片腕の王女編 最終話 「王女ラーナ」
王妃がシーナを思う存分にウリウリしている同じ時間のピアツェンツェア王城の王女離宮の一室にて、
「これで本日の講習は終わりです。ラーナ王女殿下」年嵩の男性教師が本を閉じる。
「ありがとうございました先生」カーテシーで教師に御礼をするラーナ王女、ようやく授業が終わり、ホッと息を吐く。
その後は離宮の私室で紅茶を飲みながら寛いでいる幼い王女。
王女の名はピアチェンツァ王国第一王女、ラーナ・フォン・ピアチェンツァ、シーナの双子の妹だ。
明るく優しく素直な性格、7歳とは思えない頭脳、将来は絶世の美女が約束された淡麗な容姿で王国の秘宝とも呼ばれている王女である。
「お母様、お元気でしょうか?」
母親の王妃ファニーはスカンディッチ伯爵領に視察に赴いて現在は不在だ少々・・・いや相当な子煩悩の母親に育てられたラーナは少し寂しがり屋だ。
2週間の日程で母が帰るのは5日後、可能な限り一緒に居てくれる母が2週間もいないとなると7歳の少女には長く感じられる。
「ラーナ殿下、財務大臣クロッセート侯爵様と御子息のオルランド様が御機嫌伺いに参りました」ラーナ付きの女官カーラが来客を知らせる。
「・・・そう、通してください」
そう言うと小さく溜息をはくラーナ、とても7歳の子供とは思えない所作ではあるが実は彼女には秘密があった。
それは生まれた時に天龍王の加護を受けた愛し子なのだ。
正確には姉のシーナも加護を受けたのだがその直後に地龍王からの力の継承と言う前代未聞の加護を遥かに上回る力を得たので天龍王の加護にはノイミュンスターでも気がついていない。
天龍王の加護には知識も含めているのでラーナの精神年齢はかなり高い、幼い体に感情が引っ張られるが考えている事は大人だ、地龍王の知識の開放がまだのシーナより遥かに大人じみている。
今回の訪問は鬼(王妃)のいぬ間に自分の子息をラーナに引き合わそうとの財務大臣の思惑を理解して「面倒です」と思っている。
でも無視など出来ず応接間へ急ぐと1人の紳士と令息が応接間で待っていた。
紳士と令息はソファーより立ち上がると貴族の礼をしながら、
「これは王女殿下御機嫌麗しく臣も喜ばしく思います」とラーナに挨拶をする。
「子息のオルランドです」と緊張しながらも綺麗な礼をする令息、
父の教えが良いのであろう、真っ直ぐな気質なのが分かる、ラーナの好感度が少し上がる。
「ようこそおいで下さいましたクロッセート閣下にオルランド様」カーテシーをしながら、にこりと微笑むラーナ。
この財務大臣、少々ウザ・・・暑苦・・・陽気な性格で趣味は人の縁結びと言う、隣のおばちゃんの様な気質の人物で王家への忠誠心も高くラーナの事を誰よりも評価してくれる忠臣だ。
今回も権利云々の話しではなく単に趣味の縁結びの一環だろう、ラーナが断れない理由でもある。
なので精一杯の笑顔でオルランド侯爵子息と歓談を続けるラーナだがやはり7歳の子息では話しが合わない。
1時間ほど歓談は続き、ごっそり精神力を削れた頃にようやく歓談は終わった。
「これも仕事これも仕事」と7歳児にあるまじき言葉を放ちつつ寝室に向かうラーナ。
3人の侍女を連れて廊下を歩いていると別の紳士と出会う、
「これはラーナ王女殿下ではありませんか」
うげっ!と更に王女にあるまじき単語を頭で思うラーナもちろん顔には出さないが、先程の財務大臣とは違い最大に警戒心を高めるラーナ。
アスティ公爵・・・お母様を精神的に追い詰める敵・・・
そうラーナはこの男の事を思っている、狡猾で野心家、次期王位は我が家からと思っている佞臣。
自分より家格の低い辺境伯爵家出身のお母様を見下して事あるごとに妨害をして来る、無論娘の自分も見下して来る。
「さて今日は何を仕掛けるつもりかしら」と心の中で思い、作られた笑顔の中ラーナは公爵を観察する。
「言いづらい話しなのですがラーナ殿下は王家の忌み子の伝承はご存じでしょうか?」白々しく声を潜めるアスティ公爵。
・・・なるほど・・・遂にこの話しで来たかと笑顔のラーナは思う。
「いえ、いみごとはなんでしょうか?」いかにも意味すら知らないです風に装うラーナ
「これは失礼しました、まだ王女殿下には難しい言い回しでしたな!これは三代目の王様の時代の時のお話しです」とラーナが言葉の意味を理解してないと知るや楽しそうに子供言葉を使いながら伝承の話しを始めるアスティ公爵、時折り驚かす様に大きめ声も出す。
何とも演劇がかった説明の仕方に白けるラーナ王女殿下だった。
「とまぁこの様な事から王家の忌み子の伝承が始まったのですよ」話しを終えて得意げなアスティ公爵、別段ラーナ的には何回も聞いた伝承で馬鹿馬鹿しい内容だと切り捨てている与太話なのだが公爵には子供を騙せる策略に使えると思っているのだろう。
「まぁ!そんなおそろしい事が・・・」馬鹿馬鹿しいと思ってはいるがアスティ公爵に警戒されるのも面倒なので仕方なく乗って見る。
「・・・それで大きな声では言えないのですが・・・」アスティ公爵はまた声を潜めた、いちいちと芝居がかった男だ。
やはり来たなとラーナは思った、続くは話しは、生け贄になったが生存していた姉のシーナの事と今回の視察の目的が王妃ファニーとその忌み子との密会の為だとか言い出すのだろうな・・・
ラーナの予想は当たりシーナの代わりに王妃ファニーがメイドを地龍王に生け贄を捧げたなど悪意の改変が盛り沢山の真実より酷い話しであった。
「お・・・お母様が・・・そんな事・・・」涙目で酷いショックを受けた様に膝から崩れ落ちて見る。
「おお・・・殿下おいたわしや・・・この臣はいつでも殿下のお力になりますぞ」
アスティ公爵が白々しくラーナの肩を両手で抱く。
「・・・ありがとうございます閣下」肩を抱かれた気色悪さに思わず殴りたくなる衝動を抑えて、肩を抱く公爵の袖をキュッと掴んで見る、してやったりと言わんばかりの顔にイラッとするラーナ
「では臣はこれにて、失礼しますラーナ王女殿下」そう言いながら上機嫌で去る公爵を半目で見送るラーナ
すると「いやー名演技だったよ、あざといねラーナ」突然、今まで空気だった専属の侍女の1人が不敬極まりない物言いをし出すが周囲の女官は何も言わない。
彼女達は天朱龍ニーム、天龍レンヌ、天舞龍リール、愛し子の護衛の為に天龍王から派遣されて来た3人の龍戦士である。
この事を知っているのは国王と王妃と宰相のみ、ノイミュンスターがファニーに語った天龍達である。
「・・・・・・」ブッスーとするラーナ
「ほらほら♪そんなにプクプクしないのラーナ♪」ニームが笑う
大好きなお母様を馬鹿にされてブッスーと頬を膨らませ年齢相応の怒りを見せるラーナだった。
「お母様の悪口を言った・・・」絶対に許さん!と心に誓うラーナであった。
「そう言えばさラーナってシーナ姫の事どう思ってるの?」天舞龍リールが思い出した様に質問して来ると、
「そうですね・・・正直言って物凄くお姉様に会いたいです、可能なら今回の視察にも強引に参加しようしてお父様に「まだ早い」と止められてしまいました」と肩を落として残念そうなラーナ王女。
「んん!?ラーナってシーナ姫に産まれてから直ぐに引き離されて会った事ないよね?」レンヌが不思議そうに聞くと、
「うふふ、双子とは物理的な距離は意味ないのですよ♪お姉様とはいつでも一緒なのですよ」とファニーそっくりに笑うラーナ王女
「んんー?どう言う事?」リールは不思議そうだ
「そうですねぇ・・・お互いの思念体を飛ばし合えるので認識は出来る?と言う表現が正しいかは分かりませんが、お姉様は良く私に思念体を飛ばしてくれます」と微笑むラーナ王女。
「おおー、なるほど思念体かぁ・・・」と納得した様に見えるリールだが何か違うと直感している・・・少し父である天龍王アメデと相談する必要がありそうだ、何かがおかしい、何かを見落としているとまだ全容は見えていない天舞龍リールだった。
ラーナ王女が「早くシーナお姉様に会いたいなぁ」と俯く姿はただの7歳の女の子だった。