第五話 帰宅
少し古びた窓が風で音を奏でた。姉貴は無事に潜入できたのだろうか。少し不安だ。姉貴は少しの不安要素を解消させたい癖がある。1つのミスが怖いから完璧にこなしてしまう。それがきっかけで偽物と疑われたことは何回もある。そんなことを考えていると、扉が開く音がした。振り返るとベルが少し顔をこわばらせて立っていた。
「おかえり。ベル、疲れた?ご飯でも、作るね。」
「あ、あぁ…」
そっけない返事が返ってきた。僕は台所に立ってベルに話しかけた。そうじゃないと、ベルはどこかに行ってしまう気がしたから。
「そうそう、宮殿に潜入して良い情報はあった?」
「あったぞ。とは言ってもたいした情報ではないけどな。」
ベルはのびをしながら答えた。そして卵を割ったり、今日買った魚をきったりしながら、僕はこう言った。
「その情報はどんなものなんだ。噂話か?」
「いや、噂話ではない。私がみた情報だ。今日はパープ国の国王が訪問してらっしゃってな、その時国王の部屋にお邪魔したんだ。」
勝手に入ったのかな…と思っていると、姉貴は僕のことがお見通しだったようで、
「もちろん、トイレに行って道に迷っただけだけどな。」
「でた、その言い訳…」
いつも、人の部屋に勝手に入る時に言う定番の言い訳だ。
「で何を見つけたんですか?」
「王の部屋に入って、机の上をみてな。そこには1つ、写真立てがあったんだ。その写真には、とある家族が写ってた。そう国王家族だ。そしてそこには、あの子も写っていた。」
良い進展のはずが、姉貴から喜びをいっさい感じなかった。
「その写真って、あの子が王家と関わりがあるっていう証拠じゃないですか。」
「だから、明日、国王に探りを入れるつもりだ。」
話し方が暗い気がした。僕は魚を真っ白のご飯の上に盛り付けた。完成した海鮮丼とお箸を食卓に出しながら、質問した。
「ベルさんはあの子がいなくなるのが寂しいんですか。」
ベルは黙って食べ続けた。なぜか、僕まで黙ってしまった。ベルが食べ終わるまで。
ベルはご馳走様といい、箸を下ろした。そのまま、ベルはつぶやいた。
「寂しさ以上に辛いものだから。」
答えになっていない答えをして、ベルは席を立った。すきま風がふき、体が震えた。まだ、秋じゃないのに寒さを感じた。