戦乙女の英雄 その7
ヤニックとの対戦が決まり槍術の鍛錬を一心不乱に行うファニー。
「鍛錬は良いけどよ?何で冒険者ギルドの訓練所を使ってんだ?」
ファニーと手合わせして床に座り込みゼェゼェと息を切らしている槍術士の冒険者達を呆れた表情で見ているジャック。
カアーン!カカーーン!
「寄宿舎では!」カアーン!「碌な相手が!」カアアーーン!「居ないから!」
「ですわ!!」バシィ!「うおお?!」カランカラン・・・
ファニーの下段からの振り上げで木製の棍を叩き落とされる冒険者の男。
「おい!情け無いぞお前!何やってんだしっかりしろ!」ジャックの檄が飛ぶ!
「いや・・・嬢ちゃんの槍術が変則過ぎるんっすよ・・・
槍で連撃の薙ぎ払いとかをされちまうと調子が狂うんですよ・・・」
負けてションボリの槍使いの冒険者。
ファニーの槍術は「薙刀術」に近くほとんど「突き」の攻撃をして来ない。
本来の槍術は長い得物の特性を活かしたアウトレンジから突き攻撃が主体だ。
普通の槍術士はファニーの様にいきなり近接戦に持ち込む槍術を見た事が無いのだ。
「言い訳は見苦しいぞ!戦場でそんな言い訳は通用しない!
初見の技でも完全に対応出来る様にちゃんと研究しておけ!」
このジャックの檄は正しい、もしこれが戦場でファニーが本物の槍を使っていたら全員死亡か大怪我は避けられない。
ジャックの檄に余計にションボリするファニーに負けた冒険者達。
当然、少女のファニーに本気になり切れなかった所はあるが、その負け方の内容が悪過ぎた。
全員が頸椎や心臓などの急所で寸止めされて敗北したのだ。
「なっさけなぇなぁお前等は・・・」
冒険者達の惨状に渋い顔のSランク冒険者のイノセントが現れた。
「まぁ?!」何故か黄色い声を上げるファニー?・・・ん?どした?
テテテとイノセントに走り寄るファニー。
「初めてまして!わたくしはファニーと言います!貴方はごぼぼぼ??!!」
「ご結婚はされてますの?」を言う前にジャックに口を塞がれるファニー。
「ファニー・・・それは、はしたないぞ・・・」
心底呆れた声のジャックは盛大にため息をついた。
「ん?どした?」
「いいや、何でもない」フルフルとクビを振るジャック。
そもそもイノセントが独身だったらどうする気だったのか・・・
「ヤニック・・・王太子殿下の所に居なくて大丈夫なのか?」
「そこのファニーお嬢さんの面倒を見てやってくれだとよ」
「んな?!」イノセントの言葉に驚いたファニー。
要約すると「アイツはマジ弱いから鍛えてやってくれ」と言われたからだ。
ヤニック的には勇者の修練の仕方を知らないのは不公平だと思いイノセントにコーチを頼んだのだが、それは強者の上からの目線だ。
「うううううう~」・・・ファニーがイライラするのも仕方ない。
「絶対に殿下をブチのめしてやりますわーーーー!!」
改めて「打倒!ヤニック」を誓うファニーだった。
「おお?!気合い充分だな。
んじゃ早速俺と模擬戦だ、もう時間が無いからな」
「望む所ですわーーーー!!」イノセントに挑み掛かるファニー。
・・・・・結果はファニーは全く見せ場無く惨敗した。
ファニーの攻撃は全て簡単にイノセントに片手でいなされてしまった。
パワー、スピード、テクニック、その全てがファニーが敵う相手では無かった。
「うぐぐぐ~、もう一回ですわ!」
でも諦めたらそこで終わり!何度でもファニーはイノセントに挑む!
そして全敗してしまう。
「はあ!はあ!はあ!ううう・・・わたくしは、井の中の蛙だったのですね」
完全に、Orz 状態のファニー、もう足腰ガクガクで立ち上がれない。
そんなファニーを見てイノセントは関心していた。
《想像してたよりかなりやるじゃねぇか・・・
こりゃ少しヤニック野郎に一泡吹かせてやりたくなって来たぜ》
そんな企みをするイノセント。
「ファニーお嬢さんは「気闘法」って知ってるか?」
「はあ!はあ!はあ!・・・体内の魔力を使う身体強化方法ですね?」
「半分正解だが、魔力を使う訳じゃない。精神エネルギーを使う」
「精神エネルギー・・・とは?何なのですの?」
「ヤニックをブッ殺す!!を力に変えるだよ」
「!!!!それなら幾らでも出来ますわ!!」
厳密に言うとヤニックの説明は間違えているが無論ワザとだ。
精神力・・・ファニーの負けず嫌いな所を利用して「気闘法」をファニーに会得させ様と企むイノセント。
何故そんな事をするのか?
それはヤニックが慌てる所を見るのが面白いからだ。
次の日から少し本気でファニーに「勇者」の戦い方を教え始めたイノセント。
すると驚いた事にファニーには「勇者」素養があったのだ。
《もう少し早く分かってりゃなぁ、惜しかったぜ》
残念ながら身体が出来つつあるファニーは勇者修行を始めるには少し遅かった。
しかし今まで鍛え上げた事は無駄にはならない。
半月が経過する頃にはファニーの潜在能力は倍化していた。
「イノセントの兄貴!!!
どう言う事ですか?!ファニーに「勇者」の気配を感じます!
一体ファニーに何をやらせているんですか?!」
激オコのヤニック、勇者の修行は身体を壊す可能性が高い、ファニーが心配で仕方ないのだ。
何せファニーを将来自分の妻にするとこの時、既にヤニックは決めていた。
少しづつファニーに対して過保護になって来ているヤニックだった。
「ん?俺は「触り」程度の事を教えただけだせ?
後は本来、ファニーお嬢さんが持っていた力が解放されただけだ。
油断してたらお前でも足元掬われるぜ?」
「・・・俺が不味いと感じたら即座にやめさせますからね」
そんなヤニックの心配を他所にドンドンとイノセントの教えを吸収するファニー。
キィーーーーーン!!キキィーーーン!
模擬戦で槍がぶつかる音も変わって来た。
相手をしているイノセントも既に片手で捌けなくなって両手持ちになっている。
《こりゃあマジで「覚醒」まで到達出来たかも知れねぇな・・・》
そう感じると益々惜しい気持ちになったイノセント。
「よおし!武闘大会まで後一週間だ。
ペースを落として体力を回復させるぜファニー嬢ちゃん」
「!!!わたくしは、まだまだ行けますわ!」
「ダメだ。このままヤニックと戦ったら疲労で負けるぜ嬢ちゃん」
「!!!分かりましたわ!休みます師匠!」めっちゃ素直なファニー。
軽めの打ち合いをして今日の修練は終わり、体力の回復に努めるファニー。
ボーとイノセントと冒険者達の打ち合いの訓練の様子を見ている。
「師匠・・・」
「なんだ?」
「わたくし、殿下に勝てますかしら?」
イノセントとの修行で視野が大分広がったファニー。
視野が広がって、だんだんとヤニックの違和感に気がついて来ているのだ。
1番の違和感は異常なくらい感じない魔力と気力だ。
最初は貧弱と斬り捨てたのが良く考えて見ると王家と言うのは優秀な血をドンドン取り入れて来た一族なのだ。
そんな王族のヤニックに魔力を一切感じないなんて有り得ないのだ。
2番目は、ヤニックの歩く姿だ。
昨日も遠目でヤニックを観察していたのだが歩くヤニックに隙が無かった。
明らかに何かの武道を修練している。
この二つを組み合わせると「意図的に能力を隠している」と言う結論に至る。
「ん?んんー・・・そうだなぁ・・・」
「遠慮なさらずにスパッと仰って下さいまし」
「・・・・・・・・・・・・勝てる可能性は0だ」
「!!!・・・・・・・・・・・・そうですか・・・・」
これはさすがにショックを受けたファニー・・・
「五分五分くらいじゃね?」
とイノセントに言われると思っていたのにまさかの勝利確率0なのだ。
「・・・・・・ヤニックの野郎は俺の弟分だと伝えておくよ」
「・・・・・うふふふふ、マフィア見たいですわね。
ここから勝てる技をマスター出来る事なんて可能ですか?」
「有るには有る・・・が、未成年には教えん、身体を壊すからな。
ファニー嬢ちゃんが成人したら教えてやるよ」
「絶対に教えて下さいまし、師匠・・・・・・」
イノセントが言った技は「魔力闘法と気力闘法」の事だ。
ファニーは魔力が少し低い分、気力の扱いが上手い・・・
既に「気力闘法」を無自覚に習得している。
それをハッキリと自覚をすれば間違い無くファニーは限界を超えて気力闘法を使うだろう。
そんな事をすれば未完成の身体のどこかは壊れてしまうだろう。
ファニーが安全に武闘大会で戦える様にするのがイノセントの仕事た。
それは絶対に容認出来ない事態だ。
「ああ・・・成人したらな」
そんなイノセントの言葉を聞いて小さくため息が出たファニーだった。