片腕の王女編 6話 「地龍王の娘」
シーナが「地龍王の山」で王妃ファニーと別れて地琰龍ノイミュンスターに連れられてスカンディッチ伯爵領で生活する事になった。
シーナはとりあえずは孤児院に預けられて「天龍教」シスターが面倒を見る事になり
シスターに抱っこされている。
「あら、シーナは良くおしゃべりしますねー」とシスターが話し掛けると、
「あーう、うー」と片手を振りながら一生懸命にシスターに話し掛けるシーナ。
「ふむ、やはり片腕では可哀想じゃな、急ぎ義手を造らねばなるまいて」とシーナの小さな手を触りながらノイミュンスターがシスターに話し掛ける。
「そうですわね、ここで気にする者は居ませんが急いだ方がよろしいかと」
と答えるシスター、彼女も地龍の1人なのだ。
彼女は少し困った様子で「シーナはお乳をあまり飲みません、いかが致しましょうか?」とノイミュンスターに尋ねる。
「むう、地脈からは順調に魔力を吸収しておる故に成長に支障は無いと思うが少し困ったのぅ」とノイミュンスターも困り顔だ。
魔法生命体の地龍は元々、食事をほとんどしない種族だ、なので地龍となったシーナがお乳を飲まなくても問題は無いのだが、人間社会では異常に見えてしまう。
「よし、この件は我が何とかしよう」とシーナの頭を撫でると、
「だーだーうー」とシーナが何かを言っている。
「やはりシーナが何を言っておるのか分からぬのぅ」と苦笑するノイミュンスターだった。
それから月日は流れて、
シーナがスカンディッチへ来て5年の月日が流れた。
両親を事故で亡くして鍛冶屋の店長トムソンが後見役の孤児の娘・・と言った設定だ、トムソンが他の子供達の中で育った方が良いと考えて敢えて鍛冶屋では無く孤児院で生活をしていたシーナだった。
人間の子供達の中で成長したのでどこにでも居る普通の人間の女の子と言った感じだ。
この頃になると大分体も大きくなって走り回るのが大好きなお転婆の盛りの5歳だ、今日も孤児院の子供達と遊び終わると冒険の旅に出るべく、トテトテ孤児院の周辺をあちこちに走り回っている。
そうしてシーナは孤児院から道を進む事500m、トムソン鍛冶屋に辿り着く5歳の女の子には大冒険だ。
「おっちゃん!」と外のテーブルで昼食の準備をしていたトムソン店長に走り寄るシーナ。
「おっちゃんと違うぞ店長さんと言いなさい」しっかりと育ての親として定着したトムソン店長、しかしノイミュンスターことトムソン店長はこのお転婆娘の事で悩みがあった。
それはシーナが自分からは一切食事をしないのだ、スカンディッチに居る分には問題はないのだが。
地脈からスムーズに魔力を吸収出来ているのでシーナの体の成長には問題はないが他から見るとやはり異常そのものだ。
人に紛れて生活をしている地龍は他の人の混乱を避ける為に日々の食事はきちんと取っているのだが、シーナはまだ自分が普通の人間と違う事に気がついてない。
地龍王の知識の解放を行えばかなり変わるのだろうが、今は幼い脳にどんな悪影響があるか分からないので解放は不可だとトムソン店長は考えている。
地道に教えるしかないか。
そう考え朝昼晩の食事の時はシーナを鍛冶屋に呼び、シーナに人間の食事の概念を教えている。
シーナは特に美味しい不味いとか味覚に異常はないので色々な物を食べさせて好き嫌いを調べているトムソン店長。
・・・・基本的には何でも好き嫌い無く食べるが量が圧倒的に足りてない、すぐ飽きてしまうのだ。
時には一口食べたら満足してしまい無理に食べさせ様とすれば逃げてしまう、食事に対して嫌悪感を抱いてしまうと取り返しがつかないので優しくのんびりと教えている。
「美味いか?」トムソン店長はシーナに尋ねる。
「うん!」今日はケーキを食べさせている女の子には最高の甘味だがイマイチ反応が良くない。
やはりケーキに飽きてしまったシーナはすぐにソワソワし出した。
「遊びに行ってくるー」とシーナは鍛冶屋の外に走り出してしまった。
今日は3口か・・・シーナが走り去り残されたケーキを見てため息が出るトムソンだった、子育てとは難しいものよ、と感じた地琰龍ノイミュンスターだった。
遊びに出たシーナが先ず向かうのは宿屋の看板娘のエレンの所だ、美しい白のプラチナブロンドの髪に銀色の瞳は妖精と呼ばれる町で評判の美少女だ。
設定の年齢は15歳・・・言っても既に200歳を越えているが、教育係の1人として地龍王クライルスハイムから直接派遣された地龍の女性だ。
出迎えて、はいっと両手を出したエレンの胸にポスンと収まるシーナ、やはり女性の胸が恋しいのか顔を胸に押し付けてウリウリとする。
「こんにちは!今日は何する?シーナ」とエレンはシーナをキュッと抱きしめる。
「んーと、お人形さん遊び!」何とも女の子らしい答えが返って来た。
「はいはい」とシーナお気に入りの人形を取りに行くエレン、
「「興味を示すのは普通の女の子が好きな物ばかりで良かったわ」」人形を手に女の子らしいシーナにホッとするエレンだった。
それからひとしきりエレンと遊び自分の大切な使命を思いだすシーナ。
「じゃーねーエレンちゃん」とまた走り出したシーナに「またね」と手を振るエレン、ひとしきり人形で遊び満足したシーナが次に向かったのは教会だ。
この国の国教である天龍王を祀る「天龍教」の教会だ、しかしここの司祭や信者達は実際には地龍なのだが。
ちなみに「地龍教」は西方の大陸で盛んで、その西方に天龍王の「天空城」があるのは不思議な話しだ。
龍種が人間に余り興味が無い事を示す良い例と言える。
ここでのシーナは龍化した天龍王アメデ像を磨くのがお気に入りだ。
実際の天龍王を知ってる地龍の造形士が渾身の力で作った像なので限りなく本物を模していて、まるで今にも飛び立ちそうな姿だ。
地龍に崇められてる事を知った天龍王アメデから「恥ずかしいからやめて欲しい」との仰せを受けたがここの地龍は変わらず崇め奉っている。
ついで言うと地龍王クライルスハイムもこの天龍王の像が大層お気に入りだ。
「「素晴らしいではないか」」
天龍王像を見た地龍王の第一声だ。
天龍王像を作った地龍の造形士が自らの王クライルスハイムの像も進呈したのだが、恥ずかしがった地龍王クライルスハイムは西の大陸の「地龍教」の本山に寄贈してしまった。
「「お主と我は繋がっている、像は無くても良かろう」」照れた感じのクライルスハイムが地龍の造形士に笑い掛ける。
龍王にとって大事なのは繋がりだ、繋がっていれば他の誰を崇めようとも問題はないのだ。
そんな天龍王の像をシーナは歌いながら今日も磨く「天龍王さまはきょうもピカピカ♪ピカピカの天龍王さまー♪ピカピカ♪ピカピカ♪」
上機嫌で歌を歌いながら、キュッキュッキュッキュッと懸命に像を磨くシーナ、毎日毎日、話しかけながら磨き続けた結果、いつしかその声は天龍王アメデの耳に届いていた。
「「地龍王クライルスハイムの娘か・・・いつか会って見たいものよ」」
ここより遠く離れた天空城でそう呟いた天龍王アメデ。
すると天龍王の隣りに居た天龍の女性が「「多分その前にその子と私が会っちゃいますねお父様」」と天舞龍リールが笑いながら話し掛ける。
「「むう、羨ましいのう」」と少し悔しそうな天龍王アメデだった。
「「では!行って参ります!お父様」」
シーナの運命を大きく変える事となる天舞龍リールがピアツェンツェア王城へ向かうべく空に飛びたった。
片腕の王女シーナの運命が大きく動き出そうとしている。