さっさとこの場を立ち去るんだ
マール=ハイストンの邸宅で休んでいるが、そのハイストン家は巨鬼の仲間なのかもしれない。
だとすれば、一刻も早くハイストン家の邸宅を脱出しなければならないのだが、そのことにゲンが気付いた瞬間、その部屋にアズマ=ハイストンが闖入してきた。
闖入してきたのは、アズマ1人であった。
アズマは守護霊使いでなければ、武芸に自信があるでもない。そのアズマが1人で襲撃してきたのだから、ゲンとキョウは罠を疑った。だが、本当に1人で襲撃してきたらしいと思うと、かえってその無策が滑稽に見え、失笑した。
アズマ
「な、な、何が可笑しいッ!」
ゲン
「だって、君は1人じゃないか。 こっちは守護霊使い2人なんだ。 いったい、どうやって戦うというんだい?」
アズマ
「あーッ! また馬鹿にしやがってッ! お前たちなんか、怖くなんかないぞッ」
ゲン
「そう言いながら、アズマ君、足が震えているじゃないか。 無理はしないでほしい。 君たちは、僕らの敵かもしれない。 しかし君は、かつてキヨミハラ学院で一緒に学んだ旧友でもある。 僕は、そういう君を傷つけたくはないのだ」
しかし、そのように言われてもアズマは退かない。
ゲン
「ならば、やむを得まい」
ゲンが守護霊を召喚する。鳥頭人身の『偉大な神鳥』が登場し、能力、神木の鞭を発する。
神木の鞭で、アズマのことを縛り上げてやろうという作戦だ。
これに対してアズマは背中に背負った剣を抜き、ゲンが放った神木の鞭を斬りはらってしまった。
キョウ
「あッ! その剣は!」
アズマが、背負った鞘から抜いたその剣は、六叉の鉾であった。
六叉の鉾は、永くハイストン神殿に奉納されていた霊剣である。アズマが1振りすると、迫る神木の鞭を難なく切り払う。それはアズマの武芸というよりも、六叉の鉾に操作されての剣さばきのようだ。
六叉の鉾は、持ち主を選ぶ霊剣である。アズマは、その柄を握る両拳に力をこめるが、剣から電撃のような刺激がビリビリと発するので、長くは握っていられない。そこで今はこれが限界と、アズマは六叉の鉾を鞘の中に収めた。
それが限界であったのに、ここで強がりを言うのがアズマである。
アズマ
「フフフ。 お前たちの頼みの六叉の鉾はすでにオレの物になっているのだ。 これさえあれば、お前たちなんて、オレの敵ではないぞ」
ゲン
「よせッ! 六叉の鉾は恐ろしい霊力をたくわえた霊剣なのだ。 迂闊に手にすると、君の魂が喰われてしまうぞッ!」
アズマ
「知ったことか。 しかし、ここではオレの分が悪い。 場所を変えるぞッ!」
そう言い捨てて、アズマはくるりとゲンとキョウに背を向けて、ハイストン家の敷地の外に向かって駆け出した。
キョウ
「待てッ! 六叉の鉾は置いていけッ!」
そう言いながら、キョウも部屋を出てアズマを追おうとした。
それをゲンは「罠かもしれない」と止めようとした。アズマの逃げ方は不自然である。いきなり部屋を襲撃してきたのに「ここではオレの分が悪い」とはどういうことか。アズマにはまだ考えていることがありそうだ。
そのようにゲンは説明しようとしたが、キョウは聞く耳をもたない。アズマが、六叉の鉾を持って逃げているのだ。事が六叉の鉾となると、キョウは冷静を失う。止めるゲンの手を振り払い、アズマを負って出て行ってしまった。
こうなると、ゲンも後を追いかけざるを得ない。
逃げるアズマの方はどうか。
六叉の鉾は、持ち主以外の者が所持すると、その所持者の霊気を奪っていく。六叉の鉾を背負って走るアズマは、この霊剣にみるみる霊気を奪われて、ハイストン家の門扉を出て100メートルほどで息が切れはじめ、さらに100メートルほど走ったところでキョウに追いつかれてしまった。
そしてすぐに、ゲンも追いつく。
守護霊使い2人に追いつかれ、頼みの六叉の鉾を抜く気力もない。それでもアズマは強がりを言う。
アズマ
「さぁ、さっさとこの場を立ち去るんだ。 黙ってここを立ち去るならば、命だけは助けてやるッ!」
しかしそれが虚勢であることは、キョウとゲンの目に明らかだ。キョウはアズマの背後にまわり、六叉の鉾を取り戻そうとした。
ところが、六叉の鉾を手にしようとしたその瞬間、アズマが素早く動いた。動いたというより、引っ張られたような形だ。
アズマが引っ張られたその先に、オットー=ハイストンである。アズマの長兄が、アズマの傍らの空間からヌッと現れた。その守護霊の能力、転移で瞬間移動してきたようだ。
オットー
「アズマ、ダメじゃないか。 勝手なことしては」
アズマ
「に、兄さん……これは……こんな奴ら、何も兄さんでなくても、オレでもやれると思って」
オットー
「いや、守護霊使いでない君に、この2人の相手をするのは無理だ。 アズマはここで見てなさい。 お兄ちゃんが、きっちりこの2人を殺してみせるから」
やはり、オットー=ハイストンは敵であった。
ゲンとキョウは、それぞれ守護霊を召喚した。




