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婚約破棄の雰囲気が台無しになる過保護な母親の一方的なやり取り。

「サーシャ・コルテ・カテドラル! 貴様のような気が強い毒婦などこのイグニス王国の将来の国母としてふさわしくない! よって、貴様とは婚約破棄し、この清らかで優しい乙女フルール・オランジェを新たに婚約者としよう!」


突如として王宮の夜会会場に大きな声が響き渡った。

夜会に居る貴族たちが振り返ると、イグニス王国の王太子エミリオ・ド・イグニスその人が自分の婚約者サーシャ・コルテ・カテドラル侯爵令嬢を怒鳴りつけていた。

王太子エミリオの顔は鬼のように歪められ、その腕にはフルール・オランジェ男爵令嬢がしがみついている。

なんとも目を疑うような有様だった。


対する、カテドラル侯爵令嬢は、貴族らしくなく悔しそうな表情を見せた後、頷いて口を開こうとしたが、できなかった。


「ほーら、だからお母様が言ったでしょう? この国の王太子なんかにお嫁に行くなんてやめなさいって。だから言ったのよ、あなた。本人が王太子と結婚したいって言ってるからって許してはダメだって。結局この子の為にはならなかったでしょう?」

「う……うむ……」


令嬢の前に出てきた豪華なドレスを着たカテドラル侯爵夫人と、夫人に片手で引きずられるカテドラル侯爵によって遮られたのである。


「この子の事は世話以外は全部私が見ているのだから、この子がこうなってしまう事は分かっていましたわ。それなのにあなたは、部下に調査だけさせて、婚約する時点までは清廉潔白だからって、王太子がこの子の美貌に一目ぼれして結婚したいって言ったからって、この子が家の為になると思って頷いたからって。ね、サーシャも聞いているの? いつも可愛く『分かりましたわ、お母様』と言って私の話を右から左で聞き流しているのだから。ね、あなたも聞いてます? 私の言う事を聞いておいた方が良かったですわね、本当に」

「う……うむ………」


カテドラル侯爵夫人は片手で扇を開いて口を隠し、片手で自分の夫を掴んだまま、立石に水のごとく喋りまくる。

言葉は子供に話しかけたり、夫に話しかけたりしてはいるが、その目は夫人の子サーシャ・コルテ・カテドラル侯爵令嬢しか見えていなかった。


「私は分かっていましたわ。だからやめなさいと言ったのに。婚約指輪だって、サーシャに渡す人生で一度の特別な物なのに予算をケチっているのがまるわかりの指輪を寄越してきて、あれは結晶が大きいだけの粗悪品だったじゃありませんか。私の目はごまかせませんよ。それなのに、あなたとサーシャったら婚約はもう止められないとか言って、私は今引き返す方が傷は浅いと言ったのに軽く流して、本当に私は傷つきましたわ。ね? 聞いています?」

「う……うむ………………」


カテドラル侯爵は、ずっと喋り続ける夫人に頷きながら冷や汗を流し始めた。

サーシャは王太子から自分の母親に視線を移して、引き続き悔しそうな顔をしている。


「サーシャ、あなたもお母様をそんなに可愛い顔で見ても今日こそはお母様は流されませんからね。ええ、お母様はあなたの為に心を鬼にして今日こそ言わせてもらいますわ。こんな王太子はダメなの。分かりましたか? お母様はこんな身持ちの悪いお嬢さんを腕にぶら下げるような男だと王太子といえども分かっていました。全部、お母様の言うとおりにしていれば間違いないの。こんな醜聞を起こした王太子は廃嫡されて、どうせお母様の親友のご子息のレオンハルト・ジーク・アンブリオ公爵令息様が繰り上がりで王太子となるのだから、そちらになさい。あなた、先ほどもアンブリオ公爵令息様があなたを恋しそうに見つめていたのに気づいていて? お父様ににて鈍感なんだから、そろそろ気づいてあげなさいな」

「失礼! カテドラル侯爵夫人! それは言わない約束ではっ」


大変な事を暴露するカテドラル侯爵夫人に話題に出されたレオンハルト・ジーク・アンブリオ公爵令息が駆け寄って来る。


「大丈夫かい、サーシャ。僕は君の味方だよ。先程からすぐ駈け寄らなくてごめん。言い訳だけれど、清らかなサーシャが僕が駆け寄って助けたせいで、僕が間男に見られる可能性もあるかもしれないと、迷っている内に……」

「いいのよ。レオンハルト。あなたと私の間には王太子と婚約してからは何も交流はないし、お母様と違って私の事をいつも思いやって動けなくなる時がある奥ゆかしさは好感が持てるわ」

「ああ、ありがとう。サーシャ、昔から僕の事を理解してくれるサーシャの事……」

「それはまだ言わないでちょうだい」

「ああ……サーシャ……」


悔しそうな顔をしていたサーシャは、レオンハルトにようやく微笑んで見せた。

先程から終始母親に向かって悔しそうな顔をしていた時と違って、サーシャの顔は笑うとようやく年頃の娘のように見える。


そんな2人の様子を見て、カテドラル侯爵夫人はハッとした顔をした。

恐る恐る周りを見渡す。


周りの貴族たちはシーンと静まり返り、こちらを戦々恐々と見返していた。


「あ、あら、またやってしまったみたい。恐れ入ります」

「ま、まあ、王太子殿があまりにも無礼だから、いいのではないか? 王太子殿下、では私達はいらないとの事なので、これにて失礼します」

「これで用意していたものが役に立ったわね。ほーら、私の言った通りでしょう? 皆様、宜しかったら今日、ちょっとした宴席をご用意しておりますので、いらっしゃって下さいませ。マーサ、今日のドレス素敵ね。今日は我が家で改めて夜会を開くから来てちょうだい」


カテドラル侯爵夫人は切り替え早く、親友のマーサ・ジーク・アンブリオ公爵夫人に話しかけながら会場の出口に向かって歩き始める。


「ありがとう、あなたの髪飾りも素敵ね。南国の鳥の羽の髪飾りなんて素敵」

「この前着いた船団に積まれていた物なの。夜会に間に合ってよかったわ」

「そうなの? 私もこの前、商人の南に行く船に投資したのだけれど……詳しく聞かせてちょうだい」

「ぜひ!」


夫人二人の夫はそれぞれ夫人の後ろから大人しくついていっている。

似た者同士の夫たちのようだ。


貴族たちは、まだ一言も喋っていないこの国の王と王妃を素早く見比べて、礼をしてから夜会会場を出る方に歩き始める。

王太子とその腕の付属品フルール・オランジェ男爵令嬢はあまりの展開の早さに唖然としたままであった。


過半数以上の貴族たちが夜会会場を出ていったあと、最後にサーシャとレオンハルトが、並んで美しい礼を披露して会場を出ていった。

楽しそうにサーシャとレオンハルトは話をしながら去っていく声が、会場に残った者たちの耳に残っていた。


「あなたとは両親とは違う家庭を作りたいわ。子供を愛し、信頼に溢れた家庭を。あなたの気持ちを教えて」

「僕も同じ気持ちだよ、ああ、聡明なサーシャ」

ほーら、言ったでしょう? という言葉が嫌いだけれど本当にその通りになるのはどうしたら良いのでしょうか。一体子供はどのように自分の道を模索するべきなのでしょうか。


読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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↓代表作です。良かったら読んでくださると嬉しいです。

「大好きだった花売りのNPCを利用する事にした」

― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃおもしろいです。 「ほーら言ったでしょ」のお母様。普通ならちょっと嫌な言葉ですがこのお話ではとても良いスパイスでしたw 婚約破棄された令嬢って真っ青な顔or冷静or微笑んでるo…
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