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戦乙女の英雄 その3

王立学園の寄宿舎に到着したファニーは荷物の整理・・・は終わっていたので

クロスフォード公爵令嬢に編入の挨拶に向かった。

言わば彼女が学園内のトップなので挨拶せんとかなり面倒くさい事になるからだ。


アスティ公爵令嬢の部屋をノックすると中から侍女が顔を出したので、 

「本日より学園に編入になりました、スティーブン・フォン・ヴィアール辺境伯が娘のファニー・フォン・ヴィアールです、エスティマブル様にご挨拶に参りました」

とカーテシーをする。


一応、外面は良いファニーなのである。


「これはこれはご丁寧に、少々お待ち下さいませ」

侍女が深く頭を下げて取り次ぎに部屋へ戻る。


主家より格下の家格の令嬢に相手に実に丁寧だ、クロスフォード家が使用人にもしっかりとした教育をしているのが分かる。


三大公爵家の中で1番歴史が浅く、馬鹿にされがちなクロスフォード公爵家だが、

ファニーの中で好感度が上がる。


ちなみにヴィアール家の歴史は実に1000年以上あり、一時期は独立国家としてピアツェンツェア王国とも戦った歴史がある。


それに元々はヴィアール共和国からピアツェンツェア王国に発展した経緯もあるので田舎貴族と言えど一目を二目も置かれているが本人達は権力に興味を示さない。


「いよいよ使う人間がいなければその時は俺達を使えば良いんだよ」

そんなスタンスを代々貫き通している。


1分ほど待っていたら「ファニー様、お入り下さい」と言われて部屋へ入る。

部屋の中はファニーと同じ高位貴族令嬢が入る部屋と全く同じ作りだった。


《へえ?少し意外だったわ》ここにも少し感心したファニー。

普通、高位貴族令嬢は少しでも家格を上げる為に部屋割りにはうるさい。


我儘では無く家の為なのでここは手を抜かない。

公爵令嬢ともならば2つの部屋をぶち抜いて改装なんて事は平然とやる物なのだ。


侍女に案内されると部屋の奥のバルコニーに作られたテラスに金髪ブロンドのエスティマブル公爵令嬢がちょこんと座っていた。


《あら!いやですわ!なんて可愛い!》

飄々として何考えてるか分からず冷たい印象を受けるファニーだが彼女の本質は・・・


「お母さぁん!」ここに収束される。


とにかく母性本能が強く、かつてメイドさんが自分の赤ちゃんをファニーに見せに来たら、「可愛いですわ!可愛いですわー」とウリウリウリウリとして赤ちゃんをメイドさんになかなか返さず周囲を驚かせた。


そんなファニーから見てもエスティマブル・フォン・クロスフォードは、本能的に可愛い女の子だと分かったのだ。


これは是非お友達になりたいですわ!ファニーはそう思い満面の笑顔で、

「エスティマブル様、はじめまして。

スティーブン・フォン・ヴィアール辺境伯が娘のファニーでございます。

この度、王立学園へ編入になり、ご挨拶に参りました」

とカーテシーで挨拶をする。


「それは長旅ご苦労様でした・・・じゃなくて・・・

クロスフォード公爵が娘のエスティマブルですわ。

こちらこそよろしくお願い致しますわ・・・じゃなくて・・・

えーと?そのー?あ!田舎者がはるばる王都にまでご苦労様・・・ご苦労な事で」


と、なんとも奇妙な挨拶を返された。

少し狼狽えた様子のエスティマブル公爵令嬢は続ける。


「いいです事?家格では私・・・わたくしの方が上なのです。

ヴィアール辺境伯家がいかに素晴らしい家門でも・・・いえいえ田舎辺境伯家の貴女はわきまえ行動をして下さい・・・する様に」


ファニーを馬鹿にしたつもりでもヴィアール辺境伯家が素晴らしい家門と褒めるエスティマブル。


「エスティマ様?それでは疲れますでしょう?普通にお話し致しましょう?」


少し困惑したファニーが何か事情があるんだろうと察して相談に乗ろうと思わずファニーの頭の中での「エスティマ」の愛称で呼んでしまうと、


「まあ!エスティマ?!」と嬉しそうに満面の笑顔になったエスティマ。

「うぐっ!」思わず鼻を押さえるファニー、笑顔のエスティマが可愛いくて鼻血が出そうになったのだ。


「ああ!違います!違います!愛称呼びなんて全然嬉しくありませんわ!」

めっちゃ挙動不審になるエスティマ。


「ここに他の令嬢はいません、わたくしで良ければご相談に預かりますわ」


「!!!!本当ですか?!ファニーお姉様!!」

完全に素になったエスティマはファニーをお姉様呼びして、

ファニーは「お姉様?!」と声を上げて再び鼻を押さえる。


初対面10分でエスティマブル公爵令嬢に懐かれたファニー辺境伯令嬢だった


それからのエスティマの話しを要約すると・・・


現在11歳のエスティマは本来なら15歳の高等部から入学するはずだった。

これは高位貴族では一般的、それまでは自宅で勉強する物なのだ。


しかし去年、アスティ公爵家の子息が卒業して学園に王家、公爵家、侯爵家の人間が不在になってしまった。

「王立」を謳う学園には少々好ましく無い状態だ。


そこで王家からエスティマブル公爵令嬢に王立学園の入学をお願いされる。

少々渋ったクロスフォード公爵だったが王と個人的な親交もあったので承諾して2ヶ月前に入学したそうだ。


「最初は高圧的に接しなさい、それでも付いて来てくれる人間と親交を持ちなさい、家格では無く個人を見る目を養いなさい」

との父の言葉を守り高圧的な令嬢を演じていたそうだ。


その結果、2か月が経つ頃にはエスティマに近寄って来る令嬢は少なくなって寂しかったそうだ。


「なるほど・・・あれ?王太子殿下が、もうそろそろ入学されますわ?」


「えっ?!そうなのですか?ファニーお姉様?」


ヤニックの王立学園の入学は一カ月前に急にブチ込まれたモノでほとんどの貴族家には認知されていない。


何せ3か月前まで高位魔族「スペクター」極大魔法をぶち込んでいて生きるか死ぬかの瀬戸際だったのだ。

学園どころの騒ぎでなかったからだ。


「それでしたら私はお家に帰れるかも知れませんわ!」

手を合わせて喜ぶエスティマだが・・・


「うーん・・・それは少し難しいかも知れませんわ、エスティマ様」


「ええ?!王太子殿下が御入学なされば私は不要になりませんか?」


「おそらく、エスティマ様も殿下の婚約者候補になるからです」


ヤニック王太子とエスティマブル公爵令嬢の歳の差は5歳、全然射程範囲内だ。


「ええ?!嫌ですわ!私には産まれた時からの大切な婚約者がおります。

絶対に彼と離れるなんて嫌です!そんなの辞退致します!」

エスティマには将来を誓い合った侯爵家子息の婚約者がいたのだ。


「まあ!わたくしと同じですわ!わたくしも王太子殿下の婚約者候補を辞退する為に学園に来たのですから」


「そうなのですね?!お姉様も・・・あれ?お姉様的には良いお話しではありませんか?」不思議そうに首を傾げるエスティマ。


「殿下は好みじゃありませんの」

不敬なんざ知るかい!とヤニックをズバッと斬り捨てるファニー。


「そっ・・・そうなんですね?さすがはヴィアール辺境伯家ですわ!素敵です」

歴史を勉強するのが大好きなエスティマ。

そんな彼女にとって最古の家門のヴィアール辺境伯家はヒーロー的な存在なのだ!


ファニーはまさに本で見たヴィアール辺境伯家令嬢そのものだった。

だから最初からヴィアール辺境家の令嬢と会えたのが嬉しくて嬉しくて仕方無く、

高圧的な演技が上手く出来なかったのだ。


「そ・・・そうなんですか?」その事を知り少し照れるファニー。


「はい!是非ともヴィアール辺境家の事が知りたいです!」


「そんな大層な話しウチにあったかしら?・・・よろしければ我が家に伝わる伝記書などをお貸ししましょうか?」


「うわあああああ♪♪♪嬉しいです!是非お願いします」


夜寝る時のお供に家にあった本を大量にパクって来たファニー。

結構、昔のヴィアール家の話しは面白いのだ・・・余りにも馬鹿過ぎて。


そして伝記書をエスティマに貸したのだが・・・

「エスティマ様が寝不足になるまで読んでしまいますので出来れば一冊ずつ小分けでお貸しして頂いてよろしいでしょうか?」と困り顔の侍女に言われて、


「ごめんなさーーーい!」と謝るファニー。

一気に10冊も貸してしまったのだ、もうウッキウッキで喜んで徹夜で読んでしまったエスティマ。


こうして王立学園へ入学早々に可愛い妹分をゲットしたファニーだった。

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