表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/134

戦乙女の英雄 その27

カイル先王の葬儀も終わりエヴァリスト国王代理の体制で新たな時代に突入したピアツェンツア王国。


ここで大公エヴァリスト殿下より王太子ヤニックへ有り難いお言葉が、

「いや・・・頼むから早く学園を卒業してくれよヤニック。

一応は兄上の存命中にお前の国王就任の手筈は全て終わっておるんだがなぁ・・・」


「誠心誠意頑張らさせて頂きます!」


そう・・・国王が王立学園中退なんぞあり得ないのだ。

いや待て!一周回ってそれも・・・・・・ねえよ!やっぱり。


なかなか始まらない結婚話しにファニーも結婚の概念を忘れてしまいそうになっている。

毎日忙しく勤めている勤務先の内務省でも既に新卒の部下が居る始末なのだ。


王太子ヤニックは脅威の1浪5留で24歳になってしまっている。


しかし王家怒涛の年齢改変で21歳と言う事に・・・遂にファニーより年下じゃねえか。


さすがにこれ以上はもう何もねえだろう?と思っていたら魔王バルドル&海湊龍クローディアの学園来襲事件が起こる。


「これは一体・・・な・・・何事ですか?」


校舎がぶっ壊れたので確認して欲しいと仙人学園長から内務省に要請が来て、その担当官として「懐かしの学園」に戻って来たファニー3等内務文官。


そんなファニーの目の前には盛大にぶっ壊れた校舎が鎮座している。


ちなみに国内におけるファニーの今の身分は令嬢では無く3等内務文官である。

一般的な会社に例えると係長クラスだと思ってくれて良い。


ピアツェンツア王国では20歳を超えた未婚の女性は女史、もしくは官職で呼ぶのが通例である。

いつまでも令嬢気分でいるんじゃねえ!とのスパルタ精神から来る風習だ。


「これはヤニック殿下が全部壊しました」

現場検証が始まるとビシッとヤニックを指差す仙人学園長先生。

そしてこれはもうヤニックとも打ち合わせ済みである。


「いやー突然乱入して来た魔王バルドルと海湊龍クローディアがぶっ壊したんですよぉ」とも言えずヤニック王太子殿下が全ての罪を被る事になった。


今更この程度の醜聞が増えた所で大した事ねえだろ?との考えからだ。

実際にヤニックも少しぶっ壊しているしね!


賠償金は裏ルートから海龍と真魔族が折半して出す事になっており学園としては「建物が新しくなってラッキー、ついでに他の場所も直しちゃお」状態なので怒ってはいない。


しかし一度は内務省に損害概要を通さないといけないので呼んだ次第である。

ヤニックも学園長もまさかファニーが来るとは思ってなく内心ドキドキだ。


「申し訳ありません、私が魔術試験を失敗してしまい・・・こうなりました」

ヤニックもこれで丸く収まるだろうと誤魔化すつもりなのだ。


隠そうにも目撃者だらけなので形式で現場検証を行なっている。


それから行方不明になったイジメ上級生達は「海外留学」と言う事にした。


「犯罪者扱いと留学扱いどっちが良いか明白であろう?」とエヴァリスト大公が各家へゴリ押ししたのだ。


彼らは現在、本当の意味でマクシム君に世界中を引っ張り回されているので海外留学と言ってもまぁ間違えていないだろう。


この様に今回はしっかりと根回しが終わっているので余裕綽々のヤニックだったが?


ヤニックの言葉を聞いた途端に何故がファニーがショックを受けた表情になり顔を赤くしてプルプルとし出す。


「・・・また嘘・・・また仲間外れ・・・どう見ても剣撃の後なのに・・・またわたくしを馬鹿にして・・・やっぱり殿下は今回もわたくしには本当の事を言わないのですね?・・・」

見る見る間に目に涙を浮かべるファニー。


「!!!っーーーーーーーー!!!

もう殿下なんか知りません!殿下なんて・・・

殿下なんて学園長先生と結婚すれば良いんですーーーーーーーー!!」


「ええーーーー?!ファニー?!なんでーーー?!?!」

ヤニックはファニーが怒ってる理由が分からない。


「いや待て!断固として拒否する!儂にも相手を選ぶ権利と言うモノが有るはずじゃないのかー!!」

そう言う話しをしてんじゃねえよ爺い!


「もう知りません!殿下なんて大嫌いです・・・ばかああああああああ!!!!

うええええーーーーーーんんん!!!」

そう言って泣きながら何処かに走り去るファニー、いきなりの事で全員唖然として棒立ちになっている。


「・・・・・・・・」呆然とファニーの背中を見送るヤニック。


「あの殿下?差し出がましいかも知れませんがファニー様を追いかけた方が良いと思います」


校舎破壊事件の目撃者と言う名目で現場検証に立ち会っていた男爵令嬢メアリーがヤニックの袖をツンツンと引っ張る。


「はあ?!ああーーー!!ファニー?!?!」そう叫んでヤニックも走り出した。


「殿下ーーー?!留年だけはマジで勘弁して下されよーーーー!!!

つーか!また留年したら今度こそ儂はブチ切れるからのぉーーーー!!」

後ろから学園長先生の熱い激励の声援を受けて最大戦速にギヤをupさせるヤニック。


「あの2人早えええ???」

ファニーに同行して来た内務省の文官が2人の爆走を見て呆然と呟いたのだった。


さすがのファニーと言えとヤニックの本気の追撃にすぐ捕まるかと思われたが彼女は戦乙女の英雄と言われた女傑、ワンテンポ発進が遅れたヤニックはあっという間にファニーをLOSTしてしまう。


「うそだろう?」まさか見失うとは思ってもいなかったヤニック。


この騒動を聞いた大公エヴァリストは、「また・・・留年か・・・」と呟いたと言う。


ファニーが向かう先・・・それはヴィアール辺境伯領しかないと思い直ぐに包囲線を敷いたのだが・・・


「え?!ヴィアール辺境伯家の御令嬢ですか?いいえ?こちらの城門には来てませんよ?」


「殿下!王都全ての貸馬屋に尋ねて見ましたがファニー様はおいでになっておられない様子です!」


「んー?ファニーの嬢ちゃん?いいや冒険者ギルドには来てないぞ?

・・・お前・・・今度は何をやらかした?」


「それが・・・」事の経緯を兄弟子のイノセントに説明すると・・・


「そりゃ俺だって怒るわ、自分には何でもかんでも秘匿されているのに信頼関係結びましょうなんて言われても信頼なんて築ける訳ないだろ?

そもそも「黙示録戦争」の件が完全秘匿状態なのに、また秘匿じゃあファニーだって嫌になるに決まってんだろ?」


茶化されると思ったがイノセントからはかなり真面目に説教を受けた。


「つーかよ、そもそもお前はファニーにどこまで真実を話すのか決めてねえだろ?


俺は最低限、「勇者」の事だけは説明するべきだと思うがな?


だってお前ら結婚すんだろ?

この先何十年も勇者の事を隠して一緒に生活すんのか?出来ねえだろ?」


「あううう・・・」

何一つイノセントの説教に反論出来ないヤニックはガックリと項垂れる。


「この件に関しては俺やクルーゼの兄貴とジャックの助力は期待すんな。

自分の嫁さんの事くらいテメェで何とかしろ、今まで俺達もお前達に過剰に介入し過ぎたかも知れん」


「はい・・・」


兄貴分として男としてバッサリとヤニックを切り捨てたイノセント。

男として自分の嫁さんを1人で探す事になったヤニック。

我からは「そんなモン当然だろ!」とだけ言っておこう。


さてファニーがヴィアール辺境伯領に向かわずどこに行ったか考察しよう。

いや・・・考えるまでも無く友達のエスティマブルが居るクロスフォード公爵家だろう。


イノセントの説教で冷静になったヤニックは直ぐにクロスフォード公爵邸へと向かうのだか、対応してくれたエスティマブル公爵令嬢から、

「それが・・・今は誰ともお会いしたくないとファニー様が・・・」

人差し指と中指を頬に当てて困り顔のエスティマブル公爵令嬢。


「そうですか・・・また明日伺います」案の定、ファニーに拒絶されたヤニック。


何故ファニーがクロスフォード公爵邸に居るのが当然かと言うとクロスフォード公爵邸は王立学園のお隣りさんなのだ。


何せクロスフォード公爵家が王命を受けて公爵家の敷地内に王立学園を作ったのだから。


え?!じゃあ何でエスティマブルは寄宿舎に入ってんの?通学で良くね?と言われると「そうしないと他の家門に示しが付かない」からだ。


他の貴族家には子息や令嬢を寄宿舎に入れろと言っておいての自分達は家が近いとか言って子供を自宅から通学させたのでは他所から不満が噴出のが必至だ。


その観点から三大公爵家の全てが王立学園から徒歩30分圏内に屋敷を構えているのだが、全ての家がこれまでも例外無く学園に通う子息と令嬢は寄宿舎へと入れている。


休園の時に実家に帰るのが便利程度にしか公爵家に特権はないのだ。

そして現在、学園は校舎が大破しているので休園中だ。


ファニーは実家にエスティマブルが居るのを知っていて彼女に泣き付く為に咄嗟的にクロスフォード公爵家へ駆け込んだ訳だね。

ヤニックがファニーをLOSTしたのは、学園の中庭を突っ切れば5分強で到着する公爵邸にファニーが逃げ込んだからだ。


ヤニックは焦りまくっていたので最初はこんな簡単な事も気が付かなかったのだ。


「あの・・・ファニーの様子は?」


「わたくしのベッドを占領して泣いておりますわ・・・

お話しはファニー様より伺いましたが、失礼ながら殿下は少し浅慮かと存じます」


「うっ・・・仰る通りです、申し訳ありません」


「わたくしではなくファニーお姉様に謝って下さいましね?」


学園に入学した当初は涙目でファニーのスカートの中に隠れてプルプル震えていたエスティマブルも18歳、もう立派な淑女になっている。


学園卒業後はブロッケン侯爵家の次男坊を婿養子に迎えてクロスフォード公爵家を継ぐ予定なのだ。


政治的にもバリバリの王家派なので王太子のヤニックに対してもバシバシと意見を言う様になっている。


この後に起こる「シーナ王女の追放事件」においてはブロッケン侯爵と共に裏工作を駆使して王妃ファニーとシーナ王女を守るのだが、それはまた別の話しだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ