宇宙貿易船
宇宙貿易船
数週間前、地球から飛び立った宇宙貿易船が、また新しい星を見つけた。
見た目は緑色に覆われており、大きさは地球と月の中間といったところか。
「お、この星は初めて見たぞ。どんなところだろう。」
興味を引かれた船長は早速その星についてコンピューターを叩き、
その星のあらゆる情報を調べ始めた。
画面には、星の名はサーマル星。
既に言葉を話せる先住民が多数おり、
人類に似た文明を築いて暮らしているらしい。
住民の性格は穏やかではあるが警戒心がそこそこ強い。、
しかし、既に他の星とも貿易もしている。と、表示された。
さらに次の画面にも追加情報がありそうだが・・・
気が早い性格の船長は、「よし、この星にしよう。降りてみるから着陸の用意を頼む。それと、念のため武器も揃えておいてくれ。」と指示を出した。
すると、後ろから部下が話しかけてきた。
「船長、本当にその情報は大丈夫ですか?
この前だって違う星で降りようとしたら、散々ミサイルを打たれて、命からがら逃げだしたじゃないですか。ちゃんと隅々まで見ましたか・・?」
「大丈夫だ。ちゃんと見たよ。あの時はたまたま調子が悪かっただけさ。
この星は他の星とも既に貿易をしているみたいだし。きっとうまくいく。心配するなよ。な、だから準備を頼むよ。」
「大丈夫かなあ・・・。」
諭すような船長の指示に、半信半疑ながらも、部下は準備を整えた。
徐々に降下していくと、大小様々な建物が建つ巨大な都市の様な物が見え、
船はその都市の真ん中にある、ひときわ目立つ空港のような場所に着陸した。
先住民たちもすぐに気が付き、
近くの建物の中から多数の者たちが、どういうわけか全員、笑顔でこちらをじっと見ている。
早速、別の建物の中から警備兵のような服装をした者たちが数人出てきて、
船を取り囲んだ。彼らも笑みを浮かべていた。
船長が窓越しにその姿を観察してみると、
格好は人類とさほど違いが無いように見えた。
頭部が1つあって目は2つ、胴体も1つで腕も2本ある。
背も高過ぎず低すぎず。体系もスリム。
唯一違うのは、足が3本ある事だった。
全員笑顔のまま警戒はしてそうだが、武器のような物も持ってなさそうに見えた。
「よし、今回は大丈夫だ。みんな笑顔じゃないか。ハッチを開けてくれ。降りない事には始まらん。」
大きな排気音と共に階段が下ろされ、攻撃の意思はないと笑顔で両手を高く上げながら船長を先頭に、万一の武器を隠し持った部下も降り始めた。
すると、輪の中から警備リーダーのような者が進み出てきて、
彼も笑みながら何やら話しかけてきた。
「“#$%&‘=~”#%&’(())!!¥@;。、‘{+*}<>>?_」
「んん??どうやら皆さん、歓迎してくれてるのかな??何を言ってるのかは解らないけど。」
船長も苦笑いしながらゼスチャーで答えようとするが、
相手は笑みのままこちらをじっと見つめ、何も反応しない。まるで伝わってないようだ。
「ダメだ。翻訳機を持ってきてくれ。」部下に持ってこさせ、
マイクを向けここに話せと教えると、どうにか理解し、再び笑みを浮かべながら話し始めた。
すると翻訳機からは、「何しにきた、侵略者め!すぐに帰れ。帰らなければ軍隊を呼ぶぞ。」と聞こえた。
その表情からは、まるで正反対の言葉を聞かされあっけにとられたが、
「サーマル星の皆さん。我々は侵略しに来たのではありません。地球を代表し、この星と貿易ができないものかと伺いました。サンプル品が沢山ありますので、まずは見ていただきたいのです。話を聞いて頂くだけでもいかがでしょうか。どうか代表の方とお会いできませんか?」
船長も言葉を慎重に選びながらマイクで話すが、今度は笑顔のままに口調が変わった。
マイクを奪い取り、
「なんだと?俺たちは気が短いから、話してわからないなら大量の武器ですぐ攻撃開始するぞだと?イヤならさっさと降参しろ?そうか、それならばこちらも応戦するしかないぞ。やはりすぐに帰る気はないみたいだな。侵略者め!」と徐々に空気は不穏な方へ流れていく。
「なんか話しが嚙み合ってないようだな。」船長は他の隊員達と顔を見合わせ、
再び「いいえ。違います、違います。我々は戦いに来たのではないのです。乗っ取るなんて滅相もない。貿易が目的なのです。どうかご理解いただけないでしょうか。代表の方とお話しできませんか?。」
なおひるまず笑顔で話しかけた。
「侵略者どもめ。もう戦いたくてウズウズしてるだと?これ以上聞き捨てならん。」
「いいえ。違うんですって。戦いに来たのではないんですよ。話を聞いてください。」
「いいかげんにしろ。おい、軍隊にすぐに連絡だ。」
しばらく押し問答が続いたが、
笑顔で散々脅しをかけられる事は長い船長経験からも初めてだった。
埒が明かない会話にあきれたのか、
船長の耳元にさっきの隊員がこっそり話しかけた。
「ほら。またダメだったじゃないですか。。
だからさっき大丈夫かって聞いたんですよ。で、どうするんですか?
これ以上の長居は危険しかないと思いますが。」
船長は一つため息をついてから、小声で「帰れなくなるのはマズいな。なんだかだいぶ機嫌も悪そうだ。あんなに笑ってるのにな。うーん。ここは止むを得まい。安全第一だ。撤退しよう。」マイクを再び手に取り、「わかりました。この星とはご縁がなかったものとあきらめます。お邪魔しました。」頭を下げ、船に戻り、エンジンをかけ出発準備にかかった。
その様子を見ていた警備リーダーが今度は周りと顔を見合わせ、「あれ?帰るのか?というより逃げるみたいだな。何か機嫌を損ねるような事言ったかな?遠い星からわざわざ来てくれてこっちはとても歓迎してる。ぜひ代表にもあって話をして欲しい。すぐに連絡をとる。今夜にも歓迎パーティーがあり、あなたたちはきっと大歓迎されるだろうと伝えたのに。残念だな。」徐々に小さくなっていくロケットを見送りながらつぶやいた。
飛び立ったロケットはどんどん高度をあげていき、安全圏内に入った。
ここまでくれば万が一ミサイルで攻撃される事もない。
船内が、緊迫した空気から、徐々に解放されていく中、
緊張から解放された船長が窓ごしに小さくなっていく星を見ながら呟いた。
「しかし、あんな笑顔だったのに脅してくるとはな。こんな経験今まで初めてだ。」
「すみません船長。どうやらその原因はこれのようです・・・」
肩を叩かれ、ふと振り返ると翻訳機と何やらプリントアウトした紙を1枚手にしたさっきの隊員がまた近づいてきた。
翻訳機の小さな画面を指さしながら、「ここなんですが・・・ここのモード設定が・・・・。間違ってたようです・・・。」
よく見ると、相手の話を正反対に翻訳するモードのランプが点灯していた・・・。
「それと、これはさっき船長が調べていたコンピューター画面の次の画面に出ていたものです・・・。」
さらに渡された紙には、こう書かれていた。
追加情報。サーマル星の住民は感情の左右関係なく、常時笑顔である。惑わされないように注意する事。