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隻腕の龍戦士修行編 5話 「イノセント・クーガー」

ピアチェンツア海軍の大型戦艦に乗り3日さすがにこのクラスの戦艦に喧嘩を売る者は現われず、順調に西の大陸の軍港に到着した夢幻だが・・・


「「「・・・・・・・・・」」」この艦の前に出港した戦艦に寝坊かまして置いていかれた幻夢、流石に反省して落ち込んでる3人、無言でトボトボと冒険者の陣へ向かう。


冒険者の陣屋に入った瞬間に巨大な気配を感じてハッとする、正面の机に笑みを浮かべた人間の男が座っている。


慌ててお辞儀をして冒険者ギルドの依頼書を提出する。

到着予定が2ヶ月過ぎているがシーナ達は冒険者だ自己の裁量で行動する者達なので誰にも咎められる事はないのだが早くしないと!との衝動に駆られる。


男は書類に目を通してそれを机の上に置き、

「到着が遅れるなら再度ギルドの判を貰いなさい」と一言。


「はっはい!」その一言でも背筋が伸びる!その背中に汗が落ちる!


「今後気をつける様に」と軽く微笑む。


3人は軽く頭を下げ「「「すみませんでした!!」」」と略式で礼をする、彼とは上司と部下の関係ではないので略式の礼の方が失礼に当たらないからだ。


応待したのは総隊長の名前はイノセント・クーガーSランクの冒険者だ、歳は30代後半で身長は190cmを越え肩幅はシーナ5人分はある巨漢だ、身体の筋肉も分厚い。


穏やかに見える気配に全然底が見えない、3人は初めて見た人間の強者に戦慄した!


「絶対に勝てない」と思った・・・

正直に言うと若い龍種は自分達が世界最強の種族だと思っている、実際にシーナ達もそう思っていた自分達は人間より強いと、しかし前にいる男には絶対に勝てないと身体、精神、全ての感覚が最大の警鐘を鳴らしている。


「仕事の話しの前にゴルド側にも少し厄介な奴等がいる様だ、いかに龍種の君達でも不覚をとりかねん相手だ充分に警戒する様に、マズイと思ったらすぐに撤退する事だいいな!命より大事な物なんてないぞ」

!!!シーナ達は直立不動のまま硬直した!


アッサリと龍種と見破られた上で自分達より遥かに強い者に「敵にお前達より強い奴がいる」とハッキリと言われたのだ。


ここで自分達の認識がいかに甘すぎたかを痛感した。


地龍王やノイミュンスターが今回こう言った事柄を教えないのは実際に会って思い知らないと理解が出来ないからだ、変に教えておかしな解釈をすれば命に関わる、その事はイノセントに会えば自ずと分かるだろうと・・・


「魔族でしょうか?」エレンが尋ねる、


「そうだ「スペクター」の1人だ強いぞ、だが奴はすぐ引くだろうな損得のみ関係だ、俺も少し突いたが顔を見るなり逃走されたよ、

問題は龍種だ、はぐれ者のな、自分の意思でゴルドに手を貸している、同じ龍種だからと情けなど掛けるなよ、死ぬぞ、向こうは殺しに来ているんだからな」

龍種の中にも当然、悪人もいる、そう言う者は「はぐれ者」と呼ばれる。


「それからSランク冒険者も金であちらで動いている、ここは文句は言えないな、俺達は自由民だからな、だが君達はまだ戦うな死ぬぞ、遭遇したら逃げろ」

暗にSランクには勝てないと断言されたのだ。


同じSランクのオーバンから圧力を感じ無かったのは単に彼が優しかったからだ、本気のスペクターとしてのオーバンを相手にしたらシーナ達は3分持たずに皆殺しになるだろう。


「訓練の為に戦場に行く」なんて馬鹿げた自分本意の愚考だろうか、既に自分達は死地に立っている、訓練どころか生きて帰れる保証なんてどこにも無い、

シーナはこの人間に龍戦士としての心構えを教えられてる気がしている。


「お前はまだ弱いから無理をするな」と「それを受け入れるのも戦士」だと。


今までは強く優しく守ってくれる存在からの教えだけだったが、今のイノセントの言葉は同じ戦士としての心構えだ、そこには甘えなど一片も無い理解が出来なければ死ぬだけだから絶対に覚えろよと。


「御教授肝に命じます」とシーナは深々と頭を下げエレンとガイエスブルクもそれに続く、

それを聞き本当に穏やかな気配になったイノセントは「やはりヤニックの娘だな」とニヤリと笑う。


「先ず君達の任務は偵察だ、偵察は死ぬと何の意味もないぞ、絶対に生き残って情報を持ってこい!

それから任務は2人ペアだ3人だと敵に見つかるリスクが上がる、1人は俺の所で情報の精査の任務だ人選は君達で決めろと言いたいが見た所ガイエスブルクが転送魔法が得意だな君には別の任務がある・・・これは拒否する権利が君達にあるがどうする?」


「その命令に従います」とシーナが即答する。


「よし!決まりだな、今日は休養だ休んで体制を整えるのも仕事たぞ」


「「「了解しました!」」」

シーナ達が反発もしないでアッサリと人間の指示に従うのは命令に不備を感じないからだ、余計なプライドなど地龍にはない命令が正しいならどんな種族の命令でも従う。


「よろしい!君達を歓迎しよう」とイノセントはニヤリと笑う。


こうして運命と言える出会いは終わったのだ、この後シーナに徹底的に取り憑かれる運命にある事をイノセントはまだ知らない。



手配されたテントで装備の点検をしつつ食事をする幻夢のメンバー、表情は暗い。


イノセントが「龍種でも食える時に食って力を貯めとけよ、敵には地脈を操る奴が居るからな、燃料切れになるぞ」と言う。

暗にゴルドについているのは地龍でお前達の優位性は無いぞと言われたのだ。


「はあー、あんな人間がいるなんて信じられないぜ」干し肉をかじりながらガイエスブルクが呟く。


「感知出来た範囲内でも私の15倍のエネルギーって」エレンが腕を摩る。


「私達って思い上がり過ぎてたんですねぇ・・・・」

シーナは手に持った干し肉をパクリと食べて動きが止まる。


「あー最初はキツイよな塩辛いから」とガイエスブルクが笑う。


するとシーナが小刻みに震え出した?


「シーナ、きつかったら無理に食べなくても良いよ」とエレンが水を差し出すと。


「おいっしいーーー♪♪♪♪」とシーナが叫ぶ!

そうして干し肉を頭の上に掲げて「私こんなおいしい物初めて食べましたぁ!」と大興奮した?!


「「なんだってーーーー!!!!」」と2人はハミング。


「なんで今まで誰もこんなに美味しい物を出してくれなかったんでしょうか?

私これならいくらでも食べれそうです!主食にしますよお!」


「「なんだってーーーー???!」」と更にハミング。


そうして美味しそうにモッシャモッシャと干し肉を食べ出すシーナに、


「シーナの味覚って・・・」


「そういや煮物ばっかり食べてたよな」


「味の濃い塩辛いのが好み?」とエレンがしょっぱい顔をすると、


「シーナこれどうだ?」とガイエスブルクがイカの塩辛を差し出す。


「なんかグニグニしてますね?」と不思議そうにツンツンした後パックンチョして、

「おいっしぃーー♪♪」と大喜びのシーナ


「「やっぱり」」


と納得するエレンとガイエスブルクだった。


「そう言えば子供の頃からケーキとか余り食べなかったものね」と超納得したエレン


シーナ達が冒険者陣屋に到着して10日が経ち少し心に余裕が出て来た幻夢の3人は普通に人間の力を認める事が出来ていた、そりゃ地龍ですからね、細かい事はいつまでも気にしません。


現在この方面のヴィグル帝国軍は予備戦力として部隊再編成と補給や訓練中で軍港に待機中だ。


予備戦力と聞くと主力外の低い能力の戦力と勘違いする人もいるが「次期主力戦力として投入予定」と言う表現の方が正しい、迫る戦線投入に向けて訓練と士気を高めている。


そうなると冒険者隊は暇な訳でシーナは持ち前の人懐っこさを全開してイノセントの元へ押し掛けて教えを乞うている、解らない事は聞くのが1番なのだ。


「えっ?イノセントさんはヤニック国王の仲間だったんですか?!」

イノセントの意外な事実に驚くシーナ。


「そうだ・・・自分の父親に国王はないだろ?あいつ泣くぞ?」


イノセントは慣れてくると冒険者らしい快活で明るいおじさんだったのでシーナはすぐに懐いた、どこかノイミュンスターに雰囲気も似ていたからだ。


「あーえへへへ、私は国王さん会った事が無いのでお父様と言う感覚が全然ないんですよ」とヘラリと笑うシーナ。


「会った事がない?なにやってんだ?あいつは、娘をほったらかして」


「いえいえ会いたがっていた国王さんの招待を私がお城に行くのが嫌で逃げまわちゃったから会う機会がなくなったんですねぇ」


そう言いながら笑うシーナを見て「変わった姫さんだな」とイノセントも笑う。


会って3日目にはこんな感じに打ち解けてしまった2人にエレンとガイエスブルクは呆れる。


しかし面倒見の良いイノセントはエレンとガイエスブルクにも稽古を付けてくれるので毎日一緒に押し掛けている。


「俺が前衛の戦士でヤニックが後方の魔導士だった、お前の親父さんはマジでヤバかったな」

そう言うイノセントは懐かしそうに外を眺めた。


「ほへー魔導士!龍種は魔導士がいないので興味あります!」


龍種に魔導は必要が無いが正解だ、龍種は魔法生命体なので魔法は息をするのと同じに使えるからだ。


魔導は魔法生命体でない存在が魔導回路の組み合わせで色々な魔法事象を起こす事だ。


魔導回路は多ければ多いだけ威力も上がるのだが当然魔力の消費も多く回路を描く難易度も上がる。


ヤニックは人間離れした魔力と「超思考加速」通常の200倍の速度で思考して最高難易度の省魔力魔法陣を描くこ出来たので極大魔法20連同時発動などをやってのけた。


極大魔法はかつてアスティ公爵領の城塞を消し飛ばした天舞龍リールのドラゴンブレスと同威力なのでそのブレスが20連同時発射されたと思うとその凄まじさが解る。


しかし代償としてヤニックの体内の魔導回路の96%が焼き切れて二度と極大魔法を放つ事は出来なくなった。


かつての黙示録戦争で人類が魔族に勝利する決定打になった事でその犠牲は報われたのだが。


イノセントはその時いた58名の勇者の1人として参戦し前魔王にトドメを刺した人物である。


「凄い話しでした」話しを聞き終えて呆然としてるシーナ。


「今の話しが世間にほとんど伝わってないのは何故なんでしょう?」とエレンは不思議そうだ。


「うーん・・・参戦した勇者58名中47名の死者を出したのが最大の理由だな。

同時にこれだけ勇者の力が衰えたのが世間に知れると大乱の時代になっちまうからな何せ今回の戦争もあの戦いが影響している、勇者がいないヴィグルなど恐れるに足らずってやつだ。

龍種に伝わってないのは龍種が世界の番人だからだ世界が乱れる様な話しは広めない」


「俺らって本当の井の中の蛙なんだな」ガイエスブルクが溜息をする。


「でも天の青空を知れば良いってやつだ知らないなら知れば良い、これからな」


そうニカッと笑うイノセントだが47人もの仲間を失って悲しくない訳がない、今回の参戦も友人だったヴィグルの勇者の死が原因だったからだ、友の代わりにヴィグルを守ってやりたいと、そうシーナには感じられた。


そんな話しをしていると「隊長!軍から情報分析の依頼書です!」若い冒険者が飛び混んで来た。


イノセントは書類を見て「ゴルド軍が南に進軍?」と呟くと考えこむ、イノセントも20倍の思考加速持ちだ、考えが終わり若い冒険者に、

「軍の司令官に伝えてくれ、敵軍の狙いはここ軍港だ、防御を固めるべきとな」

「了解しました!」と外に駆け出す若い冒険者。


「と言う訳だシーナお前達にも存分に働いてもらうぞ」といよいよ敵が来るぞとイノセントが笑う。


「はい!了解しました!」一気に気合いが入ったシーナ。


「ところでパーティの名前もう「シーナ」で良いんじゃないか?「幻夢」ってなんか呼び辛いんだよな」


「嫌ですよ?!」なんて事言うんだ!て感じのシーナだった。


軍港内部が急激に慌ただしくなる。

ピアツェンツェアの戦艦5隻が出航し沿岸線の警戒にあたり、3隻は軍港に留まり即応艦隊とすると決まった。


駐留軍の総兵力は25000名強、3000名は軍港の守備に残り22000名がゴルド軍の迎撃に向かう。

冒険者隊は現在1500名ほど偵察任務にあたる、

軍港南にある小規模城塞に元々いる守備隊2000名はのこり即応戦力になる。


対するゴルド軍の総兵力は17000名と少ない「貧乏くじ引かされたな」とイノセント、しかし兵力としては脅威なので油断は出来ない。


現在の敵軍の位置は軍港より北25kmを南下中、明日には会敵予定だ。

会敵場所は軍港の北3kmにあるパンツィトワ川だ両岸に陣を取る事になるだろう。


「示威行為に駆り出されたんだろう」とイノセントは分析する、となれば敵も積極的には攻めては来ないが油断は禁物だ、冒険者隊が不審なところがないか偵察監視をする。


万全とは行かないがまずまず良い戦闘体制を築けたはずだ。


「今回シーナ達は後方偵察だ、先ず戦場の雰囲気に慣れろ、渡河しようとする一団がいればガイエスブルクに念話を遅れ、ガイエスブルクは各隊に指示の手紙を送る係だ・・・油断だけはするなよ?」


「「「はい!!」」」


自分達のテントに戻り戦闘準備をする。


シーナは偵察に不向きとしてプレートアームは外して普通の義手に取り換える、胸の甲冑は外してレザー製の胸当てに変え、武器は中剣と短剣を装備する、下は乗馬用のズボンに変え靴は普通の軍靴に交換だ。


完全に斥候用装備だ不用な物は一切付けない。


エレンも同様の装備だ、ガイエスブルクは魔力増強用のアクセサリーを多く装備する。


かなりの重圧と緊張感がテントの中を包む、参戦を決めた日とは全然違う。


「やっぱり本物の戦場なんて実際に来ないと分からないよな、2ヶ月前の俺を殴りたい」とガイエスブルクが苦笑する。


「私もよ、ほら」エレンが見せる手は震えている。


「フー」シーナは無言で深呼吸を繰り返している。



「出陣!!!」


軍団長の号令で外の兵士が移動を開始する、ゆっくりと歩いているのだが2万以上の兵士が一斉に移動をすると地面が小刻みに振動で揺れている。


感じる地脈も今まで感じた事の無い波動を放っている、怒り、不安、恐怖などの負の波動だ、とても食べれる物じゃない、しっかりと食えと言ったイノセントの言葉を思い出す。


「戦争が始まるね」とシーナが呟く。


偵察任務とは言え未熟な隻腕の龍戦士の初陣が迫っていた。


初めての戦争を前に討伐とは全然違う異様な雰囲気を感じるシーナだった。

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