2章 巻き込まれ
余計な情報を排除する為に殊更場面転換を明示する事は致しません。会話の間の表現を重視し、詰まりの無い会話はそれに応じて発言が連続します。発話者が分かりにくい事も多々ありますがご容赦下さい。その代わりに「」の鍵括弧を一纏めとして同一人物の発話が描写を挟まずに連続する事はほぼ排除しております。
また、多少前後している事もありますが描写は時間順となっております。
第一節 捕囚
「仕留めないのか、随分…」
ユッミルは背中に人肌を感じる。
「暗殺者か、かなりの手練れ…」
「何を言っているんですか?私はネメッカですよ。ですがそれは他の人には言わないで頂けると助かります」
「誰でも良いから用が無いなら離れてくれ」
「嫌ですよ。離れたらあなたは逃げるでしょう」
エッヒネとシェンハは呆気に取られている。エッヒネは正気を取り戻し、周囲を警戒して安全だと確認するとユッミルとユッミルに抱き付く女を見る。
「光の子かしら?ユッミルさんに何の用かしら?」
「光の主導様がお呼びですが前は逃げられてしまいましたので今回は苦肉の策としてこういう手段を取らせて頂きました。優秀な幻術を使っていようとずっと接触していれば見失いませんので全身で以て接触し続けて塔までご同行頂こうかと」
「はあ?」
シェンハは思わず大きな声が出る。
「そうか、後ろに張り付く事で表情を悟らせない作戦か。姑息なやり口だが私の態度を悪化させ…」
「分かりました」
ネメッカ扮するカエはユッミルの足に腰を寄せ胸を抱く。
「顔が近い。話しにくい」
「駄目です。そうやって逃げようとしても逃がしません。行きますよ」
「話しにくいからあなたのお名前を教えてくれますか?」
「ネメッカ様の付き人のカエと言います」
「前にも言ったように光の団に所属する気は無い。利点が無いからね」
「ネメッカ様は私も含め、好みのものを主宰待遇とは別に付き人として与えると言っています。バランスを鑑みて二人ですが」
「付き人はそこまで必要としていない。そもそもあれは主導の執務補佐だろう」
「どうすれば入団いただけますか?」
「こちらの意思は尊重しないのか?」
「失礼しました。ネメッカ様の塔への招待をお受けいただく事が今回の要請です」
「分かりました。その要請を受けますので離れて頂けますか?」
「逃げるおつもりでは?」
「でしたら使いの人が私を信用しておらず団での信用を得るのが困難と判断して辞退します」
ネメッカはユッミルに口づけする。
「この前の言い分は嘘ではありませんよ。それは理解して下さい」
「なっ、何やってるのよ」
シェンハはまた大きな声を出している。
「光の内部の問題ですのでお気になさらず、ユッミル様の事は信用していますがそれでもこのカエは不安なのです。是非、塔に来訪頂く様願います。」
「明日行きますね」
「行くんですか」
「はい、行かなければ行かないで余計に追う口実を与えてしまいますから」
「同席しましょうか?」
「いえ、それは無駄の様に思います」
「でしたら炎に正式に…」
「それは尚無駄でしょう」
「私は帰るわ」
シェンハは草原の方に向かう。ユッミルとエッヒネは森を南下していき、途中で指揮所の方に向かう。口数が少ないまま指揮所付近でエッヒネとユッミルは別れた。ユッミルは歩きながら無心で下級魔石に発光の術を投入していく。
「お帰り、無事でよかった」
「ただいま」
「どうしたの?魔族にやられた?」
「魔族は強かったけど大丈夫だったよ。少し危なかったから引き返したけどね」
「ならどうして?」
「鬼に捕まった。明日鬼がいる塔に行かないといけない。多分、明日正式に捕まる。逃げれそうに無い。メシャまで巻き込みたくないからここにいてくれ」
「断ればいいでしょ」
「分かってるけど無理かもしれない。ネメッカという女を甘く見ていた。」
メシャ―ナはおどおどして答えに窮している様だった。
朝になって朝食を食べている最中も未だにメシャ―ナは対応に困っており、行かなくてもいいとかその他諸々の定型文を繰り返している。
「じゃあ行ってくるね、メシャ」
「えっと無事に戻ってきてね」
メシャ―ナはそう何となく言ってしまったが相変わらず事態は呑み込めていなかった。
ユッミルは意を決して光の塔を訪ねる。
「よくいらっしゃいました」
ユッミルは三人ほどで出迎えられたが明らかに前のめりなのはネメッカであった。ネメッカは今度は側面を取って全身で押そうとする構えを見せる。
「お話は聞きますから」
ユッミルは必死に制止する。
「お時間を割いて頂いて非常に申し訳ないのですがこちらとしては非常に嬉しいです」
全く以て文言と表情が一致している。
ユッミルは応接室に通される。何故か主宰以外は女性であった。ユッミルから見て光は心持ち女性が多いものの圧倒的多数ではないし幹部も例外ではないと少なくとも外からは見えた。確かにネメッカのお付きは女性が多かったが六人いて男が一人というのには違和感を感じていた。
「早速本題に入らせて頂きます。我々、光術師団としてはあなたの在籍を望みます。あなたの在籍がもたらす利益を考えればすぐにとは言いませんが主宰の地位を与える事は可能ですしその地位が邪魔だとお考えなら与えない事にします。幹部にしても同じ事ですし主導の地位を譲る事も将来的には構いません」
「随分、表面上は良い待遇ですね。何か疑いたくなります」
「いえ、今の状況の方がおかしいのです。本来、私に主導の実力は無い。」
「主導は実力だけでは務まらない。団への帰属意識が低い私には務まらない」
「分かりました、それに関しては今は求めません」
「団への帰属もお断りすると重ね重ね申しています」
「困りましたね。やはり人数が多いと話が纏まらない」
「そんな事は無いでしょう。話をしているのはあなただけではありませんか」
「そうですね。ユッミル様には光の団に帰属いただくのですから私以外とも話すのは良い事ですね。ただ、ここの子達は他の団との交流が薄いのでユッミル様が私以外の相手を指名して頂ければありがたいのですが」
「私が質問しますからネメッカ様以外で答えられる人が答えて下さい。では質問です。私の加入に関してどう思ってるか答えて下さい」
「はい、私共としては加入を歓迎する次第ですが無理強いは良くないかとユッミル様が望まないのであればそれは仕方ないと思います」
「そうですね。ですからそろそろご納得頂きたいのですが。」
「でしたら今度はユッミル様に質問して差し上げなさい」
「私達の団の状況をどうお考えですか?」
「あまり良いとは言えませんね。ですがそれは私の加入だけでは解決しません」
「それはどうでしょうね。あなたが加入すれば間違いなく中級魔石の売れ行きは良くなる」
「ですがそれはネメッカ様が優秀な術を使えるようになれば良いだけの事」
「そうですね。しかし、私には才がありません。私が中級魔術を使うと一時間に三個が限度です。あなたであれば10倍は作れるでしょうね」
「嘘はいけませんね。あなたの実力なら30分で十個は作れるでしょう。私の方が遥かに多い事は認めますがネメッカ様であっても生産量は十分です。」
「いえ、嘘ではないのです。本当に2時間で7個です」
「まあ良いです。そんな事では加入理由にはなりません」
「そうですか。最後に少しで良いので上でお話しませんか?」
「嫌です」
「諦めて入りませんか?幹部としての報酬に加えて私への報酬の半分もお渡しします」
「ネメッカ様?」
「良いのです。それだけの頼み事をしていますから」
「お願いですから諦めて下さい。私は団の枠に入らず自由に冒険をしたいのです」
「でしたら塔へ三日に一回出向くだけでも構いません。寝る場所をお貸しします」
「そういう問題では…」
「そうです、宿舎をご案内しますので来て下さい」
ネメッカはユッミルの横を歩く。ユッミルが階段を登り切るとネメッカは一層体を寄せる。
「やっと二人ですね」
「ネメッカ、これはどういうつもりだ?」
「やはり他が積極的でない以上私一人で事に当たった方が良いと思いまして」
「帰ります」
「ですが良いのですか?今、帰ると私は諦めませんよ」
「ネメッカ、いい加減にして下さい。あなたに追われるのは非常に困るのですよ」
「分かっています。ですが私の部屋に来て下さい。そこで十分な話をします。それでも駄目であればおそらくあなたの勧誘は不可能ですので諦めます。約束ではなく私がそう理解するので自然とそうなりますよ」
ユッミルはネメッカに手を取られて階段を上がっていく。一つ上の階の一室に手を引かれて連れられて行く。
「あなたがあの程度では動かない事は承知していました。実際にあの程度で動けというのは都合が良すぎます。」
「ネメッカ、何が言いたい?」
「私があなたに求めたいのは光への所属だけではありません」
「まだ何か用?強欲な」
「そうですね、強欲かもしれません。」
ネメッカはベッドに座らせたユッミルの肩を軽く寄せていく。
「成程、主導自身が誘惑か」
「もしや、これが罠と勘違いしておりませんか?光への帰属とは別の話です」
「そんな嘘が通用すると思っているのか?」
「そうですね、中々難しいでしょう」
ネメッカはさらにユッミルを抱き寄せようとする。
「舐めてるのか?」
ユッミルはネメッカを引き剥がす。ネメッカの表情はあまり変わらずユッミルには含みを持った余裕の表情に見える。
「せっかく、ユッミル様にお会いできたので駄目だった場合でも早くお帰りになると悲しいのでつい引き延ばしてしまいます」
「随分、口が上手いな。まあ良い、君が手を尽くせば納得するという話だったな」
「そうですね、私の不遇話でもして同情を買いましょうか、少し乱暴だったのですからお詫びにあなたから私の懐へ来て頂く位の配慮は願いたいです」
「構わないが無意味な事だ」
「良いものですね。途中で逃げられるのが不安なので」
ネメッカはユッミルの手を握る。ユッミルはいよいよネメッカの打算を疑い始める。
「もう好きにしろ。好きにやらせてやるからこれで終わらせてくれ」
「はい、私は術師でも無い東の無性質市民として育ちましたが8歳の頃、とあるきっかけで光術が使える事がわかり、当時の幹部に薦められてこの塔に定期的に通うようになりました。当時の団は今よりは少し強い人がいましたがそれでも評価は低く、幹部は内弁慶でした。主宰様は少々謙虚ではあったのですが統率力はありませんでした。」
「あの、逃げませんから手を離してもらえます?話しにくいでしょう」
「この方が話しやすいのですがユッミル様は何を言っているんです?続きを話します。数年ほどしたある時、主宰様は魔族軍と戦って死んでしまいます。事情を聴くに私から見れば前のめり過ぎた露骨に言えば無駄死にでした。確かにその時の光の成果は悪くありませんでしたが戦力は落ちていました。その時、私を光に勧誘した幹部様が主宰に手を上げました。当時の主宰は面倒な職という事もあり、大きな反対もなく主宰はその人に決まりました。そして、何故かその主宰様は私の事を評価していて私が死んだら主宰を継ぐように申し付けました。これに関しては多少は異論はありましたが異論に熱心さが無かった事もあって通りました。そして、私が13の時、また魔族の大きな襲撃がありました。その時は森を迂回する奇襲が起こった事もあり、光の術師は多くが死んでしまいました。私も戦おうとしましたが何もできませんでした。主導様も死にはしなかったものの、大怪我を負いました。他の怪我したものも多くが団を去りました。そして、主宰様も魔族に殺されてしまったので自動的に私が主宰を継ぎました。主導もいなくなったので私より年上はたくさんいましたが主導も今やただの危険な地位。私は主導を押し付けられてしまいました。もちろん、それなりの力はありましたが魔族を前に隠匿する術を使って逃げただけの私が継ぐのに違和感がありましたが見方を変えれば戦場から無傷で帰還したとも見れますし体面上は何も問題ありませんでしたし光からはその頃には戦意が失われたのである意味、私の主導就任は正しかったのかもしれません。それ以前に一連の魔族襲来で雷術系の術師がいなくなってしまいました。元々少なかったので成果を期待されていましたから魔族との戦いでも前線に出ていました。ですから方針転換はやむを得なかったのです。そして、その騒動の途中で両親は私に別れを告げました。光の主導として生きるのに自分達は邪魔だからと言って半ば強制的に行先を告げずに引っ越してしまいました。今でも真意は分かりません。邪魔なのは向こうだったのかもしれませんね。」
「そうですね、ネメッカ様は執拗ですからそうなのかもしれません」
ユッミルはネメッカの頭を撫でている。
「両親にはこんな必死に求婚しませんよ。多分、向こうから見れば中途半端な娘が嫌だったんでしょう」
「ちょっと待て、求婚?」
「自分より遥かに優秀な術師と結ばれようとするのはおかしな事ではないと思いますが?」
「入団の勧誘ではないのか?」
「ですから別の話と言っていますよ」
「そうか、結婚すれば自然と入団という算段ですね」
「別の話と言いますか、むしろ勧誘をやめるという条件で結婚でも構わないと思っております」
「自動的に入団だからそれは勧誘しませんよね、何を言ってるんです?」
「いえ、この様な力の無い女と結婚して頂けるなら不愉快な勧誘は一切しませんし入団も不要です」
「それはどういう?」
「話の続きをお聞き下さい。光の主導になった私の元にはいくつか縁談が舞い込みましたが幹部やその息子等であまり紳士的な方ではありませんでしたから誓ってこの部屋には入れておりません」
「そんな事はどうでも良いが初対面の僕をここに連れ込んだのですからあまり説得力に欠けると思いますよ」
「三度目ですよ、それに私から求婚するのは初めてですから違いはそこです。私の我儘でもありますが他の団の方との婚約となりますと政略的な色彩が強くなります。同じ団にはユッミル様ほど魅力的な方はいませんからこうやって引き留めてしまいます」
「都合だな」
「ええ、ですがその都合のせいで思いは募るばかりです。それにユッミル様は私の思った通り、無粋な方ではありませんね。求婚してきた方々は数度目の交流で私のこれに触れようとしたり、そういう事をしようとしました」
「あなたもですよね?」
「私は失礼を承知でやっています」
「もっと悪質では無いですか」
「そうですね、最初からでしたものね。相手の気持ちは少しわかりましたが口説く熱意は感じませんでしたからあれで良かったのでしょうね。私は熱心に取り入ろうとしていますがあまり効きませんか?」
「熱心なのは分かりますが」
「では私に足りないものは何ですか?ユッミル様が求めるもので私に足りないものを突きつければ私の諦めに繋がるのですから言うのは問題無い筈ですよね?」
「ネメッカ様の事は外での評判はお聞きしていますしそれで少々近づき難いとは思っていましたが何より追い回されたので嫌いです」
「ですがあなたはきっとあなたの術を目当てに追い回したと思っていたでしょうね。それは間違っていませんがそのお力で光を守って頂きたかったのです」
「言い方を変えただけだろう」
「いえ、ユッミル様には魔族と無理に戦って私の元から離れて欲しくはありません。私が団の権威の回復を狙って蛮勇を求めると思っているならそれは間違いです。光の塔に通えなくなる行為は最大限止めます」
「私も危険を冒す気は無い」
「そうでしょうか?昨日、シェンハ様がいたとはいえ魔族と戦って少し危なそうでしたね」
「見てたのか」
「私も光を取り込めるから当然です。ですからそろそろ私を見通して本気であるとご理解頂きたいものです」
「それがどうした?優秀な術師なら偽装位できるだろう」
「そんな事はユッミル様を前に無意味でしょう。光の奪い合いをすれば私の魔力が先に切れます。そうなれば私は何も偽装できません。それに今も偽装等していない事はお触り頂ければわかります。嘘つきだと言うなら確かめればいい」
「その嘘は問題視してませんよ」
「この誰もいない状況で手を出さないのは私に魅力が無いか帰属と別という話を信じていないのですね」
「別というのは無理だろう」
「そうでしょうか?そもそもここで私と何をしようがあなたが逃げると決めれば逃げれるでしょう。それにあなたは私に諦めさせたいのでしょう?私はあなたも好きになってくれる事に賭けたのですからこれに乗った上でも逃げられたらこれ以上追うのは気持ち的にできません。」
「やりません。駄目です」
「お互いに納得できると思ったのですが仕方ないですね。男の人は自分からいきたい人が多いと思っていましたが今回はやむをえません。あなたが悪いのですから淫らな女とは思わないで下さい。ユッミル様であればこそもう待てないのですよ」
ネメッカは服を脱いでしまう。
「待て」
ネメッカは服を脱ぐ為に離した体を躊躇なく再び寄せていく。
「ここまでしても手を出さない事で私の女としての魅力の無さを演出するのは賢いとは思いますがそうであればあなたもお脱ぎになって私の体を押し倒した上でそれなりに試した上でお前には全く魅力は無く幻覚で老婆と交わりかけたみたいで不愉快なので帰るとご宣告頂ければ私は悲しみの余りあなたを追う気はたちまち失せるでしょう。あんなに追いかけて不愉快な思いをさせたのですからそれ位の痛みは受けて然るべきでしょう」
ネメッカは目を閉じて手だけ強く握って少し涙目になっている。
「やはり嫌なのか?なら…」
「ユッミル様に拒絶された事を少しでも想像したら悲しくなってしまっただけです」
ユッミルは完全に諦めてしまった。
「行かせて良かったのか?」
「ええ、仕方の無い事です。ユッミル様も光に所属する事が本当は円滑だと分かっているでしょう。彼の不安につけ込んで助長する様な形も彼の安穏に寄与するかもしれませんがやんわり断られましたし」
「ただただ、自分で片づけたかっただけの様に思うがのう」
「それにしても私では頼りにならないと判断されたという事ですよ」
「ユッミルと関わりたくないのか?」
「いえ、私の方もこうあってくれた方が交流しやすいのは分かっていますし最善の道なのですが現実は現実ですから今位は少し悲しむ女でいさせて下さい。」
「そうか、では私は行くぞ」
その頃、メシャーナは家の前の土や道具を少しずつ動かす訓練を着実にこなしていた。
ユッミルは寝てしまっており、自分も服を脱いでおり、横で寝ているネメッカも服を着てはいない。ユッミルは思わずネメッカの胸を触り、足元にも手を伸ばすがすぐに思い直す。
ユッミルは服を着直すとネメッカを起こす。
「ああ、そうでしたね」
ユッミルはネメッカの胸を中心に体を触っていく。
「ネメッカ様は美しいですね。もう我慢できませんね。足りません」
ネメッカはユッミルを抱き寄せる。
「あくまで別案件ですが入団は受け付けるという事ですね?」
「こうなった以上仕方ありません。やはり諦めないという事ですよね?」
「求婚の方に前向きになって頂けた様ですからそれを進めるには団に帰属した方が良いとご判断頂けると思いましたので」
「先程の無礼も本気は本気だがそれでも求婚を続けるのか?」
「無礼はお互い様ですしあの程度は無礼とは思いません」
「君の勝ちだ、ネメッカ、今抱かれれば決定的だろうね」
「素直じゃない人、でも好きですよ」
その後、ネメッカは塔の前でユッミルと別れるとすぐに指揮所に向かう。ユッミルはすっかり忘れていたが午後からネメッカは当番であった。後、少し粘っていれば逃げられたのだが今やユッミルに過ったその考えは過去のものになっていた。
「ごめん、メシャ。やっぱり鬼に捕まった。まあ鬼という程嫌な人ではなかったけど」
メシャが持っていた小さな棒状の金属はメシャの手から滑り落ちる。
「ユッミル、どうして?それでどうなったの?」
「週に一回は光の塔に行く事になった。光の街に小さいけど家も手配された。メシャも住んでいいみたいだよ」
「しばらく行かないけどお金の事もあるしいずれは受け入れる」
「もっと嫌がると思った」
「嫌だけどあんまり嫌がったらユッミルに迷惑だし昼間に帰ってきて安心した」
「ネメッカ様は午後は指揮所だっただけ。詳しい話は次の時だね」
「ユッミル、相手は五歳も年上の年寄なんだから騙されたら駄目だよ」
「そうだね。けど団に所属してしまうからあんまり疑ってもいられないよ。だからもう捕まったんだよ。」
「ユッミル?」
「メシャ、これからは少しメシャといられる時間が減ると思う。逃げきれなくてごめん」
「大丈夫だよ、ユッミル。メシャも頑張ってるし」
翌朝、ユッミルは普通に集会所の近くを歩いていく。しばらくネメッカの追手を警戒していた為、それが無くなったのは久々である。
「ユッミル、元気だね」
「まあ鬼ごっこをしなくて済む様になったからね」
「うん、普通にお出かけできるのは良い事だよね」
森に着くとユッミルはメシャに土刺の下級魔石を使わせる事にした。それ自体は上手くいったがその後のメシャーナ自身の魔法は少々精度が悪い。
「ちょっとまだだけどいい感じだね」
曲軌は投げる速度を落としても上手くいかない。魔石を使っても挙動が怪しいので問題は魔力の成形ではないらしい。
「まあ土系の術は効果範囲が広いものが多いから扱いが難しい。曲軌はちょっと難しいかも」
一方のネメッカはかなりの上機嫌であった。魔石の売れ行きの悪さを前にしても全く関係が無かった。執務室から何の意味もなく上機嫌に外を眺めている。
「ネメッカ様、執務は私が代わりますからユッミル様にご挨拶に行っては如何でしょう?」
「えっと、今日はユッミルは別の用事があるので」
「そうですか。ですが執務は私がやっておきます」
「お待ち下さい。私も同行します」
「私はカエとして行動するのですから」
「できればユッミル様にご挨拶できればと」
「ユッミル様は別の用事ですから」
「いえ、まだお顔を存じていませんから私の顔見せもかねて軽く挨拶するだけですよ」
「あなた、ユッミルに退団を促しますよね?」
「しませんよ。光術師自体は珍しくないのですから入団は拒みませんがネメッカ様と何の理由もなく交流する事は自重頂きたいだけです。幹部待遇なんてのはあり得ません」
「でしたら駄目です」
「大体、ネメッカ様は彼の実力を見たんですか?」
「下級魔族を切り伏せていましたよ」
「本当に?」
「遠目からですが…」
「他には?」
「魔族の領域への来訪と帰還を確認しました」
「一人でですか?」
「いえ、シェンハ様とエッヒネ様と一緒です」
「であれば」
「ですがエッヒネ様もシェンハ様も実力をお認めの様子でしたしあの二人は優秀でないものと組みません」
「光の術は?」
「遠くから見ていましたからはっきりは見えませんが威力の高い雷撃を行使しておりました。そもそも噂の魔族軍襲来時の雷撃が優秀なものである事はかなりの人数が噂しております。それは彼以外にあり得ません」
「私は直接的な話しか興味はありません」
「ではあなたが襲って死んできますか?まあユッミル様はお優しいですから捕まえるだけでしょうが。そんな事は困りますがそうなるでしょう」
「それはいずれ確かめますけどやはり待遇は納得できません。ただ、私には決定権が無いのですから文句をつける位お許し下さい」
「お願いですからやめて下さい」
「あなたのいない所でやりますよ」
「では彼の実力が高ければ許すのですか?」
「それは仕方ありません」
「分かりました。ユッミル様に頼んで勝負しますからあなたは見ていなさい」
カエは集会所経由で森に向かう。ユッミル達は森から出ようとしている。
「ユッミル様」
「ネメッカエ様、一人は珍しいですね」
「申し訳ないのですがユッミル様に用事なのです」
「近いよ。ユッミル、この女は誰?」
「ネメッカ様の付き人だよ」
「初めましてカエと申します。」
「私はメシャーナ。ユッミルと同居して隣で寝てます」
「ごめんなさいね、ユッミル様が慣れてきたら塔に泊まって私と寝る回数も増えたらあなたと寝る回数は減りますけど」
「そんな事にはならないよ」
「そうですね、泊まる必要はないですよね。それはそうとネメッカ様があなたの実力を疑うものがいるからあなたがやりあってその様子を伝えなさいと言われたので戦って頂けますか?」
「カエさんを殺すんですか?」
「加減ができないと?」
「実力が分からないと加減はできませんとまでは言いませんがあまりやりたくは無いですね。カエさんに恐怖は与えたくありません」
「分かりました。ところで何が使えるのですか?」
「色々使えますよ。基本的には…」
ユッミルは雷射をそこらの木に向けて打つ。
「これをよく使います。まあ10分程度なら打ち続けて八百発程は打てるかと」
「えっと、私は信じておりますがもう少し分かりやすくお願いします」
「そう言われましても…」
「ユッミルを困らせないで」
「それに環境破壊ですし」
「でしたら私のこれは使えますか?」
カエは迂回光撃を撃ち込む。光は複雑な軌道でユッミルが雷射を当てた木に当たり発光させる。
「これは木だと打撃は大きくないですけど獣の目は確実に潰せます。」
「カエさんに打てばいいんですか?」
「どうしてそうなるのです?」
「目潰し効果があるか確かめられない。実力を示して欲しいのでしょ?」
「そうですね術の選択を間違えました。まああの強さの光であれば目潰しはほぼ成功するんですけどね」
「まあとりあえず行きますよ」
ユッミルは三本の複雑な軌道の光を同じ木にぶつける。メシャ―ナは眩しそうである。
「はい、もう十分です。ネメッカ様は全く疑っていなかったようですがその通りでしたね」
帰路に着くとカエはユッミルにすり寄り始める。メシャーナも対抗する。
「カエさん、子供の教育に良くないのでお控え願えますか?」
「子供じゃないよ」
「分かりました、ネメッカ様の意中のお方にあまり手を出すのは良くありませんね」
「カエさん、そういう事はあまり」
「そうですね」
メシャーナが未だにくっつくので手を繋ぐ方針に転換する。カエは塔との分かれ道で何事もなくユッミルと別れる。
機嫌が悪くないメシャと家路に着く。
第二節 受容
「認めません」
「あなた、昨日見たでしょ?」
「見えていません」
「見ようとしなかったんですね」
「私は見ていません」
ユッミルは困惑している。
「ユッミルですか、朝から騒がしくて申し訳ない」
「あなたがユッミルね。あなたが幹部なんて認めないわ」
「えっと」
「私はルーエ、ここの幹部は有用な中級魔術が使える事が最低条件よ。あなたは当てはまらないわ」
「そうですよ、ネメッカ様。私に中級魔石を作らせようなんて考えが愚かすぎる。私は役に立たないので退団します」
「私は構わないけど良いの?」
ネメッカはユッミルの肩に体を預けていく。
「分かりましたから退団は冗談ですよ。魔石は後です」
「離れなさい」
「ルーエ、私に命令するのですか?」
「ネメッカ様、こんな奴とそんな風に関わるのは慎むべきです」
「そうですね。ユッミル様、私の部屋で話しましょうか?」
ネメッカはユッミルから離れる素振りは無い。
「あの、今日はそういう案件ではありませんよね?」
「少なくとも後でですね」
「早く行きましょう」
ユッミルはネメッカの腰を引く。
「ユッミルさん、ネメッカ様に気安くするのはおやめ下さい」
「どうしてです?」
「ネメッカ様は光の主導、皆に相応に接するべきです。幹部であっても駄目なのに幹部に相応しくもないあなたは尚駄目です」
「ネメッカ様は確かに理性的なお方ですよね」
「はい、立派に光を導いておられます」
「ネメッカ様はお美しいですよね?」
「ええ、私からもそう見えています」
「でしたら私がネメッカ様に惹かれるのは必然でしょう。ですから距離を取るべきはネメッカ様の方だとは思いませんか?」
「まあそうですね」
「でしたらネメッカ様にあまり思わせぶりな態度を取らない様にお願いすべきではありませんか?」
「お断りしますがここは早く事を済ませましょう」
「ネメッカ様、お待ち下さい」
ユッミルは昨日同様応接室に向かう。
「早速ですがこの街の住居が決まりましたよ。まあお望みなら私の部屋でも良いのですが流石に毎日ともなりますと私が持ちません」
「毎日ご負担を強いる事はしないつもりですけどね」
「私が持ちませんね。我慢も含めて」
「そういう事にしておきます」
「それで前にもお伝えした様に基本的には二人お付きをつけたいと思うのですが」
「急に決めるのは無理ですが暫定的に一つご提案が」
「はい」
「ルーエさん、しばらくお願いできますか?」
「私はネメッカ様のお世話が。それにどうしてあなたの様な弱い人のお付きになど」
「あなたはネメッカ様と私を遠ざけたいのでしょ?でしたら私の弱さを力説する際に説得力が増すとは思いませんか?」
「それはそうですが」
「私は構いませんよ。ルーエ、特に理由が無いなら引き受けなさい」
「分かりました」
「それではユッミル、私の部屋にでも…」
「ネメッカ様はお仕事があるでしょう」
「何を言っていますの?」
「ルーエさん、早速食事をしましょう。あまり綺麗な食べ方はできませんがお付き合い下さい」
「はい、是非ご一緒させて下さい」
ユッミルはルーエと昼食をゆっくり共にするとその後に家を案内される。
「帰ってもらって結構ですよ」
「仮にもお付きなのですから」
「いえ、私も今日の所はすぐに帰りますので」
ユッミルはルーエを見送ると宣言通りしばらく家を見て回ると施錠してメシャの元に帰還する。
「メシャ、どうしようか?」
「うーん、あの女の近くに行くのは嫌だけどここは無料ではないし」
「だったら僕が先に向こうで寝泊まりしてどんな感じか見てくるよ」
「今日は駄目だよ」
「分かった、明日の事もあるしね」
翌日の午前中はメシャーナの訓練が行われたものの目立った進展は無かった。その後、昼食という事で光の塔に向かう。
「ルーエさん、こんにちは」
「ユッミルさんですか、そちらは?」
「同居人のメシャーナです」
「ユッミル、まさかこの人も。」
「そうそう、この人にも嫌われてて。好きと言ってくれるのはメシャだけだよ」
「そんな事ないよ。光の人達の目が変なだけだよ」
「そう思うなら出ていけばよろしいのでは?」
「けど私はここの主導が必死でユッミルを手に入れようとしたって聞いてるけど主導様に逆らうの?」
「主導様は目が眩んでるだけです」
「ならユッミルを返すように言ってきてよ」
「そうですね、本当にそうあって欲しいものです」
「ユッミルは小さいメシャが大好きだからお前みたいな年寄は興味ないって言ってきて」
「そうですね、ネメッカ様は魅力的ですがあまりにそう思っているとこんなのにも施す使命感に駆られるのかもしれない。そこの小さいのは中々良い事を言いますね」
「えっ」
「ユッミルは私が何とかするから主導の方は任せたよ」
「そうですね。言われなくてもそうします」
ユッミルは食事を急ぐ。
「メシャ、そろそろ新しい家を見に行こうか」
「そうだね」
ユッミルとメシャーナが新居に着くとそこにはネメッカがいていつの間にか室内に色々配置されている。
「ユッミル様、お待ちしていました」
「ネメッカさん、光の塔に戻らなくて大丈夫なのですか?」
「ええ」
「光の主導ネメッカ、ユッミルの優しさにつけ込むのはやめなさい」
「そんなつもりはありませんがユッミル様を必要としていますからお願いします」
「あなたが正直にユッミルの術目当てで色々企んでると謝ればいいだけ」
「一番欲しいのは術ではありません。ユッミル様の思慮深さは結婚相手として魅力的なのですよ。ですがユッミル様が望む限り、あなたとの関係性には口を出す気はありません。一緒に寝ているとの事で少々恨めしくはありますがユッミル様の私以外との人間関係を身勝手に指図はしません」
「ふーん、分かれば良いわ。けど口だけならユッミルに嫌われるから気を付ける事ね」
「メシャ、ネメッカ様が悪いと思うならもっとよく見ないと駄目だよ。悪事ってのは基本的にこそこそ行うもの」
「そうね、ユッミル」
「どうして私が悪事を行う前提なの?」
「ネメッカ様はこそこそ追ってきたよね?」
「それはあなたがこそこそ逃げるからでしょ」
「そうだね、光の主導さんはこんな悪人を勧誘して大丈夫?」
「で、ユッミルさんは私にどんな悪事を働くのですか?」
「悪事を働くとしたら言いませんよ」
「悪事ってのは何か利益を得る為に奪いますけど家賃や食費は既に減ってますし体に関してはこそこそしなくても上げるんですからユッミルさんは私に悪事を働く理由が無いと思いますけど」
「冗談ですよ。それより落ち着かないのでネメッカ様はお帰り頂けますか?」
「では本来の付き人のルーエを呼びましょうか?それとも私がお菓子を作りましょうか?」
「分かりましたよ、お菓子をお願いします」
「ユッミル、別にあの人は無視しても良いよね?」
「まあ良いよ」
メシャーナはユッミルに座って肩を寄せていく。ユッミルはメシャーナを甘やかしつつネメッカの様子を伺う。
ネメッカはお菓子を作り終えて運んでくる。
「こちらで食べましょう」
ユッミルとメシャーナは隣でネメッカはユッミルの正面に座る。
ユッミルとメシャーナはネメッカの事を気にしてネメッカはユッミルを気にしている。口数は全員少ない。
「では私はこれで。ルーエが必要なら塔に来て下さいね」
「さようなら、ネメッカ」
翌朝、ユッミルがメシャーナが寝ているうちに外に出て塔に向かおうとすると一人の少女が目につく。少女はしばらくすると足早に去っていく。ただ、塔に着くと遠目にその少女を見かける。
ユッミルは塔に着くとうろついている。
「ネメッカ様なら部屋にいらっしゃると思いますよ」
幹部のお付きらしき女性は少し遠目から話しかける。
「ネメッカ様に用という訳ではないのですが…」
「それは失礼しました」
ユッミルは目的が無いと塔にいても仕方がないと判断し、塔を出て直接森に向かう。特に何もせずしばらくすると塔に戻る。
「ユッミル、ネメッカ様は君を探して外へ出てしまったぞ」
ルーエは険しい表情で迫ってくる。
「特にする事が無かったのでね」
「確かに優秀な術を使えない君に仕事は無いが食堂か宿舎にでもいれば良かった」
「とりあえず探してきますね」
「私が行く」
「では私は塔の前から探しますね」
「そんな事で見つかる訳が無い」
「ルーエさんはどうぞ探してきて下さい」
ユッミルが歪曲視野を使うとネメッカはすぐに見つかったのでその方向に向かう。
「ネメッカ様?」
「ユッミル?やっと見つけましたよ」
「あの、少し前から見えてましたよね?」
「それは言わなくても良いでしょう。」
「ルーエさんがあなたを探しに行ってしまったので早く見つけましょう」
ユッミルとネメッカはルーエを探す事にする。ネメッカは腕を組もうとする。
「ネメッカ様、私もそうしたいのはやまやまですが主導様にこういう噂が付くのは構わないのですか?」
「ええ、問題ありませんが。ただ、嫌なのはユッミル様のようですね」
「評価の高い光の主導様にまとわりつく余計な男にしか見えないでしょう」
「でしたら今の状況も良くないのでは?」
「それは大丈夫です。お付きのものはいてもおかしくは無い」
「本当にあなたがお付きのものなら良いのですけどユッミルが朝に起こしてくれればうれしかったのですが」
「寝ている女性の部屋に入る事はしませんよ」
「そんな遠慮は妻として困るのですけど」
「随分と気が早いですね」
「そうですか?でも確かに寝てる間に襲われてたらユッミル様でも嫌いになるかもしれませんね」
「しませんよ」
「そもそも部屋に入れませんよ」
「そうでしたね。やはり一度私の部屋に泊まりませんか?」
「それで寝込みを襲ってもネメッカ様は怒りませんし、寝る前に誘惑されそうですし意味がありません」
「まだ信用しないのですか?」
「そんな事よりルーエさんがいましたよ。少し急ぎます。」
ユッミルはルーエと合流して塔に戻る。ユッミルはネメッカの部屋の前で待たされている。ネメッカのお付きの女性が出てくる。
「もう入るようにとネメッカ様が申しています」
「帰っても構いませんか?」
「構いませんがおそらくそれは状況を悪化させるかと」
ユッミルは大人しく扉を開ける。そこにはネメッカとルーエの他に一人の女性がいて三人共部屋着である。総じて丈が短くユッミルは目のやり場に困っている。
「ルーエ、君は一緒に寝る事もあるのだからそんな嫌そうな顔をされると困るのだが」
「嫌とは言っていない。君の様な雑魚は何かしても返り討ちだからむしろ何かしてくれれば言いやすい。掛かってこい」
ユッミルはルーエの隣に座る。
「では何かしたいので触りやすい様に膝元に来て下さい」
「そこまでしても無理だぞ、お前は弱いのだからな」
ユッミルはルーエを膝に乗せる。
「ルーエさんは嫌いですか?」
「役立たずだと言っている」
「ではこれは嫌ですか?」
ユッミルはルーエの腰に軽く手を添えて膝を使ってルーエを肩にもたれさせる。
「興味が無い。何もしないようだな。まあネメッカ様がいては私等価値は無いか」
ルーエは穏やかな表情に変わる。
「えっ。ちょっとルーエ?」
「ルーエさん、今日からよろしくお願いします」
「ああ、そうだな」
「さて、ネメッカ様、こちらの女性と寝たり、抱き合っても良いという事ですか?」
「ええ、ですがこの場は友好を深めようという場ですからイーサとは徐々に慣れて下さい。私は既にあそこまでやったのですから抱き合っても寝ても全く問題ありません」
「そういう事でしたらイーサさんもこちらへ」
ユッミルは既に横に座っているネメッカの肩に手を添えている。
「えっと、承知しました」
「イーサさんは大変ですね。あんな人のお付きなんて」
「いえ、ネメッカ様は私達にそこまで手間は取らせません。ネメッカ様のお付きというのは光の内部の地位の一種でしてこの程度の手間でそれなりの待遇はありがたい話なのです」
「けど今はネメッカ様の我儘で急に困惑する様な要求をされてますよ」
「困惑等しておりませんよ。ところで私があなたを押し倒したらどうします?」
「手が動かせる状態でしたらあなたを抱きしめるかもしれませんね」
「でしたらネメッカ様より私を選ぶのですかと問います」
「イーサさんはネメッカ様より面倒そうですね。ちょっと困っている様子は演技だったのですね」
「いえ、一抹の不安が消え去ったもので」
「そう言われると再燃させたくなりますね」
「しませんよ、ネメッカ様は良かったですね」
「余計な事を言うとネメッカ様が楽しくないですよ」
「私はもう下がるべきでしょう」
「それではネメッカ様の気遣いが無駄になります。イーサさんはどの程度の術が使えるのですか?」
「下級程度しか使えません。大半がそういう方ばかりです」
「中級を使おうとした事はあるのか?」
「数度ですが駄目でしたね」
「手本は見た事あるのか?」
「はい、ネメッカ様の術を拝見しました」
「ユッミル様こそどうなのですか?」
「ネメッカ様が主導に就任したのが十年前でその時に雷撃の使用者はほとんどいなくなった。それで僕は16だが見た記憶は無い。そういう事だろう」
「まさか。しかし、そう考える他にはありませんね」
「さてさて本題ですよ」
ネメッカはいきなりユッミルを抱き寄せる。
「ネメッカ」
「ネメッカ様、何を?」
「ルーエ、こういう事なのですよ。私達の関係性は」
「ネメッカ?」
「私がユッミルを口説いてるのにユッミルははぐらかすのです」
「それはそうですがネメッカ様に傾注したら光の主導まっしぐらですから嫌なのですよ」
「でしたら光の主導にしないことを約束すれば遠慮はやめるのですか?」
ネメッカはユッミルを押し倒す。イーサは綺麗にかわしてベッドから離れる。ルーエはネメッカの本気の表情に混乱している。
「そんな事は言っても無駄な事だ」
「でしたらどうしても光の主導をやってもらう事にすればどうですか?」
「ネメッカ様の体に恥辱を与えて逃げ出しますね。ネメッカ様はお優しいですから口外はなさらないでしょう。それにそんな事を考える卑怯さも理解しているでしょうし」
「恥辱ですか?お優しいユッミル様程度の恥辱は大した事は無さそうですけどね」
「ですが前も言ったようにこうあるべきなのですよ」
ユッミルはネメッカを抱き返す。
「ユッミル様は光の主導をしたくないから私を抱けないと言いますが光の主導を求める気はないと言っても信じないとも言いますよね。あなたには道がありませんので私が抱くしかないのですよ。あなたはそうしても術目当てと思うでしょうが構いません」
「私はネメッカ様が術目当てであってもそれは仕方のない事ですので不満はありません。用済みになる事は念頭に置く必要はありますが」
「であれば夜に何度も寝て事を済ませれば良いでしょ、授かった相手でも手酷く捨てる様な女に見えると言うのですか?」
「それはありませんがネメッカ様に簡単には…」
「であればユッミルは私に一生独身でいろと言うのですか?」
「そんな事は言っておりませんが」
「ではユッミルが見合う相手を用意して下さい」
「あの、分かりましたが今は夜ではありませんし二人もいます。後はメシャーナも説得するか誤魔化さないといけません」
「そうでしたね、取り乱しました」
その日の夜、メシャが風呂に入りたがったが桶を買い忘れている。
「明日、買いに行こうね」
「今日がいい」
「光の団の銭湯はあるけど」
「それは無理」
「向こうから桶は時間が遅すぎるか」
「ユッミルが全部拭くなら許す」
メシャーナは珍しくユッミルに背を向けて服を脱ぐ。ユッミルは布に湯を浸す。メシャーナは相変わらず体を隠す所作を続けている。
「メシャ、恥ずかしがりの人は全身を拭いてとは頼まないよ」
「うーん、ユッミル、合わせてよ」
「なら腕を拭くから手を上げてと言ったらどうするんだ?」
「えっと」
メシャーナの手は脱力して体から離れる。
「やっ。ユッミル、遂に」
「メシャ、普通に見えてるけど?」
「やっぱり私には無理。ユッミルの前だとどうしても気が抜けるし。普通に拭いて」
「けどまあ桶はしっかり持って…ルーエさんにはメシャがここで風呂に入るのをどう言おうか…」
「メシャがユッミルと入りたがってる事にすればいい」
「まあけどとりあえずはそうしておこう」
ユッミルは流石にメシャのかなり大きな胸は多少手こずりながらも拭き終える。
「ありがとう、ユッミル」
「ところでちょっと太った?」
「そうかな?」
「気のせいかな」
しばらくして夕食を食べているとドアを叩く音がする。声も聞こえてくる。
「ルーエ?」
「ええ、今日は泊まります」
「食事は?」
「塔で食べてきました。ユッミルさんも塔で食べれば良いのに」
「メシャはあそこが好きではないし一人でというのも可哀想だしね」
「とりあえずトイレに。」
ユッミルとメシャは楽しそうに談笑しながら食事している。ルーエはいつの間にか寝ている。
ユッミルが目を覚ますと箒の音が聞こえる。ユッミルは布団の上で座りながら色々考える。
「朝はどうするのですか?うん、メシャもいるしこっちだよ。食材はあるからルーエもどうぞ」
「今回はユッミルさんが作るのを見ますが明日からは手伝います。いずれ私一人でも作ります」
「それでルーエさんにお願いしたいのはメシャの昼食です。内容はメシャと相談して下さい」
「メシャーナは自分で作らないのですか?」
「料理は得意ではないよ」
「分かりました」
「では今日は出かけてくる。昼前には塔に戻るけどね」
ユッミルは久々に集会所より北に向かう。
「こんにちは」
「エッヒネ様ですか?」
「そうですね」
「少しかかりますがお呼びしますね」
「はい」
ユッミルはそこそこ待たされる。
「ユッミルさん、おはようございます」
「あの、エッヒネさん、服装に見合わない眠そうなお顔ですね」
「最近は魔石の質を上げる為に作り直しをしてるし遅い時間の狩りもやってるし寝る時間、遅くなってるのよね」
「そうですか、やはり例の件で」
「そうかもね。ところで噂で聞いたのだけど光に所属するのね?」
「ど、どういう噂が?」
「雷撃の件の噂が真実で光にそいつが加わったらしく指揮所に来るネメッカ様が非常にご機嫌だという話ですね」
「あの人は。全部面倒事を丸投げされないように気を付けないと」
「結局、全てネメッカに持ってかれたわね」
「嫌な事を言わないで下さい」
「そうね。で、いつ結婚するの?」
「何故、そんな話に?」
「ネメッカからすればあなたは理想の相手。同じ団でしかも実力は少し上。しかもあなたの性格だし欠点は実力を隠そうとする事位。私は炎だし簡単に動けないけどネメッカは団に取り込めば好き放題。周りもあなたが実力者である以上反対のしようもない。表向きは実力者の取り込みという事にしておけばあらぬ噂は立たない」
「確かにこちらからしてもエッヒネさん程は強くない女性の方が付き合いやすいですし塔での仕事で貢献できる分、居づらさも無い。ただ、同じ団である以上冒険に同伴する意味が無いので別行動になる事で浮気される危険は高いのでそんなにうまくいくとは限りませんよ」
「それはお誘いかしら?」
「ネメッカ様に貸しでも作ってくれればお相手はしたいですけどね」
「それは無理難題だけどやれれば考えるのね?」
「エッヒネさんが意欲的というならお断りする理由はありません」
「まだネメッカ様を信用しきってないのね?」
「そうですね」
「私だともっと無理そうだから信用されない形で楽しむ事にするわ」
「お任せします」
ユッミルは昼前に光の塔に出向く。いよいよ我慢できなくなったユッミルは下級魔石の売り場で無造作に一つの魔石を手に取って中身を確認する。そっと元に戻して立ち去る。
ユッミルはネメッカの部屋に向かう。ネメッカは薄着をしている。
「ネメッカ様、話があるのですぐに服を着て下に来てください」
ユッミルはさっさと扉を閉めた。すぐにネメッカはいつもの服を着て下に降りる。
「ユッミル、どうしたのですか?」
「下級魔石ですがどうしてあんなに低品位なんですか?」
「それはその、私の体で許して下さい」
「そうですか、良かったです。そういう条件で体とかいう人はきっぱり切れますし」
「冗談です。いつでも触ってかまいませんが外で行うとユッミル様の評判が落ちますので」
「それで?」
「魔石ですね。魔石は辛うじて下級術が使えるものが作っていますので品質は低くなります」
「駄目ですよ」
「分かっていますがこの仕事によって報酬を支払う事を団員達に納得させているのです」
「なるほど、ネメッカ様は女性としては至上ですが主導としてはいけませんね。ついていけませんので退団します」
「分かりました。仕方ありません」
ネメッカはユッミルにしがみついている。
「どういう事ですか?」
「ユッミルは女性としての私とは別れてませんよね?」
「付き合ったのかは分かりませんがそうであれば別れたいとは思っていませんよ。しかし、この場からは離れたいのですが?」
「ユッミル様のご懸念は理解します。ひとまず私の部屋でお話を…」
「懸念とは何だと思ってるのか?」
「光の団の術が低位と見られる事ですよね?」
「帰る」
「その、困ります、見捨てないで下さい」
ネメッカは目を潤ませている。
「そんな顔をしても駄目だが婚約者候補という事で甘くして一日待つ。明日の昼までにこの体制の問題点を反省して問題点を私に告白して下さい」
ユッミルは塔を後にする。
「メシャ、風呂の事もあるし今日は向こうに行こう」
「私は良いよ」
ユッミル達は冒険者の宿泊施設に帰ってくる。引っ越しが済んで光の塔の街での生活が安定するまでは戻れる様にしており、この行動に決定的な意味は無いがネメッカの方針が変化しなければユッミルは光の地位はもう上がらないと考えている。
翌朝は早めに出る。
光の街に着いて一度家の様子を見に行こうとすると家の前にはルーエがいる。
「ユッミル様、よく分かりませんがネメッカ様が自室でお待ちです」
「ルーエさん、大丈夫ですか?」
「はい、いってらっしゃいませ。私は昼頃に来るよう言われています」
ユッミルが塔に着くと中はいつも通りである。上階にあるネメッカの部屋の前には誰もいない。扉は手をかけると普通に開く。
ユッミルが仕方なく扉を開けるとネメッカは薄い布団を掛けてはいるが服を着ている様子は無い。ユッミルは困惑して目を瞑り、下を向く。
「ネメッカ様、起きてますよね?」
返事は無い。
「ネメッカ様、用が無いなら帰りますよ」
「ユッミル、せっかく私が好きにしていい状況を作ったのに。好意はきちんと受けて下さい」
「誤魔化さないで下さい」
「そうでしたね。ですがまずは私は罰を受けなければなりません」
ネメッカは布団を横に置いて仰向けになる。ユッミルはネメッカから少し目線を反らす。
「どういうつもりですか?」
「ユッミル様が私の体に罰を与えるのが最良かと思いまして」
「何処が最良なのですか?喜んでるようにも見えますが」
「本当にそう見えるのですか?やっとユッミル様と体を交える行為を私が望んでいるとご理解頂けたのですね」
「いえ、そうやって私に取り入る事に近づく事を喜んでいるのかと」
「言い訳が苦しいですね。でしたら好きでもない男にやられたら不快な罰を与えればいいのです。私は光の団の低位術者を優遇して団の足を引っ張った。その行為の代償としてユッミル様が気の済むまで私の体を手中にさせる罰を受けます」
「僕がネメッカの事をどうとも思っていないとしても受け入れるのだな?罰という事は」
「そうですね。これ位の罰を受けて反省を示さないと話を進められない様に思います」
ユッミルは罰を与えた。
ユッミルはベッドに起きてはいるが倒れこんでいる。
「光の主導よ、これが恵まれて上級術が使えるだけの卑しい男の正体だ。」
「ではあなたはこれを他の女にもしたいのですか?」
「したくなる相手はいるだろうね」
「ルーエは?」
「思わない」
「ルーエでも思わないとなればしたい相手は少なそうですね。つまり、私には十分価値があるという事でしょう。まあ流石にこれだけしか価値が無いと思われているならユッミル様への求婚は撤回すべきでしょうがそれは私が判断する事であって私はそうは思っていません」
「分かりました。ネメッカ様の身をもってお示し頂いた判断を尊重します。」
「ありがとうございます」
ネメッカは辛うじてベッドが横付けしてある壁にもたれているユッミルに抱き付く。
「ネメッカ様、あまり動けないのですが」
「酷い男に罰を受けたので抱きしめて介抱して下さい」
「本当に困ります」
「分かりました」
ネメッカはユッミルの頭を胸に抱き寄せる。
ユッミルはしばらく黙っていた。
「もう良いです。起きますから」
「良いのですか?」
「はい、本題に戻ります。私が怒っている理由は団の不利益もありますがネメッカ様の方針の直接的問題です」
「直接的?」
「私の様な甘い男の罰では駄目なのですよ。あなた達は冒険者を無用な危険に晒しているのですから」
「そういう事ですか。ですがそれは分かっています。全くの低品位は売らない様に検品はしています」
「ちょっとした低品位が冒険者を危険に晒しますから駄目ですよ」
「そう言われると困りましたね」
「とりあえず服を着て下さい」
「嫌です。ユッミルの方針は困りますがユッミルの退団も困ります。ユッミルは私に服を着せて冷静さを取り戻して退団を通告するつもりですね。そうはいきません」
「ネメッカ、流石にそんな事で退団は止まらない」
「でしたら私の体を触りながら言ってみて下さい」
「ネメッカ、あなたの方針が変わらないなら退団する。そして、実質的に君とは別れる事になるだろう」
「本当にそれで良いのですか?」
「そうだな。君も団の為に身売りせずに済む」
「ユッミル、それは私が利益の為に体を差し出す姑息で卑しい女という侮辱ですか?」
「そういう意味では…」
「そう言ってる様なものです。あなたに好かれるのも利益ですがそれは直接的な提案です。術師としての優秀さはきっかけに過ぎません。あなたと触れ合おうとするのはあなたに好かれる為とお認め頂けますね?」
「好かれた先の利益を見据えているとも考えてはいます」
「分かりました。あなたとの関係は保留にします。そんな風に見られたまま関係を進めたくはありません」
「えっと、それは退団しろと?」
「それは関係の無い話ですが塔に来なくても構いません。家はしばらくそのまま住んで構いません。私の気持ちをどうしても尊重できないし団にも所属しないという決意が固まったら出て行って下さい」
ユッミルがネメッカの部屋を後にして塔の入り口に出てくるとルーエと出くわす。
「聞きたい事があるから家で食事を作ってくれ?」
「分かったわ。ネメッカ様では話せない事もあるだろうし」
ユッミルとルーエは家に戻る。ユッミルはルーエの準備を待っている。
食事が並ぶ。
「ルーエ、君は下級魔石の制作に関わっているのか?」
「いえ、今はほとんど関わっていません。昔は関わっていましたが」
「そういう事か。だがそれでもいけない」
「ユッミル、どうしたのですか?」
「いえ、まだまだですが十分ですよ、この昼食」
翌日、ユッミルはメシャーナと桶を運び込む。ユッミルは塔の近くから歪曲視野で下級魔石の生産現場を覗いている。
夕方、ユッミルは家の近くの路地で歪曲視野を使っている。
「あの」
ユッミルは少女に声を掛ける。
「ひゃー、私は何も持ってません。けどだからって怒って殴らないで下さい」
少女は叫んでいる。注目を集めそうなので音波を打ち消す。
「ちょっと良いかな?」
「音を消して…私を誘拐?食べてもおいしくないし胸も小さいし腹が立って捨てたくなるだけだからやめた方が良いです」
「察知できるのか。初めましてではないと思うけど話すのは初めてだから初めましてユッミルです。僕は目立ってたつもりだけど勘違いだったみたいだね」
「ユッミル?ああ、ネメッカ様のお気に入りの」
「その認識は正しいのだろうけど」
「という事は…私に何の用ですか?」
「まあ分からないから困惑させてしまったね」
「いえ、私こそ取り乱してしまって。けどあなたは優秀と聞きますからその力を使って私に悪い事をしようとしている訳ではないですよね?」
「してたとしても悪人は言わないと思いますよ」
「あなたが悪人でも逃げられないので言う事は聞きます」
「そうですか、それで明日は暇ですか?」
「ネメッカ様、起きて下さい」
ネメッカはゆっくり体を起こす。
「もうそんな時間ですか?」
「まだ余裕はありますが起きておいた方がよいかと」
「はあ、ユッミルが一緒なら退屈ではないのに」
「良かったのですか、あれで?」
「良くはありませんがああでもしないと今後ずっとあの調子ですし」
「しかし、放っておいて良いのですか?」
「仕方ないでしょ」
「いえ、放っておけば他の女性が寄ってくる可能性はあるかと」
「同居している女の子は構わないわよ。あの関係性は脅威じゃないわね」
「いえいえ、一緒に狩りをする強い女性ですよ。シェンハ様はともかくエッヒネ様は中々の強敵ですよ。それにエッヒネ様が組んでる事は既に知れ渡っていますので興味を持つ女性は多いかと」
「忠告ありがとう。でも今はとりあえず責務を果たすわ」
3節 指導
ネメッカが指揮所から光の塔に帰還した頃、ユッミルはロコッサと待ち合わせて森に向かう。
「どうして森に?」
「大丈夫だから」
「不安なのですけど私を悪事に巻き込まないで下さいね」
「ネメッカ様には黙っているが決して悪事ではないよ」
ユッミル達は森に入る。ユッミルは何かを探している。しばらくするとユッミルは音波を操って獣を挑発する。
「光点、やるよ」
ユッミルは獣の目に強い光を当てる。怯んだ所を雷装剣で攻撃しようとするがロコッサがしがみついている。ユッミルは仕方なく雷射を打つ。
「ロコッサ、僕の武器は剣だからこの体勢は困るのだけど」
「無理です、怖いです」
「ロコッサがこういう事をする方が危険性が高まるのだけど」
「獣は倒れたみたいですけど他にもいそうで怖いです」
「そんな事よりロコッサの術を見せて欲しいのだけど」
「無理です。立てません」
「は?そんな事言ってると全て剥ぎ取られて全身舐め回されても何もできないぞ」
「ユッミルさんの気が収まるならそれで良いですから殺さないで下さい」
「殺すぞ、失敗でも良いからやれ」
「えっ、失敗しても良いのですか?」
「とりあえず一回やれ」
「分かりました」
ユッミルはまた獣を呼び寄せる。ロコッサは術を放つが外す。ユッミルはまた雷装剣で切り伏せる。
「辛うじて使う事はできる程度の様だね」
「ごめんなさい」
「ん?今日はここまで。とにかくまた訓練するよ」
「また森ですか?」
「そうだね」
「街でできないのですか?」
「ロコッサは酷いね。そんな酷い子だとは知らなかったよ」
「違います。そんなつもりはありません」
「そんなつもりって?」
「分かりません」
「光点を目に当てる訓練がしたいのだがロコッサさんは僕を訓練台にして目を潰そうというのでしょ?実に酷い」
「分かりました、森に行きます」
翌日はロコッサの空きが午前中なので午前中にロコッサと訓練し、午後からはメシャ―ナと訓練している。
「ユッミルさん」
エッヒネの声がする。
「どうしたんですか?」
「ネメッカさんみたいに捕まえるのは無理そうね」
「炎の売れ残り主宰さん、こんにちは」
「メシャ、駄目だろ」
「気にしていないわ。怒らないであげて」
「ただ、訝しい目で見ているのはメシャと同じですよ」
「少し見てたけどまだまだね」
「何?私は強いからユッミルと奥まで行けると自慢でもしに来たの?」
「メシャ、エッヒネ様は良い人なんだからあんまりそういうのは駄目だよ」
「そうだね、ユッミルも好きそう。だから嫌い」
メシャーナはユッミルの背中に寄りかかっている。
「ネメッカ様に比べれば私はユッミル様に重視されてはいませんからご心配なく」
「いや、ユッミルはこの人の方が大事そう」
「メシャーナの方が大切だよ。ネメッカは近くにいるだけ。エッヒネさんも大事ですけどね」
「ありがとう。けど今はメシャーナさんに用事なの」
「そうですか。私は邪魔そうなので帰ります」
「ユッミル、いて下さい。メシャーナさん、私としてもあなたがユッミル様と冒険してくれるのはありがたいです。そうでないとユッミル様はずっとこんな所で寝ぼけてしまいます」
「エッヒネ様?」
「そうでしょう?ネメッカ様に気に入られ、光の塔で術を重宝され、何不自由無く暮らしていく。ですがあなたは私より優秀なのですからもっと成果をあげて欲しい。しかし、私では忙しさもあって限界がある。ですがメシャーナさんが強くなればユッミルは動くでしょう。」
「そうですね。ですが焦らせても上手くいきませんよ」
「メシャーナさんを土系の団に入れるのは?」
「それは賛同できない」
「どうして?」
「ある程度自力で術を向上させるのが先」
「ユッミルさんだけで可能なのですか?」
「私がそうしたいのだけど文句でもあるの?」
「ユッミルさんはあくまで優秀な光術師。教えるのに適しているとは言えません」
「考えておきますので今はお引き取り下さい」
「エッヒネさん、そういう事ですので気が変わったらお願いします」
エッヒネは街の方へ引き上げる。メシャーナはユッミルの腕に巻きつく。
翌日、メシャーナは街に出かけた上にロコッサは仕事があり、ユッミルは光の塔で昼食をルーエと食べる。
ユッミルの視界にネメッカが入る。ユッミルは急いで食べ終える。
「ルーエ、またね」
「ユッミル様、こんにちは」
ネメッカはユッミルの前に立ち塞がる。
「こんにちは、ぶつかって怪我をさせたくないので道をお譲り頂けますか?」
「ユッミル様は私に用事は無いんですね。暇でしたらお互いに変装してお出かけしませんか?」
「暇ですがお断りします。そもそも保留と言ったのはあなたです」
「そういう意味ではありません。ユッミル様がそうであって欲しいならお誘い頂ければお受けできるとは思いますが」
「では何の用ですか?」
「下級魔石の問題に関する弁明が必要と判断しました」
「まあその程度なら。あなたは納得しないと面倒ですからね」
「ユッミル様は重要な事に中々同意頂けないからですよ」
「私達、相性悪いですね」
「そうですか?ユッミル様はこの団を突撃集団に変えるおつもりですか?」
「いや、そんな事は求めていない」
「一致する事もきちんとありますよ」
「だがもう少し優柔でないと団としてあまり意味が無い。確実に強くある事を求めるのは間違っているが強さを求めないのは間違っている」
「ですからそのお話はお出かけしてから」
「分かりました。言い分はもう言ってしまった気もしますが」
「はい、楽しみにしてます」
ユッミルとネメッカは出かける。
「手を繋いではいけませんか?」
「保留ですよね?」
「今はカエちゃんですから」
「困る事を言ってくれますね」
カエは少年の手を取る。
二人が歩いていると二人の男女が明らかに目線を向けてくる。
「サーハ」
「やはりカエちゃんね。男といるなんて珍しい」
「うん、好きだから付き合ってるの」
「そうなのか、知らなかった」
「会ったのはちょっと最近だから」
「僕は付き合ってるつもりはないけど」
「そうだね、ちょっと一方的かも」
「ええ、カエちゃんのどこが駄目なの?」
「信用できない」
「不安って事ね」
「そう、だから恋人ってのは隠さないようにしてるの。嘘でもこっちを信じそうだし」
「そんな必要は無い」
カエはユッミルを抱きしめる。
「で、どんな人なの?」
「私より強い光術師よ。もしかしてネメッカ様の探してた人?」
ユッミルは抜け出そうとする。
「あの人はもっと強い。主導様よりも強い。それにネメッカ様がとても気に入っているから私が手を出せば怒り狂うかもしれませんし私はこの人の方が好きですよ」
「カエちゃんはどんな男が良いの?」
「光に所属して優秀で私を邪険に扱わない人」
「カエ、邪魔だ」
「約束は?」
「はあ、そろそろ行くよ」
「二人ともまたね」
カエ達はしばらく歩くと喫茶店に入る。
カエ達は注文も済ませる。
「カエさん、どうしてああいう面倒な事を言うんですか?」
「理由はさっきも言ったようにあなたに誤解させない為」
「ああいう事をしてもあなたの行動を肯定的には捉えません」
「口で言うのは自由ですよ。それよりネメッカ様は先日の件についてあなたの言い分が一理あるのは分かっていますので一部の下級魔石については品質に留意します。」
「具体的には?」
「一時的に生産を中止しつつ、検品します。あまりにも品位が低いものは再生産を検討しつつ、今後生産に加わる術者を厳選します。生産量が足りない様でしたら中級魔石から要員を引き抜きます」
「分かりましたよ、とりあえず歓迎します。明後日以降は塔に出向く回数が増えるでしょう」
「ありがとうございます、ネメッカ様も喜ぶでしょう」
「それでどの魔石を厳選するの?」
「それはユッミル様にご相談したいのですよ」
「ユッミルではありませんが分かりました。まず、カエさんはどうお考えですか?」
「放音と考えています。生産量は落とす事になりますし特定の術者に多少集中する事になりますが」
「私は光点が適していると思うが需要が高く、光の評判を上げるのには効果が高い」
「しかし、実験としてはいきなり需要が高い術は良いとは思えません」
ユッミルは少し考える。
「分かりました。光点ではなく放音にしましょう。私はまだ入りたて事情の詳しいネメッカ様にお任せしましょう」
「ありがとうございます。急に光点とはいきませんが順次光系でも同様の措置への移行を考えていきます」
「それでだな。話はもう一つある」
ユッミルは立ち上がる。
「下級魔石に雷系を加えようと思う。だが面倒な事だからね。それなりの褒美が欲しいね。という訳でネメッカに今日の夜空けておくように伝えろ」
ユッミルは席に戻る。
「ネメッカ様にはお伝えしますのでお越しください。必ず来るように願います」
「は?許可を取れよ」
「え?そういう儀礼がお望みでしたらそれも伝えますので適当な時間に塔にお越し下さい」
「いや、面倒だからって」
「いえ、ネメッカ様からは向こうから無理な要求が無い限り、そういう事には肯定的に返事をしろと申し付けられています。ネメッカ様の予定は把握しておりますのでそれに合わないならこの場でお伝えします」
「いえ、すいません。雷系術は無条件で提供します」
「よくわかりませんね。どうして気が変わったのでしょう?」
「カエさん、それを追及するのはおやめ下さい」
「でしたらネメッカ様には来ると伝えておきます」
「無礼さを反省してやめるのでそういう事は伝えないで下さい」
「無礼をネメッカ様に働きたかったのですか?」
「いえ、冗談ですよ」
「冗談ですか?しかし、ネメッカ様はそういうご期待をしていますので残念がるでしょうね」
「報告しなければいいでしょう」
「報告するように言われています」
「でしたら訂正します」
「困りましたね」
「分かりましたよ。行く事は行きますがそういう行為はしません」
「ネメッカ様にも禁じるという事ですね?」
「は?禁じるも何も無条件と言いましたよね?」
「理解しておりますが禁じないとネメッカ様は行ってしまうと思いますよ」
「ネメッカ様はこちらが望んでいなければされないかと」
「ネメッカ様は自分が望んでいないと思われる事を懸念しております。それはご理解頂きたい」
「でしたら私はしないと明言しませんがした場合は保留という約束を反故にする不貞の輩ですのでネメッカ様のお相手は辞退すると」
「ちょっと、そんな。どういうおつもりですか?」
「返事を聞きたいのはネメッカ様なのですが」
「意図を解しかねます。保留と言う話を取り下げろという意味ですか?」
「まさか、そんな事はありません」
「誘うなという事ですか?」
「それは多少ありますけどこれはこちらの問題」
「分かりました。ですが流石にこれは無条件ではないと思いますので適当な時間に塔にお越し下さい。私は塔に帰ります。ネメッカ様にもお考えを纏める時間が必要でしょうからゆっくりお越し下さい」
ユッミルはカエを見送ると食事をゆっくり済ませ、一度家に戻り、変身を解いて塔に向かう。
「ユッミル様、お話は伺っております。部屋にお越し下さい」
ユッミルはネメッカの部屋に通される。
「ユッミル様は私と夜を友人として共に過ごすと望んでいると聞きましたが」
「まあ純粋にお話がしたいという事ですね。夜というのは取り留めもない話ですので寝てしまえばそのままお互い寝る程度の形ですね」
「それで私が服を脱ぐあるいは服装を変えるのを禁じるというのは本当ですか?」
「そうですね。避けてもらいたい。私もですから私がそういう行為をしたらご注意下さい」
「私にそんな権利はありません」
「いえ、ネメッカ様はお綺麗ですから魔が差すかもしれないので窘めて頂ければと」
「ユッミル様は魅力的ですのでそういうお誘いは断れません」
「ですが保留ですので拒絶をお望みでしょう。私は不快には思いませんからご存分にはっきりと拒絶ください」
「私としてはあなたがそういう行為に及べば私の気持ちをご信用頂いたと判断します」
「そうではありませんのでネメッカ様は騙された事になりますが?」
「構いません。しかし、今日はそうならないようにします。とにかく夜にお越し下さい。ついでに塔で夕食も共にしましょう。ルーエには私からメシャーナさんの面倒を見るように言っておきます」
ユッミルは塔の一階で休んでいる。
「ユッミル、ネメッカ様は君に騙されているらしいが楽しそうなのだ。しばらくは上手く騙してくれよ」
「ネメッカ様の事は丁重に扱いますよ」
「本人は望んでいない様だが頼むよ」
「ルーエさん、勝手な事は言わないで下さい。この男は本当はそれなりにネメッカ様を気に入ってるのにネメッカ様の積極性を受け止めきれないのをネメッカ様のせいにしているだけ」
「そうですね。ネメッカ様が利益や好奇心で積極的ですからね」
「それは無いわ。騙されてはいるが本気は本気よ」
「ネメッカ様は普通に気に入っておられます」
「何処を?」
「まずは力を誇示しない所」
「そうだな。力が無いから気安くて安心なのだろう」
「次は強引じゃない所」
「確かに強引にする力も無いし心配しなくて済む。後は口先が上手いから優しく騙してくれる」
「ネメッカは頻りに同じ団でそれなりに優秀だからと言ってくるのだが」
「それはユッミル様に納得させる為とネメッカ様自身何故ユッミル様を気に入ってるかには興味が無いのでしょう」
「分かりましたが今日は普通に交流するだけです」
「えっと、やはり何もしないというのは本当なのですね。困ったものです」
「今日はしないと言っているだけです。永久にしないとは言っていません」
「とりあえずその言葉を信じるが嘘だったら許さないからな」
「ユッミル様、ご心配には及びません。この女等ネメッカ様より弱いのですからあなた様なら簡単に倒せます。許さないと言った所で何もできません。今日は引き下がりますが今後は何もせずネメッカ様を傷つける様なら私とやってでもネメッカ様にあなたの不評を吹き込みまず」
「今も吹き込もうと思えば吹き込めるのでは?」
「今言ってもネメッカ様の機嫌を損ねるだけ。傷つけば耳を貸すでしょう」
ユッミルはネメッカと夕食を共にし、人が少ないとはいえ一緒に歩いて部屋に入っていく。
「本当はユッミルがどんな所で私に魅力を感じるか分からないので着替えを自由に見て頂いても構わないのですがユッミルが今日はそういう日じゃないと言うので不満ですが出ていてもらえますか?まあ後ろを向くと言って密かに見ても構わない気がしますが約束優先です」
ユッミルは部屋を出る。
「ユッミル、入って下さい」
そこまで時間はかからずネメッカは着替えを終えて扉を開ける。
「その姿もお綺麗ですね」
「その言い方、ユッミルこそ利益を求めている様に聞こえます。けどユッミルが私からもらえる利益なんて無いのに」
「ネメッカ様の機嫌を損ねたくないだけですよ」
「それなら抱けばいい」
「ネメッカ様、抱くだけで機嫌が取れる簡単な女なんて騙そうとしても無駄ですよ」
「まあ良いです。約束通り寝ましょう。それに今日は関係なくやってもらいます」
「やりませんよ」
「そういう意味ではないです。良いですから来て下さい」
ユッミルはネメッカが待つベッドに入る。ネメッカはユッミルを抱き始める。
「ユッミルは緩く捕まえます。これならやる気は起きないでしょう」
「ネメッカ様はご自分の魅力を理解してませんね」
「いえ、ユッミルの意思があるならこれで十分です」
しばらくユッミルとネメッカは話していたがお互いに寝る。ユッミルが目を覚まして剣を取ろうとするとネメッカは目を覚ます。
「お待ち下さい」
「朝食を食べましょう」
ネメッカとユッミルは食堂に来る。
「待っていて下さい」
ネメッカは食堂の調理室に入り、何かを作っている。ネメッカとユッミルは朝食を食べる。ユッミルは少し散歩してからメシャーナを迎えに行く。
「ユッミル、遂に寝たのね」
「私に魅力が無いのは悪いけど酷い」
「大丈夫ですよ。この人はあなたにも手を出さない。美しいのはネメッカ様ですが無防備なのはあなたですし」
「そうよね。今日は訓練よね」
メシャーナの訓練を終えると光の塔に帰るふりをして森に向かう。
「ロコッサ、今日は予定を変えて放音をやろうか?」
「ええ、やった事無いです」
「えっ、ロコッサは音の方が向いてる可能性もあると思ったのに」
「そんな事は」
「うん、でもやってみよう。手本を見せる」
ロコッサの訓練は順調で合音も少し訓練する。
「時間だね。でもロコッサは音の術が向いてるよ」
「ありがとうございます」
「それで次の訓練はいつが良い?」
「それがこれからは忙しくて次のお約束はまだできそうに無いです」
「仕方ないね。また気軽に声を掛けてね」
「ネメッカ様、今日はどういったご用件で?」
「はい、下級魔石の製造についてですが製造方針の変更を試したいのです。魔石の質を少し重視します」
「それはどういう事ですか?ネメッカ様が作るという事ですか?」
「下級魔石の生産者を吟味します。まずは放音で試験的に実施します。適正者がいない。あるいは少ない場合、中級魔石の生産者からもお願いする事になります」
「あまり高い生産数を見込まないのであれば構いませんよ」
「その品質検査は誰が行うのですか?ユッミル様の意向をあまり反映しすぎると同意しかねます。彼はあくまで雷系の術師」
「いえ、一定程度ユッミル様の意見は反映します。しかし、術者は伏せた上で検品させます」
「分かりました」
翌日、ユッミルは一階でネメッカを待っている。
「あれ?光も遂に護衛を雇うのね」
「あれ?見かけない顔ですね」
「あれ?私を見るのは初めて?でも最近ならそうなるか、私はカンハ。木に所属する術師だよ」
「木の術師が何の御用で?」
「知らないの?木と光は魔石を交換してます。光にとっては木の術は食糧調達に重宝するみたいですね」
「光の金回りってそんなに…」
「所で守衛ならたまにで良いけど木の方に来て訓練しませんか?歓迎ですよ」
「いえ、そうもいかないのです。気まぐれな方の護衛なので」
「えっ。護衛なの?てっきり守衛かと。誰の護衛ですか?」
「それはこの団で護衛が必要な方は一人しかいないでしょう」
「そうですか、それにしてもネメッカ様は男のお付きをつけませんから意外ですね」
「そうですね。ネメッカ様はあまり外にお出になりませんが私がいれば出れます」
「大変頼もしい言葉ですがそんな頻繁には出かけません。カンハさん、お願いします」
カンハは待っていた担当者の方に向かう。
「そういう嘘は困ります」
「えっ。ネメッカ様の護衛という事にすれば光の威容は増します。望むなら光剣として扱えます」
「ユッミルが目立つ提案をするのは珍しいですね」
「いえ、指揮所には興味がありますし実際にネメッカ様が死んだら面倒な事になるのは事実ですし」
「私もそれ自体は問題ありません。しかし、ユッミルが横にいるのに手を組めないのは我慢できません。私が耐えられないので駄目です」
「私はユッミルではありません。ユッミル様の手前、用も無いのに護衛の邪魔になる行為はきっちり制止いたします」
「分かりました。考えておきます。ただ、指揮所に関しては私がいなくても行けますよ」
「いえ、ネメッカ様と行く選択肢も持っておきたいのですよ」
「つまり、指揮所での私を見たいと?」
「いえ、どちらかというと指揮所でネメッカ様がどう見られるかですね」
「あなたなら同行しなくても可能でしょう」
「可能は可能ですが指揮所から目立つ位置に陣取るのは避けられません。それに音は拾い切れない」
「まあ本当は私もその方が良いので我慢する方法を考えておきます」
「でしたら私が少女の姿でいれば問題ない」
「あの…ユッミルは私に女性好きの疑惑を掛けて自分と結婚しても愛が無い結婚だと世間に思わせようとしているんですか?」
「そこまでの考えはありませんでしたがそれは良いかもしれません」
「無駄ですね。私が外だと理性的に振る舞うとお考えかもしれませんが前の件をお忘れですか?」
「冗談ですよ。それより一昨日は寝かせてもらうというこれ以上の無いお礼を頂いたので雷打の下級魔石を製造しようと思いますが魔石はありますか?」
「ええ、二十個はありますよ」
ネメッカは外の倉庫から下級魔石を十個程度持ってくる。
「ではこれを使いますよ」
ユッミルはさっさと八個の下級魔石に雷打を十数発込める。
「終わりましたよ」
「やはり早いですね」
「私より早い人は久々です。ただ、まだ余ってますよ」
「その三個はネメッカ様がやればいい。光点とか」
「まあ良いですけど」
ユッミル達は魔石の売り場に向かう。
「ご苦労様です。新しい製品を加えたいので札を用意願いますか?値段は四…」
「とりあえず五百にしておきましょう。まあ実際に質は高いですから。雷打は希少品。現状は魔石量の都合上大量に作れないのですから高めで構わないかと。売れなければ下げましょう」
「分かりました。あなたの術です。お任せします」
「所でさっきの魔石はきちんと作りましたよね?」
「ええ、まあ」
「札は二種類お願いします」
「えっ」
ネメッカが驚いてる間に札は二種類用意され、ネメッカの光点は四百と表記された。
「あれ?四百?に五百?光は遂に割高の魔石で初心者を騙すのか?」
「いえいえ、少なくともそこの二百以下の魔石よりは目に見えて有効ですよ。その五百の魔石は今から実演します。あそこにいらっしゃる優秀な光術師主導ネメッカ様ではなくあちらの木をご覧下さい」
ユッミルが手を上げて振り下ろすと雷撃が伸びて手の動きに合わせて木を攻撃していく。
「ただ、ちょっと強すぎないか?」
「いえ、一回の使用で一振りですし見やすい様に威力は高めましたが本来焦がす威力はありません。今の光の団にそういう事目当てで来ない事は分かっていますよ。焦がす威力は下級魔石では収まらない。12発は動きますから一度試してみると良いですよ」
「そうか、良いかもしれない。買うよ」
「ちなみに四百の光点は普段これをやりたがらない優秀な術師が作ったのですが…」
「品位は高いと」
「真面目な人ですからおそらくは」
「ちょっと痛いが買います」
店員の光術師は唖然と会計をさばいていく。
「ユッミル様、ありがとうございます」
「いや、君らの客を取ったんだから感謝される事は無いよ」
「よく分かりませんが売り上げが増えるのはありがたいです」
「ユッミル、行きますよ」
翌日、ネメッカは渋々女装ユッミルをお供に付けて指揮所に向かう。
「女性好きの評判は断固駄目ですから触らないで下さいね。私も断固として我慢します」
「分かっていますよ」
ただ、ネメッカは確実に表情が普段より豊かであり、その女騎士はお気に入りと認識された。
「光の嬢ちゃん、ネメッカ様は素晴らしい目をお持ちだからここに相応しいが飾りの護衛が来る所ではない。心配しなくてもネメッカ様には手は出さないし出させないぜ」
「ネメッカ様、ご不満を申す方がいるのですが」
「本気はいけませんよ」
「それは本気で無ければいいという事ですか?」
「いえ、向こうから手が出ない限りいけません」
「分かりました」
「はったりだな。主導様は優しいから最初からこうするよう示し合わせたかな」
「勘違いしている様だが私は術も使うぞ。珍しい事でも無いでしょう。光は術を使えない傭兵を雇う余裕は無い。私がネメッカ様と相談して護衛を買って出ただけだ」
「まあいい。確かにここには役立たずがたくさんいるし一人増えても変わらない」
少女騎士は周りを警戒しつつも初めて指揮所から歪曲視野を使う。
「シェンハ…」
「どちらです?」
ユッミルは森の方を指さす。
「見えませんよ。もう嘘つかないで下さい」
ユッミルには森の西方の奥の方でシェンハが氷壁を盾に高温の岩場を前進するという愚かな鍛錬をする姿がぼんやり見えた。ユッミルは正面の魔族領に目線を移していく。そして、目線をさらに遠くに向けていく。そこにはやはり魔族の姿がかなりぼんやりだが見える。
「なんだあれ?やめておくか」
「ユ…どうかしましたか?」
「ネメッカ様は正面から何処まで見えますか?」
「森より奥は流石に見えません。たまに大きめの魔族は目にしますが」
「そうですか」
ネメッカは薄々ユッミルが見える事は理解していた。シェンハに関してもいる事は何となく察した。周りもこの少女騎士の実力を感じずにはいられなかった。
指揮所からの帰りに木の一団と遭遇する。
「女性だったのですか。」
「ええ」
「そんな事はどうでも良いですが良ければ木の護衛の訓練の見学だけでもどうぞ。歓迎します」
「ありがとうございます。私は彼ほどはネメッカ様に好かれてはおりませんから忙しくは無いのでお伺いできると思います」
「つまり、彼を道連れにしたりはしないと?」
「ええまあ」
「まあ好きにしなさい」
「では私達はこれで」
木の一団は去っていく。
「木は大所帯ですね。シェンハ様もお供を二人連れてましたよ。戦闘時は置いていった様ですが」
「私は主導ですが仲間を護衛できません。援護にしても強力ではない。その現実から目を背けているだけですよ」
「ネメッカ様は理性的ですね。僕にはできません」
「とにかくたまにルーエやイーサは連れていきます。イーサは格好が格好なのですからお付き扱いでしかないですが一人ではありません」
「分かっていますよ。ですがネメッカ様の思惑を考えればルーエさんは幹部にしてお供をつけた方が良いのでは?」
「いえ、ルーエは幹部を望んでいる様ではありませんし」
「ユッミル様に指図をなさっていましたし合っているのでは?」
「そうですね、定期的に本人の希望を聞きますが本当はユッミル様が主宰か主導になって頂きたいのですがね」
「ですがあの男がネメッカ様の味方になるとは限りませんよ」
「そうですね、ですがあの方なら部下になっても構いません」
「ユッミル様が主導でネメッカ様が主宰ですか?困りますよ、私は新参なので文句はありませんが他の方は納得しないでしょう」
「ですが結婚してしまえば全て有耶無耶。外部が関与し始めればユッミル様が実力者である以上異を唱えても無駄。むしろ問題はユッミル様自身。どうしたらユッミル様を虜にできるかしら?」
「ネメッカ様は十分魅力的なのですから普通に接しているだけでも問題無いですよ」
「では十日何も無ければあなたに責任を問いますが」
「それは困ります」
「死活問題なのですから安易な意見は困ります」
「急な結婚はいずれにしても早計では?もっと良い相手も…」
「その可能性には興味は無いです。私に安心を与えてくれるのはユッミル様だけです」
「まあそうですね。光系術師として優秀なのは確かです」
「そうね、彼が優秀で良かったわ。謙虚で強引さは無いけど問題から目を逸らさない。優秀でなければ目にも留めなかった」
「ユッミル様にも分かってもらえると良いですね」
「ユッミル?」
ユッミルは足早に家路を急ぐ。
ユッミルが家に着くと珍しくメシャーナがうずくまっている。
「ルーエさん、料理に失敗したのですか?」
「夕食はまだ食べていませんよ。昼もその様な失敗は…」
「食べすぎか?腹も膨れている様だし」
「最近、多少食欲は旺盛ですが太るほどではないかと」
ユッミルはメシャーナを抱きかかえる。
「まさか」
「うん、ごめんなさい」
「そうか、良い相手が見つかったんだな。まあ僕も最近はメシャの相手をできていなかったしいつまでもメシャをここに縛っておくことはできない」
「ユッミル、それは無い」
「えっと?」
「メシャがユッミル以外に近づく訳無い。ルーエは女の子だよ」
「それ位知ってるよ」
「うん、だからメシャはユッミルとなの」
「いやいや、そんな素振りは」
「あの時、ネメッカ様じゃなくて私だったの」
「そうか、知らない男と付き合ったのかと思った。安心…メシャーナ、そんな事したら駄目だろう」
「嫌だった?」
「嫌とかそういう問題じゃない。とりあえずルーエさん、メシャと二人で話があるので塔にでも出かけてくれませんか?」
ルーエは出かけていく。
「勝手な事してごめんね」
「本当に僕なの?」
「ユッミルじゃないなら誰なの?」
「密かに誰かと会ったりは?」
「無いわよ」
ユッミルは手招きしてメシャーナを抱き寄せる。
「メシャはしたかったの?」
「うん、そういう事ね」
「うーん、分かったけど大変だよ。訓練できなくなったし」
「それもごめんなさい」
「後、勝手には駄目だよ」
「うん」
「そっか、もう狩りは一人でしないとね」
「それもごめんなさい」
「それは気にしなくていいよ。本来は一人でできるし」
「うん」
「けどメシャがそんな事するなんて思わなかったよ」
ユッミルは横になる。メシャはその横でそっと添い寝する。
4節 偵察
ユッミルは森に出かけることにした。メシャーナは家で静養している。ルーエは時折メシャーナの様子を見に行っている。ロコッサやネメッカは忙しい様子だ。ユッミルとしてはメシャーナの行為を簡単に肯定する事もできないので何の意味もなく森に来ている。適当に歩いて奥に向かいながら狩りをしている。ただ、森の奥へ平然と向かう姿はそこそこ目立っているが変身しているとはいえユッミルは珍しく気にしていない。狩りを終えると平原を抜けて街に戻る。冒険者の宿舎の方が近い事もあってそちらに泊まる。
翌朝、一度売り物を光の街の家に置いて光の塔に向かう。塔の様子を覗いてネメッカと会話を交わして家に戻って手早く売り物を持ち出して集会所で売り、今度は街をうろつく。
夕方、早めに光の街の家に帰る。
「お帰り」
「ただいま」
「もう帰ってこないかと心配した」
メシャーナはそばに寄ってくる。
「それは大丈夫だよ」
「けど怒ってたし」
「怒ってたというか驚いたね」
「うん、私も勝手にやったんだからユッミルも勝手にやっていいよ」
「そういう問題じゃないよ。それより今回の事はネメッカ様に説明します。隠すのは良くない」
「良いよ。私が嫌われるだけ。ユッミルには火がつくかも」
「とにかく謝るんだよ」
「ユッミルにはもう謝ったよ。ネメッカ様には悪い事してない。それともユッミル、あの人と付き合ってるの?」
「分かった、ネメッカ様が何も言わなければ良いよ」
ユッミルがネメッカを呼びに行くとネメッカは念の為にカエの姿でユッミルの家を訪れる。
「ユッミル、今日はどういったご用件で?」
「メシャ、ちょっと太ってますよね?」
「そんな気もしますがどうしたんですか?」
「大した事ではないのですがメシャーナが言うにはそのいると言いますか…」
「どういう事ですか?」
「ユッミル、はっきり言う。ネメッカ、あなたよりも先にユッミルから子供を貰ったわ」
「えー、どういう事ですか?ユッミル、この子ともしたんですか?」
「ネメッカ様、まさかあなた。というかユッミル、二人も…」
「メシャ、正直にだよ」
「分かってるよ、あなたと会う前だしユッミルの寝込みを襲いました」
「それはそうだけど、一応気づくのが遅れて気づかないで事を進めてごめんなさい」
「ユッミル様から申し込んだ訳ではないのね?」
「まあそうですね。それは無いですけど」
「なら問題無いです。私とのは合意がありましたよね?」
「ネメッカ様が合意したかは分かりませんが」
「ユッミル、あれを私が誘った以外に解釈する余地は無いですよ」
「ネメッカ様、それは昨日ではありませんよね?」
「えっと」
「そうであればまさかとは思いますがユッミルが塔に来た初日ではないですよね?」
「ネメッカ様、流石にあの時の長時間は不自然でしたよ」
「ルーエ、私は事前にそうなる事も覚悟していました。安易にやったつもりはありません」
「覚悟?」
「違います。ルーエ相手に期待なんて言っても理解しません」
「ユッミル、乗ったのね」
「そうだね、執拗に追いかけてくる粘着おばさんと思って油断してたら甘い言葉に誘われてしまった。けどこのおばさんは口が上手いから逃げられそうに無い。くっつかれてしまった」
「ユッミル、私が必ず引き剥がすから」
「ユッミル、メシャちゃんの事を許して欲しかったら二人の前で私を抱いて下さい。そうすれば許します」
「そうしないと許さないのですか?」
「ええと、そこまでは言いませんが」
「良かったです。ルーエさんはあなたの部下なのですからあなたが解決して下さい。それに保留と言った相手にそれは酷いですよね」
「ユッミル、まだ認めないと言うのですか?」
ユッミルはネメッカを抱く。
「こうやって私がネメッカ様を抱いても何の進展もないですよね?」
「つまり、私から口説けと?」
「そうですがネメッカ様は私がそう考えるなら距離を取ると言っていましたね。ネメッカ様は余程の策があるのかもう諦めてしまったのかなのでしょうね」
「あれ以上どうしろと?全身を舐めさせれば気が済むのですか?」
「そんな事は言っていません」
「もしかして汚いからそれは嫌とか?」
「ネメッカ様、落ち着いて下さい」
「追いつめているのはあなたですよ、ユッミル」
ネメッカはユッミルの胸を抱く。
「つまり、保留と言う方針が間違っていたという事ですか?」
「そうですね、ですから泣いてはいけませんよ」
「塔にいませんから主導ではなくあなたの妻ですよ。あなたに意思があるならですけど」
「私は認めません」
「ルーエ、ここは駄目ですよ」
「メシャ、あなたは諦めるのですか?」
「それは無いけどこのおばさんは五年もすれば下り坂だし半年もすればユッミルの目は覚める。一方の私はまだまだ上る。ルーエもまだまだ上るんだから頑張ろうね」
「そうですよ、ユッミル。私も三年もしたら老いてくるかもしれません。若いうちに抱いて…いえ、私も行きますけどね」
「うん、メシャはまだまだ可愛くなるからもっといい男を見つけると良いよ」
「ユッミルにとってはそこのネメッカが今は良いから私は邪魔かもしれないけど邪魔になっても一緒に暮らすからね」
「うん、僕から追い出す事は無いと思う」
「そう言えばユッミル、明日は早いですよ。起きていなければ襲ってしまいますよ」
「残念、私が止めるわ」
「そうだと良いですね」
翌朝、ネメッカがユッミルの家に向かうとルーエとユッミルは家の前にいる。
「そう言えば鍵が無いんでしたしルーエも居ましたね」
「まさか、ユッミルがルーエを選んだのはこの為」
「違いますよ。ルーエさんが意欲的だと思ったからですよ」
「とにかく行きますよ」
「行ってらっしゃい」
ルーエに見送られてネメッカと護衛の少女は集会所の西を抜けていく。この辺りになると指揮所を往来する冒険者が増えていく。ユッミルの目には光の団に所属する冒険者も見えている。
「光の団は指揮所では個別に動くんですね」
「ええ、主導はどの団も個別に動きます。特に光は所属人員が少ない以上応分負担だと負担は小さいですが同時に輪番制における組織は小さくなります。必然的に個別行動ですね」
「やはりユッミル様がいても何も解決しませんね」
「そうですね、ただ、魔石の売り上げが伸びるだけです。本当に大した事はありません」
「土の団が大所帯で女性は火の団が多いという感じですね」
「ええ、木の団も数は少なくないですよ。まあ水の団は光より少ないのですけどね。氷は纏まってはいませんが数はいますよ。月も似た傾向ですね。ちなみに光も女性の方が多いですよ。水、木、光、火が女性が多くて土と氷が男性が多め、他は半々ですね。」
「しかし、力関係的には水は強い。光と違って少数精鋭です。まあおそらく全員ユッミル様には敵いませんし私や木以外の主導にも勝てませんけどね」
「そんな事を言い出せば月の主導にはシェンハ様以外勝てる可能性すら無いでしょう」
「月の主導様に手合わせを申し込めばユッミル様は本気を出してくれますかね?」
「ユッミル様を殺す気ですか?」
「月の主導様が可哀そうなのでやめておきますけど」
ネメッカ達は指揮所に着く。
「初めまして、ネメッカのおつきの可愛らしい騎士さん。水の幹部イーナと申します」
「私はネメッカ様の護衛のサユーネと申します」
「不釣り合いですね。とてもバランスが悪い」
「力不足なのは承知していますがこれから…」
「いえ、お強い方が弱い方のお付きをするのは差し控えた方がよろしいかと」
「あらっ。あなたの所と同じですよ。あなたもあのご老体よりお強いではありませんか」
「あの方は昔は私より強かった。あなたと一緒にしないで頂きたい」
「仕方ないのですよ。この護衛等の強い方は運営では無く実動して頂いてます」
「あの…ネメッカ様。あなたより強い事を認めないで頂けますか?術は使い方です」
「分かっていますがまあ少なくとも彼なら水を叩けるでしょうね。彼頼みではありますがあまり光に無礼を言うのは賢明ではない様に思いますよ」
「サユーネ様、申し訳ない。では失礼します」
「私はあれよりは弱くはありませんが奇襲されるとまずいですから本当はユッミル様に護衛して頂きたいですね」
「水はそんな愚かな集団ではないでしょう。私はそれより土の幹部に挨拶すべきだったでしょうね」
「構いませんよ」
やはり光の主導ネメッカの滞在時に魔族領に目立った動きは無く、午後になって交代要員である炎の主宰エッヒネが到着する。
「ネメッカ様、ご苦労様です」
「いえ、エッヒネ様。宜しく願います」
「そちらの方は?」
「ネメッカ様の護衛サユーネです。主宰様、今後とも宜しくお願いします」
「護衛?ああ、剣士ですか?しかし、術師としても優秀な様ですね」
「どうしてそんな事を?」
「いえいえ、簡単に背中を見られている気がしますので」
「申し訳ないです。そこまで強い警戒心を向けているつもりはありません」
エッヒネは少し近づき、顔を上げる。
「その警戒心は無意味ですよ。近距離ならおそらく騎士様の方が強い。あなたがその気になれば首を差し出しても差し出さなくても関係が無いです。ですので警戒心を向ける相手をお間違いにならない様に願います」
「サユーネ、そろそろ行きますよ」
「ネメッカ様?お怒りですか?」
「ええ、あなたにではなくエッヒネにですよ。流石にユッミルだと分かってますね」
「ああ、そうですね。力が隠せていないならそうなりますね」
「しかし、ユッミルが手元にいる私に勝てる訳がない。なのにあの余裕」
「遠距離なら向こうに理がある」
「ユッミルはそもそもエッヒネに私達を見せない。ってその事ではなくユッミルの結婚相手は私…」
「ネメッカ様、帰りましょう」
「けどユッミルはいつまで隠そうとするんでしょうね。ユッミルには悪いし卑怯で姑息だけど嫌でもはっきりしてもらえそうね」
「ですが逃げられないのはネメッカ様も同じでしょう」
「そうかもしれませんね。ですがユッミル様はそれでも疑っておられる。私が先も読めない愚かな人間とでも思っているのでしょうか?」
「そんな事は無いでしょうが土壇場で裏切る可能性を拭ってはいないでしょうね」
「であれば明日にでも集会所で私が求婚すれば良いだけ」
「申し訳ない。ユッミル様はきっと不安なだけです」
「そうよね、サユーネ」
「はい」
ネメッカは塔に帰還する。
「ユッミル?」
「ネメッカ様、木の幹部様がいますよ」
「初めましてユッホと申します」
「サユーネです。」
「単刀直入に言います。光に剣をお持ちの優秀な男性術師がいると聞きましたので是非ご足労願いたいと主宰様が申しております」
「どうして私に?」
「いえ、ほぼ同時期に加入したという事は師弟関係等ではないかと考えましたので」
「そこまでではありませんが概ね当たっております。私からお伝えしておきます。」
ネメッカは唖然としていた。ユッホが去るとユッミルは姿を元に戻す。
「ユッミル、行くのですか?」
「ええ、ネメッカ様としても木との関係は重要でしょう。個人的にも月の主導に簡単に手出しされるような現状を放置したくはない。水の動きも不透明。」
「それでもユッミルが女を作りそうで嫌なのです。全てをユッミルに渡して何も無い女ですが見捨てないで下さい」
「御冗談を。光の主導はあなたですよ」
「女としては何もありません」
「それを言い出せば僕に至っては最初から渡せるものは無かった。」
「そんな事はありません」
「そうかもしれませんね。その言葉はそのまま返します」
「確かに全てを出してはいないかもしれませんがそれはユッミルが止めるからでしょう」
「そうですね。ネメッカ様に何も無い女なんて言わせた僕は駄目ですね」
「でしたら責任を取ればいい」
「いずれその日は来ますし逃げようと思えば逃げれますがきっと逃げないと思います」
「私も逃げませんがそうであれば疑いを解いてくれますか?」
「いえ、疑っていようがネメッカ様も逃げられないのですから嫌でも屈辱でも失意でもお付き合い頂きます」
「それで丸く収まるなら構いませんが木で女を作るのは避けれそうにありませんね」
「どうしてそうなる?」
「実質的な光の主導とそういう関係を持つのは木の団としてもその相手の女性にとっても悪い話ではないのですよ」
「ならそこに私の気持ちは大きくないのですから構わないでしょう」
「あの日のユッミルには気持ちがあったのですか?」
「そうですね、あなたの利害に付け込んでね」
「はあ、飽きましたよ。ですがそれはそれで構いません。そうですね、利害で結婚する訳ではないので本当はユッミルを分ける気はありませんがあなたの考える光の利害にも一理ありますので露骨な拒絶はしなくて構いません」
「考えすぎの様に思いますけどね」
ユッミルは翌日、木の塔に出かける。
「お待ちしておりました」
「初めましてユッホです。護衛の訓練を担当しています」
「ユッミルです。私は普段は術頼みなので使わずに鍛えたいと思います」
「本日は訓練の前に主宰様がお待ちです」
ユッミルは応接室に通される。木の主宰の他に二人の女性がいる。
「ユッホさん、そちらが例の人」
「そうですね」
「ユッミルと申します。お誘いありがとうございます」
「木の主宰、シーリュノです。今後とも良い関係を保ちましょう」
「はい」
「強いのか、まあ並であれば剣術でねじ伏せられるだろう」
「ユッミル殿、少し相手をしてやってくれますか?」
ユッミル達は話もそこそこに塔の外の平屋の鍛錬所に移動する。主宰も付いてきている。
「では来い」
ユッミルは太刀打ちもそこそこに木の主宰の女側近の顔の真横に剣を通してからすぐさま距離を取る。
「術ありならもう十分ですよ」
「いや、術無しでも君の勝ちだよ。私では相手にならないようだ」
「そこまでの実力なら私も打ちたくなったね」
「ユッホさん?」
「ユッホは少し小さいけど剣術は木でも指折り」
ユッミルとユッホは一戦交える。
「駄目ですね。純粋な剣の力量では勝てない。守るのが精一杯」
「そうでないと困ります。簡単に勝たれたら来てもらえなくなりますから全力でやりましたよ」
「ですが術ありだと全くかないませんね」
「ユッホさんは冒険には行くんですか?」
「いえ、塔での仕事が忙しいので十日に一日の冒険者とは誰も組まないでしょう」
「そうですよね」
「ユッミルさんの場合は月の主導でも釣り合うでしょうから相手には困らないでしょう。ただ、私達としては木との関係を重視して頂けるとありがたいですね」
「大丈夫ですよ。それに月の主導様は一人で何処でも行けますよ」
「魔族の所にもですか?」
「流石にそれは無理でしょうね。誰でも無理でしょう」
「ですから木との関係を重視して頂きたいのです」
「月の主導は厳格な方と聞いていますので本当は関わりたくないのですよ」
「私も月の主導がどんな人かは知りません」
「残念ながらあの仮面で表情が読めないので何度か会話を交わした私にも分かりません」
「そうですか」
「ただ、あなたを敵視する方には見えませんよ。ですから主導になられても問題はありません」
「また、エッヒネ様と言い無責任…」
「光の主導は光内部の問題。もちろん、他の団が全て反対する様な人選は問題ですが問題が無い事は分かっているでしょう」
ユッミルは直接家に戻る。
「おかえり。疲れてるね」
「少しね」
「ユッミル、今日はどういう用事ですか?」
「ネメッカ様、主導様は部屋でお待ち頂いて結構ですよ」
「それは仲を進めたいのですか?」
「えっ」
「一応、主導ですので塔の内部を見守るのも仕事ですよ」
「きちんと仕事してるんですね」
「あまり役には立ちませんけどね」
「仕事しない様にしてるだけでしょう」
「ユッミルの仕事は魅力の無い私の体を触ってご機嫌を取る事。そうしないと私が不安で仕方ないの」
「分かりましたよ」
「ユッミル、何をやってるんですか?部屋に行きますよ」
ユッミルは部屋に入るとすぐに服を脱ごうとするネメッカの腕を掴む。
「何をやっているんですか?」
「それはネメッカ様の肌に触れるなという意味ですか?」
「まさか、着替えの邪魔をしないで下さい」
「でしたら終わるまで出ています」
「駄目ですよ、逃げますから」
「逃げませんよ」
「それにユッミル様は私の肌が汚いからと言って服を着たままでいさせようとしますが慣れてもらわないと困ります。それともユッミルが脱がせてくれるのですか?」
「良いですよ」
ユッミルはネメッカを抱き寄せる。
「ネメッカ、君も立場が悪いね。こんな事も受け入れなければならない」
「そういう事をすれば機嫌が取れると教えたので実践しているのでしょう?私が主導だから疑わせているようですがであれば私が主導を降りてユッミルのお付きになれば全て解決ですね」
「それは困る」
「私は構いませんよ。ユッミル様が主導になるなら方針はお譲りしますし私はユッミル様の妻であればそれで良いですが困るんですよね?であればユッミル様は私がユッミル様を術とは関係なく気に入っていると考えた方が楽ですよ」
「確かにネメッカ様が主導でなくては困ります。実は立場が弱いのは私のようですね」
「そんな事はありませんがその勘違いで婚約頂けるなら非常に幸いです」
ネメッカは微笑してユッミルは目を逸らしている。
翌朝、ユッミルはロコッサを見かけて声を掛けようとするが走って逃げられる。
雷打の増産が決まったのでユッミルが20個生産していく。昼食はユッミルとネメッカとルーエとイーサで食べながら談笑する。4人はそのままネメッカの執務室で主にイーサの報告を受けて運営戦略を主にユッミルとネメッカで協議する。
ネメッカはユッミルの帰宅時に塔の前まで見送ると主張したのでユッミルは合理性としては違和感を感じながらも気分として受け付ける。ただ、そこには短い杖を持った見慣れない少女がいた。
「木の主宰シーリュノ様より命を受けて本日よりユッミル様のお世話をさせて頂きますソヨッハと申します。これからよろしくお願いします」
「えっ」
「頼んでいませんが」
「その…ユッミル様の所に行く事を進められたのです。光に所属するという訳ではありません」
「ネメッカ様、とりあえず話は私が聞きますので」
「心配です。私が行く訳にはいかないのでカエを呼んできます」
「先に行ってますね」
「ユッミル様、申し訳ないです。生活の手助けを致しますので狩りのお手伝いをして頂ければと思います。後はこちらの手紙を渡すようにとの事です」
ユッミルは歩きながら手紙を読むがネメッカの気配を感じる。
「ソヨ、隠して」
ユッミルは手紙を渡す。
「ユッミル様、ネメッカ様との関係は順調との事ですが私とも関係を進めて頂いて構わないのですよ。私ならネメッカ様の許可は得ておりますし」
「カエ、外でそういう話は」
「申し訳ありません」
ユッミルの家にはやはりメシャーナがいる。
「その女、誰?」
メシャーナはユッミルを少し睨んでいる。
「ソヨッハと申します」
「私はメシャーナ。ユッミルの唯一の同居人よ。世話係を除けばね」
「私も世話係として同居します」
「世話係は二人もいらない」
「ユッミル様、そうなのですか?」
「えっと、ソヨッハはどういう術が使えるの?」
「はい、いくつか木の中級術が使えます」
「あなたは木の幹部ではないんですよね?」
「けど次はなれてもおかしくないと言われています。それでもお役に立てると思います」
「そうだね、少なくとも狩りで組む相手として一度やってみる価値は有りそうだ」
メシャーナは表情が緩んで椅子に座る。遅れてルーエが戻ってくる。
「ユッミル様は一人で大丈夫でしょう。雑用なら私がやります」
「カエ、無理でしょ。それに木の中級術の支援は有効だし、木の方に光の良さを分かってもらう機会。向こうが狩りでの共闘を望むなら断る理由は無い」
「それはそうですが仕えるは不要です。ルーエがいます」
「ユッミル様、お願いします」
「カエ、話が進まないので戻って下さい」
「ネメッカ様には許しを得ていませんのでネメッカ様が来る事になりますが?」
「であればネメッカに心配はいらないから来るなと伝えて下さい」
「今日は遅いので泊まってもらいますが明日、ネメッカ様も交えて話します」
カエは心配そうに塔に戻っていく。夕食を終えるとユッミルはルーエにメシャーナの相手をさせてソヨッハから手紙を受け取って読んでみる。そこには定期的な木への報告さえあれば昼夜問わず連れて歩いても良い事と合わなければ交代要員を用意する事もできる事が主に書かれていた。ユッミルが平屋の一角にある仕切りから顔を出すとそこには裸のソヨッハがちょうど寝間着に手を伸ばしている。メシャーナが駆け寄ってくる。
「ユッミル、良いの?」
ちょうどいいとばかりにソヨッハに背を向けて話し始める。
「メシャもやってるでしょ。それにメシャがあの格好でうろついて風邪を引かない様にすぐ着ない時に注意してるだけ」
「まあそうだけど」
「今日は布団が足りないからメシャを抱いて寝たいのだけど嫌?」
「けど服を脱がすのは言ってからにしてね」
「メシャ、誰に吹き込まれたの?」
「何の話?」
「あの人達は狩りや冒険の達人であってそういう事の達人じゃないよ」
「メシャよりは強いよ。それに普通に頼んでもやらないユッミルが悪い」
「まさか前のそれも」
「ううん、あれは私が我慢できなかっただけ。今は駄目だけど気分が良かったから今度はルーエに家を空けてもらってユッミルが起きてる時にしようね」
「メシャ、もう一人はどうするの?」
「そっか、私が抱きながら…」
「二人共どうしたのですか?」
「ソヨ。ああ、大した事じゃないよ」
ユッミルの前には緩く帯で縛っているだけの羽織を着たソヨッハが立っている。
「寝ましょうか?」
「えっ。あの、私はこの子と寝ますね」
「そっか、三つしか無いですしね。急になってしまってすいません。私が床で寝ても構わないのですが」
「大丈夫、本当はユッミルと寝たいから」
「そうですね。慣れたら私とも寝て下さいね」
「まあ」
ユッミルはメシャーナの肩を押して寝るように促して布団に入る。メシャの腰と片足を抱いて動きを封じる。メシャは顔をユッミルの首元まで近づけてユッミルの頭を抱いて胸を見せつけて満足している。
朝起きると他の三人は寝ている。ユッミルが朝食の用意を始めると服の乱れたメシャーナが起きて寄ってきたのでさっさと服を直す。しばらくしてソヨッハも合わせがずれて服が乱れた状態で起きてくる。それを少し見ると朝食の準備に戻る。
「私のは直すけどあの子のは直さないんだ」
「ソヨッハは大人だからね」
三人は塔に出向く。ネメッカは複雑な表情をしている。
「どうするのですか、ユッミル?」
「まずは木の方に事情を聞くべきでは?」
「狙いは決まりきっているのですからユッミルが断ればいい」
「ですがそろそろルーエさんの後任を選びたい」
「でしたらカエはどうです?」
「カエさんは忙しいでしょう」
「ですが三日に一回なら」
「とにかくソヨッハさんの宿泊はお認め頂けませんか?」
「あまり気が進まないのですが駄目ですか?」
「木の主宰様にお断りを入れる口実を提供して頂けるなら構いません」
「分かりました。その代わりに三日に一回は私かカエと泊まって下さい」
「ネメッカ様、ご冗談を。宿舎で寝ますので御用があればお呼びください。とりあえず木の塔に出向いて事情を伺ってきます」
「何か余計事態が悪化しそうな気がしますが」
ネメッカは不安そうに二人を見送る。
「ソヨッハでは不満かしら?」
「いえ、良い機会ですので木の術を見させてもらおうと思いまして」
「そうですか、術で決めると?」
「はい」
ユッミルの前にはいくつかの植物と女性術師が並ぶ。目的が目的だけに若い女性が大半である。植物を使って術を使っていくが最後に使用されたソヨッハの術は明らかに一段上であった。
「はい、ソヨッハさんで構いません。お手間をかけました」
「分かりました。ただ、ソヨッハを冒険者仲間として気に入ったのであればお供は別で用意しますのでお気軽にお申し出下さい。その場合、ソヨッハは寝泊まりまではしない事になりますが」
「ええ、分かっていますよ」
ユッミルはソヨッハを家に帰すと塔に向かう。遅めの昼食をとる。今日は午後からネメッカは指揮所である。どうやらルーエをお供にしたらしい。ユッミルの斜め向かいの席にはイーサが座っている。
「ネメッカ様の今日のご予定は?」
「午後からは指揮所ですよ」
「その後です」
「何もありませんよ。ユッミル様以外に夜に会う様な相手はいません。ユッミル様が不在なので私が仕方なく相手をしていますがユッミル様の代わりは務まりません。分かっておいででしょう?」
「そうは言われましてもネメッカ様の真意は測りかねます」
「ではあなたはネメッカ様に一日十回好きと言いますか?」
「言いません」
「ネメッカ様も同じですよ。だからと言ってユッミル様に情が無いとは限りません」
「いえ、十回は言いませんが遠まわしにそういう事は言っていますよ。ですから意図を感じます」
イーサは一呼吸沈黙する。
「まあネメッカ様の場合、意図を口実にしているだけですのでお気になさらず。実際、ユッミル様が光の塔に来なくなっても今度はネメッカ様が追おうとするでしょう。現に前回はそうなりました。ただ、そうなると光の団としては痛手です。あの時は私にしわ寄せが来ました。」
「ですがその行動自体は光の団の為。少なくともネメッカ様にとってはそうであった筈です」
「それも無いとは言えませんが雷撃の男に色めきだっていた面は否めない」
「だとしても術目当てです」
「ですがあなたがその術を失う事は無いのですからそれも含めてあなたですよ」
「それはそうですが」
「あなたはその術で実力があるので他の団の女性と交流する機会はそれなりにあります。団に所属しない人はそれなりにいますが団に所属する人の方が優秀です。では団に所属しない人に意中の異性でもいるのですか?」
「まあいませんが」
「ネメッカ様は良い相手だと思いますが」
「ですから重ねて言っている様に私自身はネメッカ様に不満は大きくありません」
「ではネメッカ様に見合う相手が団内にいると思いますか?」
「分かりませんが難しいのかもしれませんね、私も含めて。」
「団に所属しない人と変身して交流していますがその状態から真剣交流したいと思いますか?」
「いえ、分かっていますよ。他にいないからでしょう。だから不安なのです」
「他にいないはきっかけなんですけど信じて頂けない様ですね」
「あなたはネメッカ様ではない」
「分かっていますよ。しかし、ネメッカ様と交流する際に優位な位置にいるのは確かなのですから上手く行く事を何も不思議に思わなくて良いのでは?」
「分かりました、今日はイーサ様の口車に乗せられておきます。この後、暇なので間食にお付き合い下さい」
「構いませんが」
「イーサ様にお菓子を餌に説得されたから一緒に寝ると言わせて頂きます」
「ネメッカ様はまず夕食なのでルーエ様を交えて夕食の為にお待ちするという事でしたら構いません」
ユッミルとイーサは間食後、イーサの仕事を手伝いつつ、夕食の時間を待つ。
ネメッカの帰還が近づくとユッミルとイーサは塔の前で待つ事にした。
「ユッミル?ユッミルがお出迎えなんて珍しいです。」
ネメッカはユッミルに近づいていく。
「ルーエ、悪いけどメシャ達に夕食を作ってきてくれないか?」
「分かった」
ルーエは深く頷き、足早に家に向かう。
「もしかして今日はこちらに?」
「宿舎に泊まる予定でしたがイーサさんがネメッカ様の部屋はどうかと提案されまして」
「喜んでお受けいたします」
「分かりましたがまずは夕食を食べましょう」
「そうですね」
「私はこれで」
「何を言っているんですか?一緒に食べますよ」
「この期に及んでまだ…」
「食堂で何か起こしても良いと?」
「そうですよ、イーサ。あなたがいないと待てなくなりますからいなさい」
「分かりましたよ」
三人は夕食を共にする。イーサは別室に退き、ネメッカとユッミルはネメッカの部屋に一緒に入る。
「あの、今日はネメッカ様に私の誠意を見て頂きたいので初回の様な行為には及びません。もちろん、これからもという事になれば覚悟頂く事になりますが今日は急ですので」
「ユッミルこそ覚悟してもらいますが今日は私も理性を見せて我慢しますがそれ以外は我慢しません」
ネメッカはユッミルに見せつけるようにさっさと薄着に着替え、布団に入る。ユッミルとネメッカはただただ顔を近づけて抱き合って眠りについた。
翌朝、ユッミルはソヨッハを迎えに行って森で狩りをする事にする。
ユッミルはかなり気が抜けているがそれでも歪曲視野で事前察知して狩っていく。ソヨッハが毛皮を処理しようとするが手が間に合わない。ソヨッハはユッミルに回復術をかける。
「ユッミルさん」
「ソヨッハ?何かした?ええ、少し変でしたので術を使いました」
「ああ、狩りすぎたね。処理を手伝うよ。ただ、全ては無理かな。それより君の術を実践で見たいからもう少し奥に向かおうか」
ユッミルは大量の毛皮を抱えて急ぐ。
「あの、それで戦うのは危なくないですか?」
「奥と言っても威力を高めた中級術で一撃だから動けなくても問題は無い。」
「分かりました、ユッミル様は複数の獣が来た場合に妨害をお願いします。倒されると試す事になりません」
「それもそうだね」
ソヨッハは木の術で手足を一時的に伸ばして少し長い剣で奥地の獣を数体仕留める。血が散ったので毛皮の状態は悪くなったが討伐自体は成功し、大量の毛皮で注目を浴びながら集会所で売って家路に着く。
最後まで読了頂きありがとうございました。次の投稿予定は未定です。