ユグドラシル編 6話 「帰還して冒険者の登録して」
シーナが地龍達の都地下都市に来て1年が経った、最近は地龍王クライルスハイムが稽古を付けてくれる様になり充実した日々を送っていた。
地龍王クライルスハイムも我が娘の為にならと滅多にならない人の姿で相手をしてくれている。
人化したクライルスハイムは短い黒髪のダンディーな黒髭のおじ様と言った感じだ。
最初に会った時にエレンはクライルスハイムの余りの大人の魅力と色気に気を失ってしまった。
まだ幼いシーナ的にはカッコいいお父様にしか見えないのだが。
クライルスハイムから王城やアスティ公爵領の話しは聞いていたが「ほえーそなんだ」と完全に他人事の様だった、実際に相手が勝手に絡んで来て勝手に滅んだのだから本当に他人事なのだが・・・
しかしシーナが龍戦士の道を進む契機にはなった。
力と知識の開放も順調に進みシーナは体も心も大分大人じみて来て戦闘力も上がって来た、クライルスハイムの教えて方が上手いからだ。
グングンと伸びる身長は160cmを越えて一見すればまだ11歳にも関わらず15歳程に見える、小柄なエレンと並ぶと言うシーナが歳上に見える感じだ、まぁエレンが小柄で可愛い美少女過ぎるだけだが。
ちなみに双子の妹のラーナは現在身長140cm程で普通に子供だ、地龍となったシーナの成長が著しいだけかも知れない。
双子でもかなり成長の仕方に差が出ている、そんなシーナだがある深刻な悩みがあった・・・
「胸が大きくならない」と今日も鏡の前で悩むシーナ。
11歳の子供が何言ってんだ?と思うがシーナにとっては切実な悩みだ、何せ身長と胸との成長のバランスが悪い、もしかしてこのまま?と実に女の子らしい悩みに、
「身長と胸の成長は違うよ」エレンは言う。
女性の体の云々との事だが私にも全く解らんので詳しい事は母親か保険の先生にでも聞いて欲しい。
「むう・・・そうだといいけど・・・」
明らかに不満そうなシーナに苦笑するエレン、知識の開放が進んだがクライルスハイムの知識なので当然そんな女性の身体についての情報は無い。
他の地龍の女性にも聞いたがそもそも人化する事の少ない本国の地龍達は「胸?どうだったけ?」と要領を得ない。
「よし!スカンディッチに行って見よう!」と思い立つシーナ、
久しぶりの故郷への帰還が「胸の事について」との理由なのはシーナが人間の女の子でもある証明だ。
帰還の話しと理由をクライルスハイムに伝えると「子でも作るのか?」と明後日の回答が来たが一応の許可は降りた。
エレンは特に興味は無し、と言うか普通に結構スタイルが良いので地雷回避の為に余計な事は言わないだけだ。
裏技で変幻の魔法もあるのだが余計な事は言わない、碌でも無い事が起きる予感しかしないしね。
色々準備を整えてシーナがスカンディッチに到着したのは10日後だった。
「おおっ大きくなったのぅ」トムソン鍛冶屋に到着するとノイミュンスターが出迎えてくれて、いつものように頭を撫でてくれた。
「えへへへー・・・ふえええ」
ノイミュンスターの顔を見たシーナはさすがに嬉しくて泣いた、落ちつく迄ノイミュンスターが頭を撫でてくれるのが嬉しくて更に泣いてしまう。
いつもはそっけなくても育ての親の存在が凄い大きな物だと再確認できる。
そうして帰還の理由を聞いたノイミュンスターの解答が、
「なるほどのぅ・・・確かに深刻な問題だのぅ、体と生殖器官の成長のバランスが崩れると将来的に難産とかの可能性もあるのぅ、
しかし我は男だからこれ以上は詳しくは解らんからリール達に聞いて見るしかないのぅ」とかなり真面目な解答だった。
「そっそうなんですか?」
エレンが少し慌ててる様子だ、まさか本当に深刻な問題だと思ってなかったからだ。
「うむ、少し我も油断していた、シーナの体は成人少し前くらいに急成長したが生殖器官の成長は通常通りと言った感じだ、余り良い状態とは言えんかも知れぬ、エレンは完全な龍種だから解らなくとも仕方ない」
「生殖器官ってそう言えば、あたしって人間相手に子供作れるの?」
知識が開放され精神年齢が上がったシーナは特にこう言った話しにも動揺はしない
普通なら11歳の少女にこんな質問されたら親や周りの大人は完全に固まるがそこは地龍、ノイミュンスターは普通に答える。
「うむ、問題ない、人化した龍種と魔族とも問題無く子は作れるだろう」
「ほへーそうなんだ」
「うむ、人化した龍種と人間の生殖器官は基本的には同じだ元々が同じ種族だったからだ、魔族は人種が進化した者たちだからこちらも問題ない」
「人間と龍種の子供ってどんな形で成長するの?」
「人化した龍種が妊娠した状態で龍化するとどうなるか?との質問なら結論を言うと問題ない、親が龍化すると子も龍化するからな逆も然りだ、
シーナはずっと人化してる龍種になるからどの種族と子を作っても産まれる子は人間になる」
「ほへー、そなんだ」と納得するシーナ。
少女2人に突然始まった性教育に動揺しまくるマッテオとオーバン、地龍は真実を隠す事もボカして話す事もはしないから慣れるしか無いな。
勝手にダメージを受けてる人間の男達をスルーして話しは続く。
「しかし胸か・・・何分にも我には無い物だから正直解らん」
と当たり前の事言うノイミュンスターだった。
で突然ピアツェンツェア王城から呼び出された天舞龍リール
「私を呼ぶなんて初めてだねノイミュンスター、それで?今日はどうしたの?」
「急ぎでは無かったのだがすまぬな、実はシーナの悩みの相談に乗って欲しくてのぅ、我では役不足でのぅ」
「シーナ?ああ!地龍の王様の娘さん!その子が?」
「初めましてシーナです、すみません急に」
お礼を言いながらペコリと頭を下げるシーナに精神的にも成長してると感じてるノイミュンスターだった。
それからシーナが胸の事を説明した。
リールは真剣にシーナの説明を聞き、
「ふーんなるほどねぇ、私が見る限り問題ない様に思うけど精密検査して見る?」
と予想もしてなかった事を提案して来た。
「ふぇ?!」
突然の精密検査の話しにびっくりするシーナ。
いや!胸を大きくする運動とか成長に良い食べ物とかを聞きたいだけで!と口に出そうとした時・・・
「おおっ!そうであった!お主は優秀な医師であったな!是非シーナを診てやってくれぬか?」ノイミュンスターがリールの提案に同意する。
「えっ?!いや!そうで無く!」
「どうせなら生殖器官や内臓関係も全て検査する?その方がシーナも安心するだろうしね!」既にやる気充分の様子のリール
「あの!話しを!」
「良かったのぅシーナ!リールに診察してもらう機会など余程の事がないと無理じゃからのぅ」完全に子供を心配する親モードに突入してしまったノイミュンスター
もう完全にお医者さんモードに突入したリール、コレが「癒しの天龍」もう一つの天龍の本能の姿である。
天龍は医療に対して熱烈な情熱を発揮する、地龍の造形に対する情熱に似ている。
「よし!久しぶりに血が騒いで来たよ!」リールのテンションはもう爆上がりだ。
「私は診察の特化魔法があるから機材はいらないからすぐに始めよう!ノイミュンスター!空いてる部屋貸してね!シーナ!行くよ!」
ヒョイとシーナを担いで部屋に行く気満々のリール。
「おおっ!それは暁光!良かったのぅシーナ、リールよそこの部屋を使ってくれ」と奥の部屋を指差す。
「はっ話し聞いてーー!!」
シーナの悲鳴は誰にも届かない、早期の診察は大事だとこの世界の人間も分かっているからだ。
リールに拉致され、女性同士だからと情け容赦の無い、診察と言う何かをその後2時間に渡りあれやこれやと人様にお見せ出来ない、アーレーな事をリールにされまくったシーナであった。
「うう・・・もうお嫁に行けない」と泣くシーナ。
ちなみに検査結果だが
「全て問題無しの健康優良児!
骨格的にシーナの胸は平均的になると思うよ!既に成長が始まってるから来年には胸もお尻も一気に大きくなるから心配しないで!」
とやり切ったお医者さんからの太鼓判も貰ったシーナ、大きくなるって良かったね!
ドヤ顔のリールを見ながら絶対に今後は胸の話しはしない!とも誓った11歳の悩める少女シーナであった。
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その後スカンディッチに帰って来たシーナは連日戦闘訓練に明け暮れていた。
今日の訓練は多対戦闘だ純粋に武術のみで戦う、相手はエレンが正面で右がマッテオで左がオーバンで後ろは人化したガイエスブルクだ、完全に囲まれた状況での実戦を想定している。
連日の訓練でシーナが強い事を思い知ってるからマッテオもオーバンもガイエスブルクも真剣な表情だ、男として負けられないのだ。
「始め!」シーナの号令と共に後ろのガイエスブルクが木剣で上段で斬り掛かる!
カアーン!シーナが左に少し移動しながら木斧でう受ける、シーナの主武器は中型の戦斧だ。
ガイエスブルクは右に移動し流された木剣を今度は下段から中段に振り払う!同時に左のオーバンが左からの中段の払いでシーナの動きを封じ様とする。
シーナは木斧をクルリと回してガイエスブルクの木剣を受けながら更にガイエスブルクの右に回りオーバンの木剣をかわす!ガイエスブルクの背中をトンと押して体制を崩させて今度は正面のマッテオに回転しながら木斧を上段で払う。
カアーンとマッテオの木剣とシーナの木斧がぶつかりマッテオは一歩前に出て鍔迫り合いに持ち込もうとする!
それをシーナが嫌い体を低く回転させて逃げようとした時・・・
「あっ!!」エレンの長棍がシーナの足元にスッと出されてシーナは足をかけられて転倒してしまう。
「うう・・・上手く行かない」転ばされたシーナがピョンと立ち上がる。
「この状態から抜け出すなんて出来るなら修行の必要ない達人だよ、囲まれた時のヤバさを実感して貰う訓練だからね、本来は囲まれない様に立ち回らないとね」
長棍を手の上で回しながらエレンが笑顔で言う。
「ぬう、もう一回」負けず嫌いなシーナは再戦を要求して、
「分かった了解、行くよ!」エレンが承諾する。
カアーンカーンカーン
その後3時間訓練は続いたが結局一回も囲みの突破が出来無かったシーナ、今まではエレンとの一対一での修行だったので順調に技術を伸ばしていたが鍛冶屋の居候達が修行に参加して来て複数人の戦いの訓練にランクアップした瞬間に躓いたシーナであった。
ちなみにこの修行方法ははノイミュンスターの指示の元である。
「シーナは素直過ぎるんだよ一対一なら技量で押せるけど複数人だと立ち回りが重要になる」ガイエスブルクがダメ出しをする。
「そうですね、シーナ様は攻撃を綺麗受ける癖がお有りなので必ず動きが一回止まりますので次が読み易いですね」
オーバンは剣使いだが元情報部の特務隊だけあって暗器も含め全ての武器に精通している。
「シーナ殿は斧使い特有の円運動が軸です、それは良い事ですが円の動きは読まれます、やはり立ち回りが大切です」
マッテオは元軍人だ、騎士と違い複数人同士の戦いの訓練がメインだったので一日の長がある。
「ぬう、立ち回り・・・・」考え込むシーナ。
「こればっかりは修練を積み続けるしか無いからしょうがないんじゃないか?」
10歳くらいの少年の姿のガイエスブルクだが実年齢は150歳を越えている、修行の為に西の大陸に渡り実戦経験を積んでいたのだが魔族に不覚を取り操られてしまっていた訳だ。
「経験を積みたいなら冒険者になったらどうだ?」何かを思いついた様にガイエスブルクが提案すると、
「なるほど、冒険者か・・・どうやってなるの?」シーナは乗り気な感じだ。
「冒険者ギルドで登録すればすぐなれるぞ」
ガイエスブルクはペンダント式の冒険者のプレートを見せる、銅製でランクはCランクだ、一応ガイエスブルクは未成年者扱いなのでCランクが上限だ。
未成年者に無謀な仕事をさせない為の措置で例外は認められていない。
「スカンディッチに冒険者ギルドなんてあったけ?」
「いや・・・向こうの大通りにあんじゃねえか、ゆっくり歩いても10分だ」
なんと?!と言う感じのシーナをジト目で見るガイエスブルクだった、興味が無い物にはとことん興味が無いシーナであった。
「じゃあ、とりあえず登録しに行くかな?エレンは?」
「私は登録済みだよ」エレンも冒険者のプレート付きネックレスを胸元から取り出して笑う、鉄製でランクはDランクだ。
「ほえー、って事はマッテオやオーバンも?」
「はい」オーバンは金製で真ん中にルビーが付いたプレート付きネックレスを見せる、ランクはSランクだ!
「諜報活動する時便利なので頑張ってしまいました」と笑うが実際に凄い!
「すげえな、実物見るの初めてだよ俺、マッテオは?」ガイエスブルクはオーバンのSランクの階級証をマジマジと興味深そうに眺める。
「私は軍人だったので指揮系統の問題から冒険者登録は出来ませんでしたが、この契機に登録しましょう」
「じゃあ一緒に冒険者ギルドに行こうマッテオ」
「案内するよ」とエレンが歩き出した。
「俺も」ガイエスブルクは単に暇つぶしだろう。
「私も名前の更新しないといけないので」
こうしてゾロゾロと全員で冒険者ギルドに向かう事になった。
ちなみに軍人が冒険者登録が出来ないのは大規模討伐などで兵士が実入りが多い冒険者側で参加する事が続出し指揮命令系統が混乱した事があったからだ。
こうして冒険者ギルド来た一行、ゾロゾロと喋りながら10分歩いただけだが、建物は5階建ての結構立派で大きい建物だった。
「お前こんなでかい建物知らなかったのかよ?」
「なんかあるなー?くらいにしか」
中に入れば酒を飲んでるガラが悪い冒険者が!とはならず大ホールに長椅子が並び受け付け窓口が8カ所、仕事の案内の掲示板が中央部に5カ所ありそこに書き物台がある市役所の市民窓口的な感じだった。
「ここでお酒とか飲まないの?」キョロキョロと辺りを見回すシーナ。
「なんで仕事に来て酒飲むんだ?」首を傾げるガイエスブルク。
「多分シーナは前線にあるギルドを想像してると思う」苦笑するエレン。
「ああ・・・なるほど、確かに前線に行けば食堂と受け付けが一緒になってる所もあるが大抵はこんな感じだ。
ここは食堂も酒場もあるが入り口は裏手にあって別だ、酔っ払いは事務業務に支障しかないからな」
「なんだつまんないの」
「お前、何やらかすつもりだったんだ?」
その後書類を作って申請して鉄製のFランクのプレート付きネックレスを貰ってシーナとマッテオは冒険者になった。
名前変更のオーバンは普通に更新手続きを終わらせた。
「何がしたいか知らんけど酒場の見学にいくか?」
「別にいい」
こうしてファンタジーのテンプレ「冒険者登録でならず者冒険者との一悶着」や「お前の力を試してやるぜ!」的な事は特に何も無く事務員が事務的な事を頑張って終わったのだった。