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至上の無名光術師の苦難  作者: 八指犬
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4章 無性区画

余計な情報を排除する為に殊更場面転換を明示する事は致しません。会話の間の表現を重視し、詰まりの無い会話はそれに応じて発言が連続します。発話者が分かりにくい事も多々ありますがご容赦下さい。その代わりに「」の鍵括弧を一纏めとして同一人物の発話が描写を挟まずに連続する事はほぼ排除しております。

また、多少前後している事もありますが描写は時間順となっております。

 4章 無性区画


 1節 境目


 ユッミルは炎の塔に出向く。

 「来たか、意外と早かったな」

 「まあ催促されたら困りますしさっさと済ませましょう」

 「情緒が無いですね、ユッミルさん」

 「いえ、悪いのはバッソー様ですから」

 「そうですね、では私が案内します」

 マッラはユッミルの腕を取る。

 「はあ、分かりましたから」

 「これから仲良くしましょうね」

 「あの、一応まだネメッカ様との結婚も済んでいないのですからあまり目立つ事は…」

 「子供を作ったという噂がありますけど」

 「それはそうですが」

 「ネメッカ様とユッミル様が出会ったのはかなり最近ですよね?」

 「ええ、炎の人はよくご存じでしょう。エッヒネ様と行動する様になったのより後です」

 「まさか」

 「ですので手が早い方なのかと」

 「手が早いのはネメッカ様…ですけどあまりそういう話になると困るので私が早いという事で構いませんが実際は早くありません」

 「分かりました。けどエッヒネ様といい、ユッミル様は早くさせる何かがあるんですかね」

 二人が家に着くと待機していたもう一人は露骨に脱ぎやすそうな格好をしている。

 「はあ、今日は家の場所が知りたかっただけですよ」

 「えー、それは酷いですよ」

 「あの、炎の女の人ってこういう事に積極的な人が多いのですか?」

 「半分はいないけど半分に近い位ですね」

 「僕である必要はないでしょう」

 「術師の場合、狩りに出れないと出会いが無いですから炎は中々。まあ炎内でくっついて工房って夫婦も多々いますね」

 「そうなんですね。ですがとにかく今日は来ただけですから」

 「でしたらせめて一度抱擁してからにして下さい。気が変わるかもしれませんし」

 「そう言えばここは川の南東側なんですね。橋の向こうにはあまり行かないので新鮮ですね。ですけどここだと水の塔の方が近い」

 「ユッミル様が光の塔から来るにはここの方がましだと思いまして。それでも遠いとは思いますが」

 「そうですね。不便ですね。この一帯自体は不便ではないですけど」

 「ですから何もせず帰るのは間違ってますよ」

 「ですがまだ昼前です」

 「私達は正室ではないのですから昼間にやって夜はネメッカ様とすれば良いんですよ」

 「いえ、他にも同じ立場の人もいますし」

 「知っていますがユッミル様は炎を優先して頂けないのですか?」

 「そんな事はありませんが他に気がかりがあるのでそういう感じではないのですよ」

 「別にお礼は一つである必要はありませんしこの程度では足りないのでその気がかりに関して手伝える事は手伝いますよ」

 「そうですね、結論から言ってしまえば光の団は人が少ないので主宰として側近を揃えられないんですよ」

 「そこまで少なくは無い筈ですがユッミル様は日が浅いですから既にできた集団から引き抜くのは困難かもしれませんね」

 「当面は一人で良いので選んでいかないと」

 「ユッミルさんは術師を自分で連れてくるとかは考えないのですか?」

 「勝手にそんな事はできませんよ」

 「主宰なのに?」

 「それはそうですが」

 「主導のネメッカ様に溺愛されてるのに?」

 「そうだと良いですね。まあ確かにそういう支障はありませんが弱小の光の団に入れるのは相手に悪いですよ」

 「それは相手が決める事。それにあなたの実力があればそんなのは小さな事です」

 「それは言えなくはないですが」

 「でしたら私達の上半身を後ろからしっかり抱きしめてそれでもその気にならなかったらとりあえず近くを案内します」

 「それはとてもありがたい提案ですね」

 ユッミルは抱きしめるとさっさとドアの方に向かう。

 「さあ、行きますよ」

 「では今度は私が案内します」

 エコはユッミルの肩に軽く手を添えてもう片方の手で引いていく。

 「ここは境界の区画で術師がそれなりにいます。というか術師相手に無性の人達が商売する事が多い区画です。」

 「今の君と同類の子も多い訳か」

 「違います、私達は金や商売では無いです」

 「そうですね」

 「ユッミル様、私はあなたのご希望で付き人の様な振る舞いをしているのであって本意ではないですから勘違いしないで下さい」

 「とりあえず今は案内をお願いします」

 「はい、主に東側に無性の街が広がっています。南西の方に見えるのは氷の塔ですね。シェンハ様が主導になってからは不活発ですがやはりこの辺りは氷術師が才のある子供を探しています。土は人気なので近くに無性は住んでないし勧誘も積極的ではないが団の規模は大きい。炎もしばらくして出ていく人が多いだけで人気は人気ですよ。光は近くに無性は住んでますが数は多くない上に人気がありません」

 「それはそうでしょうね」

 「ですから逆に言えば東には見つけられていない光術師の卵が多いかと」

 「エコさんはどうして炎の団に?」

 「自分からですね。炎の術を制御できてそれ次第でどうするか決めるつもりでしたが狩りができる様になってしまったので団に居座ってます」

 「そうですか、今日は帰ります。ここにはまた出直します」

 ユッミルは喫茶店に向かう。

 「久々だね」

 「そうでしたかね?」

 「そうだと思うよ」

 「それよりもユッミル、メシャちゃんとぎこちないらしいじゃないか?」

 「えっと、抱いて寝てますしよく話しますけどね。まあ二人ではなくなったので着替えは一人でしてもらってますけど」

 「いや、それはそうかもしれないが出かける機会がほぼ無いそうじゃないか?」

 「そうですね。メシャには買い物の時に荷物を持たせたりしてたのでお出かけよりも家にいた方が良いかなと。例の事もありますし」

 「そう、問題はその例の事だ。メシャはユッミルが一緒に出かけないのはそのせいだと思っている」

 「いや、そうですよ。お出かけはしんどいでしょう」

 「そうね、私の若い頃は少ししんどかったからあそこの山の崖の半分位でやばいと思って引き返したわ」

 「あなた方は本当に無用にしんどい事ばかりしてたんですね」

 「けどね、本当はいつも通り狩りを続けたかったの。まあ本当に直前は立つ気は起きない位だったけど」

 「言いたい事は分かりますが」

 「それよりも勝手にやられたのが嫌だったのかい?」

 「嫌というか驚きと戸惑いですね。まあそれと心配です。ああいう女の子に育ってもらうのは困ります」

 「それだとまるで娘だけどメシャーナのやった事を考えるとあんたを父親とは見てないんじゃないか?」

 「そうですね。メシャの成長は感じます。けどその先は中々受け止めきれない」

 「ネメッカ様が一番なのかい?」

 「分かりませんが恋人としてはそうかもしれません。家族としてはメシャの方が安らぐのですが。ネメッカ様を気軽に抱くなんて絶対にできませんから」

 「まあそれはすぐに解決しなくて良いけどメシャーナと出かけてやるのは駄目かい?」

 「やはりこんな男と簡単にやってしまうのは反省した方が良い」

 「えっ、一年以上暮らした結果は簡単なのかい?」

 「まあ長いといえば長いですけど。そうですね、お出かけはします」

 翌日、モヌーユの光点を試験し、合格点を与える。ロコッサの集音も訓練するがまだ上等ではない。早めに切り上げる。

 翌日は午前中にソヨッハとロコッサとメシャーナで買い物に出かける。四人で昼食を食べるとロコッサやメシャーナと別れ、ソヨッハと無性の区域に向かう。

 「ここにはあまり来た事が無いからね。案内をお願いする」

 「あちらの通りは商店の多い区画、この辺りは疎らに飲食店がありますけどここは基本的に団と取引する大口の洗濯店や食材店に家具店ですね」

 「木は団員をどう獲得しているのですか?」

 「木は子供に剣の稽古をつけますのでそこに木の術が使えると言ってくる子がいまして。後は術師が術を見せながらできる人を軽く呼び込む事を定期的にやってますが意外とそれも少なくは無いですよ。私もそれを見て術が使えるか試したのがきっかけですし」

 「まあ才能のある術師を探すから子供の多い所は?」

 「公園なら何個かありますよ」

 「とりあえず行ってみよう」

 ユッミルが公園を遠くから歪曲視野で見ると数組の親子と子供の集団が目に入る。

 「どうですか?」

 「考えてみれば魔力が大きいとかでもないのに親を説得するのは無理。やはり今回の趣旨は難易度が高いかも」

 「でしたら孤児院はどうでしょう?」

 「確かに才能を見出してやれれば損はさせないけど術師は才能だけではできないからね」

 「つまり、ユッミル様は才能だけではないんですね」

 「ありがとう。行くよ」

 ユッミルは孤児院の子を歪曲視野で見るが歪曲視野ではあまり成果が無い。仕方なく姿を隠して敷地に近づき、じっくり眺めていく。すると一人の少女の中々の魔力量を察知する。

 「一人才能がありそうな子がいたけどどうしようか?属性までは分からないんだよね」

 ソヨッハは歩いていく。

 「あの、用事があるのでそこの少女とお話しさせて頂けますか?」

 「誰の事ですか?」

 少女だけでも5人もいる。

 「ソヨッハ、もう良いよ。すいません、少し用があって通り掛かったのですが少し魔力量が高い子がいるかもしれないのですが」

 「あなたは?」

 「光の団に所属する冒険者です。彼女の特性が光であれば所属頂きたいですが光でなければ考えます。こちらのソヨッハは木の団ですし他のいくつかの団にも知り合いはいますのでそれなりにどうにかしますよ。高い…」

 「お話までは構いませんがそれ以上私の勝手では…」

 「分かりました、今日はお話だけで」

 ユッミルは一人の少女の前に歩いていく。

 「お話聞いてくれるかな?」

 「術師なの?」

 「そうだね。君がどんな術を使えるか見てそれに応じた団に所属する事をお勧めするよ」

 「よく分からない」

 「だろうね、術と上手く付き合う為に団で学ぶと良い。月と風以外なら術師の知り合いはいるしね」

 「土や火も氷も?」

 「ソヨッハは知らないか、火は主導も主宰も知り合いだ。氷も何とかする」

 「土は?」

 「もう良いだろ。とにかく属性が分かってからだ」

 「知らない。変な人」

 「そうだね。けど実力は確かだ。こういう時、光で良かったと思うよ」

 ユッミルは姿を消す。

 「おー、すごい」

 他の子供達は驚いている。

 「はい、ちょっと離れてね」

 ユッミルは剣を抜いて雷装して掲げる。その剣も一瞬で消して束に収める。

 「ユッミル様、凄いです」

 「ソヨッハ、君に感心されても説得力が無いのだけど」

 「私をどうしたいの?属性によるね」

 「例えば炎だったら?」

 「まあ君次第だよ。君が所属したいなら炎の術師にも見てもらって多分、君の魔力なら大丈夫だから塔で引き取ってもらう」

 「光だったら?」

 「こちらは歓迎だが君は光に入りたいのかい?」

 「多分ね、残念だけど光ではないと思う」

 「風だったら術師教会が手厚く歓迎してくれるし月の場合でも塔の前まではついて行っても良い。一応、月の主導様に礼儀とはいえ誘われた事はある。土は元々冒険者を受け入れる敷居が低い」

 「ありがとう。トーラさん、出かけて良いですか?」

 「構わないと言いたいけど一度ゆっくり考えた方が良いですよ」

 「ソヨッハ、何かの種、持ってない?」

 「ありますけど」

 「もらっていい?なるべく安全なのが良いんだけど」

 「ならこれで」

 「君、木術の適性を見るから魔力で咲かせてみて。所で何なの?」

 「蔦組み草。蔦が横に生えて複数の場合は互いに絡んで風に飛ばされにくくなるんです。木の術師は速攻で咲かせて獣の動きを止めるのに使います」

 少女は魔力を込めるが種は少し大きくなるが木の術への適性の無さは明らかだ。

 「うん、木の才能は無いからこのお姉さんはいなくても良い。この子を置いて行きますのでご心配なく」

 「お待ち下さい」

 「えっと、こういう手は使いたくなかったのですが、ソヨッハ、これを持っててくれ」

 ユッミルは鞄から中級魔石を取り出す。下級魔石も一個取り出す。

 「これは…」

 「私は中級魔石を管理する義務がありますので必ず戻りますからご安心を」

 「いえ、問題ありません。私でも中級魔石の意味は存じています。シャーネをお願いします」

 「ユッミルさんお願いします。トーラさん、多分私はもう帰りません」

 「そうですか、分かりました。すぐに呼べるのは水の術師だけですが行きましょう」

 ユッミルは家に戻り、ミーハとメシャーナを連れ出して森に向かう。

 「あの、ユッミルさん」

 「うん、私を売らないと約束してくれますか?」

 「売る?どこ…まさか」

 「ユッミルさん、私に何か用ですか?」

 「えっと、水の主導様はラーハ様と言うのですがそこに所属する事は売るうちに入りますか?まあ活動には制約があるそうですが使用人よりは待遇は良いと聞きます」

 「ユッミルさんは面倒を見てくれないのですか?」

 「そうしたいのはそうなんですが優秀な水術師は狙われやすい。そういうのに慣れていない僕では守り切れないかもしれない」

 「けどそこの人は水の術師なのでしょ?」

 「ええ、ですが団に所属してますのでこの人に手を出せば水の団を敵に回す事になってまあ暗殺されるでしょうから」

 「そんな怖い集団ではないですしユッミルさんは少しでも私との子作りに役立つ可能性がある事なら全て…」

 「とにかく水の団に所属した方が良いかなと思う。光では水術師を守る手段も正当性も無い」

 「で、どれ位の術が使えるの?」

 シャーネは三本の水柱を高速で叩き落とす。地面は目に見えて凹んでいる。一方のシャーネは少し息切れしている。

 「もう分かったから。ソヨッハ、回復してあげて」

 「何故、僕を回復する?」

 「間違えました」

 シャーネは少し元気になる。

 「凄い」

 ユッミルはソヨッハと別れ、ミーハと水の塔に向かう。塔に近づくとムヒューエが待ち構えている。

 「ユッミル様、いきなり塔に来られるのは困ります。せめて私を通してくれないと」

 「急ぎの用件ですしラーハ様にとっても悪い話ではありません」

 ムヒューエはシャーネを一瞥する。

 「分かりましたが今度からは私に手紙を送れるように家の所在を教えておきます」

 「えっと、良いのですか?」

 「ラーハ様は私よりあなたを重視するでしょうから」

 「とにかく会えますね?」

 「はい、塔にいますので」

 ユッミルは水の塔にムヒューエと入っていく。人は少ない数人の男性術師と五人程の女性術師が見ているがどうもユッミルと気づくと警戒が緩む。

 「少しお待ち下さい」

 ムヒューエは上の階に向かう。

 「ミーハ、今日は婚約の許可でも取りに来たのか?」

 「まだだよ」

 「ユッミルさんもネメッカなんかよりミーハの方が良いぞ」

 「えっと?」

 「ん?」

 「ネメッカ様?」

 「そっか、無性ではまだ無名だしね。ユッミル様は光の主宰…もうなったんだっけ?」

 「正式にはまだですが会議での許可は得ていますよ」

 「そうだな、俺らも実質ユッミル様の事は光の主導という扱いだよ」

 「ああ、ネメッカ様の部…相棒なんですね」

 「まあ恋人で婚約もしてるけどね。だから光術師なら基本的には僕の側近になって欲しかったのだけどね」

 「そうですか、光術が使えなくて残念です」

 「でも光より水の方が有用だよ。まあ無性の方で生きる事は難しいだろうけど」

 「ですがユッミル様の助言に従います」

 「大した事は言ってないけどね。それと僕はあくまで光の主宰です。」

 「皆さん、分かっていますが実力を考えればユッミル様が相応しいのは事実ですよ」

 「ミーハ、ユッミル様に決定権がある事でユッミル様が決めた事なのですから余計な言い分はおやめなさい」

 「ラーハ様ですか?お初にお目に掛かります。光の主宰、ユッミルです。もっとも未だ対外的には正式ではありません。急な事ですから準備が整っていないもので」

 「そうですね、ネメッカ様の強引さにはあなたも苦労している事でしょう」

 「ですがきちんと猶予は頂いてこうして自由に行動しています。今回も側近候補を探していて優秀な水系術師を見つけましたのでラーハ様にお預かり頂こうかと」

 「あらっ。初来訪のおみあげにしてはかなりの品、返礼に困りますわね。ムヒューエ、あなたもユッミル様に存分に協力しなさい」

 「分かっております」

 「そういう訳ですのでその用件は快くお受けします。ミーハもユッミル様の手伝いに存分に励むのですよ」

 「ユッミル様、また遊びに来てくださいね」

 「そうだね、様子を見に来るよ。ラーハ様、長居してもご迷惑でしょうからミーハと共に帰ります」

 「ええ、また。ムヒューエ、送って差し上げなさい」

 ユッミル達は塔を後にする。ムヒューエには家を案内され、その後集会所付近まで見送りとして同行する。

 「ミーハ、ネメッカ様って水の内部ではどういう扱いなの?」

 「水が男性の使用人を送ろうとしても塔に住むからと言って頑なに受けなかったので自分より強い男とくっつくのを嫌がる弱い主導って事で水では評判が悪いのです。水は実力主義な面も強いのでユッミル様の評判は上々ですよ。」

 「だと良いんだけど。まあでも個人的には水には特に注目されたくないかな。それより光術師の側近に関しての問題もあるし主宰としてはまだだね」

 「けど私と子供を作ってしまえば注目されても少々の事は問題にならなくなるかもね」

 「それよりまずは光術師。明日も探す。今日は塔に行って先に魔石の確認をしてくる」

 翌日は早朝からソヨッハと一日中偵察して回る。成果は無かったが無性街の地理の把握はそれなりの収穫であったらしい。時間が遅いので炎の団の用意した家に泊まる事にした。ユッミルはソヨッハを抱いて盾にして眠る。

 「では帰りますね」

 「あの、今度は私達をお願いしますね」

 「別にあなた達がどうという話ではなく不便なだけですよ。無性に用がある場合は良いのですけどね」

 ユッミルとソヨッハは無性の街を経由して帰る事にする。

 「場当たり的な探し方は駄目だね」

 「すぐ帰ると言ってませんでした?」

 「あれはあの人達向けですよ。それに昼に塔に戻るのは戻りますから」

 ユッミルが街を歪曲視野で見ていると路地で数人の女性が何か屈んでいるので近づいていく。

 「ソヨッハ、あれは?」

 「多分ですが店か商店組合が雇ってる雑用係ですね。路地の掃除ですよ」

 「素手か」

 「そうですね」

 ユッミルはしばらく黙っているし遠くを見て動かない。

 「もしあの中に光の術師がいたらどう思う?」

 「優秀なら勧誘すればいいだけです」

 「けど今回の目的は優秀な術師ではない」

 ユッミルは姿を変える。

 「君、光術が使えるよ。急にそういう人手が必要なので雇われてくれないか?」

 「誰ですか、あなた?」

 「ソッタと申します。光の幹部の依頼を受けて術師を探しています」

 「私は術は使えません」

 「強力な術は求めていない。だが一応技量は確かめる。優秀ならそこそこの給与の任務もある。そうでなくても所属するだけで最低限の給与に衣食住も与えられる。」

 「本物なの?」

 「そうですね、これでは不十分ですか?」

 ソッタは数個の下級魔石を見せる。

 「まず、千アークくれ。二日後に塔に出向く」

 「いえ、集会所で願います。明後日の昼頃こちらのソヨッハが迎えに行きます」

 ソッタは千アークを渡してその場を後にする。

 「ユッミル様、あれで良かったのですか?来ないかもしれませんよ」

 「そうだね、ソヨッハには無駄足を踏ませるかもしれない」

 「けどまあ今回の勧誘は少々強引だったから反省している。明後日、彼女が来なければさっさと別を当たるよ」

 ユッミルが塔に戻ると訓練の第二弾の三人が決まっていた。今回は二人の少女と一人の少年である。ソヨッハを家に戻したのでルーエを連れて森に出かけて三人の技量を見る。ユッミルから見て前の四人よりも弱く、ほぼ術を訓練していない様に感じた。森から出ると三人をルーエに預けてユッミルは直接帰宅する。

 「ユッミル、お帰り」

 メシャーナはユッミルの腕を掴む。

 「どうしたの?」

 「昨日、帰ってこなかったのはなんで?」

 「東の方で泊まって来たから」

 「炎のお姉さんと一緒に?」

 「そうだけど寝たのはソヨッハとだよ」

 「どうしてソヨッハとばかり」

 「無性の街にミーハを連れていく訳にはいかない。メシャにはあまり外に出て欲しくない」

 「私を連れて行かないのは良いの。ユッミルはあんまり外で泊まらないで。ネメッカだけで我慢して」

 「メシャーナ、それは困るのだけど」

 「そうです」

 「ううん、二人も良いけどユッミルがしようとしてないし。私の体になれたら二人に魅力は感じないよ、ごめんね。けど炎は違う」

 「ユッミル、そうなんですか?」

 「そもそもメシャの方が魅力的ってのは勝手にメシャが言ってるだけ」

 「私を抱く日が多いのに?」

 「けどミーハは抱いて寝れないしメシャは喜んでくれるからだよ」

 「そうですよね。子供ですよね」

 「ソヨッハもね。それにシーリュノさんがそれを望んでるようにも見えないし」

 「えっ」

 「それだけだよ。ラーハ様は望んでるみたいだから悩んでる途中だよ。メシャは悩まなくていい。差はそこだね。」

 「うん、けどメシャはそれでも構わないよ」

 「いやいや、メシャがここに住んで僕を嫌いにならない限り、全く一緒に寝なくなったりはしないからね」

 「じゃあ毎日じゃないけどずっと寝るね」

 「まあ今日はネメッカ様の機嫌を損ねたくないから早めに夕食を食べて行くけどね」

 「じゃあ私も行く」

 「えっ」

 「駄目なの?」

 「まあメシャは他の団には所属してないけど光にも所属してないからね。ネメッカ様に聞かないと」

 ユッミルはメシャーナが帰るならルーエに付き添わせる算段でメシャーナと塔に向かう。

 「あれ?ネメッカ様は?」

「部屋でお待ちです」

 「あの、メシャーナも部屋に行きたいらしいのですが」

 「では聞いてきますね」

 ユッミルはしばらく待たされる。

 「構わないそうですよ」

 「では」

 メシャーナとユッミルはネメッカの部屋に向かう。

 「ユッミル、ネメッカ様は形式上の結婚相手であって無理に付き合う必要はないんだからね」

 「私は形式上のつもりは無いですけどユッミル様がそうしたいならはっきり言ってくださいね」

 「メシャ、今日はメシャがいるから逃げれるけどもう無理だよ。それにちゃんと子供ができた以上形式上では済まない」

 「メシャーナ様のお相手は私がしましょうか?」

 「そんな気はない。今日はもう寝る。ネメッカ、邪魔しないでね」

 ユッミルはメシャーナを抱きかかえて寝床に入る。

 「ユッミル、良いんですよ。我慢せずに」

 「明日は休みますが明後日以降は忙しいのです」

 「部屋の管理でしたらイーサが二部屋担当すれば良いと思いますけどね」

 「イーサさん、良いんですか?」

 「可能は可能ですが望ましくはないかと。執務にユッミル様も関知して頂く必要が出ますね」

 「そうでしょうね、探します」

 「いえ、団の内部には十分手の空いてる者がいます。私が手配しても構いませんよ」

 「分かりましたがもう少し探してからにします」

 「今日はユッミルにじっくりお休みしてもらおうかと思ってましたけどメシャーナちゃんが羨ましいですね」

 ネメッカはユッミルの背中に抱き付く。

 「えっと、困ります」

 「何がですか?」

 「離れて下さい」

 「こっちを向いて押し出しては如何ですか?そうしないと離れませんよ」

 「そこまではしません」

 「なら離れませんね」

 「寝れないので困ります」

 「寝れない事は無いでしょう」

 「ネメッカさん、ユッミルがそう言うならそうなの?どいて」

 「メシャ、流石にそれは駄目。危ないから奥に詰めようか」

 ユッミルはメシャーナが態勢を起こすと下に滑り込んで場所を入れ替える。

 「ユッミル、上手い」

 「ユッミル、毎回メシャーナちゃんを連れてくるのですか?まあ今は構わないですけど」

 「おやすみなさいませ」

 翌朝、メシャーナは朝食を食べるとルーエに送られて帰宅する。

 「メシャーナちゃん、そろそろ産みそうですね」

 「そうですね、申し訳ないです」

 「いえ、悪いのはユッミルでもメシャーナちゃんでもありません。私の方が出会いが遅かったのは仕方のない事です」

 「ただ、体面上は問題無いです。実際に分からない事ですし殊更メシャーナの子供の父親であると吹聴する理由もありません」

 「ですがそれでも第一子を取られたのは悲しいので今日は午後からの指揮所に一緒に来て下さい」

 「あの、かなり非効率ですよね?」

 「はい、私は全く役に立ちません」

 「そこまでは言いませんが。イーサさん、どう思います?」

 「執務上は全く問題無いので構わないですよ」

 「今日は訓練の予定だったのですが」

 「中止で問題ありません」

 「他に同行者は?」

 「ルーエ様に同行いただく事は可能です」

 「分かりました、それで手を打ちます」

 ユッミルとネメッカはイーサやルーエと共に早めの昼食を取っている。

 「ユッミル、何か昨日より静かですね。私のこの格好は魅力が無いのですか?」

 「いえ、いつも通りで安心しましたよ。ネメッカ様は今日も美しいですよ」

 「何か嬉しくないです。やはり昨日のうちにどうにかすべきでした」

 「ルーエさん、今日は随分近いですね」

 「別にユッミル様が多数の側室を抱えるふしだら男と見せたいとかではなくユッミル様を慕っているだけですよ」

 「ありがとうございます」

 「ユッミル、ルーエも離れなさい」

 「ネメッカ様が離れれば離れます」

 「今日は今度こそ公式に近い婚約発表なのですからくっつかなければ意味が無いのですよ」

 「こんな事ではユッミル様がふしだらという評判が広まりますけどそれならいっそそれを貫けばいい」

 「ルーエ、何を言っているんですか?」

 「いえ、そもそもユッミル様が離れろと言えば離れます」

 「それは私もです」

 「僕としてはルーエがくっつくのは望ましくはないがルーエにはネメッカ様以上に世話になってるので無下にはできません」

 「分かりました、離れます」

 「ユッミル、私は良いんですよね?」

 「主導様の意向に従います」

 「まあそれでも良いですよ。ユッミルは素直ではないのですから」

 ユッミル達は完全に好奇の目線に晒されている。

 「ネメッカ様、やはりおかしくないですか?そもそも光の団の私物化に見えませんか?」

 「それを懸念するならそれこそユッミルが主導になるべきでしょうね」

 「いえ、そうですね。僕が主宰としてあるべき実力を発揮すればそういう問題は無いですね」

 「それはお墨付きですか?」

 「ですがこれ自体は一回きりですよ。私は側近を確保次第名実共に主宰になりますしそろそろネメッカ様にこの長時間の任務はさせられません。それよりも美しいネメッカ様を妻としている嫉妬の方が困るかもしれません」

 「何を言っているんですか?私は一度も口説かれた事はありませんよ。シェンハ様は主導になられて日が浅いというのに五度も告白されたと聞きますし数年前には私のお付きで短期間に数度告白されて困ってやめた子もいます。目の前には私もいたんですけどね」

 「リッネ様にそういう噂が無いのと同じ様に気圧されるだけでしょう」

 「シェンハ様の方が強いし気圧されるでしょう。ですからユッミルが良いのですよ」

 「ありがとうございます」

 「まあネメッカ様に誰も手を出さないのは土の男を突き返し、炎の男を即断拒否し、水の男は焦らした上で突き返しですからそれで変な噂が立って恐れられてるだけですけどね。本当に誰にも言い寄られていないエッヒネ様とは違います」

 「エッヒネ様はどうして?」

 「エッヒネ様が主導になったのは遅かったからですね。それだけですよ。逆にあなたは早いですからああなります」

 「その評価は著しく不本意なのですが」

 「ですから二人では済みませんよ。いえ、四人でしたね」

 

 

 

 

 

 2節 就任


 「ユッミルはどの程度見えるの?」

 「ここはかなり高いですから結構見えますよ。全てが見える訳ではないので全体のどれ位とか伝えづらいのですが」

 「私はここからだと魔族領の手前までしか見えません。草原の半分以上は見えますが。ネメッカ様は辛うじて魔族領が視野に入るそうですが」

 「それよりは遠くが見えてますよ。魔族の前線ははっきり見えています。もう少し引かれると見えにくくなりますが」

 「ユッミル、私も側近かつ側室が相応しい気がしてきました」

 「では誰が主宰と正室を務めるのですか?」

 「いえ、困りますから頑張ります」

 「今は良いですけどね」

 「あの、ご挨拶が遅れましたが土の幹部の一人キーハと申します。主導様より十分な実力をお持ちと伺っております。今般の様子を見てお噂の主宰としての指揮所担当引き継ぎをユッミル様としてお受け頂いたと判断いたしております。今後ともよろしくお願いします」

 「水としては指揮所引き継ぎと関係無く良好な関係を望んでおりますのでお忘れなきよう」

 一拍遅れて指揮所は騒がしくなる。

 「確かに光が主宰をという噂はあったが…」

 「あのネメッカに婚約の噂も出回っていたが…」

 「そういう事か」

 「けど実力云々はどうなんだ?」

 「ネメッカ様が落とされたとかか?」

 「ユッミル、正しい認識が広がりそうですよ」

 ネメッカはユッミルに寄っていく。

 「いや、前の魔族襲来でそれなりに強い範囲雷撃で助かったってその時、下で待機してた奴が口を揃えてるらしいから最低限の実力はあるらしいぞ」

 「まあそうなれば光の新主宰とその雷撃を使った奴が同一人物と考えるのが妥当だよな」

 「その雷撃の噂自体は確かなのか?」

 「私は見たわよ」

 「俺も出くわしたぞ。姿は見てないけどな」

 「ってかネメッカ様の態度ってそういう事じゃないのか?」

 「まあ無いとは言えないか」

 「何か分かりませんが本人がいるのによくも」

 「ルーエ、駄目ですよ。」

 「そうです、酷い言いかがりですよ。騙すだけなら子供まで作る必要は無い」

 「そうですね、仮に騙しているとしても光の団に対してはこの上なく誠実ですね」

 「あの、騙してませんからね。ユッミルだけは分かっていて下さいね」

 「ここで言い合いをする気はありません」

 ネメッカは不満そうに口を閉じる。

 時間を終えると火の幹部等と交代する。ユッミルは家に帰ろうとする。

 「ユッミル、今日は来てほしいです」

 「それは困ります」

 「でしたら私が行きます」

 「それは構いません。ルーエさん、連絡お願いします」

 「仕方ありません」

 ネメッカとユッミルは家に入っていく。

 「ユッミル、私って嘘っぽいですか?」

 ネメッカは誘惑では無く泣きつくようにユッミルに抱き付く。

 「まあ外から見るとそう見えなくは無いかと」

 「お帰り、ユッミル。遂にそいつと別れたの?」

 「それは無い」

 「どうすればいいの?ユッミルと仲良くしたら駄目なの?」

 「いえ、してもしなくてもあまり関係は無いかと」

 「だったらユッミルからもしてくれれば」

 「それはそれで逆効果かと」

 「どうしようもないの?」

 「これに関してはそうですね。どうしてもそういう印象は拭えません」

 「ならもういっそ…」

 「待って下さい。イーサさんに相談しましょう」

 「いえ、私の評判はいっそ構いません。ユッミルが男らしく私を口説いた事にして噂を撒きましょう」

 「嘘は無理ですよ」

 「嘘?なら真実はどうだと言うのです?ユッミル?」

 「ネメッカ様が勧誘してユッミルが入団して主宰となってその間に婚約して子供まで作った」

 「そうですね、ユッミルを誘惑したのは事実ですし仕方ないですしユッミルに好意を持たれている事は認識されていますから後は私もユッミルに好意を持っていると認識…私、そういう態度でしたよね?」

 「ですからそれが打算というか見せかけと見られている訳です」

 「でしたらユッミルが私につれなくしてそれでも私が食い下がれば…」

 「いえ、それだとみっともない打算に変わるだけです」

 「手は無いと?」

 「いえいえ、時間が経てばネメッカ様が飽きて解決…」

 「ユッミル」

 「冗談ですよ。時間が経てば打算という疑いは晴れますよ」

 「まあ僕が女に騙されやすいという評判はどうにもなりそうにありませんが」

 「それこそ私が婚約を長い間維持すれば問題無いです」

 「そうですね、多少はましになりますね」

 「ユッミル、夕食食べてきたの?」

 「いや、まだだけど。そうだね、食べようか」

 夕食を終える。

 「ユッミル、今日は急なので着替えを持ってません」

 「知ってますよ。ネメッカ様、そんな事ばかり言ってると腕を床に縛り付けてネメッカ様が恥を晒すまで色々してしまうかもしれませんよ」

 「そんな事は縛らなくてもやられたら抵抗しませんよ。多分、その前にユッミルはやめてしまうでしょうけど。ただ、今日はこのまま寝ます。ところでユッミルは私にどんな格好で寝て欲しいのですか?」

 「格好はともかく腹を冷やすな。そこに余分に布を被せろ。圧を掛けたくないから抱かないが君に愛想をつかした訳ではないと理解してくれ」

 「で、メシャーナちゃんを抱いて寝るんですか?」

 「そうです。そろそろ私を襲うべきです」

 「ミーハ、分かってるけどネメッカ様がいるし今日は困る」

 「なら明日も私が泊まればユッミルは悩まなくて済みますね」

 「ネメッカ様、それは無理です」

 「だって。ユッミル、寝よっか」

 「そうだね、おやすみ」

 「あっ。でもメシャーナちゃんも状況は同じ。どうして私だけが駄目なんですか?」

 「それはネメッカ様は時折強く抱きたくなってしまうので寝ててそうなると良くないかと」

 「良いんですよ、私は抱き心地が悪いんですね」

 「そうですね、ネメッカ様が魅力的なので心が落ち着きません」

 「分かりました、もう少しこの状況を楽しみますね」

 翌日、ソヨッハは正午過ぎに一人で戻ってくる。

 「やはり駄目でしたか」

 「はい」

 ユッミルは午前の指導を早めに切り上げて戻っていた。

 「でしたら後、数日で駄目ならネメッカ様に頼むしか無さそうですね。しかし、どう探せばいいかいよいよ分からなくなって来ましたね」

 「私は午後から塔に行きます。今日は帰らないかもしれません」

 「そっか、行ってらっしゃい」

 ユッミルは塔に行くと所在無くネメッカの執務を見学している。

 「ユッミル、部屋の事ですか?」

 「まだ決まらないですね」

 「ユッミルは私の懐で寝てれば良いと思いますがそれだと解決になりませんよね。ですけど急に事態を進めたのは私です。気にせずじっくり探す為に当面は代わりを用意する事も可能ですから気軽に願います」

 「大丈夫ですよ。まあ上手くはいっていませんがそれよりもネメッカ様が優しいので忘れていましたが人に上手く頼み事はできませんね」

 「信頼関係はすぐにはできませんよ。私はユッミルから見れば数度会っただけでと思うかもしれませんがエッヒネ様と行動しているのは知ってましたし例の雷撃も聞きましたからね。ユッミルを勧誘しようと思ったのはその雷撃の噂ですから。もしユッミルが魔族軍を独断専行で切り崩してその後に威張り散らして光に入ろうとしたら入団は受け付けたかもしれませんし主導は譲ったでしょうけど求婚はしてませんしましてあんな行動をとったりはしませんでしたよ」

 「ありがとうございます、もう少し頑張りますね。まあ今日はもう遅いのでしばらくして素直に帰りますけど。無性の街は少し遠いですね」

 「そうですね、人手不足なのですが言っていられませんね。ユッミルもいる事ですし」

 「ネメッカ様?」

 「ユッミルは今は気にしなくて良いです、上手くいったら報告します」

 ユッミルが家に帰るとソヨッハはいない。

 「そう言えば今日はソヨッハ、塔に泊まるかもしれないらしいよ」

 「それを言ってどうするんですか?」

 「えっと、聞いたのは僕だったしね。深い意味は無いよ」

 「そうですか。メシャ、ユッミルと遊んでいい?」

 「何を言って…」

 「駄目だよ」

 「けどこのままだと三番手は炎だよ」

 「分かってるけど光のおばさまが強いし問題無いわよ」

 「そう、まあ関係無く行くけど」

 ミーハはユッミルの手を取る。

 「そろそろ諦めて終わらせましょ?」

 「言いたいことは分かるけどね」

 「分かってます、悪いのはラーハ様ですよ。毎晩あんな感じで情も何も無い。けど気分は悪くは無いですよ、お互い」

 「悪かったらやめるでやりませんか?」

 「えっと、ロコッサもいるけど?」

 「まあメシャにもロコッサにも恥ずかしい所は散々見せてるし」

 「私は見てません。布団を被って見ないようにしますのでちょっと待って下さい」

 「あれ?ソヨッハ?今日はこっちなの?久しぶりね」

 「話してたら遅くなったからね」

 「向こうの主宰さん、心配しないの?」

 「ちゃんと言ってあるから」

 「それでどうなの?」

 「結構連れまわされてる。二人も多いから信頼されてる感じで悪くは無いけど」

 「で、付き合ってるの?」

 「そっちに関してはユッミル様がネメッカ様を優先してるしあんまり」

 「まあそうするしかないよね。けどユッミル様はネメッカ様ばかりって訳にもいかないしソヨッハも多少ははっきりした方が良いよ」

 「まあ考えておく。ユッミル様は別の事が優先みたいで私はまずそれに協力する」

 「ミーハ、悪くは無かったけど見苦しい姿を見せた気もする。思ってても良いが態度には出さないでくれ」

 「それは私も同じ。お互いに黙っておきましょう。ラーハ様にも細かい事は報告しません。それに見苦しいとは思っていませんから」

 「僕も悪い印象は無いから心配しないで」

 翌日、ユッミルは塔に行くが仕事は無さそうなので森を散策して昼前に塔に昼食に戻る。

 「私は午後から塔ね」

 「ごめんなさい。まだ見つからなくて。ですが塔の任務自体は私が代わりましょうか?」

 「そんなつもりではないのよ。ただ、今日はリッネと交代だからユッミルを行かせたくないの」

 「それはありがたいですが私が任につけば避けられません」

 「分かってるけどね。少しでもユッミルの負担は減らしたい」

 「ありがとう、ネメッカ」

 「気にしなくて良いですよ」

 ユッミルは早めに帰る事にした。帰るともうソヨッハは戻っている。

 「ユッミル様、明後日は予定はありますか?」

 「まあソヨッハと側近探しの続きをしようと思っていたけどソヨッハが他に用事なら構わないよ」

 「でしたら木の方で探しませんか?木の近くに私よりも詳しい人が協力してくれるので」

 「大丈夫ですか?」

 「はい、木の団としても木の術師を探したいですし」

 「では分かりました」

 「ユッミル、またソヨッハとお出かけなの?」

 「メシャちゃんはいつも一緒に寝てるから良いけど同じ立場の私は?」

 「ミーハは後から来たからソヨッハを少し優先。それに今回の話はミーハに向いていない」

 「うん、忘れてなければそれでいい」

 翌日はミーハとソヨッハと共に二人の少女と少年を訓練したがあまり向上しなかった。ソヨッハとミーハを家に帰すと昼食の時間だったのでユッミルと少女達は食事をとる事にした。

 「ユッミル様、ご一緒しても良いですか?」

 「構いませんよ、イーサさん」

 「どうですか、調子は?」

 「まあ急いでも仕方ありません」

 「その話ではない方ですが」

 「そちらも答えは同じですよ。強引に連れてきても長くは続きません」

 「でしたら内部から、ネメッカ様に頼む形が好ましくないのであれば私が選定しましょうか?」

 「それは最終手段ですね」

 「そろそろ雨季ですね」

 「雨季?」

 「ユッミル様はそうでしたね。そこもですか。後数十日もすればこの地域は雨が降ります。早ければ十日かもしれません。その時期は狩りが低調になり、魔石の生産量も減らします。報酬の分配も一定程度減りますが代わりに手も空きますので対応は様々です。」

 「ああ、そう言えばそうでしたね。雨が続く時期、では私はネメッカ様の小間使いですね」

 「まあユッミル様は下級魔石でも売れば問題無さそうですけどね。それに主宰である以上報酬は減っても十分ですよ。そもそもユッミル様は報酬以上の利益を出してますよ」

 「ですが雨は厄介ですね」

 「はい、ですから宿舎に泊まる者が増えます。朝食もこちらで食べれば減った報酬分を節約できますから。他には無性の街に出稼ぎに行くものもいます。光術の家庭教師もありますよ。数は少ないですがネメッカ様に憧れる少女もいなくはない。実際問題として現状の光に女性が多い理由はそこにもあります。」

 「まあ確かに追いかけられる前のネメッカ様には揺るぎない慈悲深さと理性を感じていましたしね」

 「ユッミルはその理性を捨ててしまう程魅力的という事ですよ」

 「捨てないで下さい」

 「もう遅いですよ」

 「ネメッカ様、ユッミル様に一度宿舎で寝てもらおうと思いますが構いませんか?」

 「は?イーサ、何を言っているの?」

 「いえ、ユッミル様が他の団の女性とばかり親交を深めている状況を危惧しています」

 「それはそうですが」

 「大丈夫ですよ。ユッミル様はネメッカ様の事もまだ疑ってますが他の人の事はもっと疑うでしょう」

 「仕方ないですね。ユッミル、いつでも私の部屋に逃げてきて良いですから」

 「宿舎で寝るだけですよ。それとすぐではありません」

 「いえ、雨季の前に一度寝てもらおうかと」

 「今日は無理ですよ。明日は用事があるので明後日の夜にします」

 「そうですか、お待ちしております」

 ユッミルは早めに帰宅した。

 「ただいま」

 「良かった、早くて」

 「ソヨッハ?」

 「あの、明日は早いので木の団の宿舎に泊まりませんか?主宰様からの提案ですので許可はとってあります」

 「光の主宰が木の団に泊まるって大丈夫なの?」

 「ええ、ユッミル様の業績と存在は一定程度知れ渡っていますがお姿はまだ知られていない」

 「それはそうですが。ただ、構わないというのであれば特に断る理由も無い」

 「ユッミル、ソヨッハは小さいと言っても子供、それに木の団には他にも女がいる。駄目」

 「大丈夫だよ。ネメッカ様の許可を得ずには何もしないよ」

 「私は言いません。ユッミル様を裏切りませんから」

 「ソヨッハ、大丈夫だから」

 「メシャちゃんは良いでしょ。ユッミル様の第一子なんだし」

 「ミーハさんは余裕みたいですが木の団の人達には魅力的な方もいます。ユッミル様は明日私以外を連れて帰るかもしれませんよ」

 「ソヨッハも十分魅力的だから。ただ、幼いのは幼いからね。」

 「そんなに子供っぽいですか?」

 「それと最大の理由はラーハ様とシーリュノ様だよ。ラーハ様は何もしないと静かに怒りそうだからね。」

 「こういう形ですからシーリュノ様も望んでいないとは…」

 「まあじっくり判断するよ」

 ユッミルとソヨッハは木の塔へ向かう。着いたのは夕食時で流れで夕食をとる事になる。

 「ユッミルさん、今日はこの時間だし泊まるようだね。ソヨッハとはいつもどんな感じなんだい?」

 「親睦を深める為に一緒には寝てますがそれ以上は何も無いですね。昼間は術で大分助かってますけどね」

 「パータナさん、あなたこそ誰か良いお相手いないの?」

 「木って主導はともかくユッホのせいで荒いのが増えてるからなあ。そこのハシュルなんかはその筆頭。ユッミル様みたいなのは中々いないから人気かもなあ。ソヨッハも…」

 「誰もお前の好みにはなりたくねーよ。エッヒネ様に好かれるなら大歓迎だが」

 「ですがエッヒネ様はお年を召しているという印象が無いですか?」

 「はあ?お前は小さいのが好みなのか?だが俺はむしろあの位が一番だ」

 「いえ、ですが私はそのエッヒネ様に直接そういう事を言われてしまったので」

 「は?」

 「あの、ユッミルと言います。エッヒネ様とは何度か組んだ事がありますので」

 「え?」

 「ハシュル、相当馬鹿な反応ね」

 「とにかくエッヒネ様はあまりそういう積極性はない様です」

 「ですがユッミル様とエッヒネ様はそれなりに関係が良好と聞きましたよ。それにこちらの主宰にも気に入られてますし」

 「ユッホさん、私を権力者にすり寄る男みたいに言わないで下さい。確かにリッネ様にはすり寄ってますが」

 「リッネ様と頻繁に会ってるんですか?」

 「いえ、自分から会いには行きませんよ」

 「なら良いです。それよりクッミネも一緒に」

 「まああの人は術無しでもユッホより強い」

 「そうだけど術ありならユッミルさんは渡り合えると思う」

 「ユッホ、この人は?」

 「ユッミルさんよ」

 「ああ、名前は今聞いて…」

 「そう、次の光の主宰よ」

 「ネメッカ様が勝手に決めた事ですけどね」

 「相応の実力者と聞いていますが」

 「珍しく雷撃系が使えるだけですよ。あなたも弱くはない様ですね」

 「ユッホさんに比べればまだまだです」

 「確かにユッホさんは強い。主宰様が手元から離さない訳だ」

 「ユッミルさんが頼んだら動かしますよ」

 「いえいえ、そんなシーリュノ様の機嫌を損ねる様な事はしません」

 「ですがユッミル様が指揮所に行くのであれば会う機会はありますので宜しくお願いします」

 「そうですね。パータナさんも幹部でしたっけ?」

 「シーリュノ様のお付きですし剣や体術には自信がありますが術の面では弱いので幹部ではありません」

 「ユッミル様、この度はご招待をお受け頂いて感謝しております。そして、こちらが幹部のセニャーテとモープです」

 「初めまして、ユッミル様」

 「モープだ」

 「こちらこそ初めまして」

 しばし沈黙する。

 「あの、シーリュノ様。何かご用ですか?」

 「いえ」

 「えっと、シーリュノ様の動向を把握している訳ではないのでご挨拶が遅れて申し訳ない」

 「私は確かにユッミル様の様子は見に来ましたが挨拶を催促している訳ではありませんよ」

 「それは良かったです」

 「ユッホ、私が来たからと言ってユッミル様と話すのを遠慮しなくても良いんですよ」

 「そんなつもりは無いのですが。」

 「そう言えばモープさんはどういった術が得意なのですか?」

 「放出系の範囲成長術ですね。」

 「つまり、魔力消費と効果が比例しないという事ですか?」

 「ええ、月の術にも放出系は多いですよ」

 「ところでシーリュノ様はリッネ様についてどう思われますか?」

 「優秀で傲慢でもありませんがどうも魔族についての関心が強い。意図が読めない面もあります」

 「私も関心はあります。魔石は興味深いですから」

 「油断なさらぬよう」

 「リッネ様も魔石ですかね?」

 「分かりませんがまだ強くあろうとしています」

 「私もですよ、シェンハ様も鍛えていますし主宰級は魔族と対峙する事も多いですから」

 「いえ、あなた方三人は一段違います。私達主宰でも魔族領に単独では向かいません」

 「私は向かった事は無いですが」

 「多数の中級魔族に万が一追われても逃げ切る力は土の主導やエッヒネ様にもありません。正直言ってあなた方三人が組んでしまうと残りの術師では手におえない。あなたとシェンハ様の関係はリッネ様を抑えるのに良い反面、リッネ様に共に寝返られるとリッネ様の目的次第では困ります。」

 「ですが私はリッネ様に組み伏せられて従わなければ殺すと言われたらどうすればいいのです?」

 「そうならない為に私が指導しているんですよ」

 「ですがリッネ様がいくら陰らせてもユッミル様の術の威力は下がっても強い。」

 「雷系の場合、貫通性も追尾性も持続性も弱い。動きの速いリッネ様には接近無しに攻撃を当てれない。接近すれば強い陰りになる」

 「街中であれば逃げ場が無く雷撃で挟み撃てばいい」

 「狭い路地であればですよそれでも簡単ではない」

 「ですがそれ以上にリッネ様は簡単に手出しはしませんよ。ですからあまりリッネ様の誘いに乗らないという事で願います」

 「それは理解していますが月は隣です。全く関知しないは無理でしょう」

 「分かっています」

 ユッミル達は夕食を終えて宿舎に向かおうとする。

 「ユッホさん?帰らないのですか?」

 「えっと今日はユッミル様がいますので」

 「それは…」

 「問題が起きない様にパータナがユッミルに失礼をしない様にとかですね」

 「ユッホ、その言い草は酷い」

 「まあ万が一ですよ」

 「ですがユッホさん、ユッミル様と一緒に寝るのですか?」

 「まあそうですが私はあまり女性らしくないですし関係無いですよ」

 「そんな事はありませんがシーリュノ様の機嫌を損ねるので手は出ませんよ」

 「ユッミル様、ありがとうございます」

 

 

 

 


 3節 側近


 「ユッホさん、月の内情についてどの程度ご存じなのですか?」

 「人間関係は主導と主宰が良好で幹部と主導は特に悪いとも良いとも聞きません。主導の実力はユッミル様の見立て通り相応ですが主宰の実力は不明です。幹部の実力は土や炎に水には劣ると思います。そして、月の活動としては私達と一緒で剣の鍛錬を積んでいるものが多いと聞きます。しかも扱う武器の種類は多様。ただ、外部と鍛錬で交流はしないので具体的には分かりません」

 「なるほど、術師としては並だが武術か」

 「ええ、まあ月は術による攻撃手段が弱いので表向きは合理的ですが」

 「そうですね」

 「しかし、リッネ様の力の入れようがかなりという噂もあるのです」

 「ありがとうございました、では寝ましょうか」

 ユッミルはソヨッハを抱き寄せて眠りにつく。

 ユッミルが目覚めると背中を誰かに抱かれている。確認するとユッホであった。ただ、よく見るとパータナに押されている。

 ユッミルはソヨッハ達を起こさない様に抜ける。

 木の塔を出るとそこには木の主導ツーシュンが植物を見回っている。

 「ユッミル様、お久しぶりです」

 「ツーシュン様、ご無沙汰しています」

 「ですがあの時はあくまで会議、お話しするのはまだなので今、宜しいですか?」

 「構いませんよ」

 「一応、木の団としてはユッミル様との関係はシーリュノの側近が担当していますので疎遠ですがそれはあくまで形式的なものとご理解下さい」

 「それは分かりますが方針が一致するならどちらを窓口にしても同じでは?」

 「いえ、ほぼ同じですが一緒では無いですね。例としては私はリッネ様を警戒していません。むしろシェンハ様やグルード様の好戦性を気に揉んでいます。ネメッカ様への評価が高いのは一致する所ですが」

 「ラーハ様についてはどうお考えですか?」

 「水は共助体に過ぎない。纏まって行動できる規模も統一性も無い」

 「ツーシュン様は木の団というより全体を見ていますね」

 「そうかもしれません。ですがそれはラーハ様も同じ。木や光を不当に邪魔して火や土を敵に回せば団は傾きます」

 「では、ツーシュン様は私がリッネ様と組んでも気にしないと?」

 「いえ、それは想定していないというか目的次第ですね。そう考えるとリッネ様にも無警戒という訳にはいきませんね」

 「それではまた話しましょう」

 「少しお待ち下さい。下級魔石をお持ちですよね?」

 「ええ」

 「では下級術を交換しましょう。私も持っていますので」

 「何を籠めましょう?」

 「お互いに塔で販売していない術にしましょう」

 「そうですか。所でツーシュン様は単独行動が多いのですか?」

 「多くは無いですが主導という立場上弓と両手剣での戦闘も想定しています。事が起これば先頭に立って戦う事も考えています」

 「では見せますね」

 ユッミルはツーシュンと少し距離を取って光を放つ。その光はユッミルの近くから線を描き一点に収束していく。

 「面白いですがどういう使い道ですか?」

 「ええ、これは光ですがこのような軌道で雷撃を打つ術ですよ」

 「そういう事ですか、これは周りに人がいると少し使いにくいですね」

 「ええ、ですから塔では売りません」

 「では私は促進術ですね。これは少し放出系なのですが自分も含めた近くにいる植物を含めた生命の疲労回復や成長を全般的に促進します。効果が曖昧なのと少々強力なので塔では売れません。強力と言っても深い傷は治癒できませんしそもそも傷の治癒効果は低い」

 「使い道は?」

 「夜営等での徹夜向き。植物の成長促進。活力剤としても効果があります」

 「周囲に人がいた場合は?」

 「はい、五人程度まで活力剤を作用させるかと思いますよ」

 「まさか、精力剤では無いですよね?」

 「ああ、それは無いです。少なくとも媚薬の様な効果は無いです。もちろん、元気になった結果そうなる可能性はありますがそれは元々その気だったという事ですよ。単純に言えば夜に眠くないとその気になる人がこの術で眠くなくなったというだけですから心配は無用ですよ」

 「まあ言いたい事は分かりましたが気を付けます」

 ユッミルは塔に戻る。途中でユッホ達が下りてきたので食堂に引き返す。

 「ユッホさん、所でどうやって探すのですか?」

 「あれ?ソヨッハに聞いていないのですか?」

 「ええ」

 「あのですね、木の団は定期的に木の術を無性の街で教えつつ、木の術が有望な子を団に勧誘しています。そこにユッミル様も参加頂いて光の術をお教え頂けないかと。もしかしたら光の術が優秀な子がいるかもしれません」

 「なるほど、構いませんよ。」

 ユッミル達が朝食を終えるとシーリュノやユッホ達側近以外にも幹部数名がいる。

 「結構人多いね」

 「幹部の交代制だから。それで各班毎に数人来てるしね」

 会場に着くと団員は手際よく植物を活用して広場の一角に芝生を生やす。しばらくして時間になったのか子供と保護者が集まってくる。

 「今日は集まってくれてありがとう。さて、木の術が上手くなってお花を育てられる様になろうね。じゃあ早速三班に分かれてと言いたい所だけど」

 「ユッホさん、意外に明るいね」

 「それよりも」

 ソヨッハはユッミルの肩を前に向ける。

 「ユッミルさん」

 「えっ」

 「4班目お願いしますね」

 「はい」

 「少し元気が無いですけどあの人、雷撃を使えるんですよ」

 「えっ、教えるのは光ですよね?」

 「それは教える相手に聞いて下さい。さあ別れましょう」

 ユッホはユッミルの方に駆け寄ってくる。

 「ユッホさん、雷系の初歩術なんてどれなのか分からないですよ。他の人が雷系を使ってる所なんて見た事無いです」

 「まあ私がやってみますから光の初歩術をお願いします」

 ユッホは子供の方を向き直す。

 「はい、この人は光の団の強い人です。見せてもらいましょう」

 ユッミルは光点を使う。かなり威力は抑えている。

 「ふーん、けど本当に光の術師なの?木の人でもできそう」

 「あのねえ、僕が本気出すと目が見えなくなるよ」

 「けどそれは弱すぎ」

 「仕方ないね。これは手本じゃないけど」

 ユッミルは十数個の光点を数秒維持して動かす。

 「えっ、本物なの?」

 「というかそこの木の奴らより凄いぞ。兄さん、何物?」

 「そうだね、もしかしたら光ではあそこの一番強い人と同じ立場になるかもしれない」

 「へー、他には何ができるの?」

 「だからね、やれるものとやれないものがあるんだよ」

 「もう分かったからどんな術があるか教えて」

 「ああ、聞きたいのか?」

 「うん」

 「そうだね、森は知っている?」

 「あの、ユッミル様、街での実用的な術をですね」

 「えっと、実用的かは分からないが」

 ユッミルは姿を消す。

 「ん?」

 「こうやっていつの間にかうるさいお姉さんに目隠しをしてしまう事もできる」

 ユッミルは反応を見て子供受けは良いが大人の反応は微妙だと察知する。

 「まあこんな事ができるのは僕以外だとネメッカ様位ですけどね。お姉さん、雷を作って下さい」

 ユッホが念じるとしばらくして実に弱い雷光が走る。

 「ありがとう、お姉さん。これは寝起きの悪いお子様に使えるから親御さんに見てもらった方が良いかもしれませんね」

 「ユッミルさん、酷い」

 「まあ君らだと木を焦がして印をつけるとか位はできると思うよ。上手くなれば字も書ける。ユッホ、木の板を用意できないの?」

 「じゃあ皆ちょっと石を拾ってきて」

 子供達は散っていく。ユッミルは歪曲視野で子供の様子を見る。ユッホもソヨッハもシーリュノも保護者も遅れて子供についていく。無事に石は集まる。ユッホとソヨッハが半分近くを収集した。ユッホは下級魔石を取り出す。しかも二個である。火の術と水の術の様だ。石から煙が出ると石は軟化していく。その後、土となる。ユッホはその土の上に種を植え、自分の術を使う。

 「姉ちゃんもすげえ、いつもうるさいだけかと思ってた」

 丈は低いが若木が生成する。

 「ユッミルさん、伐採して下さい」

 「あの、この剣では本来木は切れません」

 「切れますよね?」

 「はあ」

 ユッミルは剣を抜き雷装する。ユッミルは木を薄くスライスしていく。地味に面倒な雷装を制御して切り落とす。子供だけでなく親も驚いている。

 「さあ見本を見せます」

 ユッミルはユッホと綺麗に焦がして見せる。そして、その木の板に剣を突き刺す。

 「ユッホさん、無茶ぶりは程々に願います。雷装剣で木を切るなんていう愚かな要求は消耗が激しい。こんな事を十回以上繰り返せば腕が動かなくなります。」

 「ですけど板は十数枚。五班に分かれたので実演分も含めると後、十枚はいりますね」

 「それ位なら…」

 ユッミルは誰かが駆け寄ってくる音で振り向く。小さな子供に抱き付かれている。

 「もしかして雷使いの人?」

 「えっと」

 「ううん、雷使いの人を教えてくれるだけでも」

 「えっと、雷使いの人って?」

 「うんとね、姿を消して魔族軍の中に忍び込んで自分の周りに雷を撃って魔族軍を撃退した人」

 「あの話はここまで来るとここまで変わるのか」

 「何か知ってるの?」

 「うん、残念だけどそこまで凄い事はできないかな。魔族は匂いで人を察知するから姿を消しても忍び込めないんだ」

 「けど雷使いの人はいるって聞いたよ」

 「それはいるよ。少し時間を掛けて雷雲を作って雷を落としているだけ」

 「じゃあ雷を撃てるの?」

 「ここだと街を壊すから無理だけど」

 「私、ミヨーナ。光の団に入りたい」

 「えっと、光の術を使えないと無理なんだけど」

 「使えるよ」

 ミヨーナは光点と光射を見せる。

 「まあそれは良いけどお母さんは良いって言ってるの?」

 「待ってて」

 ユッミル達はとりあえず木と光の青空教室を継続する。しばらくすると母親どころか父親まで連れてくる。

 「えっ」

 「あの…うちの子がいきなりすいません」

 「いえ」

 「それで光の団には入れるんでしょうか?」

 「可能ですが入るのですか?」

 「入るとどうなるのですか?」

 「えっと、魔石はご存知ですか?」

 「はい、術が入ってますよね?」

 「光の場合、その術を入れるのが基本的な仕事になります」

 「できるのですか?」

 「はい、ですから入れますと言ったんですよ」

 「後の仕事は人によります。なんというか少し裕福な暮らしがしたければ狩りへ参加したり、魔族軍に備える指揮所の防衛番等という手もありますがそれは自主的です。光は安全重視でそういう事に消極的なので裕福は中々難しいですけどね」

 「あなたは随分、良い仕立ての剣をお持ちですが」

 「良心的な装備店なのですよ。もちろん、光の中では強い方ですよ」

 「雷の人の手下になりたい」

 「手下って…けど、お父さんとかと話さないと駄目だよ」

 「いえ、私としても強い反対は無いのです。この街はあまり好きではない。それに娘のいう事も馬鹿では無い。この街で成長しても何というか上手く勉強して有力者に取り入らないといい仕事にはつけない。ですから娘が光の団に入りたいと言っても止める言い分が無いんですよ」

 父親は苦笑いをしている。

 「事情は分かりましたし途中での退団も可能なので問題は無いですけどこの子は一人で暮らせますか?」

 「それは大丈夫です。私達も引っ越しますから」

 「えっと、確かに光の近くにも家はありますが術師以外には不便ですよ」

 光の塔の近くの店は疎らに存在するが販売価格や利用料は術師にだけ安い。食品等はそこまでではないが高い店は多い。その原因は光術師以外の人が少ない事にある。

 「いえ、むしろ人は少ない方が良い」

 「あの…娘さんは良いですが仕事が多い訳ではないですし外部の仕事の紹介まではできません」

 「それは問題ありません」

 「では娘さんには主宰の部屋の掃除を担当してもらおうかと考えているのですが?」

 「掃除ですか」

 「それでいつ引っ越して来られるのですか?」

 「三日か五日程ですね」

 「随分早いですね」

 「はい、常々考えてきた事なので」

 ユッミルはソヨッハと半信半疑で帰宅する。翌日、とりあえずロコッサを塔の主宰部屋の管理担当として掃除を任せる事にする。ユッミル自体はまた訓練に付き添う。夕食はネメッカと共にし、趣向を変えるという体で手を繋いで寝る事にしたが流石に起きると解けていた。

 翌朝、ネメッカの指揮所への出勤を見送って家に戻る。

 「ロコッサいないと少し寂しいね」

 「そうだね」

 「けどユッミルはむしろ会う時間は増えたし邪魔者の私達もいない。ネメッカの所に泊まると言って密かに一緒に寝る事もできる」

 「何が言いたい?」

 「ロコッサが一番のお気に入りでもおかしくない行動かなって」

 「塔の中の仕事に他の団は入れれない。無所属もだよ」

 「そうだね。分かってるけど心配」

 「いや、もう少し好かれてる子が良いと思う位ロコッサには懐かれていない。メシャはともかくミーハやソヨッハもそれなりに仲良くなれたけど」

 「ユッミルは気に入ってるし向こうもだよ。お互い気づいてないけど」

 翌朝、ユッミルは塔に近づくが騒がしいので中を探るとミヨーナとネメッカが言い合っている。

 「確かにユッミルの部屋の掃除係は必要ですがあなたである必要は無い。入団は認めるかもしれませんが」

 ユッミルは慌てて割って入る。

 「ネメッカ様、どうかされましたか?」

 「はい、この子がユッミルの部屋の管理を頼まれたと言い張るのです」

 「ええ、私が頼みました」

 「ユッミル、どうして言ってくれないのですか?」

 「この子が来てから話そうとしたのですけど」

 「ね、だから良いよね?」

 「それは構いません。ユッミルの意向には逆らえません」

 「ネメッカ様、そういう事は言うべきではない。主導はあなたです」

 「でしたら反対ですけどね。あんな事を憚らずに言う子は嫌です」

 「何かネメッカ様の悪口を言ったのですか?主宰へ嘘ばかりで嘘の達人とか?」

 「ユッミル。まあユッミルの冗談は今や可愛いですけどそれよりユッミル、この子に与えた仕事をこの子に聞いて下さい」

 「えっと、ミヨーナは何しに来たの?」

 「主宰さんの部屋の掃除」

 「そうだね、お願い」

 「それと添い寝」

 「そんな仕事は無い」

 「そっか、ネメッカ様って他の女を認めない感じなのか。だったら黙って抱き合おうね」

 「ユッミル」

 「そんな事は要求しないから」

 「そうだった。ネメッカ様のいる前ではそういう事にしておかないと」

 「そうだね」

 「ユッミル?」

 「ネメッカ様、相手は子供ですよ。しかもメシャより下です。問題ありません」

 「分かりました」

 ネメッカはミヨーナの方を向く。

 「とにかくあなたはユッミルの主宰部屋の管理とユッミルの世話を願います」

 「最初からそのつもりだよ。よろしくね、主導様」

 ユッミルは主宰の部屋に向かう。

 「こちらはロコッサ、部屋は君とロコッサが交代でゆっくり掃除をして終わったら好きに休憩していいよ。当番は決めるけどそうじゃなくてももう一人の邪魔にならない様にいても良い。僕は適当に来るから」

 「ここに住んで無いの?夜は来るよね?」

 「毎日ではないかな。雨季は泊まる日も増えるけどね。けど家に帰らないの?」

 「相談する」

 「無理しなくて良いよ」

 ミヨーナは少しだけ掃除をするとイーサに連れられて魔石製作の説明を受けに行く。

 「もし駄目なら私が毎日泊まるんですか?」

 「えっと、それは無い。その場合はネメッカ様に頼むよ。まあ僕が一人で泊まる日数を増やしても良い。確かにミヨーナだと昼の負担は減らせるけど夜はルーエさんにも頼まないと。けどルーエさんは宿舎よりここで一人の方が快適だろうし問題は無いよ。けどもう一人位いた方が良いかも」

 「ごめんなさい」

 「えっと、ロコッサは悪くないのだから謝ったら駄目だよ」

 「悪いのはネメッカおばさんだよ」

 「ユッミル、私は耳も悪くないんですよ」

 「はい、いるのは知ってましたよ」

 「えっ」

 「あくまでロコッサから見ればおばさんと言う話で私はそんな風には考えていません。現にもう惑わされてしまってますしそんな考えをしていると疑う理由は無いでしょう」

 「ですが私は現に太ってそれからは誘っても乗りませんし」

 「それは分かっているでしょう?」

 「そうですが長いですね。それでですが明日の指揮所はどうします?」

 「そうですね、私が一人で向かいます。今日はロコッサを連れて帰るのでこの部屋をお願いできますか?」

 「大丈夫と分かっていますが何か嫌な言い方ですね」

 「大丈夫ですよ。礼儀に適うならソヨッハには手を出すかもしれませんがロコッサにそれは無い。本来、子供には手を出しませんよ」

 「真剣にイーサに相手をさせようかしら?」

 ミヨーナは帰宅し、ユッミルもロコッサを連れて帰宅する。

 「ただいま。明日は指揮所でその後はネメッカ様の所に泊まるね」

 「ユッミル、それはどういう意味?」

 「明日は遅いし最初は報告もした方が良いと思ってね」

 「そうだね、どうせ私は単なる居候で残り二人も押し付けられた同居人」

 「メシャは立場が弱いから僕に抱かれても文句を言わなかったんだね?」

 「そんな事無いけどユッミルはずるいね」

 「けどいよいよ正式に主宰だからもしかしたら同居人は増えるかもしれない」

 「ちょっと何それ?」

 「相手によっては断れないよ。けどまあ連絡係みたいな人かもしれないけど」

 ユッミルはミヨーナと訓練対象の団員三人と森で訓練する。ミヨーナがそれなりなのに対し、相変わらず三人は上手くいかない。ルーエに迎えに来させてソヨッハとミーハと四人とは森を出ると分かれてユッミルは指揮所に向かう。指揮所には珍しくバッソーや水の幹部等がいて交代する。後から氷の幹部の男とツーシュンに近い木の幹部も合流した。

 ユッミルが捉えた魔族領では魔族の動きは活発どころか少し退く動きも見えている。ユッミルはそこそこ退屈さを覚えている。

 「ユッミル様、状況はどうですか?」

 「ああ、はい。活発さは無いですね」

 「草原に敵は見えないですよね?」

 「それはそうですよ。草原に出る様子もありません」

 「なるほどただ確かめる術がないか。ありがとうございます」

 ユッミルは視野を移していくが異常はない。たまに街を見ても異常は無い。

 指揮所での任務を終えると塔に戻る。ネメッカの部屋の扉に近づく。

 「どうぞ」

 扉は確かに開いていて入ると若干湯気が見える。目線を動かすと少し下の方に湯気の出所があり、そこには見慣れた髪の女性がいる。少なくとも上半身は何も着ていない。

 「ネメッカ様、これはどういうつもりですか?」

 「ユッミルのお好きな様にして下さい」

 「分かりました、お望みとあらばお見苦しい姿であろうとお見せしましょう。疲れてますので色々我慢できないですがお許し下さい」

 「ユッミルいないとつまらない」

 「そうね、他には興味無いし」

 「ソヨッハはそんなに気にして無さそう」

 「いえ、私は昼間に森でやってる事で満足ですから」

 「まあ私も今日は悪くなかった。昼からは退屈だったけど。それよりユッミルがあそこまで強いのっていつからなの?」

 「私が最初に会った時には十分強かったよ。それで助かったし。まあ炎の人達と関わるまでは私以外には力を見せなかったけど」

 「ラーハ様はそれを評価してるのよね。よく分からないけど安易に力を使うのが嫌いらしいわ」

 「けどユッミルはラーハを怖がってるよ」

 「まあ私も怖く無い訳じゃない。水じゃなければ関わらなかったよ。でも意外と誠実よ。敵以外には」

 ユッミルは翌朝さっさと帰宅すると朝食に合流する。食べると寝ようとする。メシャーナとソヨッハが添い寝するといつも通りメシャーナを抱く。

 「どうしたの?」

 「ネメッカ様と別れるかも」

 「ユッミル、遂にネメッカを蹴散らす事にしたのね?」

 「そんな事はできない」

 「なんだ」

 「いや、」

 扉を叩く音がする。

 「あの、ユッミル?いますよね?」

 「そっとして下さい」

 「誤解は早く解きたいです」

 「遠慮します」

 「なら別れたいので開けて下さい」

 ユッミルは扉を開ける。ネメッカは家に入り、扉を閉めるとユッミルを押し倒す。

 「ユッミル、こんな嘘に引っ掛かるなんてやはりおかしいです。そんな状態なら仕方ないですが早く昨日の夜の様に戻って下さい」

 「その昨日の夜に恥ずかしい姿をお見せしたから合わせる顔が無いんです」

 「ただ、疲れて気が抜けて赴くままに私と湯に浸かり、私が軽く抱きながら肩や首をほぐしたらもっと気が抜けて私が強く抱いても愛らしい表情で話しかければ私の話に丁寧に同意してくれました。それの何処が問題なのですか?問題があるとすればその後はさっさと服を着て寝てしまった事です。」

 「いえ、私は疲れているからとネメッカ様に介抱を強要してその上、ネメッカ様がお優しいのをいい事にネメッカ様の体を無造作に執拗に触り、ネメッカ様の話を全く聞きもせず寝てしまいました。しかもその間、ネメッカ様の温もりで一人とても気持ちよくなってしまい、非常にいやらしい表情をネメッカ様に向け続けていましたからもう顔向けできません」

 「ユッミル、確かに私もユッミルに気の抜けた姿は見せていませんね。ですから分かりますが私はユッミルとの関係を断つ気はありません。そんな考えは昨日からも一切ありませんがユッミルは違うのですか?」

 「そうですね。錯乱してしまいましたが私から断つ気はありません」

 「ですが私は気を抜きません。私の場合は今は駄目な気がします」

 「そうですね。私も昨日のネメッカ様には驚きましたがご迷惑を掛けると思っただけで私が不快だった訳ではないです。ただ、ネメッカ様が不快なら気を付けます」

 「そういうと言う事は私が疲れてお風呂に入れてもらうと迷惑という事ですね」

 「えっ、あっ。それは迷惑と言うより危険です」

 「いえいえ、むしろそういう行為はユッミル様が中々してくれないので私の声や行動が邪魔なら術を使って寝てる時に勝手にやってくれても良い位ですから問題無いです」

 「ネメッカ様、お気遣いありがとうございます。もう大丈夫ですから」

 「気遣いでは無いですよ。まあでも今は良いです。ただ、終わってもユッミルが動かないと私のみっともない姿を見る事になるかもしれません」

 ユッミルはその日は遅れてネメッカに連れられて塔に戻る。夜は試しに主宰部屋に泊まる事に決めた。夕食を終えて部屋に戻ると既にロコッサとミヨーナは布団に入っている。

 「一度、出てくれないか?布団の大きさがベッドに合ってるか確かめたい」

 「嫌です」

 「何故だ?」

 「ユッミル様は私達が今、裸でも女の子に全て出せと言うのですか?」

 「そうだね、外に出ろとは言っていないが」

 二人は布団から出る。

 「で、君は何故服を着ていない?」

 「主宰様の夜の相手をすると思って」

 「それはネメッカ様等の大人の仕事だ」

 「今、興味を持って見てませんか?」

 「そうだな、やはり子供だ。それよりロコッサ、どうして止めない?」

 「ごめんなさい」

 「良いから服を着て良いから」

 「あっ、ロコッサには興味ありそう」

 「君よりはだがロコッサに全く気が無いからそんな事は考えないがね」

 「でもユッミルが頼んだら…」

 「ミヨーナ、それ以上はやめなさい。それと君も服を着ろ」

 「だったら今日一晩寝て何も無かったら諦める」

 「何も無いって何?」

 「ユッミル様がこれを狙う事よ」

 「間違って抱いたらそれも駄目なのか?」

 「ううん、下の方で合わせたら」

 「そっか、ならこれは大丈夫だね?」

 「けどこれは失礼じゃないの?本当に子供どころか赤ちゃん扱い」

 「なら抱きかかえるのをやめて放っておこうか?」

 「いえ、私の体を意識させるにはいい」

 「そういうと思った」

 翌朝、ユッミルはいつの間にかロコッサを抱いて寝ていた。驚いて手を離そうとするがロコッサは寝ぼけて抱き付く。しばらくするとロコッサは目を覚ます。

 「あの…私」

 「いや、僕からいつの間にか寄ってしまっただけだよ」

 「なら良かったです」

 しばらくしてミヨーナも目を覚ます。

 「ユッミル様、私の何が駄目なのですか?」

 「駄目ではないよ。ただ、子供なだけ。けど君が寝た後にやっていないとは限らない。寝てしまう君が悪いけど君が確かめていない以上君の負けだ」

 「いえ、結構起きてましたがユッミル様は私をベッドから突き落としロコッサを深く抱き始めたので私の負けです」

 「落としたの?音はしてない気がするけど」

 「私の気分。私はまだ女では無いって事?」

 「そう、まだだよ。それに男は僕だけじゃないしね」

 「まあ良いです。そんな事を言ってられるのもネメッカ様が老けるまで」

 「ミヨーナ、一応ここの主導はネメッカ様だからそういう事は言っては駄目」

 「分かってるよ。私も光術師。今は廊下にいないから」

 「まあそうだけど癖にならない様にね」

 ユッミルが二人を伴って階を降りて朝食に向かおうとするが雰囲気がおかしい。歪曲視野で2階を見るとさらにおかしく階段近くに人が溜まっている

 


4節 月の来訪



「ロコッサとミヨーナは部屋に戻ってて」

 ユッミルは二階の階段の手前に人が溜まっている所を見回す。イーサもネメッカもいない。見るまでも無く一階だろうと考えていた。

 「何が起こっている?」

 「ユッミルさんですか。よく分かりません。月が集団で来ているみたいです」

 「ありがとう」

 ユッミルは剣を保持して警戒しながら階段を降りる。歪曲視野で確認するとリッネもネメッカもいるが互いに距離はある。

 「ないのか?」

 「何の用です?」

 ユッミルは一瞬歩みを止めようとも考えたが階段を下りて一階の受付横に剣を構えて立つ。

 「月の主導リッ」

 リッネはゆっくり間合いを詰めるとユッミルが構える剣に顔を近づける。

 「ユッミル様、ご不快ならこの首に切りかかっても構いませんができればお話をお聞きいただきたい」

 「ご冗談をあなたはそんな事をさせない位容易いでしょう。ですが」

 ユッミルは剣を慎重に下ろして収める。

 「あなたがその気になれば簡単に組み伏せられてしまいますからその程度の要求なら受け入れましょう」

 「お気遣い感謝します」

 何か音がしたのでユッミルが見回すと術師が月射を撃っている。ユッミルの術の威力は全般的に低下していく。ユッミルは一歩下がりながら雷盾を展開するが弱くなっており範囲が狭い。月術師は側面に回す。ユッミルは弱まった雷射を数発撃つ。月術師は長剣で切りかかりつつさらに強力な術でユッミルの能力を下げる。ユッミルは弱まった放雷を放つ。月術師はふらついたのでユッミルは蹴飛ばす。

 「申し訳ない。しかし、あなたは強いですね」

 「いえいえ、あなたには敵いません。ですがあの程度の術師に負ける程は弱くありません」

 「私はあなたの事を慕っているので傍にいたいのですが主導と主宰同士は塔での仕事を放り出す訳にはいかないので叶いません。ですから本日は月の団としてユッミル様の傍仕えを派遣しに来ました。」

 「やはりですか。その割にはどうしてこんな大事に?」

 「私はユッミル様に少し誤解を受けている様なので直接お会いしようかと。そうするとそこの主宰がついて行くと言ったのですが」

 「気にしていませんよ。リッネ様なら剣を抜くだけで姿を隠して逃げますけどね」

 「ありがとう。それでですがとにかく私はあなたと話がしたい。仮面はともかくそれ以外は外せる。鎧も何も身に着けていなければ応じてくれるか?もちろん、私としてもそこの主宰をしばらく帯同させる気は無い」

 「あの、主導の私を抜いて話を進めないでくれますか?」

 「私への意見は構わないがあなたにそこの主宰様に刃向かう意思があるようには思わない。大人しく抱かれておけばいい」

 「いえ、いずれにしてもリッネ様がその気になれば私等即塵と化します。あなたの誘いを断って機嫌を損ねる気はありません」

 「ですからそれが誤解だと言っているのです。そもそもあなたも十分お強い。私が負ける可能性も十分にある。それは土の主導には決して掛けない言葉です」

 「はい、分かっていますよ。あなたに安易な私を害する意思は無いと考えました。でなければ剣は収めていません。ですが私は弱いのでリッネ様と会う際は帯剣を許して頂けると幸いです。あなたが帯剣してない程度で襲えると考える愚か者はこちらで始末します。」

 「それでは本題ですがそれも含めた連絡等を担う者としてこちらのキッシャノを派遣します。定期連絡として数日に一度昼間には月の塔に戻りますが月と光の近さであればそこまで時間は掛からないでしょう」

 「本日よりお傍にいさせて頂くキッシャノです。光の新主宰様よろしくお願いします」

 「はい」

 「ユッミル様、私がいると騒がしいようですから本日は引き上げます。これからもより親密にお願いします。キッシャノは気が利きますから頼って下さいね」

 「キッシャノさん、よろしくお願いします」

 「はい」

 「ネメッカ様、一度戻りますね」

 「あの、今回は私は認めていませんが?」

 「えっ。ですがリッネ様の要求を断れと言うのですか?であればネメッカ様が処置して下さい」

 「それよりもユッミル自身はどうなのですか?この方はお付きとして望ましいのですか?」

 「あの、今日会ったばかりの方なので分かりません」

 「分かりました。では数日程でユッミルの結論を聞かせて下さい」

 「少々お待ち下さい。私は単なる連絡係です。心配なさらずともそれ以上ではございません。リッネ様は評価しているようですが私にとっては単なる光の主宰で一時的な仕事相手です」

 「まあそうですね」

 「ネメッカ様は空気に流されてそうなさっているだけでしょうが光の術師はあまりにも怠慢すぎる。この方もリッネ様相手とはいえ主宰が弱い事を強弁してリッネ様に取り入ろうとする姿勢は見苦しい」

 「それは認めますがあなたはリッネ様が自分に向けて剣を振りかざしても立ち向かえるのですか?私は自信がありません」

 「リッネ様はそんな事をなさらない」

 「いえ、リッネ様が間違ってあなたが街で不貞を働いたと誤解すれば無いとは言えないでしょう」

 「私はそんな事は無いと信じているが言い分は理解した。見苦しいという考えは変わらないが言い立てるべきではないですね。申し訳ない」

 ユッミルとキッシャノは帰宅するがユッミルは昼食を食べると塔に戻る。

 「ユッミル、すぐ戻って何も無いと言いたいのですか?騙されませんよ」

 「ならどうしてこんな事を?」

 「ユッミル、あの子に手を出したらこれを失いますからね?所でこれからどうするんですか?」

 「今日は部屋の様子を見に来た。後はイーサさんが用事が無いか確認」

 「私に用は無いんですね」

 「えっと、私は魔石製作の下支えで予定の管理はイーサさんがやっています。ネメッカ様は事務処理に忙しいですから予定の確認で用事が多いのはイーサさんになってしまうだけです。それにネメッカ様と会うのは用事では無いですよ。今もネメッカ様から会いに来て下さってますし私から行く必要が無い」

 「分かりましたけど部屋の様子を見るのは私も行きます」

 「まあ構いませんが」

 ネメッカとユッミルが部屋に行くとロコッサもミヨーナもいる。

 「さっきはごめんね。待たせたけどもう大丈夫だよ」

 「良かったです、何も無くて」

 「何も無い訳では無くて月の人も住む事になった。ロコッサには今日紹介するね」

 「えっと、ユッミルさん?住む?」

 「えっと、街の方に家があって他の団の人はここに立ち入らせるのは難しいから住んでもらってる」

 「どう…」

 「主宰だしこちらの主導様は外に住む気は無い様なので」

 「そうね、本来は別の理由だったけど今はユッミルに浮気を疑われたくないし」

 「疑いませんよ。それに止める権利もありませんよ」

 「ごめんなさい。する気が無いだけですよ」

 「それは良いのですがこれは困ります。子供の前ですよ」

 「これでも我慢しているのですよ。抱き合う位構わないでしょう」

 「それはそうですが」

 「とにかく月の女と寝たら私はかなり不満ですからね。そうする位なら私と寝て下さい」

 「ネメッカ様、私は構いませんか?」

 「ええ、横で寝る程度は構いません」

 「ミヨーナ、残念だけど同じ日に泊まる事は少ないよ。部屋をなるべく無人にしたくないだけだから」

 「えっ」

 元々は宿舎で泊まる予定が中止され、ユッミルは夕方に帰宅した。夕食はメシャーナとソヨッハがユッミルと話し、ミーハも時折参加していたがキッシャノは終始無言であった。

 「メシャ、ミーハ。来て。沸かすから手伝って。」

 ユッミルは部屋の一角を透明にする。ただ、湯気だけが部屋にほんのり漂う。キッシャノは布団に入るものの寝付けてはいない。ユッミルは珍しくミーハとメシャーナと風呂に入る。ここで透明化を解く。三人は楽しそうに入浴している。キッシャノは驚きつつも無言であった。

 ユッミルは再び透明化させ、メシャーナに言って聞かせて服を着せ、自分も服を着る。そこで透明化と遮音化を解除する。ユッミルはいつも通りミーハを壁に張り付けていく。

 「何をしている?」

 「はい、彼女は水術師でして水の団の意向としてこういう形で就寝時は拘束するという条件になっています」

 「服を着せないのはどういう事だ?」

 「ラーハ様の意向ですのでこちらには真意は分かりません」

 「何故従う?」

 「水との係争の火種を作る気はありません」

 「そんな条件をどうして飲める?」

 「同じ理由です。水との係争は良くありません。あなたを受け入れる理由も月と争いたくないからです。月の主宰様は考える余裕が無かったので躊躇なく攻撃しましたが本来私は争いを好みません。ですからこの関係に関する要求は私にではなくリッネ様にお願いします。この行為の露見はリッネ様の印象を悪化させるかもしれませんがあなたは使えばいいでしょう」

 「それは脅しですか?」

 「ユッミル、私がおかしいのかな?まるで私が悪徳ユッミルと悪の組織のラーハ様の取引で強制的にこういう事をさせられているみたいになってない?」

 「違うの?」

 「ユッミル様、それは酷くないですか?」

 「冗談だよ。けどそれは後で言うつもりだったのに」

 「は?何故?」

 「私はユッミルの事、好きだけどユッミルは疑り深いし、ラーハ様は疑り深い相手という前提で誰にでも嫌でも信用させるやり方をするからね。実際、こういう扱いのお蔭でユッミルは優しいし」

 「ミーハ、まるで」

 「けどやってなかったらどうなってたかは分からないでしょ?」

 「確かにそうだけど」

 「とにかくあなたがどう思うかは勝手だけどミーハをユッミルの一方的な欲でやってるなんて嘘は言わないでね。というかそんな事をしたら水が敵に回るよ。もちろん、ユッミルがラーハ様の命令で女の子を縛って楽しんでるとは言って良いけど」

 「ミーハ、一応、慣れてはきたがしたい訳ではない」

 「本当に?」

 「それはそうだ。何の益も無い」

 「そうだけど必要だよ」

 「良いだろう。私も説明に苦慮するので見なかった事にするが隠す訳ではないから保証はしない」

 「構いません」

 翌朝、ユッミルはキッシャノの朝食の用意の手伝いを要求されたので受け入れてユッミルが手順を教えていく。ユッミルは今日は訓練は無いが塔に向かう。その結果、ユッミル以外は家に残り、メシャーナとミーハが仲良くしてキッシャノと互いに牽制し、ソヨッハが両側に気を遣う構図が展開されていく。塔ではユッミルがイーサと話した後はロコッサとミヨーナに塔を案内する。昼食後はロコッサが抜け、ネメッカが合流して三人がユッミルの部屋で談笑し、途中でミヨーナは帰宅する。その後、ロコッサも見送ってネメッカと夕食を食べる。

 「で、本当に宿舎に泊まるのですか?」

 「イーサ様にも意外に逆らえませんからね」

 「それは興味があるという事ですか?」

 「まあ否定はできません。ですがイーサ様が判断を変えればやめます」

 「泊まりたいのですね?」

 「イーサ様の口車に乗ったとはいえそういう事です」

 「私はユッミルに堂々と浮気されましたね」

 「ではどうするのですか?」

 「どうにもできません。ユッミルが私をいらないと言えば諦めますが」

 「私もいらない等という嘘はつけません」

 「苦渋ですが受け入れます」

 ネメッカは部屋に戻る。ユッミルは宿舎に入るが妙に静かだ。

 「イーサさんは寝ないのですか?」

 「もう良いですよ、やって下さい。本当にユッミル様は嘘ばかりですがまあ半分は真実ですね」

 「あの、ユッミル様。隣、良いですか?」

 「構いませんよ、というかイーサ様、受けないと怒りますよね?」

 「そうですね、いずれにしても被るのは私です」

 若い光術師の女性が身を寄せて来るがユッミルの横目にはイーサの他にもう一人の若い術師がちらついている。

 「二人ですか。というかどちらも最初から着ていないのですね」

 「まあ幹部ですら幻影は拙い。暗闇なので大丈夫だと思いましたがやはりユッミル様やネメッカ様以外では厳しいですね」

 「そんな事よりユッミル様はどうしたいのです?あまり遅いなら私から行く事になりますがそれが好みでないならお願いします」

 「一応、確認なんだがこれは事前計画なんだよね?」

 「はい、私が食堂でユッミル様が宿舎に泊まる話を事前に人が多い時間帯に流布し、それが一度か二度程度の限られた機会である事を吹聴しておきましてその後で個別に話を聞いて私が選定してお願いしてあります」

 「ネメッカ様も知ってはいるんですね?」

 「はい、ユッミル様が嫌がってるならやらせるなと申し付けられましたが」

 「それではやはり拒む事はできませんね。まああまり幼い子とか老いた人でも無いですし」

 「細かい事は報告しないので安心してお楽しみ下さい」

 「どうします、ソヨッハさん?」

 「私達にはどうしようも無いですよ」

 メシャーナはミーハを壁に張り付けている。

 「ネメッカ様、機嫌が悪いですがユッミル様絡みですか?」

 「いえ、まあそうですが悪いのはイーサです。ユッミルの光の内部での孤立具合は知っていますが頼りにする幹部も増えていますから急がなくても良いのに。まあ最近は他の団の子と親密に行動していましたが私から心が離れてはいなかったのに」

 「私はユッミル様と婚約するのは早すぎたと思いますよ。こういう男と分かっても気軽に別れられない」

 「いえ、光の団は皆若いです。それは一見良い事ですが実際には若い内に団をやめてしまうからです。一部の幹部は若くないですが独身が多い。団内での恋愛を禁止等していませんがいません。少なくとも私は知りません。優秀な男性術師は少ない。」

 「まあ男自体が少ないですし所属しているだけで塔には最小限の人も多いですよね」

 「そうなればユッミルを狙う女子がいてそれを独占する私は駄目なのかもしれません」

 「ユッミルを甘やかすネメッカ様が駄目なんですよ」

 「そうですね」

 翌朝、ユッミルが目覚めると両手はそれぞれ別の女性の胸元にある。二人は未だに眠っている。ユッミルは手を少しだけ色々這わせた後、イーサの元に向かい、手を引いてネメッカの部屋に向かう。イーサをネメッカの部屋のベッドに寝かせ、幻術を解除する。

 「ネメッカ様、これが現実です。今日ばかりはどんな攻撃でも受け入れます」

 「ユッミル、私はそんな気は無いです。卑怯ですよ、私が好きでそんな事が出来ないと知って」

 「そんなつもりは」

 「ですがまずはそこでそのまま待ってて下さい」

 ネメッカは急いで布を持ってくる。

 「ユッミルちゃん、駄目ですよ。ちゃんと我慢しないとお布団が濡れて洗濯が大変なんですから」

 「ネメッカ様、ご勘弁下さい」

 「えー、ちゃんと拭かないと次の事ができませんよ」

 「やむを得ないこととはいえ申し訳ないです」

 「えー、ユッミルちゃんは子供なのにどうしてお母さんにそんな冷たい言葉遣いなのかな?」

 「ネメッカ、そのまずはそれをやめてくれ」

 「仕方ありません、ですがかなり罰になったようですね」

 「それはそうですよ。粗末な体をきっちり見られてしまうのですから」

 「私は他の男性を知りませんので分かりませんが粗末とは思いません。父もこんな感じだった気がします。それと私もそんな立派ではありません。では次はそこに寝て下さい」

 「はあ」

 「待って下さいね」

 「あの、どうして脱ぐんですか?」

 「待ってて下さい」

 ユッミルはネメッカが上にいる気配を感じる。

 「では伏せるのをやめて上を向いて下さい」

 ネメッカの肌が一瞬見えるがすぐに視界は暗くなる。しばらくしてユッミルの視界が開けると目の前にはネメッカの胸がある。

 「さあユッミル、私はあなたに屈辱的な仕打ちをしましたから復習しても良いんですよ」

 「あの、何をしたんですか?」

 「分からないんですか?卑猥で汚らしい尻で顔を踏みつけましたよ」

 「ネメッカ様、その、」

 「ユッミル、大丈夫ですか?そんなに激しくしたつもりではないのですが?」

 「そうではなく未だに魅了されている方のそういう行為は屈辱にはなりません。いえ、屈辱と言えばそうですがネメッカ様の魅力的な体だと別の感じが大きいです」

 「それは良かった。そもそも今ならユッミルはこういう事をしても止めれませんし」

 しばらくすると扉を叩く音がする。

 「構わないわ。入りなさい」

 「ネメッカ様?」

 「失礼します」

 「リュッサ、これが現実です。分かっているとは思いますがユッミルの妻は私ですしそれは名目等ではなく実態を伴います。ですからユッミルが私を捨ててあなたと付き合う可能性もありますが現状ではそうはなりません」

 「分かっています」

 「ネメッカ、これは何?」

 「説明は私がしますのでユッミル様はネメッカ様を抱いていて下さい」

 「起きたのか。だが今回の一連の策略はネメッカ様との関係に傷が入ったかもしれないぞ」

 「まあそれは上手くやりますよ。それよりそこにいるリュッサは知っていますか?」

 「そうですね、イーサ様が見物する中、気持ち良くお相手した人ですね」

 「あの、ユッミル様、ネメッカ様と違って本気になされますから色々な意味でおやめ下さい」

 「申し訳ない気持ちはあったが不快でなかったのは仕方ないだろう。汚い女では無かったのだから」

 「まあ良いですがこの方が新しい部屋のお付きです」

 「そうか。リュッサさん、お気持ちに変わりがないならお引き受け頂けますか?私からは誰かに頼みにくいので希望して頂ける相手は喜んでお受けします」

 「はい、そのつもりです」

 「では決定ですね。ただ、もう一人欲しいですね。」

 「まさか」

 「いえ、もう一人はしばらくは無いです」

 「あの、今度からはネメッカ様の許可を取ってからにして下さい。それとあんまり頻度が高いとお断りしますから」

 「えっ」

 「ユッミル、あくまで許すのは私が太ってる間だけですからね。エッヒネ様に取られる位なら構いません」

 「えっと、家にはミーハがいますしネメッカ様も気にするほどではないですよ」

 「ミーハ、水の子ですね。それが問題なのですよ、ユッミル。イーサがこういう事を起こした理由はそこにあります。」

 「ですが他の団がそういう意図で若い女性を送る以上無下にはできません」

 「でしょうね、ですが光の団としてそれは困ります。が、他の団との関係ばかり深まるのは困ります」

 「ですけど他の団はあくまで別の団同士が普通の手段で良好な関係を築くのが困難だからこういう手に出ているだけで団内はそんな必要はありません」

 「いえ、ユッミルがどんどん他の団と上手く交流しているから私が危機感を抱くほどになっているだけです。私も主導としてはユッミルにとって魅力的ではないでしょうし」

 「返す言葉がありません。難しいですね」

 「いえ、他の団との交流は構いません。その上で私達もユッミルと光の関係を良好にする努力をします」

 「分かりました。ネメッカ様が浮気をするでもない以上口出しはできませんが私の体力の限界だけはご配慮下さい」

 ユッミルは昼からはリュッカに部屋を任せてロコッサとミヨーナを含めた五人で森で訓練をする。ロコッサにはそろそろ訓練させる事が無くなりつつあったが肝心の三人はやっと光点の打ち出し場所が定まってきた程度だ。

 「ユッミル、もう泊まらなくて良いとか新しい女ってどういう事?」

 「ミヨーナ、そういう言い方はやめて。ミヨーナの宿泊は無理をしていた。帰れる家がある子供が仕事で夜に泊まる事は無い」

 「嫌な仕事じゃないし」

 「いや、安全ではない」

 「家も安全ではないよ。人は少ないけど悪人がいない訳ではない」

 「部屋に一人なのは色々良くない」

 「どうせ寝るから一緒。それに下からの階段は宿舎の見張り当番がいるし塔の方が安全。ユッミル程じゃないけどネメッカ様の方が親より強い」

 「分かった、五日に一回までなら泊まっていい。毎回一人にはしない」

 「いいよ、お姉さんの弱点を探してユッミルに教えて嫌いにさせるからね」

 「まあ頑張って」

 そうこうしている内に塔の近くに来る。ロコッサとミヨーナをそれぞれ家に帰して三人を塔の前まで見送るとユッミルは一度家に帰る。ソヨッハには買い物を頼んでキッシャノへ歓迎を示すつもりだ。そして、あえてカエを呼び寄せていた。

 こうしてロコッサとカエとミーハにソヨッハとメシャーナを加えた七人の夕食となった。ユッミルはカエとメシャーナとミーハに世話を焼かれたり、話している。

 「カエさんは光所属ですよね?ネメッカ様の婚約者とそういう関係で良いのですか?」

 「はい、私はネメッカ様の妹の様な立場ですので姉妹でユッミル様を丸め込んでしまえばよいと考えています」

 「そうなんですか」

 「カエさんは嘘がお上手ですから騙されない様にした方が良い」

 「ユッミル、酷いです。今日は一緒に寝ないと許しません」

 「カエさん、私の本命はネメッカ様ですからそんな事をしても駄目ですよ」

 「分かってますよ。ですけどこれはこれで良いですから」

 「ユッミル、寝る前に私とやろうよ。そこの女よりは私優先でしょ?」

 「ミーハ、カエさんはネメッカ様の一番の側近。駄目だよ」

 「でもなら尚現実を知ってもらおうよ」

 「そうですね、構いませんよ。けどその後は私ですから」

 「今日はそんな気は無いので困ります。明日もありますし」

 「なら間を取ってユッミルは私と二人で寝ようよ」

 「ユッミル、私とやりたくないの?私はこの後準備が整うしやる気満々だけどしてくれないの?」

 「そうですね。私も脱いでおきますからユッミル様、来てくださいね」

 「カエ様、明日は朝から指揮所です。あなたの様に愛らしい女性と寝て浮ついた状況で指揮所に行って万一の事があっては困ります」

 「そういう事ですか、今日呼んだのは心配が無いからですか。分かりました、思う所はありますが服は着ますから抱いては下さい」

 「それでも十分ですがネメッカ様の機嫌優先です」

 ユッミルが目を覚ますと何故かソヨッハが着替えている。

 「えっと、皆さん寝てますので外で」

 「そうだね」

 ユッミルはソヨッハに言われるがまま外に出る。メシャーナは気付いていたが黙って見送った。ネメッカは目を覚ましたがユッミルがいなくなってすぐの事である。

 「えっと、今日はですね、私が木の幹部担当で指揮所に行く事になってます」

 「ん?そうなんだ」

 「驚かないんですね」

 「まあ木の慣習は良く知らないしね」

 「とにかく一緒に頑張りましょう」

 「そうだね。ところで指揮所は初めて?」

 「上は初めてですね。幹部以外も行きますけど私は冒険者歴が長い方ではないので」

 「それを言い出せば僕はかなり短い部類になると思うよ」

 「意外です」

 「とにかく頑張るよ」

 「はい」



 

 

読了ありがとうございます。今後に関しては何とか次章は上げようと思いますがそれ以降は未定です。内容というか展開の方向性は決まってはいるのですが打っていく時間等諸問題から確定的な事は残念ながら言えません。

追記:年末年始、12月から1月中旬は忙しいのであまり時間が取れません。次話は2月以降かと。

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