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戦乙女の英雄 その9

即興で騎士服を修正して何とかファニーの色気を抑える事に成功したフローラ。

訓練場に戻る為にファニーと並んで歩き出す


既に彼女はファニーの護衛騎士だ。

廊下でファニーに話し掛けたそうにチラチラとファニーを見ている侯爵家令息を護衛騎士の目で威嚇する。


訓練場に到着すると王太子ヤニックも武闘大会へ向けてウォーミングアップをしていた。


バチっと目が合うヤニックとフローラ、

「あっ・・・コイツ・・・敵だ!!!」瞬時に悟った二人。


ヤニックがファニーに恋をしていると分かったフローラはヤニックにファニーが見えない位置に立つ、勿論フローラの意地悪だ。


ヤニックに気付かずニコニコとフローラの方ばかり見ているファニーを見て、

「むう・・・」不機嫌そうなヤニックに「ふふん♪」と得意気なフローラ。


「さあ、ファニー様、あちらで訓練の続きをしましょう」

武闘大会が始まるまで時間が無いので急ピッチでウォーミングアップを始めるフローラとファニー。


柔軟体操などは終わっているので棍を使って打ち合いをする。

フローラは剣の部門の参加だが可愛い後輩の為に槍の練習に付き合う。


カコーン!!コーン!カカン!と棍がぶつかる。

軽めの打ち合いだが、すぐにファニーの力量に驚くフローラ。


《これは・・・凄いですね。

ランクで言うとBランクの冒険者に匹敵するでしょうね》

かなりの力量のファニーだが、実はフローラはA+ランク冒険者資格を持っている学園内最強の生徒なのだ。


絶対的な実力差がファニーとフローラにあるのだ。

そりゃ、そんな彼女に睨まれたら侯爵令息でもビビりますわ。


フローラ以上にヤニックはフローラの力量の高さに驚く。

ヤニックは学園内に自分の相手を務められる者は居ないと判断していたからだ。

《実力者は常に実力を隠しているモノか・・・》


と何かカッコ良く、そんな思考をしたヤニックだが実際には全然違う。

普段のフローラはただの天然ボケでホヘヘーンとしていただけなのだ。


「眠れる猛虎」それが彼女の二つ名だ。

眠っている時の彼女はマジでヤバい、歩いてコケるはしょっちゅうの事、

どう言う訳か知らんが柱と正面衝突をするなど逸話には事欠かない。


まあ、でもファニーにとっては思わぬ練習相手が出来てラッキーだったと言える。

《お姉様!凄い!凄いですわ!!》

カッコいい姉貴分に喜んだファニーは更にピッチをあげる!


カアーン!!カコーーン!!カン!カカアーン!!

ファニーが猛然と連撃を繰り出してフローラが難なくそれを捌く。


訓練場の目立たない隅っこで武闘と言うに相応しい技の応酬を繰り返す二人に周囲の騎士候補生も思わず注目する。


「マジかよ・・・あの二人、やばくね?」


「あの二人、アンデュール伯爵家の令嬢とヴィアール辺境伯家の令嬢だろ?

さすが昔からのバリバリの武門の家はやっぱ凄えな・・・」


「あれ?アンデュール家とヴィアール家って仲良かった?」


「うーん?悪いって話しは聞かないが、仲が良いって話しも聞かないな・・・」


フローラとファニーの実家は100年程前のヴィアール共和国の独立戦争時にバチバチにやり合った事があるので基本的に裏での仲は滅茶苦茶悪い。

外聞が悪いので表面上では和解している風に見せているだけだ。


現在も王家が密かに仲裁している最中なのだ。


その為に王妃になったファニーがフローラを絶対に側近に加えると言い出した時、

一悶着があったのだが、その話しは別の機会に。


「はい!ファニー様!ここまでです。これ以上は大会本番で疲労が残ります」


「ふえええ?!嫌ですぅ。もっとお姉様と打ち合いたいです!」

ぴょんぴょんと跳ねながらそんな可愛い抗議をする後輩の頭をヨシヨシと撫でて宥めるフローラだった。


二人共、実家の仲が悪いのは知っていたが、若い世代の二人はそんな事は自分達に関係無いと思っている。


「そんなモン知るかー!!このクソボケェ共がぁ!!」

フローラを側近に加える事に対して抗議をしに来た親戚達にファニーがブチ切れて言い放った言葉である。


無論、その直後にフローラから「はしたない!」と叱られたファニー。


70年後、ファニーの周囲には人がたくさん居たが親友と呼べる人物はフローラだけだったと人生最後の床の時に思い返す事になる。


出会って1時間強でとても深い繋がりを見せる二人に危機感を募らせるヤニック。

王族特有の感情を表に出さない習性がモロに裏目に出た形だ。


そんなヤニックとフローラの目がまた合う。

「ふふん♪」から「へへーんだ♪」にフローラの表情が変わった?!


「ぐぬぬぬぬ・・・」珍しくモロに悔しそうな顔のヤニック。

ファニーはフローラばかり見ていてヤニックの事は頭から吹っ飛んでいた。


こうした雰囲気の中、武闘大会が始まった。

お祭りでは無く「授業」なので黄色い歓声とかは無い、と言うか特別単位が掛かっているので全員真剣その物だ。


特別単位とは、卒業後に騎士団や兵団に入る際の階級に影響する。

軍隊に入るなら、各部門の優勝者は「軍曹」待遇で入隊する事が出来る。


まぁ、分かり易く言うとエリートコースへまっしぐらってヤツだね。


そんな中で剣術と槍術は激戦区だ。

参加者も多いので上位12名と敗者復活戦での4名に特別単位が与えられる。

巡りが悪くて負けても実力があれば特別単位を取得出来る制度だ。


抽選の結果ファニーはAブロックでヤニックはBブロックとなった。

勝ち進む事が出来れば準々決勝で二人は対戦する事になる。


ファニーとヤニックはお互いに勝つのが目的で別に決勝の舞台で無くとも良い。

むしろ疲労が溜まる前の予選一回戦で戦いたかったくらいなのだ。


ファニーの一回戦の相手は騎士課程の平民の男子生徒だ。

この国に男女差別は殆ど無いので対戦も平等に男女混合で行われる。


勝敗は剣道と似ていて2本先取の判定戦で決まる。

ガッツリと防具は着けているが急所攻撃は無論禁止だ。


防御力も判定に影響するので防衛一辺倒になる者もいるが、柔道の試合と同じに両者に積極性が無いと両者減点の対象になるので塩梅が難しい。


ファニーは先ずは防御側に回って生徒達の力量を測る作戦だ。

対戦相手の生徒も相手が可愛い女の子でも容赦はしないだろう。


強制では無く完全な志願による大会なので出て来る以上は腕に自信があり、打たれる覚悟のある者しか居ないので遠慮などは存在しない。


四人の審判員の教師に囲まれる中で試合は始まる。


「始め!」


試合が始まり両者は距離を取り合う、剣術と違い槍術はアウトレンジからの攻撃が主体だ、先ずは有効な間合いの取り合いになる。


なり振り構わず単純に敵を倒すだけならファニーお得意の超接近戦に持ち込めば良いのだが、基本的な技術も判定材料になるので今回は無しだ。


相手の男子生徒は自分の有効距離に入ったと判断をしてファニーに攻撃を開始する。


カアーン!!正面から牽制の中段の突きを下から払うファニー。


次に上段の突きをしっかりと入れて来る男子生徒、しっかりと基本的な動きをして来る。


「うっ?!」カアーン!!


想像より遥かに鋭い突きでファニーは払い切れず棍を回転させて受け流すしか無い。

更に間髪入れずに一歩前に出て追撃の中段突きを入れる男子生徒!


ドン・・・「あっ!」ファニーの心臓ど真ん中に軽く有効打が入る!


「一本!!両者開始線まで!」


四人の審判員全員が男子生徒に一本の旗を上げる、完璧に男子生徒に突き崩されてやられてしまったファニー。

戦場だったら心臓を貫かれて即死だったろう。


冷静な顔で黙って開始線へ戻るファニー・・・


《ななななな・・・不味いですわ!不味いですわ!不味いですわーー!!

この方、滅茶苦茶強いですわー!どうしましょう!どうしましょーう?!》

内心は全然冷静で無かった・・・めっちゃ動揺しまくっているファニー。


この男子生徒の名前はデートリヒ・フォン・メルクル子爵。

父の病死により3ヶ月前に若干16歳にて子爵家を継いだ新進気鋭の英傑である。


後のピアツェンツェア王国、第二軍軍団長になる人物だ。

要するにファニーが勝つには非常に厳しい相手と言う訳だ。

全く持って、くじ運が無いファニーである。


《もし予選一回戦で敗退なんて・・・》

チラッと王太子ヤニックを見るファニー・・・

《どうせ・・・殿下なんて、わたくしの醜態を見て笑って見てますわ・・・》


ヤニックを見て背筋に冷や汗が吹き出したファニー。

とても真剣な目でデートリヒの動きを見ているヤニック。


その目は正に為政者の目だった。

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