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アスフール  作者: まゐ
11/49

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 私は左に、宮本先輩は右に、分かれて進む。


 ずっと先輩と一緒にいて、私は緊張していたみたいだ。1人になると、肩の力が抜けた。知らず知らずのうちに、先輩に自分の事を良く見せようと力が入っていたようだった。


 ・・・これじゃまるで・・・。


 しばらく進むと、タブレットを設置する台が現れた。そこに設置すると、名前と生年月日、血液型を入力させられた。それが終わると、6枚の絵が出て来て好きな物を選ぶようにと言われる。動物と遊ぶ絵、ご飯を食べる絵、走っている絵等。次に12色の色から好きな物を選んだ。


 それが終わると、次の台へと促される。


 心理テストみたいな感じかな?


 そう思って色々な事を入力しながら進むと、前を進む人に追いついてしまった。さっきの外国人男性の1人。彼等もペア占いをやっているようだ。


 外人さんは、私に気付いて話しかけてきた。英語で。


 どうしよう。宮本先輩がいないと話せない・・・。


 困ったな、と思った時、お母さんの言葉を思い出した。


「透子、英語が喋れなくても恐ることはない。自分が英語を喋れないのと同じように、相手は日本語を喋れないんだ。立場は変わらない。英語で話しかけられたら日本語で返してやれ」


 そうだ。恐れず日本語で対応しよう。


「すみません、私は英語喋れないんです」


 そのまま言ってみた。すると外人さんは、


「私、少し、話せます」


 と日本語で答えて来た。なんだ、日本語喋れる!


「どうかしたんですか?」


 私がそう聞くと


「1人、寂しい、行きたい、一緒、ok?」


 と言った。成る程、寂しかったのか。


「良いですよ、行きましょう」


 私は笑顔で答えて、彼と一緒に進んだ。


 片言の日本語と、片言の英語、混ぜ混ぜで何とかコミュニケーションを取りつつ進み、合流地点に到着した。なかなか楽しい時間を過ごさせて貰った。


「透子ちゃんー!」


 宮本先輩が手を振ってくれる。


「oh ・・・lucky boy」


 横から外人さんの英語が聞こえたと思うと、急に私は外人さんにウエストを抱き寄せられ、彼の胸の中に飛び込んでしまった。


「え?何?」


 びっくりしてそう言った時、頬に柔らかい感触を感じた。頬にキスをされている。


 えっ!なにこれ・・・。


 固まって動けないでいる私。


 その後の宮本先輩の動きは早かった。私とその外人さんをあっという間に引き離すと、私を庇う様に間に立ち、大声で外人さんに向かって英語で叫んだ。自分より大きい彼の胸を力一杯押す。よろける外人さんを、恐らく宮本先輩と一緒に回って来たであろうもう1人の外人さんが支えた。


 3人で暫く英語で言い合いをした後、宮本先輩は私を連れて先に進んだ。


「何なんだあいつ、信じらんねー」


 先輩は、凄く怒っていた。


「あの、宮本先輩、どうしたんですか?」


「透子ちゃんの事を気に入ったから寄越せって言ってきたんだよ」


 へ!?何それ・・・。


「ゴメン透子ちゃん、やっぱり離れなければ良かった」


 先輩は、申し訳なさそうに私に謝ってくる。


「そんな、宮本先輩が謝るような事では無いですよ」


 そのまま私と先輩は、あの2人から距離を取るように早足で進んで、タブレットを返し、占い結果の紙を貰って『占の館』を後にした。


 お互いに妙な興奮に包まれていたので、側にあったベンチに腰を下ろして息を吐く。


「あー全く、腹の虫が治まらねー」


 怒り心頭な様子の先輩に、私は嬉しい気持ちが湧いてくるのを感じた。


 先輩は、私の為に怒ってくれているんだ。


 そう思ったら、胸の奥に湧き上がってくるものがある。


「あの、先輩?」


「ん?」


「ありがとうございます。私の為に怒ってくれて」


「そんなの、当たり前じゃないか」


「私、嬉しいです」


 そう。嬉しい。私の為に、自分より大きな相手に向かって行ってくれた事が。守ろうとしてくれた事が。


 あーあ、私チョロいな。


 ベンチの横の自動販売機でレモンの炭酸を2本買う。1本を先輩に差し出した。


「お礼です。私を守ってくれた」




 その後、観覧車に乗ったり、2人乗りの自転車に乗ったり、お化け屋敷に入ったり(人が脅かすタイプのものだった。2人共初めての体験で非常に怖かった!)して、あっという間に閉園時間になってしまった。


「宮本先輩、ありがとうございました。家にまで送って貰って」


 私は、言いながら頭を下げた。


「いいや、こちらこそスゲー楽しかった。ありがとう!色々あったけど」


「色々ありましたね」


 本当、ぎゅっと詰まった一日だった。


「透子ちゃん、あのさ」


 先輩がかしこまって言う。


「はい」


「今日一日一緒に過ごして、色々あったけど、俺やっぱり透子ちゃん好きだなって改めて思った。最初に会った日に言ったけど、もう一度ちゃんと言わせて」


 そこで先輩は、一度言葉を切って深呼吸をした。


「『透子ちゃん、俺の恋人になって下さい』」


 胸がギュッと、鷲掴みにされたみたい。手足が痺れたみたいに感覚を失っている。


 嬉しかった。嬉し過ぎて、動けなくなってしまった。


 短い期間だったけど、宮本先輩は、私にとって、もう特別な存在になっていた。


 返事を、しなくちゃ・・・。


 そう思うのに、なかなか口が言う事を聞いてくれない。


 黙ったままになっていると、先輩が先に口を開いた。


「・・・あーっと、やっぱりダメかな?早過ぎた?今すぐ返事とか言わないから、良く考えて・・・」


「・・・ぃ」


 先輩の言葉を遮って発した私の声は、小さ過ぎた。


「・・・え?」


 先輩が聞き返してくる。


 私は、深呼吸して、先輩の顔を見てもう一度言った。今度はちゃんと聞こえるように。


「はい」


「・・・ま、じ?」


 先輩の目がまんまるに開かれる。


「よろしくお願いしまっ・・・!」


 途中まで言った私の言葉は、先輩の勢いの良い抱擁で遮られた。


「ヤバい、嬉しい。俺死んじゃうかも知れない」


 抱擁が強すぎて、私が死んじゃいそうです。


 私は、先輩の腕の中でもがいた。


「ああ!ゴメン。苦しいよね」


 気付いた先輩が腕を緩めてくれた。顔を上げると目の前に先輩の顔がある。同じ目線。同じ様な照れた顔。


「透子ちゃん、お願いがある」


「何ですか?」


「俺の事、名前で呼んで欲しい」


「・・・礼央先輩」


 私がそう呼ぶと、先輩は下を向いてしまった。どうしたのかと思って、首を傾げて覗き込むと、先輩は急に顔を上げて、私の頬にキスをした。柔らかい感触と、耳に届く「チュッ」という音にドキっとする。固まっていると「さっきのこっちか」と先輩が呟いて、反対側の頬にもキスをした。さっき外人さんにキスをされた所に上書きする様に。繰り返す感触と音に、私は多分真っ赤になっていたと思う。


「ここにもしていい?」


 先輩は、そう聞きながら私の唇に人差し指を当てる。聞かれても、押さえられては喋れないのですが。


 そう思った瞬間、指が外れて、先輩の唇が重ねられた。


 返事、してないのに・・・。


 チュッと音がして、一回離れると、もう一度重なる。先輩の両手が私の頭を押さえた。


 その後、何度か繰り返しキスをされた。


「ゴメン、我慢出来なかった」


 私の目を見て申し訳無さそうな先輩の目。そんな顔も、素敵だと思ってしまうのは、恋のせいでしょうか。




 部屋に戻っても、夢見心地は続いていた。無意識に手で唇を押さえてしまう。口元が緩む。『嬉しい』が止まらない。


 気も緩んでいた。だから、非常に驚いた。後ろから急に声を掛けられた時は。


「こんばんは、透子さん」


 心臓が跳ね上がり、肩を持ち上げたかの様に驚いた。振り返ると、そこに居るはずのない人が立っていた。


 不自然な黒い髪の、ミヤマさんが。

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