新緑のアリーセ編 13話 「アリーセの婚約」
王宮に戻った王妃ファニーはすぐに国王ヤニックに謁見を願い、疲れている夫を叩き起こした。
「至急の要件です」王妃ファニーは真剣な表情だが、なんかニヤけている?
そう思った侍従だが王妃の要請を無視する訳にもいかずにヤニックに取り継いだ。
「どうした?ファニー」ファニーを私室に招き入れると水差しの水を飲む。
「シーナが結婚します」
「ゴフオー!」お約束の如く水を吹き出すヤニック、絶対わざとだろファニー?
「ゲホゲホゲホ、・・・なんだと?」
「シーナが結婚して子爵家を継ぎます」
「子爵家・・・アリーセと言う令嬢絡みか?」
そう言いながら侍従に新しい水を貰い飲むヤニックだが、
「ああ!そうでしたわ!アリーセはシーナの娘、わたくし達の孫娘でしたわ!」
「ブハアー!!」また水を吹き出すヤニック。
「グフッ・・・詳しく説明を」さすが元勇者!この程度では、めげない所が素敵だ。
黙ってファニーの説明を聞き終えると、
「子爵家の設立と領地に関しては了解した。手配はファニーに任せる。
天龍絡みなので天龍王アメデ様の天啓の後に私も勅令を出そう。
異議申し立ては不用とも付け加える、何せアメデ様のご意志だからな」
「はい!よろしくお願いします」
「でもアリーセに関しては私も何かしたい!」
国王らしく冷静に物事を処理していたのに突然面倒くさい事を言い出した?!
「大体狡いではないかファニー!私に仕事を押し付けて自分だけ娘と孫娘と色々とやっていて、私だって娘と孫娘と遊びたい!」いや子供か?!
「それは!申し訳ありませんでした・・・」
「私もヴィアール辺境伯領の視察に同行しよう!」
「出来る訳ねえだろ!馬鹿かヤニック!」先程の侍従に思い切り怒られるヤニック。
この侍従さんは「槍使いのクルーゼさん」と勇者仲間達に呼ばれた勇者で最近引退した、狸宰相エヴァリストとヤニックが一週間頼み込んで王国に仕えて貰ったのだ。
ピアツェンツェア王国の表の最終兵器が冒険者ギルドマスターのイノセントなら裏の最終兵器はこのクルーゼなのだ。
黙示録戦争時は現魔族軍第6軍軍団長のブレストとバチバチにやり合ったのだ。
前回の王都争乱時にはクルーゼと相棒のジャック(連載版幽霊退治屋セリス参照)と共にピアツェンツェア王国に接近していた魔族軍第6軍本隊に1kmまで逆に急激に接近し返して、
「やんのか?!テメェ!ブレスト!」とクルーゼが叫び、
「やんねえよ!マジウゼェ!お前ら!」とブレストが撤退した裏話がある。
気性激しさならイノセントよりクルーゼの方が上なのだ。
ちなみにイノセントはクルーゼの舎弟なのでクルーゼには頭が上がらない。
「文官に変な苦労掛けさせんな」とクルーゼ兄貴に怒られて「はい・・・」と、
ヤニックが凹むのが通常の光景だ。
1番最初にその光景を見たファニーは凄く驚いたが今はもう慣れた。
結局、アリーセとはヴィアール辺境伯領へ旅立つ前にお茶会で会うと決定した。
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「と言う事になりましたわ」
「国王さん、子供見たいです!」
アリーセを膝に乗せ髪を撫でながら昨夜の話をするファニー。
隣りではグッタリとしているシーナとラーナ、子供の時と違い大人になると、
ファニーのウリウリ攻撃は中々体にこたえるのだ。
適応力が高いアリーセはもう慣れた。
「てか2人共、いつまでここに居るの?今日は舞踏会じゃなかった?」
いつまでも射塔の軍事拠点に居座る王族に呆れた様子のガイエスブルク。
「今日の主役は第3側妃のエリザベス様ですからね、わたくし達は後宮に居ない方が良いのです」
ファニーはそう言うが現在の後宮では2人を探してメイド達が走り回っている。
「でも結婚式の準備、わたくし達は何もしなくて大丈夫なのかしら」
「リールさんが張り切っていたので大丈夫だと思います」
「張り切るリールですか・・・私の嫌な予感は気のせいでしょうか?」
その予感、的中ですよラーナさん。
シーナとガイエスブルクの結婚式が世界的イベントになる未来をまだ誰も知らない。
イベント大好きな海龍王アメリアが関わる時点で気がつくべきだったとしか・・・
その時になって地龍王クライルスハイムと天龍王アメデがドン引きする事に・・・
「今日の舞踏会は全員不参加ですか?」とラーナが聞くが、
「貴女とわたくしが不参加なんてあり得ないでしょう」
ピシャリとサボる気の満々のラーナを諌めるファニー、シーナとアリーセはそもそもの話しで舞踏など出来ないので不参加だ。
「1人だとつまらないです」
「諦めなさい」
「はい」
ブウっと不貞腐れるラーナだが出来ない事は出来ないので仕方ない。
「でも銀仮面として警備はちゃんとやりますよ!」
「任せて下さい!」
真面目っ子のシーナとアリーセだった。
こうして大舞踏会の夜を迎えたのだった。
華やかな舞踏会を天井裏から覗いたシーナとアリーセとガイエスブルクの感想は、
「踊ってますね」がシーナ。
「絶対に足を踏む自信があります!」がアリーセ。
「俺には無理だな」がガイエスブルク。
女の子の憧れの衣装に関しては、
「派手ですね」がシーナ。
「着て見たいですが重そうです!」がアリーセ。
「あの燕尾服の尻尾って何の意味があるんだ?」がガイエスブルク。
「アンドレさんと踊りたいですか?」とのシーナの質問にアリーセは、
「足踏んで蹴りを入れそうなので嫌です」と答えた。
以上、地龍さん達の感想でした。
一応、地龍でも踊る者もいるが大体は興味ない者が多いので仕方ない。
決して作者に舞踏会の知識がない訳ではない・・・本当は知りません、すみません。
特に問題なく大舞踏会は成功に終わった。
次の日はいよいよ、アリーセとアンドレの婚約について王族達が話し合う日なのだ。
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「おお!良く来てくれたね、アリーセ」
次の日の10時に国王ヤニックとアリーセの初対面のお茶会が急遽、開催された。
午後の昼食会にヴィグル帝国のエフレム皇太子とアンドレ皇子を招くので急いで顔合わせする必要があったからだ。
「はじめまして!アリーセです!」ペコリと頭を下げるアリーセ。
今回のお茶会に関してはヤニックとアリーセだけだ。
これだけは譲れない!とヤニックが駄々を捏ねた結果の話しだ。
「初めて会って変な話しだが君の祖父のヤニックだ」
もうニッコニコのヤニック、嬉しくて仕方ない様子だ。
「はい!お爺様!」
素直にお爺様と呼んでくれた孫娘に一瞬でメロメロになったヤニックだった。
「それで君とアンドレ皇子の婚約だけど、本当に良いのだね?」
「はい!」
「ヨシ!分かった、それなら私も出来る限りの事をしよう」
「ん?もしアリーセとアンドレ皇子に子供が出来たら私の曾孫になるのか?》
など とまだまだ先の話しに期待する有頂天国王だった。
それからはシーナとアリーセの出会いから始まり、龍都の学園での出来事など、
2人きりのお茶会で沈黙してしまうかも?との、アリーセの不安が嘘の様に話しが弾んだ。
元々ヤニックは、かなり明るい性格なのでアリーセと相性が良いのだ。
たった1時間30分の短い会話だったがアリーセはヤニックの事が大好きになった。
国王よ今までの苦労が報われて良かったね!
このお茶会の間に王妃ファニーは新しい子爵家の申請を貴族院へ出していた。
急な申請に渋い表情の貴族院の代表だったが、天龍王アメデのご意志と伝えると渋々承諾した。
貴族院の代表は意地悪で渋い反応な訳で無く、規律の話しなのだ。
申請書にポンと印鑑を押すと「シーナ王女殿下のご結婚おめでとうございます」と
笑顔でお祝いを述べたのだった。
貴族院の承諾を得て、
ガイエスブルクはガイエスブルク・フォン・ヴィアール・リール子爵となった。
リールとは、本家との区別の為の家名で、天舞龍リール本人は恥ずかしいと嫌がったがシーナに「この名前しかありません!」と押し切られた。
シーナは結婚式前なのでまだ、フォン・ピアツェンツェアのままだ。
アリーセは既に養子縁組が終わったので、
アリーセ・フォン・ヴィアール・リール子爵令嬢として正式に承認された。
そしてピアツェンツェア王家とヴィグル帝国皇家との話し合いが始まった。
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話し合いの立ち会い人は宰相のクロッセート侯爵だ。
「本日はこの様なおめでたい席に立ち会えた事を嬉しく思います」
クロッセート侯爵はもうニッコニコだ。
何せ彼の趣味は縁結び、お見合いおじさんなのだ。(片腕の王女編最終話参照)
彼以外には適任者が居ないと言っても過言では無い。
「それでは、ご婚約予定の御両人の挨拶からです。」
普通は国王ヤニックとエフレム皇太子からの挨拶からだと誰しも思うが甘いのだ。
この場の主役はアリーセとアンドレなのだ。
他の人間など自分も含めて、ただのカカシなのだ。
何十組もの夫婦を生み出したクロッセート侯爵の巧みな話術と言える。
「アッ、アンドレ・フォン・ヴィグルです!よろしくお願いします!」
「アッ、アリーセ・フォン・ヴィアール・リールです!よろしくお願いします!」
いきなり保護者を差し置いて挨拶を振られた若い2人は、当然2人共が口ごもる物、最初に恥ずかしさを共有する事で後の話しがし易くなるのだ。
さすがクロッセート侯爵、恐るべし。
揃って顔を赤くする2人を見て周囲の目も微笑ましくなる物なのだ。
「続きまして新郎側からの婚約の条件などがありましたらどうぞ」
ここで敢えて「新郎」と確定付けるのもミソなのだ。
「こちらからの要求は一つです、アリーセ嬢を皇族に迎えたいです」
エフレム皇太子の条件は当然だ、アンドレを婿養子に出す訳には行かないから。
「そのお話しは当然、こちらもお受けします。アリーセもそれで良いな?」
ヤニック国王がアリーセに最終確認をすると、
「はい!」元気に了承するアリーセにショックを受けるシーナ。
って散々話し合って予行演習までして何でショックを受けるんだ?この子。
「では今度は新婦側からの婚約の条件などありましたらどうぞ」
「こちらからの条件も一つです。婚姻はアリーセが15歳の成人になってからです、
15歳になってからヴィグル帝国へ輿入れさせて頂く思います」
国によっては成人前に輿入れをする場合があるがピアツェンツェア王国の法律上では禁止されているので、これも当然の条件だ。
「ヴィグル帝国としまして、その条件を承諾します」
エフレム皇太子が承諾したのでこの件もクリアされた。
これで後4年ほどアリーセはシーナと一緒に居られるのだ、
それを聞きホッとするシーナだが何回もしつこく予行演習しただろ?
「他に何か条件などはありますか?」
「ヴィグル帝国にはありません」
「ピアツェンツェア王国にもありません」
これにて婚約においての懸案事項は無いと公式文章に記録が残るのだ。
「これで御両人の婚約は成立しました!おめでとうございます!」
本来なら言う必要が無いのだが敢えて言う所が侯爵らしい。
「では次は具体的な流れなどを・・・」
この後しばらくの間は法律上で云々、支度金云々、文章が云々と書いていても面白くな・・・難しい話しが続くので割愛します。
「・・・以上になりますがよろしいでしょうか?」
「ヴィグル帝国に異議はありません」
「ピアツェンツェア王国にも異議はありません」
「ありがとうございます、では最終確認前に休憩を挟みます」
遂に「後は若い2人で」が来たのだ!
名残り惜しそうにアリーセを見るシーナの腕を掴んで強制退出させる王妃ファニー、
まぁシーナも若過ぎるから仕方ないよね。
それを苦笑しながら小さく手を振って見送るアリーセ。
全員が退席するとアンドレが、
「アリーセ、本当に俺と婚約して良かったのか?」
と尋ねて来たので「当然です!」と笑顔で即答したアリーセ。
「そっか・・・良かった、これからは2人で頑張ろうな!」
満面の笑顔で鼓舞して来たアンドレに、
「はい!頑張ります!2人で!」
満面の笑顔で答えたアリーセだった。
こうして2人の婚約は成立して、次はいよいよ、ヴィアール辺境伯領へ!
まだ行けないんだね!これが・・・




