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第七話 繋がり

ペンを動かして仕事をしていると、「ゴーン、ゴーン」部屋の隅にある大きな振り子時計が紅茶の時間を知らせた。立ち上がって伸びをすると窓の中に見える森が目に入った。濃い緑がまだ残っている。秋の始まりが近づいているのか、少し隙間が見えた。今でもアンスが帰ってくるのではないかと思って見てしまうが、人陰は見えない。

「コンコン」誰かが扉をノックしていた。入ることを許可すると、見慣れない背筋がピンとしたメイドが台を押しながら現れた。

「紅茶をお持ちしました。」

なぜだろう、初めて見るメイドのはずなのだが、声を聞いて懐かしい気がした。不思議だ。そして彼女は私の机の上に紅茶や菓子を置いた。

「こちらは王妃さまですか?」

彼女は机の上の写真の中の妻、イザを指さして言った。懐かしい妻の姿を見て、メイドと重なった気がした。

「あぁ、そうだ。で君、名前はなんて言うのかい。」

「私はイザと申します。」

イザという名を聞いて、メイドの顔をじっと見つめた。メイドの名前が妻と同じだなんて。そんなことがあるのか…

「どうしました?」

「いや、君の名前が死んだ妻の名前と一緒だったから。少し驚いたんだよ。」

メイドは写真を手に取っていた。

「そうなんですね。亡くなられてたんですね。この子は皇太子様ですか?しかし、この方を宮殿内でお見えしなかったですが…」

「あぁ、アンスは皇太子だった。つい、この前に天に召されたんだ。」

こんなつまらない嘘を平然とつく自分が嫌になる。突然、メイドの顔から明るさが消えた。

「そんなことないですよね。」

私は黙り込んでしまった。つまらない嘘をついたことを後悔した。

「何をいう、この前、葬儀をあげたばっかりなんだ。写真があるが、見るか。」

席を立ち、本棚へ向かおうとすると、メイドが立ち塞がった。

「何をしたいんだ。」

と問うと、メイドは顔を見上げて言った。

「この子は今、私の家で暮らしている。それでも、あんたは死んだって言うのかい?」

驚きのあまり何も言葉が出なかった。

「どうして、嘘をつくんだ。」

「君は一体、どこに住んでいるんだ。アンスに似た子か、どんな子かなぁ。」

「とぼけんじゃねーよ。なんでだ。なんで、お前は自分の子を死なせたいんだ。」

彼女の私を見つめている目から涙がこぼれていた。

「なんで、君は涙目なんだ。」

「私はね、捨てられたんだよ。小さい頃に確か10歳の誕生日にね。意味がわかんね〜よ。あいつはおそらく、駆け落ちした。そのせいで、父親はショックで寝込むようになって、1年後に死んだ。お父さんはずっと待ってたんだよ。最後の日も『今日こそくるかもしれない。』って呟いてたよ。まぁ、来たのはお迎えだったけどな。だから、親に捨てられる苦しみがよくわかるんだ。」

「けど、アンスは君にとって赤の他人だろ。なんで、わざわざ感情を動かすんだ。」

すきま風が感じられるほど、静かになった。彼女は深呼吸して言った。

「あの子は赤の他人じゃねー。おとうとだよ。」

彼女の顔が真っ赤になっていた。私は信じられなかった。そんなことがあるとは思えなかった。

「私の子供には女の子はいないはずだが。」

「私は、あんたの娘じゃね〜よ。あと、私の名前はイザじゃなくてベルだ。イザは私の母親であんたの亡くなった妻だよ。」

そういうことか。理解した。このベルという女はアンスを拾い。それで、父親であろう私に会うためにこの屋敷に来ていた。どんな巡り合わせか、この女はイザの子供だったってことだろう。ようやく理解して思わず呟いた。

「そういうことか。」

「どうして、あの子を死んだものにしようとしてるんだって聞いてるんだよ。」

涙のせいか彼女の蒼い眼の周りが段々と赤くなっていた。その顔を見て決心した。

「そのソファーに座りなさい。全て教えるよ、なぜアンスを死んだ事にしたのか。そして、この王家の紅い眼の秘密を。」

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