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ユグドラシル編 3話 「スカンディッチ伯爵領と新たな火種」

宰相からの手紙を携えてスカンディッチ伯爵領にやって来たマッテオは領官邸のスカンディッチ伯爵の執務室へと通された。


マッテオから見た伯爵の第一印象は「穏やかな御老人」であった。


宰相閣下は穏やかそうに見えるが目の力が強くて目が合うとピッと背筋が伸びる迫力があるが同年代と思える伯爵は目が合うとフッと穏やかな気持ちになる。


実は伯爵は威圧を行なっている、敵意が無い者には心地良く感じるが敵意の有る者には地龍の威圧が掛かる魔力が込められている、つまりマッテオは伯爵の試験に合格したのだ。


「「ふふふ、あの老ぼれめが最後に面白い奴を寄越したもんじゃ」」とニコニコしながら手紙を読むスカンディッチ伯爵。


何が書いてあるかおおよその見当はついているが一応確認して手紙を置いた伯爵は「ふむ・・・君は手紙の内容を知っているかね?」とマッテオに白々しく聞いて見る。


「いえ!内容は宰相閣下しか存じてません!」マッテオは人宛の手紙を読む人間ではないので当然の答えだ。


「「彼奴め」」と伯爵の笑顔が深まる「手紙の内容はこうじゃ1人若者を送るからスカンディッチで鍛えてやってくれ・・・だそうだ」と笑顔の伯爵が内容を伝えると、

「なっ!!」思ってもない内容に驚くマッテオ


「ついでに地龍について詳しく教えてやってくれ・・・とも書いてあるな」と笑顔を崩す事無く特大の爆弾を投下する伯爵だった。


「!!!!伯爵は地龍についてお詳しいのですか?!」前のめりになるマッテオ。


「それを答えるのは君の此処での滞在が条件になるかな?」どうするかね?と言わんばかりの伯爵の笑顔に一歩後退するマッテオ


「大変な事になった」マッテオは直感した、今人生の大きな転換期だ!ここでの答えが人生を大きく変える、伯爵に教えを乞うたいが今は公爵家の一大事だ家を離れていいものか?


しかしこれは恐らくは国、いや世界に関わる事柄だ!自分如きに何が出来るのか分からないが力を振るえるならば振るって見たい!宰相はそれを見越して私を此処に送ったのだ家の事は今は大丈夫だ!ならば今は力を蓄える時だ!


「その話し是非お受けします」とマッテオが答えるまで僅かに1秒、側から見ると即決に見えただろう、つまりマッテオは「思考加速」保持者なのだ。


本人はまだ気がついていないが宰相は気づいていた、その上で魔族に取り込まれるのを防ぐ為と力を得る為に伯爵と地龍を利用したいと手紙には書いていたのだ。


古き友の願いと伯爵自身がマッテオを気に入ったのでこの話しを受ける事にしたのだ。


「うむよろしい、先ず君には鍛冶屋で修行してもらおうかな?」とマッテオの想像とは少し違う伯爵の提案に戸惑うマッテオ、


「かっ鍛冶屋?ですか?」何故?鍛冶屋?


「そう鍛冶屋」当然の様に言葉を繰り返す伯爵、


なぜ鍛冶屋なのだろうか?とマッテオは疑問に思ったが何か考えがあるのだろうと

「分かりました!よろしくお願いします!」と返答した。


思考加速だけで無く中々の決断力じゃな、と少し伯爵は感心した、後は自分の上司が上手くやってくれるじゃろう、シーナ様が不在で暇じゃろうしあの方は見張りがいない時に暇だと妙な物を作ってしまうからな。


前は空飛ぶ道具を作るとか言っておったし、何か寒気がするんじゃ、始末書が迫ってくるあの感覚が!


伯爵は一瞬身震いをして


「ではよろしく頼むぞ」主に我の休日の為にと伯爵は願う。


「はい!」


そうしてマッテオはトムソン鍛冶屋に向かうと、

「ぬ?弟子だと?」

店に入るなり深々と頭を下げる若者を怪訝そうに見るノイミュンスター、さて追い返すのは簡単だが・・・ノイミュンスターは考える。


もしこの者が店番やら伯爵の苦情を引き受けてくれたら「ろけっとぶうすたぁ」の開発が進むのぅ、と残念ながら伯爵の願いはノイミュンスターには通じない様だ。


「そうか・・・分かった伯爵様の願いなら断れないからな」

得手してマッテオは地琰龍ノイミュンスターに弟子入りするのであった、この日の決断がマッテオが自分の命を拾い、この後の彼の運命を変えた事を理解する日はそう遠い話しでは無い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ザッザッザッ



ザッザッザッザッ



「フッハアハアハアハア」


王都近くの湖の畔の森を1人の近衛騎士が全力で走る、何かに追われている様で顔は必死だ。


「くそっ!なんで天龍の奴等が・・・ブレストに急いで報告を・・・」と思った時、

!何かを察知したのか立ち止まり木の影を睨む!


するとスッとその木の影から騎士の前にメイドの姿の女性が現れた。


スラリとした長身に長い金髪の髪、青い瞳の女性はどこか幻想的な印象を持つそんなメイドの女性を前に男はジリジリと後退る・・・


「くっ!!」近衛騎士の男は全身の魔力を練り上げる!


「・・・騎士様、そんなに急いでどちらに?」そう言いながら悲しそうな表情のメイドが近衛騎士に近寄ると、


「ぐうっ!はああ!!」と騎士が唸り叫んだ瞬間!男の周囲の魔力が膨れ上がり騎士の男の背中に大きな翼が生える!男は魔族だ!


「炎輪陣!!」と叫びながら魔族は炎を纏い空に飛び上がり女性に向けて手をかざして「炎弾!!」と叫ぶ!


魔族の周囲の炎が丸い魔法弾を形作り次々と女性に向かい飛んで行く!


かなりの使い手らしく高密度、超高温の炎弾だ!


20発ほどの火の玉が全方位から女性を襲う!が女性は動かずにゆっくりと手を前に出して「風の障壁」と呟く。


すると女性の周囲にもの凄い突風が巻き起こる、その突風が魔族の放った炎弾と激突して全ての火の玉が掻き消されてしまう。


「くそ!」魔族は憤った言葉を放つがどこかホッとした表情を浮かべる。


「降伏なさい、貴方はもう逃げられない、上からの指示で動いているだけでしょう?捕虜になる様な作戦を立てる無能な指揮官に義理を果たす事など無いでしょう?

・・・私は貴方を殺したくないの・・・お願い!降伏して!」

メイド姿の女性は必死に魔族の男の説得を始めた。


「・・・・・・」魔族は何も言わず動かない。


「さっきの攻撃も本気で私を焼き殺すつもりとは思えなかった貴方もっと強いですもの、ねっ?オーバン!」メイドの女性の目から涙が一粒落ちる。


そこまで黙っていた魔族が「・・・本国には私の家族がいる」と呟くと「うん」とメイドが答える。


「私が降伏すれば迷惑が掛かる」「・・・うん、そうだね」


「戦死なら家族の名誉は守られる・・・討ち取って欲しい」と目を閉じる魔族、「分かったわ」と言った瞬間メイドの姿が消えた!


ドスン!と鈍い音が響く!


音も無く空を飛ぶ男の背後に回った女性は男の首元に手刀を打ちおろしたのだ、ガクンと意識を飛ばす男を抱きしめて、

「魔族、スペクターのオーバン討ち取ったり」ともう一度魔族をギュと力を込めて抱きしめたメイドだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後、2人の金髪のメイドが駆けつけて魔族の男を抱くメイドと合流した。


すると魔族の男を抱く姿を見て、

「はあーーーーーーーーーーーー」

わざとらしく深い溜息を吐く金髪ショートカットの女性、隣りの金髪セミロングの女性は苦笑いを浮かべている、3人共メイド服に身を包んでいるが強い存在感を発している。


「ごめんなさい」気絶した男をお姫様抱っこで抱えて先程の女性は頭を下げる。


「それで?どうするの?その男?」ショートカットの女性が腰に手を当てて長髪の女性に尋ねる。


「どうすれば良いかな?」悲しそうに男を見る女性。


「どうするも何もレンヌが面倒見るしか無いでしょ?」とセミロングの女性、天朱龍ニームがそう答えると、

「いいの?ニーム?」顔を上げる天龍レンヌ。


「いい訳がないでしょう?」呆れた声の天舞龍リール。


「ごめんなさいリール」


 長髪の女性は天龍レンヌ、ショートカットの女性は天舞龍リール、セミロングの女性は天朱龍ニーム、天龍王アメデの愛し子のラーナ・フォン・ピアツェンツェアの警護の為に派遣された天龍の龍戦士だ。


気絶している男は魔族「スペクター」のオーバン、魔軍の情報部男で今回の潜入作戦での連絡要員だった。

天龍が城内に存在している事を突き止め本国に通達しようとした所を天龍レンヌに察知され通信を妨害され逃走しようとした所を捕らえられた訳だ。


お互いの素性を知る前に擬態としての恋人同士であったがいつの間にか本当に情が移ってしまった訳だな。


「あああもうー!」指揮官のリールは頭を抱える、魔族と恋仲になるだけでも問題だが侵攻して来た情報部の男を勝手に捕虜にした事も大問題だ。


これでは泳がせて他を炙り出す作戦が破綻してしまう、そうなるとオーバンへの尋問が必須だがこれは拷問に近く苛烈な尋問になる、もう絶対に吐かせねばならなくなったからだ。


しかし戦友のレンヌの恋人を拷問するのは気が引けると言うか絶対に嫌だ、かと言って、そんな汚れ仕事をニームに任せる事も絶対に出来ない。


悩みに悩んだ天舞龍リールはテンパった頭で妙案を出す「あっそうだ!地龍に押し付けよう!」


幸か不幸かピアツェンツェア王国のスカンディッチ伯爵領には何故だか知らないが旧知の友で地龍のNo、2地琰龍ノイミュンスターが滞在している!


彼ならば捕虜に酷いことはしないし必ず情報も引き出してくれるはず、それに今回は天龍に任せて地龍はサポートに徹している、多少の無理難題なら押し付けて良いはず、正に天啓「私って頭良い!!」とリールは自画自賛した。


ちなみに3人は見た目は同じ20歳代前半に見えるが天舞龍リールは4000歳を越える天龍の中でも最高位クラスの龍戦士だ。

かつては地龍に地琰龍ノイミュンスターが有り、天龍に天舞龍リール有りと謳われた神話クラスの龍種だ、発言内容でそうは余り見られないが・・・


捕虜の勝手な地龍への送還など許される訳がないのだが彼女が是と言えば是になってしまう、若い2人はお婆ちゃんに救われたのだ。


「うっ・・・」そうこう話しをくてるとしているとオーバンが目を覚ます。


「・・・オーバン」


「・・・レンヌ」


見つめ合う2人だがそれどころじゃないとリールが甘い空気をぶった斬ってくる!

「はいはいはい!そう言うのは後!オーバン君いいかな?君はここで戦死したの!いいね?」


「はっ!覚悟は出来てます」オーバンはこの場で処刑されると思ったのだ。


「違うよ!本当に死んでどうするの?!この馬鹿者!

君はもうこの世には存在しない!そうしないと君は助ける事は出来ないって意味!これは君の為じゃ無くレンヌの為だよ!」

何?この正直者は?とリールは憤慨した!本当に魔族の情報部の人間なの?!と。


「リール」感動したレンヌが涙目でリールを見つめる。


「但し魔軍の情報は絶対に吐いてもらう!絶対に!いいね?!」

そう言うリールの威圧感が上がる!オーバンは初めて接する神話クラスの龍戦士の圧倒的な存在感に戦慄する!


「その後は地琰龍ノイミュンスターの所で静かに!何もしないで!過ごしてもらう!いいね?」


ここで更に神話クラスの龍戦士の名にオーバンに抵抗する気が完全に尽きる・・・

「はっ!心得ました、リール様の仰せのままに」


レンヌに抱かれたままオーバンは項垂れた。




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