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至上の無名光術師の苦難  作者: 八指犬
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9章 思惑の交錯

余計な情報を排除する為に殊更場面転換を明示する事は致しません。会話の間の表現を重視し、詰まりの無い会話はそれに応じて発言が連続します。発話者が分かりにくい事も多々ありますがご容赦下さい。その代わりに「」の鍵括弧を一纏めとして同一人物の発話が描写を挟まずに連続する事はほぼ排除しております。

また、多少前後している事もありますが描写は時間順となっております。


 1節 招待


 ユッミルが帰宅すると家にはフーニャとメシャーナ母子にオーネのみであった。

 「フーニャさん、暇ですので来て下さい」

 「何か嫌な言い方だがお呼ばれには変わりない。構わないよ」

 ユッミルはフーニャを膝に乗せてみる。

 「うーん、やはり半端だね」

 「だから子供ではないと言っているだろう」

 「まあでも良いです。お話をしましょう。土の団はフーニャさんから見てどうなんですか?」

 「そうだね、男が多い。しかも君みたいなのは少ない。君、結構考えて術を使っているだろう?私は術師はそうあるべきだと思っている。が、土の団は現状はそうでは無い。威力重視で非効率。そういう訳であの集団と深入りする気は無い。ただ、安定して班を組めないので仕方なく団に所属している。」

 「えっと、男は男同士で徒労を組んでいる感じですか?」

 「まあ団内の班は厳然としてあるからね。けどそれ以外ではそれが多いが男性五人程度の中に女性が一人二人というのもいる。レミーカ君はそれだな。ただ、レミーカ君の場合はそこを半ば率いているがね。だがまあ女性ばかりの班的集団は多いよ」

 「まあレミーカさんは幹部ですからね。で、フーニャさんは単独行動と」

 「割り振られた班以外ではね」

 「フーニャさん?」

 「いや、ユッミル殿は私が女である事すら確信していないのかと思ってね。いやそれにしてもユッミル殿は積極的だな。でも構わないぞ、我慢は無用だ」

 「嘘をつくなら形だけでも突き通して下さい。それにあなたが見せて来たんですから女なのは知っています」

 「幻術を乱発しているユッミル殿は触らないと信じないだろう。後、胸では威力不足なのは間違いないし試しておいた方が良いと思ったが胸よりは良さそうだ」

 「驚いただけでしょう」

 「私がうるさいと思うなら君からも攻めて黙らせるのはどうかね?」

 「やはりあなたを懐に入れたのは間違いでした」

 「好きに言えばいいが後からである以上強引でなければ上手く行かない」

 「ですからいずれはしますから」

 「だが不意にやってしまう方が後味は良いかもしれないぞ」

 ユッミルはフーニャに踏まれた手を強引に抜き出してフーニャの顔を強制的に横に向けて口を重ねさせる。

 「どうですか、不意打ちは」

 「ああ、良かったぞ。これからもよろしく願う」

 「えっ」

 「ユッミル、黙ってみてれば好き放題して」

 「ああ、ユッミル殿、私はとりあえず満足したし何より手が切れた。続きは少し待ってくれ」

 「ユッミル、シャーユと私にもして」

 「ああ、良いよ」

 ユッミルはシャーユとメシャーナの頬に軽く口を添える。

 「違う、口にだよ」

 「二人は側室ではないから無理だよ」

 「あの結婚式は何?それでも駄目って事はユッミルの気持ち的に嫌って事?」

 「分かったから」

 「シャーユは実の娘なんだからしてあげて」

 「えっと」

 「何か嫌な理由でもあるの?」

 ユッミルは黙ってメシャーナとシャーユと口を重ねる。シャーユは片手でユッミルの顔を押さえながら頬を押したり引いたりして遊んでいる。ユッミルは口を離すとシャーユを抱き直しながら片手を差し出して注意をそちらに向けさせて顔をゆっくり離す。

 「メシャ、心配しなくてもシャーユの事は可愛いと思っているよ。けどまあ過度に近づいても喜ばないし不思議な人とは思われたくない」

 「うんまあそうね。ユッミルもシャーユの事は気に掛けてるね」

 「うん、まあよく分からないから心配だし」

 「うん、ありがとう」

 その後、ソヨッハにシウが帰宅して珍しくリュッサもシャーユの面倒の手伝いで泊まる事になる。夕食後、ユッミルはついついリュッサに話しかけて塔の話を聞こうとする。

 「イーサさんはどうです?」

 「はい、そろそろ休暇を取るみたいなので前倒しで仕事をしていて忙しそうですね」

 「そうでしたね。まあ今の時期ですから心配はしていませんけど」

 「ネメッカ様は?」

 「色々ですね。いい意味で悩んでる時も苦悩している時も見受けられます。イーサさんがいない状況で羽を伸ばす事と月との交友で悩んでいるんでしょう」

 「そうですか、団全般はどうです?何か変わった事は?」

 「やはり人は少ないですし長期間来ていない子もいます。例年通りですが退団者が出てもおかしくない」

 「退団者ですか?例年もこの時期が多いんですか?」

 「ええ、無性の一年は寒季の末に始まります。その直前かもっとも寒い十日程の前に退団を申し出る人が多い。多い年は五人ですね。去年は二人でした。」

 「そうですか、シウ様もこの側室団から脱落する機会を伺ってますよね?」

 「それは愛を示して否定しないと邪険に扱うと言う強迫かしら?」

 シウは体を少し近づける。

 「いえいえ、退団は自由ですという話です。この家にしても術師の団にしても無理に居残る必要は無い」

 「私は出ないわよ。ユッミルと遊びたいし」

 「私もだ」

 「フーニャさん、ありがとうございます」

 ユッミルはオーネ以外の全員と入れ替わり立ち代わり風呂に入り続ける。その後、シャーユがメシャーナとリュッサに挟まれ、ユッミルがシウとフーニャに挟まれて寝る。ソヨッハとオーネは一人で寝る。

 翌日、ミーハが早朝に帰宅する。ミーハはユッミルに倒れ込むが事情を話そうとはしない。ユッミルはどう考えてもそろそろイーサと話す必要性を感じていたので出かけていく。

 「こんにちは。イーサさん。お時間良いですか?」

 「ええ」

 「あなたはどうあるべきだと思うのですか?月との関係性について」

 「特に現状に不満はありませんが危ない状況ではあります。ユッミル様は注意してリッネ様と対話すべきでしょう。ですが慢心が無ければ大丈夫でしょう」

 「ありがとうございます」

 ユッミルは早々にネメッカの膝の上に陣取る。

 「新手の対策ですか。まあ良いです。ですが寒季の終わりには私の体からはユッミルの子供が出て元に戻ります。我慢は出来ないでしょう」

 「そうですけどネメッカ様が決める事です」

 「それでも構いませんけど二人目も早く欲しいので四回位して確実に作って下さいね」

 「心を元に戻すのが難しくなりそうですね」

 「戻さなくていいんです」

 「狩りの時期ですよ」

 「そうですね、三人目は雨季まで待っても構いません」

 「三人目?」

 「ええ、私は今はまだ若いですが後五年もすれば少し若いとは言えなくなる。若いうちにユッミルの子供は産んでおきたいしね。もう少し早く出会いたかったわね」

 「いえ、別に十数年はともかく八年程度は心配いらないのでは?」

 「ううん、そう言っててもユッミルは若い子に靡くかもしれないし」

 「そうはならないと思いますが分かりました」

 「そろそろ寒季だけど皆はどうするの?」

 「私はここにいるわよ」

 「私もここで満足だ」

 「私もそうしますね、一応」

 シウにフーニャにオーネは迷わず答える。

 「私は未定ですね。そもそもユッミルさんはここにいるんでしょうか?今日もいないですし」

 「今日に関してはネメッカ様は引き留めるつもりの様ですね」

 「まあユッミルがいなくても残るけどいて欲しいわね」

 「ただ、ネメッカ様の出産時期がその辺りなんですよね」

 「リュッサさん、それは本当?」

 「本来は少し後ですけど可能性はそれなりにあるので」

 「それは仕方ないわね。無理に引き留めたら私達の時は猶更無視されるかもしれないし」

 「ユッミルはそんな事しないよ。私ですらついてくれたんだから」

 「メシャちゃん、そういうつもりはないけど実際にネメッカさんやあなたの子供ほどは側室の子は大事じゃないと思うわよ。当てにはしてないわ」

 「それに私の場合は水の塔に帰って産むわ」

 「嫌な話ね」

 「でもシウさん、あなたの話し方は時折ラーハ様に似てますよ。ラーハ様みたいな人と競い合いは嫌ですね」

 「あの人みたいにはなりませんよ」

 ネメッカは服の肩を着崩してユッミルの顔を胸元に抱き寄せる。ユッミルは目を覚まして状況を知るとネメッカに巻き付いて胸に手を添えてネメッカを起こす。

 「ネメッカ様、ごめんなさい。ついつい」

 「結局、手を出さないんですね」

 「いえいえ、本来ならさっさと服を整えればいいのですが誘惑に負けて手を出してしまう寸前でした」

 「寸前であろうが出さない事に変わりない」

 「朝食の邪魔をしてまで出さないだけです」

 「まだ朝食の時間には早いです。その時間になったら教えますよ」

 しばらくして二人は朝食に向かう。

 「また触りたくなるから困るんですよ」

 「別に構いませんよ」

 フェノとイーサも合流する。主宰部屋でフェノと話しているとミヨーナがやってくる。少し話すとユッミルは一旦帰宅する。

 「ユッミル殿か」

 「フーニャさん、この後は指揮所なので時間が多い訳では無い。特に何も無いなら行きますね」

 「分かったよ。行って来てくれ」

 扉を叩く音がする。家の前にいたのはキッシャノであった。

 「ユッミル様、月の主導様が今夜お呼びですので指揮所の後にお越し頂けますか?」

 「どういう事ですか?」

 「またお話という事ですね」

 「それはそうでしょうけど」

 「大丈夫ですよね?」

 「えっと明日午前では駄目なのですか?」

 「そういう事でもありませんがその時間に来て欲しいという事ですね」

 「分かりました。とりあえず指揮所に向かいます」

 ユッミルは指揮所に向かう。シェンハと交代だが隣にはディユがいる。

 「ユッミル、そろそろ気候も良くなってきたしまたお願いできるかしら?」

 「ええ、それは構わないのですがリッネさんが頻りに魔族領に誘うんですよね。シェンハ様が代わりに行ってくれませんか?」

 「無理ね。リッネはきっと私よりあんたを役に立つと思っている。そこの土の幹部とかもそういう考えに傾いてるんじゃないかしら?」

 「それはあなたが最近は本気を出さないからでしょう」

 「そうね。その前にあなたが片づけるしね」

 「ですが多数の相手はあなたが優位なんですから草原の中央を制圧頂けるだけで魔族は委縮するでしょうね」

 「まあ良いわ。とにかくよろしく」

 「ええ、とにかく急にリッネ様に呼び出されたらごめんなさい」

 指揮所には後から火と木の幹部がやってくる。

 「ユッミル様、初めましてセーハと申します」

 「そうですね、初めましてだよね?」

 「はい、私は他の団の方と狩りに行っている場合も多いので塔にはあまりいません」

 火の幹部は珍しく古株らしき老公である。

 ユッミルは再度遠くを確認する。やはり魔族は前のめりだが心持ちリッネ達の攻撃した場所の警戒が強い。

 「ユッミル様、どうですか?」

 「えっ」

 「えっと光の人って見えるんですよね?特にあなたならかなり見えるはず」

 「そうですね、かなり危険な状態ですね」

 「今はユッミル様がいて良かったです」

 「いえいえ、それよりこの指揮所が制圧された実績等無いでしょう」

 「いや、そんな事は無い。50年程前木の主宰担当時を狙われて落とされた。当時も君の様な雷の使い手がいて光は弱くなかった。後から考えれば明らかに木の主宰の力が劣っていた。他の主導や主宰は怪我で済んで数週間以内には復帰したが指揮所を抜けられて中堅幹部がかなりやられて各団は立て直しを迫られた。その時以来木の団は護衛育成にも注力している」

 「その後は無いんですか?」

 「ああ、まあ一部の団からは評判が良くない様だが君の奥方も問題は無い。魔族は光と月の術に弱い事を自覚している事もありますがね」

 「バッソー様の仕掛けはいつからですか?」

 「40年前から始めたが本格運用は30年前からだね」

 「それも大きいですよ」

 「まあそれはあるが土の団が大きいのは大きい。彼らの遊撃は指揮所の包囲の危険を軽減している」

 ユッミルは指揮所の帰りに月の塔に行く事になったがセーハと流れで塔の近くまで同行してから月の塔に着く。

 「ユッミル様、応接室へどうぞ」

 「他の人は?」

 「いない。問題は無いだろう?」

 「ええ、ありません」

 二人は応接室に入る。

 「ユッミル、座ってくれ」

 「はい」

 「ユッミル、私はそこまで警戒する相手か?」

 「ええ、それなりには」

 「だが君がここで少々の無礼を働いても叱責で済ます」

 「限度があるでしょう」

 「そんな無礼を働く気なのか?」

 「あなたの要請をネメッカ様の意向で拒むとしてもですか?」

 「それは叱責すらいらない。ただ、それだと要請は諦めないがね」

 「それが困るのですが」

 「催促はしないが」

 ユッミルが黙るとリッネは少し考える。

 「そう言えば今日は指揮所の担当だったらしいが魔族領はどうなんだ?」

 「前線は上がっています」

 「それならその前線を直接削っても良いかもしれないね。けど君は乗り気ではないかな?」

 「せめて土の意向は確認しないと」

 「そうだね。けど今日の本題はそこじゃない」

 「えっと」

 「ユッミル、君には今日は泊まってもらう」

 「ええっと、何かわかりませんが遠慮します」

 「心配しなくても泊まるのは主導部屋だ」

 「何をする気ですか?」

 「寝る前にする様などうでもいい話をするだけだ。君に警戒されない様に私の近接月魔法の魔石を渡す。私を害する事も可能だができれば気楽に話して欲しい」

 「害したりはしませんよ。それにその話は受けません」

 「では何故害さないのだ?」

 「理由がありませんし害しても後で報復されます」

 「それは害する程度によるだろうが私にも理由が無い事が分からないのか?」

 「言い分を通すというのは理由になります」

 「私はあなたが説得に応じると思っているとあなたに宣言していますしそうはしません」

 「そうでしたね。帰ります」

 「ユッミルさん、幻術使えますよね?」

 リッネは急に囁くように耳元で小声で話す。

 「まさか、駄目ですよ」

 「でしたら私とあなたにシェンハやエッヒネで草原で魔族を迎え撃つ作戦に協力します」

 「どういう事ですか?」

 「私は魔族への先制攻撃を主張していますし今回も実態は先制攻撃ですが術師協会には撃退と報告しましょう。例えば、エッヒネ様の担当時間帯にユッミル様が魔族を攪乱していつの間にか4人が詰めかけて撃退し撃退を報告すると言う形ですね。」

 「それは構いませんがどういう事ですか?」

 「私は先制攻撃をして魔族を抑止すると言いましたが自ら魔族の襲撃を起こして術師協会への提案の説得力を落とします。ですがユッミル様は現実を知っているのですからユッミル様の作戦への評価は落ちません。私が協力願いたいのはユッミル様やシェンハ様ですが特にあなたです。しかし、こうしておけばユッミル様は他の団からの圧力が弱まるでしょう。私も術師協会に対してはこれ以上は言いません」

 「ネメッカ様には隠しませんよ」

 「ええ、構いません。本人にも言いましたがネメッカ様であればあなた次第なんですから」

 「どうですか?」

 「ですがラーハ様には隠し通せない事も多いですよ」

 「ええ、ですから寒季の間はあなたとの行動は控えます。あなたから会いに来るのはいつでも自由ですが。しかし、その前に信頼を得たいのですよ」

 「一緒に寝ても信頼が得られるとは限りません」

 「それで駄目なら当面は諦めます」

 ユッミルはリッネに後ろからしがみつきながら塔を後にする自分の幻影を運用する。ユッミルがいなくなったことになった後もリッネにくっ付いて階段を上っていく。

 「あの、主宰さんは大丈夫なのですか?」

 「お互い部屋の奥にはほとんど立ち入らない。君らと違って夫婦ではないからね。私は女でも男でもない事になっているし」

 「ならば何故寝床に分かりやすく女性用らしき服が転がっているんですか?」

 「問題は無い。私が男なら女装して寝るという形だ。そもそも君から信頼される為に武器を持っていない事が分かる服装でないと」

 「着替えるのですか?」

 「ああ、私は性別を隠さなければならないので私の性別を認識する気が無いなら向こうを向いていてくれ」

 「それは構いませんが仮面はどうするのですか?」

 「私の女装は徹底していてね。顔も女性の様に変えるんだ。ただ、限界があるから男でも女でもない風味が残るが素顔は見せないよ」

 ユッミルは目を瞑って待つ。ただ、それはほとんど無駄であった。リッネは体の形が出る様な服装である。

 「ユッミル、これなら武器が持っていない事は確信できる筈だ。最後に私の力を魔石で落としてくれ」

 「分かりました」

ユッミルは月魔法を使う。

 「これは流石ユッミル様。かなり力が落ちた。少し眠くもあるがユッミル、一緒に寝てくれないか?それとも弱った私は怖くなくなってしまったから従わないか?」

 「分かりました」

 ユッミルはリッネに布団に引き込まれる。

 「さて、まずは私が何も所持していないか服の中を探ってくれ」

 「そうなると性別を知る事になります」

 「そんな短い武器は存在しないから周りを探れば問題は無い。ただ、私はそれでも構わないよ。信頼を得たいからね」

 ユッミルは何もない事を確認する。

 「何もありません。元々そんな事は疑ってませんでしたが」

 リッネはユッミルを抱く。

 「リッネ様?」

 「ユッミル様、私は親愛の情で抱擁して共に寝るつもりですがあなたは私が女だと知っているのですか?」

 「いえ」

 「でしたら男かもしれない私に欲情はしないでしょう」

 「それはそうですが」

 「もちろん、私が女であればあなたのお相手はできますがユッミル様の認識は私にはどうにもできません。私が男であってもユッミル様が私を女扱いしても受け入れますし逆も同じです」

 お互いに寝始めると自然に抱き合って翌朝にユッミルが目を覚ますと否が応でも女性である感触に包まれている。ユッミルは慌てて逃れようとするが意外と逃げ場が無い。するといつの間にか扉を叩く音がする。

 「リッネ様、具合でも悪いのですか?」

 「問題無い。今日は少しゆっくりしたい」

 リッネの側近が去るとリッネはユッミルを抱き寄せる。

 「どうやら仮に私が女であったとしても一番の愛は得れそうにないだろうな」

 「ですがそれは単に団が違うというだけかと。それにあなたは本来こういう大胆な人では無い。私はむしろそういう人に親しみを感じますよ。ですがそうであれば急速に深まる親愛はありません」

 「そうか、確かに私は演技を強いられているだけで得意ではないからな」

 「ですけどあなたの熱心さや誠実さは伝わりました。信頼は高まりましたよ」

 「だが」

 「ええ、ネメッカ様の意向は無視できません。約束は守って頂きます」

 ユッミルはリッネの協力で月の塔から抜け出すと家に戻る。

 「ユッミル、お帰り」

 「ネメッカ様、シャーユの世話ですか?」

 「昨日はどちらへ?」

 「指揮所ですね」

 「それは知っています。その後です」

 「月の塔に呼びつけられていましたよ」

 「それでその後は?」

 「リッネ様と話していましたよ」

 「朝までですか?」

 「はい」

 「何処で?」

 「えっと、長くなるので主導部屋でしたよ。そのうちに寝てしまいまして」

 「主導部屋ですか?二人だけですよね?」

 「まあそうですね」

 「まずい事になる危険性は考えなかったのですか?」

 「武器は持っていませんでしたよ」

 「そういう事ではありません」

 「ええ、ユッミルさん。あの人は性別不明だけど側室扱いを受領したとも解釈できる行動に出ましたからね。」

 「ですがこのネメッカはリッネ様を側室としては実質的には認めません」

 「はい、私もあの人を側室にする気はありません」

 「では何故一緒に寝る危険性を回避しなかったんですか?」

 「これ以上の追及は困りますが私からリッネ様を女性として抱いた等の話はありません」

 「そうですか。ではユッミルは服を脱いで下さい」

 「えっと」

 「何か問題はありますか?」

 「無いですよ」

 ユッミルが服を脱ぎ始めるとユッミルを囲むネメッカにシウやテーファやメシャーナにミーハも脱ごうとする。

 「待て」

 「何ですか、ユッミル?」

 「リュッサさん、一応万一の来客に配慮して下さい。それとメシャーナは駄目だ。万が一の事があって第二子を唯一無二の正妻様の先を越したら大問題だ。僕は埃の様に掃き出されてしまう」

 「ユッミル、掃き出されたくなければ私の服を力づくで脱がせて自分も脱げばいいのでは無いでしょうか?」

 「いえ、ここは人が多すぎますのでやめておきます。服は脱ぎますのでお待ち下さい」

 「そんな事を言っても私も脱ぎますけどね。後、フーニャさんも来て脱いで結構ですよ」

 「これ以上増やさないで下さい」

 「ユッミル、私を最初に抱くなら私は気にしないけど」

 「いや、ミーハ。君は怒ってはいないだろう」

 「そうね。でも差別はしないでね」

 床には服が散乱していく。

 「テーファさん、あなたとこうして抱き合えるのは願ってもない事なので罰にはなりませんよ」

 「ユッミル、まずは私に抱かれて下さい」

 ユッミルがテーファから離れてネメッカの方を向くとネメッカはユッミルを抱く。

 「ネメッカ様?」

 「確かにしてない気はします。ですが密着はしていませんか?口説かれたんじゃ?」

 「いえ、主導部屋には秘密裏に移動しましたのでその時はリッネ様の真後ろをついていったので」

 「同意の元なんですね?」

 「えっ。まあ」

 「しかもこっそりですか。宿泊する前提では無いですか。」

 「あっ」

 「やはり酷いです」

 「ですがそうであれば抱きしめるのはおかしいですよ」

 「そうですね。実際にはユッミルに積極性が無かったのは知っていますが不満は言わせて下さい」

 「ユッミル君、後で私も抱いて安心させないと駄目だよ」

 「イーサ殿、どうしたんだ?」

 「いえ、ユッミル様の渦中具合は困りますね。フェノさんにももう少しユッミル様と同行する時間を増やさせたいのですが」

 「私はそう思っているがユッミル様の意向には沿いたい」

 「ユッミル、私達がいますから月の主導とは仲良くしなくて良いんですよ」

 「あの、仲良くは無いですからね。それに草原での問題を解決する事は必要です」

 「この事は駄目ですか。ですが今はユッミルが逃げそうに無いですしまあ良いです」

 しばらくするとユッミルはネメッカを押し出してフーニャ達の輪を抜け出す。

 「ユッミル、どうしたんですか?二人きりが良かったですか?」

 「そうですね、それにしてもネメッカ様は僕がリッネ様にこんな事をする可能性があると思ってるんですか?」

 「いえ、そうは思っていません」

 「では何が心配なんですか?」

 「そうですね、方針も一致して欲しいのですよ」

 「こんな事をしても方針は変わらない。」

 「そうですね。そういう意味では無いですよ、不安なので抱いただけです。ごめんなさい、ユッミル。私の気分を押し付けて。ですけど私の方に向いていて欲しい。」

 「不思議ですね。後ろには他の女がたくさんいますよ」

 「それは良いんですよ。とにかく不安にさせないで下さい」

 「困りましたね。私は魔族の問題を解決したいだけなのですが」

 「分かっています。私では力不足です」

 「あの、そういう意味では無いですよ」

 「ユッミル、私はユッミルが私をそういう意味だけでも求めてくれれば安心できます」

 ユッミルはネメッカを押し倒す形で寝床で抱き合いながら言い訳をする。しばらくするとメシャーナがシャーユを前に抱きかかえてやってくる。

 「お父さん、そろそろ服を着て。後、そこの女の人達にも着る様に言って」

 ユッミルが部屋を見渡すとシウ達は床に座り込んで時折話をしている。

 「シャーユちゃんは大人の世界を知らないのかもしれないけど私達がここにいる目的はこういう事なの」

 「シウさん、テーファさんは少なくとも違いますからね。そっちの道に誘わないで下さい」

 「でもユッミルさんはその方が良いのでは?」

 「テーファさん、来て下さい」

 「どうしたの、ユッミル君?」

 「テーファさんはあの人たちと違って僕に注文できる立場ですから言いたい事は言って下さい。できる限り意向に沿いますから」

 「じゃあ横から抱いてね」

 テーファは手で胸を覆う様な動作をしている。

 「ユッミル君、今は駄目だよ」

 「えっと」

 「ユッミル君、抱いてって言ったよね?」

 「えっと」

 「ユッミル君、本当に嫌なら手を動かすから言葉に惑わされないでね。まして私が黙ってるのに遠慮はやめてね」

 「分かりましたけど僕はお願いされた方が良いかも」

 「けどユッミル君はお願いしても遠慮するでしょ」

 「そうですけど今は待てませんよ」

 「いつもこれなら良いのに」

 「ユッミル、どうしてそうなるの?」

 しばらくして全員服を着直してユッミルはメシャーナの近くに寄る。

 「今日はいい。ネメッカとかテーファがいるんだしそっちと仲良くすればいいでしょ。無理にシャーユの面倒を見なくて良い」

 「ネメッカ様は今、機嫌が悪いからシャーユと遊びたいのは本当だよ」

 「私は関係ないのね。けどシャーユは私といるからね」

 「分かったよ」

 「ユッミル、私の機嫌が悪いと聞こえたのですが」

 「はい、悪いでしょう。無力でリッネ様の言い分を完全無視できない私のせいなのでネメッカ様に非が無いのは理解しています」

 「なら良いわ。それより服を脱いでいい?」

 「どうしてですか?」

 「眠い。別にユッミルが居ようが今日のユッミルは上の空だし関係無いと思って昼寝するわ」

 「駄目ですよ」

 「あら、ユッミル。急に積極的ね。けどもう良いわよ」

 「昼寝してくれないんですか?」

 「しますよ」

 

 

 

 

 

 

 

2章 木の動き


 昼食を終えると最終的にネメッカはユッミルに光の塔に戻る際に尻や胸を触らせる罰で妥協した。ユッミルは主導部屋に戻ってもネメッカの体を頻りに触っていく。ネメッカは返礼かの様にユッミルを抱く。イーサが来るとネメッカが制止するがユッミルはネメッカの方を見ている。

 「ネメッカ様、困ります」

 「別に良いでしょう」

 「せっかくの優秀かつ温厚な光の主宰が主導の傀儡では無いですか。そんな事では休暇を取っていられない」

 「イーサ様、すいません。もう大丈夫ですから」

 「ユッミル、さっきのユッミルは悪いユッミルでは無いんですよ。イーサ、せっかくユッミルが私の体を好きになりかけていたのに」

 「ネメッカ様、好きですよ」

 「いえ、違います。ですがまあ良いです」

 その後、ユッミルはネメッカの頭を抱きながら話をして必死にネメッカを宥めていく。夕食後も顔の距離を離す機会を失った二人はずっと顔が近いままで顔を離す事はあるものの基本的な距離が近くなってしまう。イーサは頭を抱えている。フェノは不思議そうに見守っている。夕食を終えて部屋に戻るとユッミルはネメッカに体を預ける。ネメッカは時折ユッミルに話しかけるが基本的には静かに過ごしていく。

 「ネメッカ様、緊急ですがユッミル様をお借りします」

 「どうしたのですか?」

 「ユッミル様には二人の女性と宿舎で寝てもらいます」

 「イーサさん、そんな必要はありません」

 「そうよ。イーサ、落ち着きなさい。そもそも主宰と主導の一致した意見に歯向かう気?」

 「お願いします。このままでは良くない気がします」

 「えっと、どうします?」

 「私は反対ですがいつも通りユッミルの判断に従います」

 「では行きますね、イーサさん」

 「イーサ、無駄なあがきですね」

 ユッミルは宿舎で寝るがさっさと抜け出して主宰部屋に戻る。

 「ユッミル様?」

 「フェノか。どうした?」

 「いえ、いつの間にかユッミル様が居たので驚いてしまいました。それだけです」

 「ならいい」

 ユッミルは主導部屋に向かう。

 「おはようございます、ネメッカ様。昨日はごめんなさい」

 「悪いのはイーサですしそれに何も無さそうなので」

 「何もない事は無いですよ。両脇にほぼ何も着ていない女性と寝たんですから」

 「いえ、イーサの機嫌が良くないので失敗したのが分かります」

 「そうですか、残念ですけど今日は向こうに帰ります」

 朝食と昼食共にイーサとネメッカとフェノと食べると昼過ぎに家路に着く。家の近くの路上でキッシャノと出くわす。

 「こんにちは」

 「大事な用なのでお静かに願います」

 「まあ構いませんよ」

 「はい、明日午前は指揮所の当番はエッヒネ様ですのでユッミル様の都合が悪くなければ明日実行します」

 「分かりました」

 「本日は泊まりますね。そして、あなたと一緒に出ます。私はリッネ様に準備を要請するので森で待っていて下さい。差支えなければテーファを使者として送ります」

 「テーファさんと共闘しろと?」

 「そうは言いませんし嫌なら私が行きますが?月の術師との共闘をリッネ様が望んでいるのは隠しても仕方ないでしょう」

 「テーファさんが了承しているのであればお受けしますよ」

 「ではそうしましょう」

 ユッミルは家に帰ると寝床に寝転がる。そうしているとフーニャとシウが寄ってくる。

 「ユッミルさん、暇なら添い寝しても良いかしら?」

 「まあ構いませんけど特に相手はできませんよ」

 「ええ」

 「何か私を拒む元気がなさそうなので便乗させてもらう」

 「元気が無いと言うより別の事が気になるという事かしらね」

 「どうでしょうね」

 三人は黙って寝転がっている。夕食になるとそのままの並びで座る。正面にはミーハやオーネにメシャーナがいる。

 「あれ?ソヨッハは?」

 「まあ今日は帰らないって」

 「そうか。ミーハ、今日は早く寝るかもしれない」

 「えっ。まあ良いけどその代わり風呂は一緒に入ってね。二人でね」

 「まあ仕方ないか」

 夕食後しばらくしてユッミルは風呂に入る事にしてミーハに声を掛ける。

 「ミーハ」

 「まあ良いけど早くない?暇だから縛った後も相手して」

 「ああ、それ位は構わないよ」

 ユッミルはミーハと風呂に入る。ミーハもやはり太り始めていてユッミルは大変そうな未来に嘆息しつつミーハと触れ合いながら入浴していく。入浴を終えるとミーハをいつも通り張り付ける。

 「ユッミル、もう分かったよね?ネメッカの次は私よ」

 「まあここにはたくさんの人がいるし心配はしていないよ」

 「でも水の子だからね。けど生まれながらに水に所属できるから私みたいにはならないよ」

 「でも光や他になるかもしれないよ」

 「そうね。その場合は確実に次を求められるから今もその時の為に私で遊んでよ」

 「それは良いけど水の子が生まれたら水に帰るの?」

 「ううん、二人は欲しそう。それに私も水じゃない子は一人位欲しいし」

 「水じゃない子は他の男で生まないの?」

 「水は気軽に付き合えない。全ての水術師の掌握がラーハ様の手法だから。それにユッミルに当てられた私は幸運だよ」

 「メシャーナちゃん、良いの?」

 「私はユッミルと寝たら襲うかもしれないししばらくやめた方が良いの」

 しばらくするとユッミルはメシャーナからシャーユを奪って自分の寝床に取り込む。シウがすかさず隣に入り込む。

 「ユッミル、私はシャーユから目を離したくない。近くで寝て良い?」

 「僕と寝るのが嫌ならシャーユは君に任せるけど」

 「嫌がってるのはユッミルでしょ」

 「そんな事は無い」

 「じゃあ私がシウみたいに服を脱いで横で寝ても困らないのね?」

 「側室でもないのに意味が無いとは思うけど困りはしないよ」

 「いつもみたいに抱けるの?」

 「抱いても何もしなけどね」

 「じゃあ脱ぐからシャーユと一緒に抱いて離さないでね」

 「朝までなら良いよ」

 ユッミルは服を掴むシャーユを静かに離して寝床を出ると保存食を少しだけ口にしてキッシャノと出かける。

 「少し早すぎます」

 「そうか。であれば森で少し狩ってからにしようかな」

 ユッミルはゆったり獣を数体狩るとゆっくり草原に向けて歩き出す。キッシャノは急いでユッミルの家に獣からの素材を置くとシウに任せて月の塔に向かう。しばらくするとテーファがやってくる。

 「ユッミル君、そろそろ準備はできたそうよ」

 「そうか、テーファは安全な場所に行っても良いけど」

 「うん、ユッミル君の後ろってかなり安全だよね」

 「良いよ。けど光は人を守るのは得意じゃないから気は抜かないでね」

 二人は森を抜けて草原に出る。ユッミルが草原に入って魔族の様子を調べ始めるとテーファはユッミルの背中に体を預ける。

 「テーファさん、それだと動けない」

 「ユッミル君、私を見殺しにする気?」

 「テーファさん、走れないんですか?」

 「速くは無い」

 「そうですね。でしたら先に下がっていて下さい」

 「えっと、危なくない?」

 「危なければ急いでそちらに向かいます。指示もしますから」

 「分かりました」

 「分かってるとは思いますが徐々に東に向かいますからテーファさんもお願いします」

 「けど追いついたら後は抱きかかえて運んでね。それが一番安全だから」

 「戦いにくいのですが構いません」

 「しっかり抱きしめて後ろは私が見るからね。ユッミル君も落ちそうになったら私とくっついて離れなくなりそうな位強く抱いていいから」

 「抱かずに済むように頑張ります」

 「抱かなくても私が抱きつくかも」

 「まあ危険で無ければ構いません」

 テーファは少し離れた所へゆっくり歩いていく。雷雲で奇襲を掛けると雷射で攻撃しながら後ろに下がる。姿も消して一気に下がる。魔族軍は訳も分からず徐々に前に出始める。ユッミルはもう一か所で同じ様に奇襲する。同じ頃、シェンハも攻撃を開始しつつ魔族を止める。魔族は西方で攻撃を受けた為、中央や左翼が動こうとするが左翼はリッネのせいで動きが鈍る。左翼寄りの中央が動きを始めてユッミルを匂いで手探りで探しながら囲おうとする。ただ、多数の魔族に光点を浴びせて視界を減じる。魔族は徐々に南下させられ、陣形は広がっていく。ユッミルはテーファを連れながら魔族の間を抜け魔族領に近づく。

 「ユッミル君、私もいるの分かってるよね?」

 「はい、テーファさんの魔力が切れそうになったら全力で草原に戻ります」

 「私も連れてだよね?」

 「もちろんです。テーファさんが増えても隠す手間は大して変わりません」

 ユッミルは混乱して前に出過ぎた魔族軍中央の左翼寄りの後方の魔族領内部にテーファと共に立つ。ユッミルはまず単独で雷装剣で切り掛かり数十の魔族を狩るとすぐさまテーファと合流して再び下がっていく。魔族軍はかなりの数で追ってくるのでユッミルは雷装剣で切っていく。テーファは前線では無く前線の少し後方の速度を落とすように月の術を掛ける。下級魔族は集中攻撃ができない内にユッミルは遠ざかる。しばらくすると遂に5体の中級魔族が術を撃ってくる。ユッミルは姿を消して防御に徹しつつユッミルが視覚的に見えないテーファに抱きつかれながら引いていく。ただ、下級魔族に退路に回り込まれたのでテーファの月の術では手が回らなくなりつつあった。

 「テーファさん、もう良いですよ。防御しながら一度あちらに」

 ユッミルは少し魔族の攻撃の緩みを感じて視野を広げるとリッネが中級魔族を弱らせている。ユッミルは向きを変え、テーファとリッネの方に向かう。

 「リッネ様、テーファをお願いします。後は援護も継続して願います。」

 「分かった。では中級魔族の動きを鈍らせる。」

 ユッミルは下級魔族を雷射や雷装剣で仕留めつつ中級魔族に向かう。中級魔族は徐々に低射程高威力の術に切り替えてくる。ユッミルは雷撃を多用して位置を隠しつつ徐々に近づく。雷撃はあくまで遠い所を起点に中距離攻撃する術であり、下以外にも撃てて攻撃位置も偽装できる。魔族は結局、集中攻撃に失敗し、一体一体仕留められていく。魔族領に少し踏み入ったユッミルは視野を広げる。中級魔族はそれなりの数居るがこれまでの術から推測されるユッミルを射程圏に捉える魔族は8体程だ。ユッミルの方が攻撃圏は広いのでユッミルの射程圏には十数体の中級魔族がいる。視野に入った中級魔族は数えきれないし上級以上の魔族もいる。そして、一体の上級魔族らしきのがユッミルの射程圏にいる。ユッミルは雷撃を打ち込む。普通に当たるが魔族は普通に立っている。ユッミルは誘き出す為に下級魔族を切り伏せつつ中級魔石を拾っていく。しかし、上級魔族は特に動かない。周りの中級魔族も動かなくなる。下級魔族が次から次へとやってくる。ユッミルは着実に下級魔石と中級魔石を拾うとゆっくり引き上げる。草原に戻るとシェンハもいる。

 「ユッミル、随分と静かな帰還ね」

 「ええ、まあテーファも無事ですし魔族の前線はかなり切り崩せましたね」

 「ええ、ユッミルを見習って魔石も最低限は拾いましたよ」

 「珍しい」

 「そうね、氷の術師は怠けているし多少は仕事をさせた方が良いと思ってね」

 「ユッミルは中級魔族を五体仕留めたんだね」

 「ええ、あなたのお蔭ですが」

 「まあそれはそうだが私だけでは無理だよ。二人の成果だね」

 「でしたら」

 「待って。でも危険を冒したのは君だから私は一つだけ受け取っておく」

 「まああなたの言い分には怖くて逆らえないのでそうします」

 ユッミルは中級魔石一個と下級魔石五個をリッネに渡す。

 「シェンハ様、魔石市場が混乱しますから短時間に大量に売ろうとしないで下さいね」

 「はいはい、分かってるわよ。って私はまだ帰らないわよ。それにあなたもエッヒネの援護に行くわよ」

 四人は草原を南下して街に戻りながら魔族の残党を狩っていく。

 草原の中央ではエッヒネが炎術を旺盛に乱射している。三人はエッヒネの術を時折防御しながら近づく。

 「ユッミル様」

 そう言うとエッヒネはへたり込む。周辺の魔族は三人がさっさと片付け、ユッミルが駆け寄る。シェンハやリッネはさっさと周辺の魔族を掃討していく。

 「エッヒネ様?」

 「今回は多かったので少し疲れました」

 ユッミルは手を貸す。エッヒネはユッミルに寄り掛かる。ユッミルは周辺の魔族の雷射への攻撃をしながらエッヒネを街に連れていく。

 「もう大丈夫でしょう。お休み下さい」

 「そうですよね。魔族討伐が優先ですよね。私はもう術が使えませんから魔族に奇襲されれば死にますけどユッミル様には無関係の人ですから仕方ないですよね。お腹も痛くなってきましたけど我慢します」

 「分かりました。塔までお送りします。急ぎますよ」

 「塔の部屋まで送って下さい。そうしないと大きな声でお願いしますよ」

 「分かりました。」

 ユッミルは主宰部屋までエッヒネを送り届ける。

 「エッヒネ様、ご無事で元気で良かったです。では戦線に戻ります」

 「間に合わないでしょうね」

 「後片付けがあります」

 「それならここでゆっくりしても間に合いますよ」

 「えっと」

 「ユッミル、別に私としてはネメッカから私に相手を変えたり、子供が誰の子かを言っても良いけど君はしたくないのよね?」

 「あなたも困るでしょう」

 「そうね。ユッミル様が私を側室か恋人かにしない限りね」

 「それは火が困るでしょう」

 「そうかしら?そろそろ私も他に主宰を譲って良い時期よ」

 「そろそろであってすぐではありません」

 「そろそろという認識はあるのね」

 「はい。ですが長子の相手だからと言ってそこを選ぶ必要は無いと思います」

 「選ぶのは私よ」

 「そうですね。そろそろ戻ります」

 ユッミルが草原に戻ると魔族は片付いており、土術師が散乱した下級魔石を拾っていく。翌日の術師会議ではエッヒネが148、リッネが215、ユッミルが179、シェンハが289という破格の戦果が発覚する。その他は40程度に過ぎなかった。もっともユッミルは光の団に150以上の魔石を持ち込み、シェンハも60程、リッネも40程それぞれの塔に持ち帰った。翌日の会議では魔族の襲撃という扱いとなり、リッネは自ら先制攻撃案を取り下げる事を宣言する。ただ、事情を知るユッミルとリッネ以外でもラーハはリッネが諦めたとは考えなかった。

 会議後、ユッミルはネメッカと塔に戻る。

 「ユッミル様。あなたのお蔭で光の地位が高まり、私は安心できます。あなたがいないと生きていけません」

 「急にどうしたんですか?」

 「これからもあなたの命には忠実に従いますのでどうか見捨てないで下さい」

 「えっと、そんな事はしませんよ」

 「ユッミル様、お守りいただく代わりに好きな事をお申し付けください。できる限り、守りますので」

 「何故、また脱ぐ…じゃなくて脱がないで下さい」

 「私等ユッミル様に比べれば下等な獣です。獣に服は不要です。獣に役立てる事は少ないですがご命令ください」

 「なら服を着ろ」

 「着方が分かりません」

 「脱げたよね?」

 「はい、脱げますよ」

 「なら誰が着せた?」

 「分かりません」

 「いつも通りのネメッカ様にお戻り頂きたいのですが」

 「えっと獣の仕事は襲われる事なんだからと言って急所を見せながら待つ様に要求しないんですか?」

 「ネメッカ様、前にも言いましたが第二子はあなたが先行して欲しいのでいずれ嫌でも触れ合ってもらいますから今位は逃げた方が良いですよ」

 「ユッミルはやはり未だに私を疑ってるんですね。まあ良いです。今は服を着ます。お願いされてももう脱ぎませんよ」

 「それは残念です」

 「ユッミル、本当に脱ぎませんよ」

 「永久にですか?」

 「いえ、今日はです」

 「触るのも駄目ですか?」

 「それは構いませんけどなら今触る方が良いとは思わないんですか?」

 「いえ、触るかもしれないというだけですので」

 「ユッミルが男か心配ですね」

 「あの、側室様からも複数子供が生まれる事になりますけど」

 「つまり、私が駄目なのね」

 「あの、昨日は魔族を狩ったので疲れました」

 「ユッミルはそうやって側室の存在をちらつかせて私に襲わせるのね」

 「私もネメッカ様に好かれているか不安なので軽くお願いします」

 ネメッカはゆったりユッミルを抱き寄せる。

 ユッミルはネメッカと昼食を食べると帰宅する。家にはメシャーナとシャーユ以外にはオーネとフーニャしかいない。

 「メシャ、シャーユの面倒はこっちで見ようよ」

 「そうなの?良いよ」

 シャーユは両親に器用に交互に甘える。オーネが珍しく近づいてくる。

 「シャーユちゃん、元気?」

 「オーネ、抱いてみる?」

 「メシャーナさん、良いの?」

 「うん」

 オーネはシャーユを抱く。不思議そうな顔をしている。辺りを見回してユッミルを見つけると手を伸ばすのでユッミルが引き取る。オーネはそのまま座って三人を見ている。ユッミルはオーネと少しながら話をしていく。しばらくするとシウが帰宅する。

 「ユッミル、許さないわ」

 「何をですか?」

 「慌てないのね。エッヒネと仲が良い事よ」

 「ですからそれは火の問題でしょう」

 「そうね、ユッミルが私の体を毎晩抱き入れても火の問題ですしやり放題ですね」

 「そこまでではないです」

 「ではお詫びに今日一緒に寝るのも駄目かしら?」

 「まあシウさんも大人しくなってますし良いですよ」

 「で、エッヒネと私はどちらが上なの?」

 「そもそもエッヒネ様は気軽に会えない相手ですから」

 「無理ではないと思うしそういう事じゃないけど答えない気ね」

 ユッミルはシウに寄り掛かっていつの間にか眠る。ユッミルが目を覚ますと手は何か柔らかいものを掴んでいる。

 「ちょっと」

 ユッミルはゆっくりシウの服の中から手を出す。

 「大人しくないですね」

 「誘惑するなって?」

 「寝てる間に仕込まないで下さい」

 「これはユッミルが寝てないとできないし。起きてる時にしないでしょ?」

 「上手く誘惑すればやりますよ」

 「まあ良いわ。夕食ね」

 「この頃、ミーハとソヨッハの留守が増えたわね」

 「そうだな、小さめの私が貴重になってるからそろそろ来ても良いのだぞ」

 「ですから流れ次第ですよ」

 「では、私今日はなんだか寂しい。誰か一緒に寝てくれないかな?」

 「フーニャさん、邪険にはしませんから急くのはやめて下さい」

 「贅沢は言わないからせめて君がシウにしてもらった事を私にしてやる位の親切は欲しい」

 「本当に寂しそうにしていれば添い寝位は構いませんがあなたはいつも楽しそうですからね」

 「まあ良い。どうせ私がどんな姿で居ようがどう口説こうが上手く行かない」

 フーニャは服を緩めたが脱ぐ訳では無いらしい。

 「まあそれ位なら構いません」

 夕食中はシウが密着していく。夕食後はメシャーナと話してそのまま入浴する。フーニャは読書をしている。ユッミルはオーネと少し話す。近くにはフーニャがいて服の着方が緩く胸元だけでなく足元も相当にはだけている。ユッミルが少し体を傾けると歪曲視野を使わずとも奥まで見えている。

 「ん?」

 ユッミルは少し引くように立ち去ろうとする。

 「ユッミル君、目を瞑るから私の頬に口づけをしてみてくれないか?感想を聞かせてくれ」

 「いきなり何ですか?」

 「そのまま襲ってくれても構わない、その気になるか感想を聞かせてくれ」

 ユッミルは言う事を聞いてフーニャの頬に口を当てる。

 「特に何も無いですよ」

 「ユッミル君、確認したいから服を脱いでくれるか?」

 「降参です、今ならその気になっています。黙って脱がされて下さいね」

 「ああ」

 「メシャちゃん良いの、あれ?」

 「私は側室じゃないし。それに男が大人の女を女と見るのは仕方ないし私は子供だから相手にされないけど」

 「私も構わないわ、私は側室だし。それにしてもユッミルさんは意外ね」

 シウは服を着替える。

 「ユッミル、約束通り一緒に寝ましょう」

 ユッミルは程なくシウの体に吸い込まれていく。ユッミルは目覚めると薄着のシウやフーニャをよそにシャーユを抱え込んでいる。シウはかなり楽しそうだ。朝食中もユッミルはシャーユの間近で世話をしている。しばらくするとソヨッハが帰宅する。

 「ソヨッハ、お帰り。分かると思うけどきつけしてくれ。このままだと君まで襲いそうだよ」

 「えっと、そうですか?けどユッミルさんは私を襲わない気がします。でも間違ってくれてもいいかもしれません」

 「いや、その」

 「そうですね。私は今から服を脱いで朝風呂に入りますけどそれだけです」

 「ならその前に回復を」

 「ちょっと疲れてますので待って下さい」

 ソヨッハはユッミルの前で服を脱いでいく。シウはため息をつく。

 「ソヨッハ、嫌なら手か足で押してくれよ」

 しばらくしてソヨッハはユッミルを回復する。

 「シウさん、あなたはそんな事をしなくても魅力的なので過剰な行為は控えて下さい」

 「ユッミルが逃げ方を覚えたからそれを塞ぎたくなっただけよ」

 「ネメッカ様に逃げたらどうやっても逃げきれますから無駄です」

 「けどネメッカも暇ではないしね」

 「まあフーニャさんは良いですよ。今回は僕が悪かったんです」

 「私としては今回のは収穫。やはり君は興味深い」

 「そうですか、私としては失態でした」

 「ユッミルさん、シーリュノ様が話があるそうなので木の塔に来てもらえますか?」

 「今日はせっかくソヨッハが来たのでミーハはいないが森でディユ君を鍛えようと思っているのだが?」

 「分かりました。明日で構いません」

 「あの、戦力不足なのでシウさん、お願いできますか?オーネさん、シャーユをお願いします」

 「分かりました」

 メシャーナにフーニャ、シウとソヨッハはユッミルと集会所に向かう。ディユと合流し、森に向かう。ユッミルはメシャーナと手を繋いで奥へ向かう。

 「前衛がディユ君一人で貧弱だな。僕が手を出して倒しているがこれだと訓練にならない。メシャ、行ってくれるか?」

 「うん、その代わり私が失敗したら罰としてユッミルに私の体を大人の女として使ってもらうからね。サポートお願いね」

 メシャーナは土系術で獣を攻撃する。獣が向かってくるとメシャーナは少し押されながらも獣の動きを受け止め、近接系の強力な土系術で獣を仕留める。ディユも剣で切り掛かりつつも氷系の簡易術で敵の動きを緩めながら仕留めていく。

 「ユッミル、必死だったね。そんなに私の体を使うのが嫌だったんだ。でも正解だったね」

 「えっと、メシャーナの罰でしょ?」

 「何言ってるの?ユッミルが一番嫌がってる事だしユッミルの罰だよ」

 「確かに困るけどそれに文句でもあるのか?」

 「無いよ。ユッミルの弱点な訳だし使えばいいからね」

 「そうだね。困った子供の女の子だね」

 翌日も同じ人員にキッシャノとミーハを加えてまた訓練する。ただ、ユッミルの木の塔への来訪を考慮し、早めに切り上げる。ディユと別れて昼食に家に戻ろうとするとフェノがやってくる。

 「木の塔にご用向きとの事で私も同伴します」

 「イーサさんに言われたのか?」

 「そうですね」

 「そんなに大事なのか?」

 「それは私に分かるはずもないでしょう」

 「ソヨッハに聞くしかないが」

 「私も全ては知りませんし誤解を招かぬよう半端な話はせずに連れてくる様に言われました」

 「まあシーリュノ様ですから下手な心配は無用だとは思いますが」

 ユッミルはフェノやソヨッハにシウ達と昼食を食べる。ミーハは水の塔に戻る。

 「ミーハ、やっぱりここでの生活が嫌なのかな?」

 「どうでしょうね。けどあの女、水の主導は出産を水の塔でさせたがっているらしいわよ。何でも真っ先に子供の属性を把握したい様ね」

 「まあミーハがいないのは楽でいいんだけどね。やはり縛るのは心苦しいし」

 「そうなの?私も縛ってくれて良いわよ。その代わり、最低限私で遊んでくれないと機嫌を損ねるけどね」

 「やめておきます。シウさんを本当にやり切って屈辱的な醜態にしたら後で殺されるでしょうから」

 「ユッミル、今夜縛りなさい」

 「それは殺すという事ですか?」

 「そう来ますか。ユッミル、私からしますね」

 「あの、そろそろ塔の方へ」

 「そうでしたね」

 「まあ良いです。今夜、覚えておきなさい」

 ユッミルはフェノとソヨッハと出かける。

 「ユッミル様、ようこそ」

 「はい、シーリュノ様。お元気そうで何よりです。今日はどういった用事なのですか?」

 「フェノ様もありがとうございます。本日はユッミル様にご提案がございましてご招待しました。まずは応接室に願います」

 「そうですね。急いてしまいました」

 応接室に入るとそこにはユッホとパータナがいる。ユッホは早速寄って来てユッミルの手を引く。

 「あの、こういうのは奥手に木の団が並ぶものだと思うのだが?」

 「フェノさん、お忘れですか?私達はユッミル様の側室でもあります」

 「シーリュノ様、さらっとあなた自身も含めないで下さい」

 「すいません、この様なご老体で若いあなたの側室ですら横暴ですよね」

 「主宰同士の婚約は安直には許されないでしょう。あの時の方便ですらかなりの波紋でしたよ。気に揉みたくないのでやめて下さい」

 「離婚したければ破棄して下さい」

 「現状の婚姻を認める事になりますのでできません」

 「まあ良いです」

 シーリュノはソヨッハをユッミルの膝の上に乗せユッミルの隣を陣取る。

 「主宰様、これはどういう事ですか?」

 シーリュノがユッミルを抱き寄せるとユッミルはシーリュノに寄り掛かる。

 「ユッミルさん、これからあなたの木の使者を決めるから好きな子を選んでね」

 「ユッホちゃんが良い」

 「えっと、あれ?まさか、シーリュノ様?」

 「うん、でもソヨッハも好きだよ」

 「シーリュノ様、連れてきました」

 「ユッミルさん、一人目の候補ですよ」

 ユッミルの目の前の席にはパータナとクッミネが座っている。

 「ユッミル様、お久しぶりです」

 「ああ、クッミネか。この子は駄目だよ。自分のペースで頑張ってる。森に無理に連れ出すのは可哀想。やはりユッホだね」

 「そうですか。所で言い忘れていましたが今回はソヨッハの交代要員を探しているいますのでよろしくお願いします」

 「ソヨッハ、いつもの」

 「はい」

 「ソヨッハ」

 「ですが流石にこのやり方は駄目ですよ、シーリュノ様」

 「そうです。このままではユッホ様ばかりかシーリュノ様を襲うと言う大罪を犯しかねない所でした」

 「私がかけた術で罪には問われませんよ」

 「もう良いです、話の続きを」

 「そうですね、クッミネに可能性が無いのは分かっていました。パータナ、次の子を。

「ミーセです」

 「えっと、初対面なので色々聞くべきですよね?」

 「時間に特に制約はありません。時間を引き延ばしてユッホと寝る口実を作ってもらっても構わない位です」

 「そう言われるとできませんよ」

 「夕食はいずれにせよ食べてもらえるほどには興味を持ってくれないとこちらも困ります」

 「ユッミル様、寝ましょう。寝たいです。私を選ばなくても私からお願いします」

 「そうしたいのですがネメッカ様の事もあります」

 「ユッミル様、まずはこの子を」

 「そうでしたね。まずはどの様な術を使えるのですか?」

 「ごめんなさい。強化系と回復系しか使えませんし特に効果が強い訳でもありません」

 「ユッミルさん、今回は主に側室兼使者を選んで頂く事を考えております」

 「そういう事ですか。」

 「ええ、流石に子供を水に先を越され、月とも強い関係を結んでいますから木も待ってばかりはいられません。ネメッカ様は信用していますがそのネメッカ様やイーサさんこそがあなたを中心に持っていこうとしている以上依存はできません」

 「それはそうですが私を中心にしても私は光に対して大した要望はありませんからネメッカ様やイーサが主導しますよ」

 「そうですか、ですが月や水に唆される危険性は?」

 「分かりました。この話は素直に受けますよ」

 「ミーセさん、大丈夫ですか?」

 「はい、話を続けましょう」

 「そうですか、ミーセさんはどうして木の団に入ったのですか?」

 ユッミルは全員に似た様な質問をして答えを聞いていく。

 「ユッミルさん、無理に公平にしようとしなくていいんですよ?」

 「全員初対面なのですからそうなりますよ」

 「私には聞かないんですか?」

 「今は聞きません」

 「今度聞いてくれたら答えますよ」

 5人との顔合わせを終える。

 「それでシーリュノ様、あの中から何人選べば良いんですか?」

 「いえ、一人でも構いませんが二人でも良いですよ」

 「術師としてソヨッハより優秀な子がいないのですが本当にそういう枠を使うのですか?」

 「氷の子は優秀ではないと聞きますし水に関して言えばそういう子はいませんし火も近い子がいると聞きますよ」

 「それはそうですが」

 「別に無理に何かをする必要はありません。ソヨッハに聞く限り、氷の子とは何も無い様ですし」

 「分かりました。ですがさっきの一回では決められません」

 「全員もう一度ですか?」

 「いえ、メーニュさんからお願いします」

 ユッミルは三人の女子と今度は全員全く違う問答をする。

 「えっと、もし木の団をやめたら何をするんですか?」

 「はい、掃除とかの仕事になるでしょうね。無性の方はそこまで仕事がある訳では無いので」

 「木の術師なら植物を栽培するとかは無いんですか?」

 「我々術師が成長を急がせても栄養は蓄積しないので美味しくないんです」

 「私でも半分時間短縮が限界ね。急ぐと栄養が偏る。ただ、偏った植物は薬としては有効だから。けど薬の需要は多くは無い。だから値崩れしない様に団で管理している。だからラーハの事は責められない。もちろん、吊り上げはしないけど」

 「そんな感じで無性ではそこまで稼げません」

 「まあ隠れ木術師が癒しの揉み解しの店や喫茶店を非合法すれすれでやってるとは聞きますけどね。光の場合だと探偵とかがありますね。」

 「そうですか、料理や掃除はできますか?まあ料理はそれなりに間に合ってるんですけど」

 「植物の世話はできますし掃除も可能ですが得意ではないですね」

 「そうですか」

 しばらく話すと最後の子が応接室に入ってくる。

 「何度もごめんね」

 「いえ、大丈夫ですよ」

 「さっきは何か自己紹介みたいな事を聞いたけど今回はきちんと仕事の話をするね」

 「はい」

 「えっと、家の手伝いで得意な事はありますか?」

 「はい」

 「えっと、何が得意ですか?」

「料理はできます。掃除も良くします」

 「植物の世話というのは今は無いんだけど家の周りにあった方が良い植物はある?」

 「私はあまり植物の世話はしないのですが香りの良い植物もありますし室内に置くと空気を綺麗にしてくれる植物もありますよ」

 「そうですか、家に置いてみるのも良いかもしれませんね」

 「それでしたら私が季節毎に寒さや湿気を防ぐ植物を植えればいい」

 「あの、その様な大した事は不要です。そもそもレヒーハさんにお願いしている訳ですから」

 「ユッミルさん?」

 「そうですね。本当はユッホさんにお願いしたい事が多いですけど木の団の力を損なう訳にはいかないので今回の4人の中ではレヒーハさんが良かったと思っています」

 「分かりました。ユッミルさん、これまでありがとうございました。もちろん、これからも交流はあるでしょうけど最優先は次の方にお譲りします」

 「まあ僕としては術師としてはソヨッハさんの方が向いているので惜しい面も多いのですけど私が森に引っ張り出してしまうばかりに使者としてはあまり上手く行きませんでしたからやむを得ません」

 「それなんですけど使者ではないので同居はしませんが森へのユッミルさんの冒険を助けつつ、鍛えて欲しい方がいるのですが」

 「それは構わないですけど」

 「入って下さい」

 「ピュッチェです。よろしくお願いします。ツーシュン様より現下において光系で最も優秀な術師というだけでなく全体でも最も優秀な術師の一人と聞いております。色々学ばせて頂きたいと思います。もうすぐ寒季が盛って来ますので一度中断しますがそれが明けた後も是非狩りにご同行させて下さい」

 「えっと、ソヨッハさんより強いのですか?」

 「強化能力はソヨッハに劣りますが固い植物の生成を得意とする木の中でも珍しい近接戦が得意な術師です」

 「木の団はユッホさんの訓練で剣が使えますよね?」

 「いえ、彼女は攻防も術で処理できます。剣と違って面防御ができます。もちろん、植物ですから火には弱いですが使い方次第では強力です。しかし、術による攻撃が得意な術師の少ない木の団では鍛えてやれない。森だと後方からの牽制攻撃の支援ができない。少し困っていたのですよ」

 「そうですか、こちらも交戦位置を絞る要員が不足していたので助かります。まあ魔族相手ならシェンハ様に頼みますが森で幹部級を鍛えるにはシェンハ様では駄目ですから」

 「噂で聞きましたがあまり無理は駄目ですよ」

 「木の団員を了承も無く危険な目には合わせませんよ」

 「そういう事ではありません。魔族領にあまり介入を繰り返す事は望ましいとは思いません」

 「あの、お願いですから私は危険な場所に連れて行かないで下さい」

 レヒーハはユッミルの手を取りながら近づく。動きやすい服が乱れて胸元が少しはだけている。

 「嫌ならしませんよ」

 「では話が纏まった様なので夕食ですね。もちろん、これから交流する二人を両脇にしてもらいます。フェノさんには申し訳無いですけど」

 「いえ、問題はありません。早速夕食への招待を有難くお受けします」

 

 

 

 

 

 

 

 3節 木の歓待


 ユッミルが席に着くと左手に座るピュッチェは適正な距離だが右手に座るレヒーハは少々距離が近い。しかも体をユッミルの方に向けて足は組みそうな勢いだ。ユッホからも近い事は明瞭に見えるので恨めしそうにユッミルには映る。ユッミルは右の方にある皿に手を伸ばす度にレヒーハの体と接触していく。レヒーハは無反応だったり、自分からも近づいたり、ユッミルに寄る様に促したりと反応は様々だ。

 「ピュッチェさんは実戦経験はどの程度ですか?」

 「はい。森での狩りは良くするんですが奥にはあまり行けません」

 「奥へ行きたいのですか?」

 「はい。魔族領の近くではないですけど」

 「大丈夫です。実力者でない限り、そこまではいきません。ネメッカ様は大事な妻なので連れて行きませんがあなたも大事な木の団員ですから危険な目には合わせない様に配慮しますよ」

 「それはありがたいですがあまり安全な場所ばかりでも困ります」

 「分かっています。実力を見てからですね」

 ユッミルの腕に肌が当たる感触がある。よく見るとレヒーハの上半身が目の前で自分の腕に乗り掛かっている。

 「さて、お風呂にしましょうか」

 「風呂?何処に?主宰部屋のはシーリュノ様専用でしょう」

 「ああ、そう言えば光は節約で寒季の数回しか使わないんでしたね」

 「えっ」

 「宿舎の奥にどの塔も風呂はあります。」

 「そんなものはありませんでしたよ」

 「そうですか?それは本物ですか?」

 「まさか」

 「はい、当番制で風呂場が無いように幻術を掛けているらしいですよ」

 「ですが風呂も食事同様団員にまとめて提供した方が良いのでは?」

 「いえ、光は人数が少ないのでイーサさんはそう計算しているのでしょう」

 「そうかもしれませんが」

 「主宰部屋の風呂の使用は自由なのですから女性術師に貸せば良いでしょう」

 「何故そこで女性限定なんですか?」

 「男性術師はユッミルさんに親切にされたくはないでしょう」

 「それはそうですが」

 「まずはフェノさんや側近の方に提供してあげたらどうですか?」

 「いえいえ、光が節制で風呂を控えているのに私の部屋だけ動かせません」

 「ですがネメッカ様は使っていますよ」

 「ネメッカ様はあそこに住んでいる以上やむを得ませんが私は家にもあります」

 「ですから泊まっている女性に入らせてあげれば問題無いのです」

 「シーリュノ様、良いんですか?その言い分をネメッカ様に告げ口しますよ」

 「困りますね。けどイーサさんは何と言うでしょうね?特に今日の事を報告した上で告げ口すれば効果は大きいでしょうね」

 「なら帰ればいいだけです」

 「ユッホと入りたくは無いんですか?」

 「シーリュノ様は策士ですね。分かりましたよ、提案されただけですからね。私がしなければいい」

 「ユッミル様、私が守ります」

 「フェノ、諦めろ。だが策はある」

 ユッミルはフェノ共々浴場に入らされる。

 「フェノ、近づくな。側近の子を産んだとか望ましくは無いから」

 「では後ろを守ります」

 多数の足音が聞こえる。ユッミルは掛け湯を済ませる。浴場は若干細長い。出入り口を挟んで椅子と石鹸が片側に2セットでもう片側に5セットある。5セットの奥行きが長い方の奥でユッミルは石鹸を触っている。

 「ユッミルさん、一緒に洗いましょうか?」

 「ユッミルさん、後で入って下さいね」

 「ユッミルさん、私が洗ってあげましょうか?」

 「シーリュノ様、あなたはいらないでしょう」

 「年寄りは邪魔という事?」

 「ユッホさんは僕の希望ですしレヒーハさんとの交流は分かりますがあなたはいりません」

 「過剰防衛ね。布も置いてるし警戒されてるわね」

 「それはそうですよ。木の術師は体の一部を勝手に成長させられる。ユッホさんなら辛うじて守れますししないでしょうけどあなたは信用なりません」

 「ユッミルさん、木の主宰が信用できないんですか?」

 「ええ、あなたは時折よく分かりません」

 「それは残念ね。けどユッミルさん、ここに呼んでるのは他にもいますよ。入っていいわよ」

 「はっ。足音に比べて来た数が少ないと思えば」

 「ユッミルさん、今日はよろしくね」

 「クッミネさん、断らないと駄目ですよ」

 「大丈夫です」

 「そうです、選ばれたのは私ですから隣は私が行きます」

 「レヒーハちゃん?」

 「あの、私はユッミルさんの体で遊んだりしませんから。とりあえず背中を洗わせて下さい」

 「ええ」

 ユッミルは背中以外を石鹸で洗っていく。レヒーハは無造作に体をユッミルに預けたり、近づけたりしていく。ユッミルは急いで体を洗う。

 「じゃあ私もお願いします。背中を中心に適当に。今後はユッミルさん次第ですけど一度はお願いします」

 ユッミルは反応が気になって色々な場所に手を出すが特に反応は無い。

 「ユッホさん」

 ユッミルはユッホに身を寄せていく。反対側はフェノが陣取る。

 「ユッホ、あなたはユッミルさんともう十分仲良いわ。今日は私に譲りなさい」

 「シーリュノ様、どういうつもりですか?」

 「いえ、どうもユッミル様は私に警戒しているようですので信頼関係を築きたいのですよ」

 「えっと、ネメッカ様に願い出れば十分でしょう」

 「ですが光でイーサさんの意向を覆せるのはあなただけですよ」

 「そんな事はありません。そもそもイーサさんとは特に方針が違う事は無いです」

 「どうでしょうね?あなたの入団後に光は明らかに積極的になりましたよ」

 「それはそうですが。それでシーリュノ様はどうするんですか?」

 シーリュノはユッミルの肩を抱き寄せる。

 「ユッミルさん、もう少し私を頼ってくれて良いんですよ。月と光の枠組みを月と光と木の枠組みに変えるのは有効策だとは思いませんか?」

 「それはそうですが。そうですね、考えておきます」

 シーリュノが引き下がるとクッミネとレヒーハ以外の三人が寄ってくる。

 「ユッミルさん、私達の何処が駄目なんですか?」

 「駄目とは言っていません」

 「けど二人選んでも良いのに一人しか選ばなかったって事は三人共いらないって事ですよね?」

 「いえ、知っていますか?今、私の家には側室が四人くらい住んでいます。二人は常にいますし多いと六人にもなります。人数が増えるとお相手できなくなるので各団一人ずつ位が良いかなと」

 「じゃあ今は良いって事ですよね?」

 「何が良いと思ってるんですか?」

 「色々ですよね?シーリュノ様?」

 「そうね。私も色々大丈夫なのに私は断られたけどその子達なら文句無いわよね?」

 「文句等言っていません。こんな事は不要です」

 「仲良くしますよ」

 「お守りします」

 「分かったが待て」

 「ユッミル様、無駄ですよ」

 「そうね、メーニュさん。ユッミル様、構いませんよ」

 「ユッホさん?」

 「さっさと終わらせて下さい。私との時間が無くなってしまいますので」

 「イーサ、何か最近ユッミルと会ってない気がするのだけど?」

 「というよりお互いに何かとシャーユ様に構っているだけかと」

 「私は今や言う程構ってないわよ。向こうに行ってもいないし」

 「そうですね。ユッミル様は少し来ないですね。ですがそれはリッネ様の事もありますし」

 「それに誘惑しても邪険にされますし」

 「そうですね。今は側室の方々に興味がいってますからね。飽きた頃合いを見計らうのが得策かと」

 「少し考えます」

 「シーリュノ様は主宰という立ち位置があって良かったですね。ユッホさん、終わりましたよ」

 「ユッミル様、申し訳ございません」

 「いえ、大丈夫ですよ」

 「私も強引な事はしないので傍に居させて下さい」

 「ええ、まあ少なくとも同居の話を取り消す事はありませんよ」

 「はい、これからよろしくお願いします」

 翌朝、朝食を食べてから家に帰る事にしたレヒーハ達を見送るソヨッハはユッミルに声を掛ける。

 「最後にこれを」

 ソヨッハは下級魔石を手渡す。

 「これは?」

 「はい、いつもの心を平穏にする術ですよ」

 「そうか、ありがとう」

 「弱いですが回復と集中力向上も加えてありますのでやはり戦闘前に使って下さいね」

 「分かったよ、ソヨッハ。またね」

 「はい」

 フェノは家の近くで別れて塔に戻る。レヒーハは少し距離を詰める。

 「行かないんですか?」

 「ああ、行くよ」

 ユッミルと二人は家に着く。

 「その子は何?」

 「ミーハ、まずは自己紹介でも……ね」

 「さきにそっちでしょ?」

 「そうだね。こちらはレヒーハさん、木の使者だよ」

 「まあ使者なら良いわ。遂にユッミルが外から女を連れ込んだかと思ったけど安心したわ。私はミーハ。水所属よ。」

 「私はシウ。火の所属。幹部ですよ」

 「私はオーネだよ。よろしくね」

 「フーニャだ。よろしく」

 少し沈黙が起きる。

 「えっとね、あの子はメシャーナ。土術師だけど団には所属していない。僕が主宰になる前からの仲間だから」

 「分かりました。皆さん、よろしくお願いします」

 「それでですが残念ながらソヨッハさんは木の団に帰りました。」

 「そっか、残念ね」

 「そうね」

 「メシャ、隣良いかな?」

 「良いも何もいつも普通に寄ってくるし私も嫌がった事は無いでしょ?それにシャーユの父親は永久にやめられないんだし」

 「メシャは後悔するだろうけど最大限メシャの望みに寄り添うよ」

 「その言葉忘れないでね」

 家では昼食を終える。ユッミルは適当にフーニャやシウと話した後、ソファーでオーネの横に無造作に座っている。ユッミルがレヒーハに目をやると家の端に向かっている。レヒーハは身をかがめて服の裾を捲り上げている。ユッミルは思わず歪曲視野を使う。

 「ユッミルさん、ここで何かが光った気がしたのだけど一緒に探してくれないかしら?」

 「シウさん、一瞬惹かれましたがわざとらしいのは駄目ですよ」

 「そうね。けど触ってくるとは思ってないし手早く仕留めれば私を出し抜けるわよ」

 「不要です。そもそもシウ様は適当に懐に入れば十分でしょう」

 「本当ね、けどこの程度?」

 「ええ、こちらとしてもシウ様を逃がしたくはないので丁重に扱いますよ」

 「まあ良いけど本当は新人優先だったりしてね」

 「挑発ですか?シウ様はご自身の魅力を過小評価しますね」

 「けど脱がさないのね。」

 「はい、これで十分ですよ」

 ユッミルとシウはしばらく触れ合っている。

 「ねえ、ユッミル。暇そうだけどソヨッハが居なくなったら森へは行かないの?」

 「まあシウとミーハがいればメシャや氷の子位は何とか。それ以上だとテーファやフェノが必要だけどね」

 「ユッミル、私って足手纏いなの?」

 「そういう訳では無いけどシウは幹部だしミーハも強い」

 「危なかったらユッミルに掴まればいい」

 「いや、メシャの護衛位は僕だけで十分だけどそれだと訓練にならない」

 「私も行きます」

 「えっ。急にどうしたの?」

 「結構休んだので余裕が出てきました。寒さにも強いんです」

 「実力は?」

 「獣と格闘は全く無理ですけど術はそれなりに使えます」

 「そうか。じゃあレヒーハが留守番か。後はリュッサを呼ぶか」

 ユッミルは主宰部屋のフェノを連れ帰り、リュッサに朝に来るように約束を取り付けてさっさと塔からとんぼ返りする。その後、夕食を食べながら作戦会議をする。

 夕食後にユッミルがフェノとメシャーナの術の用法を指導していると扉を叩く音がする。

 シウが扉を開けるとネメッカが立っている。

 「ネメッカ様、どうしたのですか?」

 「ユッミル、塔に来たのに私を無視した理由は何ですか?」

 「いえ、せっかく私に会わないで済む日をなくさない方が良いかと思って」

 「つまり、私に配慮したと?」

 「はい、そうですね」

 「ではお返しがしたいのでユッミルの希望を教えて下さい」

 「いえ、私は勝手にネメッカ様の意向を慮っただけですからネメッカ様もそれで構いません」

 「そうですね」

 ネメッカはその後、フェノ達との会話に参加し、ユッミルと風呂も共に入り、ユッミルを軽く抱きながら寝る。朝食も横で食べる。リュッサもやってくる。

 「えっと、子守と留守番の為に来たんではないんですか?」

 「誰がそんな事を言いました?」

 「そうですね。では塔に帰るんですね?」

 「いえ、森に行きますよ」

 「困ります。あなたに怪我をされるだけでも困ります」

 「私はそう簡単にやられませんよ」

 「動ければでしょう」

 「そうですがユッミルは守ってくれないんですか?」

 「限界があります」

 「別に夫婦なんですから体を十分に密着させてほぼ一体でも構わないでしょう」

 「あの、第一に何の為に行くんですか?」

 「森で役に立つとユッミルにご理解いただく為ですよ」

 「だから危なくて駄目なんですよ」

 「ですから危なくなったら私を抱きかかえればいい」

 「それだと雷装剣が使えないでしょう」

 「脇でも適当に抱えれば片手でも持てますよ」

 「分かりました」

 しばらくするとテーファもやって来て外に出るとネメッカとテーファに両腕から挟まれながら森に向かう。森の入り口でディユと合流する。ディユはネメッカに驚きつつも黙々と歩いていく。森のそこそこ奥だったがユッミルの出番は無かった。帰路も相変わらずテーファとネメッカに挟まれる。ユッミルは森から出ると二人の腰に手を回して抱き寄せる。

 「ネメッカ様、塔に帰りますか?」

 「ユッミル、甘いですよ」

 ネメッカは集会所に近い人目の多い所であえて口づけをしていく。

 「ネメッカ様、こういうわざとらしい事をすると余計な憶測を生みますよ」

 「その言葉、そっくりそのままお返しします」

 「光の新主宰がネメッカに飽きたらずたくさんの女に手を出している以外の何にも見えませんよ。実際に半分は正しいですし。これでフーニャさんが前、シウさんが後ろにでも来れば完璧ですよ」

 「ユッミル」

 「別に良いでしょう。現実なんですから」

 「そうですね。私はユッミルに特別に愛されている訳でもない一方的な女」

 「やりすぎました。言い過ぎました」

 ユッミルはテーファから手を離してネメッカを抱き寄せる。ユッミルはそのままネメッカを宥めながら背中を押して家に帰る。ユッミルの男性陣からの評判はテーファを邪険にしたとか多数の女を抱えているという事で下がったが女性陣からはネメッカを気遣っているとかテーファやシウに好かれているという事で上がった。そして、現場を目にした訳では無く又聞きした人はネメッカが主宰をいいように使っているとの疑念を持ち始めた。

 家に帰ったユッミルはテーファに寄り掛かる。

 「どうするんですか?帰るんですか?」

 「ユッミル君、私の家に来ない?」

 「いえ、そろそろ塔に泊まって下さい」

 「そうでしたね。ですけどそれがお望みなら側室を減らせばよい」

 「そうですけど誰を減らすかを決めるのはユッミルですしそういう要求は結局できません。形はどうあれ、世間が勘違いしていても現実としては私から言い寄ったのですから。それにこうなる事は分かり切っていましたし。もちろん、予想より酷いですけど」

 「ネメッカさんは別にこちらに泊まれば良いのでは?」

 「いえ、塔を留守にするとユッミルが気にします」

 「私としてはネメッカ様と毎日寝たいのですがそれだと飽きられそうですしね。ですが最近は忙しいので階段での行き来が無いここの方が楽ですね」

 「そうですね。確かにユッミルに飽きられているというのは無いとは言えません。ですけど襲ってくれたのは数える程しかありません。回数ではテーファに負けている気がします」

 「あの、ネメッカ様。回数だけですとおそらくシウ様が一番かと。シウ様の要求には逆らえません。

 「頼めば理解してくれるネメッカ様の方が好きですよ」

 「そうやってユッミルは誤魔化す」

 「それとネメッカ様と寝た後は弱点です。気分が浮つきます」

 「そのままの勢いで私の体で遊べば良いでしょう。そんな事で飽きません」

 「いえ、そうなると狩れません」

 「シウ様は良いのですか?」

 「はい、シウ様は後に残りません」

 「ではテーファは?」

 「残りますが問題は無いです。まあ今は然程でもありませんがネメッカ様だと後に引きます」

 「では今日は?」

 「分かりました。行きます」

 夕食後、テーファを送り届けてから塔に向かう。

 「少し寒いですね」

 「まあ寒季ですからね」

 「ネメッカ様はそんな格好で寒くはないんですか?」

 「まあ寒いですけどそこまでではないですね。術で防げますしね」

 「術はあまり使いたくないですけどね」

 ユッミルは寄ってきたネメッカを抱き込んで速度を上げる。

 「ユッミル、まあ良いですけどそんなに寒かったですか?」

 「外でしかも夜に何か起こしたら大変ですから」

 「ああ、ユッミル。私に襲われるのを警戒したんですね。私がユッミルを求めている事をしっかり理解していて良かったです」

 「ネメッカ様は他の男を信用していないので僕しかいないですからね」

 「それは僕に捨てられたら次は無いから言う事を聞けという事ですか?」

 「そんな風に思っていたんですか?」

 「いえ、ですけどもう少し要求してくれても良いんですよ」

 「あの、私が留守にしてもやりすぎないで下さいね」

 「イーサ、私とユッミルがやったら駄目な触れ合いって何?」

 「ユッミル様が宿舎で寝ているのを邪魔する事ですね。ユッミル様もネメッカ様単独では物足りないでしょう」

 「あの、寒季は序盤を除いて家にいるつもりですけど?ネメッカ様の都合が良ければ連れ込みますけどね。服を着込ませて手厚く保護しますから安心して下さい」

 「風呂はどうするんですか?」

 「家にはシウ様がいますから熱い風呂を用意しますよ」

 「行きたいですけど一応留守番が必要ですのでせめて今日は一緒にいて下さい」

 「良いですよ、ですけど最寒季の序盤もいますよ」

 「ユッミル様、別に宿舎に泊まって頂いても構わないんですよ」

 「イーサさん、家には使者達がいます。そういう事がお望みなのでしたら他の団を抑えて下さい」

 「木の団は構いませんよ」

 「イーサさん、月の団に警戒しているなら交流する理由がわかりません」

 「ユッミル様とリッネ様の私的交流の度合いを下げる為ですよ」

 「そんな事が無駄なのは理解しているでしょう」

 「そうですね。重要なのはユッミル様の説得です」

 「当面は大丈夫ですよ。イーサ様が留守の際に話を進めたりはしません」

 「と言う訳でイーサ、今日は主宰部屋で願います。主導部屋は夫婦の寝室です」

 「いえまあネメッカ様がユッミル様を捕まえてくれるならそれに越した事は無いんですよ」

 「大丈夫です」

 ネメッカはユッミルに抱き付きながらイーサに退室を促す。ネメッカはベッドに無造作に仰向けになる。しばらく間を置いてネメッカは体を起こしてベッドに腰掛ける。

 「ユッミル、話があるので横に来てください」

 「もちろん、私の体で遊びたいならそれを優先しますけど」

 ユッミルはネメッカの横に座る。

 「話とは?」

 「それですよ。ユッミル、私に足りないものは何ですか?」

 「強引さ。リッネ様の要求をしっかり拒んで下さい」

 「ユッミル、それは向こうがユッミル次第と言ってるから無理。それに私が言ってるのは女としての魅力の話です」

 「問題無いですよ」

 「ですがユッミルはそこまで積極的ではない」

 「そんな事はありませんよ。ネメッカ様が積極的なので私が積極的になる理由が無いという事かもしれません」

 「そうでした。私が無理を言ってしてもらった以上お願いする立場でしたね。ごめんなさい」

 「えっと、一緒に寝るばかりが夫婦関係でもないでしょう」

 「そうですがあなたは私を戦いの場から遠ざけますし側室が多く、家事は分担されていて私の出る幕は無い。買い物に関してはユッミル自体が行きたがっていない」

 「買い物はシウが仕切っていて時折ソヨッハが買ってきてくれるし僕自身もたまたま立ち寄って買う位だしそれでも食材は多すぎる」

 「という訳でユッミルを抱くしかないのです」

 「団の運営方針とかをですね」

 「それはあなたとイーサで決めてますよね?」

 「イーサはネメッカ様と話した上で私に伝えてる気がしますが?」

 「それはそうですが」

 「そうですね。これは変えれませんね。そうなると私達は体だけの関係ですね。少々厳しいですね」

 「団の運営は間接的に協力してますからそんな事は無いですけど私は体だけの関係でも構いませんよ」

 「ネメッカ様、そうなると私はお世辞を言いませんよ」

 「ユッミル、これまでのは私をおだててただけですか?まあ魅力の無い嫌な女でも我慢してもらいますが」

 「そういう意味ではないですよ。体だけという事は振る舞いについて何も気にしないという事ですよ」

 「分かりました。それは嫌ですね」

 ユッミルが少し返答を躊躇しているとネメッカはユッミルを押し倒す。

 「ユッミル、別にただ抱き付くだけなら良いですよね?」

 「寝れないんですが?」

 「今日はただ抱き付くだけですから安心して一緒に寝て下さい。ユッミルがする分には全く構いませんけどね」

 「そうですね。気が向いたらしてしまうかもしれません」

 ユッミルは少し寝たものの、目を覚ます。

 「ユッミル?」

 二人は密着していたので片方が起きるともう片方も起きてしまう。

 「やはり寒いですね。」

 「でしたらもっとくっつけばいい」

 「いえ、やはりこれは一人分の布団ですから」

 「なら今日位は強く抱きしめて下さい。今度は大きい布団を用意します。」

 ユッミルは寒かったのでネメッカをいつもより強く抱く。何かが満たされてすぐに眠りに落ちる。

 翌朝、ネメッカが少し低い位置に抱き付いていただけで抱き合ったまま目を覚ます。

 「ユッミル、ユッミルはいつ私の体を触りたくなるんですか?」

 「今も触ってますよ」

 「触りたいという気分の話です」

 「それにしても今触っている以上気分は良いですがネメッカ様が寄ってきて体を預けてくれる時はいつでも気分は良いですよ」

 「ではいつ私に女としての魅力を感じるんですか?」

 「あの、頻繁に感じてますよ。そもそもあなたに魅力が無ければ入団していませんし子供も作っていません」

 「分かっています。ですが不安です。ごめんなさい」

 ユッミルは午後から指揮所に向かう。そこにはエコがいる。

 「お久しぶりです」

 「催促されても困ります。私の体は一つです」

 「いえ、それは当面構いません」

 特に何も無いまま日暮れを迎える。しばらくしてユッミルは寒かったので体を竦める。エコが近づく。ユッミルの体が徐々に温まる。

 「えっ」

 ユッミルは振り返る。

 「これはどういう事ですか?」

 「言い忘れていましたが冬の間は同居します。私達は適度に熱を発する事もできますので寒さを凌ぐお手伝いをしますね」

 「マッラもか?」

 「はい」

 「かなり放ってしまっていたが不満は無いのか?」

 「無いとは言えませんが主宰さんはご機嫌ですね。主導様も不満は持っていません」

 「二人は?」

 「シウ様や多数の側室を抱えている事は理解しています」

 「君らの不満はどうにもできないからその言葉を信じるよ」





3節 寒季の訪れ


 指揮所からの帰り道、ユッミルは姿を隠してエコにしがみつく。

 「ユッミル、私も暖かいわよ」

 ユッミルが抱き付こうとすると熱さで反射的にのけぞる。

 「シウ様は恐ろしいですね。この家、かなり暖かい」

 「まあ悔しいけどエッヒネには負けるわよ。あの子なら抱き締めなくても温められるし狙えば出力を上げられる」

 「マッラさん、こんばんは」

 「ユッミルさん、私はちょうどいい暖かさですよ」

 ユッミルはマッラに体を寄せる。

 「そうですね。気持ちいいです」

 「何?火の術師にはそんな男の釣り方があったとは。不公平な」

 「フーニャさん、そんな事を言えば本気を出した木の術師には勝てませんよ」

 「それはそうだが。いや、打算を隠せる分火の方が強い」

 「フーニャさん、あなたは本当に変な人ですね」

 「君はそう思わないのか?」

 「だから変だと言っているのです。それより夕食が食べたいです」

 「そうか、私はもう食べ終えたから君に食べさせてやろう」

 「いりませんよ」

 「何だ?テーファやネメッカでも断るのか?」

 「テーファさんなら断りません。ネメッカ様は断る時は断ります」

 「私は?」

 「あなたはしないでしょう。したがっていない事を知っているでしょう、あなたは」

 「この家は色んな人がいますね。けど今日は新しく入った私にお相手させて頂けませんか?」

 「いや、この男は新入りの私をよく知らないという口実で遠ざけ続けたからね」

 「土と木では立場が違います。レヒーハさんは遠慮しなくて良いですよ」

 レヒーハはさっさとユッミルの横に座る。レヒーハは近めの距離感を維持したまま時折食事をユッミルの口に運ぶ。夕食と片づけを終えるとレヒーハは服を脱ぎ始める。ユッミルが風呂に目をやると確かに湧いている。

 「入らないんですか?」

 「入りますよ」

 二人は浴槽に浸かる。

 「この感じは近くていいですね」

 「まあ部屋が狭いですから」

 「いえ、ここは家としては広いですよ。家に風呂がついてるのも多くは無い」

 「ええ、徐々に術の度合いが上がってますけどね。この風呂もですよね?」

 「はい、マッラさんが温めてくれました」

 「そうですよね。私も明かりの術はよく使います」

 「私はあまり役に立てませんけどね」

 「分かった上での同居ですから気にしてはいませんよ。」

 「ですけどお約束通り庭の手入れはできますから。後、今日も早速ご一緒したいです」

 「あの、無理に急ぐ必要は無いですよ」

 「ええ、ですけど私はそういう事もあるつもりでいますからいつでもシーリュノ様やネメッカ様の側近さんが何かを考えている事は知っていますよ。木の団でソヨッハ様の代わりを募集という形をきっちりとりしましたし私も含めてその上で立候補しましたからユッミル様のお好きな時期にお願いしますね」

 しばらくしてユッミルは腰を上げる。

 「レヒーハ、一緒に寝たいです」

 「そうですね、私もです」

 「なっ。ユッミル。私はどうするのよ」

 「私がやってあげるわ」

 「ユッミルはきちんと頼んだの?」

 「そうね」

 「嘘でしょ」

 「ならラーハさんに報告して帰ります?」

 「分かったわよ」

 「ユッミル殿、今日はかなり積極的だぞ」

 「優秀な術師は駄目なのかしら?私よりマッラが好きみたいだし」

 「いえ、ユッミルさんはエコさんの方に魅力を感じている風だったけど」

 「でも確かに妙ね。如何わしい術でも使われてるんじゃ?」

 「よく分からないけどユッミルは多分、この中でミーハを一番優秀と思ってるよ。次はシウさん。私の事は優秀と思ってないから抱いてはくれる」

 「メシャちゃん、あなたの事は無駄に抱いて…」

 「そうよ。メシャの事は女扱いしていないから」

 「まあテーファ君もユッミル殿からすれば優秀に見えないかもしれない」

 「ええ、ユッミル様は密かにフーニャさんの事も優秀だと思っていると思います。ですから私は単に相手にされていないだけです。それと相手のやる気を見ていると思いますよ」

 「そうね。私には誘わないと来ない」

 「そうだけどじゃああの子は誘ってた訳?」

 「そうなるだろうね」

 「そうね。私ほどではないにしてもエコは誘うのが上手いし」

 「シウさん、そんな事はありません。早速、振られてきます」

 エコはユッミルの横から寄っていく。

 「エコさん、私は手が空いていれば誘いに乗りたいと思っていますしエコさんは暖かくて気持ちいいですから抱かせてもらいますがそれだけです。それでも良いなら遠慮なく抱きます」

 「なるほど、木から新たに派遣ですか」

 「ですが私は促していません。ユッミル様とリッネ様の接近を警戒するのは木も同じです。胸でも掴ませておけば時間を稼げる私達とは違いますから向こうの方が警戒心は強いでしょう」

 「胸を掴ませて解決するならやりますけどしないでしょう」

 「いえいえ、確実に時間は稼げます。あなたがユッミル様を薄い恰好で抱きしめながら物憂げに願い出れば一晩か二晩は手元に置いておけるでしょう」

 翌朝、ソヨッハがピュッチェを連れてやってくる。

 「どうしたんですか?」

 「今日は森に行きますよね?」

 「はい、午後から指揮所なので指揮所方面に向かいながら現地解散ですが」

 「はい、ピュッチェは強いですが最初は一応私が付き添います。そもそもユッミルさんとの狩りが禁止されている訳ではないですから」

 「そうですか。でしたら今回はメシャを家に送ってもらいたいですね」

 「分かりました」

 「その事だけど火の団は全員参加よ」

 「そうですか、エコさんが留守番してくれたら安心だったのですが」

 扉を叩く音がする。

 「リュッサさん」

 「はい。子守りは私も手伝います」

 「助かります。いつもありがとうございます」

 ソヨッハやリュッサも交えて朝食を食べる。その後、リュッサとレヒーハを留守番にしてオーネ、メシャーナ、ソヨッハ、ピュッチェ、フーニャ、ミーハ、火の三人、とユッミルの十人で家を出る。しばらくして当然の様にフェノが合流する。

 「今日は随分多いな。やはりエコさんは休んでもらった方が良かったしオーネやフーニャの出る幕は無いと思うよ」

 「出る幕が無いなら役立たずの罰とでも言いながら服の中に手を入れて遊べば良い」

 「ごめんなさい。役立たずとは言っていません」

 「私もですか?」

 「ですからオーネさんは大人しくしてて下さい。いずれ人は減りますからその時に教えますよ」

 「それはどういう意味かしら?」

 「確かに寒季が終わったら私は帰る予定だけど残って欲しいなら残るわよ?今も留守番の子がいるしね」

 「そうね。私は抜ける時もある。けどしばらくは帰ってくるから」

 「あの、私の手間の半分はネメッカ様とテーファですよ。どちらかが抜ければ自然と手は空きます。それにメシャはいずれ独り立ちしますから。メシャとの繋がりはシャーユだけにすぎませんし」

 「ユッミルがそんなに嫌なら私は出てもいい。けどシャーユがいるから全く会わないのは無理ね」

 「うん、そうだ…」

 ユッミルは気配を感じてメシャーナを負ぶって姿を隠す。十一人の前にリッネが姿を現す。

 「ユッミル様、姿を現して下さい」

 「何の用ですか?」

 「狩りに同行するだけです」

 「分かりました。そういわれると断れません」

 「ありがとうございます。キッシャノやテーファも来ますので少しお待ち下さい」

 「メシャ、あの人はこの町最強の冒険者。誰も勝てない。機嫌を損ねれば簡単に殺される。そうなったら何も考えずに逃げてね」

 「ユッミル様、酷いですね。それに不意打ちならあなたも私を殺せるでしょう」

 「まさか」

 「まあ良いです」

 「ユッミル君、おはよう」

 テーファはユッミルに抱き付く。

 「エコさん、お願いします。まだ寒いですから」

 「どうして最初からじゃないんですか?」

 「リッネ様はやはり怖いんですよ。ですがシウさんはこういう時こそ何かを狙う人ですしマッラさんや小さな子達では安心感が足りません」

 「ユッミル様、リッネ様にあなたを害す気はありません」

 「キッシャノさん、分かってはいますが強者は怖いのです」

 「でしたらエッヒネ様は怖くないんですか?」

 「はい、あの人は心にも余裕がある優しい方です。エッヒネ様に狙われたら無抵抗でやられてしまうでしょうね」

 「ユッミル様、私がいるのを知っていたんですか?まあ光の方ですから。それでも嬉しいですけどね」

 「エッヒネ様?」

 「はい」

 「えっと、今日はどうしたんですか?ユッミル様に会いに来たと言いたいのですが実際にはメシャーナちゃんの実力を見に来ました」

 「そうですか、お願いします」

 「ええ、特別なあなたの大事な友人ですから。ですけどユッミル様、私があなたを狙うなんてもう無いって分かってますよね?」

 「そんな気もしますが人の心は簡単に移ろいますから」

 「どうやれば信用されるのですかね」

 「いえいえ、リッネ様よりは遥かに信用していますよ。ですからあなたを抱く事はできます。外では無理ですしあなたの機嫌を考えなければなりませんがそれ位近づいても危害を加えてこないとは信じていますよ」

 「私はどうなの?」

 「メシャ、僕は危険なのにいつもいつも君を抱くのか?」

 「そうだね」

 「私はどうかしら?」

 「いえ、時折抱かない方が危険なので遠慮なくさせて頂いております」

 「分かった。君に警戒されないよう距離を取ろう。やはりもう何度か一緒に寝た方が良いし今度は風呂にでも入って警戒心を解いてもらおう」

 「あの、そんな事はしませんよ。ネメッカ様に説明がつかないでしょう。それと打算でそんな事をされるのは不快です」

 「ではどうすれば?」

 「ここでする話ではありません」

 集会所に着くとディユだけでなくシェンハもいる。

 「おはよう、ディユ君」

 「おはようございます、ユッミルさん」

 「ユッミル、大所帯ね。それにリッネまで」

 「ですがまあこの上なく安全ですしディユ君にも良い話でしょう」

 「まあ良いわ。今日は私も同行する。ディユの成果を見たいし」

 「ただ、私は午後から指揮所ですからそれほど長くはいれません」

 「ああ、その事ならネメッカ様に頼んだわよ」

 「うーん、夜は寒いですよね。あまり寒い思いをさせたくないのですが」

 「ならマッラ。本来はシウの予定だったけどあなたが行きなさい」

 「仕方ないですね。主宰様の命令には逆らえません」

 「羨ましいですね。シウさんに抱いてもらえる予定が無くなって残念です」

 「家だと威力はいりませんから私が抱きますよ」

 「エコさん、ありがとうございます」

 「ユッミル、あなたある意味幸せだけど別の意味では大変ね」

 「シェンハ様、今日の場合は大変なのは全員ですよ」

 「魔族討伐にでも行くのかと勘繰られてます」

 「けど仕方ないのよね。見たいし」

 「リッネ様、引いてくれませんか?」

 「ユッミル様、不公平だとは思いませんか。それとも私に要求ができる位で実は怖いと思っていないと認めるんですか?」

 「いえ、同行願います」

 「まあ私は魔族領に行っても構わないけど。エッヒネ、痛い目に会って惨めな姿を晒せば心置きなくユッミルの側室になれるわよ」

 「そんな奥まで行ったら僕はメシャーナとテーファとソヨッハにフーニャ以外を見捨てる事になります。頑張ってもそれが限界です」

 「四人守れるのか。私もキッシャノだけではなくもう二人位は守れるぞ」

 「私は五人行けるわよ」

 「シェンハ、それはどういう意味だ?」

 「ディユに魔族を狩らせる事に私は否定的ではないわ。まあ中級魔族が出てきたら主宰と主導で仕留める事になるけど」

 「私は元より構わない。三人といったがシェンハ君と協力すればかなりの人数を守れる」

 「あなただけの問題ではないでしょう」

 「少なくとも月の団員はそういう事も想定している」

 「テーファも?」

 「私はユッミル君が守ってくれるなら大丈夫だよ」

 「ミーハ、ミーハは駄目だよね?」

 「ただ、この戦力なら退路が確保できているなら安全だし構わない。魔族の強さは知っておきたいし」

 「フーニャさんはどうなんですか?」

 「少し恐怖も感じるが興味深くはある。下級魔石の報酬があるなら興味深い」

 「ソヨッハは困るよね?」

 「いえ、私も木の幹部です。ユッミル様の補助をします」

 「ピュッチェは?」

 「行けます。ただ、負傷しても連れ帰って欲しいです」

 「分かりました。危なければ近くの主導、もしくは主宰に申告して下さい。撤退しますから。退路は僕が確保します。後方からの攻撃は任せて下さい」

 「待て。最前線はあなたの雷装剣ではないの?」

 「シェンハ様とリッネ様には前線を近くから援護頂きたい。エッヒネ様は敵が集中した場合に片づけて頂きたい。それ以外の時は魔力を使いすぎない様に狩っていて下さい。ソヨッハ、フーニャ、テーファ、エコ、とりあえずは普通に戦いますが僕からの指示があれば協力して下さい」

 「私やシウは前衛なの?」

 「今回はシェンハ様がいるからね」

 「私も?」

 「無理はしなくて良いけどできれば。ただ、魔族は実体が希薄だから手足で殴っても無駄。今回のメシャには分が悪いから攻撃を避ける事を優先だね。あまり最前線に出ないでね。とりあえず今回は魔力を惜しまなくていい。魔力が減ったら僕の方に戻ってきて。きっちり守るから」

 「ユッミル殿、私も守ってね。お礼は好きにしていいから」

 「いえ、土の団の使いを安全に扱うのは使いを受け入れる際の約束事項の様なものですから」

 「それを言えば仲良く一緒に寝るのも約束ではないのか?結婚式でもやったしね」

 「この前、何かしたのは気のせいですか?」

 「まあとにかくしたければいつでも良い」

 「まあ良いです」

 「ユッミルさん、どうして私も?」

 「三人の中で一番弱いのは僕だからソヨッハの強化が必要だよ」

 「分かりました。側室をやめるからって一緒に戦わなくなる訳ではないですしね」

 「まあ戦わなくて済めばいいんだけどね」

 「そうなんですか?けどそこの仮面の人と随分親しげにして魔族領に突っ込んだらしいですけど」

 「ソヨッハ?」

 「ユッミル様、私はもう木の幹部ですよ。光の主宰が月の主導と密かに何かしているのは見逃しません」

 「そっか、でもソヨッハが強気になっても止められないよ」

 「そうですか、側室をやめれば発言力は弱まりますよね」

 「まあそれもそうだけどソヨッハは木の幹部として主宰と交渉するという事には向いてないかな」

 「それは木の影響力は落ちたという事ですか?」

 「まあ当面は落ちるね。今の新しい使いとは信頼関係はまだ弱い」

 「そうですよね」

 「けどソヨッハは強くなるし木の団の戦力は高まるよ」

 「ユッミル君、私に指示は無いの?」

 「ソヨッハにも指示はしていないよ。テーファは僕らに近づく魔族を止めてくれればいい」

 「私も同じという事ね。」

 「でもユッミル君、私を生かすなら君が雷装剣で払いながら進んでくれた方が良いよ」

 「テーファ、そんな事をしたら誰が君を守る?」

 「守ってくれないんですか?」

 「足りない。僕では不足だ」

 「でしたらできる様に強くなって頂けると助かるわね」

 「努力はしますが期待しないで下さい」

 「それで次は私に声を掛けないのか?」

 「はい、あなたは強いですからお任せします」

 「そうか、君も強いからお任せで良いぞ」

 「あの、指示があるなら聞きますけど」

 「いや、今回の人員全員と戦ったことがあるのは君だけだろう?」

 「一人は初めてですが」

 「まあそういう事だ」

 「それは問題無いです」

 「私は光剣で切りまくれ。へばったら戻ってこい。大事な側室様達のついでに守ってやる」

 「酷いですね」

 「フーニャですらこれでも客人だ。オーネもエコも守る義務がある。テーファさんは僕個人の意思もあるがフェノは戦いの側近として扱っている」

 「はい、本当は分かっております。戯言を申してすいません」

 「そうか、ユッミル殿はテーファみたいに甘えないと形だけの客人にするという事か」

 「そんな事は言っていませんし、状況を選んでくれないと逆効果ですよ」

 「そうだな。魔族領が近づく今は駄目だな。だがテーファ君は今も君の手を取っているぞ」

 「そうですね。ですから手は空いていません。二人が限度です」

 「まあ今は良い」

 「ユッミル、私には何も無いのね」

 「ええ、機動力が低い事以外は弱点が無いですから」

 「そうね」

 「では皆さん、作戦をお伝えします」

 「えっ」

 「なんとフーニャさんが囮役をしてくれるそうです」

 「なんだそれは」

 「フーニャさんには魔石を手早く拾ってもらいますよ。そして、キッシャノさんとオーネさんとピュッチェさんはその援護を願います。その上でその四人も随時主導と主宰で守ります。主導と主宰が陣形を調整しながら進みます。囲まれそうになった場合は僕とテーファとソヨッハで退路を開けますので主導様方は残りの方の援護を優先しつつご協力下さい」

 「えっと、私もですか?シェンハ様も守ってはくれるが君も動いてくれ」

 「分かりました」

 「えっと私はどうすれば?」

 「ピュッチェさんは防御と援護ですね」

 「私はフーニャさんを標的にする魔族に術を使うのね」

 「はい」

 「不測の事態は4人で解決しますので報告しつつ着実に戦って下さい。まあフーニャさんが術を使って手早く魔石を拾えば問題ありません」

 「良いだろう。私の献身に見惚れるがいい」

 「言わない方が良いと思いますよ」

 「分かった上で言っている」

 「そろそろよ」

 「初手はどうするんだ?」

 「シェンハ様に右翼後方、ディユ君に右翼前方、ピュッチェとメシャは左翼前方、ミーハは左翼を自由に。僕が正面にしばらく攻撃します。正面の戦線が後ろに下がれば攻撃をやめますので前衛陣が両側から埋めて下さい。まあフェノに先陣を切らせますけど」

 「行くわよ」

 「はい」

 シェンハは遠方の敵上空に氷を張って落とす。ユッミルも正面後方に雷雲を形成していく。リッネは左翼側に走って魔族に月射を打ちながら走っていく。ミーハもゆっくり追っていく。

 「行ってくる」

 「今回は魔族がどんなものか知る為だ。無理は本当に必要無い。君もだよ、ピュッチェ。」

 メシャーナとピュッチェを見送ると雷射を撃っていく。魔族は三集団にそれぞれ向かっていく。テーファを手で制してユッミルは雷装剣で魔族を迎え撃つ。

 「フーニャ、援護を頼む」

 「不要だと思うが行くぞ」

 近接戦闘でユッミルとリッネにやられてシェンハに動きを止められてディユに仕留められていく。魔族は単調に突撃するのをやめて迂回を始める。

 「フェノ、状況把握を優先してくれ」

 ユッミルはテーファを真後ろに据え、目の前にはフーニャを密着させる。

 「フーニャ、遠距離攻撃の力量を見せてくれ」

 フーニャは手数は無いものの遠方の魔族を一体ずつ狩っていく。

 「はっ。まさか私は自分で魔石回収地点を遠くしているんじゃ」

 「まあ退路が確保できない可能性ができればあなたも含めて撤退ですよ。それは退路が確保が困難な程は前進しないという事。あなたには突出してもらいますがそれはあくまで囮。囮という事は敵が食いついた時点でそれ以上は出て行かなくていいという事」

 「あの、ユッミル君。私の月射、もう届かないよ」

 「テーファさんは温存していて下さい。ソヨッハもですよ」

 「オーネさんとフーニャは準備を願います」

 「まずは手前の魔石を拾えばいいのか?」

 「まあそうですね。とりあえず僕が預かります」

 「ユッミルさん、私の出番は無さそうよ」

 エッヒネが奥を確認して軽く術を使いながらユッミルの方にゆっくり歩いてくる。

 「はい、中級魔族が動かないですね」

 「ユッミルさん、どうします?」

 「幸い左翼にはそこまで迂回する間合いがありませんからフェノとエッヒネさんで迂回してくる魔族を近づかれる前に減らして下さい」

 「行きます」

 「分かったわ」

 フェノは走っていく。エッヒネも少しだけ急ぐ。フーニャは魔石をユッミルに引き渡す。

 「まだ行かねば駄目か?」

 「オーネさんも動いているんだよ」

 「君、私は君の実子を抱えているのかもしれないのだよ、大事にしなさい」

 「あなたは強いですから問題無いです」

 「そうか、数ある女の一人だものな」

 「不満なら私が行きます。テーファとソヨッハには迷惑を掛けるし退路は危険になりますが」

 「分かった。ならば私の体を触りながら口付けしろ。それで手を打とう」

 「良いですよ、あなたが嫌ならいつでもやめさせて良いですけどね」

 「ユッミル君?」

 「あくまで約束で触るだけですから」

 「まあ良いですよ」

 フーニャが小走りしていくとユッミルの前にはソヨッハがすかさず陣取る。フーニャとオーネが前方をうろついていくのでユッミルの攻撃はピンポイント攻撃に変化する。しばらくしてフーニャが少し前に出て魔石を拾っていくが援護に駆け付けたピュッチェが余裕を持って対処できる程度の少数の下級魔族が寄ってくるだけだ。

 「エッヒネさん、前線を上げますので準備を願います」

 ユッミルは伝音でエッヒネに少し早めに伝達する。エッヒネは近くのフェノにもそれを伝える。次にユッミルはフーニャを呼び寄せる。ユッミルは少し前に出てフーニャに駆け寄って下級魔石を回収しながら元の位置に戻る。

 「ユッミル殿、私から細々と魔石を回収しているが私が死んで見捨てても魔石を持って帰れるようにしているみたいだな。怖いんだが」

 「フーニャさん、下級魔石も何十も抱えれば動きが鈍りますし落とした場合の損失も減らしたいですし。それともフーニャさんは愛らしい姿に自信があるのでしょ?僕は愛らしい女性は大事にしますから」

 「ユッミル殿、私の事を愛らしいとは言っていない気がするんだが?」

 「まあ現実的には距離が遠いので各団の女傑さん達に保護してもらう事になりそうですが」

 「やはり愛らしい枠には入ってないではないか」

 「さて、どうでしょう。ただ、もう時間なのでお願いします」

 ユッミルはテーファの腰とソヨッハの肩を抱えてリッネのいる右翼側に少し近づく。

 「シェンハさん、右前方に二歩足らず周りに声を掛けてから動いて下さい」

 「返事できないのよね、これ」

 「ユッミル君、大胆ね」

 ユッミルはいつの間にか胸をしっかり掴んでいる。

 「リッネ、三歩程度声を掛けながら動いて下さい」

 ユッミルは手をテーファから離していく。

 「ごめんなさい。今、前衛に指示してました」

 「謝る必要は無いのだけどね。今は気が抜けたら良くないと思うだけだから」

 「はい、全て後でですね。ソヨッハ、お願いします。」

 「行きます」

 「やはりソヨッハの強化は優秀だね。雷槌」

 「そっか射線を開けて」

 「いえ、ちゃんとフーニャさんは避けてますしそんな弱点は無いですよ」

 多数に分岐した雷撃がそれなりの速度で振り下ろされる。その直後、強烈な炎の術が右翼のリッネ達に向かって放たれる。ミーハの精一杯の水系防御と打ち消しあって大量の蒸気で外からの視界が奪われる。エッヒネは取りあえず近づきながら中級魔族を攻撃していく。

 「万一を考えると退路の確保は一度中止だ。」

 ユッミルは慎重にリッネの方に近づく。

 「シェンハさん、少しずつ陣形を狭めます」

 ユッミルやシウもエッヒネに加勢する。中級魔族はゆっくり引いていく。同時に下級魔族は迂回し始める。

 「ユッミル、ごめんなさい」

 ミーハはソヨッハとテーファの間に少し泣きそうになりながらもたれてくる。

 「どうした?」

 ユッミルは辺りを警戒している。エコの後方からの援護を受けながらメシャーナとピュッチェが中央の前線で敵を牽制していく。フーニャは魔石を拾っていく。オーネはそれを見て駆け寄っていく。

 「リッネさんが駄目なの」

 「は?燃え尽きでもしたのか?」

 「いや、足が、足に大やけどが」

 「ミーハ、まずは君が冷やしてあげないと」

 「そうだった」

 「大丈夫なの?」

 「囲われてはいるが下級魔族。片方なら雷装剣で何とかする」

 ユッミルはフーニャとオーネの姿をほぼ消し、メシャーナとピュッチェの姿を断続的に消して幻影も作っていく。とは言えフーニャ達の大まかな位置は分かる様で攻撃しようとするがピュッチェやメシャーナは危なげなく仕留めていく。水蒸気が引くとリッネの片足は火傷している。そして、その足の動きは鈍い。

 「ユッミル様、不甲斐ないです」

 「いえ、ミーハを庇ったんですね?」

 「まあそうだが君の客人は守らないと」

 キッシャノに支えられ後ろを気にしながらリッネが半身で歩いてくる

 「だがミーハは水術師。敵の攻撃は炎の術だったのですからある程度まで避けてもあなたを攻めたりはしなかったでしょうに」

 「君の事を優先したまでだ。それより君は足手纏いの私を見捨てる口実ができた。怖い私と別れるいい機会だぞ」

 「いえいえ、リッネ様は単独でも帰還できますから見捨てた報復をされますから見捨てません」

 「だが誰だろうと見捨てないと言った方が私に気に入られただろうに」

 「ユッミル、包囲されそうだけどどうするの?」

 シェンハは距離を保ってはいるが声が届く位は近づいている。

 「もちろん、撤退します。シェンハ様は奥からの魔族の動きを遅らせて下さい」

 ミーハとソヨッハはリッネを応急治療していく。ユッミルはキッシャノとリッネを抱えて下がっていく。敵正面にはディユとシェンハが移動してピュッチェが残る。メシャーナとフーニャを手元に呼び寄せる。フーニャに後方の警戒をさせてリッネはメシャーナに預ける。多数の魔族が森の方の退路を塞ぎ終えると包囲を狭める様に襲ってくる。フェノとエッヒネは右側面に陣取る。敵の少ない左側面はシウが牽制攻撃をしていく。リッネはメシャーナとキッシャノに抱えられながらも月系術を積極的に使っていく。ユッミルはミーハ、テーファ、ソヨッハ、エコの援護で森への退路を塞ぐ魔族を狩っていくがそれなりに散会しているので狩り切れない。

 「エッヒネさん、草原からの退避も選択肢に加えます。余裕があればその方向への攻撃を強めて下さい。私の所に人が多いので両側から引き受けます」

 「ユッミル。けどこれ返事できないから従うしかないのよね」

 エッヒネは後方への攻撃を始める。しばらくしてユッミルの後ろに攻撃が加わる。ユッミルは歪曲視野で見ながら背中側に雷射していく。

 「やはり我々は足手纏いの様だな」

 「ですが今はいずれにしても急げないので特に問題にはなりません」

 ユッミルは徐々に森の方に向かう。魔族は向かってくるが雷装剣で切られる。後ろはテーファやキッシャノにオーネの援護でユッミルとシウで狩っていく。リッネの術はむしろ広く展開され、魔族は近づくにつれ動きが鈍る。ソヨッハはリッネを治療しながら援護している。シェンハやディユにピュッチェも少しずつ撤退している。ユッミルとシェンハに片面を抑えられ、エッヒネに断続的に穴を開けられて包囲が全く意味を為さないと理解した魔族は引き始める。

 「これでもまだ拾えと?」

 エッヒネとフェノは包囲を解いて退却しようとする魔族を容赦無く殲滅していく。

 「エッヒネ様、一応戻っていいとは言ってませんけど?」

 「意地悪ね。ユッミル様」

 「まあ良いんですがフェノ共々下級魔石を草原に派手に飛ばしてくれましたね」

 「まあ仕方ないですよ。後日、火の団で回収しますから」

 「フーニャ殿、私も回収に協力します。袋を交換しましょう」

 「そうだな。重くなってきた」

 「エッヒネ様、大丈夫だとは思いますがリッネ様と協力して襲撃時は撃退を願います。メシャ、魔石を頼む。フェノ、魔石拾いは程ほどで良いからメシャの護衛を頼む。」

 ユッミルはシェンハの方へ駆け寄る。

 「どうしたの?私は魔族に隙を見せない為に慎重に下がってるだけで二人を守りながらでも余裕よ」

 「はい、私は魔石を回収しに来ただけです」

 ユッミルは袋を取り出したかと思えばすぐに姿を消す。魔石を拾おうとするユッミルに襲い掛かる魔族はあらぬ方向からの雷射で倒れていく。シェンハは無視して退却を続ける。

 「それにしてもどうして魔石を?」

 「魔族の元かもしれないのでね」

 「まあ分からなくもないけど」

 ユッミルがピュッチェとディユに声を掛けて退却を促すとシェンハも少し速度を上げて退却していく。

 

 


今回は本当に様々な諸般の事情から好条件だったので早めに投稿しましたが次はここまで時間が取れないので10月以降となります。

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