六叉の鉾
朝――巨鬼討伐隊が休憩地に選んだハイストン神殿にて――
この神殿で、28人で編成された巨鬼討伐隊がヒディ=セントラルの守護霊攻撃に遭い、このうちの26人がこの世から抹消された。事実上の全滅といってよい。
討伐隊の残るメンバーは、ゲン=アルクソウドとキョウ=ボウメイクだ。2人は、ナラ京遷都前のフジワラ京で、アスカ=ウィスタプランやヒロミ=ドグブリードとともにキヨミハラ学院に通っていた同窓生だ。
ヒディの襲撃から一夜明け、4人には、神殿から朝食をふるまわれた。
その朝食をとりながらの問答である。
ゲン
「それで、君達はどうするんだい?」
アスカとヒロミに聞いた。
アスカ
「行くわ。 オビトが巨鬼を追ってフジワラ京に向かってる」
キョウ
「あの弱虫が、来るものか」
アスカ
「オビトは弱虫じゃない! コウセイ皇子も一緒なのよ。 今頃、フジワラ京に入っている頃よ!」
キョウ
「どうだか。 オビトに対しては、すでに逃亡罪の問疑があるそうだが」
ただし、この情報はキョウが自分で得たものではない。ゲンが、昨晩のうちにハイストン神殿の神官から聞き出したものを、右から左に流して語っただけである。
「逃亡罪」などと話が法的に複雑となれば、アスカにはこれに対するだけの言葉がない。ただキィと唸るのみである。そこで次はヒロミの出番だ。アスカは、オビトの事となると冷静を欠く傾向があるが、ヒロミはオビトへの嫌味を聞き流して冷静を装うことができる。
ヒロミ
「あなた達は、どうするのよ」
キョウ
「決まっている。 巨鬼を叩きのめす」
ヒロミ
「あなた達、本気なの? 見ての通り、討伐隊は全滅と言ってよいわ。 あなた達2人だけで巨鬼退治なんて無茶よ」
ゲン
「確かに、このままいけば失敗する可能性が高いね。 でも僕達は、君達とは違って、正式に討伐隊のメンバーになってしまった以上は、もう逃げられないんだ。 ここで巨鬼退治を投げ出してしまったら、それこそ逃亡罪でコレさ」
ゲンは、手刀で自分の首を切り落とすかのような仕草をした。巨鬼退治に向かわないと、死罪に処せられるということだ。それが、この時代、この世界の法律なのである。
アスカ
「あのクソ親父め! ワケ分からん法律を作るからこうなる!」
アスカは爪を噛む。この厳しい法律を作った長官が、アスカの父親のフヒト=ウィスタプランなのだ。その法律が、オビトやゲン、キョウを苦しめている。
そういうアスカの憤りを無視して、ヒロミがゲンに聞いた。
ヒロミ
「それでは、これから巨鬼を退治しに行くとして、何か作戦はあるの?」
ゲン・キョウ
「「……」」
そこへ、ハイストン神殿の神官長が割って入って来た。
神官長
「その巨鬼退治のお話、わがハイストン神殿でもお手伝いできませんか」
キョウ
「要らん。 人の手は借りぬ」
その言葉はぞんざいだが、不遜に出たものではなかった。ハイストン神殿は、ゲンやキョウの一族の始祖とも言うべき神殿である。そのような神殿に迷惑はかけられないという気遣いであったのだが、言葉を知らないキョウはどうしても言い方がぶっきらぼうになる。
こういうキョウの人柄をよく理解しているから、親友のゲンはその軽言を堂々と諫めるのだ。
ゲン
「キョウ、そう言うな。 まずは、神官長の話を聞こうではないか」
神官長
「私どもとしても、プリスト家に縁故があるゲン殿とキョウ殿の力になりたいと考えているのです。 しかし神殿で養っている守護霊使いは、どうも腰抜けばかりで、どうしても外に出て戦おうとしないのです」
キョウ
「そういうことならば、ますます頼りにならない」
ゲン
「キョウ、少しは黙ってろ!」
神官長
「ははは、まさにその通りですので気を遣わないでください。 お手伝いというのは、ここハイストン神殿でお守りしている神宝のことです」
何? キョウの眉がピクリと動く。
ゲン
「その神宝というのは――いや、待ってください。 ここには一族の外の者もいます。 あまりここで大ぴらに話されても」
「一族の外の者」とは、アスカとヒロミのことである。
神官長
「いえいえ、そちらの方ではございません。 私がいう神宝はこちらのことです」
そう言って神官長が合図をすると、背後から神官の1人が恭しく1本の刀を持ち出してきた。長さは、柄と鞘を足しておよそ1メートルほど。
鞘が、通常の刀に比べ太いように見える。
刀を受け取ったのは、キョウだ。無遠慮に鞘から抜くと、剣身の左右に3本ずつ、段違いに6本の枝刃をもった鉄剣が現れた。
神官長
「そちらは我々で『六叉の鉾』と呼んでいる霊刀です。 その昔、クダラの王が100の兵を退ける守護霊が憑依しているものとしてわが国に献上されたものでした。 が、あまりに霊力が強いのでこれを使いこなせる者がなく、イコト=プリストがこれを引き取って、わがハイストン神殿に納めたといわれるものです。 ただ、私が見るところ、確かに強い霊力はこめられておりますが、人に扱えぬほどではありますまい。 キョウ殿の霊力であれば、近く、使いこなせるやしれませぬ」
キョウがその場で六叉の鉾を2、3度振ってみる。
無反応。
キョウ
「確かに、重い霊力は感じる。 だが、守護霊を召喚できぬ」
ゲン
「焦るな、キョウ。 霊刀を手に入れたからと言って、簡単に守護霊を召喚できるものではないことは、君も知っているだろう。 どれ、その六叉の鉾を僕に貸してくれないか」
それでキョウが「ほら」と六叉の鉾をゲンに手渡すと、重い。鉛の球を握っているかのような感覚がゲンの手に吸い付くように伝わり、肩が抜けてしまいそうになる。
これを見ていたアスカが「どれどれ」と剣身に触ろうとすると、今度はバチッと火花が飛んだ。見かねたキョウが、ゲンから六叉の鉾を取り戻す。
ゲン
「なんだなんだ、キョウ。 君は、こんな重量の霊刀を軽々と振っていたのかい?」
キョウ
「振るだけならば造作もないことだ。 しかし、守護霊が召喚されない」
神官長
「いかがいたしましょうか? この神殿には、もう少し霊気の弱い神宝もございますが」
ゲン
「これで良い。 いや、これが良い。 何も今すぐ巨鬼と戦うという訳ではないのだ。 それまでに、この六叉の鉾から守護霊を引きずり出してやる」




