先に殺すは
羅城門の楼の上、ここに巣食う土蜘蛛に襲われたので、ヒロヨが輝ける闘士『太陽の法衣』を召喚して対抗する。
『太陽の法衣』は火焔光や水撃波といった能力を発動して攻撃を防いでいたが、ついに土蜘蛛の霊糸にとらわれるところとなった。
『太陽の法衣』は身動きが取れなくなった。
土蜘蛛が、『太陽の法衣』に近づく。
ヒロヨ
「火焔光!」
『太陽の法衣』の眉間から、赤い光線が発せられる。
土蜘蛛、回避。
まだ、火焔光で確実に仕留められる間合いに入っていないのだ。
土蜘蛛
「おっと危ない。 その火焔光とやらは、ちょっと物騒だねぇ」
今度は土蜘蛛が、霊糸の塊を吐いて飛ばす。
これが『太陽の法衣』の頭部に絡まった。
ヒロヨ、呼吸を封じられたかのような息苦しさを感じた。
『太陽の法衣』の動きは完全に封じられた。
それで土蜘蛛は、オビトとヒロヨの方を向いた。
土蜘蛛
「おぉ、おぉ、おぉおぉ! 人間の小娘よ。 これほどわが子らに手をかけて、無事に死なせてもらえるとは思うなよ。 貴様には、必ず、必ず、かーなーらーずー悲鳴をあげさせてやる! 思い知らせてやるゥ!」
土蜘蛛は、さらにオビトとヒロヨに近づく。2人は、霊糸の繭玉の中に縛り上げられ、床に放り捨てられている。
土蜘蛛が、2対の腕の鉤爪を2人に誇示しながら、カチカチと打ち鳴らす。
土蜘蛛
「見えるか? 見たか? 小娘よ、我が鉤爪を見たか? 厚さ3インチの鉄板もつらぬく鉤爪だぞう? これを、ここから振り下ろしたらどうなるかなぁ? このまま振り下ろしたらどうなるかなぁ? この真ん中あたりに突き刺したらどうなるかなぁ? 小娘の串刺しができるかなぁ?」
守護霊の動きを封じて調子づく土蜘蛛の前、ヒロヨは今にも殺されようとする恐怖を覚えた。
ヒロヨ
「オビトぉ! どうしたのよぉ! アンタも守護霊使いになったんでしょう! だったら、さっさと守護霊を召喚して、今度はアンタが闘いなさいよ!」
オビト
「できないんだ! どうやったら守護霊を召喚できるのか、分からないんだ!」
ヒロヨ
「そんなこと? 守護霊なんて、その二つ名を適当に唱えれば、召喚できるんじゃないの?」
オビト
「やってるよ! えい! 『王の愛者』! 『王の愛者』! 早く来ておくれよ! あぁ、どうして守護霊が召喚されないんだ!」
土蜘蛛
「ホーホッホッホ! 慌てるが良い、叫ぶが良い。 どうやら坊やは守護霊に嫌われているようだねぇ」
土蜘蛛が、オビトとヒロヨを縛りあげた繭玉を、鉤爪で交互に小突く。
土蜘蛛
「さてさて、どっちから先に〆てやろうかねぇ。 お嬢ちゃんかい? それとも坊やかい?」
ヒロヨは『太陽の法衣』の攻撃態勢を整えようともがくが、身体中を霊糸でからめとられていて、なかなか脱出できないでいる。
土蜘蛛
「お前はそこで大人しくしているんだよっ!」
土蜘蛛が、『太陽の法衣』の腹を蹴った。
守護霊は、攻撃を受けると、その衝撃が術者に伝わるといわれている。
ヒロヨは、腹に不快な痛みを覚えた。
ヒロヨ
「オビトォ、なんとかしてよぉ」
このままでは本当に殺されると観念してか、ヒロヨの声がか弱くなった。
土蜘蛛
「ううむ。 このお嬢ちゃんには、我が子を殺された恨みがあるわい。 よし、決めた。 ワシは、お嬢ちゃんが恐怖に悶える姿を見てみたいわい。 だから先に殺すは――」
先に殺すは?
土蜘蛛
「坊やの方さ!」
土蜘蛛は、オビトがヒロヨの仲間だと思っている。
仲間が殺される姿を見せた方が、ヒロヨが恐怖に悶えると考えた。
だから、土蜘蛛は、先にオビトを殺すことにした。
鋭い鉤爪を、大きく振り上げた。
殺される!
オビトは死を覚悟した。
次の瞬間、振り上げた土蜘蛛の鉤爪が、その躰を離れて宙高く舞い飛んだ。




