閑話 その2
自分の命を差し出すから妹を助けて欲しいと懇願するリア、メアリー。
「え~?何で貴女が死なないといけないの?」
メアリーの考えが心底不思議そうなクローディアに・・・
「え?!いえ・・・魔王への願いには対価が必要だと「魔王召喚の書」には書いてありまして・・・
魔王への対価と言えば「若い女性の身体」・・・かな?と思いまして」
予想外の反応にこちらも困惑した様子のメアリー。
確かに物語の中での魔王にその手のエピソードは多い。
しかしそれは「悪役」としての魔王で実際の魔王は「魔に生きる者の王」で有り民の為、国の為に生きる者の方が圧倒的に多い。
「・・・まぁ、魔王の中には稀にそう言う馬鹿も居るけど魔王バルドルはそう言うの要らないと思うわよ?
だって可愛いお嫁さんも居るし、結構リア充よ?あの人」
「そうなんですか?!」
するとまた転移魔法陣がメアリーの部屋の中に浮かび上がる。
「やれやれ、多分そんなこったろうと思ったが酷い風評被害じゃのぅ・・・
そもそも、その「魔王召喚の書」とは何じゃ?初めて聞いたぞ?
メアリーと言ったな?どれ?その「魔王召喚の書」とやらを見せてみよ」
クローディアから転移のOKが出たので魔王バルドルもメアリーの部屋へと転移して来たのだ。
「!!!貴方様が魔王バルドル様ですか?!
何と言うか・・・その・・・魔王とは思えない凄いイケメンさんですね?
もっとこう・・・筋骨隆々の怖い感じだと思ってました」
そう言えば魔王バルドルの容姿を書いた事が無かったが、
見た目の年齢は20歳前後、身長は185cmと長身で、やや細身の体格、真魔族らしく金髪で後ろ髪が肩に少し掛かる長めの髪に前髪はオールバックのセ○ィロスの様な感じで、ユグドラシルの瞳を受け継いだので薄緑色の瞳をした絵本に出て来る王子様の様な感じの見るからに文系優男風のイケメンだ。
服装は、魔王軍の一般的な赤い甲冑に赤のマントを付けている。
何故軍装の色が赤かと言うとバルドルの趣味ではなくて装備の調達係の四天王のヴァシリーサが赤が好きだからだ。
新型の鎧がやって来たと聞いて見に来たバルドルは愕然とする。
「何で色が赤なのじゃ?」
「赤って良くない?カッコ良くない?」
「カッコ良いかも知れんが戦場じゃあ赤って目立たね?儂ら集中攻撃を受けね?」
ヴァシリーサが調達したのは魔王直属軍の装備だったのだ。
「赤の軍装の兵士が並ぶと相手に対して威圧感が出るでしょ?だって赤だよ。
それに遠くからでも味方の判別もし易いでしょ?」
「そう言って武器商人に説得されて在庫処分に付き合わせられたんですね?分かります」
買っちまったモンはしゃーないと採用したが案外と兵士達には「カッケー」と好評だった。
その内人間や亜人達からは「暁の魔王軍」なんて呼ばれてヴァシリーサが更に調子に乗って全軍団の軍装を全て赤で統一した経緯がある。
全て赤に統一された100万人を超える魔王軍は圧倒的な存在感で喧嘩を売る馬鹿が居なくなり今や完全に真魔族のファッションと化しているのだが。
尚、ヴァンパイアだからと言ってバルドルの肌は病的な色白では無く健康的な白人男性の色だ。
結論として魔王バルドル容姿は「私はハリウッドスターなんですよ」と言っても誰にでも納得されるイケメンなのだ。
話しを戻そう。
余りイケメンとか褒められた事が無いバルドルは・・・何かデレた。
「案外ハッキリと物を言う娘じゃのう・・・筋骨隆々の大男はウチのマクシム君じゃ。
それより「魔王召喚の書」を見せてみよ」
少し頬を赤くして照れ隠しをするバルドル。
マクシム君はイメージ通りの身長230cm超える巨体に短髪の金髪でモロ体育会系の美丈夫だ。
「ああ!失礼しました!どうぞ!こちらです!」
頭を下げながら両手を使って「魔王召喚の書」を差し出すメアリー。
バルドルは受け取った書をパラパラと捲り・・・
「な~んで、これを読んで「若い女性の生贄」の発想が出て来るかな~?
どう見ても「公共土木工事の大まかな概要しか書いておらん」ではないか・・・」
そう言いながら本をクローディアに渡すとクローディアもパラパラと本を捲り、
「思いっきり代金(対価)を石炭で支払ったってハッキリと書いてあるわよ??」
いよいよ不思議そうな顔で本を読み進める。
「ええ?!そんな事がどこに書いてありましたか?!」
「ほらここ?2ページ目よ」
「思いっきり冒頭じゃねえか・・・」思わずツッコミを入れるバルドル。
「後、魔法陣は「業務用念話通信魔法陣」って事も書いてるわよ??
どこにも「魔王召喚」なんて書いてないわよ??」
読めば読んだだけ訳が分からなくなるクローディア。
「お主・・・自分に都合が良い所しか読まないタイプじゃな?
つーか、やっと思い出したわい、ダミアン男爵じゃな?
一時期、ウチの土木事業部のお得意様だった人物じゃ。
真面目な男じゃったから上層部へと提出した当時の書類の控えをこのノートに書いておったんじゃな」
「この本を見て何故「魔王召喚」→「生贄」に繋がるのが理解出来ないわね。
貴女が何を考えたのか非常に興味あります。
貴女はメアリーと言ったわね?教えてくれるかしらメアリー?」
「あの!それよりも妹が!」
「安心せいメアリーよ、お主の妹じゃろ?全身全霊で助けてやるわい。
対価は・・・そうじゃな、今のクローディアさんの質問に答える事で良いじゃろ。
儂も少しお主の考えに興味が湧いて来たわい」
「ええ?!それが対価になるのですか?」
「私達って寿命がほぼ無制限で毎日が長くて退屈なのよ・・・
少しでも興味を惹かれる事って凄い大事なモノなのね?」
完全に珍獣扱いにされているメアリーであった・・・
「実は・・・気狂いかと思われるかも知れませんが・・・私!前世での記憶が有るんです!」
「うむ、それで?」
「え?」
「え?」
「いえ・・・前世の記憶が有るとか・・・変だと思わないんですか?」
「いいや?別に?」
「確かに数は少ないけど前世での記憶が有るのはそこまで珍しいケースじゃないわ」
「そ・・・そうなんですか?
でも・・・その前世での記憶と言うのが「異世界」の記憶なんです!」
どうです?!おかしいでしょう?!と言った感じなメアリーだが?
「ふむ、それで?」
「え?!」
「え?!」
「いえ!異世界ですよ?異世界!おかしいと思いますよね?!」
「いいや?別に?」
「同じ宇宙で巡る魂の輪廻だから別の世界の魂がこの世界に来るのも珍しいケースではないわね。
話しを続けて続けて」
「ええ?!・・・はい・・・
その異世界では魔王=光に敵対する悪=少女の生贄と言うのが「テンプレ」だったんです」
「??てんぷれって何?」
「うむ、なるほどな。お主は「旧世代ゲーマー」じゃったのだな?
その「テンプレ」だと大方、○ン○○○○ーファンと言った所か?儂も好きじゃったぞ?」
「ええ?!何で○○グ○○○ーを知っているんですかー?!」
「儂も一時期「日本」に大正から平成の終わり頃まで住んでおったからな。
ファンタジー系ならゲームやアニメや小説には詳しいぞ?お主とは気が合いそうじゃな」
過去の知り合いで同じ日本からの転生者の「エリカ」や「ロテール」とは好きなジャンルが違い、旧世代ファンタジーRPGが好きなバルドルとはイマイチ話しが合わなかったのだ。
彼女達はどちらかと言うと「ミリタリーオタク」だったからだ。
更に言うとアメリカからの転生者のラザフォードは「恋愛ゲームオタク」だったので全然話しが合わなくてバルドルは少し寂しかった。
「えええええーーーー?!」
魔王バルドルの落とす爆弾に驚愕するメアリー。
魔王バルドルは異世界探検にメッチャ凝っていた時期があって、異界門を逆行して姿形を変えて地球の日本にも100年ほど潜伏していた事があったのだ。
地球の他にも7ヶ所の異世界を探検している。
これは莫大な魔力を保持しているバルドルならではの芸当であって他の者には不可能だった。
「えー?バルドルそんな事をしていたのー?良いなぁ、私もやりたかったわ」
「せっかくの異界門があったんじゃから活用せんと勿体なかったじゃろ?」
「自分ばっかり楽しんで・・・」コレには不貞腐れるクローディア。
海龍である彼女には異世界探検などの許可が降りる訳が無いからだ。
「メアリーはゲームからの擦り込みで魔王の儂の事を誤解した訳じゃな。
「エコチェン拗らせてないでもっとちゃんと本を読めよ」とツッコミを入れたい所だがまぁ良かろう。
言うまでも無いが「お主の生贄は不用」じゃ。
同じ旧世代ファンタジーを好きな者同士と言う事で助けてやろう。
チャチャっと問題を片付けて○○4を語り合おうではないか」
よっしゃあ!暇つぶし発見ー!と喜ぶバルドル。
バルドルは久しぶりに誰かと旧世代ファンタジー談義がしたいのだ。
「ええーーー?!」棚からぼた餅とはこの事だろう。
前世で旧世代ファンタジーが好きだったおかげで、世界最強格の1人、魔王バルドルから友達認定されてしまう男爵令嬢のメアリーだった。