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戦乙女の英雄 その26

「ふえええええ~殿下~」

カイル尊王が亡くなった悲しみと、今までヤニックや母が行方不明だった事への不安と心配が一気に溢れたファニーは何の躊躇なくヤニックの胸に飛び込む。


「わああああああああああああんんんん・・・・」

ヤニックの胸の中で子供の様に泣くファニー、そんなファニーをヤニックは頭を撫でて慰めている。


ヤニックの側には母親のスージーが居たのだがファニーは目に入らなかった様子だ。


《あら?完全に娘を殿下に取られてしまいましたわ・・・》

スージーは自分より愛する男性にしか目が行かなかった我が娘を見て、やっぱり寂しい気持ちになった。


ファニーがわんわんと泣いてるカイル尊王の遺体安置室にエヴァリスト大公爵が入って来る。


一同は慌てて整列してエヴァリストに頭を下げると。


「お前達、酷く大変な戦いだったな・・・良く生きて帰って来てくれた。

疲れてる所ですまぬが・・・兄がこの通りでな。

帰還した直後で申し訳無いがお前達にも明日の葬儀に参加して貰わんとならぬ」


やはり、末期癌で闘病を続けた兄の死の覚悟はとっくに済んでいたはずだったのだが、

実際に兄が亡くなると大きなショックを受けたエヴァリストはいつもの溢れんばかりの覇気が無い。


父も母も長兄も早くに亡くして兄弟2人で二人三脚で今まで頑張って来たのだ、ショックを受けるのは人として当然だろう。


ちなみにエヴァリストは結婚はしているが実子には恵まれず5人の養子の息子達が居る。

ヤニックにとって義理の従兄弟に当たるのだが、5人とも地方執政官として頑張っており殆ど会った事は無い。


そしてヤニックの母、皇后に当たるはずだった女性もヤニックが2歳の時に流行病にて既に亡くなっている。

カイル尊王は側室を持たなかったのでヤニックはひとりっ子だ。


なので親戚筋の再従兄弟のファニーに王位継承権があったのだね。


《戦い???殿下達はどこかで戦っていたのですの?って?!お母様ーーーー?!?!?》

ここでようやく母スージーが自分のすぐ側に居た事に気が付いたファニー。


そしてファニーが居る前で黙示録戦争の一端を口を滑らしてしまったエヴァリスト。

いつもの彼なら有り得ない失態だったがその場に居た全員が気付いていない。

空気の読める良い子のファニーは気が付いていないフリをする。


《戦い・・・一体どこで??》

国内の騒乱はほぼ終息しており対外的にも表面的な敵対国は存在していないピアツェンツア王国・・・

果たしてヤニック達はどこで2年間も戦ったのだろう?と疑問を抱くファニーだった。



日が明けた次の日、カイル尊王の葬儀が始まった。


白金の棺に収められたカイル尊王の亡骸が近衛師団の兵士18名に担がれて王城より天龍教大聖堂へと運ばれる。


棺の後ろをエヴァリスト大公爵を先頭にヤニックやファニーと言った王族と王家に近しい者達が続き次に参加する事が出来た貴族達が喪服に身を包み行進する。


何せカイル尊王逝去から僅か26時間後の弾丸葬儀なので参加出来ない貴族の方が圧倒的に多かったのだ。

葬儀に参加出来たか出来なかったかは、その時の運だった。


遠方に居る貴族全員の参加希望を聞いていると収集が付かないので間に合わない者は後日個別で献花と言う事になる。


エヴァリスト大公爵の義子達も当然ながら、今では王家派の筆頭貴族になったブロッケン侯爵も参加に間に合わず政治的な意図での特定派閥に対する排除では無いのは明白なので特に反発は出なかった。


こちらの葬儀は地球とは違い亡くなった者の肉体と魂を世界へと返す儀式だ。


天龍教の大司教が天龍王アメデに対して死者を送る歌を歌い、天龍王アメデが肉体を魔力へ変えて魂を死者の国へと送る。

尚、この大司教が地龍なのはお約束だ。


祭壇に寝かせられたカイル尊王の肉体が魔力へと変わり光を放ち粒子となって消えていく・・・

そして残されたのはカイル尊王の衣服のみだ。


こうしてカイル尊王は無事に世界へと帰ったのだ。


この儀式を見届けた後、棺を担いでまた王城へと帰る。

そして王城の大ホールに用意された食事を食べて解散となる。

随分とアッサリとしているが、転生の概念が有るこちら世界の葬儀とはそう言う物だ。



さて、ここでカイル尊王の魂がどうなったか見て見よう。

悲劇が喜劇に変わる瞬間である。シリアスが長続きしない「世界の創造主」である。



《・・・・・・・・めっちゃ混んでるじゃん》

無事に死者の国へ到着したカイルの魂は転生門の前で盛大に足止めを食らっていた。

カイルは記憶に残っているだけで16回目の転生の古参だったので転生門も慣れたモノなのだ。


何故かは知らないが死者の国に来た途端に前世の記憶が一気に蘇った。

ちなみに前世は家具職人だった。


《だよなぁ、俺なんてもう100日待ちだぜ?》

カイルの呟きを拾った、こちらも転生には慣れた感じの男の魂がうんざりした様子で話し掛けて来た。


何せ転生待ちの魂が文字通りの列を成しているのだ。

いや向こうの山?の上にもたくさんの魂がたむろしている。


《何で今日はこんなに混んでんの?》

元々のカイルはめっちゃフランクな話し方で、死んだのでもう演技しなくてもいいやと国王モードを解除している。


《転生門の老朽化によるシステム障害だってよ》


《老朽化によるシステム障害?また随分と夢も希望もない単語が出て来たなぁ》


そこに転生門の職員?らしき人物が通り掛かったので、

《すんませーん、復旧ってどれくらい掛かるんですかー?》と声を掛ける。


すると職員?は申し訳なさそうに頭を掻きながら・・・


『うーん?割とメイン的な部分の故障だからねぇ・・・どんなに早くても200日は掛かるかなぁ?

悪いねぇ、今天界で大急ぎで部品を作ってるから気長に待っててくれよ』


《200日・・・マジっすか?》カイル、転生までの道のりはえらく長そうだ。


『一応は転生先の希望を先に聞いているから、向こうの受付で手続きだけは済ませちゃってね』


《はーい》職員?の言葉に従い手続きを先に済ませる事にしたカイル。

200日もなーにしてっかねぇ?と頭を悩ます。


受付に到着して「次は断然商人になりたいっす!王様や貴族だけは絶対に嫌っす!」と希望を書いた紙を担当?の職員?に渡すと・・・


『はい、ありがとうございます』


申請書を受け取った職員?はカイルの事が書かれた資料を見て、

『ん?・・・・あれえ?カイルさんは、もう人間には転生出来ませんよ?』と言われた?!


《え?!どっ・・・どう言う事っすか?!もしや虫ですか?!俺は虫に転生っすか?!》

「人間には転生出来ない」とのパワーワードを聞いてパニックになるカイル。


『いえー、カイルさんは足掛け通算で1000年間人間として生きて尚且つ今回の人生において世界への功績が莫大なので魂が「亜神」へと昇格ですねぇ。

「神」への昇格おめでとう御座います。長い人生お疲れ様でした。


『はああああああ?!?!

亜神・・・・・・・・・・すか?

イヤ!!イヤイヤイヤ?!俺には無理無理無理無理無理ですって!急に神なんて!』

想像もしていなかった事態にメチャクチャ挙動不審になるカイル。


『とは言え、ここに来た瞬間にもう亜神になられてますよ?』


亜神と言う言葉を認識した瞬間に魂から亜神の身体が構築される。


『なんだってーーーー?!?!』亜神カイルの誕生だ。


『よっしゃああああ!神材だ!神手が来たぞおおおおお!!!』


『よろしくお願いしますカイル神!!もう神手不足で神手不足で大変だったんですよおお!』


生贄・・・いや、新規社員入社?に湧き立つ受付。


『早速ですが!この書類の処理をお願いします!』


女性職員?に大量の書類を手渡されたカイル神。

『いや無理ですって!こんなの急に見ても分かる訳・・・わか・・・る?分かるーーー?!』

なんか知らんが書類に何が書かれているか理解出来てしまう。


『うおおおお!!即戦力だ!即戦力が来たぞーー!』

何か泣き出した神様が居るんだが?


『やったーー!100年ぶりにお家に帰れるかもーーー!!』

100年帰宅出来ず・・・なかなか神様業務とはブラックな様子だ・・・


こうして生前に苦労に苦労を重ねて亡くなったカイル国王・・・

死んだ途端に亜神となり転生門業務部へと就職する。


『せめて3日!3日間休みを下さい!』


『大丈夫です!仕事が終われば休めますから!』


『これ絶対に3年は終わらない量ですよね?!』


こうしていきなり何の脈絡もなく亜神となり忙しい日々を送るハメになった。





そしてウン十年後・・・




「父上??こんな所で何をされておられるのですか???」


『そこは聞かないで貰えるかなぁ?』


ウン十年ぶりに再会を果たしたカイルとヤニックの親子。

再会したのは転生門の受付でしたとさ。










「貴様ーーー?!定期的に何かやらかさんと気が済まんのか?!

感動の別れの話しから何でこんな結末になるんじゃ?!」


『いや実はこの話し、去年には大筋が完成していたんですよ~。

下書きのまま眠らせておくのも何だから今回ブチ込んで見ました!』


「きっ・・貴様・・・こんなしょうもない話しを去年から温めておったのか?」


『いやぁそうなんですよ、下書きから約半年でやっと捌けました』


「別に褒めとらんし貴様の限界集落小説の執筆状況など誰も気にしとらんわ」


『本当の事だと思っても酷い?!』


『それよりも「若い2人のクライマックス」はどこに消えたんですか?』


『はっ?!』


『・・・自分で書いてて忘れたんですね?』


「だから限界集落だって言われるんじゃ」

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