ユグドラシル編 7話 「初仕事と樹龍アリーセ誕生」
そんな事務的な冒険者登録を終えたシーナは仕事内容が書かれた実に事務的な掲示板を眺めていた。
「ほへー色んな仕事があるねー」それでもシーナは掲示板に興味津々だ。
「シーナはFランクだから受注出来る仕事は少ないけどね」エレンもそれぞれの内容を確認している。
Fランクの仕事は簡単な採取とD、Eランク者の戦闘以外のサポートやポーターなどで討伐系の仕事には参加出来ない。
大体のFランクの者はポーター(運送)の仕事をする為の資格が目的で冒険者として活動している者は少ない。
「むーこれじゃ実戦経験なんて積めないじゃん」これは低ランク冒険者の保護観点での決まりなので仕方ない、むしろ今のシーナの様な考えの者を抑制するのが目的だったりする。
「とりあえずオーバンと一緒に仕事するしかないな、俺はしばらくはオーバンと組むよ」とガイエスブルクの方針は決まっていた様子だ。
「そうなの?」
「ニームのお姉さんから監視のお願いもされてるからな」
「ああ、そっかなるほど」
ガイエスブルクの話しにシーナは少し考える、Sランクのオーバンと一緒なら何かとやり易いからだ。
「オーバンはこれからどうするの?」とりあえずオーバンの考えを聞かないとどうにもならない。
「私はスカンディッチから遠くに出る事は出来ませんので地龍王様の山で採取と魔物の間引きが主な仕事になりますね」
Eランクに上がらない事には話しにならない、オーバンの仕事の手伝いをするしかない、「分かったあたしもオーバンと一緒に行動するよ」とシーナは決める。
「では私も同行します、シーナ殿と同じFランクですからね」マッテオもオーバンと一緒に行動するつもりらしい。
「えーじゃあ私も行くよ、さすがにボッチは嫌よ」
結局はいつも通りのメンバーでいつも通りの行動をする事になった。
それからギルドにパーティ申請をして、チーム名は「幻夢」オーバンが申請した新しい冒険者名でもある。
身を隠しているのに目立つのでは?と思うかもしれないが「幻」の偽名を持つ者が多いので逆に目立たないのだそうだ。
「とりあえずココの実採取から始めます」とオーバンが初仕事の内容を説明してくれる。
「ココの実って?」
「地龍王の山」の頂上付近にある鎮痛剤に使う実だよ、Aランクからしか受けられない特別クエストだよ」何せ地龍王の山に入るんだからね、とエレンは笑う。
シーナも山の頂上付近には行った事がなかったので少し楽しみになっていた。
するとチームリーダーのオーバンが仕事内容の説明を続ける。
「とりあえず最も気をつけなければならないのは地竜です、とは言え皆さんには襲ってこないので神経質にならなくてもいいですね」
「なんで?」
「お前自分の同族と戦うつもりかよ?」
「あっそっか」ガイエスブルクが呆れた目でシーナを見つめて、気まずいシーナはソッポを向く。
地竜とは地龍の幼生体で100年ほど生きてから知性を身に付けて地龍に進化をする、エレンは地龍の両親から産まれたがガイエスブルクは地竜からの進化だ、産まれや成長の過程は違うが本質は同じだ。
なので地竜は地龍を襲う事は無い、跳ねっ返りが襲ったとしてもお尻ペンペンでお仕置きされるだけだ。
「なので気をつけるのは紫虫です、単体の強さはCランクですが集団で襲って来るので注意して下さい」
「オーガやゴブリンも居るんだよね、お城にも来てた見たいだし」
「城に来ていたのは龍種と同じ精神洗脳を受けた者達です、本来の彼等は人間と友好的です。
オーガの国とは国交もありますからね、対魔族同盟の一員ですよ」オーガ軍とは毎年合同演習とかもやりますから、とマッテオが言う。
「ほえーそうなんだ」
「お前、結構常識的な話しだぞ、山のゴブリンは山を管理してくれてるんだから喧嘩売るなよ」
「売らないよ」
「どうだか」疑惑の眼差しのガイエスブルク
「本当だよ」喧嘩売る気満々だったシーナは密かに反省するのだった。
そこである違和感に気がつく。
「それじゃこの国の敵って誰なの?」
「人間の敵は人間ですね、いつの時代でも」苦笑いのマッテオだった。
「今回は集団戦の訓練ですので隊形を決めて移動します。
先頭からマッテオ殿、シーナ殿、私、エレン殿、ガイエスブルク殿の順で、討伐のポイントをマッテオ殿とシーナ殿に稼がせたいので他はサポートでお願いします」
「Fランクは討伐禁止じゃない?」
「そこはスカンディッチの冒険者ギルドですので」
「なるほどね」
つまり不正は握り潰しますという事だった。
とりあえずシーナがスカンディッチの外で冒険者として活動する為には実績が必要で手っ取り早くランクアップするには魔物との遭遇戦で討伐ポイントを稼ぐ事だ。
魔物が向こうから来た場合には人間の規定の意味はない撃退すればポイントはちゃんと加算される、もっともそれを故意に実行した場合ほとんど待つのは死だ。
ギルドもそんな規定を守れない無謀な者まで保護はしない。
シーナとマッテオはAランク相当の実力を保有しているから実行出来る裏ワザだ。
「そう言えばエルフって見た事ないなぁ」ふとシーナが呟く。
「エルフの領域は南の大陸だからね、わざわざ船で大航海してくるエルフはいないね、冒険大好き人間は逆バージョンをしてる見たいだけど」エレンは南の大陸の出身だ。
「人間が南の大陸に行くとエルフは嫌がらないの?」
「嫌がると言うより奇特な奴等だと呆れられる見たいだよ、一応歓迎はしてくれてるエルフの国は文明国家だからね、理不尽な排除はしない」
「エルフの国は発展してるんだ?」
「してるよ、ピアツェンツェアよりも大きくて文化的だね、本国の方がハイテクノロジーだけど」
「エレンってエルフの国に行った事あるんだ?!」
「私は南の大陸産まれだよ、エルフの友達も沢山いるよ」
「ほえーそうなんだ」
「ああ!!だからエレンのお姉さんは白龍なんだ」
納得した感じのガイエスブルク、南の大陸には白龍が多い、理由は気候や土壌が関係してるらしい、自分の受け継いだ知識には無い知識の多さに世界は広いと思うシーナだった。
他種族の知識が乏しいのは地龍王があまり関心が無かったせいでもある。
考え込んでるシーナを見てエレンが、
「今度南の大陸に行こうか?」提案する。
「え?良いの?」
「良いよ、南の大陸は地龍達の集落も多いから多分許可が降りるし私も里帰りして両親に会いたいからね」
「エレンお姉さん、俺も連れて行ってくれ」ガイエスブルクも乗り気な様だ。
「Okだよ、今度申請しておくよ」
地龍3人が盛り上がっているのを見て男2人は、
「流石に私は行けないな南の大陸は遠過ぎる」
「私もだな」と苦笑する男達だった。
君達、南の大陸に簡単に行くって・・・ネタを考えて書くの私だからね!頑張ります
早速そのままの足でココの実採取の名目で山に実戦訓練とポイント稼ぎに「地龍王の山」に入った幻夢の一行。
早速お目当ての紫虫の襲撃を受けていた、襲撃をお目当てと言うのもどうかと思うが。
紫虫は紫色した「でかいカマキリ」と思ってくれて良い、体長は1m前後で固い甲殻を持ち両手の鎌の一撃は強力だ、動きは早くないが10匹程度の群れで攻撃して来る、雑食で知識は乏しく30m越えの龍種ですらエサと思い攻撃してくる好戦的な魔物だ。
10日サイクルで200個ほどの卵を産卵するので定期討伐しないと無限湧きしてくる世界共通の害虫だ。
その為しばしば戦争にも利用され敵陣に紫虫を誘導して突撃させる戦法なども軍学校の教練の一つになっている。
討伐の方法はとにかく倒すしか無い、最後の1匹になっても突撃してくるほどの馬鹿だからだ。
「シーナ!右から2匹!マッテオ!左からも2匹!」
「「了解!!」」
前衛のシーナとマッテオが戦い、オーバンは周囲警戒、エレンが戦闘指揮、ガイエスブルクは魔法での支援と後方警戒が今回の隊形だ!
ガキーン!カーン!カーン!
紫虫の甲殻を叩く音が山に響く、マッテオはさすが元軍人だ最効率で紫虫を始末して行くがシーナはやはり無駄が多い。
「シーナ!1匹倒してから慌てて次に行かない!距離を取って!」
「はい!」
「エレンお姉さん!後方から新手が15匹だ!」
「了解!オーバンは前衛に!シーナとマッテオは後方に!」
「「「了解!」」」
徹底的にシーナとマッテオのみに戦わせる作戦だ残敵はオーバンに任せて数が多い後方へシーナとマッテオが走って行く!
ガン!カーン!キィーン!キン!カーン!
戦斧を自身を回転させながら振り回す「旋風撃」シーナが得意な技だ5匹の紫虫が吹き飛ぶ、動体視力と身体の柔軟性が必要な斧使いの基本技だ。
シーナはとにかく基本技を大事に鍛錬を続けている、地龍王の教えを忠実に守っていた、
「よし!今の立ち回りは良いよシーナ!」
初の実戦はシーナが12匹、マッテオが25匹、オーバンが5匹、ガイエスブルクが2匹、エレンが1匹のピッタリと紫虫を50匹撃破の結果だった。
「むー」
想像よりかなり酷い結果にシーナは深く考え込んでいて周囲は放置している、1人での反省も重要だからだ。
「シーナの事みんなはどう見る?」エレンが幻夢のメンバーに質問する。
「力み過ぎです」
「力み過ぎと思います」
「ガチガチに力入れ過ぎだな」
「だよねー」
とにかく初の実戦でシーナはガチガチだった、マッテオのフォローが無ければ怪我をしていた事だろう。
シーナも自分で痛感しているので猛反省中だ、訓練と実戦の違いを甘く見過ぎていた。
自分の戦いに対する考え方を見直す大事な初戦になった。
「では、ココの実を採取して帰りましょう」
目的のココの実を採取して初日の仕事は終わった。
次の日もココの実の採取だ、今日は5匹の紫虫を討伐したが後の後続が来ない。
「あー地竜に食われたな」ガイエスブルクが戦闘痕を見つけて頭を掻く。
「そうなの?地竜って紫虫を食べるの?」
「と言うか食べれる物ならなんでもだ、俺も地竜の時は紫虫を食いまくっていたからな」
地竜は成長期には大量の餌が必要なので何でも食べて良く寝る、つまり付近に地竜がいる証だ。
紫虫は害虫だが竜や大型の魔物には大事な栄養源だ、ちなみに味はスルメの様な味で人間の食卓にも良く並ぶのでそこそこの金額で売れる、昨日狩った50匹はしっかり売却済みだ。
「寝てるのを邪魔しちゃ悪いし今日は帰ろうか?」とエレンが言った瞬間!
ドオオオオオン!
と20m先に土煙が上がり土の中から体長5mほどの緑色の地竜が姿を現す!
「おお?」地竜はシーナに突進して来た、驚いて身構えたシーナの前2mで止まり、
「「キュウウウウン」」
と可愛い声を上げながら尻尾をブンブンと振った。
「お?お?おー?可愛い?」
「なつかれたな」
「「キュイキュイキュウン」」
「ん?なに?」
「初めまして、だってよ」
「この子もう地龍への進化の目前だね、進化の眠りの為に栄養補給中ね」
地竜の鼻先をエレンが撫でながら話し掛ける、地竜は気持ち良さそうにエレンに擦り寄って
「「キュイーン」」と鳴いた。
「そっか、あたし達の仲間だね!よろしくね、立派な地龍になるんだよー」
シーナが手を出すと今度は地竜はシーナの手に頭を擦りつけて、
「「キュイキュイキュイーン」」とまた鳴いた。
「シーナ、お前が名付け親になれよ」
「えっ?」
すると地竜は喜んで小さな翼をパタパタし出した。
「この子もシーナに名前を付けて欲しいって、あっ!この子は女の子ね」
「ええ?!えーと、んーと!!!!そうだ!アリーセ!どうかな?」
「「キュイーンキュイーン」」
嬉しそうにアリーセが鳴くとシーナの右目が淡く光りだした!
するとアリーセの体も強い光を放つ!
突然の事に唖然とするシーナ達、
するとゆっくりと光が収まってキョトンとしてるアリーセを見て・・・
「・・・地龍に進化しちゃった」とエレンが呆然としながら言う。
「「「ええええええええーーー??!!!」」」
山にシーナ達の絶叫がこだました。
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「地龍に進化しちゃった」エレンが呆然と呟いた・・・
「うええええ??!!」
「マジか?・・・うそだろ?」
「お?おおお・・・」
「本当ですか?!エレン殿!」
上から、エレン、シーナ、ガイエスブルク、オーバン、マッテオの言葉だ。
誰もが驚愕と言った表情でアリーセを見つめる、特に外見に変化は無いアリーセは目をぱちぱちさせて「「あっ!言葉しゃべれます!」」と辿々しく言った。
それからが大変だった・・・
こんな急激な進化で体にどんな悪影響があるか解らん!とエレンがテンパって龍化してアリーセを抱え爆走、今日は鍛冶屋で地琰龍ノイミュンスターと天舞龍リールの会合があると知っていたのでリールに診察して貰うつもりだ。
人の目の事をテンパって完全に失念してたエレンはスカンディッチ市街を地龍が地龍を抱えて時速100kmで爆走する「スカンディッチ、白い地龍爆走事件」と言う珍事件を起こす。
無論その後スカンディッチ伯爵に叱られて始末書を書かされた。
他の4人は1番足の速いエレン本気の爆走に全然ついて行けずエレン到着の20分後の到着だった。
ちなみに高速エレン号の本日の最高速度は時速150kmだった。
鍛冶屋で会合中だった2人はアリーセを見て、
「こりゃあ、たまげたのぅ、これは我も初めての事じゃ」
ノイミュンスターも心底驚愕していたからエレンがテンパったのも仕方ないのだ。
「じゃあ!徹底的に診察しよっか!アリーセ」とリールも前代未聞の出来事に興味津々だ、いそいそとアリーセを工房に連れて行く、部屋ではアリーセが入り切らなかったからだ。
この後2時間の診察が行われた。
そしてその診断内容に更に衝撃を受けた。
「先ずは身体の方ね!どこも問題なしの健康優良児!
それからこの子は広い範囲では地龍だけど正確には樹龍だから間違わない様にね」
「やっぱそうか、体の色からそうだと思った」最初からガイエスブルクはアリーセを樹龍だと思っていた様子だ、ちなみにシーナ、エレン、ガイエスブルクは「土龍」と言う種族になる。
「何で進化の眠り無しに進化したかは不明ね、最年長のノイミュンスターが驚く位だから誰にも解らない」とアリーセを撫でるリール、アリーセは気持ち良さそうにリールに擦り寄る。
「そうだのぅ、シーナの事でも初の出来事だからのぅ」
「ただノイミュンスターが何かを隠しているのは間違い無いから後で2人きりで話し合いね!」とノイミュンスターをビシッと指差すリール
「鋭いのぅ・・・まぁ、どうしても隠さなければと言う訳でも無い話しじゃな、初めてシーナを見た時にシーナにはユグドラシルの気配を感じたのじゃ、薄っすらとな」
「やっぱりね!そうだと思ったよ!なので仮説だよ!シーナのユグドラシルの気配とアリーセとの相性が良かったと思う、同じ樹属性だからね、それから地龍の王様の力が相互作用して進化を加速させた結果アリーセは進化の眠り無く龍種へ進化したと私は思うわ」
「でもなんでいきなりシーナと共鳴したんでしょうか?」エレンが不思議そうに首を傾げる。
「名前をつけたからだね!で、これが一番大事な話し、アリーセはシーナの眷属、つまりシーナの娘になったよ!」
「ふえ?!」突然自分の話しになり驚くシーナ
「シーナが名前を付けてアリーセと魂のレベルで繋がった、これは年齢とか関係なく上位者が下位者に能力の譲渡が行われた場合に上位者が親で下位者が子になる、地龍の王様とシーナの関係もそうだね、
つまりアリーセは地龍の王様の直系の眷属、孫になるね」
「ふええええ??!!」
「だからシーナは今後安易に名前付けとかしない様にね!ん?みんなどうしたの?黙り込んで」
「いや・・・さすがに我も話しに驚き過ぎてどう言って良いのか分からんわい」これは、どうした物か?と困惑しているノイミュンスター
「アリーセがシーナの娘・・・」何故か分からないのだがショックを受けるエレン
「私には次元が違い過ぎてどう反応していいのか・・・」言葉として理解出来ても意味が理解出来ない様子のマッテオだった。
「私もですね・・・この話聞いて良かったのでしょうか?」オーバンも困惑している様子だ。
「おめでとうシーナとしか」内心は俺の子供にもなるのか?!と未来予想図を頭で描くガイエスブルク
「「わたしシーナ様のむすめ・・・」」アリーセは嬉しそうだ。
「私の感想は「おめでとうシーナとアリーセ」の一択だね!
ただアリーセをここに置いておくのは反対だね、魔族に攫って下さいって言ってる様な物だからね!すぐにでも地下都市に保護するべき!ノイミュンスターはどう思う?すぐに決断が必要だよ?」
「そうだのぅ、人化も出来ないアリーセは危険過ぎてスカンディッチに置けんな、母子を引き離すのは気がひけるが直ちに本国で保護して学園で色々と学ばねばならんのぅ」
「「ママと一緒すめない?」」アリーセは泣きそうだ。
「ちゃんと人化とかの勉強しないとダメね、ママと住む為に頑張ろうね」
とエレンはアリーセを撫でながら励ます。
「「はい!ママとすむがんばります!」」方針転換の速さは流石は地龍だ!
「母親と違い素直だな、頑張れよ」ガイエスブルクもアリーセの頭を撫でる、この子が娘になるかも?と完全にテンパってるガイエスブルクだが表には出さない。
「いや!ちょっと!何でみんなアリーセとあたしが親子って簡単に納得してるの?!」シーナが両手を開いて前に出してブンブンと振る。
「「ママ・・・アリーセ嫌い?」」悲しそうにシーナに擦り寄るアリーセ
「いや好きだよ?!可愛いよ!でも親子って」
「「アリーセもママすき」」そう言いながらアリーセは頭をシーナの胸元に擦り付ける。
「ううっ可愛い・・・」
母性に近い何かが芽生えたシーナであった・・・さすがに11才児にまだ母性はないのだが、シーナ11歳、母になった日である。