15章 拡張される仕事
余計な情報を排除する為に殊更場面転換を明示する事は致しません。会話の間の表現を重視し、詰まりの無い会話はそれに応じて発言が連続します。発話者が分かりにくい事も多々ありますがご容赦下さい。その代わりに「」の鍵括弧を一纏めとして同一人物の発話が描写を挟まずに連続する事はほぼ排除しております。
また、多少前後している事もありますが描写は時間順となっております。
1節 優秀な光術師
「ユッミルさん?その子は?」
「うちの事務所の周りを姿を消して探ってた子ですね。事情を聞こうと思いましたが冷静でなかったので眠ってもらいました」
「ユッミルさん」
「はい、軽率でした。少々考えが足りませんでした。反省してます」
しばらくして少女は目を覚ます。
「ここは?えっと」
少女は服を脱ぎ始める。
「ん?」
「お金はこの通り持っていません。ですけど殺さないで下さい」
「ユッミルさん、この子に何をしたんですか?」
「反省はしてますが後にして下さい。さて、そんな事より何故うちの事務所を探ってた?」
「それは同業者は気になるからですよ。」
「探偵か。言っていいのか?」
「ええ、どうしようもないですしごめんなさい。その服だけで許して下さい」
「まだ話は終わっていない。私は優秀な光術師を探している」
「私はあなたに完敗した弱い術師です」
「弱い光術師は姿を隠せるからって裸で帰ったりはしない。相当の自信だね」
「はっ。でも仕方ないからです。それで許して下さい」
「許すも許さないも優秀な光術師を探していると言っている。仕事の依頼でむしろこちらから報酬を出す」
「嘘で騙す気だと思うので私は帰ります」
「じゃあ帰さない。もう少し話を聞いてもらう。それに手付け金位は出すし食事も食べてくれて構わない」
「帰ります」
「探偵業は上手く行っているのか?」
「ええ、暇ではないですよ」
「その割には服がほつれているが」
「服装は気にしないので」
「けど探偵は依頼者に会うのだからその服装はまずい。つまり、君は依頼を直接受けてはいない」
「そうです。けど十分な報酬はもらって…ます」
「貰ってないんだね」
「そうですよ。だったらどうなんですか?放っておいて下さい」
「だからこっちはちゃんと報酬を払うよって誘ってるんだよ」
「だから信用できないって言ってます」
「多少の金は先に渡しても良いけど?」
「困ります、帰ります」
「やはり普通の事情ではないんだね?」
「最初から分かってたんですね。もう良いです、好きにして下さい。けど気が済んだら解放して下さい」
「事情を答える気は無いの?」
「答えてどうするんですか?」
「答え次第だよ。やって欲しい事があるからね」
「貧乏だからです」
「貧乏なら報酬を聞いてから判断するでしょう」
「もう分かってるんでしょ?私のすべてを見透かして敢えて言わせる。嫌な人」
「弱みを握られてるとかかな?」
「借金ですよ」
「けどそれにしても報酬を聞かないのはおかしい」
「もう顔も全て見られましたし言います、言えばいいんでしょ、この意地悪なお兄さん」
「意地悪ではないのだけど」
「事務所の手伝いは借金返済なんですけど報酬のうち少ししか返済として認めてくれません。食事は向こうが用意しますけど少ないです」
「半永久的にやりたいのか」
「そうです。だから事務所の儲けを手放さない為に私を仕事から解放する事は無いです」
「借金の肩代わりの額では満足しないか。何の借金なの?」
「色々ですよ。大半の借金を作った父は返済で揉めて殺されました」
「家族か」
「そうです。母は怪我で働けないのにただで色々やらされてます。妹や弟は使えないので殴られてます。どうしようもないので気が済むまでやったら諦めて下さい」
「君の事は殴らないよ?」
「そうじゃなくて。でもそこのお姉さんもいるしその価値すらないという事ですか」
「だから光術師として色々手伝って欲しいだけだよ。価値は無いとは言ってないよ。」
「ユッミルさん、それはどういう」
「大人に近い女の子に実際に見てるのに嘘は付けないよ」
「それなら一度やって終わりにして下さい」
「だからそれ以上に優秀な光術師が必要と言ってる」
「ですが話は聞いたでしょう」
「家族、連れ出せないの?」
「無理ではないですがその後は当てがありませんから」
「それは問題無い」
「もう良いです。私の体を好きにして不満なら蹴って捨てて良いですから」
「君を買うのは駄目なの?」
「ですから」
「そうだね。そいつらの目的は金でしょう。で、そいつは君が不在でもどの程度なら気にしないの?」
「調査は夜通しもやりますし二日でしょうね。ですけど一度戻ってもまた来れますよ」
「心配だがやむを得ない。明日朝、戻る位が自然か?」
「そうですね」
ユッミルは急いで事務所に向かい、レミーカに事情を話す。また、急いで無性の家に戻る。
「私は何をすれば?」
「まだないよ。さて、昼食にしますか」
レヒーハは昼食を作る。
「そう言えば君の名前は?」
「ヒージュ」
「本当の名前は?」
「ごめんなさい。チェーハです」
「もう良い」
ユッミル達は昼食を食べる。
「こちらを手伝ってもらうのも手か。君には手伝って欲しい事はいくつかある。明日以降…背中のそれ…」
「もちろん、普通に傷ですよ。良い扱いを受けてる訳ないでしょう」
チェーハはぎこちない苦笑を浮かべる。
「ユッミルさん、良いですか?」
「少しお待ちを。どうぞ」
「これからどうするんですか?」
「この子はどうやら奴隷の様な扱いだった様です。それを急に解放して暴走されても困ります。ゆっくり正常に戻します」
「ユッミルさん、心配です」
「大丈夫ですから」
ユッミル達は夕食を食べ終える。ユッミルがレヒーハと風呂を終えるとチェーハが裸で立っている。
「私から先回りして用意させて頂きました。その誠意を評価して頂けると幸いです。奥様とをご希望でしたら遠慮なく拒否して下さい」
ユッミルは誘惑に完全敗北した。チェーハは思ったよりは丁寧に扱われたのでましな飼い主だと判断した。
朝、チェーハが一度戻り、ユッミルは塔に向かい、ネメッカに新しい側近の獲得の成功を報告した。実力者で当面は指揮所の幹部担当だけしか了承が取れなかった旨を伝える。ユッミルはその足で事務所に向かい、依頼の内容をレミーカに確認する。その下調べを終えると無性の家に向かう。指揮所の件を伝達すると家の方に帰る。
リュッサに伝音で話し掛けられる。
「少し良いですか?少しだけ近くに来て下さい」
ユッミルは周囲を見回し、シャーユの手を引き、シャーユと遊びながらリュッサとの伝音で会話していく。
「どうしました?」
「無性の街で堂々と姿を隠す術を使う優秀な術師を捕まえたそうですね」
「軽く追い掛けてこちらの実力をご理解頂いて交渉しましたよ」
「その術師を追っかければ逃げますよね?並の術師はともかく優秀な術師の捕捉はユッミル様といえど困難でしょう」
「一度高速の術で奇襲して後は状況を利用した浅知恵ですね」
「何をしたんですか?」
「雨だね」
「雨?」
「はい、光術師は自分のいない風景を投射しますけど流石に雨の流れを永久に追随して連続で投射するのは現実的ではない。だから雨が止まってる場所に当たりを付けました。まあ咄嗟だったのもあってそもそも雨が抜けてましたね。途中でこちらを見失ったので簡易的な術に変化して後は先回りしました」
「そうですか。私には縁遠い話ですね。ところでユッミル様が本気で逃げた場合、ネメッカ様は運よく近くに行ければ捕まえられますか?」
「まあそんな状況は永久に無いと思いますがネメッカ様への攻撃が不可であっても無理でしょう。逆に私が捕まえられるかでいえば難しいですが無理ではないと思いますよ、傷つけずに捕まえるという意味でです」
「やはりユッミル様はネメッカ様の評価が高いんですね」
「ええ、それはそうですよ」
ユッミルはその後、シャーユを連れてリュッサとユンルクと遊ぶ。しばらくしてケーシャ母子も加わる。
昼食を食べるとユッミルは無性の家の様子を見に行く。チェーハはおらずすぐに戻る。戻るとネメッカがいる。
「ユッミル、やはり探偵業が忙しくなってますね」
「ええ、長丁場の依頼もありますし。ですけど軸足は戻していきますから」
「気長に待ちますよ」
ネメッカはネミークの世話もしながら器用にユッミルに甘えていく。リュッサも近くに居て話自体には交っている。ただ、夕食後はまたシャーユに話しかけていく。ユッミルからすればシャーユの反応は良くなっているらしい。夜、密かに抜け出して無性の家に帰るとチェーハが戻っている。どうやらこういう事態は発覚していないらしい。
「さて、これからですが」
「調査で数日帰らない状況は作れましたよ」
「そうですか。でしたら30歳位の光の団幹部の女性冒険者として指揮所下の北の大通り付近で待機願います」
「分かりました。明日ですね?」
「はい、明日の深夜です」
ユッミルは家に戻る。ネメッカの敏感さを警戒してシウの寝床で寝る。
翌日、前の依頼に伴う調査をしながらも次の依頼にも着手する。依頼内容は依頼主の思い人の恋人である。少しユッミルは疑ったが断る理由も無く調査を始める。簡単かと思いきや依頼主の思い人はどうやら文通相手らしい。辛うじて手紙の行先は捉えたがその屋敷は複数の数人以上の子供がいてしかも三世代いる。即日、潜入の追加を提案した。
ユッミルは無性の家に寄る。
「チェーハ、昨日も言いましたが確認です。君はネメッカ様より少し上程度の女性として光の幹部に入団している。北に延びる大通りには他の団の幹部がいるので彼らの様に草原を偵察しておいて下さい。魔族襲来時には攻撃を加えて構いません。ある程度戦闘したら塔に報告に行くのが慣例ですがこの家に帰還して下さい」
「分かりました。連絡はリュッサさんから受ければいいんですね?」
「ええ、ネメッカ様がいたら撤収して構いません。あの人は騙せません」
「そうですね。私も知っていますがあの人は色々な手を持ってますね。実力は主宰さんの方が明らかに上らしいですが主宰さんはまだよく知りません」
「あの人は忙しいですから」
「ですが多くの女性と暮らしているとか」
「そうらしいですね。ただ、多くの女性の相手をしていると忙しいのでは?」
「そうですね。興味深い人です」
その日の夕方、チェーハは早目の夕食後に大通りに向かう。
「やっとですね」
「申し訳ない」
「そうです。どうするんですか?」
「早く普通に戻したいのはやまやまですが成果を上げてもらってこじつけないといけませんし居てもらう為に最低限の信頼関係も必要です」
「私はいつ戻れるんですか?」
「そうですね。交代要員を確保しましょう」
ユッミルは早めに仮眠する。深夜、チェーハを出迎える。チェーハは少しだけ食べるとすぐに眠る。夜明け前、ユッミルは無性の街を歪曲視野で観察する。
「この時間でもないか」
人はまばらだ。いるのは特に怪しい様子も無い散歩する老人や仕込み等で慌ただしく出入りする人影位である。夜明け頃には家に戻り、朝食を支度する。レヒーハを起こして朝食を食べると家に帰る。シウの布団に入って眠る。
「シウさん、服を着ないのは別に構いませんが理由が分かりません」
「やはり同じ手は二度食わないと?」
「そうなりますね」
「でもまあこれ位はさせてもらうけど」
シウはユッミルを優しく抱きしめる。昼食後、ユッミルは光の塔に少し寄って無性の街も見回るが成果は無い。無性の家に行ってチェーハの様子を見てから火の塔に向かう。エコを呼び寄せて無性の家に向かう。
「ユッミル様、何をやってるんですか。後々、面倒そうですね」
「どうにかしますよ」
とりあえずレヒーハを家に帰らせる。ユッミルは途中で引き返すと無性の家に戻る。
「チェーハ、明日は調査の手伝いをしてもらう」
「分かりました」
ユッミルはチェーハと風呂に入って一緒に寝る。未明にはチェーハを調査に向かわせる。
「ユッミルさん、また側室ですか?」
「そんなつもりはありません。信頼関係は必要です」
「仲良くすれば信頼なんて簡単じゃないですよ」
「まあそれもありますが今回の信頼は私は少しは気に入られてるという信頼ですよ。打算も信頼に繋げる事はできます」
「それだけですか?」
「いえ、チェーハは良い子ですからこちらの半分は打算では無いですよ」
「でしょうね。ですけど上手くしないとまずいですよ」
ユッミルはエコと朝食を食べると木の塔へ行く。
「ソヨッハさん、変装を僕にもしてくれませんか?」
「良いですけどどうしたんですか?」
「流石に魔力の消費が気になりまして少し無性での仕事の方が増えてますので」
「分かりました」
ユッミルは髪色と質感をルカロの方に変える。昼は家で昼食を食べてレヒーハとエコを入れ替える。エコと家に帰る。エコとシャーユやユンルクの面倒を見る。ユンルクはリュッサが塔やレミーカの帰宅手伝いに行く時は留守番の事が多くなる。シャーユとユンルクは母親が留守が多く色々な人が世話している。
「ターヒョさん、仕方ないので今日してあげますよ。まあシウさんのついでですが」
「何よ、その言い方」
「あれ?したくないなら構わないですけど。それとも理由を白状しますか?」
「好きにすればいい。胸を口に突っ込んで入り切ったか小さい胸だな、その上まずいとでも言って笑えばいい」
「ターヒョ、君は何を言っている?それは冗談か?」
「シェンハ様はユッミルの女の扱いはあっさりしてる等と言ったがきっと実際は難癖をつけて適当に選り好みしてるんだろう」
「それでやるんですか?」
「ああ、別にいつも通り適当に手を出して捨てて構わないよ」
「シェンハさんに言いつけて抗議させるのですか?」
「そこまで唆すつもりはありません。報告して夜営等を思いとどまって欲しいだけです」
「あっ」
「はっ。その…」
「夜営はこちらからも断っている」
「なっ、シェンハ様の誘いを」
「行けばいいのか?」
「そうですね。そう、悪いのはシェンハ様です。あいつはいつか折れるとか言って楽しそうに」
「えっ」
「勘違いするな。あなたとの修行を楽しみにしているだけだ」
「とにかく行く気は無いですから嫌そうだったと伝えてくれればいい」
「いえ、実際にやって私が代わりにどうなるかを体験してシェンハ様に伝えて思いとどまってもらいます」
「ですけどあなたが理由を自白してその理由もあれなのであなたにもさっさとお帰り頂きたいのですが」
「だったら胸を揉んで突き飛ばして使えない貧乳女はさっさと貧乳仲間のシェンハの所に引っこんでろ、その胸みたいになと怒鳴られたと言いますが構いませんか?」
「そんな事をすれば夜営の件を受けてシェンハ様のご機嫌を取ってあなたの嘘を暴きますが?」
「分かったわよ。けど実際にしてくれればあなたの少し粗暴な所だけ伝えてシェンハ様に思いとどまらせればと思っただけ。ここで何もしないとあなたはまた頼まれるわよ?」
「そうですか。つまり、これからあなたの体に意地悪をすればいいんですね?」
「そうね」
「なら早速来て下さい」
ユッミルはターヒョの体を触っていく。
「それで良いわ。早速、シェンハ様に報告できる」
夕食を終える。
「ターヒョさん、降伏しても良いんですよ。まだ足りませんか?」
「全く。来なさい」
「ねえ、ユッミル。私いるの?」
「不要だと思うなら別の日でも構いませんが」
「まあユッミルが良いなら良いけど」
ターヒョとユッミルは風呂に入り、そのまま寝床に向かう。
「どうですか?」
「やめ」
「やめましょうか」
「いや来なさい」
「じゃあ行きます」
一頻り終えるとシウの方に向く。
「シウさん、待たせてすいません」
「まあ良いわよ。それで私にもしてくれるの?」
「いえいえ、抱えきれない返礼は困りますから」
「あら?私はもうそこそこあなたに嫌われたくなくなってるから心配無いのに」
「シウさんはあれでは困りますから」
リュッサはもう寝ているがユンルクやシウの息子が寝付かないのでケーシャがあやしていく。ケーシャはユッミルとシウの姿も簡単な術で見えなくする。
翌朝、ユッミルは朝食を手早く済ませると無性の家に向かい、チェーハの調査結果を聞き、今度はユッミルが調査に向かう。夕方、調査結果をチェーハに伝達し、家に帰る。家にはネメッカがネミークを連れてきている。
「ネメッカ様、ネミークを余り振り回さない方が良いですよ」
「ユッミルが塔にずっといればいいだけですよ」
「いつも言っていますが苦情は側室を積み上げるイーサさんにお願いします」
「積み上げてるのは各団でこちらは上限を提示したまでユッミルに拒否権はあります」
「誰かを拒むんですか?」
「いえ、それは」
「そうですね。この話はやめましょう。ただ、漫然とネミークを外に出すのは無駄だと思っただけですから」
「でしたらネミークを森にでも連れて出ますか?」
「そうですね。それは良いと思いますよ。シャーユも一緒にしましょう。子守はネメッカ様に任せますよ」
「二人ですか?そうなると私は逃げられないんですがちゃんと守って下さいね」
「シャーユはそろそろ立てますし少しなら歩けます。近くにいますから急ぐ場合はシャーユは私が抱えます」
「いえ、剣で敵を捌いて頂ける方がありがたいのですけど」
「そこまで奥には行きませんしミーハもターヒョもいます。心配ならフェノやピュッチェも呼んで良い。ですがネミークは光の素養を秘めてる可能性が高い以上私達が術を積極的に使わないと意味が無い。」
「そうですね。ですがそうなるとやはり防御が得意な術師が欲しくなりますね」
「ですが中々そういう方は多くない」
「ええ、けどフェノさんに課題としてやらせるのは悪くないですよ」
「そういう事ですか」
「リュッサさん、悪いですが今日はユッミルの送りでテーファさんの家に泊まって下さい。ユッミルはフェノさんに用件を伝えて戻って来て下さい。テーファも役に立ちます」
「ファッリーユはケーシャ達に面倒を見てもらうから連れてこさせて構わない」
ユッミルはリュッサをテーファの家に送って光の塔でフェノに伝言する。
「ユッミル様、私と私の子も同行したいのですが」
「イーサさん、奥では無いとはいえ森ですよ」
「私は行っても行かなくても構いませんが息子は連れて行って欲しいですね」
「フェノ、赤子を抱えて戦えるか?」
「無理ですがユッミル様は可能でしょう」
「私も行った方が良さそうですね」
「そうですね。その方がましです」
「お礼に森で二人で夜営しても良いですよ。もちろん、ユッミル様は昼寝して私を好きにして構いません」
「イーサさん、二人目の子供を作る気ですか?」
「ユッミル様が望むなら構いません」
「いえ、あなたの希望を聞いています。とりあえず近い時期に望むかを教えて下さい」
「お願いします」
「でしたら、フェノ、先に子供を家に送って行っておいてくれ。イーサさんは脱いで下さい」
「分かりました」
「早い決断ですね」
「イーサさんはどうせ近々機会を設けるでしょう」
「ユッミル様、その私があなたに強要してるみたいな言い方はやめて下さい」
「それに近いでしょう。それで今回はそうならない為に今、するんですよ」
「早いですね」
「躊躇が欲しいのですか?」
「あの、抱くとか口とかもお願いできますか?」
「構いませんよ」
夜明け前、ユッミルは無性の家に向かう。
「チェーハさん、そろそろ仕掛け時ですよ」
「仕掛け時?」
「ええ、今から戻りますよね?」
「はい、そうですね。昼前にでも構いませんが」
「その際に仕掛けましょう。あなたは優秀な術者に捕捉されて勧誘を受けた事にして下さい」
「実際にそうですよね?」
「で、こちらが手付け金を提示している事にして下さい」
「それを彼らに?」
「はい。それで8万アークを渡して一割をあなたの借金返済名目として扱うか20万アークで二割を返済名目の二択を提示して来て下さい。返事は急かさなくて良いですよ」
「20万アークあるんですか?」
「あなたの給与前借り分を含めれば十数万は超えます。後、五万アークは最悪事務所の収入を借りれば余裕ですね。ですが多分、彼らは8万の方を選びますよ。後、伝言もお願いします」
ユッミルは夜明け過ぎに塔に戻り、ユッミルはイーサを背負って家に帰る。
「ユッミル、イーサとしたんですか?」
「はい」
「本当に困りましたね」
「申し訳ない」
「ああ、ユッミルは良いんですよ」
ネメッカはユッミルを抱き寄せる。
「ネメッカ様、申し訳ない」
「イーサ、流石に私以外まで生まれた傍から次の子を作ってどうするんですか。私は妻ですし五人産んでも問題無いですがあなたが四人産んでどうするんですか?その度に塔は大慌てです。困ります。それにもう三人も産んでしまえば流石に私もあなたとユッミルの関係に干渉する可能性も出ます。お願いですから控えて下さい」
「そうですね。ネメッカ様の意見に従います」
「私も気をつけます」
「だからユッミルは気にしなくていいんです。イーサが嫌なのに無理はしないでしょ?」
「はい、そのつもりです」
「それで十分ですよ」
朝食後、ターヒョも帰宅し、テーファとリュッサも来て森へ向かう。ミーハには攻撃の威力を下げる事、ターヒョには防御専念、フェノには護衛の課題を与える。ピュッチェも合流し、多数襲来時の足止めをお願いする。フーニャもユッミルの横で指示を待っている。
「ユッミル、私をようやく傍に置いてくれたね。気まぐれに体に触ればよい」
「横にネメッカ様が居る状況でフーニャさんを触る理由は無いでしょう」
「だがネメッカ君は赤子を抱いている愛する君が触るのは危険だ」
「そうですね。僕も赤子を抱えてるので手に余裕はないですよ」
「それはつまり、私から来いという事だな」
「構いませんが無意味ですよ」
「遠隔防御は得意じゃないのよね。シェンハ様にはどうせ敵わないし」
「他の団と組むならできた方が良いですよ」
「分かってるわよ」
獣が突っ込んでくる。ピュッチェの攻撃で速度を落とす。ターヒョの射程に入り、足止め防御が発動する。迂回で落ちた所にテーファの術で能力を落とす。ユッミルはシャーユを肩車に乗せ換えて光射と光点を使っていく。ネメッカも光射を使っていく。イーサも獣の速度が落ちると光点を使う。
「フェノ、光剣で切ってくれ」
フェノは迷い子の様に視界を失って彷徨う獣を切り落とす。ユッミルは少し遠めの獣に派手な光柱と光射で追い払う。
「どうしたんですか?」
「撤退ですよ。シャーユはともかく特に生まれたばかりのその子にはこれ以上は何も無いでしょう」
「それはそうですね。ありがとうございました」
森から出るとイーサ母子とフェノは塔に戻る。
「ユッミル、術と言えばシャーユやネミークに姿を消す術を見せればいいですよ」
「家に戻ってからですよ」
ユッミルとネメッカは時折姿を消しているがあくまで同行者以外から姿を隠しているだけで特に抱いている赤子から見えなくする事は無い。ユッミルはネメッカに言われるがままいくつかの術を使っていく。
「ネメッカ様もしないんですか?」
「そうですね。けど眩しいのは駄目ですから姿を消したり、髪型を変えてみましょうか。あまり全てを変えるみたいなのは参考になりませんから」
「さっきのは何だったんですか?」
「まあ良いでしょ、ユッミル」
ネメッカは髪の長さを変えていく。
一方でチェーハは借金先の男に勧誘された事と金銭の提示をする。
「は?何を捕まってるんだ、この役立たず」
「伝言された事を言ってるだけですから許して下さい」
「そんな事はどうでもいい。そいつとは手を切れ」
「ですがその人はいずれ君らはもっと悪い条件で縋る事になる。この破格の好条件を今のうちに呑んで置いた方が良いと言っています」
「は?どういう事だ?」
「私は探偵業の最中にそいつに捕まりました。技量は私より遥かに上です。探偵業を続ける限り、彼はまた私を捕まえるでしょう。あなた達が交渉に応じないとなれば力づくで奪いますよ」
「それは脅しか?お前、少し反抗的だな」
「彼は私を保護する事も視野に入れています。傷を増やせば彼を急かしますよ」
「なるほど、全部そいつの入れ知恵か。まあ良い。8万で手を打とう。おめでとう、お前の借金はたった8千アークだが減った。」
「ありがとうございます。お金を用意でき次第持ってきます。五日以内と言っていますが」
「まあ良い。とっとと取ってこい」
ネメッカは髪の長さを色々変えてみせる。
「そうなるんですね」
「ユッミルはどの位の長さが好きですか?」
「今の長さが見慣れててそれで良いですよ」
「ユッミルは私の髪には興味が無いんですね」
「そうは言ってませんけどね」
ユッミルはシャーユと話す。
「これはおてて」
「おーて?」
「おてて」
「おてーて?」
「そうそう、おてて」
「シャーは偉いね」
「シャーウ、えらー」
「ユッミル」
「ユッミウ」
「えっ。上手だね」
「メシャちゃん、ユッミルの名前は呼ばせたいみたいね」
「パパで良いでしょ」
「それはメシャちゃんに言いなさいよ」
「パーパ、メシャン。ユッミウ、メシャーン好き」
「ママはシャーユが好きだよ」
「マンマー、シャーウ好き」
ユッミルはしばらくシャーユと話しているがネメッカの手引きでネミークも加わるがシャーユほどはっきりは発音できないらしい。
「ネミーク、ユッミルよ。ママの相手をしてくれる人だよ」
「何…ん?」
「ユッミウ、乗せて」
「話したか?」
「話自体はさっきもしてたでしょ」
「そう言えば。シャーユがしゃべるようになったのはメシャとか」
「けどこれまではメシャーナちゃんの言った事を繰り返すだけだったし」
「そうですか、とりあえず」
ユッミルはシャーユを膝に乗せる。ユッミルはその後も話しかけてはみるが時折ユッミルの言葉を繰り返す程度であった。しばらくするとテーファも娘を連れて帰るというのでユッミルは家の近くまで送る事にした。テーファの提案で道中は娘はユッミルが抱く。ユッミルは無性の家に戻るがチェーハはおらず帰宅する。メシャーナは既に帰宅してシャーユの世話をしている。ユッミルは何となく母親不在の子を世話する癖が付いていたので母親が揃った現状は少し手持無沙汰になっている。
「ユッミル、たまにはこの子の世話をお願いできるかしら?」
「もちろん、良いですよ」
シウはユッミルに自然と近づいて子供と三人で至近距離を維持している。ユッミルはそのままシウの息子を抱きながら夕食を食べる。夕食後はネメッカが割り込んだのでシウは引き上げる。
「メシャ、シャーユと話したいんだけど」
「私に用は無いのね」
「いや、シャーユにいろいろ教えてるのはメシャだし。どう教えてるの?」
「ユッミルだよ」
「ユッミウ、ユッミウ」
「ユッミル、シャーユを抱いてみて」
「シャーユ、抱っこ」
「だっこ?」
「だっこ」
「だー」
「あまり上手く行ってない気も…」
「すぐには無理だよ。まだ生まれて一年位だし」
「それもそうだね」
「うん、それに本当にそろそろ歩きそうなの。ユッミル、手だけ離して」
メシャーナはシャーユの正面で手を動かす。シャーユはユッミルの方を見る。ユッミルは背中を軽く押す。シャーユはかなり前のめりで数回手を着くがメシャーナの所まで歩いていく。
「そっか、けどこれはこれで大変だな。シャーユは動き回れるって事だから」
「動く事自体は前から這っては動けたし変わらないよ」
「ネミークは這い回る事すらそこまで長くはできないのですけどね」
「ええ、それが普通だと思いますよ。弟ですしネミークはまだ生まれて半年程度」
「そうですけど努力は必要ですね」
「無理させたら駄目ですよ」
「もちろんです」
ユッミルはその後、ネメッカ母子とリュッサ母子と風呂に入るとミーハの娘を抱き、シウ母子とフーニャ母子を両脇にして寝る。ユッミルが朝起きるとネメッカは居ない。オーネからネメッカがネミークを光の塔に届けるようユッミルに伝言があったと言われる。ネメッカは指揮所の様だ。ユッミルは光の塔にネミークを届けると無性の家に向かう。
「交渉は成立です。どうしますか?」
「今日はこの後雨が降る。明日か明後日にしよう」
ユッミルはレヒーハを家に帰す。戻る途中で予想通り、雨が降ってくる。辛うじて濡れる前に帰宅する。
「お帰りなさい」
「これからどうします?」
「昼食はきちんと作るよ」
「昼食までは時間があります。お好きにどうぞ」
「まあ急がなくてもいいだろう」
「ですが奥さんはお帰りになるのでは?」
「やはり慣れているのだな」
「慣れ等は無いですよ、あの男は金にしか興味は無い。胸を無造作に殴られた事はありますが子供としか思っていない。実際に私の体つきはそこまでじゃないですしあなたは気安いですね」
「だがそもそも誘ったのは君だろう。気安いのは君の方だ」
「けど慣れてはいませんからあなたからお願いします」
2節 雨の合間
翌朝、ユッミルは火の塔に向かう。
「ユッミルさん、嫁探しですか?在庫は私だけですけど」
「違います。無性の街での新たな金稼ぎですよ」
「ええ、防衛線構築は元々雨季の雨を利用する気でしたから予定通りですね。ただ、魚料理は出店場所の確保が難航しています。強引な出店で無性の街の商人の客を露骨に奪う訳にはいきませんし」
「でしょうね。それでしたら何処かの塔から程よい距離はどうです?」
「それは分かりますが集客が見込めるかどうか。要するに稼ぎ過ぎず無駄にならない程度が必要で難しいのですよ」
「言いたい事は分かりますが完全に奪わないは無理ですよ」
「それは分かっています」
「でしたら私が先陣と反感を引き受けましょうか?その代わりに儲けは私が頂きますが」
「どういう事ですか?あなたは忙しいでしょう。それに火の団があなたを過度に優遇すれば火の団も無事には済みません。私を嫁にしても駄目ですからね」
「大丈夫ですよ。無性の街の中心街には出店しませんから」
「儲けは出ないと思いますよ」
「そこは何とかしますよ」
「分かりました。私の子供一人で手を打ちましょう」
「嫌ですよ。そもそもあなたも困ってるでしょう。その認識が無いなら何か気分が悪いですね」
「ユッミル様、せっかく取引で強要されたと言い訳できるお膳立てをしても駄目なんですか?他の女はどんどん受け入れるのに」
「どんどんではありません。同時に三人の線を超えるのは嫌なんですよ」
「でしたらマッラの任を解きますか?」
「分かりました。白状しますがあなたみたいな火の参謀と関係を持った等と知れればあらぬ噂が立ちかねません。嫌なのですよ、僕はネメッカ様の様な美しい女性に適当に転がされている位の評判が良いのです。賢い女性と戦略的に結んでいるという評判は嫌なのです」
「そうですよね、私とは評判を背負っても親しくするほどの情は無いですしね」
「分かってくれましたか」
「そうですね。情を持ってもらえるように頑張ります」
「無理だと思いますから後継者と他の思い人をさっさと見つけて下さいね」
「頑張ります。まあしばらくはあなたの警戒を解く為に大人しくするのも手ですね」
昼前にレミーカに事務所で会い、潜入の追加の了承が得られたので実行する事にした。他にも数件の依頼が舞い込んでいる。どうやら例の素行調査の評判が良かったらしく依頼相談が増えている様だ。
潜入を実行すると依頼はあっさり解決して相手は判明した。ただ、結果の通知は後回しにして家に帰る。
「お帰りなさい」
チェーハは寄ってくる。今日はエコがいる。
「ところでチェーハ、お願いがあるんだが」
「何ですか?」
「君は無性の街の少女を演じられますか?」
「えっ」
ユッミルは夕方前に家に戻る。
「フーニャさん、試験があります」
「どういう事だ?」
「実は光の団の引退者の子供を預かりまして丁度いい機会なのでその子を相手にいつも通りコーリャと接する様にお願いします」
「なるほど病気で逃げるのを許さないのだな」
「あなたの子供は連れていきます。その子には同世代の少女と赤子の弟もいると伝えていますのであなたの子は私が世話します」
「仕方ない」
ユッミルはエコに帰宅してもらう。
「ニーシャだよ。初めまして本当はもう少し休む予定だったけどお父さんが寂しいだろうから帰ってきたの」
フーニャはユッミルに寄っていく。
「初めましてニーシャちゃん。私はツッチェ、お母さんが止まりの仕事だからイーサ姉さんに言ってお兄さんの家に泊めてもらう事にしたの」
「うん、本当は僕だけで預かろうかとも思ったんだけど遊び相手は僕じゃつまらないだろうしね」
「ヌーグは僕が世話するから二人で遊んでおいて」
ユッミルはヌーグを背負いながらミルクを作る。
「ニーシャちゃん、お父さんを借りてごめんね」
「大丈夫。最近のお父さんは赤ちゃんの相手に必死だから。ツッチェちゃんも遊んではもらえないと思うよ」
「フーニャさん、ちゃんとして下さい」
ユッミルはフーニャに伝音しつつ、ヌーグを抱えてチェーハの方へ向かう。
「ツッチェちゃん、遊ぼうか」
「じゃあ今からこれを何処かに隠すから見つけてね」
ユッミルは振り返る。
「股に挟んで…」
「流石光の人、じゃあ奪ったら勝ちね。負けたら口同士でやってもらうから」
ユッミルは下の服を脱がせる羽目にはなったが紙切れは回収する。
「丁度いいしお風呂入ろう。皆で入るよね」
結局、二人はユッミルにくっついて甘えていく。チェーハは服を着たふりをして寝床でもユッミルにそのまま抱き付く。
「チェーハ、ちゃんとしろ」
「寝る時に何をするの?別に私を差し置いてその子とあなたが話しても私はむしろその方が観察できますよ」
「ですからあなたには同世代の子と接触するニーシャちゃんを知って欲しいのです」
「けどあなたがいるなら巻き込んだ方が誤魔化しは効くと思います」
「常にいるとは限らない」
「少し考えさせて下さい」
ユッミルは考え直す。翌朝、ユッミルはフーニャを家に送り、エコがいたので無性の家に送って家に再び戻る。
「フーニャさん、ニーシャちゃんを誰かに引き継ぎたいのですが」
「私は構わないが」
「実は昨日の子が引き継ぐ相手でしてコーリャちゃんとどういう交友があったのかを教えてくれますか?」
「構わないが細かい事はキリが無いぞ」
「それはそうですがまあ構いません」
「だが何故、一度帰した?」
「あの子の素性は気にしないで頂きたい」
「服を脱がせて胸を揉みながら脅迫してくれれば良いぞ」
「とにかくお願いします。日取りはまた伝えます」
ユッミルは無性の家に戻り、昼食時に引き継ぎをする事を了承させる。夕方前に家に戻る。ユッミルはターヒョを見つけると抱き込む。
「ちょっと」
「どうしているんですか?」
「いたら問題かしら?それに散々塩漬けにした癖に急に何?離しなさいよ」
「ですがここに居残る限り、側室ですが?」
「まあ構わないわ」
「まあ何となく分かってはいるんですがシェンハ様、どうでした?」
「聞くのね」
「ええ、聞きます」
「どういう事?話したら上機嫌だったわ」
「上機嫌では無く闘争心だと思いますが」
「そんな気もするわね。ってあなた何か隠してない?知ってるの?」
「それは隠してる事はありますが全てを言う義理はありません。そもそもあなたよりシェンハ様の方が怖いですからね。シェンハ様の機嫌を損ねずに諦めさせるのが目的ですからそれに反するのは意味が無い」
「分かったわ。でもあなたなら凌ぐ位はできるでしょ。シェンハ様もあなたに無用に嫌われたい訳でも無いでしょうし」
「ですがあなたは止めたいのですよね?偶発的な事を漠然と警戒しているのでしょ?同じですよ。あなたの策が通るならそれに越した事はない。」
「そうね」
「つまり、しばらく居残るんですね?」
「そうなるわね」
「でしたら少し相談があります。相談は森でしましょう。まあ今振ってる雨が明日も降り続けば延期ですが」
「どういう事よ?」
「獣狩れませんし」
「そうじゃなくて」
「ですから森で話します」
ユッミルはシウと風呂に入り、ミーハを縛るとさっさと寝る。ユッミルは早朝にフェノを呼び寄せて家に置くとまた出かける。
「あなた、誰を連れて…」
ユッミルはエッヒネとミューレを連れている。シェヒユスもいる。ユッミルはレヒーハを連れて無性の家に戻る。エコを迎えてまた家に戻る。ミューレやエッヒネも朝食の卓に着く。
「ここがあの有名なユッミルの家ね」
「初めてではないでしょう」
「けどここに招き入れたという事は私達も側室という事かしら?」
「いえいえ、基本はあの結婚式ですよ。あそこで式を挙げていない人はここには少ない。4人ですね。」
「まあそうですね」
「ユッミルさん、氷の未婚の使者を受け入れてますね。これは火にも未婚の使者の道は開かれ…」
「人数の上限の三人は超えていません」
「まあ良いです。今日は例の計画の話ですね」
「話は森に出てからですよ」
「あら?誰かに隠したいのかしら?」
「聞くまでも無い事でしょう」
ユッミルはメシャーナとシャーユにフェノ、ミーハ、ターヒョ、エコにミューレにエッヒネを連れて森に向かう。森に着くとフェノとメシャーナに獣の捜索を任せる。地面はぬかるんでいるのでまずミーハに水溜りを池の方に飛ばしてもらう。
「で、どうするんですか?」
「はい、このターヒョちゃんは獣の生血を採取しようとしてまして馬鹿だと思っていましたが自分達が食べるのではなく薄めて調味料に使うなら可能かと思いまして」
「なっ。それで私を」
「ん?とりあえず採算とれるようには見えないけど」
「ユッミルさん、そんな事で私を呼んだの?まあシェヒユスを世話してくれるから良いけどね」
ユッミルはシャーユとシェヒユスを抱きかかえている。
「それも含めてミューレさんにはご協力頂きたい」
「どういう事?」
「生血の使用を隠して味見してくれる人材を調達して頂きたい」
「ユッミル様、そういう事ですか」
「流石に普通にはしませんよ」
「あなた、自分や自分の子供には止めたのに人には食わせるのね」
「子供にはどっちにしても駄目ですよ」
「私も気づかなければ食べるかもしれませんよ?あなたが密かに混ぜても気づけないでしょう」
「まあ良いわ。私に生血を採取させたいのね」
「ええ、お願いします」
エコとエッヒネとミューレはぬかるみを乾かしていく。ユッミルはエコやミューレの方に向かう。
「ミューレさん、念の為に退路の方をお願いします。エッヒネ様はあちらの方をお願いします。挟撃になるかもしれませんが丸焦げにはしないで下さいね。ターヒョとエコは付いて来て。ミーハはエッヒネ様と同行願います」
「私、単独で動ける程の術師じゃないのだけど」
「分かってます。フェノを呼び寄せますから」
「シェヒユス、預かりましょうか?」
「確かにエッヒネ様の術を見せる方が良さそうですね」
ユッミルはシェヒユスをエッヒネに預けてシャーユを背負って小走りしていく。ユッミルはフェノに伝音でミューレを守る様に伝達し、メシャーナを呼び戻す。
「メシャ、挟み撃ちにするから向こうで待ってて」
ユッミルは退路側にメシャーナを待たせて迂回していく。獣はぬかるみで速度が出ない。
「エコ、この辺りはやめておこう」
「分かりました」
ユッミルは回り込む。比較的近距離で光点を打ち込む。ターヒョが足元を氷漬けにするとユッミルは雷装剣で地面から切り離す。ユッミルの雷装剣による切断とほぼ同時にターヒョが血を凍らせる。メシャーナの術で運ぶ。ミーハにも細かい部分からの出血を止めさせる。当然、獣はユッミルの術で隠しており、誰も気づいていない。火の塔で血を根こそぎ吸い出す。
「小さな切り口で的確にやったので血の損失がほぼ無かったとはいえこの量ですか」
「管理が大変ね」
「そうですね。今すぐある程度は使いましょう。食材をお貸し頂けますか?」
「そうね。待ってて」
ユッミルは血の配合量を変えたソースの試作品を作っていく。血が固まっても流動性を失わない、あるいは血が固まっても纏まらない程度の配合量を探る事にした。その観察は火の団に依頼してユッミル達も生血を持ち帰り、エコに調理させてばれない程度の配合量で感想を探っていく事にした。生血はミーハとエコとターヒョが管理する事になった。
夜はフーニャと風呂に入る。
「ユッミルよ、私は両手に赤子を抱える自信はあるぞ」
「フーニャさん、この家に女性が8人いるとします」
「まあいるな」
「その8人が毎年子供を産んだら三年後にはどうなります?」
「24人の子供だな」
「このままだと2年後にそれです。それは流石にまずいでしょう。一人目はともかく二人目以降は慎重にしますよ」
「つまり、シウ殿は特別扱いなのだな」
「かもしれませんね。フーニャさんは実力は十分なのですがね」
「まあ良い。そういう理由なら仕方ない」
ユッミルは風呂から上がるといつも通りミーハの服を脱がせる。
「ミーハさん、確認ですが二人目も望まれているのですか?」
「ラーハ様という点ではそうだし私も望んでるわよ。私は水以外の子だけど」
「ではやろうか、ミーハ」
「急ね」
「別の日にします?」
「ううん」
「イーサ、ユッミルが誰かに奪われてる気がするのだけど」
「ネメッカ様、五人以上の側室とその気になれば日替わりで寝れるんですから気にしても仕方ないでしょう」
「それにしても最近は来ないわね」
「そうですね。ユッミル様は忙しいですから」
「まさか飽きられてないわよね?仕事作って忙しい事にしてここに来ない様にして」
「ネメッカ様、心配しすぎです。別にあなたがあの家に行っても良い訳ですから」
「それにしてもユッミル殿、私には直前に釘を刺しておいてすぐに別の女とやるんだな。相変わらずひどい仕打ちだな。ヌーグよ、あんな男になってはいけないぞ」
「いえいえ、ミーハさんの場合、水術師であれば塔で世話してくれますから」
「ユッミル殿、ではここにいる赤子は水術師ではないのだな?」
「いえ、あの」
「やはり詭弁だったのか」
「違います。そもそもミーハさんは妊娠すると一度塔に戻りますし水術師の赤子はおそらくある程度の年になると水の塔に住み着きます。諸事情を考えるとミーハさんの場合、水側がもういらないと言うまでは水以外の赤子が3人位になるまではあまり関係が無いんですよね、負担的に」
「何か言い訳がましいな。まあいい、要するに私の魅力が低い訳では無いと取り繕っていると肯定的に受けておこう」
「それはそうなのですがあなたに慣れただけですけどね」
「相変わらず酷いな」
「あなたもでしょう。私を女をすぐ抱く男にしようとしてますよね?」
「事実ではないか。子供がこんなにいるのは君だけだぞ」
「それならここに住まなければ良い」
「君は何を意味の分からない事を言っている?そんな君の所にいるのはそれを求めているから。なのに君は私を中々抱かない」
「ですからそれは」
「それは分かっている。少し間を置こう」
「何かはぐらかされましたがもう良いです」
翌朝は夜から降り続く雨が降っている。昼前に雨が止んだと思えばしばらくしてネメッカがやってくる。
「ユッミル、かなり久々ですね」
「そうでしたっけ?」
「ええ、ユッミルと長く会わない間に二人目を授かりましたよ」
「ああ、良かったですね」
「ユッミルは嬉しくないのですか?」
「いえ、ネメッカ様は全く悪くないのですが子供が多くて世話が大変なのにまた増えるのはどうしても歓迎できないだけですから。まあ母親が妊娠しなければ問題は無いのですけどいずれはそうもいかなくなるでしょう」
「それは私も手伝います」
「けどネメッカ様は妊娠したんですよね?」
「大丈夫です。ユッミルがちゃんと正室である私に配慮して二人目の間を開けてくれてるでしょうし」
「ですが一人目はそうはいきませんしネメッカ様が二人目を産めばなおさらです」
「シウさんやリュッサに半年遅れで産んでもらう様にすれば大丈夫ですよ」
「お待ち下さい。その周期で永遠に生み続けるのはご勘弁下さい」
「永遠に産む。まあ魅力的ですがそこまではしませんよ」
「とにかく側室のペースが落とせるならネメッカ様も落としますからね」
「つまらないですが確かにその方がユッミルと長く戯れられそうなので我慢します」
「ありがとうございます。その為にも折を見てテーファさんともその方針を共有して下さい」
「良いのですか?テーファがやめようと言ってくるんですよ?」
「分かりました。強くは言わなくて良いです」
ユッミルは短時間だけ調査して無性の家に寄るがチェーハは出かけたらしく家に戻る。雨は降り続いており、ネメッカは帰る気配は無い。
「次の指揮所はいつですか?」
「昨日の夜に行って来ましたよ。次は明後日の午後ですね。雨季はラーハ様がたくさん来ますので若干頻度が下がります。それでユッミルは次に私が出かける日が知りたいのですね。邪魔ですか?」
「いえ、赤子の面倒をよく見てくれますしありがたいのですがネミークを放置して大丈夫ですか?」
「ええ、イーサが雨季は風邪を引くからあまり外に連れ出すなと言われまして泣く泣く置いてきました。ユッミルと遊ばせたかったのですけど」
「私も行きますから。あまり塔に二人共不在は良くないですから」
「ユッミルは心配性ですね。フェノさんもいるんですから」
「それはそうですが」
「それに最近は火の術師も居るんですよ。土の術師も増えてます」
「ああ、そうでしたね」
ユッミルはフーニャの子にちょっかいを出してみる。ネメッカはシャーユと遊ぼうとする。ユッミルはフーニャ母子を連れてシャーユの方に行く。結果、ユッミルとネメッカがヌーグとシャーユの世話を手伝いながら談笑する流れになる。
「メシャーナちゃん、シャーユちゃんはどう?」
「元気だよ。ユッミル以外に興味は無いけど」
「それはメシャがそう仕向けてるんでしょ?」
「父親に興味を持つのは当たり前。仕向けたりしてない」
「今は良いけどいずれはそれでは駄目になるからね」
「ユッミル、子供が増えたんですからあなたもシャーユばかりは駄目ですよ」
「それはそうなんですがリュッサさんは特に隙が無い。シャーユはメシャが土の修行に行って皆で見てるのでここの子という感じなだけです」
「ほう、では私が出かければこの子もそうなる訳か」
「フーニャさん、私がヌーグの世話をするという事はあなたと私は別の場所という事ですよ」
「そうだな。中々難しいな」
「フーニャさん、私ですらユッミルは好きな日に寝床に迎え入れられないのですから」
「そうなのか、だがそんな事を言うと君の地位を伺う子も出かねないぞ」
「そうなんですか、ユッミル」
「今の所は無いですよ。多少目移りしてもあなたの事を思い出せば大丈夫です」
「なるほど思い出ですか」
「そんな事は言ってませんよ」
「今年は休暇を取るのも良いですね」
「良くないです。子供が何人いると思ってるんですか。指揮所もあります」
「大丈夫ですよ」
ユッミル達は夕食にする。リュッサとミーハの親子を両脇にする。
「リュッサが横だと平和だね」
「シャーユちゃん、大人の食事に興味を持ってません?」
「まさか。まだミルクの時期でしょう」
「そうね、まあ食べ物としてじゃなく色んなものに興味が出てきてると思う」
「そうですね。時折動くものをじっと見たりもしますし少しずつ周りに興味を持ってますよ」
「それは楽しみだね」
シャーユやシウの息子は食事後もユッミルを見ている。
「どうしたの?」
「それはユッミルが常に術を使っているからでしょう」
「そうでしたね」
「ユッミル、無性の家での生活が本命なんですか?」
「そんな事は無いです。戻す機会がなくてですね」
「だと良いですけど」
翌朝、雨がやむとユッミルは調査に向かう。特に成果は無いが立ち寄った事務所でいくつかの依頼を確認する。持ち帰って検討する事にして無性の家に向かう。昼食を終えるとエコは戻りたいらしく送って戻ってくる。チェーハとユッミルは散歩の様に状況整理に無性の街を姿を隠して歩く。しばらくして夕方前に無性の家に帰り、夕食の支度をする。外は曇っており、微かに雨音も聞こえてくる。
「今回の調査は簡単なものが多くて良かったですね」
「継続中の調査はかなり厳しいけどね」
「それはそうですけど」
「それに明日以降は別件で忙しくなる。流石に一緒に調査なんてのは難しい」
「寂しいですね」
「悪いね。けどルカロさんも奥さんが外泊が多いですよね。私のせいですよね。ルカロさんもあれは強引でしたし」
「ああ、大丈夫だよ。光と木が良好な関係なのは知っているだろう?」
「そうですね」
「光の団や木の団の人に家で療養を手伝ってもらっている。妊娠しているから」
「えっ。そう言えばあの子はどうなんですか?生まれて余りたっていない子に見えましたが」
「そこそこ経ってるよ」
「そうですか。けど生まれても間を置かずにって事ですよね?」
「そうだね。そうそう」
「じゃあそういう事は好きって事ですよね?」
「まあそうだね。私もルカロさんとは大丈夫でした。私も偽物では接しませんから」
「そうだね」
ユッミルはチェーハを抱いて寝る。
翌朝も雨が降っている。夜に止み間はあった様だが本格的な雨季である。雨が降る中、ユッミルはターヒョを迎えに行ってから塔に向かう。火の塔で種を伏せた火の男性陣に試作の焼き麺を試食してもらう。狙う客層は男性だ。
「どうですか?」
「少し面白い味だな。いっそもっと濃くしても良いと思うぞ」
「ああ、それなんですがそれが二番目に薄いのでしてそれを主力にしようとは思っていますがより濃いのは出しますよ。加えて味を好みで足せるようにします」
「うん、それは良いと思う」
「商品名も決まっているのか?」
「はい、生血焼き麺ですね」
「なっ」
「肉入ってますよね?毛は取り除きますが肉に付いた血は必要以上には取らずに出す事になってます。いかにも冒険者でしょう?ですけどまあそんなのでそんなに量は入らないですけどね」
「面白いな。確かに商売で強い印象は大事だしな」
ユッミルは厨房の様子を見に行く。
「聞こえてたわよ、嘘を並べるのが平気なのね。結構な量の血よ?」
「嘘は言ってません。肉に直接付いた血はほとんど混入しませんよ、あなたが抜くんですから」
「頓智ね」
「そうかもしれません。ですがちゃんと生血焼き麺と言ってますし血の混入は宣言してます」
「それで私はここの料理番なのかしら?」
「最初はそうなりますが引き継ぎは必要でしょう。料理ができて口が堅い、こういう奇妙な事にも寛容…」
「随分難しい女ね。当てはまってる私が言うのもあれだけど」
「フーニャさんは料理ができない。シウもですね。ネメッカ様は寛容でない気がします。光の女性は全般的にそんな気がします。木の女性陣もですね」
「エコやミーハは料理ができないか」
「それと水に無用にこの事を注目させる必要は無い。エコさんですね」
「当面はそうだけど他にも欲しいわね」
「氷はどうなんですか?」
「氷は料理ができる子は多くない。私もそこまでだしね」
「そうですね。教えれば何とかなります。口が堅くて奇妙な事にも寛容であれば何とかいます」
ユッミルとターヒョは帰宅する。ネメッカもいる。
「分かりました。今日は塔に行きますから」
おそらく貴重な止み間であり、レヒーハを無性の家に送り届けてユッミルは塔に向かう。待っていたのはネメッカでは無くイーサであった。ユッミルはイーサの息子を含めて6人の子供に囲まれる。
「まあ構わないのですが生後間もない赤子はミルクを飲むのに精一杯で眠そうだったりぼんやりしてるだけですね」
「ユッミルさん、シャーユちゃんと比べるのはやめて下さい」
「それよりイーサさん、赤子の世話をすればいいんですか?」
「今はそれで構いません。時間は長いですから」
「数日でしょう」
「十分です」
「ただ、雨でも帰るかもしれませんよ?」
「それなら仕方ありません」
ユッミルはしばらくして夕方前には主導部屋に向かう。
「ユッミル、私一人より六人の女性と居た方が楽しいでしょうに」
「夜はまだですよ」
「夜に限った事ではありませんよ」
「ならネミークと戯れておきます。ネミーク、来たよ」
「ねー、きー」
「うん、きー」
「きー?」
「きーたーよ」
「きーてよ?」
「ママの事、分かる?」
「んー?」
「お話はまあいっか。よしよし」
「言い訳させて下さい」
「どうしたんですか?」
「ネミ、ユッミルだよ」
「ユッミリュ」
「ママはネメッカだよ」
「ママ、ネメッカ」
「ごくごくする?」
「ごくごく」
「ネメッカ様、まあ間違ってはいませんが」
「ユッミルもごくごくしてくれて良いんですよ?」
「ごくごくより抱かれる方が嬉しいですけどね」
「そうですか」
「今じゃないですしネミークのごくごくを邪魔する程では無いです。というかはだけたままですよ」
「そんな事を言う前にユッミルが直して下さい」
「夫婦でも服を着せるかはそれぞれです」
「相手の服を脱がすはよくあると思いますが」
「そういう時にはですけどね」
「日常的に相手の体に触るはあります。その延長線上ですよ」
「とにかくできません」
「別にやれとは言ってません。やっていいと言ってるだけです」
「そうですね」
ネメッカは今度は静かにユッミルに寄り掛かる。しばらくしてイーサが夕食に呼びに来たのでゆったりと食堂に向かう。
「ユッミル様。先程は赤子に個性が無いと言っていましたがありますよ。気が惹かれるものが違ったりします。ミルクが好きな子もいれば音に敏感な子もいます。抱っこで揺られるのが楽しい子もいますよ」
「いえ、そのイーサさんに警戒していて気が立っていただけですから気にしないで下さい」
「と言いつつイーサさんの息子…」
「イーサさんに任せてたら頭が良いだけの変な子になるかもしれません」
「ユッミル様、酷い。お詫びに裸で宿舎で待っていてくれませんか?」
「嫌ですよ」
「では風呂はどちらで?」
「ネメッカ様が嫌でなければ主導部屋と思っていますが」
「私は別に構わないわよ」
「ネメッカ様、今日はお譲り下さい」
「やはり何か予定があったんですね」
「ええ、服を脱がせても良いですし目の前で服を脱ぐも可能です。風呂の後はそのまま寝てくれて良いですよ」
「イーサさんもやってくれるんですか?」
「構いません」
「ならそちらに行きますよ」
「私もやりますよ」
「ネメッカ様はそんな事をしなくて良いです」
「ユッミル、それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味ですよ。ネメッカ様は夫婦ですからゆったり触れ合うのが良いんです」
夕食後、ユッミルは宿舎に向かう。
「まず、服をどう脱がすかご指定下さい。もちろん、一人ずつですよ。脱がしてる最中に脱いでおいては無しです」
「良いですよ」
「ではイーサさんは最後にしましょう。では脱がせていきますね」
「で、赤子はどうしたんですが?」
「二人で世話してます。予備要員はそこで寝てますよ」
「ああ、いつの間にか脱がされてましたね」
「この服、薄くないですか」
「ええ、ですが光術師の場合はその気になればどうとでもなります」
「そうですか。ではあなたは自分でお願いします。後、イーサさんは来て下さい」
「ええ」
ユッミルはイーサの体を触っていく。
「さて、逃げるなら今の内ですよ」
「何の話ですか?せっかくユッミル様の気を引けてるのに逃げる理由は無いですよ」
「そうですか。それは楽しみです」
3節 準備
ユッミルは次の女性を脱がすとちゃんと見る事を条件に二人に目の前で脱いでもらう。
「さて、イーサさんはどっちが良いですか?」
「私はどちらでもユッミル様のお好みで」
「では目の前で脱いで下さい」
ユッミルはじっとイーサを見つめる。イーサは脱いでいく。
「そんなに魅力的ですか?嬉しいですね」
「しゃべって誤魔化しても無駄ですよ」
「何を言っているんですか?けどここからはゆっくり位の方が楽しんでくれそうですね」
イーサは丁寧に脱いでいく。ユッミルは少し引き下がる。
五人の女性も寄ってくる。
「そう言えば私も脱いでませんでしたね。けど一緒に入るならどっちにしても目の前で脱ぎますよね」
「ユッミル様は光を使って構いませんよ」
「いや、良いですよ。よく考えれば側室ですし」
ユッミルはさっさと脱いでいく。
「さあ、イーサさん」
「ええ」
イーサとユッミルは触れ合って風呂を楽しんでいる。
「あの、イーサさんってどういうつもりなんですか?」
「どうしたんですか?」
「そのまま流れてやってしまいました」
「良いじゃないですか?」
「いえいえ、イーサさんは人にさせる人の筈です」
「ですけど自分でやった方が早いですし確実ですからそういう事でしょう。それにユッミルの事が分かって信用も生まれてると思いますよ」
「信用、何人もの女性を側室にする男を?」
「それを仕向けたのはイーサですからね」
「形式上はそうですけど実際には他の団の圧に押されただけでしょう」
「ですがその他の団の圧で影響を受けたのは主にあなたです。あなたのお蔭でこの団の風向きが良くなってるのを一番実感してるのはイーサの筈です」
「そう考える事もできますが慣れません」
「賢い女は警戒されるんですね。私は賢い女でなくて良かったです」
「ネメッカ様も賢いですがイーサさんは賢いだけの女ですから」
「酷いですね」
「そういう意味では無く色々ある中で一番の性質が賢いの女性ですよ」
「リッネ様も賢い女ですか?」
「そんな気もしますが分かりません。少なくとも警戒する理由は賢いからでは無いですよ。ネメッカ様はリッネ様と仲良くすれば嫉妬してくれるんですか?」
「嫉妬させて何がしたいんです?これでもユッミルへの愛情表現は控えめですよ」
「冗談です。そんな事をすればそれをきっかけに面倒な事になります」
「そうね。それより二度目の風呂でも入ります?」
「そうですね。ネミークも風呂に入れてあげたいですしね」
「私達は脱がせ合いましょうか?」
「ネメッカ様、私も慣れてきましたがあなたは十分美しいのですからわざわざ引き立てなくても良いですよ」
「慣れて来たのでしょ?丁度いいじゃないですか」
「たまには良いですよ」
翌朝、ユッミルはネメッカを誘って料理を作る。気分転換と食堂のメニュー作りの参考の為だ。ただ、ネメッカはユッミルを甘やかしつつ料理をこなしていく。
「ネメッカ様は器用ですね。私を可愛がりつつ作ってしまいましたね」
「ユッミルが甘え上手なだけですよ」
「そういう事にしておきます」
ユッミルは調理場の窓から無性の街を眺めてみる。特に変わった事は無い。朝食を並べる。15人分である。
「ユッミル、それだと分量が少ないですよ」
「えっ。」
「四人はまだ寝てます。それにお忘れですか、赤子は食べれません。後、二人の補助要員がいますから6人ですね」
「そうでしたね、赤子はそうでした」
しばらくして赤子達も降りてきて朝食を食べる。ユッミルはネメッカとネミークの世話をしている。しばらくするとネメッカを含めた数人が子供に乳を飲ませ始める。
「ネメッカ様はやはり魅力的ですね」
「揉むのは少しだけ待って下さいね」
「いえいえ、今は見るだけで十分です」
「よく分かりませんがお好きにどうぞ」
ユッミルは朝食後、主導部屋の向かいの養育部屋に子供を連れていく。そこにはイーサも寝ている。時折赤子は泣くが誰も起きない。昼前にイーサを含めた全員が起きる。ユッミルはネミークを抱いて食堂に向かう。
「イーサさん、今日は暇なんですか?」
「ええ、昨年ほどは忙しくないですしね。今年は休みを取らない事にしましたし」
「カノールの世話もありますしね」
「そうですね。それもありますよ」
ユッミルはカノールに瓶ミルクをあげている。
昼食後、ユッミルはいつの間にか眠っていく。
夕方前に起きると主導部屋に移動してベットの上でネメッカに膝枕されている。起き上がろうと手を付くとネミークがいる。思わず膝に戻る。
「器用ですね」
「起きたんですね。けど器用さでは何人もの女性と付き合うあなたには負けます」
「夕食の時間ですよ」
「ええ、雨はどうですか?」
「それを気にするのはそういう事ですか」
「ええ」
ユッミルは一回に下りて外を確認する。降ってはいて止む気配があるかは微妙だが深夜までは振らないと感じた。ユッミルは夕食を食べる。
「ユッミル様、私が生贄としてあなたの要望に応えますので雨季の盛りはこの塔でお過ごし下さい」
「相応の理由があれば応じますが基本的には応じられません。ネメッカ様が家に来て頂くのは構いませんが今年に限っては無性の家で過ごす可能性もあります」
「つまり、今年は私が来ても相手できないという訳ですね。悲しく雨に打たれながら過ごします」
「ネメッカ様、五日間ですよ。その気になれば会え…ないですけど五日です」
「まあ良いです。他の誰かと楽しんで下さい」
「テーファさんとはいつの間にか遊ぶかもしれませんけど」
「それはどちらの…まあ良いですけど寒季の盛りは外泊したいですね」
「ですが子供が増えてまだ小さくて手が掛かるときに行く必要は無いでしょう」
「ユッミル、子供減るんですか?」
「えっと」
「きっと増えますよね?」
「ネメッカ様、そんな事を言ってユッミル様が手控えては困ります。私達が手配します。ネミーク様は同行できる様にします」
「待て。旅行を了承した覚えは無いぞ」
「嫌なのですか?私はあなた方の為に寒季休暇を自粛しようと言うのに」
「そんな恩を売られても困ります」
「嫌なのですか?」
「場所によります」
「この辺りの旅行先は主に5つです。まずは中央の森、冒険者の宿の裏手に少し大きめの別荘風宿があります。次は川辺の小屋付きキャンプ。東方の霊族の湿地帯からの川の畔ですね。次は西の砂漠地帯との境界のオアシス化された宿ですね。ここは温暖で乾燥してますから雨季も寒季も嫌いな人を惹きつけます。次は南東の谷合のロッジですね。窪地なので視界は悪いのですが一人になりたい人には人気らしいですよ。最後は南の風の高原、年間を通して穏やかな気候で普通に安らげます。相場が最も高いですね」
「安い所で良いですよ。ネメッカ様の希望に合わせます」
「ユッミル、お互いに不満の無いよう相談して決めますよ」
「そうですね。それで構いません。まずイーサさんのお勧めは?」
「寒季ですので西のオアシスがお勧めです。値段は森より少し高いですがちゃんと休めます」
「あの、予算はどうするんですか?」
「あなた達二人の給与に上乗せした事にして払っておきます。私の分としても多少は出しますが」
「キャンプ系は安いんですか?」
「それはそうですがあそこは家族でせわしなく昼間は楽しむ所で女所帯のユッミル様には合いません」
「女所帯なのは分かってますが言わないで下さい」
「砂漠方向のオアシスで良いですがかなり先の話ですね」
「ですがこうしておかないとユッミル様は予定を入れかねません」
「分かりましたから」
夕食後、雨は上がりそうな天気だったがネメッカに強引に風呂に誘われる。ユッミルは最初は急いでいたが少しゆったり入った。その後、家に帰り、メシャーナや赤子達と軽く触れ合う。しばらくしてレヒーハとフーニャを連れて無性の家に向かう。
「流石に限界なのでチェーハに正体を明かします」
「やっとですか」
「申し訳ないです」
「チェーハさんに逃げられても私は困りませんからお好きにどうぞ」
「逃げると思いますか?」
「分かりませんよ」
「はあ、私は女児を演じていたと間接的に自白させられるんだな」
「私の指示、そう言えばいいでしょう」
「そうだな。側室として幼児言葉での共寝を強要されている事も自白しよう」
「フーニャさん、嘘は駄目ですよ」
「君もな」
「それは分かってますよ」
無性の家に着く。
「お帰りなさい。ルカロさん」
「チェーハ、ただいま。エコさんもありがとうございます」
「退屈でした。まあチェーハさんとの話は少し興味深かったですけどね」
「それでなんですがもう元に戻ります。チェーハ、実は僕は光の主宰のユッミルです。君を側近として勧誘します。元々周りをうろつく君と話をして勧誘する気だったがああなってしまった」
「側近?ユッミル?」
ユッミルは慌てて元の髪を幻術で再現する。
「こうですよ」
「でもそれ、幻術ですよね?」
「君と寝る事になったから髪色を変えたんだよ」
「まさか」
「フーニャさん、僕はユッミルだよね?ああ、家には五人以上の女がいてほぼ毎日女を入れ替えて両脇において寝るあのユッミルだ」
「フーニャさん、事実ですが家族を隣にして寝るのは普通です」
「つまり、光の主宰が次の側室に私を選んだと?」
「違います。あなたは光の術師として十分すぎる素養ですので私の側近に相応しい」
「側近?えっ、あまり目立つのはちょっと」
「もちろん、これまでの女術師の姿でも良いですよ」
「それならと言いたいですが色んな事で急に都合が付かなくなる事もありますよ」
「それは配慮します」
「どうしますか…」
「懸念や問題点は遠慮なく言って下さい」
「ユッミル様は私に何をさせる気なんですか?」
「基本的には塔では留守番と次に幹部としての指揮所下での待機。正式化すればいずれ幹部として指揮所にも出勤してもらいますがこれは相談ですね。もちろん、緊急時には戦っていただけると助かりますがそこは判断にお任せします」
「それだけですか?」
「後は今、家に子供が多いので時折子供を見守って頂ければ助かります」
「ああ、噂は本当なんですね」
「噂?」
「ええ、子供が十人いるとか全ての塔に子供がいるとか毎夜してるとかですね」
「家には十人はいないですし全ての塔にはいませんよ。毎夜は無理ですよ」
「でもそれに近しくはありますよね?」
「ええ、否定はしません」
「私はどうなんですか?」
「チェーハさんが希望しないなら我慢しますよ」
「分かりましたがその必要はありません。もういるかもしれませんし」
「えっ」
「やってしまったのですからそれはそうでしょう。話はお受けしますよ。ただ、ネメッカ様の指示は受けません。ユッミル様が世話して下さい」
「分かりました。ただ、私の判断でネメッカ様を優先する事は多々あると思います」
「ユッミル様の行動は好きにして下さい。ユッミル様が私に少々相手してくれなくてもそれは構いませんがネメッカ様の雑用はしたくありません」
「そういう事ですか。理解しました」
「まあネメッカ様は特定の人物に雑用を押し付ける人では無いですが配慮します。そうなると塔にも子供はいますがその世話に参加はしない方が良さそうですね」
「塔で新しい仕事をするかはユッミル様が居る時にしか交渉しません」
「分かりました」
チェーハはその後、お世話と称してユッミルの上半身を洗う。無造作に体に抱きかかる。横目で見ていたレヒーハは開いた口が塞がらなくなりそうに地味に驚いている。
「チェーハさん、もう良いですよ」
「いえ、側近はお世話係ですから」
「毎日するの?」
「風呂の時間帯にいるならですけど」
「毎日はほら、チェーハの負担だし他の女の人も相手しないといけないし」
「分かりました」
「じゃあ今度は僕が君を洗うよ」
「そういう事ですか。本来、手下の世話は仕事だけで十分ですけどしたいなら構いません」
「うん、そうだね」
ユッミルはチェーハの上半身を優しく洗っていく。洗われた時より落ち着いている。
「私は娘じゃないんですよ。さっきは上手く行ってたのに」
「チェーハには良い部下になって欲しい。是非、存分に力を発揮してくれ」
「やりますよ、やりますけど」
「心配しなくても風呂の後は着なくて良い」
「なら良いですけど」
「それとは別の話として側近としても期待している」
「分かりましたよ」
「ユッミル、もう側近は確保したのに無性の街にまだ用事なんて」
「ネメッカ様、お忘れですか?あの、お金を」
「そういう事ですか。まだ依頼が来てるという事でしょうか」
「それはそうでしょう、ユッミル様の光系の術は相当です。探偵業に技能的にこれ程有利な事はありません。ユッミル様に少し安めの額で運営されたら他の業者は太刀打ちできないでしょう」
「つまり、金にはもう困らないと?」
「そうなりますね。ですから早くにさっさと捕まえたネメッカ様は大正解ですよ」
「ですが逃げられてる気もします」
「それでも二人目は大きいので大丈夫でしょう。いずれにしても永遠に高揚する様な愛は無理ですから今は少し抑えるべきです。」
「そうですけど心配ですね」
「まあ私も退団の心配をしていない訳では無い。あるいは実質退団」
「やめて下さい」
「言い出したのはネメッカ様です」
「そうですね。これ位にします」
翌朝、ユッミルは遅めの朝食を済ますと少し強めの雨が降る中、ターヒョを迎えに行く。少し子供とシャーユやミーハに声を掛けると生血を持ち出してターヒョと出かける。無性の家に寄ってチェーハとエコも合流する。ユッミルはチェーハに寄り掛からせながら雨を雷盾で弾く。ターヒョは氷の盾で雨を利用して雨を防ぐ。エコはターヒョの氷の傘に混ざる。
「こちらですね」
「意外と大きいですね。それに建物が複数。」
「ええ」
ユッミルが建物に近づくと声が聞こえてくる。ミューレらしき声だ。
「エコさん、僕だけ帰って良いですか?」
「ミューレさんが呼んだのはユッミルさんですよ」
「ユッミル、私はあなたとの結託だから仕方なくやるのよ」
「ユッミル様、側近ですよね。一緒に帰りますよ」
「そうですね」
「ユッミルさん、行きますよ」
「はあ分かりましたよ」
ユッミルが扉を開くと食堂のテーブルには従業員が座っている。十数人の女性である。
「ミューレさん、来ましたよ。何をしてるんですか?」
「従業員の指導です。確認事項は多いですから」
「女性ばかりですね」
「ええ、ユッミル様から男向けにすると伺っておりましたので」
「ですが雨季の盛りにする事は無いでしょう」
「あのですね。雨季の盛りは各団は配慮と称して出勤人数を絞り、アークの支給を減らします。雨季に塔に残るのは主宰や主導と関係が深い人達だけ。五日も休みで給料を減らされたくないという人は居ます。ここにいる人達はきっちり教育する代わりに最初から少し高い給与を出します」
「利益の出ないうちから大盤振る舞いは困るんですが」
「それは問題ありません。リッネ様もシーリュノ様も非常に協力的で客足が少なくなれば塔の受け入れを一時的に増やす事を了承いただきました。不完全ですけどね」
「えっと、つまりここにいるのは月や木?」
「火も居ます」
「ああ、塔で見た事がある人もいる気がします」
「へー、ユッミル様。火の塔に居座ってるんですね」
「そんな事はありません」
「ええ、悲しい事に奥に招待しても入ってはくれません」
「エッヒネ様の部屋には入りましたよ」
「ですが私の懐には入ってくれないですよね?」
「入りませんよ。良い予感がしませんし」
「まあエッヒネの方が女としては魅力的だろうな。女としても男としても魅力的なうちの主導には負けるが」
「月の幹部か?」
「側近が近い。まあリッネ様は側近を正式に持つ気は無いし一人で動くが幹部は居るし主導の指示を直に仰ぐ奴もいる。私もその一人だ」
「そうですか。リッネ様が協力的なのは朗報ですね」
「あなたの事は気に入ってますし当然ですよ」
「それは良かったです。ただ、その間違った幻想を失っても協力を続けて欲しいとお伝え下さい」
「それは構わないがあなたが出向けばいいと思いますが」
「遠慮します。必要なら出向きますけどね。そんな事より雨季の盛りという事は宿泊ですか?」
「はい、そうなりますね」
「残念ですね。今日はミューレさんのみだと思って期待していたのですが断られましたね」
「ですがこの店の店長はあなたで私は雇われ教育係。夜、話があると称して呼び出して難癖をつけて叱責。ただ、謝るしかない私を追い詰め、殴るから服を脱げと言って服を脱がして実際には襲ってしまう事も可能ですから呼び出して下さいね」
「つまり、普通に誘っても無理と」
「そんな事は無いですがユッミル様が貸しを作りたくないなら私の失敗を捏造して罰と称して私の体を使うのでかまいませんよ」
「そんな事はしない。ですがこんなにたくさんの女性がいれば好みの女性がたまたまいて襲いたくなるかもしれない。だから所属を教えてくれ。月の術師はリッネ様を怒らせないという意識があれば問題無いからね」
「じゃあ火の術師は襲うんですか?」
「いえ、ミューレさんの策にも乗りたくないので」
「ユッミル様、私はここだけの話、女ではない私の代わりに関係を作って構わないと言われているし実力のある男は好きだから構わないぞ」
「えっ。そういう事ですか。ですがこの五日では無いですよ。正式な側室ですら十日位は待ちます」
「なるほど、じっくりご機嫌を取れと。考えておくがこちらはそういうつもりで来てしまったから気が変われば構わない」
「ただ、少なくとも名前も分からない女の人には手を出しませんよ」
「そうだったね。私はヒレーネ。元は術頼みだったがリッネ様にあこがれて今や剣も振える」
「そうですか。確かに今、前衛は少し欲しいんですよね」
「そう言えばあなたは女性陣を引き連れて森で動いてるんだったな。そこへの参加、考えておこう」
「待って下さい。私もです」
「私も?」
「はい。その私は剣の腕はまだまだですが術は使えます。ユッミル様のお傍に居る覚悟です」
「えっと、テーファさんより強いんですか?」
「いえ、幹部候補では無いです」
「それに僕がどんな人間か知らないでしょ?」
「それはそうですが」
「リッネ様は私と考え方が近い。実力も少しは近い。だから僕を過大評価する。リッネ様の評価が高いからと言って自分で確かめないのは駄目だよ。君なら普通の男も狙えるよ」
「ユッミルさん、それはどういう意味だ?」
「君、男に興味無いでしょ?」
「は?ユッミルさんは男じゃないのか?」
「察しが悪いですね。キッシャノさんの事は知っていますか?」
「もちろん」
「キッシャノさんよりはあなたの方が評価は上ですよ。ですがまだあなたの事は知りませんから予想です」
「よく分からないがそれなら良い」
「あの、その理論で行くと火の女は大体良いじゃないですか?」
「さて、何の事やら。ミューレさんは火の屋台骨。あなたに出産をさせる決断は私には重すぎます」
「出産ですよ、何とかなります。それに私は誰とも付き合うなという事ですか?」
「いえいえ、私は勝手なのでその責任を負いたくないだけですよ」
「そもそもユッミル様は地味に機会すらくれませんしね、難敵です」
「あの、私も構わないとは言ってますから」
「君、家には何人も側室がいてもう子供がいる女性も多い。普通の女性には無理ですよ。それにあなたが余程魅力的でない限り、こうやってこの子を可愛がるでしょう。」
「ユッミル様、不意打ちはやめて下さい」
「この子以外にもシウさんや当然ネメッカ様も来ます」
「ユッミル様、それではその辺の事情をよく知ってる私達火の術師が迫ったらどうします?」
「団毎の人数制限を盾に断ります」
「そうですね。ユッミル様をその気にさせる必要がありそうですね」
「そうよ、私は警戒されてるからあなた達に任せるわ」
「作戦会議は居ない所で済ませておいて下さい」
「火としては表向きは側室が増えても隠せますよ。少なくともこの四人は可能です。もちろん、私もです」
「ですからミューレ様はそういう問題ではないです」
「分かってます。私の場合、普通に我慢できずに襲ってもらう必要がありますね」
「ですから今日は一緒に寝ましょう」
「嫌ですよ。エコさんも居ますし」
「エコとはいつでも寝れるでしょう」
「そんな事を言い出せば寝る相手の数が増えすぎて困ります」
「一緒に寝ても駄目なら私が諦めるかもしれませんよ」
「いえ、それは期待していません。ですが今は従業員教育の続きをお願いします」
「仕方ありませんね」
ユッミルは諸事情が手伝ってミューレが従業員教育をする横手でチェーハと触れ合っている。それをしばらくした後にターヒョやエコも連れて施設を見ていく。
夕食には早い時間だがミューレがやってくる。
「そう言えばユッミル様が店長ですのであなたも指導をして下さい」
「それは構いませんがあなたがもう指導してしまってますよね?矛盾する指導の心配は無いですか?」
「基本的にはユッミル様優先ですよ」
「そうですか。まずは立ち会います。夕食後にしますね」
「いえ、夕食は遅くて構いませんのでそれはやめて下さい」
「そうですね」
ユッミルはミューレの指導内容を聞く。丁寧な接客を説いている。
「では私の話は一度切り上げてそろそろ真の店長から店の方針に基づく指導をしてもらいます」
「ミューレさんは多分、全員に似た言葉遣いを教育したんでしょうね。ですがより上手い接客があると思ったらやって構いません。明日以降実戦接客演習をやりますからその時に自信がある人はやって下さい。あるいはミューレさんの指導するやり方が難しい場合も同じです」
ユッミルはミューレや周りを見回すが特に変な反応は無いので話を続ける。
「ミューレさんは丁寧な接客を推奨していましたがお客さんを待たせるのも問題なのでいずれ待たせず分かりやすい接客を決めたいがその際にはあなた達の演習の回答も役に立つかもしれないので明日以降の演習では一度あなたの思う接客を披露して下さい」
ユッミルは店の内容を省略して簡略的に説明していく。それを終えると夕食を食べる事にする。ミューレや火の従業員が作った料理が振る舞われる。夕食後、ユッミルは従業員宿舎という名の寝室でチェーハ達と話をしている。寝室は二つの区画からなり、片方は数割の区画を占め、数人で寝れそうな大きな布団が二つ並ぶ。残りの大広間は一人用の布団が多数並ぶ。ミューレがやってくる。
「ユッミルさん、お話があるのでご一緒できますか?」
「ええ」
ユッミルはミューレについていく。誰もいないが風呂の脱衣所である。
「どういうつもりですか?」
「私は信用されていない、何か隠し事をしていると疑われていそうなのでせめて体だけでも隠していない状況で話そうと思いまして」
「誘いたいだけではありませんよね?」
「いえ、きっと誘う事を目指しても駄目なので今はそれはやめる事にしました。まあユッミル様の気が変われば対応はしますから安心して下さい」
ミューレは普通に距離を取って服を脱いでいく。ユッミルも風呂が無人である事を確認しつつ脱いでいく。ミューレは普通の女性であった。胸はネメッカやテーファに比べれば明らかに見劣りするがミーハや辛うじて膨らみがあるフーニャよりは大きいが少し控えめながらもきっちり綺麗な胸を抱えるシウより少し小さく、エコやターヒョと同程度である。シウの事を思い出せば耐えれそうだと確信する。ユッミルは落ち着いて普通に店の話をする。
「基本的には収益の2割をこちらがもらって従業員の給与を支払います」
「足りるんですか?」
「従業員の方が足りない可能性もあるので光の女性を連れて来て構いませんがその給与はそちらでお支払下さい。私はこの店で利益を得るつもりもありませんが損失を過度に負う気もありませんし過度の人材も提供はできません」
「それで構いません」
「つまり、客が少なかった場合に従業員の投入を減らしてくれるという事ですね?」
「はい、ですが繁盛した場合の回転率を上げる程の従業員は出せませんし2割はお願いします」
「まあ過度の負担には限界がありますしね」
「ですが私を側室にした場合は火から五人追加します。加えて従業員を側室にした場合もその数は補充します」
「あの、ミューレさんはともかく従業員を側室ってしませんよ」
「いえいえ、今その気は無くても子供の人数が増えたんですから家事のできる側室が欲しい時にこの店の心配をして躊躇する必要は無いですよという話。ただ、本人の許可はあなたが取って下さいね」
「当たり前です」
「とにかく制約を掛けないだけで促してはいませんよ」
「そういう事にしておきます」
4節 泊まり込み
ユッミルはミューレと話しているが途中で物音に気付く。歪曲視野で確認すると五人の女性が服を脱ぎつつある。
「あれはミューレさんの仕業ですか?」
「私は一時間ほど話すので風呂には入らない様に言いつけただけですよ」
「つまり、私をここに呼びだすとわざわざ言ったんですね?」
「そうとも言えます。申し訳ない」
「まあ良いです。チェーハ、来てくれ」
「はい、ユッミル様」
ユッミルはチェーハを抱き込む。
「ミューレさんの思惑は通じませんよ」
「ユッミル様、いきなりは困ります。言ってくれれば良いですから」
「後ろを見て。緊急事態だから仕方ないんだ」
「えっと、まあおかしな事態は起こってますね。気遣いのできない女の人達です」
「そうだね。僕がいると分かっていながら入ってくる」
「酷いです。仲良くお風呂に入ろうというだけなのに」
「そうですよ、シウ様がいると分かってますから側室を狙うのは厳しいのは分かってますよ。ミューレさんの誘いを断るあなたが簡単に私達程度に靡くとは思ってませんけど遊び相手位はしてくれないんですか?」
「残念だけど今は新しい側近と仲を深めるのに忙しい。後にしてくれないか」
「それなら勝手に横に居ますね。気が変わったらどうぞ」
ユッミルは数人の女性に囲う様に寄り掛かられている。一人分空いた適切な距離にミューレがいて他にも二人の女性が湯船に入ってくる。
「火の術師が多い様ですしやはりミューレ様の差し金でしょう」
「いえいえ、火の団ではあなたの評判は良いのですよ。エッヒネ様とシウ様の両方に好かれる人間は多くない」
「だとしたら勘違いですね。エッヒネ様にはそこまで好かれていません」
「好かれていない相手と組みませんよ」
「それはそうですが貴重な雷撃使いというだけですよ。ハースナさん等はまさにそれですし」
「私達はそうは思っていませんから言っても無駄です。適当に遊んでやればいい」
「その、チェーハは嫌だよね?目の前で僕が他の女を抱いてたりしたら」
「少し嫌ですけど私は側近で側室ではないので我慢します。慣れないといけないとも思いますしユッミル様が空いてる時に遊んで下さい」
「今は側近として僕を護衛してるのだから一度離すけど近くで待機して呼んだら来てくれ」
「はい」
「ユッミル様、抱くという事ですね?」
「ええ、言ってしまいましたから」
ユッミルは両脇に火の女性術師を抱きかかえる。
「抱くのがお上手ですね。流石に多数の女の扱いには慣れてる」
「ありがとう。それよりこの職場はどうです?」
「ええ、施設的には悪くないですよ。他の条件も。後は業務内容次第ですね」
「それはこちらもあなた達次第で考えます」
「私達次第ですからユッミル様はもっと私達と触れ合うべきです」
「風呂である必要は無い」
「まあ良いじゃないですか」
「それより君はそこに居られると君を蹴ってるみたいで困るのだが」
「構わないです。どうせ私は末席。こういう扱いでしょうし」
「君、分かってると思うけどその程度の隠し方では見えるよ」
「隠してる訳では…見たいのですか?」
「そうやって突き出されると反応に困るな」
「分かりました」
月術師はユッミルの膝に座る。
「ミューレ様、やはり限界ですよ。一度に相手にできる女性の数には限りがあります。この人達に魅力が無い訳では無くシウさんやエコも含めて今いる女性で限界です」
「私もですか。でしたらやはりエコと交換ですか?」
「もう子供ができた人は交換できません」
「形式上の側室の地位は残しつつ塔に引っ込ませるという事ですよ」
「いえ、遠慮します」
「分かりましたけど今回はその場の遊びでも構わないので楽しんで下さいね」
「本人がそれで良いなら構いませんが」
「知ってますよ。ユッミル様、シウ様とはどう過ごすんですか?」
「今は子供の世話を一緒にする感じですね。他の女性も子供ができた方が多いので」
「子供ですか。そうなりますよね。キッシャノさんですら」
「君が望むなら子供を作らない側室も可能ではあるが流石に側室としてのそれが駄目でも家事や子供の面倒とか狩りすら手伝ってくれないなら流石に無理ですよ」
「私には魅力が無いと言いたいんですね。けど家事ができるかはともかくリッネ様との橋渡しはできます」
「今はリッネ様との橋渡しに必要性を感じていないと言ったら?」
「それはその、いつか必要になるかもしれませんし」
「そうであればその時にする」
「分かりました。ではこちらからユッミル様の側室として迎え入れて頂きたい。お願いします」
「そういう事にするんですね。ですが家は手狭なのですよ」
「そうですか、でしたら風呂から上がって一緒に寝ましょう。私は好きな男と密着して困る女じゃないのでこのままあなたにくっついたまま向かいます。他の方には遠慮頂きますが大丈夫ですか?」
「うーん、君がそんな事を言うとは思っていなかった。少し見立てが間違っていたので様子を見る為にその話、受けるよ」
ユッミルは両脇にチェーハも抱えながら寝室に戻る。
「チェーハ、今日はこちらの方を優先するけどこの中ではチェーハが一番だし団とは関係なく関係を作っている人はまだ五人もいない」
「そうですよね。嬉しいです。この子も団との関係なんですよね?」
「ええ、そうです」
「そうやって諦めさせる気ですね。屈しません」
「そんなつもりは無いですがこの程度が効くなら挫けそうですね」
「いえ、話が終わるのを待っているだけです」
女の子は抱き付いてくる。ユッミルは抱き返す。
「さあどうですか?」
女の子はユッミルと口づけをすると間合いを詰める。
「何を驚いているんですか?普通にあなたを好きなだけですよ」
「それは私が終わってから判断します」
「ユッミル、私はあんなに渋ったのにあっさり」
「ターヒョさんは私から見ても違和感満載でしたし当然ですよ。シウさんも即日な上にもっとですからね。私はどうしても団との約束を捨てきれませんからあれを批判する資格は無いです」
「あの子も団の都合でしょ?」
「まあそれはそうですが」
ユッミルはチェーハに口づけをして強く抱く。
「いきなりでごめんね。嫌じゃないよね?」
「はい、焦らなくても側近は逃げませんよ」
「なら良いのだけど」
ユッミルは目を覚ます。チェーハを抱いている。服を風呂の脱衣所に放置したままなので姿を消して取りに行く。
「お探しのものはこれですか?」
ミューレがいる。ユッミルの服を持っている。
「返して欲しいならせめて一瞬、私を抱いて下さい」
「嫌です」
「何故ですか?」
「あなたに子供を産ませたくない。責任が取れません」
「面倒は火の団で見ますよ」
「分かっています。それでもです」
「でしたらせめて口づけをお願いします」
「なら体を好きに触らせて下さい。嫌かもしれませんがむしろであればこそ側室の意味が理解できるでしょう。一切抵抗せずされるがままでお願いします。その間に口づけします。その不快さで側室は諦めて下さい」
ユッミルは宣言通り、ミューレの体を触っていき、ユッミルにとって程よい所で口づけをする。ユッミルが離すとミューレは座り込む。ユッミルは自分の服とチェーハや月の女性の服を回収して部屋に戻る。
「ユッミル、ありがとう。ついでに着せて」
「まずは僕が先に着るけど待つの?」
「もう朝だね、自分で着るよ」
ユッミル達が服を着終えた位で月の女の子は目を覚ます。
「ユッミルさん、おはよう」
「おはよう、君の服はこれ?」
「そうですね。ありがとうございます」
「どうした?」
「その、こういう時はユッミル様に服を着せてもらった方が良いのでしょうか?」
「いえ、今回は普通に着て下さい」
月の女の子はユッミルの正面に座る。
「改めてユッミル様、私と側室として付き合って下さい。お願いします。分かりにくいかもしれませんがリッネ様の話を聞いてあなたを好きなのできちんとお世話できます」
「ですが流石に先程の方と二人は無理ですけど分かって言ってますか?」
「そうですよね。でも大丈夫です」
「何が大丈夫なのか分かりませんが。そもそもあなたはまだ名前を名乗っていません」
「そうでしたか?私はナーレと言います。改めてお願いします」
「でしたらこの教育期間が終わったらリッネ様に他の方のお断りと共に報告してから家に来て下さい」
「家の場所は?」
「リッネ様もテーファさんもキッシャノさんも知っていますし光の塔でも構いませんから誰かに教えてもらって下さい」
「ええ、分かりました」
「ですが遅くても良いのであればここの店にはその後も時折顔を出しますからその時でも構いませんよ」
「分かりました。お願いします」
「ネメッカ様の許可が無い人がまた増えましたね。流石にそろそろ控えないと」
「もしかして私の許可ってまだなの?」
「いえ、私が言ってるのは事後承諾の方です。チェーハさんは明らかに事後承諾です。あなたも一応それに当てはまりますが問題は無いでしょう。今回のナーレさんの一件はグレーゾーンですね。それにしても火ではないとはいえ狙いに掛かったみたいで後味が悪いですね」
「私はリッネ様に頼まれた月の術師ですよ」
「分かっています。ですがこの店はミューレ様主導です。月の店員を早速減らしてしまいました」
「リッネ様に補充を依頼しましょうか?」
「いえ、ミューレ様の思惑には嵌ったとはいえその必要はありません。それに補充要員はもう考えていますから」
「ユッミルさん、まあその話はこれ位で良いでしょう。朝食にしますよ」
ユッミル達は朝食に向かう。
「ユッミルさん、残念だよ。君はそんな普通なのを選ばないと思ったからね」
「まあ普通ですけどうちには変な子が多いのでね、普通に飽きるのはまだ先でしょう」
「今回はパスらしいが狩りに同行して実力で勝ち取ったら駄目か?」
「そんな良いもの…まさか、そっちが本命ですか?」
「そうだな。隠しても仕方ないか。木の団のユッホは術を含めて実力者だがそいつが気に入るって事は総合力が高いと見た。流石にあの女が自分に剣で劣る相手に興味を持つとは思えない」
「買い被りですよ。雷装剣はその名の通りで剣術度外視でも使えます。当てた後に返しが必要のないのは剣術とは言わない」
「だが雷装せずにユッホを下したのだろう。同じ剣で」
「そもそもしても仕方ない勝負です。術ありなら姿を偽れる僕が強いですし術なしだと優位な力と間合いで押し切ってしまいます」
「そういう事か。君は剣での狩りの場数は多いだろう?」
「ええ、雷装でのものばかりですが」
「だからその程度でユッホに勝てるんだよ」
「ユッホさんが弱いと?」
「だから間合いや力が少々上な程度でも自信を持った迷いのない振りならまあ勝てるだろう。刀の返しも綺麗なのだろう。だがまあ自覚はできないか。やはり組みたくなってきたな。考えておいてくれ」
「ヒレーネさん」
「まあ当面は従業員と店長としてよろしく願うよ」
ヒレーネはご飯をよそいに行く。しばらくするとミューレも起きてくる。
「ミューレさん、おはようございます」
「おはよう、ユッミルさん。朝はありがとう」
「ミューレさんが願い出た事であるのはお忘れなきよう」
「ええ、大正解でした。ですがユッミル様は本当に私の不在を恐れるんですね。光にも掛けては困る人がいるのでそれを私の独断で火の団に被らせる気はありません」
「はあ、後継者見つけようかしら?」
「まずは恋人でも見つけてから引退した方が良いですよ。私の恋人ではなく妻はネメッカ様なのですから」
「次の計画を練るから待っててね」
「好きにして下さい」
朝食を終えるとユッミルとエコにミューレ、ターヒョを客として接客演習を行う。
「これがミューレさんの考案した標準接客ですか?」
「ええ、とりあえず型は必要だと思うわ」
「型を作るのは構いませんが一人で勝手にしないで下さい」
「もちろん、ユッミル様の許可は得ますしあなたの意見が最優先ですよ。何を心配しているんですか?あなたは店長である上に私に貸しを作っていて好かれてるんですから意見を聞かないと思うのは不思議です」
「ですが先手を打てば方向性は誘導できますし意向は反映しやすくなります」
「私はユッミル様に案があるなら従いますし案が無かったら土台があればいいと思っただけです」
「分かりましたけど指導する人はそんな態度では駄目だと思いますよ」
「私はユッミル様に協力しようとしてるのに疑うから怒ってます」
「ミューレさん、落ち着いて下さい」
「落ち着いてもユッミル様の評価は上がりません。落ち着いてると深く考えると思われるだけ損です」
「私が困るので評価は落ちると思いますよ」
「困るんですよね?落ち着いたら評価は上がるんですか?」
「ですから上がっても側室は無理です」
「頑固ですね」
「今は待って下さい。まずは私の想定する接客を見せます」
ユッミルは自分の案を見せる。
「基本はこちらでお願いします。ですがこの案を基に少々変えてもらっても構いません。その上で予定通りミューレさんの接客の演習は継続します。人によってはミューレさんの接客を使ってもらいます。お客さんによってはその方が良いでしょう。疲労困憊の客にはミューレさんの接客の方が良いでしょう。元気で大量に食いそうな客は私の接客でお願いします」
その後、全員がミューレ接客を演習していく。ユッミル接客の学習時間を与えて昼食の時間も自由にして長めの休憩を与える。
「じゃあ今回は私が昼食を作ります」
「ターヒョ?僕も行く」
ユッミルとターヒョは食堂の調理場に向かう。
「やはりですか」
「ええ、生血の管理は大変なのよ。店の料理の試作品と称して消費させた方が良いわ」
「ですが彼らは女性です。正確な評価は得られず低評価が飛んでこの店全体の士気が下がります」
「じゃあ量は減らすわ。けど使わせて」
「分かりましたけど焼け石に水でしょう」
「量を作ればいいのよ」
「食材が無くなりますよ」
「分かったわよ、冗談よ」
結局、ターヒョが作ったのは生血ソースの試作品だった。昼食はゆで麺にして生血ソースの試作品を設置。味付けは普通のミルククリームに加えて生血風レッドソースやブラウンソースをメニューに掲げ始める。設置した試作品はユッミルが決めた生血薄めの配合だが赤や茶のソースは辛みの有無の違いだけでそこそこの量の生血が練り込まれている。三人程がレッドソースを注文したのでターヒョは少し生血を使えた。三人も含めて普通に好評であった。どうやらその三人は辛い物が好きだったらしい。ユッミルもミルクソースのゆで麺を食べて休憩する事にした。ターヒョには午後の演習の時間を休ませて夕食の仕込みを任せる事にした。ユッミルはナーレに体を預けて休む。チェーハは少し小さいので流石に体は預けられない。
ターヒョ以外は午後からの演習に入る。おおむね順調で演習を終える。
「少し早いですが今日の演習は終わります。夕食が冷めないうちに召し上がってください」
「料理に問題があった場合、エコさんに報告して下さい。エコさん、何かあれば風呂に居ますので来て下さい。エコさん以外の方は風呂に近づけないで下さいね。相手にされなくても良いならミューレさんは構いませんけどね」
「やめておきます。ここで行くと流石にあなたの印象が望まない方に向きそうですので」
ユッミルはナーレとチェーハとゆっくり風呂に入る。しばらくするとターヒョも入ってくる。
「あれ?ターヒョさん?」
「私は良いでしょ?早く入りたかったのよ」
「ええ、まあ」
「けど意外ね。リッネがこんなまともな札を切ってくるとは」
「そうですね。普通ですね」
「酷いです。居ない所で言って下さい」
「ナーレさん、あなたは嘘つきである事を早く認めたのでそこの優秀な氷術師さんよりおそらく良い扱いができますよ。ただ、逆にこっちが嘘をついてまで求めたこの子程の扱いはできませんが」
ユッミルはチェーハの肩を抱く。
「ユッミルさん、そんな事を言っても実際の扱いはそこまで良くないですから誤魔化されません」
「そうですね。これは少し先の話ですね」
「私も今はこれで良いです」
ユッミルは無事に風呂から上がる。急いだので食事は終わっていない様だ。生血入りであろうブラウンソースしか残っていなかったのでだし系の味付けで作ってしまう。ユッミル達がだし系ゆで麺を食べているとターヒョはブラウンソースの麺を多めに持って食べ始める。
「これが一番おいしいのに」
「まあレッドソースよりはそうでしょうけど」
「それよりユッミル様、昨日の仕返しとして風呂に乱入しないんですか?」
「しませんよ。何の為ですか?」
「そっか、ユッミル様は女性に不自由してませんよね」
「それは無いです。十人以上の女性とは政略ですから」
「まあその政略も今や形だけですけどね」
「私にとっては形だけですが女性は違うでしょう」
「それは否定しません。エコも2割くらいは目当てでしょう?」
「はい、ユッミル様は良い方だとは思いますがそういう考えが全くない訳ではありません」
「ターヒョはそれすらない。よく分からない理由だよね」
「そうね。けど利害は一致してるし良いでしょ」
「私は深く考えてません。リッネ様のお願いが自分にとっても良いものだったので」
「言わなくて良いよ、分かったから受けたんだから」
「私はユッミルさんにお願いされたしいつの間にかそうなってたからよく分からない」
「うん、チェーハは気にしなくて良い話だよ」
ユッミルは夕食を終えるとチェーハとナーレを両脇に眠っていく。ユッミルは早く起きてしまい、少し体を起こして考え事をしているとチェーハも起きてきたので小雨が降る中だが外を散歩しつつ街の様子を遠巻きから伺う。
「やはりこの調査だけは手強いですね」
「向こうも簡単に解決するとは思っていないだろうけどね」
「ですけど他の案件は順調ですよね?」
「そうだね。チェーハのお蔭でもある」
「ですけど私では潜入は危ない。音と光を同時は中々、音を消し切るのが若干不安があります」
「僕も音の操作は少し下手だよ」
「ユッミル様が下手と言われると私のは術ですらない事になってしまいます」
「まあ普通は光で事足りるから音は見逃されがちであまり鍛えられないだけだよ」
「そうですね。私もあまり鍛えてません」
「だったら鍛えれば良い」
「やっても時間が掛かるでしょうね。期待はしないで下さい」
「うん、急いではいない」
しばらくすると店に戻る。やはりターヒョが調理している。ただ、今回はエコも一緒だ。朝食にはスープが提供される。パンにはまたレッドソースの肉煮込みを挟むという選択肢がある。当然、ブラウンソースの肉煮込みも提供される。朝はレッドソースから二人が脱落し、一人はブラウンソースに鞍替えたがブラウンソースにはもう二人が加わった。普通メニューがスープとバターを塗った普通のパンであり、ボリューム不足感が否めずブラウンソースに向かう。やはり不評では無い。彼女達には本物の生血入りな事は知らせていない。ユッミルは諸事情から生血である事を確信しておいしいと思わせるのがまずいと判断している。ターヒョはもう手遅れなので止めていない。だからソースはターヒョが作る事になっている。ソースの保存自体は方法さえ理解すれば水や火の術師には可能なので午前中に仕込んで午後はターヒョを休ませる事は可能ではある。エコは既に保存方法を知っている。ただ、眠らない訳にはいかないので半日が限界である。そんな状況故にユッミルは仕込み係を選定しようとしている。ユッミルとミューレは研修を始める前に内容を相談している。
「あの、これっていつまで続けるんです?」
「雨が止むまでだから明日までは続くわね」
「そこまで教えたい事は無いですけど」
「そうね、店の店員の教育に泊まり込みで三日は多すぎたわね」
「ですが外には雨で出れません」
「今日の午後は清掃や点検にしましょうか」
「そうですね。私はその間に暫定的な配置を決めておきます」
「私は点検項目を纏めておきますから途中で抜けますね」
午前中はチェーハがユッミルの指示で様々な客を演じて店員を指導する。ユッミルは寝室に戻って各店員の優先接客相手を暫定的に決めていく。掃除はミューレが仕切っていく。午前中は担当場所だけを通達して従業員は昼食を食べる。昼食を終えるとミューレがエコ立会いの下、各場所毎に掃除内容を指示していく。ユッミルは遅めに食堂に向かう。
「ユッミル店長、昼食はどうします?油ゆで麺ですが味付けが選べますよ」
「塩でお願いします。肉は普通に入れて下さい」
「ナーレさん、ブラウン油ゆで麺は?」
「いえ、ユッミル様と同じもので」
「私もユッミルと同じもの」
ターヒョは四人分の油ゆで麺を作って自分も卓に着く。
「ターヒョさん、食べ過ぎないで下さいね。太りますよ」
「分かってるわよ」
「そのソース、太るんですか?」
「ええ、食べ過ぎなければ大丈夫ですよ」
「私は食べないですけどね」
ユッミル達は寝室に戻る。ユッミルは選定作業に一区切りを終えるとナーレやチェーハと雑談してから掃除の様子を見る。その後、夕食を先に食べる。従業員が戻ってくる。
「ミューレさん、明日の午前中は休みで良いですか?」
「そうですね。午後からは二班に分けて片方は私の指導、もう片方はユッミルさんへの質問時間にしましょう」
「えっ」
「従業員に店について聞く権利はありますよね?」
「店の方針については答えますよ」
「それではよろしくお願いします。それとマッラ」
「えっ」
「実は後半にマッラが来る様にお願いしてたのですよ」
「ユッミル様、産ませるだけ産ませて逃げないで下さいよ」
「そんなつもりは無いですが」
「私だけ子供に会ってくれてないそうですね」
「何度か火の塔に行きましたのでマッラさんの体調が悪いから顔を出せないのかと思ってました。何度かは事前に伝えてミューレさんと会いましたし特にマッラさんを無視するつもりは無かったですよ」
「ミューレさん」
「そう言えばミューレさんは火の一枠を自分に差し替えるとかも言ってましたね」
「可能と言っただけですよ。それに今日はわざわざマッラに来てもらいましたしそんな事はありません」
「そうですね、そういう事にしておきます」
「とにかくこれが私の息子です」
「そうですか。えっと抱いて良いですか?」
「もちろん」
ユッミルは抱いてみるが軽く感じる。
「赤子を抱くのにも慣れましたから軽いですね」
「そうだったわね。何人目?」
「20人には達してませんよ?」
「達しそうなのね」
マッラは苦笑いだ。
「ユッミルさん、各団から送り込まれてますしね」
「ええ、一人一人は全く問題無いのですが人数が増えると変わりますね」
「ネメッカ様は二人目?」
「ええ、他にも二人目を拒んでいない方もいます。ですが30人はまだまだ大丈夫です」
「いやまあ私達にも責任はあるわね」
「ええ、マッラの言う通り。各団は独身女性を多数抱えてますし氷は少ないですけどね」
「あの、そう言われても実際に大変なのは私なのできっちり我慢します」
「つまり、私なんかは二人目は無理なのね」
「あの、マッラさんはシウさんに比べれば普通の男の人にも好かれそうですけどね。エコさんはともかくエッヒネ様、ミューレさんやシウさんは合う男性は少ない。ミューレさん、マッラさんの子供は面倒を見てあげて下さい」
「それでユッミル様はその哀れな私を見捨てるんですね?」
「ええ、ミューレさんに合う数少ない男性は私ではないと思いますしね」
ユッミルはマッラの子を撫でたりしている。
「お風呂はどうするんですか?」
「問題無く入れるわね」
「ここは広いですし行きましょう。エコさんも夕食の準備があるターヒョさん以外は4人共来て下さい」
ユッミルはずっと赤子を抱いてる。
「可愛いですね。今は暇なので癒されます」
「暇だからですか?」
「ええ、他で忙しいとどうしても目を離してしまいます。それに一人位が良いですね。三人も四人もだと一人では世話しきれない」
「ユッミル様の家はそんなに多いのですか?」
「はい、多いですよ」
「確かにあの結婚式の並びを考えればそうなりますよね」
「ええ、塔にも家にも五人以上いるので顔は覚えられない」
「凄いですね」
「凄いの?」
「まあ十人の子供はこの世界でも少ないと思いますよ。まあ妻を十人以上ならもっと珍しいですけどあなた位でしょう」
「あの、私個人でという方は少ないですよ」
「無性の街でも三人位なら居るらしいわよ少ないけど。貴族は八人位は普通ね。男の世継ぎを産みたいのと選びたいらしいわね」
「ターヒョさん、詳しいですね」
「ええ、氷の塔からは貴族の屋敷とかが見えるし貴族の六女とかの術師も所属している」
「それぞれの団の空気的に世継ぎでは無い貴族の子は氷と月以外は無理そうね」
「まあ光は金回りも悪いですしね」
「まあそれもあるけど貴族は確実に利益にならない事と荒事は嫌いなのよ。光は術師として不安定だからね。土と水もある種の荒事。木の鍛錬も嫌だし狩りには向かない火の団も所属する利益が分からない様ね」
「そうなんですか」
ユッミルは赤子をマッラに抱かせた後も気にしている。風呂から出てもチェーハに時折話しかけはするがマッラに赤子の様子を聞きながら抱いている。そして、そのまま横に寝かせる。両親はすっかり息子に名づけをしないといけない事を忘れてしまったまま眠っていく。
読了頂きありがとうございます。前半から中盤は一気に書けてしまいました。後半も急ぎましたがこの速さは次章には維持できませんので次は早くても4月末になります。5月初めにはしたいですが後半までずれ込む可能性もあります。次々章の予定はこの時期は忙しいので7月にずれ込む事もあります。




