新緑のアリーセ編 6話 「皇子アンドレ」
「あなた!ここで何をしているのですか?!」
アリーセの誰何にビクッとなる少年、ゆっくりと振り向いてアリーセを見て、
「はあ~、なんだよ~、ガキかよ~、びっくりしたぜ」と安堵した様子の少年。
はい!カッチーン!ですよ!
「誰がガキですか?!」いきなりのガキ扱いに当然怒るアリーセ。
「いや、お前ガキだろ?」アリーセを指差して再度のガキ発言の少年。
はい!ムッカー!ですよ!!
「ふ~んそうですか?じゃあ大声で悲鳴上げてしまいますね?」
そう言うと大きく息を吸い込むアリーセ。
「ちちちちょっと待てってば!」少年は慌てて思わずアリーセの口を優しく塞ぐと、
「悪かったよ!お前はガキじゃない!立派なレディだ!」
アリーセを何とか宥めようと必死になる少年だった。
ハッとした少年はすぐアリーセの口から手を離して、
「な?悪かったよ?大声出さないでくれよ、それに口塞いで悪かったよ」
懇願と謝罪をする少年をジト目で睨むアリーセ。
するとアリーセは溜め息を一つ吐き、
「まあいいです、女性に乱暴を働かない所は好感が持てます」
「本当か?じゃあ・・・」
「でも貴方の正体と目的は話して貰いますからね?これでもあたしは警護の人間ですからね?こんな夜遅くに何してたですか?」
「えっ警護?お前が?」アリーセの言葉に驚く少年。
「貴方はガキと言いましたが、あたしはこれでも80歳ですからね?」
「えっ?80歳?お前・・・まさか・・・」ニヤリと笑うアリーセに向かって・・・
「お前!精霊様なのか?!凄え!」との少年の言葉にガクッとするアリーセ。
「ちょっと違いますけど・・・まぁ・・・似たような者です。
分かりましたか?子供につく嘘は通用しませんよ?ここで何してたか、貴方が誰なのか、話さないと人を呼びますよ?」
「おお?!凄え!精霊様って俺初めて見たぜ!髪や目の色からして・・・木の精霊様なのか?!」興奮して、アリーセの話しを全然聞いてない少年だった・・・
「それにちゃんと見るとお前って、凄え美人だよな?!精霊様ってみんな、お前見たいな美人ばかりなのか?!」
「び・・・美人?!」いきなりの少年の猛攻撃に顔が真っ赤になるアリーセ。
どうやら少年は思った事をそのまま口に出すタイプの人間の様だ。
「その綺麗な髪って自然になるのか?!まるで絹の様な綺麗な・・・」
「まっ待って下ひゃい!」あまりに恥ずかしくて思い切り噛んだアリーセだった。
「とっとにかく!貴方の名前、教えて下さい!」
「ん?俺はアンドレだぜ?」と答えたアンドレにアリーセの動きが止まる。
・・・・・・・
「ヴィグルの王子様が何してるですかー?!」
なんと少年はヴィグル帝国のアンドレ王子だったのだ。
皇子アンドレは変装のカツラを取ると憲兵の情報通り銀髪だった・・・のだが
本の王子様と違いかなりの短髪だった、この事にアリーセは少しショックを受けた。
でもまぁ、男らしいし、清潔感もあるからこれでも良いのかな?そうですね!良いですよね?!
と無理矢理そう思いアリーセは、一応はここで何をしていたか説明を求めると・・・
「なるほど・・・暇だったから散歩にですか・・・」
「だってよ、せっかくピアツェンツェアに着いたのに退屈な式典ばっかりでよぉ、
それがやっと終わったと思ったら即解散で部屋に待機だぜ?」
「皆さん長旅で疲れているので仕方ないです、明後日は美味しい食べ物たくさん食べれますよ?・・・アンドレ様は疲れてないのですか?」
「1時間寝たらスッキリだぜ!」と笑うアンドレに呆れるアリーセ。
アリーセが本で読んだ王子様と全然違うアンドレ、学園の悪ガキと変わりませんよ!
と思うがどこか親近感は湧く王子様・・・
「それよりお前の名前を教えてくれよ!木の精霊様!」
「あたしの名前はアリーセです、それからあたしは木の精霊でなく「樹龍」です、
似ていますが一応は間違えないで下さい」
「えっ?!お前・・・龍種なのか?」・・・「はいそうです」一瞬の沈黙の後、
「スッゲエ!俺!龍種様に初めて会ったぜ!」また大興奮のアンドレ。
「樹龍様ってあれだろ?!地龍王様の眷属なんだろ?!凄え!俺、神様と会っちまったよ!凄え!尊敬するぜアリーセ!」
「全然尊敬してる様に見えないですよ!でも名前はそのままアリーセと呼んで下さい
「様」とか付けられるの嫌いなのです」
「分かったぜ!アリーセ!」
この皇子様、少し変わってる?と思うアリーセ、なぜか気になるのだ。
人はそれを「一目惚れ」と呼ぶのだが。
「でもなんでアリーセは警護の仕事なんてしてるんだ?地龍様って神様だろ?」
人間にして見たら当然の疑問なのだが・・・
「神様は人間が決めた定義なのであたし達には関係ないです、あたしは自分を神様だなんて思った事は一度もないですよ。
警護の仕事はあたしのママのお手伝いです、後は修行の為です」
「へー、授業で習ったのと全然違うんだな」かなり知識に吸収力があるのか簡単に納得してしまうアンドレ、意外と大物なのかも知れない。
「アンドレ様は学校に通ってるのですか?」その質問に初めてアンドレの表情が曇る
「通ってたんだけどな・・・戦争が始まっちまって隠れていた」
「ごめんなさいです」・・・「いいよ、悪いのはゴルドだからな」
戦争が始まった時から辺境の山に疎開していたそうだ。
こんな感じで知らず知らずに2時間も楽しく話し込んでしまった2人だった。
アンドレ皇子がそんなに長時間不在なら、当然、周囲の人間は「皇子が居ない?!」と気づいて大騒ぎな訳で・・・
《警戒中の各員へ緊急通達!ヴィグル帝国の第二皇子アンドレが行方不明との事よ!
捜索隊が出るので可能な限り協力する様に!》
やはり警備隊長の天龍レンヌから思念波での緊急事態速報が発せられた!
「?!!!!たたた大変です!まま!ママー?!」
《はい!ママですよ、アリーセちゃん聞きましたか?緊急配備命令が出たから一回戻って来て下さい!》
「ちっ違うのです、ママ!アンドレ様はアリーセと一緒にいます!」
《ん?どう言う事かしら?アリーセ、詳しく説明出来る?》
だから思念波は全龍種のチャンネルだと何回言えば・・・レンヌに丸聞こえだって。
「えっえっと、アンドレ様は散歩しに外に出ています!」
《うん、それで?》
「それで迷子になって、あたしが話しかけました!」
《うん、状況は分かったわ、それから?》
「・・・なんか話しが盛り上がって2時間話し込んでしまいました・・・」
ちゃんと正直に言えるのは偉いぞアリーセ!シーナとは違うね!
《分かったわ、そう言う時はちゃんと定時連絡で報告しなさいね?》
「はい、ごめんなさいです・・・」
《はい!皆んな、聞いたかしら?緊急配備は撤回!アリーセはアンドレ皇子を連れて、ヴィグル帝国の使節団が宿泊してる客室に行く様に、以上です》
「了解しましたです」さすがに落ち込むアリーセだった。
《アリーセちゃん、ママも一緒に行きましょうか?》
「だっ大丈夫ですママ!これよりアンドレ様を客室へ送ります!以上です!」
「よく分からないけど迷惑かけちまったよな?ごめんアリーセ・・・」
「良いですよ!あたしも話し込んだのですから!行きますよアンドレ様!」
こうしてアリーセの「深夜のドキドキデート」は終わったのだった。
「全然違いますよ!」・・・「少し楽しかったですけど」
アンドレを客室まで送り、定時連絡の失念について、天龍レンヌに少し説教されて、銀仮面の拠点の射塔へ戻ったアリーセ。
帰ってからはとにかく、シーナとユグドラシルの2人の母がウザかった。
「アリーセちゃん!アンドレさんの事どう思ってるのですか?」
「どうも思ってないです!ただ少しお話ししただけです!」
《アリーセ!まさかこのままアンドレ君に嫁ぐなんて事は・・・》
「嫁ぎませんです!」《ママ・・・泣いちゃいますよ?》「だから嫁がないです!」
「アンドレさんとは、どんなお話しをしたんですか?」
「大体は学園での出来事のお話しでした」大分疲れて来たアリーセ。
「それで?アリーセは皇子の事が好きなのか?」地龍君まで参加して来た?!
「違います!なんでそうなるですか?!」
この様なウザ絡みが30分以上も続き、アリーセはグッタリしたのだった。
その後は特に何事もなく夜が明けて、シーナ達は昼まで仮眠を取ったのだが、
その夕方に妙な事が起きた。
「南の沿岸に不審船?」
報告を受けた天龍レンヌが怪訝な表情になる、その報告書をオーバンに渡して、
「どう思う?」とオーバンの見解を聞く。
「この報告書だけでは解らないが警戒はした方が良いな。南方の監視態勢はどんな感じなんだ?」オーバンはやはり、南方の魔族軍の警戒をしてる様子だ。
「残念ながら手薄ね、誰か索敵魔法と転移魔法が使えて、隠蔽が得意な人物にいって貰うしかないわね・・・
でも急にそんな人物なんて・・・いるわ」
レンヌはその適任者の元へ訪れて、
「と言う訳で南端の沿岸部を調査して来て欲しいの」
「良いですよ」即答でアッサリ承諾したシーナ、なんで?
「お前あれだろ?明日からの晩餐会と舞踏会を逃げたいんだよな?」
「その通りですよ地龍君!正しく渡りに船です!今すぐ行ってきます!
地龍君とアリーセちゃん!留守番よろしくお願いします!」
「はっはい!ママ!頑張って下さい!」
「シーナは話しが早くて助かるわ、南方への転移陣は準備済みよ、
距離があるから、かなり魔力を消費するけど、シーナなら大丈夫よね?」
「全然問題無しです!」最近チート化して来たシーナだった。
「では!行って来ます!」と10分後には南方へ飛んだシーナ、早っ?!
「・・・ママ、1人で大丈夫かな?」と心配するアリーセに、
「あの子、最近は戦闘より索敵ばかりしているからね、索敵能力と経験なら龍種の中でも最高クラスよ」と笑うレンヌ。
「確かに!」とガイエスブルクも笑う。
「そう言えば、ママが戦ってる姿、アリーセ見た事ありません。」
あー、そう言えば私もしばらく書いた記憶無いですね、書きます?
「アリーセは戦いが嫌いです!」そっすね、君、戦い嫌いだったね。
「あっ!そう言えば、アリーセに招待状を預かってたわ」
そう言いながらアリーセに明日の大晩餐会への招待状を渡すレンヌ。
「あたしにですか?」不思議そうに招待状を受け取り中を読んで、「ええっ?!」と
驚いたアリーセ、「なんでヴィグル帝国から招待されるのです?!」と叫ぶ。
「んー?どれどれ」ガイエスブルクが招待状を確認すると、
「あの、アンドレって言う皇子からの招待状だな」不思議そうな顔になる。
「あー、ごめんなさい、それ原因は私だわ、使節団から昨日の女の子の事を聞かれて教えてちゃったわ」と頭をポリポリするレンヌ、それを聞き呆れるオーバン。
「あたし、どうすれば良いですか?」母2人が不在になった途端の出来事に不安になるアリーセだった。
「それなら私に任せて下さい!」何の脈絡も無く突然窓から現れた銀仮面姿のラーナ王女に一同はめちゃくちゃ驚いた!そりゃ驚くわ!
「えっ?あっ!ラーナ!貴方いつの間にその装備を?またサボってるわね?」
この登場は、さすがレンヌでも予想出来なかった、少し混乱している。
「今回のサボりはお母様公認ですよ、「どこかに逃げてなさい」ってこれを貸してくれました」とクルクル回るラーナ、公認でサボれて凄え嬉しそうだ。
「そっそうなの?もう!警備に無断で勝手に!」怒るレンヌ、当然だな。
「だから真っ先にレンヌの所に来たんですよ、そうしたら今の話しを聞きました」
正確にはレンヌにシーナの居場所を聞きに来たラーナ、タッチの差で空振りだった。
意識の共有にはある程度は相手の所在地を知る必要があるからだ。
「シーナが居ないのは残念ですが、アリーセの事は私に任せて下さいまし」
良い笑顔のラーナだが、アリーセとガイエスブルクは完全に固まっている。
なぜならば、アリーセとガイエスブルクはラーナとはこれが初対面だからだ。
ラーナはシーナと意識を共有していたので2人の事を大分前から知っていたのだが、
その事を知らない2人にしたら、突然王女が乱入して来てどうすれば良いのか全く分からないのだ。
「あっ・・・そうでしたわね、シーナの妹のラーナです、よろしくお願いします」
と頭を下げるラーナに2人も「あっどうも」と戸惑いながら頭を下げる。
「私がアリーセを晩餐会で1番の淑女に仕上げて見せますわ!」
「ママの妹さん、変な人です!」アリーセは心の中でそう思ったのだった。




