、厚い雲に吸い込まれていった。同時に、闇夜に湿った気配を感じ出した。雨が降る予兆だ。

「うわっ!っと、あぶねぇ…」

「どうした!和田っ!」

「すみません、分隊長。石につまづきました。」

 この些細な会話は、すぐに闇に溶け、行軍の静寂が戻った。だが、徐々に松明の縦隊は規律を失って、ばらばらに漂い始めた。張りつめた緊張の糸が各々ぷっつり切れていった。皆知っていた。雨の降る夜には野人の襲撃はほとんどない。

 しとしと降りだしたと思えば、瞬く間に本降りになった。騎乗していた新兵伍長たちは、へたった支給の軍服の愚痴や帝都の女の痴話ばなし、昇給の噂等、普段の些末な会話を始めたが、軍曹は何も言わなかった。ほかの兵士も、小銃、刀剣を荷車に引っ掛け身軽にしだした。ずぶ濡れで夜ときて、真実最悪の気分だったが、行軍はまるで花見でもしに行くかのような温和さを帯びだした。隊列の左右は闇に沈み、ただざあざあと降り続ける雨音だけが響いていた。ついさっきまで陰鬱を与えていた夜の帳は、私たちを危険から包み隠してくれるようだった。

 私も刀を荷車に預けた。全身ずぶ濡れで、体に張り付いた冷たい服の不快感をまぎわらしたかった。すこし余裕が生まれたのか、何気なくふと顔を上げたとき{ここら辺の表現、内容は要検討}、おぼろげに照らされる小隊長の様子が妙だった。右後方からでは表情がわかりにくかったが、闇に食い入るように前のめりになった姿勢が、不安定で異様だった。私の視線に気が付いたのか、小隊長が低くいった。

「宮良一等兵、なにかようか」

「…はっ!何もございません。」

「ん…。気を引き締めろ。君が緩んでは困る。」

「はっ!全力を尽くします」

 私はさっと手を伸ばし刀を佩いた。身震いが走った。

 あの目はまさしく、腐った妹を抱いた母の目そのものだった。

 

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