新緑のアリーセ編 8話 「廃港での戦い」
時を少し遡り、不審船の調査に大陸の南端の廃港の古屋に転移で飛んだシーナ。
転移陣の側にはレンヌの部下の天龍の少女アリスと言う名の女の子が居た。
まだ天龍になって日が浅く、経験を積む為に各地で情報収集の任務についてるとの事。
「シーナさんですか?!良かった・・・早く来てくれて、あたしではどうする事も出来なくて困っていました」
アリーセより少し年上に見える天龍の女の子、長い金髪に碧眼の実に天龍らしい見た目の可愛い女の子・・・思わず理性が飛びそうになった危険人物シーナだった。
「うっ!・・・こほん、レンヌさんより援護を要請されました、地龍のシーナと申します。早速ですがアリスさん、状況の説明をお願いします」
「分かりました!あっ・・・私の事はアリスと呼び捨てにして下さい、その方が嬉しいので」と笑うアリスは天朱龍ニームに良く似ている。
「はい!じゃあアリス、アリスはニームさんの親戚ですか?」
「そうですね、私はニーム様の子孫になりますね、えっと・・・確か15代目の子孫と聞いてますよ」
「ほえ!!15代?」これにはビックリのシーナ。
「龍種だと結構、私の様な人も多いですよ」・・・おお・・・さすが長命の龍種!
「ん?と言う事はアリスは見たままの年齢ですか?」
「そうなんですよ本当に13歳です、生粋の天龍と言っても竜種から進化した人達に比べて大分、劣ってますよね」
頭をポリポリしながらテヘヘと笑うアリスは明るい性格の様だ。
「あっ!そんな事よりシーナさん!大変なんですよ!」
そうなんですよシーナさん、ちゃんと仕事して下さい!この私の様にね!
「不審船は魔族の物でした、何かの取り引きをしてるんですけど、取り引きの相手は地龍だと思うんですよ!」
ピシッっシーナに緊張が走り、ホゲェーとしていた雰囲気が一瞬で変わる。
「アリスはここを私に任せて即時撤退です、転移陣には私が魔力を充填しますので、
レンヌさんに報告をお願いします」
予想していた最悪の事態だ、とにかくアリスの安全確保だけはしなければならない。
「でも・・・」任務放棄して良いか悩んでいる様子だ、なら・・・
「ではアリス、地龍の王太女のシーナの命令です、撤退して下さい」
「はっ!はい!了解致しました!」シーナの気迫に圧倒されたアリスだった。
魔法陣にアリスを転移させる為の魔力を充填して不審船の様子探るべく、古屋を出るシーナ、
「ではアリス、間違いなく絶対に撤退を!」念を押してから言い姿を消す。
「・・・シーナさんお気をつけ下さい」と手を合わせて無事を祈るアリス。
しかしアリスが見た目のまま、真面目な性格だったのが誤算だった。
「やっぱり直接見て報告してから!」
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地走駆は相手にバレるから認識阻害魔法を全開にして自分の足で走るシーナ、
厳しい修行の末、自力でも走るのが早い!1000mを40秒台で走れるのだ。
でも5000mほどでバテるけどな!
目標地点まで4500m、結構ギリギリだ、呼吸がかなり乱れて来た。
廃港まで300m地点で一回止まり呼吸を整える、普段から地走駆に頼り過ぎていた、
自分の未熟さを痛感して反省するシーナだった。
物陰から、エレンから譲り受けた双眼鏡で廃港を覗く、相手が地龍なら龍眼は間違い無く察知されるからだ。
不審船の周りには3人の魔族と・・・おそらくは地龍と思われる男が1人。
「何の取り引きでしょうか?」・・・ろくでもない取り引きだろうな、とは思う。
魔法の鞄から音を拾う魔道具を取り出して会話を盗み聞きする、多少の波の音やら風の音などの雑音が入るが問題ない。
「でも良いのか?こんな中古の魔導砲を新品の金額で、こっちは助かるけどな」
取り引きの物は魔導砲だった、やはりろくな取り引きで無かった。
「ああ、別に構わん、俺も最優先で武器が欲しいからな」
魔族と取り引きするのは気に入らないが背に腹はかえられぬと言った様子の地龍。
「まぁ、俺達には関係ないな、じゃあ俺達は行くぜ」
そう言いながら魔族の中型の輸送船に乗り込む魔族達、「ああ、またな」と面倒くさそうに手を振る地龍。
魔族が乗り込みすぐに不審船は廃港を出港して遠くに離れて行く・・・
「フウ、相手が減って良かったです」息を吐くシーナ。
まさかシーナもこの人数の差で斬り込むほど自意識過剰ではない。
割とビビっていたのだ、魔族を逃すのは業腹だが仕方がない。
「おい!武器が手に入ったぞ」地龍が声を掛けると双眼鏡の死角から10人以上の男たちが出て来た、「危なかったです!」と慎重になった自分を褒めるシーナ。
「地龍様、本当に貰ってもよろしいので?」
身なりはボロボロだけど貴族か騎士の口調の男が魔導砲を見て地龍に尋ねる。
「ああ、俺は復讐を果たせるなら何でも良いからな」
「復讐?」シーナは嫌な事を思い出す、ゴルド戦争の時にシーナが討ち取った地龍の事だ、その相棒が逃走中との情報を聞いていたからだ。
「おい!誰かいるぞ!!」急に男の1人が叫び、「えっ?!見つかった?!」と思ったが男達は全然違う方向に駆け出して行く。
するとすぐに「キャアー!」と女の子の悲鳴が聞こえて飛び出すシーナ!
絶対にアリスだ!と直感したからだ。
男達に囲まれて必死に抵抗するアリスだが、まだ身体能力は13歳の女の子、あっと言う間に取り押さえられて、男に顔を殴られる!
「きゃああ?!」
アリスの悲鳴を聞き更にニヤけたもう1人の男がアリスの腹を殴り頭を蹴り上げる!
フォン!異音と共にシーナの理性が崩壊する・・・暴走だ!
しかし地龍王クライルスハイムとの精神修行の成果で暴走を怒りに怒りを力へと変換して行く、凄まじい怒りによって頭の中はよりクリーンになる。
「隠蔽魔法を全て停止、全防御機能作動開始、戦輪陣開放、龍力開放、龍眼開放、地走駆開始!」戦斧を中段に構えてアリス目掛けて疾走するシーナ。
天舞龍リールが蒼い閃光ならシーナは薄緑の閃光を纏う!
龍力が加わった地走駆で一気に加速して音も無く男達に詰め寄り戦斧を振るう!
パパパパアーン!!戦斧一閃で4人の男の首が飛ぶ!
一瞬の事でまだ血は吹き出さない。
その首無しの男達をアリスに見せない様に片手で目を塞ぎ、アリスを殴り蹴り飛ばした男に、
ドスン!!パァアン!シーナの龍力の込めた前蹴りで男の頭が粉々に吹き飛ぶ!
すぐさま後ろに飛びのき、アリスを古屋の転移陣まで強制転移させる、
アリスは何が起こったのか全く理解出来ないままにピアツェンツェア王城に転移させられた。
一瞬の出来事で何が起こったか理解出来ず棒立ちの男達を見逃すほど戦場は甘くはない、残りの男達に展開中の戦輪陣が容赦なく襲い掛かる!
「ぎゃあああ??!!」ズババババ!!!シーナに1番近い位置に居た男が全身をザクロ状態にズタズタに切り裂かれる!
しかし、それなりに手練れだったのだろう、他の4人の男達は何とか戦輪陣から逃れたが全身傷だらけの満身創痍になっている。
それを呆然としながら見ていた地龍の男がハッとして、
「なっ何だ?!テメェ何者だ?!テメェ地龍だな?!」
と叫ぶ、今のシーナは銀仮面装備なので地龍の男には目の前の地龍の女が相棒の仇と分かっていない。
「そうですよ、お久しぶりですね・・・」
銀仮面を外し素顔を晒したシーナを見て衝撃を受ける地龍の男。
「てっテメェだったのか・・・そうか丁度良い、俺の名前は・・・」
「ああ、結構ですよ、貴方の名前なんて興味もありませんから」煽りまくるシーナ。
「さあ!お互いに地龍らしく戦いましょう!」上段に戦斧を構えるシーナ。
「じょっ上等じゃねぇかぁ!!!」龍化して襲いかかる地龍だが怒りと焦りの余りに最悪の悪手を選択した事に気がついていない!
シーナは振り下される爪を難なく右に一歩踏み出しかわして、
バシュン!地龍の男の手首を斬り落とす!
ドォン!!斬り落とされた手が地面に落ちる。
「「グガアアアアア!!!!」」地龍の男が痛みの絶叫を上げた。
人間相手なら龍化して襲うのは有効なのだが、
同じ地龍の武器を持つ相手に素手で向かうなど無謀も良い所だ、龍の姿でも人の姿でも龍種の戦闘力に大差がないのだから。
ただ若干防御力が上がり速度が低下する。
「炎弾!!」ズドドド!!!「グアアア!!!」
間髪入れずに超至近距離からの炎弾の10連射だ!胸の鱗と血が無数に飛び散る!
「「グッ?うううううう~ー」ヨロヨロと後ろへ後退する地龍の男。
逃がさん!とばかりの「炎槍!!」追撃で炎槍5本が襲いかかる!
地龍の男は何とか4本はかわしたが1本の炎槍が男の右肩に深々と突き刺さり、
「はあ!」とシーナの気合いと共に、
ゴオオオン!!炎槍が爆発する!男の右腕と右肩は吹き飛んでしまった。
「「まっ待て!降伏する!」」男は龍化を解き地面に大の字になり寝転び降伏の意を示すがシーナに油断は無い!
「炎槍!!」ズドドドド!!!ガガガガ!!
「あああああ???!!!」
4本の炎槍が地龍の男を地面縫い付けて更に「樹縛陣!」ユグドラシル直伝の捕縛陣で魔法の蔓が男をぐるぐる巻きにしてしまう。
これで地龍の男は完全に行動不能になった。
「降伏・・・ですか?
私は構いませんが父の地龍王クライルスハイムが何て言いますかね?・・・
今ここで私に討ち取られた方が良いのでは?」
「それでも!俺はまだ死にたくねぇ!!」男が泣き叫ぶ!
「分かりました、降伏を認めます」シーナは溜め息を付き・・・
そして次は男達を睨む!
「ひいいい!!」男達はシーナの目を見て怯えて竦み上がった。
その赤く変色した目には明らかな憤怒が宿っていた・・・
「アリスを傷をつけた貴方達は絶対に許しませんよ?ここで死になさい!」
そう言いながら戦斧を一振りすると、ゆっくりと男達に近寄るシーナ。
「ひいいい」全身傷だらけで情け無い声を出しながら後退る男達、地龍の威圧をまともに受けているのだ、恐怖の余り失禁している者も居る。
その時「そこまでですよ、シーナ殿」とシーナの肩にポンと手を掛ける魔族の男。
スペクターの姿をしたオーバンだ、いきなり目の前に強制転移させられて来たアリスに事情を聞き、慌てて転移して来たのだ。
「ひいいいい???スペクター???」
もう男達は恐慌状態だ!地龍に加えて上級魔族スペクターまで参戦して来たのだ。
自分達の命運が尽きたと実感するには充分だった。
「アリス殿は少し怪我をしてますけどピンピンしてますよ、天龍の防御力を侮ってはいけませんよ」と笑うオーバンを見て、シーナの瞳が元に戻って行く。
そんなシーナの様子を見てから、もう一度シーナの肩を叩きオーバンは男達に近寄って行くと、
「いいか?別にお前達を助けた訳じゃない、しっかりと裁判を受けた上で死ね!」
いつも優しいオーバンの目にも明らかな怒りが宿っていた。
仲間のシーナに人殺しまでさせる原因を作った者になど掛ける情けなど無いのだ。
その言葉を聞いた男達は絶望感で失神したのだった。
その後にすぐレンヌと天龍の龍戦士達が来て男達と地龍の男を拘束して「天空城」に移送された、罪ある者に容赦が無い天龍達の拠点だ、どうなる事やら・・・
「シーナ、貴女は大丈夫?」レンヌがシーナを心配して声を掛けると、
「やっぱり思う所は有りますけど大丈夫です」笑うシーナだがやはり元気は無い。
レンヌは溜め息をつくと、
「シーナには建国祭が終わるとヴィアール辺境伯領にラーナとファニーの里帰りの護衛に付いて貰います」
そう告げたレンヌにも、黙って頷きなざら話しを聞くシーナの精神状態が悪いと感じられた。
いつもなら大喜びしそうな物なのに・・・
シーナの祖母のスージーの言う通りに、地龍とも王家とも離してヴィアール辺境伯領で休息が必要だろう・・・
そう・・・それならば、
「それから、アリスにはシーナの侍女になって貰います」
アッサリと仲間を売るレンヌ。
「ふえ?!」ようやくいつもの反応になったシーナ。
「天龍は受けた恩を返さないと死んじゃう特性がありますからね」
「そんな特性、絶対に無いですよね?!」
「1番の理由はアリスにヴィアール辺境伯領で見識を深めて欲しいからです」
「物騒な物言いで無く最初からそう言って下さいよぉ!」
こうしてシーナは可愛い金髪の少女侍女をゲットしたのだった。




