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戦乙女の英雄 その23

「もう!100年もママに連絡を寄越さないなんて酷いですわ!」


クルーゼを散々に愛でた後に腰に手を当ててプンスカ怒る風竜のシルフィーナ。

シルフィーナは背が低くて童顔なのでクルーゼの方がお父さんにしか見えない。


「俺にも色々とあったんだよ・・・」母親に怒られて困った表情で頭を掻くクルーゼ。


《うふふふ~、中々お兄様の居場所について口を割らないイリスを酔わせて「クルーゼはピアツェンツア王国に居る」と聞き出してお母様とお兄様を探していたのですよ!》

こちらも腰に手を当ててエヘン!と偉そうなシルフィエット。


「師匠・・・まあいつもの事か・・・」

一応イリスには口止めしておいたが酔っ払って口止めの事をすっかりと忘れてしまったイリスが気分良く思い切り話したらしい。


そしていきなりの急展開に口をポカンと開けたまま唖然としているファニー。


《ん?貴女?大丈夫ですの?おーい?》ファニーの頬をツンツンするシルフィエット。


「多分こうなりそうだったから隠れたんだけどなぁ・・・」

放心状態のファニーの顔の前でパン!と手を叩くクルーゼ。


「はっ?!・・・師匠のお母様って風竜のシルフィーナ様だったんですのぉ?!」

シルフィーナ登場から15分経ってようやく叫ぶファニー。


「まあな・・・誰にも言うなよ?

俺は別にバレても構わんがファニー、お前は気が狂ったと思われるぞ?」


確かに「あの人は大精霊の息子さんですのよ」と誰かに話した所で、「コイツ頭大丈夫か?」と思われるのがオチだ。


「分かりましたわ!誰にも言いませんわ!」

ただでさえ「百合疑惑」が有るのに「気狂い」も加わるのはたまった物ではないファニー。


「ファニー??・・・ああ!貴女はスージーの娘さんね?

貴女が赤ちゃんの時に会った事が有るけど本当に大きくなりましたねぇ、ファニー」

そう言ってファニーの頬を撫でるシルフィーナ。


「ふわーーーー???」伝説の大精霊に頬を撫でられて狼狽えるファニー。

イリスの弟子のファニー母スージーは当然イリスの仲間のシルフィーナとも顔見知りだ。


それからファニーはシルフィーナから母スージーの過去の逸話を色々と聞かされた。


「お母様・・・そんな事を一言もお話しして下さりませんでしたわ・・・」

母スージーとシルフィーナの色々な過去の話しを聞いて不貞腐れるファニー。

話しを聞くとスージーは若い頃は中々とダイナミックな少女だった。


《そうですわねー、スージーも強かったですものねぇ》

口に人差し指を当てて若い頃のスージーを思い出しているシルフィエット。


「スージーの事で1番の出来事と言えば・・・やはり「紫虫王」との戦いですわね」


「ふえ?!紫虫王?・・・紫虫王ーーーーーーー?!」

紫虫王は読んで字の如く紫虫の王様でメチャクチャ強い「魔王」だ。


冒険者ギルドで「災害級の魔物」に指定されている。


イリスも過去に紫虫王の事を「しぃーちゃん」と呼んでウザ絡みした事が有った。


「へえ?アイツそんな事やってたのか?」

クルーゼも妹弟子のスージーのこのエピソードは初耳だったのか興味津々な様子だ。


「まぁ・・・普通に惨敗しましたけどね」


「負けたのかよ・・・」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



時は遡って20年ほど前の事。


{帰レ!迷惑ダ!}

武者修行で紫虫王に勝負を挑んだスージーだったが、紫虫王からして見れば「何でお前と戦わにゃならんねん!」状態でメチャクチャ迷惑そうだ。


「よろしいではないですか!イリス師匠の「しぃーちゃんは強いよ?」とのお墨付きの貴方と是非とも勝負して見たいのですわ!」


{ヤッパリ!イリスノ関係者ダッタノカーーー!!}

手の鎌を器用に畳んで頭を抱える紫虫王、紫虫は蟷螂の魔物だと思ってくれて良い。


当時の紫虫王は、めっちゃウザいイリスから逃れる為に南の大陸から逃亡して中央大陸南方のこの原生林に棲家を移していた。


そこをイリスの弟子のスージーに見つかってしまったのだ。


「お願い致します、お願い致します!ここまで随分と苦労して参りましたので手ぶらでは帰れませんわ!

わたくしが負けたら食べて頂いても構いませんわ!」


足掛け3ヶ月掛けてこの原生林まで来たスージー、簡単に帰る訳にはいかない。


{嫌ダ!オ前ニ怪我ナンゾ負ワセタラ、イリスニ何ヲサレルカ分カラン!

ソレニ我ハ、オ前ナンゾハ食ワン!}


基本、紫虫王は「平和主義者」なのだ、言い換えると「面倒くさい事が嫌い」とも言えるが。


紫虫王的には食いでが全然無く、美味しくも無い人間など相手をする事自体が損なのだ。


紫虫王の餌は主に大型の草食動物なのだ例えば大鹿とか、この地域だと大象とかだね。

大象は体長15m超えるめっちゃデカい象で美味くて食べこたえ満点なのだ。


この原生林は大象の世界最大の生息地なので食べるのに困っていない。

雑食の人間やエルフの肉など臭くてお呼びでは無い、一昨日きやがれ状態だ。

食にはこだわりの有る紫虫王なのだ。


人間に例えるなら納豆が大嫌いな人に「私に勝てた納豆差し上げますから勝負して下さい!」と言ってる様なモノで「迷惑なのでお帰り下さい」と言われても仕方ないだろう。

もし紫虫王が人肉が好物だったらその被害は想像も付かない大惨事になっていた事だろう。


「わ・・・わたくし達、雑食動物の肉は臭くて不味かったんですねぇ・・・」

ショックを受けるスージー・・・・・・・・何でやねん!


そして結論から言うと根負けした紫虫王とスージーは戦う事は出来た。


出来たのだがその戦いの様子を書くと・・・


「はああああああ!!!」紫虫王に斬り掛かるスージー!!


ペシ!!と、紫虫王に軽く叩かれるスージー!


「きゃああああああ?!?!」飛ばされるスージー!!・・・ドシーーン!!


で終了した・・・3行で終わる戦いだった。


{質量ガ違イ過ギル相手ニ真正面カラ物理攻撃シテドナイスンネン?・・・・・・}

スージーの脳筋突撃攻撃に呆れ果ててる紫虫王はなぜか関西弁になる。


例えるなら「4階建鉄筋コンクリート製マンション」に何も考えないで突撃したのと同じである。


「うううう・・・わたくしはまだまだ未熟ですわ・・・」


{ソウ言ウ問題デハ無イ・・・物理的ナ問題ダ。

先ニ重力魔法トカデ押シ潰ストカ色々ト有ルダロウ?}


「うううう・・・戦士としてそんな卑劣な真似は出来ませんわ!」


{・・・・オ前ハ魔物トノ戦イニハ致命的ニ向イトラン・・・}

めっちゃ紫虫王にダメ出しされるスージー。


それからなんか知らんがスージーに懐かれてウザ絡みされた紫虫王は再度、何処へと逃亡したのだった。


「しぃーちゃん師匠ーーーー?!どうしてですのーーーー!!!」

勝手に師匠認定してそして今現在もスージーは師匠のイリスと共に紫虫王を探しているのだ。

だからもう・・・イリス共々、紫虫王の事は放っておいて上げなさい・・・

と言うか、この師匠有ってこの弟子有りである。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「何やってんだ?アイツ・・・」


「お母様・・・お母様は魔物の弟子だったのですね?そしてその魔物に逃亡されたと・・・」


スージーと紫虫王の話しを聞いてドン引きするクルーゼとファニー。

才色兼備な淑女と見せて案外アホなスージー・・・・・・ファニーと一緒じゃん。


この親有ってこの子有りだね!

要するにどいつもこいつも皆んなアホだと言う事だ!


「スージーは基本的には思慮深いですわよ?

ただイリスが関わるとおかしくなるだけですわ」


「それは分かる」うんうんと頷くクルーゼ。


「お母様が思慮深いのは分かっております。

ただ・・・イリス陛下と深い繋がりが有った事をわたくしに教えて下さらなかったのが面白く無いだけですわ」


プクーと頬を膨らませるファニー、過去の大事な話しを自分に隠していた事にヤキモチを焼いていただけである。


「まあ怒んなって、教えて無いじゃなくて「教えられなかった」だけだからな」


「何で教えられないのですの?」


「イリス師匠の事をお前に教えるとファニーはイリス師匠の「壮絶な因果」と結ばれるからな、スージーは娘が危険に巻き込まれるのが嫌だったんだよ」


「因果?ですの?良く分かりませんわ」


ファニーは「因果」と聞き何かオカルト的な事を思ったが、この世界の因果関係は現実での事象に関しても強烈だ。


ヤニックとファニーが婚約者になったのもヤニックと母スージーの「イリスの弟子と言う因果関係」に引き寄せられた物なのだ。


リアナ伯爵令嬢が自然にヤニックの婚約者候補からフェイドアウトしたのもファニーの因果の方が強かったせいだ。


「まあ、その内ファニーも嫌と言うほど分かるさ。スージーがお前に自分の過去を話さなかった理由もな」


クルーゼの予言の通りにファニーを取り巻く因果関係は世界の中枢にまで達する事になる。


その時にファニーは自分の母スージーと同じ行動を取る事になるのだが、それはまだ先の話しだ。


これより戦乙女の英雄と呼ばれた少女の運命は加速的に動き出すのだ。

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