ここからどこへ行こうか
帰れない――これでは党に帰れない。
盗賊団朱屍党の小隊長レッグウィングは、頭領の指示通りクレイマスタ邸からの抜け道出口で待ち伏せし、頭領の予想通り暗殺目標のオビトが現れたのだが、何人の異能か、突然の竹の大量発生に囚われて、彼を取り逃してしまった。
だから、オビトを仕留めるまで、レッグウィングに帰る場所はない。
その彼を青竹の拘束から解いたオッグ=アイランダーも、オビト暗殺を狙っているのだという。彼の素性は知らないが、同じ敵を追う者だから、これを利用しない手はない。
レッグウィングとオッグは意気投合し、逃げたオビトの行方を追いかけた。
そのオビトは、1時間ほど歩いたその先の、日当たりの良い道端の空き地で休んでいた。
朝日が昇ってだいぶ経つ。
帰る家を失い、行く場がないのはオビトも同じだ。ヒロヨ、マーモ=クレイマスタ、ナーニャ、シラクの道連れとともに、昨夜は野宿した。このまま、何もないこの場所に居るわけにはいかない。それで、これからどこに行こうか。
ヒロヨがオビトに聞く。
オビト
「うん。 マシューさんは、今からでも巨鬼退治に向かうべきだと言っていたんだ。 だから、僕は、フジワラ京に向かうよ」
ヒロヨ
「ちょっと待ちなさいよ。 私はいいとして、こっちは守護霊が使えないマーモさんや、小さいナーニャやシラクもいるのよ。 このまま危険な巨鬼退治には行けないわ」
マーモがナーニャとシラクの肩を抱いて、だまってオビトとヒロヨの討論を聞いている。
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そういう場面へ、オビトを狙う盗賊団朱屍党のレッグウィングとオッグが追いついた。
敵を追跡するときは、まずは少人数で静かに素早く先に進み、本隊はその後をゆっくりと進む。だから、追いついたというのは、この先を行く部下がオビト達を発見したということだ。
レッグウィングがオビト発見を知らせてきた部下に「相手に気付かれてないか?」と聞くと、「大丈夫です」と応えられた。
オビト達は、レッグウィングの部下に発見されたことに気付いていない。
レッグウィング
「どうしようか。 このまま急襲するという手もあるが」
オッグ
「いや、それだと混乱の中で子ども達を安全に保護できないおそれがある」
子ども達というのは、幼い姉弟のことで、ナーニャとシラクのことである。
面倒くせぇことを言いやがる――
レッグウィングは内心でそう思いながらも、幼い姉弟を守ってほしいというのが、オッグと協力するにあたっての約束でもある。このオッグの意見を無視することはできない。
レッグウィング
「その幼児2人を助けるとして、どうする。 ここでオビトを泳がせるという手はないんだぜ」
オッグ
「それならば、ここは、まずは自分に任せてはくれまいか」
レッグウィング
「それは良いが、どうするんでい?」
オッグ
「まずはオビトと子供達を分離させる。 そうしたら合図を出すから、その時に君達でオビトを急襲すると良い。 そうだな、その時のために、君達はオビト達に気付かれずに、ひそかに彼らを包囲していてくれたまえ」
そう言うと、オッグは、1人、オビト達のパーティに近づいていった。
オッグ
「やぁ」
旅人を装うオッグが、どこに行こうか討論しているオビトとヒロヨに挨拶する。
オビトとヒロヨは討論を止め、何者が現れたのかと警戒する。マーモも、ナーニャとシラクを庇うように2人の背後に隠れる。
この時代、旅人は信用されない。無害な旅人を装って人に近づき、突然刃物を突き付けて追剥を働くような輩が多いからだ。
その上、オビトは巨鬼討伐の命令に違反している自覚をもっている。目の前の旅人は、そのオビトを逮捕しに来た憲兵かもしれない。オビト達の警戒心に緊張感が加わる。
そういうオビト達の緊張に気付いてか気付かずか、オッグは不自然なぐらいの満面の笑みを作り出し、1歩2歩とオビトに近づいていく。
オッグ
「そんな小さい子を連れて、君達はどこに行くつもりだい?」
爽やかな、上品な物言いだ。油断していると、つい警戒心を解いてしまいそうな、無垢な瞳に吸い込まれてしまいそうな声だ。これが、さらにオビトとヒロヨの緊張感を高めていく。
オビトとヒロヨに、何かが思い浮かぶ。
オビト
「どこかで、お会いしましたか?」
オッグ
「どこかで? 僕は、君達と会うのは初めてだと思うよ」
ヒロヨ
「いや、その声、私、どこかで聞いたことがあるわ」
オッグ
「やだな。 気のせいじゃないかな」
そう言ってオッグが、また1歩2歩と近づいていく。直感的には、自分達に近づけてはいけない男だ。オビトは1歩後ろに下がる。ヒロヨは、オッグの顔をじっと見る。
ヒロヨ
「あの時の盗掘者!」
オビトとヒロヨは、かつてクラハシの丘古墳を探検したときに、盗掘者と出会っている。2年前の話だったから忘れていたが、目の前にいる男はその盗掘者ではないか。
盗掘者だって?
いきなりそのように言われたのでオッグも驚いた。かつて古墳探索を繰り返し、盗掘者と呼ばれたことも度々ある。この2人、その時に出会っているのか?
そこでオビトとヒロヨの顔を凝視していると、だんだん記憶が喚起されてくる。
オッグ
「あ! お前たちはあの時の、滅茶苦茶な名前を唱えて古墳の主を怒らせた奴!」
まさか、あの時の少年少女がオビトとその仲間だったとは。
オッグ
「だが、もう遅い!」
ダッと駆け寄り、オビトの肩に手をかけて跳躍、そのままオビトの頭を飛び越えて宙返りし、ナーニャとシラクを守るマーモとの間に割って入ってしまった。
天平のファンタジアシリーズ・プレリュード02(短編)で、オビトとヒロヨがオッグと出会っているエピソードがあります。
ただしこれは2年前のお話で、当時のオビトはまだトーテムが使えません。
ご興味がある方は、是非お読みください!




