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アスフール  作者: まゐ
10/49

10

 翌日は、朝から予報通りの良い天気。少し早めに家を出て、私は空を見上げていた。


 昨日の事が頭に浮かぶ。近頃、何というか、1日の内容が濃い(?)。朝から夜まで、予想だにしない出来事が次々と起こり、頭がついて行けていない。


 今日は休みだ。しかも先輩とのデート。全てを忘れて、楽しく過ごそう。


 そう思いながら、私はゆっくりと歩き始めた。



「♩♪〜♫〜・・・」


 待ち合わせの駅前に着くと、宮本先輩は植え込みの脇に座って空を見つめて、そんな風に鼻歌を歌っていた。楽しそうに、と言った風ではなく、ただメロディを口にした、といった感じで。


 心ここに在らず。


 そんな言葉が、脳裏に浮かんできた。


 右手の人差し指を目の前に、何かを指差しながら、その指でなぞりながら。小さな声で歌い続ける先輩は、今までの楽しい明るい先輩とは別の人みたいに見える。


「宮本先輩・・・?」


 待ち合わせの時間の10分前。私も早目に家を出たのに、先輩はそれよりも早く来て私の事を待っていてくれた。


「あ、透子ちゃん」


 宮本先輩は、私を見て手を戻し、立ち上がった。その時には、もう明るい先輩の表情に戻る。


「お待たせしました。あの、何してたんですか?」


 私の言葉に、「んっ」と一呼吸置いて、再び今まで見ていた空を見上げる。私も釣られて同じ空を見た。


「あのね、大した事ないんだけど」


 そこには、晴天の空の下、電柱の間に伸びる複数の電線が不揃いに撓んでいた。特に珍しい光景ではない。しかし・・・。


 カラスが止まっている。全部で5羽。翼を持ち上げて繕ったり、時折り羽ばたかせたり。リラックスしたその様子におかしな所は何一つとして無い。


 でも、と私は思ってしまう。


「カラス、ですね」


 うち真ん中ら辺に止まっている2羽が、こちらを見ている様な気がした。


「なんかさ、似てない?音符に。電線が五線譜でさ」


「本当ですね・・・」


 先輩が音符を思い浮かべたカラスに、私は何故か、ミヤマさんを思い出した。


「透子ちゃん、来てくれてありがとう。お洒落して来てくれて嬉しいよ」


 私は、白のワントーンコーデ。派手にならない程度にレースをあしらったワンピースに、キャンバス地の柔らかいシルエットの帽子。足下は沢山歩いても疲れないようにヒールの低いぺたんこなミュール。それにシースルーのカーディガンを合わせている。


 私に向き直った先輩は、そう言って自然に私の手を取り繋いだ。当然の様に恋人繋ぎだ。先輩の体と私の体が密着する。


「あの、宮本先輩・・・」


 恥ずかしいです。そう言おうとして宮本先輩の方に顔を向けると、すぐ側に先輩の顔があって何も言えなくなってしまった。


 身長が同じくらいで恋人繋ぎをすると、こうなっちゃうんだ・・・。


 いつもの制服姿と違う私服姿の先輩は、少し大人っぽく見えた。ヴィンテージ風のダメージジーンズにブランドロゴがさり気なく入ったパーカー、足元のスニーカーはNIKEの白グリーン。正直『カッコいい』以外の褒め言葉が見つからない。


 特にそのスニーカーは、私も欲しいと思うくらい可愛いくて、先輩にとても似合っていた。


「スニーカー好き?」


 私の視線に気付いてそう声を掛けてくる先輩。


「宮本先輩の履いているそのスニーカーが可愛いな、と思って」


 それを聞いて、先輩はニコッと笑った。


「これ良いよね。透子ちゃんにも似合いそう。今度一緒に見に行こ」


 思わず頷いてしまった。これじゃ、次のデート確定・・・。


「そう言えば、昨日LINEを叔父さんに見られたって言ってたけど、父母よりも叔父さんが厳しい感じ?」


 思い出したようにそう言う先輩。後から見返したその後LINEには『さっきは交換してくれてありがとう!これから沢山LINEしちゃおうかな』と書かれていた。和樹の激怒の原因だった。


「厳しいと言うか、過保護ですね」


 そう、過保護以外の何物でもない。


「そうなんだ。透子ちゃん可愛いから、過保護になるのも分かるな。一緒に住んでるの?」


「いえ、別々ですけど、時々会いに行きます。叔父は芸大生で絵を描いているんですけど、その絵のモデルをしているので」


 その私の答えに、先輩はふと考え込む。


「(そういやあの2人叔父さんがヤバいとか言ってたな。昼間のLINE電話が何たらって)」


「?、何か言いました?」


 ボソボソと何かを呟く先輩。上手く聞き取れなかったので、私はそう聞いた。


「あっと、ううん。モデル!そうなんだ。絵描きさんなんだ。透子ちゃんの絵、俺も欲しい」


 取ってつけたような返事。何か誤魔化してる?


 思いつつも、私はさらりと流した。


「・・・高いと思いますよ」


「ありゃ、まぁ、それは諦める。ならさ、電話やLINEするなら昨日位の時間がいいのかな」


 また、電話してくれるんだ。そう思って私の胸がトクンと鳴った。


「はい・・・」


 繋いでいない方の手で胸元を押さえた。


「じゃ、そうする」


 先輩の笑顔が嬉しい。


 あれ・・・?、私・・・。




「チケット代、俺出して良い?それとも割り勘が良い?」


 駅の券売機前でそう聞かれた。


「私、払います」


「了解。ならICにここで入れてっちゃお。IC支払いokだから、その方がスムーズだよ」


「はい」


 ちゃんと細かい所迄調べてくれている事に感動を覚えた。それと、最初のデートでありがちな『どっちが払うか』問題をサクッとクリアしてくれた事にも。


 何だか、慣れてる・・・?


 先輩のおかげでスムーズに園内に入り、まず最初にメリーゴーランドに乗った。


「絶叫系は苦手なんですよ」


 という私の意見を聞いてくれて、穏やか系を回って貰う事になったのだ。


「二階建てなんだね」


 そう言う先輩に手を引かれて登った二階部分は、遠くまで見通せて予想以上に楽しかった。


 メリーゴーランドなんて久しぶりに乗った。こんなに回るのが早かったんだ。


 目まぐるしく回りゆく風景は、爽快で気分が上がって行く。


「園内が見渡せちゃいますね」


 そう言って笑った私を、先輩がスマホでパシャっと激写した。


「あ、勝手に撮った」


「ゴメンゴメン、でも自然な笑顔撮れたよ」


 そう言って笑う先輩の笑顔が眩しい・・・。


 後でその写真を私のスマホにも送って貰った。


 次に『占の館』なるアトラクションに入る事にした。


「占い好き?」


「好きです!」


 園内の地図を見ながら、行く場所を決めるだけでも楽しいと思えてしまう。それは、先輩と一緒だからかな。


 入口で、外国人男性の2人組が、係員と何か揉めているのを見つけた。近づいてみると、タブレットを持って内部を回るのだが、その説明が日本語で読めない、と訴えている様だった。係員さんは片言の英語で説明しているのだが、上手く伝える事が出来ていないみたいだ。


「Excuse me,」


 突然、先輩が会話に割って入った。流暢な英語で外国人男性達に英語表示への変更方を教え、中の進み方までレクチャーしてあげる。


「thank you!」


 外国人男性達は、そう言って機嫌良く中に入って行った。


「宮本先輩って、英語喋れるんですか?凄い」


 私は驚いてそう言った。


「うん、そうなの実は。見えないでしょ?」


 何故か自慢げにそう言って胸を張る先輩。


「・・・ここで『はい』って言ったら失礼ですよね」


 思わず心の声が漏れた。


「ハハハッ、みんなに言われてるから別に気にしないけど。こう見えて、何度もホームステイとかしてるんだよ?だから英語は完璧。他の教科もね、以外と出来るの」


「凄い・・・」


 感嘆の声が出てしまった。いつも明るく元気で、どちらかと言うとふざけた印象が強い先輩。勝手に、勉強が苦手そうなイメージを抱いてしまっていた。


 ギャップが、凄いなぁ・・・。


「俺らも入ろう?」


「あ、はい」


 そして、私達も『占の館』へと入った。


「英語で行ってみる?」


「えっ!無理です!」


 そんなやり取りをしながら。

 

 中では色々な占いの中から好きな占いを選び、それぞれのルートに分かれて進めて行くというものだった。


「金運、健康運、仕事運、学業運、恋愛運・・・と、ペア占い」


「ペア占いって何でしょう?」


「2人でやるみたいだね。2人居るからこれにしてみる?」


 私達は、その謎のペア占いという物をやってみる事にした。


 各々が一つずつタブレットを持ち、質問に答えたり、その場にある水晶(?)に手を乗せて、変わった色をタブレットに打ち込んだり、一緒に早押し問題に答えたり。


 そのまましばらく中に進んで行くと、別れ道になった。


「え!ここからバラバラなの!?」


 先輩のびっくりした声。ここからは二手に分かれての作業になるようだ。


「じゃあ、私は左に行きますね」


 そう言って手を離して進もうとすると、ぎゅっと握り直されて引き寄せられた。


「離れるのやだなー。コッソリ一緒に行かない?」


 近距離でそう囁かれる。私は少しドキッとしてしまった。


「コッソリしても、上手く出来ないと思いますよ?」


 私がそう言うと、


「だよねー」


 先輩は、そう言って残念そうに手を離した。


「後でね」


 私の頭を撫でながらそう言う先輩。


 やだ、いちいちドキドキしてしまう。


 そして、私達は別々のルートを進み始めた。

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