戦乙女の英雄 その22
「グレた」ファニーが今日も王都の外れの森で魔物をイジメ倒す!
ファニーに同行するのは護衛に任命された王太子ヤニックの侍従のクルーゼだ。
「ファニー?!危ない事は止めるんだ!」
「嫌ですわ」ヤニックからの制止にもプイとそっぽを向くファニー。
「百合疑惑」にいじけてグレたファニーを止める事など誰にも出来ない。
そもそもの話しで冒険者と活動する事は学園的にどうなんだ?と言われると・・・
別段何も問題は無く、平民の学生が授業料の捻出の為に学年と冒険者を兼任する事は良く有る話しで学園としても冒険者ギルドの仕事依頼の掲示板を設置、冒険者活動の為に発生する不足学業単位の追試をするなど全力でサポートしているのだ。
要するに将来的な職業訓練も兼ねている訳だ。
「平民の学生が良くて貴族の学生がダメなんて道理は通用致しませんわ」
ファニーの正論にグウの音も出ないヤニック。
「ならせめて同行者を付ける!クルーゼ!頼む!」と自分の侍従のクルーゼをファニーに付けたのだ。
「俺か?んー?・・・良いぜ何か楽しそうだ」クルーゼの方も気分転換に丁度良いと快く承諾した。
「侍従の方が戦いなんて出来るのかしら?」と、付き合わさせられるクルーゼに少し不安を持ったファニーだったが・・・
魔物の討伐への同行初日に・・・
「クルーゼ様?!強すぎますわーーーー?!」
アホか?!と言うレベルで強すぎるクルーゼに戦慄するファニー。
いや!そりゃそうだろ?「勇者」としてもクルーゼは最強クラスなのだから。
王都周辺の魔物など最初から相手にもならない。
なので初日からクルーゼに懐いたファニーはクルーゼに弟子入りしてしまう。
こうしてイノセントに続いてクルーゼの2人の勇者の弟子になったファニー。
「兄貴ーーー?!何してくれてるんですかぁ?!俺は護衛だけを頼みましたよね?!」
ファニーを弟子に取ってしまったクルーゼに涙目で抗議するヤニック。
「いや・・・あはははは、悪いヤニック。
何かファニーを見ているとな?妹を思い出してなぁ・・・」
「え?!兄貴に妹さんなんて居たんですか?!」
7年の付き合いでクルーゼに妹が居た事を始めて知ったヤニック。
「ん?言って無かったか?名前は「シルフィエット」だ。
今は「風の大精霊」なるべく祖母の「シルバニア」の所で修行をしている」
「か・・・風の大精霊・・・ですか?
それに「シルバニア」って「霊峰シルバニア」の事ですか?」
太古の昔から神話で謳われる霊峰が祖母とは?
初めて聞くクルーゼの身内の話しに混乱するヤニック。
「ああ・・・チラッと話したと思うが俺の母親は「シルフィーナ」と言う「風竜」だろ?
その母親の母親が霊峰シルバニアって訳だ」
「そうなんですね?」
余りにも現実離れした話しに気の無い返答をするヤニック。
普通ならホラ話しと思うレベルだからだ。
「その母親と父親の「勇者ガストン」の間に産まれたのが俺とシルフィエットって訳だ」
別に秘匿している話しでもないので詳しく説明をしてくれるクルーゼ。
「勇者ガストンーーーー?!
兄貴って、あの伝説の勇者の息子さんだったんですかぁ?!」
「あれえ?言ってなかったかぁ?だから同じ「エスピナス」って苗字だろ?」
「聞いてませんよ!
俺はてっきり「槍の勇者ガストン」にあやかって名乗っていると思ってましたよ!
まさか本当の息子さんだったなんて想像出来る訳ないじゃ無いですかぁ?!」
「おっかしいなぁ、イリス師匠が全部説明をしたと思っていたんだが・・・」
この件でもイリスは説明をコロッと忘れていたのだ。
「師匠・・・」ガクッと項垂れるヤニック。
《ごめんごめん、忘れていたわ、あはははははは》
との師匠のイリスの声が聞こえた気がするヤニックだった・・・
ちなみに「勇者ガストン」はこの時代には、さすがにもう老衰で亡くなっている。
享年は289歳、覚醒勇者にしては少し短命だった。
クルーゼは最上位精霊の子供で半精霊でもあるので寿命は3000年以上は楽にあるだろう。そして現在の年齢は724歳だ。
クルーゼは父親の血を濃く受け継いで「人間」に近い存続だが、妹のシルフィエットは母親の血を濃く受け継いで9割方の精霊、1割の人間として産まれた。
なのでシルフィエットは大精霊を目指している訳だ。
話しを聞き終えたヤニックはグッタリとしている。
クルーゼの生い立ちが余りにも神話や伝説と言っても良い衝撃的な内容だったからだ。
規格外の勇者イノセントに続いてそんな存在にも弟子入りしてしまったファニー。
ここからファニーのバトル的な意味での成長が加速するのだ。
「右から左への往復の動きにブレがあるぞ!
もっと腰を落として槍の先端に意識を集中しろ!」
「はい!」
スパーーーン!ヒュン!スパーーーン!
今日は200体を超える「紫虫」を相手にした多対一の訓練だ。
物覚えの良いファニーにクルーゼも楽しくなって指導にも熱が入る。
「はあ!!」ズドン!!「ピギィーーーー!!」最後の紫虫をchargeで始末するファニー。
「イノセントから教わった「気力闘法」も大体モノにしたな」
前任の師匠、イノセントの教えも忠実に守って鍛錬を続けていたファニーに感心するクルーゼ。
「はい!・・・「気力闘法」を使うと次の日の体調も良くなるんです!」
ヒュン!ヒュン!ヒュン!と槍を回して収めるファニー。
「そうか、そりゃ相性が良くて何よりだな」ニッカリと笑うクルーゼ。
「気力闘法」を使ったファニーの実力は冒険者レベルでもSランクに相当する。
元々のヴィアールの血に加えて勇者達の指導も加わり、だんだんと人間離れして来ているファニーだった。
その時・・・
「うっ?!」何かを察知したクルーゼ。
「師匠?」不思議そうに首を傾げるファニー。
するとクルーゼはファニーの両肩を掴んで一緒にそそくさと木陰に隠れる。
「師匠?どう致しました?」
「しっ!」上空を見上げたままのクルーゼ。
ファニーも不思議そうに上空を見上げていると、何か緑色の飛行生物が見えて来た。
「あれは・・・飛竜・・・ですか?
??・・・・隠れなくとも彼らが人間を襲う事はありませんわよ?」
天龍の眷属である飛竜は自分達から人間や他種族を襲う事は無い。
食性も草食なので気性も穏やかで南の大陸では「龍騎士」達の騎竜として活躍している。
ただ中央大陸の上空を飛ぶのはかなり珍しい。
「いや・・・あれは「風竜」だ」
「風竜!「風の大精霊」ですの?!では・・・あの方が「風竜シルフィーナ」・・・・」
「風竜シルフィーナ」・・・数々の神話や伝承に出て来る大精霊だ。
そしてクルーゼの「お母さん」でもある。
自分のお母さんに気を取られていたクルーゼは後ろから忍び寄る存在に気が付かなかった。
《お兄様!遂に見つけましたよ!》
突然後ろから何者かに首元目掛けてガッツリと抱き付かれたクルーゼ。
「うお?!お前・・・シルフィエット?!?!」
完全におぶさって来たシルフィエットにメチャクチャ驚くクルーゼ。
「きゃっ?!」いきなりな事に驚いたファニー。
《えへへへへー、お兄様ー♪♪♪》そしてメチャクチャ嬉しそうなシルフィエット。
クルーゼの後頭部に頬をスリスリとさせる。
クルーゼに抱き付いたのは緑色の髪に緑色の瞳のとても可愛いらしいクルーゼの妹だったのだ。
《お母様ーーー!!お兄様を見つけましたよーーー!!》
そしてシルフィエットが空を飛んでる風竜シルフィーナを呼び始める。
「あーーー?!シルフィエット!こらーーー!やめろーーー!」
《お母様ーーー!!》
クルーゼの叫びも虚しく上空の風竜シルフィーナは凄いスピードで真っ直ぐにこちらへと接近して来て・・・
シルフィーナはクルーゼとファニーのすぐ側まで来ると、ボウン!と女性の姿になりクルーゼに抱き付いて来た。
「あーん!!クルーゼ!久しぶりーーー!!ママはとっても会いたかったですわーー!!」
クルーゼとシルフィーナの100年ぶりの親子の再会だった。