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至上の無名光術師の苦難  作者: 八指犬
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3章 避けられない参入

いつも通り繰り返しになりますが

余計な情報を排除する為に殊更場面転換を明示する事は致しません。会話の間の表現を重視し、詰まりの無い会話はそれに応じて発言が連続します。発話者が分かりにくい事も多々ありますがご容赦下さい。その代わりに「」の鍵括弧を一纏めとして同一人物の発話が描写を挟まずに連続する事はほぼ排除しております。

また、多少前後している事もありますが描写は時間順となっております。


 3章 避けられない参入


 1節 発覚


 ユッミルは暇だったので今度は団所属の単なる冒険者として指揮所の駐屯任務に就いた。草原には適当に多数の冒険者が展開しているが、雑談するもの、座り込むもの、等もいる。一人の担当は四半日であり、仕方ないのだがかなり危ない。人の多い団は数人で組んで一人が遠方を監視して残りが近くで休憩なんてのも多い。

 「ユッミルさん、初めまして」

 声の方を向くと凝った杖を持った二人の女性がこちらを見ている。

 「バッソー様に怒られますよ」

 「そんな事より少しお話ししませんか?」

 「一応、仕事なので余所見をしながらなら構いませんよ」

 「そうですよね。でしたらここでは軽い会話で済ませて後で三人で食事でもどうですか?」

 「エッヒネ様に怒られませんかね?」

 「大丈夫ですよ。あの人はもう男の人と楽しく話す気力は無いですよ」

 「そっとしてあげた方が良いって意味ですよ。私達は元気なので是非」

 「考えておきます」

 「そうやって逃げそうだけどこの後はどう?」

 「一時間なら空いてますがネメッカ様の目もあるのでかなり警戒しないと」

 「まあ良いよ」

 ユッミル達の時間に問題は発生せず帰ろうとするが炎の団の女性に捕まって食事に行く事になる。

 「金はありますが奢りませんよ」

 「大丈夫。光の主導候補の顔を立てて私達も奢りませんが年上は年上なんだから若い子には払わせないよ」

 「なら構いません」

 三人は注文を終える。

 「光に入ったって本当?」

 「その噂を知ってどうして誘うんです?」

 「光って現実に弱いでしょ?」

 「まあそうですが」

 「だからそれが分かった今の方が色々と誘いやすいと思って」

 「そう、だからまずは一緒に組みませんか?」

 「確かに優秀な術師と組むのは悪い話ではないが炎術は狩りとの相性が悪い」

 「それは大丈夫」

 「何が?」

 「獣を直接燃やさないので。ユッミルさんが次に暇になるのはいつですか?」

 「ただいま」

 「ユッミルさん、お帰りなさい」

 「ソヨッハ、用事が出来たから次の狩りは中止。ごめんね」

 「いえ、大丈夫ですよ。後、今日はルーエさんは帰らないので夜は三人です。料理は手伝いますよ」

 「まあソヨッハは上手だから任せても良い気がするけどね」

 「私も手伝う。狩りに協力できなくてやる事が無いから」

 「良いよ。できる事から一緒にやっていこうね」

 翌日は少ないながら雷打の補充に塔にやってくる。

 「ああ、ユッミル。おはよう」

 「ネメッカ様、どうかしましたか?」

 「下級魔石の術師協会からの買い取りをどうするか悩ましいのよ」

 「雷打は相当数作れますよ」

 「分かってるわ。ただ、あまり雷打を短期に出してもね」

 「そう言えば質を高める話は他の術にも増やさないのですか?」

 「あまり評判は良くないわね。下級術の中に差ができる事に肯定的ではないらしいわね」

 「ただ、放音の態勢には異論が無いらしいわね」

 「一番需要の高い光点だけでもどうにかなりませんか?」

 「中々難しいと思うわ」

 「そう言えば一応僕は幹部扱いですよね?であれば会議に出ても構いませんよね?」

 「私は構わないけどあなたが機嫌を損ねてまたやめると言われたら困るのでやめて下さい」

 「私も面倒ですがそれ以上に暇なのですよ。何より光の底上げは今後の為に必要です」

 「えっと、私があなたの要求に応えればやめるとかは…」

 「無理ですね」

 ユッミルは一人ネメッカの横に座る。

 「ユッミル様、私の体がご所望なら後にしてくれませんか?」

 「そんなに気になるなら私の膝に座ればいい」

 しばらくして幹部はユッミルに多少驚きながらも席に着く。主宰も席としては前目ではあるが幹部と同列である。

 「まずは何か報告事項があれば」

 誰も反応は無い。

 「でしたらイーサ、魔石の売り上げ報告と指揮所の担当時間を」

 イーサは中々向上した売り上げ報告をしていく。幹部共はそれなりに好感触だ。指揮所の担当時間も通告される。ネメッカが各幹部に人員供出の必要時間を通達していく。ちなみにこれは事前にイーサによって時間帯毎の負担を輪番にする様に長期的に設計されたものに基づいている。

 「以上です。他に何かありますか?」

 ネメッカはユッミルの様子を伺いながらゆっくり話していく。

 「光点に関しても質を落とさないよう魔石製作の人員を絞りたいのですがご意見を願います」

 「規模が大きな事になりますのでそうした試す様な行為に光点は不適切かと」

 「規模が大きいからこそ光の経営に直結します。それに少なくとも質が低下する訳ではないので試す事で生じる問題は小さいかと。問題があれば改善するなり、差し戻すなりしますが?」

 「それは分かりますが術師間に優劣をつける行為は賢明ではないと思いますよ」

 「その優劣は永久ではないが?」

 「ユッミル様、とりあえずこの提案に関する意見は次の会議に持ち越しという事で。ね?」

 「でしたらネメッカ様、私も協力しますので二人で高品質の光点を高い値で売りましょう。そういう事でしたら持ち越しという事で構いません」

 「急に言われても困ります」

 「どうして光点なのですか?」

 「最重要の下級術だからですよ」

 「放音の売れ行きは良い訳ではありません。しかし、元々売れ行きが良いものではない。でしたら光系の少し売れ行きに変動のある光盾で試すのは?」

 「分からないな、他の幹部に意見は無いのか?」

 「光盾でも規模は小さくない。幹部毎の所属術師が偏れば不公平が生じます」

 「それは問題だ。であれば僕が指導しましょう。低い力量の術師が多い、あるいは力量をあげたい所は一集団につき一人私に術師を預けて下さい。最低限は向上するでしょう。今回はとりあえず4枠ですね」

 「大層な自信ですな」

 「最初の発言がそれとは大層なご身分で。ですが会議自体はこれで終わりですから私に術師を預ける気が全くない幹部はお帰り頂いて構いませんよ」

 幹部は二人退席する。

 「ネメッカ様、主導はあなたなのですからこの方の独断は諌めるべきです」

 二人の幹部がネメッカに詰め寄る中、六人の幹部はユッミルの提案に興味を持っている。

 「まずは本人の希望を聞いて今日の夕食前に食堂で願います。その上で明日、光点の術使用を見極めて判断します」

 「その見極めには何人まで?」

 「イーサさん、そもそもそれぞれの幹部は何人の術師を担当しているのですか?

「5人から8人程ですね」

 「でしたら希望者全員で構いません。イーサさん、光点の力量集計をお願いします。非協力的な幹部様にもこれには協力いただくようネメッカ様に要請させて下さい」

 「夕方の希望受付も私ですか?」

 「可能であれば」

 「ユッミル様は人使いが荒い。労いとして体をほぐしてもらうべきですね」

 「答えに困るような事は言わないで下さい。幹部の皆様、ご協力ありがとうございました。今回は以上です」

 「あの…ユッミルさんは主導をやらないのですか?」

 「えっと、ネメッカ様は優秀ですよね?」

 「ですからネメッカ様は主宰になって頂けば?」

 「今の主宰様がそこに」

 「いえ、あの人は無理に主宰をしてるだけですから幹部になればいい。本人も異論はないと思いますよ」

 「私もユッミル様が主導で良いと思います。まあ不満に思う人はいるでしょうが私はそれを希望します」

 「主宰はともかく主導はネメッカ様の意向もありますし」

 「構いませんよ。ユッミルが主導でも」

 「ネメッカ様?」

 「ご冗談を」

 「そうです、ネメッカ様以上の技量があるとは思いません」

 「術師としては圧倒的ですよ」

 「指導力の話です」

 「そうでしょうか?私は先程ユッミルが話す間何も言えませんでした」

 「それはネメッカ様が彼を気遣っただけでしょう」

 「まあ私としてもユッミル様が主導という事は十分考慮すべきと思います。現実に優秀な術師が主導であるべきでしょう。指導力にも著しい欠陥がある様にも見えない。ネメッカ様との関係性も良好の様ですしこの団が大きく悪い方に傾く様には思いませんよ」

 「ネメッカ様の意向は軽く扱えませんが」

 「ここには八人いて二人反対、三人賛成とすれば幹部の賛意も集まる見込みもありそうですけどね」

 「私は考えにも及ばなかったですが考えておきます」

 「確かに噂通りなら主宰就任を拒む理由は無い」

 「私は就く等とは言っていません。ただ、主宰に関しては前向きに考えていますよ」

 「そうですよね、後は対外的な公表時期の問題ですね」

 「あの…考えているだけなのですが」

 「もう決定です。正確に言えばそろそろ会議で多数決を実施し、半数が賛成すれば私が押し切ります」

 夕方、ユッミルとネメッカも見守る中、6人の幹部はリストを持ち込む。幹部達が食堂を後にするとユッミルはリストに目を通す。

 「イーサさん、最近知り合いの子を見かけないのですがロコッサという子は体調でも悪いのですか?」

 「長期間体調を崩している子はいません。ロコッサさんですか?確かに魔石製作所で見かけなくなりましたね」

 「どの幹部の担当なのですか?」

 「ユッミル様が無言を注意してた方ですよ」

 「まさか」

 「勤務はしてますし特に夜の勤務が多いという事もありませんね。ただ、帰りの時間はまばらですね」

 「休みが少ないとかは」

 「ええ、少々少ないですね。」

 「まとまった休憩は?」

 「確かに見事に五日程前から夜以外の長い休憩が無いですね。遅く来る日もあるようですが」

 「ユッミル、その子女の子よね?どうしてその女を気に掛けるの?やはり同年代が良いわけ?」

 「ネメッカ様こそこの若い男より同年代とは思いますがそれよりもうやってしまったのでその子をお付きにしたいので要請をかけてくれますか?」

 「ユッミル?どういう事?」

 「分かりました」

 「イーサも何を勝手な事を」

 「お付きなんてカエにやらせればいいでしょ。ソヨッハさんもいるし」

 「これは責任ですのでお願いします」

 「分かりましたが三日に一回泊まりに行く件を三日に一回泊まりに行くかカエを受け入れるかに変更します」

 「分かりましたよ。ですが私の立場が悪くなりますからカエさんとは寝ませんよ」

 「悪くはならないと思いますけどね」

 翌朝、ユッミルはソヨッハに起こされて朝食を用意してもらい塔に出勤する。

 「おはよう、ユッミル。今日はカエを刺客として送りますので覚悟しなさい」

 「殺されたくは無いのですが」

 「無防備なユッミルの寝床に招かれて一緒に寝る事になるでしょうね」

 「あまりそういう事は」

 「お二人共、行きますよ」

 ネメッカとユッミルにイーサは三人で光点の採点を実施した。ちなみに獣はユッミルとネメッカが幻を投影した。幹部を含めた団員はユッミルの技量に驚いていた。イーサと幹部の協議の結果、四人のユッミル付き訓練者が決定した。いずれもユッミルより若い女子が三人、男子が一人となった。

 「イーサさん、ロコッサの件は?」

 「はい、回答期限を延ばしてきました」

 「明日は用事なのだが」

 「回答は明後日と主張してますので問題は無いです」

 「そうか、それでは行ってくる」

 「はい、お気をつけて」

 「ネメッカ、悪いが少なくとも初回は君も来てくれ」

 「ちょっと忙し…ユッミル様と森ですよね?ユッミル様が抱き…とても近くで守ってくれるなら是非」

 「いや、君は強いだろう。新米四人の護衛は大丈夫だとは思うが一応後ろを守ってくれ」

 「もちろん、構いません」

 六人は森に出かける。

 「ちょうどいい、男の子は主導様にお願いします」

 「ユッミル、女の子三人をどうするのですか?」

 「ネメッカ様、私が三人を指導してあなたが一人を指導しますので少なくとも二人の少女は私が教えますのでそのご不満の解消は受け付けかねます」

 「まさか、私に男の子を当て…」

 「ネメッカ様、流石にそうした心配はしておりません」

 「ネメッカ様、取られたくないんだ」

 少女の一人がユッミルにすり寄る。

 「あのね、あの人は怖くは無いけどしつこいからそういう事はやめた方が良いよ」

 「分かりました、あの人は今日だけだしいなくなってからにします」

 「かわいらしい冗談だね。じゃあ獣を呼ぶから左の君から光点をお願いしますね」

 ユッミルは歪曲視野で獣を探す。放音が使われ茂みから獣が現れる。

 「しまった。一体多いな」

 ユッミルは出てきた獣が二体だと確認すると間に光柱を撃ち込む。二体は分かれる。

 「ネメッカ様、そっちに一体送りますね」

 「自分でもできますが引き受けましょう」

 「すごい光柱、キョーク様のより凄い」

 ユッミルは光柱で獣を誘導していく。やはり少女の放った光点は獣を捉えずユッミルはすぐさま雷打で動きを鈍らせ、ネメッカの方は雷射で弱らせ、動きの鈍った方は雷装剣で仕留める。

 「ユッミル、やはりユッミルと森に行きたいですね」

 「それは無いです。ネメッカ様を連れていく理由が無い。今回は光点のお手本として優秀だから受け付けましたが。真ん中の子、次きますよ」

 「私とてユッミルに全ての術を見せたわけではありません。隠している訳ではありませんが体と同じく見て頂ければ気が変わると思います」

 ユッミルは少女が光点を打ち損ねた獣に雷打を撃ち込み、雷射で動きを止める。

 「ネメッカ様、次はあなたが手本を見せてはどうです?私もそうしますので」

 ネメッカは光の矢の幻で獣の注意を引く。ユッミルは雷射をわざと近くに外して獣の注意を引く。

 「ユッミルは私より随分強いですね」

 「全てを見せていないのでしょ?僕もですがあなたはあれよりは優秀な術を使える筈ですが?」

 ユッミルは光点を発動。

「雷系を使える時点で私より戦闘では優秀です」

 ネメッカも少し遅れて光点を発動。ユッミルの光点を受けた獣はあらぬ方向に向かい始める。

 「単独戦闘であればね。しかし、集団戦闘ならネメッカ様の術はかなり有用でしょう」

 「果たして私だけに使える術なんてあるんでしょうかね?」

 「もう良いでしょう」

 「とにかく私が妨害してユッミルが剣で狩るやり方は悪くないと思いますが?」

 「ネメッカ様は豪邸に住みたい訳でもないのですから狩りは不要でしょう」

 ユッミルは雷装剣で獣を切り伏せる。

「ではユッミルはどうして狩りを?」

 「ネメッカ様と違って忙しくは無いですからね。そっちも切りますよ」

 「私もいずれは主導を譲ってユッミルと暮らす事も考えていますが駄目ですか?」

 「そんな事をこんな所で言うのはおやめ下さい」

 ユッミルはもう一体も切り伏せる。

 「はい、最後に君ね」

 ユッミルは放音で獣を呼び寄せ、少女に光点を使わせるがやはり上手くいかない。

 「はあ、獣に襲われそうになればユッミルが助けてやったのだから体位差し出せって言ってきたかもしれないのに」

 「森に行くように頼んだのは僕ですからそれは無理ですね」

 「ごめんなさい、ユッミルには無償の愛を…」

 「ネメッカ様、御冗談を。何処に誰がいるか分からない所で軽口は困りますよ」

 「ユッミルは困るでしょうね。最弱主導を掴まされた訳ですから」

 「そうでしょうか?ネメッカ様こそあまり短い交際期間で結婚なさると浮ついた女性に思われますよ」

 「とりあえずユッミルを困らせたくないので話はここまでです。帰りましょう」

 「こんばんは、ユッミル様」

 「お待ちしておりました」

 「ユッミル様、あなたは次期主導候補なのですから私にはもう少し相応しい態度でお願いします」

 「カエ、早速ですが料理を手伝って下さいますか?」

 「分かりましたけど手を取って教えてはくれませんの?」

 「しません、できる事は知ってますから」

 夕食後、メシャーナはさっさと風呂に入っている。ソヨッハは夕食前に風呂を済ませた様だ。ユッミルは最近は街の浴場を利用している。

 「ユッミル、どこに行くのですか?風呂ならメシャーナさんの後に二人で入れば良いでしょう。桶が狭いというのであれば私は横で待ちます。」

 「ネ…カエ、行ってくる」

 「夜にお出かけですか?ネメッカ様に浮気の兆候と報告しても宜しいですか?」

 「構いません。あの人は自分で調べるでしょう」

 「ネメッカ様はカエであれば多少の行為も構わないとおっしゃっています」

 「知っています。カエさんの気持ちを無視した暴挙です」

 カエはユッミルに自分の胸を掴ませる。

 「酷いですね。私の気持ち、知ってるのに」

 ユッミルはカエの手を払う。

 「分かりました、それは違いますね。ですがお風呂はカエさんともネメッカ様とも入りません」

 「どうして?」

 「ゆっくりできないからですよ」

 「分かりました。でしたら待ってますので私の体を拭くのを布か手で手伝って下さい」

 「カエさんは臨時ながらお手伝いですから私にそういう事をさせるのは間違っていますよ」

 「いえ、それはあくまで表向き。ユッミル様がお望みでしたらそんな事は関係ありません」

 「カエ様のお体を穢す様な事はしませんよ」

 「まあ良いです。私はしつこいと思われている様ですからそこは直さなければなりません。しかし、ユッミル様が頑固だからそうなっているだけなのですけど」

 「そう思うなら…」

 「頑固以上に魅力があるという話ですがそれ以上言うと私も襲ってしまいますよ」

 「分かりました。お風呂へ行ってきます」

 ユッミルが浴場から帰るとカエは服を脱ぐ。

 「ユッミル様、体は流さなくて良いので隣で話しましょう」

 「遠慮します」

 「むしろそうやって避ける理由は私に手を出したいのを隠す為ですか?」

 「分かりましたよ」

 ユッミルはカエの隣に椅子を置く。

 「綺麗なお体ですね。見とれてしまいます」

 「私も光術師ですからね。偽物かもしれませんよ。触って確かめても構いませんよ」

 「遠慮します。それよりお話とは?」

 「ネメッカ様と結婚するんですよね?不安は無いですか?私がそれとなく伝える事もできますよ」

 「直接言いますよ」

 「分かりました。でしたら今度は私の話です。一緒に狩りはしないんですか?」

 「カエさんは忙しいと伺っています」

 「確かにそうですがネメッカ様もこの事でしたら譲って頂けます」

 「ネメッカ様は数日に一回指揮所に行かれます。カエ様はその時留守番していますがそれ以外で私はカエ様と昼間に行動した事は数える程。ネメッカ様とも塔内でしかご一緒していません」

 「分かっています。ユッミル様以外との狩りを減らします」

 「それは駄目なのは分かっているでしょう」

 「そうですね。ネメッカ様が許さないでしょう」

 カエは風呂から出る。ユッミルは椅子を片づけようとする。カエは椅子に手を掛ける。

 「ネメ…っとカエさん、危ないですので服を着て下さい」

 「寝る時は服を着ないのですが時間も遅いですしそのまま寝ようと思いまして」

 「それは困ります。約束ですから一緒に寝ようと思いましたが服を着ないのであれば…」

 「ユッミル、こんなのと寝たら駄目だよ。私は服着るし」

 「約束だからね。カエさん、服を着て下さい」

 「別に私としては寝てる間に体を奪われても喜ぶだけですよ。何か服を着る必要のある理由でも?」

 「メシャーナがうるさいですし、いつも服を着て寝るように言い聞かせてます」

 「メシャーナちゃんは私が服を着ていないとユッミル様が心配なのよね?でもそれってユッミル様を信用していないという事?」

 「まあ良いよ。我儘は嫌われるんだから」

 「分かりました。カエさんが逃げてもネメッカ様に報告はしませんので不快なら遠慮なく」

 ユッミルは椅子を片づけると先に布団に入る。カエはユッミルの上に乗りかかって胸をユッミルの顔の前にちらつかせるがユッミルは偽物と察する。ただ、その後にカエが体を預けるとユッミルは偽物の表情で誤魔化す。

 「これが平気なんてネメッカ様は余程魅力的なのでしょうね」

 「平気ではありません。僕の虚勢を強引に崩して恥をかかせないで下さい」

 「足元はユッミル様には見えませんから何処に触れても事故です。それに私が驚いて逃げ出すかもしれませんよ。横に寝て欲しいのであれば動かして構いません」

 「カエさんは平気そうですね。私に興味が無いのでしょう」

 「むしろユッミルはどうしてそんなに不安そうなのです?私はユッミルを信用していますから不安は無いです」

 「私にはカエさんの考えは分かりません」

 「ユッミルは私に嫌われても困らないでしょう」

 「そうですね。メシャにも捕まってしまった事を知ってもらわないといけません。ネメッカ様には内緒で願います」

翌朝、ユッミルは街の大通りの北の端に出向く。炎の女性術師二人と合流し草原を北西へ進む。指揮所から哨戒する冒険者に多少注目を浴びつつも森に到着する。

 「こんな狩り、幹部級でないと成立しませんよ。私を当てにされても困ります」

 「報酬が無いと駄目ですか?」

 「そうは言いませんが」

 「次からは報酬を払いますけどユッミル様には何万アークでは駄目そうですよね」

 「そうよね、金で買える報酬は駄目よね」

 「心配しなくても二度目は来なくて済む様に今回で終わらせます」

 「私達と狩りは魅力が無いですか?」

 「今日の成果次第ですがそれにしてもすぐにやれるものではないでしょう」

 「えー、お願いしますよ」

 一人の女性はユッミルの腕に胸を押し当てる。

 「魅力的な体をお持ちなので残念なのですが雷装剣を使いたいので困ります」

 「ふーん、私では全く駄目なのね。ユッミル様でしたら両手の動きを止めてもここの獣を殺せそうですけど」

 「言い忘れてましたがあなたこそその態勢だとできないでしょう」

 「そうよ。ですが今日失敗した場合には次もお付き合い頂く為、夜営で私の体を自由にお使い下さい。」

 「あの、僕をそういう事で動く人扱いしないでくれますか?」

 「はい、そうは思っていませんがそうすれば慈悲深いユッミル様は次の機会をお与え頂けるという卑しい打算です。お許し下さい」

 「分かりましたがそうはなりません。機会は数度作ります。それでも駄目なら根本的な改良が必要ですから時間がかかるので私はそんな事を忘れてまた依頼を受けるでしょう。準備は良いですか?」

 「はい。構いません」

 獣が接近してくる。二人の術師が何かしらの炎系の術を獣の前の地面に向けて放つ。獣の目の前の地面は抉られて獣は転倒しそうになり体勢を崩す、ユッミルは光点を撃ち込む。ユッミルは雷装せずに剣で切り伏せる。ユッミルは剣で獣の毛皮を剥ぎながら術師の元に戻ってくる。

 「流石ですね。炎の団の戦略は」

 「成功なんですかね?」

 「光点を当てる等して動きを弱めた後であれば上手くいくでしょう」

 「でしたらやってみましょう」

 「いえ、魔力消耗が大きいようですし帰りましょう」

 「確かに目的は達しましたし十分です。ありがとうございました」

 ユッミルは帰還すると寝てしまう。

 ユッミルが再び起きると残り二人は既に眠っている。メシャーナは相変わらず隣に入り込んでいる。そっと起きてソヨッハに目をやるとやはり合わせているだけの羽織なので布団がめくれてしまえば色々見えそうになっている。捲りたくもあるが起こす事の懸念と勝手になったら仕方ない的な期待が交錯しているうちにソヨッハは布団を巻き込んで横向きになってしまう。ユッミルは少し空腹だったので夕食を食べる事にする。

 しばらくするとメシャーナが起きてくる。

 「ユッミル、ソヨッハ寝てるし来て」

 「まさか、とりあえず食事がしたい」

 「私は寝るから勝手にしてもいい。私も勝手にやったし何も遠慮しなくていい」

 ユッミルは食事を済ますとメシャーナの横で寝る。

 「おはよう、ユッミル」

 「うん」

 「どうして何もしてないの?」

 「眠かったしそんな気は無いよ」

 「子供に対してはそういう気にならないのは仕方ないよ」

 「けどこんな事になったし子供じゃないよ」

 「まあそうでなくてもその胸で子ども扱いは無理な筈だけど気分は気分だよ」

 「じゃあソヨッハも無理よね?」

 「えっと、それにメシャーナがそんな事になったから余計にそんな気にはならないだけかもしれない。終わったらその気になるかも」

 「ユッミルさん、そろそろ一緒に寝ないんですか?私は構いませんよ」

 ユッミルはこの世界の感覚を思い出す。

 「ソヨッハさんが構わないならそうしますね」

 「ユッミル、それはどういう意味?」

 「ソヨッハさんと仲良くするのは大事な事」

 「不満だけどそれでも好きにしていいのは変わらないから」

 朝食を食べていると外からルーエの声がする。

 扉を開けるとルーエがいる。

 「朝食でも食べに来たの?」

 「ネメッカ様がお呼びです」

 「急ぎ?」

 「できれば」

 ユッミルは朝食を急いで食べてさっさと準備してルーエと塔に向かう。

 「ごめんなさい、ユッミル。急に呼び立てて」

 「そんなに嬉しそうにして私の弱みでも握りましたか?」

 「近いですね」

 ユッミルの目は少し泳ぐ。

 「それは困りましたね。ですけどそれは伝えない方が良いのでは?」

 「近いと言うだけで弱みではありません。身籠りましたのでご報告したかっただけです」

 「はあ?何と?」

 「これで婚約は回避できなくなりましたね」

 「まんまとやられた訳ですね。お美しい女の人はこういう手段で目的を達して羨ましいですね」

 「そうでしょうか?これで私に手を出す人は本当にいなくなりますから独占ですね」

 「それはネメッカ様が門前払いしていただけでしょう」

 「ユッミル様の事は門前払いしてませんよね?それでも駄目なのですか?」

 「ですから婚約に関してはこれが無くても受け入れると言いましたよ。それにこういう事態もいずれは受け入れるつもりでしたが一回でなるとは…早いとは思わなかっただけです」

 「ユッミル様、子供を抱きしめてあげて良いんですよ?」

 ユッミルはネメッカの胸を抱く。

 「ネメッカ様の方が大事ですからご心配なさらず」

 「ユッミル」

 ネメッカはユッミルと口を合わせていく。しばらくしてユッミルは優しく離す。

 「あの…これから少し大事な用事があるのでネメッカ様に浸るのは避けたいのですよ」

 「ああ、イーサが何か言っていましたね。私はいなくて大丈夫ですか?」

 「イーサさんがそう言っているのであれば大丈夫かと」

 ユッミルは少し残念だったがネメッカの部屋を後にする。ネメッカ不在ながらイーサの仕切りで幹部会議は開催された。

 「そして、最後になりますが次の会議では主宰が議題になります。もうお分かりかと思いますがこちらのユッミル様を主宰にしたいというネメッカ様からの強いご要望をようやくユッミル様にお受け頂きました。そうですよね?」

 「はい、そういう認識で問題ありません」

 「形式上はネメッカ様がユッミル様に要請した形ですが光の運営を補佐する私から見ても切実な計画です。反対するのであれば相応の主張をご用意頂かないと困ります。名目上は評決を取り、評決上現主宰様を除いた過半数で決しますが基本的には賛同頂きたいですね」

 「イーサさん、そこまで圧力を掛けなくても」

 「いえ、切実でしょう。現主宰様は暗に本来主宰と主導で担う指揮所の輪番制から外されています。しかし、ユッミル様は既に数個の団にお墨付きが貰える見込みでしょう。基本的には他の団全てが拒まない限り、問題無いのですからネメッカ様の負担を減らす事になります。そういう性質ですからネメッカ様は強く言えないので私が代わりに言っているに過ぎません。ユッミル様も少々負担にはなりますがお願い致します」

 「私は構わないと申しています。そこまで念押しされなくても受ける所存です。ただ、光の秩序を乱すのも本意ではないのでそれも含めてお願いします」

 「幹部を含めて誰かがそこの主宰を圧倒し、ネメッカ様と同格になってくれていればユッミル様にご負担をお掛け致す事も無かったのですが申し訳ありません」

 イーサはユッミルに少しの間詫びる所作を行うと幹部のいる正面を向き直す。

 「こうした事情もありますので全会一致で願います。ユッミル様は忙しいので不在かもしれませんがよろしくお願いします」

 「は?次の会議はいつ?」

 「追ってお伝えします。時間帯はこの時間なので私と常に行動すれば逃す事は無いかと。最後になりますがキョーク様、お話がありますので残って頂けますね?」

 「構いませんよ、イーサ様」

 幹部は部屋を出ていく。

 「早速、本題ですがユッミル様のご要望としてネメッカ様の裁可を経た要請としてあなたの所のロコッサをユッミル様のお付きにしたいので引き渡して頂きたい」

 「ユッミル様、本当か?」

 「そうだな」

 「困りますね、私の所は人数が少ない」

 「個人的な理由だ」

 「それは少し横暴ですな。先程の幹部会議で採決を取らなかったのもその為ですか?」

 「いや、それは無い」

 「はい、形上はユッミル様の要望ですが私としてもあなたがロコッサさんの扱いが不当という嫌疑を持っています」

 「そこのユッミルがうちの団員に手を出さなければ元に戻す」

 「そうですね、まさか指導を授ける事が手を出した事になるとは思いませんでした」

 「ネメッカに取り入ったが本当はああいうのが好みなんだな」

 「キョーク様、むしろネメッカ様がユッミル様に取り入ったのはご存知でしょう」

 「それにしても同じ事だ」

 「それはそうですね。実際にはそればかりではないですが」

 「キョーク様、了承頂けますね?」

 「会議にかける」

 「あら?良いのですか?そういう形ですとこちらとしてもあなたの所の団員に手を出して証言頂く事になりますが?」

 「それは脅しか?」

 「さて、どうでしょう」

 「そもそもそこのユッミルとやらが不穏にも私の許可を得ず交流した。無礼だろう」

 「それは申し訳ありませんがあなたがそういう対応をした以上こういう形が適切でしょう。彼女を見るにあなたが適切な指導をしていた様には見受けられませんでしたので見かねて指導に踏み切ったのです」

 「そうですね。少なくとも指導の改善は願いたいものです。いずれにしてもユッミル様程の成果は期待しておりませんが」

 「私はただただ術の才に恵まれたに過ぎません。流石に類稀なる才能にかまけて研鑽を一顧だにしないキョーク様よりは務めていますが基本は才に過ぎません。ですが術の才は現にあるので所属する以上協力させて頂きます」

 「全くしていない訳ではない」

 「ですが、現に全ての術において私はあなたより優秀ですよ。使用法は分かりませんが純然たる威力はそうでしょうね」

 「まさか」

 「でしたら本当に全ての術でキョーク様より優秀ならロコッサさんの件をお受け頂けますか?」

 「構わない。そんな筈はないがな。馬鹿にするなよ」


 2節 教育


 「ユッミル様、一応キョーク様の光柱はネメッカ様のものよりは遥かに強力ですから油断なさらぬよう」

 「はい、私にも責任がありますからきちんとやりますよ」

 「午後からでしたね。まずはネメッカ様と…」

 「いえ、昼前に指導をしていきます」

 ユッミルは四人の術師に光点を打たせつつ指導を行うがめぼしい成果は得られない。ただ、ユッミルには一人の少女には幹部級の潜在能力の気配を感じている。

 塔に戻って遅めの昼食を終えると食堂の前にはロコッサとキョークがいる。

 「ネメッカ様、私ではあれなので事情を聞いてくれませんか?」

 「そうですね。ロコッサさん、あなたの事なのにあなたの話を聞いていませんでしたね。言いたい事は何かありますか?」

 「私は大丈夫です」

 「ロコッサさんは私のお付きが嫌ですか?そうであれば強制はしたくありませんが」

 「嫌ではないですけど。今、問題がある訳ではないので…」

 「嫌なら正直に言った方が良い」

 「そんな事は無いです」

 「まあ嫌と言われても勝負は勝負ですからやりますけどね」

 キョークは少し表情を歪める。

 「さて、キョーク様にユッミル様、行きますよ」

 ユッミル達は魔石製作場となっている塔の近くの元森の樹林伐採をあえてしていない魔石試打用の木の的が豊富な場所に来ている。

 「ユッミル様は全ての術で上回っている事を証明する為、キョーク様が気が済むまで持ち手の術をお使い頂き、一つでもキョーク様の威力を超えられない事があればキョーク様の勝ちです。ただ、決着をつける必要から夕刻まで超え続ければユッミル様の勝ちとします。キョーク様も今からでもいつでも降参してもらって構いません。もちろん、キョーク様が術を使われてそれを上回るユッミル様の術に対してキョーク様が再度上回る術を放つ事でユッミル様への挑戦権は回復しますが別の術を挟んで同じ術を繰り返していくのはできればお避け下さい」

 「僕はそれで構いませんよ」

 「随分、私に有利なルールを提案してくれるものだな。その無用な自信は敗北への道になるだけなのにな」

 「両者のご了承を得たという事で解釈します。判定はネメッカ様が行いますがロコッサ様には拒否権を与えます。ロコッサ様が拒否権を発動した場合、ユッミル様はやり直す事も可能です。同じ術で再度拒否権が発動された場合は私が判定を引き取り、最終的には幹部数名に術者の正体が見えない状態でご判断頂きます。」

 「私が不服を申し立てる権利は?」

 「幹部に全ての事情を話します。この勝負の経過についてもその上でならば可能です」

 「まあいい。一応、光の内部とはいえ見物人はいる。ネメッカ様も露骨な不正判定はできまい」

 「キョーク、まだか?」

 「時間はある。急がなくても良いだろう。だが始めようではないか。まずは小手調べだ」

 キョークは光点を撃つ。ユッミルは威力の低さに驚きつつもそこそこの威力の光点を撃ち返す。

 「ユッミル様の威力が勝っている様に見えます。キョーク様、どうしますか?」

 「あの程度では足りんな」

 キョークは威力を高めた光点を撃つ。狙いの精度を下げてその力の分、威力を高めている。ユッミルはすかさず五個の光点を撃ち、一個はキョークとほぼ同位置に撃っていく。

 「流石、主宰候補。大半の術は勝てそうにない。だが問題は全てで勝てるという思い上がりだ。」

 キョークは8本もの光柱をかなりの時間維持する。

 「中々だな、これが切り札みたいですね」

 キョークは息が荒くなっている。

 「余裕だが虚勢は後で負けをより鮮明にするだけだ」

 「けどこれならネメッカ様でも勝てそうですね」

 「かもしれませんがユッミルが早くして下さい」

 「それはそうですがこの人に文句を言わせない術となるとその辺りの人にはどいてもらわないといけませんし光が後ろに漏れすぎないようにネメッカ様に防御もお願いします」

 「ユッミル、どれ程の威力を撃つ気ですか?」

 「まあ見てて下さい」

 ユッミルは20本程の柱を上空に設置し、高度を上げ下げする。色を変えていく。今度は威力を高め、多数の色だけ固定して位置を動かす。

 「ネメッカ様、もう良いでしょう」

 「そうですね、ユッミル様が上回ってますがキョーク様、ご納得頂けますね?」

 「分かった、あの女にここまでの事をしなくても良かったな、お互いに」

 「やりますよ。長引くよりはいい」

 「ユッミルの手持ちは凄いですね」

 「流石に消耗が激しいのであれを十回やるのは不可能ですよ。それよりもロコッサさん、お願いしますね。今回は迷惑を掛けて申し訳ないです」

 「いえ、ちょっと戸惑ってますけど頑張ります」

 「焦らなくて良いですから気長にね」

 「ユッミル、私にはそこまで優しくありませんね」

 「でしたら毎日横並びで顔を近づけてただただ寝るまでお話をして日々を過ごしましょう」

 「ごめんなさい、そんな地位には降ろされたくないです」

 「ですがユッミル様、今、ネメッカ様の女としての邪な狙いを前提に話されましたね。ネメッカ様、おめでとうございます」

 「違いますよ、真偽はともかくネメッカ様はそういう主張をしなければならないですから」

 「イーサ、ありがとう。けどいずれにしてもユッミルに私と寝て頂くのは変わりません」

 「そんな事よりキョーク様に休暇をご用意頂く件、ご了承頂けますか?」

 「もちろんよ、まあユッミルがいれば魔石製作に他の人員がいらない位だし」

 「ネメッカ様でも半分は担えるでしょう。私もそろそろ主宰なのですから魔石製作等に割ける時間は減ります」

 「いえ、執務は従来通り私がやりますし幹部の分担も増やします。これまでは主宰の彼が過剰労働を買って出ていて無理に主宰を頼んでいた事もあって断れませんでしたが元に戻します。所でユッミルは主導をしてくれないのですか?」

 「当面は無いですね」

 「勘違いかもしれませんがユッミルの実力が知れ渡った途端に私が実力もない癖に主導に居座る我儘女になりませんか?私の為にも代わってくれません?」

 「大丈夫ですよ。実力者を色香で手籠めにして手駒にしたやり手主導と思われるだけですよ」

 「不当な評判は困りますね。手籠めにされたのは私なのに」

 「何処がですか?私は渋っていた入団を了承してこうして団に自ら貢献している」

 「そうですよ。ユッミル様はネメッカ様に手籠めにされていると言い張っているのですから色々仕向ければいいでしょう」

 「はい、手籠めは言い過ぎでした」

 「それは良いのですが私はユッミルが抱いても何をしても私の思いをご理解頂けない事が不満なだけです」

 「あんな事をするからでしょう」

 「あれは悪い事をしましたがユッミルが私を嫌いになる理由にはなっても私を信用しない事には繋がらないでしょう」

 「術目当てだと」

 「それはきっかけに過ぎません。もう今や術が無くても…いえ、もう団に誘う頃には」

 「矛盾が酷いです」

 「ですが多分、本当ですよ。」

 「まあ良いです。あなたは魅力的ですから騙されておきます。悔しいですが疑う気は薄れています」

 ユッミルはロコッサを連れて早めに家路に着く。ロコッサは向かいの自宅から少しだけ荷物を持ってくる。

 「そうか、家か」

 「この家は光の団から借り受けているのでネメッカ様次第ですね」

 「まあ大丈夫だろう」

 ユッミルとロコッサはユッミルの家に戻る。

 「今日から一緒に住むロコッサさんです」

 「ユッミル、駄目よ」

 「えっと、決めた事なんだけど」

 「分かった。ならユッミルとは寝ない」

 「この子には迷惑を掛けたからしばらく森で術の訓練を見る位はしてあげたい」

 「そういう訓練は私も協力します。光の団の内部の事には参加できませんがそれ以外はできる限り、ユッミル様の森へのお出掛けには協力します」

 「ありがとう、お願いしますね。メシャは留守番で悪いけど」

 「良いよ。今はユッミルと居たくないし」

 「でもカエの時はそこまで不満が無かったのに」

 「あの人の事はユッミル警戒してたのに今は無警戒。」

 「カエさんやメシャは僕に積極的な行動を起こすから関心があるだけだよ。警戒なんてしてないよ」

 「ううん、私に警戒するのは仕方ないから良いの。けどその子も警戒して」

 「警戒したら住むのを嫌がらないの?」

 「そうかも」

 「けどメシャが代わりに警戒しようとは思わないの?」

 「よく分からないけどそうするとユッミルが私を嫌う気がする」

 「そんな事は無いと言いたいけど人の心なんて自分のですら分からないし良いよ。けど気を紛らわす為にメシャと一緒に…」

 「今日は私ですよね?」

 「ソヨッハ?まあ良いけどね」

 夕食と後片付けを終える。ユッミルはロコッサと街の浴場に向かう。入浴を終えて帰宅するとソヨッハとメシャーナは未だに入浴している。

 「メシャ、そろそろお湯が冷めるから出て服を着ろ」

 「そうだね」

 「私もそうします」

 ユッミルはさっさと布団に入る。

 「あっ」

 ロコッサは驚いている。ソヨッハはそのままユッミルの布団に入っていく。

 「ソヨッハは服を着なくていいの?」

 「いらないでしょ、着てる方が良いの?」

 ソヨッハはユッミルの半身に体全体を預けていく。

 「急いだ方が良いの?」

 「そういう訳じゃないけどそろそろ躊躇う理由も無いから」

 「したいの?」

 「してもいい」

 「まあ一回目はやめておく」

 「良いよ」

 ユッミルはソヨッハの肩を抱きかかえる。

 「これでも寒いから服を着れば?」

 「分かりましたよ」

 ソヨッハが布団から出るとその隙にメシャーナが割り込んでくる。

 「メシャ、今日は駄目だよ」

 「ソヨッハが戻るまで」

 翌日はソヨッハと光術師の訓練を実施した。ユッミルは少し成果を感じたがソヨッハから見れば上手く行ってる様には見えなかった。ネメッカは午後から指揮所であった。

 「ユッミル、私と塔に帰りませんか?」

 「今日はカエさんが来るかもしれないので」

 「塔に行った時に断ればいいでしょ。それにロコッサはいるんだから不在は伝えられる」

 「カエさんはネメッカ様の大事なお付きですから」

 「なら私も入って待ちます」

 「駄目ですよ。まだ決まって…」

 ネメッカはユッミルの腕を強く握る。

 「分かりました、とりあえず入って下さい」

 ネメッカも家に入る。

 「やはり危険な環境ですね。ユッミルは私の部屋で安らぐべきです」

 「そんな事を続けたらネメッカ様が疲れ果ててしまいます。今はただでさえ休まないといけないのに」

 「嫌なんですか?太ってて抱きにくいとか」

 「明日は行きますけどね」

 「は?形だけカエさんに来てもらって私と寝ればいい」

 「メシャさん、私達はそろそろ夫婦ですから諦めて下さい」

 「ユッミルはあなたのしつこさに根負けしただけで好きなんかじゃないわよ」

 「えっと、メシャ。そういうのはやめよう。ネメッカ様、流石に今日はお帰り下さい」

 「分かりました。また明日ですね。ユッミル」

 ネメッカは塔に戻っていく。

 「ユッミル?」

 翌朝、ユッミルの主宰就任はあっさり決定された。ユッミルは現主宰と共に発言は許されずネメッカの胸に顔を抱き留められながら結果を聞き届けていた。

 「もう良いでしょう」

 「私はもっとでも構いませんよ。後はイーサが事務連絡をするだけですし私はユッミルとの婚約をする予定ですからユッミルを拒む事はできません」

 「永遠にこうする訳にも…」

 「会議が終わってイーサ以外が退室したら執務室に戻らなければなりませんからそれまでですけど」

 「ネメッカ様の機嫌を損ねたくは無いのでネメッカ様が離して下さい」

 「嫌ですよ」

 結局、二人は会議中抱き合っていた。

 「今日だけでお願いしますね」

 「分かっていますがアシストしたのはイーサさんですよ」

 「やりすぎました、反省しています」

 「ユッミル、そういう事ですか。」

 「それもありますが…」

 「まあ良いです。これでユッミルの主宰就任は決定。明後日の主導会議に一緒に来て下さいね」

 「まあそうなりますよね」

 「浮かない顔ですがあそこにはそれなりに好意的な人も多いでしょう」

 「月の主導様は来ませんよね?」

 「分かりませんが来る事は稀ですよ。恥ずかしい膨れ腹を披露するのは残念ですがユッミルに指揮所を任せる経緯説明には必要なので仕方ありません。」

 「指揮所ですか、了承されるでしょうか?」

 「本当に心配していますか?あなたはシェンハ様にも認められていますし問題無いですよ」

 ネメッカはユッミルを抱き寄せる。

 「それよりも今日はどんな服を脱がせたいのですか?」

 「そんなに選択肢は豊富ではないでしょう。それよりも無理は駄目ですよ」

 「無理ではありません」

 「本当にそうなのですか?」

 「大丈夫です」

 「体に負担が無い様に程ほどにしますね」

 「仕方ないですね。終わってからですか。」

 「終わってからも休むべきでしょうね、しばらくは」

 「まあ良いです。今は難しいでしょうから」

 翌日は一日休む事にしてメシャーナ達と過ごす。ロコッサとソヨッハにはちょっとしたお遣いを頼んでそれぞれ少し散歩に行かせてメシャーナの面倒を見る。メシャーナはユッミルの膝で昼寝をし、いつの間にかユッミルも寝ていく。しばらくしてメシャーナは外の声で起き、ユッミルを起こす。

 「カエさん、何かご用ですか?」

 「いえ、特に用事はありませんが私もネメッカ様も休日なので来てしまいました。私はネメッカ様公認の側室なのですから…」

 「申し訳ないです。今回は私のせいでカエさんの活動がしばらく停止してしまいました。欲望のままにネメッカ様と寝てその結果としてカエさんがネメッカ様に常に付き添う事で動けなくなってしまいましたね」

 カエは不満そうな顔だ。

 「そうですね。こればかりは仕方ないです」

 「この人、しばらくここに来れないの?」

 「もう何回かは来るけどその後はもう来ない」

 「もう来ない事は無いですがしばらく来れません。ユッミル様の負担を私ではあまり請け負えないので塔等での仕事が増えてしまい、申し訳ありません」

 「その心遣いには感謝しますが私が決めた事なのでお気になさらず」

 「ただ、ネメッカ様はまだ言う程には膨れていませんので私の方もそろそろお相手下さい」

 「一緒に寝たら明日以降はしばらくはネメッカ様に付きっ切りでお願いできますか?」

 「もちろんです」

 ユッミルはカエを抱き寄せる。

 「ネメッカ様、今はそういう事をしても何も起きないから構いませんし起きてもネメッカ様との事にすれば良いですが高頻度で事をやっても何も無いのは不自然ですしかと言ってあなたの子供として育てる訳にはいかないでしょう。困りますよ」

 「それは心配には及びません。正式にあなたが主宰に就任し、婚約となればネメッカがあなたの家に泊まろうとしてももう問題はありません。ですからカエとのこれは最後の機会ですよ」

 「つまり、頼んでもカエさんは来てくれないと?」

 「そんな事は無いですがユッミルの言う様に高頻度は自粛しますね」

 朝起きるとネメッカが立っている。

 「おはよう、ユッミル」

 「おはよう、どうやって家に入ったかは知りませんがおやめ下さい」

 「ユッミルこそ何を私の恥ずかしい姿をじっくり見てるんですか?」

 「それは申し訳ないです」

 「いえ、恥ずかしいですがそれだとユッミルに失礼ですね」

 「大丈夫ですよ。今でも十分お綺麗です」

 「ありがとう、見ても構いませんよ」

 ユッミルはネメッカの肩を抱いて顔に胸を一度埋めてネメッカの方を向く。

 「あの、全てを解除しないで下さい」

 「ユッミル、いい加減に慣れてくれませんか?」

 「慣れるという事はネメッカ様に飽きた事になりかねませんけど?」

 「私としては構いませんがユッミルとしてはですか…」

 「光術師にとってそれがどういう事か、分かってますよね?」

 「心配しなくてもユッミル以外には見せませんよ。それにその角度を曲げる術師はユッミル位です」

 「えっと、体裁上そういう事に気遣うと言うなら服を着て下さい」

 「この服が無いと皆私がネメッカと気づかないから問題ね」

 「見た目を変えない方法があるでしょう」

 「ですがこの後は時間が無いので駄目ですよ」

 「分かりました」

 「そうです、もうすぐ正式発表なのですから連れ立っても良いですよね?体を密着していれば問題無いです」

 「それは構いません。任せます」

 「しかし、まああのネメッカも意外と手が早い。若いのは羨ましいわね」

 「5つも離れてないあなたが…ではなくユッミル様の手が早かったのでは?」

 「主宰の話よ。そちらの話は未確認。主宰の話と違って会議の了承はいらないからでしょうね」

 「ですけどほぼ確定でしょう。ソヨッハは大丈夫でしょうか?」

 「それはどういう意味かしらね?ですがあの子は誰かから促さないとそういう事に興味を持たない」

 「それは必要無いでしょう」

 「そうとも言えるけどそうであれば別の機会を奪う事にはならない。向こうは光以外の術師に興味を持ってるしソヨッハにとっても優秀な術師と組むのは今後の為になる」

 「ですがそれ以上はいらないでしょう」

 「ユッミルさんを信用していないの?」

 「そうは言いませんがそういう扱いと言ってしまうと良く扱われない」

 「その気ならあの誘いに乗った筈、ソヨッハはそういう扱いには向いていない。子供だし」

 「ユッミル様を試したのですか?」

 「そうね、乗っていたらもっと試す気だったけど必要無いわ。それともあなたが代わる?」

 「いえ、私は男に好かれませんので」

 「あなたがそれを望んでいないものね。けどユッミルさんとネメッカ様を見てると変わるかもしれないわよ」

 「変わりたくないですね」

 「私的には主宰の地位が無ければ可愛がってあげるのも良いと思うけど木の主宰と光の主宰の過剰な関係は良くない。4年早くて私が未婚なら十分考えたのに」

 「主宰様が他の団のまして主宰と恋仲になられるのは結託を疑われて困ります」

 「未婚でも駄目だったの?」

 「駄目とは言いませんが…」

 「しませんよ。それにユッミルさんは私に興味は持ちませんよ」

 「あなたが既婚なのは有名な事。最初からそういう目で見ていないだけです」

 「ありがとう。とにかく主導に賛成するよう要請して下さい」

 「わかりました」

 「エッヒネ、今日はわしが出席しても良いぞ」

 「お気遣いなく」

 「まあわしも焚きつけてしまったしのう。すまなかった」

 「分かっていた事です」

 「決めるのはお前じゃ」

 「ユッミル様の主宰就任には反対しませんよ。そんな女なら友人としても相手にされませんから」

 「ならよい。任せたぞ」

 「光の新主宰をどうするか?見て判断するよ」

 「いえ、基本的には賛同した方が良いと思います。やはり私が行きましょうか?」

 「俺が行く。心配しなくても前の主宰より強そうであれば受け付ける」

 「ネメッカ様より強ければ確実に賛同頂けますか?」

 「そんな事は当然だ」

 「良かったです」

 「ほう、楽しみだな」

 「リッネ様が行くのですか?」

 「私の目で見てみたい。優秀な光術師に会うのは初めてだから期待している」

 「ですが相手はネメッカ様以上の光術師。仮面の奥を見通されかねません」

 「分かっています。ですがいずれは避けれない事。その程度の憐憫な眼差しは耐えねばなるまい」

 「リッネ様がお強いのは承知ですがお気を付け下さい。ご同行したいですが…」

 「流石に会議の場では何も無いだろう」

 「分かりました、指揮所での任が終わり次第すぐに駆けつけます」

 シェンハは真っ直ぐに会議に向かっていく。

 「新主宰ねえ。どうして主導にしないのかしら?どう思う?」

 「あの女の顔を立てたと思いますけど」

 「だと良いのだけどちゃんとやってくれないと困るわよね?」

 「そうですよね。非常に困ります。何も起こらなくてせっかくの水の商売への悪影響が発生しなくて困ります」

 「そうです。水としては主宰就任を歓迎しますが同時に大人しくしてもらいましょう」



 3節 会議


 シェンハを筆頭に木や土の主導も会議室に到着し、水の主導も会議室に着く。ユッミルは露骨に抱き付こうとするネメッカの背中に手を当てて光術で自分の位置を偽装しながら急がせる。ようやく術師協会に着くとエッヒネが建物に入る姿を視界に捉える。ユッミルも会議室に向かう。

 「随分ゆっくり来ましたけど月はまだみたいですね。ユッミルが急かすからですよ」

 「急かさないと遅刻する気満々だったでしょう」

 「入ってすぐに本題を始めたかったのに月はいつも遅れる」

 「いつもなんですか?あの主導はやはり…」

 「いつも遅れるのは主宰の方で…」

 「申し訳ないが時間自体は間に合ったつもりなのだが?」

 「リ、リッネ様、そういう意味では…支障ありませんので」

 ユッミルはのけぞりつつ仮面の月の主導の全体像を認識した。上半身は肩と腰まで鎧と仮面が一体化している。ユッミルはしばらくしてリッネの少なくとも首にかかる長い黒髪を認識した。ユッミルは思わず近づいてきたネメッカの腰を軽く掴む。リッネはユッミルの前に立つネメッカと向かい合う。

 「光の主宰、ユッミル様。初めまして月の主導のリッネと申します。是非、交流を深めさせて頂きたい」

 リッネはユッミルの手を取る。

 「はい、お願いします」

 「ユッミル?」

 ネメッカが机の方を見ると驚くものと興味深げに眺めるものに反応が分かれたが全員相応に興味を持っているらしい。ユッミルは我に返る。

 「リッネ様、お席について下さい。ネメッカ様、お願いします」

 リッネは机の方に向かう。

 「光としては新主宰にこちらのユッミルを迎えて指揮所の担当を担ってもらおうと思っております」

 「私は元々主宰を許す人間は指揮所での指揮も許すべきだと考えている。異論は無い」

 「私は力量を実際に見ましたから拒む理由はありません」

 「シェンハ様、ありがとうございます」

 「実際の実力なのだから礼を言われる筋合いは無いわ」

 「木としても主宰から相応の力量と聞いている。異存は無い。少なくともその主導より優秀な術師をようやく光が調達してくれたのだ、厚く歓迎するよ」

 「ああ、あの時の君か。俺も彼の実力は前の魔族襲来の時に遠目ながら見たので主宰に足る力量なのは理解している。土としても歓迎だ。任せたぞ」

 「グルード様もありがとうございます」

 「炎としてもユッミル様の実力は存じていますので同意します」

 「えっ、私以外は迷わずですか。まあ私共も事前に知っていましたので少なくともそこの主導よりは実力が高いのは知っております。拒否する理由が無いので水としても同意しますが主導ではないのですね」

 「はい、ネメッカ様の主導としての活動に問題が無い以上変わる必要は無いかと」

 「問題が無い事は無いのだけど承知しました」

 「そして、ここからが本題なのですが…」

 ネメッカは光術を解除する。

 「噂は本当だったんですね」

 エッヒネは目を逸らす。

 「こうした状態になってしまったので主導会議はしばらく参加しますが指揮所への参加は控えさせて頂きます。ですので輪番制は従来通りで願いたいのですが」

 「そうね、いずれにしても組み直すのは手間。ネメッカさんが欠席して主宰さんが出てくる辺りになってからでも遅くは無い」

 「ではお二人共、お座り頂いて構いません」

 「私の席は無いでしょうから…」

 「ありますよ」

 エッヒネは椅子に手を掛けている。その椅子は長辺に四つずつ距離を取って置かれたものではなく短辺の中央にある。

 「本来、本日の議題はあなたなのですからここに座るべきですよ。時に集会所の担当者が来る事もありますし珍しい事ではありません」

 「エッヒネ様、ありがとうございます」

 ユッミルは席に着く。

 「今日の紙…」

 「シェンハ殿、先にもらいますね」

 リッネは今日の資料が印刷された紙を片手に椅子を前に運んでいく。ネメッカは呆気に取られている。

 「ユッミル殿、資料が足りないので一緒に使いましょう」

 「リッネ様、気遣いはありがたいのですがその資料は私が後で旦那に見せますので」

 「ネメッカ様、リッネ様の厚意を断る必要はありません」

 「ユッミル様、この様な仮面と鎧を身に着けておりますがそれはむしろ私自身が弱いからに他なりません。警戒されると困惑してしまいます」

 「申し訳ないですが私はさらに弱いのでどうしても警戒してしまいます」

 「まずは集会所から下級魔石が少し減っているので委託はしばらくない見込みとの事。魔族が比較的奥に引っ込んだ状態が継続しているから狩りに行くのは控えた方が良いとの事」

 「けどその情報、主にネメッカ様からでしょ?」

 「私も聞かれますが担当者の方は水の幹部や土の幹部も魔族領の状況を探っている様な事を言っていましたからそれは違います」

 「私はそんな指示出してないけどね」

 「そういう事にしておきますが無意味ですね。もっとも私よりリッネ様と談笑しておられる男性の方がよく見える様ですけど」

 「ネメッカ様、お願いですから私の弱い立場をさらに弱める行為はおやめ下さい」

 「弱い立場?興味深い発言ね」

 「深い意味はありません。光の実績はこの中でも最低。私はその主宰ですから」

 「大丈夫ですよ。私はあなたを支える事もできます」

 「リッネ、あなたは今日何をしに来たの?」

 「光の新しい主宰に挨拶に来た。他には興味は無い」

 「私はあなたに何も協力できる様な力は無いかもしれませんよ」

 「すぐにではない。ゆっくり話を聞かせてくれ。今日は私を知ってもらうだけ」

 「まあ良いわ。あまり邪魔すると殺されるし他に何か議題や連絡…」

 「シェンハ様、そういう発言はユッミル殿を怖がらせるのでお控え頂きたい」

 「私があなたを弱いと言っても信じないわよ。仕方ないでしょ。とにかく他に議題や連絡は無いの?」

 「では私から一応もうご察しかと思いますが光の主導ネメッカは新しい主宰と婚約しており、程なく婚姻する事になっています」

 「つまり、その子はユッミル様の子供と?」

 「はい、そうです」

 「ユッミル様に聞いているのだけど」

 「そうだと思います」

 「はい、私はユッミル様以外とは何もしていないので間違いなくユッミル様との子供ですね」

 「ネメッカ様、そこは疑っていませんよ」

 「ですがユッミル、私をあまり放っておくと次は他で作るかもしれません」

 「構いませんがご報告は願えると幸いです」

 「分かりました、それは後にします」

 「他に無いなら今日はここまでね」

 ユッミルは立ち上がる。

 「ユッミル様」

 「ネメッカ様」

 エッヒネはネメッカを呼び止める。

 「少しお時間宜しいでしょうか?」

 「えっと、構いませんよ」

 リッネはユッミルを連れ出す。

 「リッネ様」

 外に出ると月の主宰が立っている。

 「大丈夫よ。話をするからあなたは下がっていなさい」

 ユッミルとリッネは路地裏に向かう。

 「ユッミル様、私の顔が見えてしまいましたよね?」

 「はい、ですがリッネ様が私が光術師と知っても近づくからですよ」

 「別にあなたには知られても構わないですが他の人は困ります。黙ってて頂けると助かるのですが」

 「言いません。リッネ様の怒りを買いたくはありませんから」

 「ありがとうございます。これからも宜しくお願いします。月の塔にもお気軽にお越し下さい。お待ちしております」

 リッネは足早に立ち去る。

 集会所への道に戻ろうとするとネメッカが待っている。

 「リッネ様と何を?」

 「リッネ様に脅されました」

 「どうしたの?」

 「先程リッネ様が近かったので仮面の下が見えてしまいました。それを正直に答えたら口止めされました」

 「何か変な顔だったのですか?」

 「いえ、ですが口止めされているので言えません」

 「分かりました」

 「それよりエッヒネ様とは何を?」

 「それは向こうに聞いて下さい」

 「そうですか」

 「それよりリッネ様とは随分親しげでしたね」

 「何処がですか。怖いですよ、シェンハ様は高圧的でうるさいだけでかわいく見えてきましたよ。あの威圧感は」

 「うるさくて悪かったわね、ユッミル」

 「ああ、シェンハ様ですか。今日も元気そうですね」

 「さっき会ったばかりでしょうが。それよりネメッカ、私も今日思ったのだけどそこの男にくたばられたら困るわ。これが危険な事をしようとしたら止めなさい。できる限り協力もする」

 「シェンハ様もユッミルの事を低く見るのですか?それにリッネ様はそんな人ではないですよ」

 「けど現実に強さは持ってる」

 「それに警戒すべきは月ではないですよ」

 「分かってはいるけど近づかなければ大丈夫よ」

 「あなたはそうでしょうけどね」

 「そうね、そればかりは責任は持てないわ。それよりもユッミル、そいつに危険は無い訳?」

 「利用する気はあるかもしれないけどこちらを陥れようとはしてないと思う」

 「ふーん、気をつけなさいよ」

 「シェンハ様、そういう事を言いっ放しで帰られるのは困ります。それにユッミル様ももう少し信用して下さい。ですがもう正式発表しましたしこれからは大手を振って恋人ですね」

 「ですがそれだとネメッカ様の品を下げます。もう少し普通に歩いて下さい」

 「手を繋ぐ位は構いませんよね?」

 「はい」

 光の塔に着く。

 「何か子供っぽくないですか?」

 「そうですね。仕方ありません、外では我慢して私が軽く触るだけにしましょう」

 翌日はまた四人に加えてロコッサもユッミルの指導で訓練している。ただ、ロコッサと一人の少女が少し上達し始めている。

 「ロコッサは魔石を作りながらでも良いかもね」

 「私はまだまだです」

 「そうだね、もう少しかな」

 ユッミル達は昼前に森を出る。

 「昼食だね。少し話したいから君らも食べよう」

 「私はメシャーナさんと食べてきますね」

 「うん。まあ仕方ないか」

 ユッミル達が塔に戻るとネメッカが待ち構えていた。

 「ユッミル、お昼ですか?」

 「はい、気が散るのでネメッカ様とは食べませんが」

 「私も術が下手になればその輪に入れるんですか?」

 「それは困ります」

 「ですが昼食は昼食なので遠くで食べてます」

 「イーサさんは?」

 「少し忙しいのです」

 「昼からはどうするのですか?」

 「塔での仕事ですね」

 「所でそういうのはしなくていいんですか?」

 「私の仕事量はそこまで多くありません」

 「ユッミルさん、先食べますよ」

 「ごめんなさい」

 「私も行きますよ」

 遅めの昼なので食堂はネメッカやユッミル達以外は数人である。

 「君ら二人は獣に当てようとして迷って遅れてるけど少し離れてても効果があるから気にしない方が良い。獣の動きに気を取られて集中力が落ちて術の威力が落ちてる」

 「君の場合は集中は良いけど溜めすぎ大きいけど位置が悪い。四人は一度に多すぎたかな?」

 「私は指揮所から外れる分、二人位見ましょうか?」

 「ご冗談を。大人しく休んでいて下さい」

 「でも大事なのは集中力。でも集中するまでに時間が掛かったら今は良いけど…いや、その時間も魔石の質に反映されるから」

 「ユッミル、難しい話ばかりしても駄目ですよ。皆さん、そろそろ食事に集中して終えたら持ち場に戻って下さいね」

 「ごめんなさい、ネメッカ様」

 「ごちそうさま」

 ネメッカはユッミルの背中にもたれる。

 「あの、困ります」

 「私の持ち場はユッミルの隣ですよ」

 「仕事、あるんですよね?」

 「分かりましたけどユッミルはどうするの?」

 「今日は帰るかな、たまには相手してあげたいし」

 「別に夜はこっちに戻ってもいいんですよ?」

 「僕は姑息ですからネメッカ様が逃げれなくなってから本性を現しますね」

 「もう逃げ場は無いし迎え撃つ為に待ってるのだけど」

 「いえ、その状態があるから逃げられるというよりもやはり気が引けます」

 「分かりました。でしたら一緒にいて下さい」

 「良いですよ、夜に伺います」

 ユッミルは家に戻り、ソヨッハやメシャーナと過ごして夕食を食べる。

 「じゃあ僕は出かけるから」

 「あの女の所?」

 「あっ、もしかしてメシャは知らなかったっけ?」

 「何?」

 「ネメッカ様もメシャと一緒でできたんだよね」

 「は?まさか」

 「うん、だから見守ってあげないと」

 「向こうは望まれた子。私のは望まれなかった子」

 「いや、多少はそうかもしれないけどやったのはメシャでしょ。それにメシャの事も気に掛けてるしこっちに泊まる日の方が多いし」

 「分かってるよ。いってらっしゃい、ユッミル」

 ユッミルは塔に着くとネメッカの部屋に向かう。

 扉を開けると誰かが背中をはだけていたのでユッミルは扉を閉じようとする。するとネメッカが服を着ずに扉に足を掛ける。

 「ユッミル、恥ずかしいので入って下さい」

 「あなたが見せているのですけど?」

 「ユッミルは問題無いですが扉が空いてると他の人に見えるかもしれません」

 「私も構いませんから」

 ユッミルは急いで入る。

 「ネメッカ様、その様な格好は困ります」

 「お腹を締め付けたくないのですけど」

 「でしたら上は着れば良いしネメッカ様は光術で」

 「それはユッミルの希望ですけど毎回は聞き入れませんよ」

 「イーサさんの格好は何なのですか?」

 「あれは普通でしょう。まあかなり布は短いですけどね」

 「申し訳ありません。今日は宿泊する術師が多くどうしてもこちらで泊まるのが合理的なのですよ」

 「そうですか、ですから帰れという事ですね」

 「何を言っているんですか?いい加減に慣れて下さい」

 「イーサさんは受け入れましょう。過剰反応でした。が、ネメッカ様は締め付けない服装もあるはずです。それにその格好だと逆にそういう」

 「今日はそういう日ではないので単に触れ合おうかと、まあユッミルの気が変わったら仕方ないですね」

 「ネメッカ様の体の事を考えてしないだけですからね」

 「ではユッミル、隣にどうぞ」

 「ネメッカ様、イーサさんを守らなくていいんですか?」

 「ユッミルが私だけで不満だった場合、イーサならましかなと思って」

 「イーサさん、売られてますよ」

 「私は少々なら構いません。他で浮気されてネメッカ様の機嫌を損ねて光の戦力を損なう位なら」

 「イーサさん、あなたは今ある手札を活用する人だと思っていたのですが?」

 「私も手札ですよ」

 ユッミルはイーサの肩に手を置く。

 「つまり、抱いて良いんですか?」

 「ユッミル様はしませんよ、私如きの為にネメッカ様の機嫌を損ねたくないでしょうから」

 「まあ合ってますけどイーサ様は十分魅力的ですよ。私の場合は当面一緒に狩りに行けそうな人に興味が惹かれますから少し興味が薄いだけですよ」

 「ユッミル、もう良いですから早く」

 「イーサさん、あの懲りない人はどうにかならないのでしょうか?」

 「では行かないのですか?」

 「まあ行きますけど」

 ユッミルがベッドに入りかけるとイーサが抱き込んでベッドに押し込む。

 「ちょっと良いから寝ますよ」

 ユッミルは朝起きるがまだ眠そうだ。

 「ユッミル、おはよう」

 「はい、まだ眠いのでネメッカ様は先に起きていて下さい」

 「えっ。それは酷くないですか?」

 「そんな姿の君に絡みつかれてぐっすり寝れる訳が無いだろう」

 「はあ、私は安心していつも以上に寝れたんですけどね」

 「ならもう十分だろう」

 「ユッミル、私を手中に収めたと思って抱きしめて寝れば寝れるよ」

 「ネメッカ、そんな風に思っていたのか?」

 「えっと、まだだけどもう少し位に思ってるけど」

 「まあ良い、とにかく君と寝ると寝れないから頻繁には寝ないだけで嫌っている訳ではない」

 「それは分かるけどね。最初でああいう事したからそう思わせてるかもしれないけど違うからね」

 「なら抱いてくるなよ」

 「そうだね、私が我儘だった。今度はユッミルが抱いてくれるよね?」

 「普通に寝たい」

 「油断してる隙を狙いたいんですね、好きにして下さい」

 「お願いしますよ、今はもう一度寝ます」

 「そうですね、私はまた指揮所ですから行ってきます」

 ネメッカは着替えて慌ただしく出ていく。ユッミルはもう一度寝る事にする。

 「ユッミル様、起きて下さい」

 ユッミルは目を覚ます。

 「イーサさん?」

 ユッミルはそう言いつつイーサに抱かれてる事に気づく。

 「おはようございます」

 「どうしてそんな事を?」

 「ネメッカ様のいない隙にですよ」

 「告げ口しますよ」

 「いえ、先程女性に抱かれると眠れないと言っておられましたので私が抱けば起きると思いましたが私は女性のうちに入らない様ですね」

 「ネメッカは直に抱くからだろう」

 「つまり、脱げと?」

 「声で起きたのだから問題無い」

 ユッミルは少し魔石作りを見てから買い物の為に街に出ようとする。

 「ユッミル様、いきなりで申し訳ありませんが少しお話しを宜しいでしょうか?」

 「速いな」

 「驚かせて申し訳ない。水の使いです。私達が怪しい集団と見られているのは知ってますので一気に近づいた方が良いかと」

 「確かに一度水である事を名乗られてしまえば無視した際の仕返しを考えれば話を聞くしかない様ですね」

 「では長くいると疑われるので正午にあなたの家に伺いますが時間はその時間で宜しいですか?」

 「うーん、いるとは思いますが半時程ずらして頂けると幸いです」

 「分かりました」

 ユッミルはロコッサを連れ立って買い物に出かける。ユッミルはいくつかの料理に必要な食材をロコッサに教えていく。

 ユッミルが買い物から戻ってしばらくすると扉をたたく音が聞こえ、扉を開けると向こうには先程の少女の他に背の低い少女も立っている。

 「では上がっても良いですか?」

 「まあそれは構いませんがその魔石と袋は何ですか?」

 「ユッミル様、こちらの屑鉄で壁に吊り具を付けるのは如何です?」

 「えっと?」

 ムヒューエが魔石を使うと壁掛けの小さな引っ掛け口が生成される。

 「これだと小さいですね。伸ばします」

 「あの?」

 「鍵も付いてると便利ですよね。後、もう一個作りますね。ミーハ」

 「ん?」

 ミーハは服を脱ぎ始める。

 「ちょっと待て。どういう事だ?」

 「体の大きさに合わせる必要があるからね」

 「答えになっていない」

 「まさか水魔法師についての事を知らないのか?」

 「えっと、主導様が術師を手当たり次第に囲い込んでる事位しか…」

 「そうか、この街では水術師の扱いは良くない。水の団に所属している術師はましだが無性質市民の街では自由は無い。一種の異端だ。実際、水術師がその気になれば無性質市民は簡単に殺されるだろう」

 「それは炎も同じだし土も氷も可能だ」

 「だが水は証拠が残らない。裁けない」

 「ですが向こうではそう扱われています」

 「という訳で残念な話だが向こうで水系術師は奴隷扱いだ。水の術が使えると分かると奴隷扱いで一部の貴族が買う。そして、その際には就寝中等に何もしない様に拘束しておくという事になっているのです」

 「そこまでは知らなかったね。で、どうしてこの子が服を脱ぐ事になる?」

 「あなたにも使用人としてこの子と同居してもらうのでそういう場合は服を着せずにやりますのでその慣習通りに」

 「不要だ」

 「それは不可能です。この子が何かしては水の団が困ります」

 「なら使用人はいらないと言ったら?」

 「水との交流に否定的と主導様は判断するでしょう」

 「ところで僕は悪徳貴族扱いなのか?それこそ失礼ではないか。」

 「それは違いますよ。むしろ利害が一致する面もあると考えますがあなたを変えようとする人がいるかもしれないのでこの子や私を通じて相談を受け付けます。それを円滑に進める為に寝る際には必ず戸締りと拘束を願います」

 「ソヨッハはどう思う?」

 「実際にあるのはあると聞きますしユッミルさんがちゃんとすれば悪徳ではないと思いますよ」

 「メシャーナはどう思う?」

 「うーん、枕位は付けてあげても良いと思うかな」

 この世界の常識に自信の無いユッミルは押し切られた。

 ムヒューエは鍵を置いて帰っていく。

 「ここからは私が説明します。この鍵はユッミル様が管理して下さい。いえ、保管は別の方でも構いませんが使用はユッミル様だけで願います。他の方が使う場合は私の前でユッミル様が頼んで下さい。鍵を紛失した場合は水の団が同等品を保管していますのでそれで開けて鍵は交換します。私が無抵抗だからと言って乱暴を働く場合は抵抗して主導様に報告しますのでおやめ下さい」

 「分かってますよ」

 「ですがユッミル様が性的欲情を私にぶつけた場合はラーハ様は喜ぶと思います。乱暴ではありませんが重要報告なので報告はしますがその口止めは受けても良いと言っていますのでそれはお任せします」

 「あのまさかこの高さと言い、服を着ない事もそういう事なのですか?」

 「おそらくはそう考えて問題無いかと。私には手柄なので遠慮なく願います」

 「悪いが子供がいるんだ。それに君も子供だろう」

 「背丈が低くて間違えられますが18ですよ」

 「年上?まあ背丈で年齢を判断しがちなのは悪かったが驚きだ。シェンハより上なのか。」

 「でもユッミル様は年下の方が良いですよね?」

 「ユッミル様、私より年上なのですか?てっきりネメッカ様と同じ位かと」

 「ミーハだっけか?それは酷くないか?ネメッカ様は良い具合に成長してるから良いが22で魔法だけが強い未熟者は悲しいだろう」

 「ユッミルさんは未熟者ではありません。私に丁寧に術を教えてくれました」

 「ありがとう、ロコッサ」

 「私としても否定的な意味ではなかったのですが申し訳ない」

 「まあ言う程気にしていないよ」

 「ユッミルはいくつなのですか?」

 「16だったが多分17だろう」

 「えっ」

 「とにかく17だ」

 「私、12だから一番年下かも」

 「ロコッサ、12なの?」

 「はい」

 「しっかりしてるからもっと上かと」

 「私、いつもおどおどしてるからしっかりはしてる様には見えないと思うけど」

 「ソヨッハは?」

 「15ですよ。目的が目的なんですから12は無いですよ」

 「ところで水は他の団に向けてもこういう事をしているのか?」

 「多分、してないと思う。炎や木とは関係良くないし土の主導さんは他の団が人送ろうとして失敗したって聞いて諦めたみたい。月と氷は女だし特に月の人にこういう事をしたら逆に機嫌損ねそうだからやめたってムヒューエ様から聞いたよ」

 「過去にはしていたのか?」

 「分からないけど多分してたと思う」

 「けど気にしないでね。私、ラーハ様に拾われてなかったら本当に酷い事になっていましたから」

 「えっと」

 「そんな変な話じゃないですよ。数年前に水魔法が使える様になって貴族に目をつけられましたけどラーハ様が先手を打って保護してくれたんですよ」

 「水は何故あんな拝金主義…まさか」

 「ええ、ラーハ様には感謝しかありません」

 「しかし、僕にこういう事をする理由は分かりません。誰と綱引き…まさかネメッカ様…」

 「多分、違います。炎はいつも通りだけど今回は土と月に気をつけなさいと。まあラーハ様はネメッカ様が気に食わない様ですけど私にはネメッカ様には配慮する様に言われています」

 「奇遇ですね。私も月と水に気を付ける様に言われています」

 「あの…僕も月には警戒していますが政争の具にするのをやめてくれませんか?まあネメッカ様が苦労してこっちにしわ寄せが来なければそれで良いけどね」

 「それは大丈夫です」

 「それは…」

 「ネメッカ様が魔族絡みであまり良い風に思っていないと聞いています。おそらくその点では水と利害が一致していますから普段は最下位争いの目の上の瘤ですがユッミル様を引き留める重要性を前にそんな下らない事は些末という事だと思います」

 「こちらとしても魔族と積極的に関わろうとは思わないが魔石には残念ながら興味がある。魔石獲得を問題視するなら水との交流は色々と限界が出てくる」

 「それは今度探っておきます」

 ユッミル達は夕食を済ませる。

 「ユッミル様、お願いします」

 「やはり服は着るんだな。まあ風邪引くし」

 「いえ、なるべく服はユッミル様に脱がせてもらうように言われています」

 ユッミルはメシャーナの服の脱ぎ着も手伝っており、さっさと服を脱がせていく。ミーハの腕を取って引っ掛けていく。

 「イーサ、ユッミルは今日午後から来なかったけど避けられてるのかしら?」

 「ロコッサ様と帰られましたから心配は無いでしょう」

 「本当に?かなり心配なのだけど」

 「保証は致しかねます」

 ユッミルは警戒したメシャーナとソヨッハに挟まれて眠りにつく。ユッミルは目を覚ますとさっさと自由にして服を着せてから起こす。

 「ユッミル様、おはようございます」

 「おはよう」

 「ユッミル様、私には魅力が無いと言いたいのですか?」

 「少なくともまだネメッカ様に話を通していませんが通しては駄目ですか?」

 「それは当然構いません」

 「寝る時の話もですか?」

 「ユッミル様にお任せします。できればお伝えしない方が…」

 「それは難しいですね。ネメッカ様も来る事があるので」

 「であれば仕方ないですね」

 「ところでミーハさん、狩りに行く許可はあるんですか?」

 「大丈夫だと思いますが後で確認に行きます」

 「なら今日は二人よろ…いや、ミーハさん、ネメッカ様への報告が先です」

 ユッミルとソヨッハとミーハはネメッカと応接室にいる。

 「ユッミル、今度は孤児を拾ったんですか?」

 「親を探してあげないと駄目ですよ」

 「いえ」

 「ユッミル様、私から言います。ネメッカ様、水に所属していますミーハと申します。光の主宰様のお手伝いとしてラーハ様より同居するよう申し付けられています。」

 「ああ、そうですか。それは構いませんよ。ユッミルは既に婚約済みでその相手が私である事を踏まえて行動頂けるのであれば全く構いません」

 「ありがとうございます」

 「あの、ネメッカ様?」

 「はい、今日はユッミルの家に初めて泊まる予定ですからちょうど良かったです」

 「分かりました、多忙なネメッカ様がゆっくりできる様に準備しますね」

 「いえ、ユッミルは私を抱いて寝て頂ければそれで構いません」

 「メシャーナもいますので程々にしますけど本当は我慢しているだけですから」

 「困りましたね。もう少し隠した方が良かったかしら?」

 「いえ、ネメッカ様が体調を崩すのは困ります。それよりもミーハ様は水系術師なので私に配慮して特殊な寝方をしているのですが」

 「ああ、それですか?構いませんよ、そんな縛りのせいでユッミルを自分から抱いてあげられないなんて可哀そうね」

 「ありがとうございます、ネメッカ様。ミーハは用事があるので先に。僕も訓練に行きますね」

 「分かりました、私は今日も忙しいのでお手伝いはできませんが頑張って下さい。お気をつけて」

 早めの昼食を取り、その後いつもより長めの訓練を実施した。ロコッサはかなり上達していた。残りの4人もようやく上達してきた。

 「ロコッサ、君は今度から次の術をゆっくりやっていくね」

 「分かりましたけど厳しくしすぎないで下さいね」

 「うん、けど明日はロコッサは休み。それで4人は一度最終試験をします。まあ駄目ならまだ教えるから大丈夫だけどできる限り、頑張ってね」

 「分かりました」

 「自信無いけど頑張るよ」

 「お願いします」

 「まあ駄目だと思うけど」

 「とりあえず皆が少し上達したと思うからね。合格してもまだ教えて欲しいなら全然頼んでくれて構わないから」



 4節 水術師

 

 ユッミルとロコッサとソヨッハは食材を買い足してから帰宅する。

 家に帰るとネメッカとミーハが向き合っている。

 「ユッミル、この人縛るのよね?私の言うことは聞かないらしいから早く縛って」

 「ネメッカ様、まずは夕食ですよ」

 「分かりました、手伝いますね」

 ロコッサが調理場から押し出され、ネメッカとソヨッハが料理を主導し、ミーハも少し手伝っている。ユッミルはメシャーナと話している。

 「それにしても随分膨れて来たね」

 「うん、そろそろかな。術が鈍ってないと良いけど」

 「大丈夫、急いでないから」

 「そうだよね。遂に木だけでなく水の術師も来てしまったし」

 「けどラーハ様が簡単に狩りへの参加を許すとは思えないし」

 「ユッミル様、言い忘れてましたけど森で術を使うのは問題無いらしいです。ただ、中級術を魔石に入れるなとだけ言われましたけど」

 「いよいよ、私いらない」

 「そんな事ないよ。メシャよりネメッカ様の方がもっといらないし」

 「ユッミル、聞こえてますよ」

 「ネメッカ様、何か強力な術を披露してくれないのですか?」

 「ユッミルにはできても教えません」

 「そうですか、まあネメッカ様は安全な所で光を指揮してもらわないと困るのでそれで良いです」

 「最近はユッミルのせいで忙しいですけどいずれはもう少し強くなる必要がありそうですね」

 ユッミルは夕食を終えるとネメッカに急かされてミーハを壁に寝かせる。

 「ネメッカ、何を?」

 「ユッミルの代わりよ」

 「ネメッカ様、駄目ですよ」

 「心配しなくても程々にしますよ」

 「メシャ、寝ようか。ソヨッハは?」

 「いえ、ネメッカ様がいますので今日はやめておきます」

 「分かった。メシャ、早く寝るぞ」

 メシャーナは寝間着をきちんと着ようとしない。ユッミルはそれでもメシャーナを抱き込む。

 「良いの?」

 「良いよ、寝るだけだけどね」

 足音がしてメシャーナの反対側ではユッミルの真上でネメッカが自然に服を脱ごうとしている。ユッミルは黙ってメシャーナを抱く。

 「ユッミル、妻を無視して他の女を抱くのですか?」

 「服を着れば普通に抱きますよ」

 「残念ですが服は忘れてしまいました。今度までにユッミルが用意して下さい」

 「分かりました。ただ、寝るだけですからね」

 ユッミルは目覚めるとネメッカを抱き直してしばらくしてから立ってミーハに服を着せる。メシャーナとソヨッハも目を覚ます。

 「ユッミルさん、戻しましょうか?」

 ネメッカとミーハも目を覚ます。

 「きつけ行きます」

 ソヨッハは右手をユッミルに向けて広げる所作をしている。ユッミルの表情の緩みが元に戻る。

 「ソヨッハさん、何をしているのですか?」

 「いえ、ユッミル様が上の空でしたので回復しました。森は奥以外も安全では無いですから」

 「中々、ユッミルが甘えても長続きしないから何かと思えばあなたですか。」

 「ネメッカ様、ソヨッハは優秀です。あまりそういう怒りを向けないで下さい」

 「私はユッミル様の安全を考えているだけです」

 「まあ良いです。この事が分かっただけでも上々です」

 五人は朝食を食べるとメシャを残して塔に出かける。入り口には四人がいてロコッサは塔に向かう。

 「ユッミル、今日は私も付き合いましょうか?」

 「自分の身を守れるのですか?」

 「これを見て下さい」

 ネメッカは幻術を解き、肩掛けの紐に繋がれた三つの魔石を見せる。一つは中級である。

 「随分、少ないですね」

 ユッミルは5個以上の下級魔石と二個の中級魔石を持っている。しかも片方はシェンハ産である。

 「魔石が売れて利益が出たので中級魔石も持てるようになりました。今は私の弱い中級術しか入ってませんけどユッミルが雷系の術を私にくれれば身を守れると思いますけどね」

 「雷打は売ってますよ」

 「それは下級術ですけど」

 「まずは下級術を使ってもらいますよ。いきなりは駄目だと思います」

 「それもそうね」

 八人の大所帯は歩き始める。もうネメッカとユッミルの婚約はそれなりに知れ渡ってるので6人も子供という冗談が飛び交っても可笑しくない程度には目立ちながら森に向かう。

 「今日は人手不足だから仕方ないですが今度は体が戻ってからですからね」

 ユッミルは左手でネメッカの腰を引いて抱き寄せる。

 「ソヨッハとミーハは一応後ろをお願いします。ネメッカ様、魔石を貸して下さい」

 ユッミルはさっさと雷打を8発込める。

 「ネメッカ様、獣を呼びますので魔石を使う準備を願います」

 ユッミルは歪曲視野で索敵を開始する。まず、一匹見つけるがソヨッハの側だったので保留にし、正面を探す。少し遠めながら発見したので雷射を打ち込む。

 「来るよ、サッネハ」

 「はい」

 ユッミルが光柱と雷射で直進進路を妨害して速度を落とさせる。ネメッカは雷打を使う。サッネハはすかさず光点を使う。それなりに効果が出て獣はあらぬ方向によろめくように歩く。

 「ほぼ合格だな」

 ユッミルは雷装剣でさっさと切り伏せる。ユッミルが振り返ると同時に獣の足音が向ってくる。

 「ミーハ、どうなってる?」

 ユッミルはそう言いつつミーハの方へ向かう。ユッミルが側面から近づこうとすると獣は水流で引き倒されており、ミーハが接近すると苦しんで動かなくなる。

 「そういう事か」

 「ユッミル様、ご心配には及びません。続けましょう」

 「そうだね、けど水系術師の怖さが分かったよ」

 「怖くないですよ。ユッミル様には勝てません。ですが怖いのでしたら大人しく私を抱いてくれればいい」

 「抱かないとは言ってませんが順番をですね」

 「分かりましたよ」

 ユッミルはまた獣を誘き出す。

 「三人は卒業。君は後数回居残りね」

 塔で四人と別れる。

 「ネメッカ様、明日は指揮所ですか?」

 「午後からですね」

 「今日も良いですか?」

 「もちろんです」

 ユッミルはソヨッハにミーハの事を頼んで塔で夕食をとる。ユッミルはネメッカが布団に入る前に寝てしまう。ユッミルは早朝に起きるとネメッカがやはり服を着ていないのでユッミルがネメッカが嫌がると思った所に手を置いて寝直す。ユッミルが再び目を覚ますとネメッカは微笑んでいる。手は動かせない。

 「お怒りは分かりますが服を着て頂かないと私が我慢できません」

 「怒り?よく分かりませんがもっと強く掴んでも良いのですよ」

 「あの、ネメッカ様、不快である事を言い出す事に遠慮されるのはいけませんよ」

 「そんな事はしませんよ。触られて不快な相手と婚約はしません」

 「ネメッカ様、手を縛られるのは不快なのですが」

 「そうですね、でしたら寝ていた私にしていた事をもう一度願います」

 「いえ、色々しようと思いましたが寝てしまいましたので」

 「でしたらそれを今やっては如何ですか?」

 「ネメッカ、引き返すなら今のうちだよ」

 「やっと、少し手を出してくれましたね。分かりましたよ、今度からは脱がせやすいだけの服を着ますよ」

 ユッミルはネメッカの着替えを手伝わされ、それを終えるとネメッカは執務室に向かう。ユッミルはロコッサと居残り少女クーハと森に出かける。

 ユッミルは全速の獣に光点を当てる手本を見せる。ロコッサは少し速度を落とせば少し速く動く獣にも光点を当てれる様になっていた。クーハも低速の獣なら当てれるが威力不足である。

 ユッミルがクーハを帰す為に塔を訪れるとちょうどネメッカが指揮所に向かう所である。今回はルーエも一緒の様だ。ネメッカはユッミルを見つけると駆け寄って口づけをする。

 「ネメッカ様」

 「ネメッカ様、いきなりは困ります」

 光の町とはいえ他の団も見ている可能性はあり、見送りに来ていたイーサは漠然とその他への見せつけと解釈した。

 「行ってきますね、ユッミル」

 ユッミルはその後、獣の皮や肉を売りに行く。その帰り、少し前の二人の炎術師に声を掛けられる。

 「こんにちは、例の話はうまくいきましたか?」

 「ええ、順調ですよ。そろそろ次なのですが」

 「そうなんですよね、ユッミル様へ見合うお礼が用意できません。最近は木の術師まで仲間にしたと聞きます。ですからとても安いお礼で申し訳ないですが私達二人との一夜で我慢して下さい」

 「分かりました、バッソー様のお願いは無下にできません。しかし、君らに魅力が無ければ先には進みませんから粗雑な扱いはやめた方が良いですよ」

 「でしたら明日午後に願います」

 その後、塔によってイーサと話して塔の中をうろついて早めに家に帰り、夕食を済ます。

 「ソヨッハ、そろそろ相手を願えるかな?」

 「問題無いです。お願いします」

 「ユッミル、私はちょっと嫌かも」

 「ごめんね、メシャ」

 「分かってる」

 「仕方ないですけど次は私ですからね」

 「いずれはそうなるが次とは限らないし今日もどの程度まで行くかは分からない」

 その日の夜、ユッミルはソヨッハを服をはだけて抱いて寝たが何も起こさなかった。午前中は魔石製作を行って早めの昼食をとって森に向かう。

 森への入り口にはエッヒネがいる。

 「えっと、お久しぶりです」

 「まずは散歩として狩りに行きましょうか」

 ユッミルは事態が呑み込めないので足が止まる。

 「えっと、目的は狩りですか?」

 「以前、言った条件が整ったしね」

 「条件?」

 「ネメッカ様との婚約、おめでとうございます」

 「まさか、急に言われても困ります」

 「急じゃないと逃げられると思って。ネメッカ様が追っかけた気持ちが分かったわ」

 「エッヒネ様にそういう行為をさせて申し訳ないのですがネメッカ様を騙すのも気が引けます」

 「いえ、ネメッカ様は知ってますよ」

 「分かりました、続きは森に行ってからにしましょう」

 二人は森に向かうが少し奥に来てもやはり獣が積極的に向かってくる事は無い。

 「まずは食事でもどうですか?」

 「いえ、今日の約束は食事ではありません。ところで炎の術師二人との約束と同じ事なのですが私の方が劣るという事でしょうか?それとも二人でないと駄目ですか?」

 「いえ、エッヒネ様に失礼を働けば光と炎の関係性が悪化しますから躊躇してしまうだけです」

 「でしたらこの誘いを断る事では関係が悪化しない自信があるのですか?」

 「ええ、エッヒネ様はそうした事で機嫌は損ねないかと」

 「しかし、私が無理強いした事で関係性を悪化させる意地悪な女だと言われてる様で気分が悪いですね。私の事が嫌いならばはっきり言えばいい」

 「魅力的な女性ですよ。であればこそ失礼を働きかねない」

 「ユッミル、それは肯定的な返事ですか?」

 「エッヒネ様、今は服の上からですが大丈夫ですか?」

 「ええ、けど夜は先ですから気が早いですよ」

 「分かりました」

 「ですからまずは散策でもしましょう。一応、私の髪色を変えて頂けますか?」

 エッヒネはユッミルを抱き寄せる。ユッミルはネメッカを銀髪に変え、身長を低く見せる様にする。

 「知りませんよ」

 二人はしばらく歩いていく。

 「ユッミル、一応夜は冷えますし最低限の食事はするから一体だけ狩りましょう」

 「この辺りで寝るのですか?」

 「そうですね。流石に危ないので少し戻りましょうか。」

 日はまだ高いがエッヒネはちょっとした窪地に夜営の準備をしていく。ユッミルは幻術を仕掛けている。ただ、人はあまりいない。しばらくするとエッヒネは周りをうろつき始め、程なく毛皮と肉を狩って戻ってくる。

 「ユッミルはこれを食べたら一度寝て下さい。誓ってその隙は襲いませんから安心して下さい。私が寝た後は好きにしてくれて構いません」

 ユッミルはしばらく寝た後エッヒネに起こされる。辺りはいつの間にか暗い。

 「少し待って下さい」

 ユッミルは立ち上がると歪曲視野で広範囲を確認する。獣も疎らで冒険者もほぼいない。

 「遠くですが月の主導がいるので少しお待ち下さい」

 ユッミルは食事に少し手を付ける。しばらくするとリッネは街の奥に消える。

 「問題は無くなりましたね。ですけど私の機嫌を取りたいだけならもう十分ですし次の依頼も関係なく受けますよ」

 「いえ、そういう事ではないですよ。後はユッミルが好きにして下さい。数は少ないですが服もいくつか用意しました。この服は帰りに着ますので汚す事はできないのでどちらにせよ、ユッミル様に何かしらの着替えをお願いしますね」

 エッヒネはユッミルを胸元に抱き寄せて手を取って腰紐に手を掛けさせる。

 「ネメッカ様、そんなに憂鬱なら許可しなければ良かったでは無いですか?」

 「大丈夫だと分かってはいますが木の子と違ってそれなりの相手ですからこれきりにする為と分かっていても不安ですし愉快ではないですよ」

 「ユッミル様も別に強く望んでいる訳ではないでしょうに」

 「分かっていますがこのままでは私の無理強いという意識が抜けませんから」

 「他の方法…まあ仕方ないのでしょうか…」

 「考えても仕方ないので寝ます。ユッミルが戻ったら昼間から相手をしてあげるのも良いかもしれませんね」

 「それこそ無理強いでしょう。おやめ下さい」

 「分かっていますよ。はあ、ですけどああでもしないと来てくれなかったでしょうし困ったものです」

 夜明け前、ユッミルが目を覚ますと困った事にエッヒネも寝ている。ユッミルは反省しつつも我慢できずにエッヒネの体に手を伸ばす。しばらくすると日が昇ってきたからかエッヒネが目を覚ます。

 「ごめんなさい」

 「あら?何を今更?続きをどうぞ。そうしないと燃やしますよ」

 「分かりました」

 「流石のユッミルも…昨日の夜のあれが…あればこうしてくれるんですね」

 「ただ、優秀な術師というだけで人間的には未熟ですから恥ずべき行為は気づかれずにやりたいという姑息な考えがありますのでエッヒネ様が起きてしまった以上ここまでにしておきます」

 「ですけどネメッカ様とは今日限りの約束になっていますので」

 「そうですか。流石のネメッカ様も、そういう事ですか。」

 ユッミルはエッヒネを抱く。

 「こんな淫らな形ですが女性としてのエッヒネ様とはこれでお別れにします。服は自分で着て頂けますか?」

 「ユッミルがそう言うならそうします」

 二人は服を着てユッミルが辺りを見回す。

 「ですけど結局、二人共寝てしまったので危険性を考えても次は無理そうですね」

 「そうですね、今度は街ですね。ユッミル様がネメッカ様を説得しないといけませんけど」

 「そんな事が出来ないのは知ってますよね?」

 「そうですね、ですから寂しいのですよね」

 二人は別々に森を出る。ユッミルは真っ先に塔のネメッカの部屋に向かう。

 「ネメッカ様、婚約破棄がしたいならそう言ってくれれば良いのに」

 「あらっ、ユッミルは強欲ですね。そうやって私に愛情表現を要求するのですね。事前に言わないのはエッヒネ様との約束だったのですよ。ユッミルも黙って炎の私と同年齢の術師二人と色々しようとしていたのですから同罪ですよ」

 ネメッカはそう言いつつもユッミルを抱き寄せて耳元で囁いている。

 「それは一々接待を報告してもそれこそまるで暗にそういう行為をネメッカ様に催促しているかの様になってしまいますし」

 「分かってますよ。ユッミル、今日はどうするのですか?」

 「エッヒネ様と寝た後でネメッカ様にお願いするのは酷かもしれませんがエッヒネ様は荷が重すぎたので隣で寝て頂けませんか?」

 「服はどうします?」

 「任せます」

 「イーサはいませんけど?」

 「その方が良いですね」

 その後、ネメッカの部屋でユッミルは寝る。ネメッカは一糸纏わず添い寝したが寝付く前もユッミルはただ無造作にネメッカを抱いていてずっとそのままで昼過ぎまで寝る。ネメッカはずっと起きていた。

 「やはりネメッカ様と寝る方が快適ですね」

 「複雑ですね。夫婦にはなれた気はしますが」

 「あの、この状況で言い出しにくいのですがそろそろソヨッハに手を出さないと木の顔を潰す事になりかねないので構いませんか?」

 「そうですね。いえ、それは一々私の許可はいりません。正式なのですから」

 その日の夜はロコッサ以外は服を着ずに三人は同じ布団で体を寄せ合って寝ていく。

 翌日、光の団では正式にユッミルが指導した三人が中品位光点の魔石製作に参加する事が決まり、ユッミルの訓練の第二弾の選定が幹部に通達される。一方でユッミルは炎の塔に向かう。

 「バッソー様、あれはどういう事ですか?エッヒネ様もエッヒネ様です。何が年寄ですか?あんなのを引っ提げてずるいですよ」

 「まあ気分は悪くなかったのだろう?」

 「そうですがああいう危険行為は困ります」

 「一応、五人程で露払いはしたのだが」

 「えっ」

 「まあ君の視野に入らない様に遠くからだったがのう。本気なら見えたと思うが」

 「確かに簡易的でしたがそういう事ですか。エッヒネ様がそういう保証もなく寝る筈も無いですから」

 「いや、エッヒネには伝えておらんぞ」

 「まさか」

 「いえ、私はそこまできちんとした人間ではありません。昨日は浮ついて疲れてしまいました」

 「まあそれは良いです。とにかく私はエッヒネ様を丁重に扱う努力をしましたがバッソー様のせいで無駄になってしまいました」

 「そうですね、私もユッミル様とは可能性が無いのは理解していました。最初に森に出掛けた時に襲われませんでしたので無いのは分かっていました」

 「えっ。いや、あんな状況でやれる訳ないでしょ」

 「私はただでさえ扱いにくい女ですからああいう状況で突発的に誘惑できないと無理でしょうね」

 「とにかく騙すのはこれきりで願います」

 「騙してはいないぞ。お主が木や水から側室を取ってると聞いて炎もそうする事にした。元々考えていたが木や水の動きを見て前倒しじゃ」

 「炎とは元々良好なので利益は小さいですよ」

 「それは今の話、ネメッカの意向もあるからエッヒネの側からユッミルに手は出せない。が、エッヒネでは無い二人の話は許可された。東に家を用意したからそこで楽しむと良い」

 「あの、光は返礼しなくて良いのですか?」

 「それは意味の無い事だろう。いい加減にお主の力が強い事を認めたまえ」

 「当面はそういう事にしておきます、エッヒネ様を私より若い者に取られるのは流石に不服ですから」

 「嬉しいけど駄目ですよ」

 「分かってます。では僕はこれにて失礼します」

 ユッミルは家に戻る。

 「ユッミル様、そろそろ私の番ですよね?昨日はソヨッハとしていたみたいですから」

 「ミーハ、ネメッカ様ともしていますから今日位は勘弁して下さい。そこまでそういう事に強い人間では無いのですから」

 「ですけどメシャーナちゃんとは連日寝てますよね?」

 「メシャは疲れない。子供だし」

 「えっ、あの子私と同じ位で少し上かもと思ってました」

 「まあ体つきはそうだが振る舞いが子供だから」

 「ユッミル、私は子供じゃないよ」

 「でも14だよね?」

 「そう言ったけど正確には分からない。17かも」

 「まあ体つき的に無いとは言えない。まあけど子供だよ。というかメシャだけはまだ子供でいて。子供を産めても関係無い」

 「ユッミルがそう言うなら頑張るけど私もそろそろ大人になっちゃうかもよ」

 「そうだね、いつまでもは無理だね。分かってる」

 「私は約束があるからこうしてるだけで私もユッミル様に甘えたいですからそれは分かって下さいね。ユッミル様は年下の気がしません」

 「そうなのか、まあこちらも背丈的にも同じ。色々考えておくよ。だが今日は普通に過ごさせてくれ」

 ちなみにソヨッハには五日に一度程度強制自由時間として外で行動する様に言いつけている。大半は木の塔に出向いているらしいがたまに街にも出向いている様だ。ロコッサは塔に出勤しているので昼間はメシャーナとミーハも留守番をする事も多い。

 その日は平和に寝た。ただ、ロコッサが寝たがったのでメシャとロコッサと寝る形になった。翌日は訓練第二弾の選定がまだなのでロコッサと居残りのモヌーユ、ソヨッハ、ミーハと五人で森に来ている。今日は保護者の方が多いのでロコッサとユッミルと他の三人に分かれて訓練した。もっともユッミルは歪曲視野でモヌーユの様子も見ている。

 「さて、ロコッサは音系が得意で音射が上手く使えるから集音を教えている訳だけど少し難しいみたいだね。僕も得意ではないし手本を見せようにも見える訳ではない。獣に当てても何か当たったとしか分からない。音系術の伝授が難しい理由はここだろう。もっとも収音は使えているらしいから朧げには分かるのだろうけど」

 「ですからお手本は役に立ってますから心配しないで下さい」

 「けど光術師は役に立たないと言われるが歪曲視野は貴重。ところでロコッサはどれ位使えるの?僕が遮ってもモヌーユは見える?」

 「何とか見えます」

 「そうか、中々難しいんだね。でもこれは慣れ…ただ、ロコッサの場合は音系に適性があるから光系は苦手なのかもしれない」

 ユッミルはソヨッハに音送して呼びつける。

 「ソヨッハ、試したい事があるからその辺りにいて。ロコッサ、一応急ぐよ」

 ユッミルはロコッサを抱きかかえる。モヌーユの近くに着く。特に問題は無いようだ。

 「モヌーユ、少し良いかな?」

 「うん」

 「そこからソヨッハは見える?」

 「ユッミルが邪魔で見えないよ」

 「光の術師なら光を集められる筈だよ。この辺りの光を自分に集める感じで。」

 「うーん、えっと、あっ、本当だ」

 「そうか、歪曲視野の存在すら…まあ魔石には込められないからね。何級なのかも見当がつかない」

「ソヨッハ、見えたよ。何か暇そうだね」

 「良かった。光術師はそうやって偵察できるから冒険で役に立たないという評価は本来おかしいんだよね」

 「ユッミルさんもこれ、使えるの?」

 「そうだね。あっちの山の上の状況も見えるかな」

 音送を使う。

 「ソヨッハ、もう良いよ。こっちに来て」

 「もしかしてこれを使ったら私のパンツとか見えるんですか?」

 「まあ見ようと思えばだけど今はそこ暗いと思うからはっきりとは見えないと思うよ」

 「まるで見たかの様な感想。やっぱり」

 「これは教えない方が良かったかな。けどね、あくまでネメッカ様のを見ようとしただけだからね」

 「ええ、ネメッカ様はそんな事しなくても見せてくれるから必要無いでしょ。別の女の人、イーサさん?」

 「ところでモヌーユ、自分の心配はしなくて良いの?」

 「興味無いって言われちゃったしそれより誰の…」

 「お願いだからそこを追求しないで」

 「なら私のパンツの色を白状して下さい」

 「本当に見てないからね」

 「けどユッミルさん位になるともう私の裸も見えてるとかじゃないんですか?」

 「それは無い。それにそんな風に考えてるならよく平気だな」

 「えー、ユッミルさんはどうせネメッカ様にご執心だから私には興味無いんでしょ?」

 モヌーユはユッミルに抱き付く。

 「そんな事は無いよ。モヌーユちゃんは可愛いね」

 「あー、嘘くさい。良いよ、ネメッカさんみたいに色気は無いし」

 「えっ、ネメッカ様って子供の君から見ても色気があるの?」

 「ううん、けどユッミルさんの反応がそうだし」

 「まあちなみに集光と歪曲視野を組み合わせれば見えるけどね。裸は無理だけど隙間ができると見えるよ」

 「じゃあこうすれば良いね」

 「嬉しいけどソヨッハの手前があるから離れようね。見たりはしないから」

 「ユッミル様、少し傍観してしまいましたが子供とは言え女ですよ。無防備に抱き付かれないで下さい」

 「ミーハ、女以前に子供は誰にでも甘えるものだよ」

 「まあユッミルさんは女には不自由してなそうだしモヌには関係無いよ」

 「そうだね。もうそれで良いよ」

 「ユッミル、歪曲視野の能力を確かめたいから私の色を当てて」

 「いや、今日君に着せたの僕だし。たまに自分で着てもらうけど用意してるのは僕だし」

 「そうでした。じゃあそこで脱ぐかもしれないから脱いだか当てて」

 「待て。そんな事はするな」

 「そうよ、元々言い出したのは私だしモヌのを当てればいい。ミーハちゃんは直接確認して」

 「さっきよりはましな提案だがばれたらネメッカ様に怒られるだろ」

 「でも残り二人も同居してるらしいし私のしかないよね」

 「いやいや、ソヨッハはともかくロコッサのは知らない」

 「そっか、私よりロコッサちゃんのが良いんだ」

 「それはそうだな。モヌちゃんよりは良い子だし見せようとしないし。でもしないよ」

 「私は構わ…」

 「大丈夫だから。はあ、なら行くよ。ああ、やっぱり黒いね。」

 「嘘ね、だって今、後ろで出してるし」

 よく見るとモヌーユは手を後ろに回している。

 「こらっ。早くやめなさい」

 「ユッミルさんがどんなの履いてるか見破ったらやめます」

 「はいはい、白いね」

 「正解、じゃあネメッカ様に言いつけようっと」

 「好きにすればいいよ」

 「へー、ネメッカ様との仲に自信あるんだ」

 「いや、まあネメッカが本気で心配する相手は限られてるしね」

 「そっか、ネメッカ様の目の前で服でも脱がせない限り、大丈夫だね」

 「本当にロコッサは良い子だね。皆、帰るよ。モヌーユ、仲良くなれて残念だけど明後日の試験で合格してもらうよ」

 「分かってるよ、寂しくなるね」

 「そうだと良いけどモヌちゃんとは長い付き合いになる気がするよ」

 塔に戻るとモヌーユは満足げに帰っていく。

 「ユッミル、お帰り。早かったわね」

 「ええ」

 「そろそろ主宰なんだし正式に塔に住まないの?部屋は用意してあるわよ。ロコッサちゃんだけでも住ませれば?」

 「そうなると二人目は必要だけどいるかな?」

 「モヌーユさんでも構わないわよ?」

 「いや、あの子は自由にさせてやれよ。ところで何人なんだ?」

 「まあ主導は最大五人で主宰は四人というのが慣例ね。幹部は二人だけど一人の人が数人いるだけね。私はルーエとイーサにカエだから実質的には二人ね。けど実質的にはユッミルが主導だし四人いても問題無いわよ。」

 「外部は別枠なのか?」

 「まあやめた方が無難ね」

 「だったら二人目が決まってからにするよ」

 ユッミルは遅めの昼食を終えると帰路に着く。

 「お帰り、ユッミル。ロコッサも」

 「ロコッサ?いたの?」

 「うん、一緒に帰ろうとも思ったけど」

 「ユッミル、明日は暇?」

 「いや、明日は用事だよ。早めに済ませないと」

 「なら仕方ないね。そう言えば二人が会いたがってったよ、用事が早く済むなら行ってみれば?」

 「まあ早く済むかは分からないけど考えておくよ。ところでミーハはどうしてもう寝てるんだ?」

 「眠いからって頼まれた」

 「やっと僕がしなくて…」

 「それは無いって。今日はとても眠くて何されても起きない位に寝る自信があるから仕方なく私に頼んだけど今日だけだって。明日からしてくれなくなったらラーハ様に告げ口するから必ずしてもらうって言ってたよ。それとこんな事は一々言わなくても分かってると思うけど寝てる間に抱いても良いし後で報告してくれるなら他にも色々していいって伝えてとも頼まれたよ」

 「メシャ、ご苦労様」

 「ううん、けどユッミル、早くやって一人だけ産ませて送り返せば?ユッミルが私と二人目を作ってくれるなら私はそれでも良いよ」

 「水の主導は子供を人質に僕に要求するつもりかもしれないから引っ掛かったら駄目だよ」

 「そっか、水って信用できないよね」



ご覧頂きありがとうございます。

今回は特に言及する事はありません。次話もこの程度空きます。

早い周期とは言い難いですがよろしくお願いします。

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