新緑のアリーセ編 9話 「大晩餐会の始まり」
あまりにも感情が、静かになり過ぎた母親のシーナを心配するアリーセだが。
「大丈夫ですわ、シーナは皆様が思ってるより弱くないですから」
シーナの双子の妹のラーナ王女殿下がアリーセの頭を撫でながら宥める。
「ラーナ様!ママに何があったかアリーセには教えて下さい!」
ラーナはアリーセにそう懇願されて少し困った様に考えてから、
「シーナは敵を討ちました。・・・やはり人の命を奪う事に抵抗感と嫌悪感があるので落ち込んでいます」ぼかして話しをするべきでは無いと考え正直に話す。
そう教えられてアリーセも少し考え込んでから、「やっぱり戦いは大嫌いです」と呟いた。
「シーナが帰って来たらたくさん甘やかしてあげましょうね」
「・・・はいです」
こう言う時は、必ずエレンがシーナの精神的な支柱になっていたが、今の彼女は大事な産休中だ。
エレン不在が重くのし掛かるが、エレンのお腹には妹のリリーアンナが居る以上は、
精神的な負担を彼女に掛ける訳にはいかない。
娘の自分がしっかりしなければ!と気合いを入れるアリーセ。
アリーセはそう考えて今回の大晩餐会は経験になる!と考え方を改める。
フンッと気合いを入れる姪を見て、ラーナも気合いを入れる、今回の件に今日来る貴族が絡んでいるはずだからだ。
「ふふふ・・・私を本気で怒らせた事を後悔させて差し上げますわ」
今まで誰にも見せた事の無い力を解放するラーナ。
「龍気!姫さん、あんた・・・」
ラーナから発生した「天龍の龍気」に驚くガイエスブルク
波乱必至の大晩餐会まで後少し。
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夕方近くなり大晩餐会の参加者が中央大ホールに集まり始める。
貴族や王族は遅れて入場するのだが今回は様子が違う。
王族が座る席には既に王女ラーナが微笑みながら座っているのだ。
何故かアリーセも居心地悪そうに隣で座り、ガイエスブルクが呆れ顔でアリーセの後ろに護衛として立っている。
「姫さん、あんたやり過ぎだよ」ラーナに小声で話し掛けるガイエスブルク。
「うふふ、何の事でしょう?」とぼけて笑うラーナ。
ラーナは1番に会場入りをして、入って来る全ての参加者を龍眼を使い観察しているのだ。
ラーナを見てどんな反応をするか・・・現在は100名ほどの商人達が入場しているが別段、今の所は怪しい人物は居ない。
ラーナは笑顔の裏でさりげなく天龍の威圧を掛けているのだ。
そのおかげでラーナの存在感がヤバい。
今はラーナに話し掛けて良い時間では無いので遠巻きにラーナを観察してる商人達。
「おお!今日のラーナ王女殿下はいつにも増してお美しい」
「挨拶できる時間で無いのが悔やまれますな」
「ところで隣りに座る御令嬢はどなたかな?」
「事前の発表ですと、ヴィアール辺境伯家一門の子爵令嬢だそうですな」
「ほう、余りこう言う場に出たがらない家門が珍しいですな」
何も知らない商人達はキャッキャッウフフしているが、ラーナが実に物騒な事を考えているのを知る者はいない。
その内、男爵家と子爵家の人間達も集まり出して、あちこちで談笑が始まるがやはりラーナとアリーセが気になるのかチラチラと横目で見ている。
その中で1人の男がいきなり気絶した。
会場内が騒然となる中、
「あら、大変ですわ!至急救護室へお運びして下さいな」
ラーナが指示を出すと速やかに男が会場から運び出されて行く。
「先ずは1人目」ラーナは薄く笑う。
「ラーナ様!怖いです!」横目でラーナを見てアリーセが小声で叫ぶ。
今のは当然、ラーナが仕掛けたのだ、相手の悪意に対して5倍の天龍の威圧がカウンターで入るのだ、心の弱い者ならショック死しても不思議ではない。
普段のラーナは天龍の力を人前で使う事は無いが今日は別、シーナの仇を徹底的に狩るつもりだ。
その10分後、今度は男爵の男が気絶した。
「まあ!今日はどうした事でしょう!彼も早く救護室へ!」
騒然とした会場からまた1人脱落する。
「ウフフ、だんだんと黒幕が見えて来ましたわ」
「ラーナ様怖いですよ!ママ、助けて!」もう泣きそうなアリーセだった。
これまた当然だが、ラーナが言う「救護室」とは地下牢の「尋問室」だ、目が覚めた時には尋問官に囲まれていて悲鳴を上げる事だろう。
ここでの尋問官とは・・・まぁ、想像にお任せだが、多分そうだろう。
「でも直接捕らえれるのは、ここまで・・・ですわね、高位の貴族となると・・・、
後は尋問官の活躍とレンヌの帰りを待ちましょう」かなり悔しそうなラーナ。
「良かったぜ、シーナの様に敵の本丸突撃するんじゃないかと思ったよ」
まさかこのまま高位貴族に同じ事するのか?!と思っていたガイエスブルク。
「ママは突撃した事あるのですか?!」
「あるよ、盗賊の討伐依頼の時な、一歩間違えてたら死んでたぞ、あいつ」
「ママ・・・帰ったらお説教です!」
過去のシーナの無謀さに憤慨するアリーセ。
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大晩餐会が開始されるまで後1時間を切った辺りから、伯爵以上の高位貴族が会場に集まり出して各会場は盛り上がりを見せて、気絶してどこかに連れ去られた男2人の事は忘れられて行く。
今回は戦勝の慰労なので入場にそれぞれの名前を呼ばれる事は無い。
貴族達は好きな時に来て好きな時に帰れば良いのだ。
今日の主役達は騎士爵や将爵と言った者達で王族が入場した後に行進しながら入場する予定だ。
「ではガイエスブルク、アリーセの護衛お願い致しますね」
そう言いながら会場から一回退場するラーナ。
王族の入場の為に一回、国王ヤニックと王妃ファニーと合流するのだ。
「ああ、任せておけ」綺麗な騎士の礼をするガイエスブルク。
「師匠!カッコイイです!やっぱり王子様です!」
小声で大興奮のアリーセ、ガイエスブルクは美青年なので絵になるのだ。
ラーナが去り、こうなるとボッチのアリーセは寂しい・・・なんて話しにならない。
今がアリーセに挨拶出来る絶好の機会だ、すぐに周囲に人の輪が出来てしまう。
《師匠!助けて下さい!》
《修行だと思って頑張れアリーセ!》
実際に社会勉強の修行の一環だと思っているガイエスブルクは助け船は出さない。
《うう~、恨みますよ、師匠・・・》
一息深呼吸してアリーセは集まった人達と当たり障りない挨拶を始める。
集まった人達は商人が多いので格式ばった作法が必要ないのが唯一の救いだ。
しかし話し始めると、彼らの目的がヴィアール辺境伯家と商売がしたいとの話しなので、アリーセ的にも、結構地域の面白い話しが聞けて満足した。
商人達も貴族令嬢特有のツンケンさがない、このどこか「のんびりとおっとり」
とした、この子爵令嬢にかなりの好感を持つ。
アリーセも知らない内に商人達による熱烈なファンクラブの様な物が出来てしまう
未来を今はまだ知らない。
貴族達が全然来なかったのは、ラーナがまだ紹介してないからだ。
ヴィアール辺境伯家の一門だと思われるが王族から紹介もされて無いのに勝手に話し掛けるのはマナー違反だ。
その辺りもラーナは分かっているので、安心してアリーセを1人置いて退場したのである。
だが貴族達は横目でアリーセをロックオンしている。
ヴィアール辺境伯家門の美しい令嬢、特に下級貴族で同年代の子息を持つ者には嫁に迎えたいと思っている者は少なくはない。
既に従者達による熾烈な情報集め合戦は始まっている。
王妃ファニーがさりげなく、アリーセの情報を流しているので貴族達にも素性はすぐに知れ渡るだろう。
「本当に勘弁して下さい!王妃様!」
お見合いの姿絵が大量にアリーセの元に届き、悲鳴を上げる日は遠くはない。
そんな感じで時間が来て王族達が万来の拍手で迎えられる。
国王ヤニックを先頭に第一側妃が、次に第三側妃と続く、第二側妃は喪中なので後からひっそりと入場した。
「おや?王妃ファニー様とラーナ王女殿下は何処に?」
と皆が不思議に思っていたら・・・第二側妃の前に既に入場していた?!
「いや全然気がつきませんでしたな・・・」
「ええ・・・私もです」
今回の大晩餐会も側妃の地位向上の目的が有るので徹底的に目立つつもりはない、
その事が徹底している王妃ファニーとラーナだった。
「皆の者!今回はゴルド王国との戦いでの勝利を祝う大晩餐会に来てくれて私は大変嬉しくおもう!」
ワアアアアアアアア!!
ヤニック国王の口上で会場が大歓声に包まれる。
「さて!難しい話しは無しだ!これより戦場で特に功績が有った者に褒美と栄誉を贈りたいと思う!
3つの大扉が開かれて、それぞれの扉から正装姿の騎士と兵士が30人ほどに別れて行進しながら入場する。
ワアアアアアアアア!!
更に大きな歓声と拍手が鳴り響く中、行進は国王ヤニックの前まで来て止まる。
国王ヤニックは目の前に来て整列する騎士と兵士を見てひとつ頷いて、
「早速だが勲章の授与を行う!銀星一等勲章は・・・」
それぞれの名前と勲章が呼ばれて国王ヤニック手により授与されていく。
ここは詳しく書くと、とんでもなく長くなるので省略しよう。
結果、伯爵位が1人、子爵位が2人、男爵位5人が新たに譲爵された。
それから今回の反乱騒動でピアツェンツェア王国側についた元ゴルド王国貴族達の
爵位と領地が安堵された事が発表された。
これで本当の意味での戦後処理が終わったと言える。
「これより同盟国であるヴィグル帝国のエフレム皇太子を改めて紹介したいと思う」
中央の扉が開かれてヴィグル帝国の使節団が拍手の中に入場する。
そしてエフレム皇太子とヤニック国王が並んで立ちワインの入ったグラスを持つと、
「改めて紹介しよう!ヴィグル帝国皇太子のエフレム殿だ!」
ヤニックがエフレムに笑顔で促すと、
「私はヴィグル帝国の皇太子のエフレムです、今日この様な栄えある場にお招き下さった事を嬉しく思います」
静かだが良く通る声で簡単な挨拶をするエフレム、難しい口上はもう散々したので不要だと思ったからだ。
ヤニックもそれを感じ取り、
「では今日は良く食べ良く飲み大いに語り明かそうではないか!
ヴィグル帝国とピアツェンツェア王国に栄光あれ!」
それに続きエフレムが、
「ピアツェンツェア王国とヴィグル帝国に栄光あれ!」
「「乾杯!!」」
「!!!!!乾杯!!!!!!」総勢700名近くの乾杯の声で城が揺れた様に錯覚したと記録に残った。
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こうして始まった大晩餐会。
参加者は堅苦しい儀礼はもう終わりなので思い思いに食事を楽しんでいる。
当然ながら王族がいる中央大ホールには挨拶に来る人間で一杯なので、アリーセとガイエスブルクは謁見場の方に退避する。
少し離れているので比較的人が少ないからだ、舞踏会場は貴族女性が多くて怖いから行くのをやめた。
「美味しいです!」
地龍にしては珍しく食べる事が好きなアリーセは豪華な食事に大満足だ。
ガイエスブルクは護衛に徹している。
「師匠は食べないのですか?」
「いや、見てるだけで腹一杯になるわ、こんなの・・・」
右を向いても左をむいても、料理、料理、料理、食べなくても胸焼けしそうだ。
地龍なガイエスブルクだった。
この会場に来る人間は、謁見の間の見学と食事が目的なので騎士や兵士が多く、
皆んな黙々と滅多に食べれない料理を食べている
「俺達はこっちの雰囲気の方が合っているよな」
「そうです!」食いしん坊アリーセはまだまだ食べるつもりだ。
さあ次は?
とアリーセが料理を取ろうとしたら、ヴィグル帝国の第二皇子アンドレが死にそうな顔でやって来て、「やっ・・・やっと見つけた」と呟いた。
「なっ・・・なんで死にそうになってるです?アンドレ様」
「いや・・・ずっとお前の事を待っていたんだよ・・・」
「それは、ごめんなさいです、でも言い訳させて貰うと、とてもアンドレ様の近くに行ける様な雰囲気ではなかったです」
「だよなあ、途中で俺も気がついたよ」
こうして本来の目的である、アンドレ皇子に挨拶出来たアリーセだった。




