閑話 その1
『親愛なる魔王バルドル様・・・
私の声にお答え下されば私の命をお捧げ致します。
どうか私の願いにお答え下さいませ』
「・・・・・・・・・・・」
魔王バルドルは激烈に不機嫌だった・・・
矮小なる人間の小娘の分際で偉大なる魔王に語り掛けるとはなんたる不遜な奴・・・では無く、このところ頻繁に語り掛けて来る少女が「自分の命を捧げる」と言っている事に対して不機嫌なのだ。
今までのエピソードからも分かる通り、魔王バルドルが怒る時は「誰かが自分の命を軽々しく扱う」時だ。
そんな彼に「私の命を奪って下さい」なんて言えば怒るのは当然であろう。
そんな彼の元へ愚かなる生贄がネギ背負ってやって来た。
「ねー?バルドルー?「シー・ケンタ君」を作り過ぎて倉庫に保管していた発電機用の魔石を全部使い切っちゃってアメリア様に大目玉食らっちゃったのー。
下級でも良いから少し魔石を融通・・・・・・・・・さよなら!」
無警戒で魔王の間に飛び込んだ海湊龍クローディアが見たモノは魔王の玉座にドッカリと座る魔王バルドルだった。
通常時のバルドルは魔王の玉座の左下に有る執務用の机の椅子に座っている。
バルドルが玉座に座っている=メチャクチャふざけているOrメチャクチャ機嫌が悪いの2択である。
そしてどう見てもふざけている様には見えないのだ。
「まあまあ、お待ちなさいクローディアさん。
魔石じゃろ?他ならぬ海龍の頼みじゃ好きなだけ中級魔石を融通しようではないか」
軍事的重大戦略物資の上級魔石は真魔族の元老院と三龍王の許可なく真魔族領外への持ち出し厳禁である。
「嫌よ?!バルドルは今、激オコでしょ?
「怒っている時のバルドルには干渉しない」が海龍の合言葉なの!」
「んな人を「ナマハゲ」の様に・・・
いや・・・確かに機嫌は悪いが怒っている訳ではないのじゃよ。
ちょっとこれを聞いて欲しいのじゃよ」
少女の願いをクローディアにも聞こえる様に音声にして流すバルドル。
『親愛なる魔王バルドル様・・・
私の声にお答え下されば私の命をお捧げ致します。
どうか私の願いにお答え下さいませ』
「・・・んー?どう言う事?」
少女の声を聞いたクローディアは不思議そうな顔だ。
えらく物騒な事を言っているがバルドルの印象に全然合ってないからだ。
「お人好しで怒らせるとやべぇ魔王」がクローディアがバルドルに対して持っている印象で自分をバルドルへの生け贄しようと願う少女に違和感を感じる。
「おそらく古い書物に書かれた儂への連絡方法を使って語り掛けて来ておるのじゃが・・・
聞いた通りに願いがえらく物騒でな?少し困っておるのじゃ。
もしクローディアさんが手を貸してくれるなら中級魔石を好きなだけ・・・」
「はーい!やりまーす!」
このまま手ぶらで帰ってもまた海龍王アメリアに怒られるだけなので事情は良く分からないがバルドルを手伝う事にしたクローディア。
「んで?どうするの?願いに答えるの?」
「いや・・・もし答えて少女が自ら命を断っては最悪じゃからな。
なので直接、少女の元へ転移しようと考えておるのじゃが・・・いかんせん相手が少女じゃろ?
出来れば先に女性に少女の元へ行って貰いたいのじゃ」
魔王バルドルのアイデンティティであるSSSランク監視スキル「影見」だが、少女は自室で祈りを捧げているらしく「プライベート空間への使用不可」の制約で使用が出来ずに少女の姿の確認が出来ない。
いきなり転移して少女が下着姿だとかだとオッサン的にも少し困るのだ。
なかなか紳士な魔王である。
「なるほど、そう言う訳ね?
ん?女性なら四天王のヴァシリーサにお願いすれば良いんじゃなかったの?
ほら?彼女は子供も好きだったでしょ?」
「四天王の3番手は灌漑施設視察の為に現在は地方へ出張中です。
と言うより四天王の名前は「軍事機密」なのでバラさないで下さい」
吸血鬼の「真相」への「真名」を使った攻撃はかなり有効で真魔族は他所の者が居る時は仲間をコードネームで呼び合うのが普通だ。
四天王4番手のマクシム君は「三龍王より強く(バトル的な意味では恐らく世界最強)」余りにも規格外過ぎるので真名がバレた所でどうにかなるモノではない。
真名への攻撃を仕掛けた所で逆に真名を握られて取り込まれるのがオチだろう。
ちなみにマクシム君に取り込まれると世界各地をアッチコッチに連れ回されて年単位でお家に帰れなくなる。
「んー?とりあえず分かったわ。少女の所へ行って事情を聞いて見るわね」
「ん?転移陣で送らんで良いのか?」
「これでも海湊龍クローディアさんよ?既に少女の位置は特定済みよ」
「さすがじゃのぅ」
そう言って笑うクローディア。
何せ龍種としての格は、あの天舞龍リールと同格なのだ。
天真爛漫過ぎてそうは見えないが凄い海龍なのだ。
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クロスフォード公爵家門の末席、ダミアン男爵家の長女メアリー(16歳)は2歳年下の妹の事で悩んでいた。
それは同じ公爵家門である伯爵家の令嬢に妹が酷いイジメに合っているのだ。
格上の家からのイジメは貴族社会では珍しくも無いのだが伯爵令嬢のイジメは度を超えているのだ。
「ううう・・・お姉様~」
背中にアザを作った妹がメアリーに縋り付き泣いている・・・
この同じ学年の伯爵家の令嬢からはメアリーもイジメを受けたがメアリーのメンタルは激強で堪える様子が全く無く伯爵令嬢もイジメ対象として面白くなかったのかイジメはすぐに鎮静化した。
しかし妹のアデリーナは気が弱く絶好のイジメのターゲットにされてしまったのだ。
最初は口だけだったのだが、怯え切るアデリーナが面白かったのか更には暴力を振るう様になってしまう。
今日も妹は背中を扇子で殴られて泣きながら学園の寄宿舎へと帰って来た。
何とかイジメを止めたいメアリーだが相手は父親の上司の娘・・・そう簡単にはいかない・・・
家門最高位のクロスフォード公爵家令嬢のエスティマブル令嬢に訴え出る方法も有るのだが、エスティマブル令嬢は正義感が非常に強い女性だ。
彼女は間違いなく学園生徒会長として伯爵家令嬢の弾劾に出てしまうだろう。
そうなると裏で報復を受ける可能性が有り父親にも多大な迷惑が掛かる事が予想される。
エスティマブル令嬢が優秀過ぎるのも時には逆効果を生むケースになってしまっているのだ。
「明日は学園をお休みしましょうね?アデリーナ」
「もう学園なんて行きたくありません!わああああんんん」
泣きじゃくる妹の髪を撫でながらため息の吐くメアリー。
自分なら余裕で耐えれる自信が有るのだが妹の限界が近い・・・
大人やエスティマブル令嬢に頼る事が難しいと考えたメアリーは極端な方法を選択する。
その方法とはダミアン男爵家に代々伝わる「魔王召喚の書」だ。
これは実際に初代のダミアン男爵が200年ほど前に魔王バルドルを召喚した事が有り、その時の詳細な記録書なのだ。
そして魔王バルドルは結構昔の事なのでダミアン男爵家の事は忘れている。
「魔王バルドルを召喚して私の命を対価に妹を守って頂きましょう」
メンタル激強のメアリーは迷う事無く部屋に閉じ籠り書に記された魔法陣を描き「魔王召喚」を開始する。
しかし7日連続で「魔王召喚」失敗・・・
それでもめげる事はしないメアリーは8日目も一心不乱に魔法陣に祈りを捧げる。
すると、初めて召喚魔法陣に反応が出た!
「やったわ?!」
キュイイイーンと高速で回転を始める魔法陣、何者かが召喚される!
パァ!!と眩しい光がメアリーの部屋を覆う。
光が収まりようやく視界が開けたメアリーの目に飛び込んで来たのは水色の髪の美しい女性の姿だった・・・
「あ・・・あの?!魔王バルドル様・・・何でしょうか?」
メンタル激強のメアリーでも超常の存在にはさすがに圧倒されたのか、おずおずと水色の髪の女性に話し掛ける。
「こんにちは~。残念だけど私は魔王バルドルではありませんね」
「そんな?!」
魔王召喚に失敗して違う存在を召喚してしまった?と気が遠くなるメアリー。
「魔王バルドルではないけど彼の仲間よ、貴女に色々と事情を聞きに召喚されて来ました」
「え?!魔王バルドル様のご友人なんですか?!」
「ふふふふ・・・そうね友人よ。
それで?あの物騒な願いの理由を聞かせて貰えますか?」
「私の命を対価にして私の妹を守って頂きたいのです!」
必死なメアリーの言葉に部屋に一瞬の沈黙が訪れて・・・
「いや・・・何で貴女の命を願いの対価にするの?」
呆れた様子のクローディアの声が沈黙を破ったのだった。
☆
『世界の創造主よ・・・外伝の中で閑話とは・・・斬新ですねぇ・・・』
『いやー、突然話しが閃いてしまいまして、あはははははは』
『褒めてませんよ!呆れ果ててるんです!
いつになったら「戦乙女の英雄」がエンディングを迎えるのですか?!』
『うむ!「なる様になる」じゃ』
『この男、遂に開き直りやがりましたよ?!』
『この話しもギャグ満載の結末を迎えるのでよろしくお願いします!』
『毎回ギャグで終わってるじゃないですか!』
『おや?「世界の言葉」はご存知ではない?
魔法世界の解説者シリーズは「基本的には全てギャグ小説」なんですよ?』
『あっ!そう言えばそうでした?ね????いや!初耳ですよ?!』
『正確には「ストーリー性の有るギャグ小説」を目指して書いております。
シリアス路線では、とっくの昔に撃沈してますからね』
『ええ~??そんなので良いんですか?』
『だから読んでる人が丸一年経っても全然増えない「限界集落小説」だとリアル奥さんから大爆笑されてるじゃないですかぁ』
『皆様!こんなダメ小説ですが見捨てないで下さい!!』