西方防衛編 1章―4節 『新兵器、機巧銃の開発開始』
「うまくいったな」
心の中でファンファーレが鳴り響く。そんな心境。
あれから俺はかつての仕事場に戻ることはなかった。うまい具合にブラックな仕事環境から逃げ出すことができたのだ。なにせ、ハンスたちは俺を殺したかも……と戦々恐々としているのだろう。だから探そうともしない。藪をつついて蛇が出るような状況だからだ。
更に幸運だったのは新しい仕事場を確保できたことだ。
「スノウちゃんがお礼にって研究場所まで用意してくれるなんてなあ」
今はスノウちゃんの両親が残したという空き倉庫を借りさせてもらっている。頑丈な煉瓦作りの壁は防音もしっかりしている。文句など出ようはずもない。それもタダ同然だ。ありがたい。
この好待遇の理由は商店街にやってきた困ったたかり連中を追い払った感謝の証だった。俺は商店街の人たちに気に入られてしまったのだ。スノウちゃんに事情を話して場所を紹介してもらえるだけで良かった。だが一緒に聞いていた商店街の人たちも協力と資金援助してくれることになった。ただ援助をうけるも恐縮なので技術者として協力できることはしたいと思う。
「さて、早速はじめようかな」
俺は王国に来てから一ヶ月。その間に目から鱗の魔導具を幾つも目にした。その中でも興味を持ったのは魔法を撃つ兵器。
――『魔導銃』だ。
サンプルとして一丁手にしたことがある。銃の最大の利点は誰でも簡単に扱えることにある。たいした訓練もなしに一般人でも戦えるのがすごい。なにせ銃は遠距離から攻撃できるうえに狙いをつけて引き金を引くだけ。非常時の籠城戦なんかでは非戦闘員の女性でも手に取って武器にできるだろうな。
「『魔導銃』。それと『魔装銃』か」
魔装銃はまともな設計図すら手に入らない。王国から提供された情報は肝腎な情報が抜けている。そもそもにして核となる『魔装宝玉』そのものがブリアント王国の最重要機密。他国に流すわけにはいかないのだろうな。
まず、魔導銃についてまとめてみよう。
利点:誰でも簡単に扱える。
遠距離から撃つだけなので非戦闘員でも状況によって戦力になる。
銃は数少ない対空手段。
欠点:魔力消費が多めである。魔力の少ない一般人は魔力切れを起こしやすい。
威力に不安あり。無魔の雑兵に位置する『兵卒級』で大体2,3発当てる
必要はある。(隊列を組んで運用すれば効果があがるか?)
といったところか。
うん、問題はあるけれど剣と弓。そして、使い手が少ない魔法使いで戦うしかない従来に比べれば戦術に革命を起こす武器といえるだろう。惜しむべきは生産体制に入ったばかりの最新武器。数が絶対的に足りていない。
うーん、もったいない。数が揃えば組織的運用と戦術が可能になる。そうなった場合の有用性は計り知れない。
続いては魔装銃についての評価だ。
利点:魔導銃とは威力が桁違い。
バリエーションが豊富である。
連射タイプ。大出力砲撃タイプ、狙撃タイプなど。
魔装宝玉の補助で魔力効率が恐ろしく高い。
欠点:使い手を選ぶ。心の汚れた人間は扱えない。主に魔法少女専用。
希少な魔装宝玉を使っているために量産が難しい。
機密保持の機能が鬼のように搭載されている。解析は不可能。
……ふむ。
改めて帝国の技術者たちに提出された性能評価をみて俺は目を疑う。1秒間に3000連射や、雲を晴らすような巨大砲撃、射程3キロの魔装銃などなど……とても信じがたい性能が記されてあるのだ。
「使い手の魔法少女が凄いのか、これを魔法少女のためだけにつくった技術者がイカれているのか判断に迷うな。それとも魔導動力源であり魔法少女変身の基幹となる魔装宝玉がそれだけ規格外の魔法道具ということなのか」
次に兵器が一体何のために使われるのか。その対象は明白だ。
人類の敵である『無魔』。それについては未だによくわかってないことが多い。わかっていることは無魔たちの特徴として体が金属のようであり、見た目通りに硬い。単純な鉄製の武器で傷をつけるのは厳しいだろう。そうなると無魔がいかに厄介な異形かと思う。
だが弱点もある。魔力や魔法に弱いことだ。無魔でも一番格下と位置づけられている兵卒級は平均3メートルの野生動物のような見た目をしている。基本力押しで知能が低い。隊列を組んで魔力を金属にしみこませただけの鉄製の武器を装備した一般男性でもそれなりに戦える。
これが虫級になるとただの兵士では厳しい。身体能力に優れ、硬い甲殻をもち、群れで襲うことが多く、飛行タイプもいる。魔導装備を持つ騎士たちが当たる必要がある。
さらに上位に当たるのが人型の指揮官級だ。魔法抵抗のある反魔の障壁を有し、下位クラスを指揮することもできる。指揮官級とそれらが率いる無魔たちには中隊規模の騎士か同等の戦力であたる必要がある。
これはあまり知られていないが指揮官級すら上回る支配者級という上位種も確認されている。
別名無魔『純粋種』。
彼らは人型ではあるが異形。しかし人のように有機的な体にも擬態することができる。報告では人そっくりに化ける。さらに人に紛れこんでいるという話もある。
何より特出すべきはその戦闘能力だろう。単独で騎士団を壊滅させる力を有する。ブリアント王国では近衛騎士団長クラスか、魔法少女の小隊があたることになっているらしい。遭遇したら死を覚悟しなければならない災害クラスの敵といえる。
話はずれたが本題だ。俺の所属する自治政府が独占保有する秘匿技術。『機巧』についてだ。
侯爵子息が使っていた機巧腕輪もその機巧技術が用いられている。男にとって魔法は身体強化など内向型の魔法しか使用できない。
対して女性は放出型の魔法に適正がある。性別によって適正タイプの魔法が分けられるのだ。ただし、魔法少女の適正のある人は例外でオールマイティだったりする。
これらを踏まえて機巧腕輪の優れたところは従来の魔法の概念とは異なる手法で奇蹟現象を引き出す。そのため男でも放出系の魔法を使えるようにしたところにある。機巧腕輪に登録できる数は性能にもよるがおよそ2,3個。デメリットもあるがそれを補う利点もある。使い手を選ばないということと魔力効率の良さだ。
「魔導銃に機巧技術を組み込めばとんでもない武器ができるんじゃないだろうか。名前をつけるとするなら機巧銃か」
そう思うとワクワクしてきた。機巧銃を完成させ発表すれば今まで俺を無能者と冷遇していた連中も無視できないはずだ。母さんを助けられるかもしれない。
この技術を思いつきはしても実行できた者は今のところいないようだ。何せ魔導技術はブリアント王国の機密事項。機巧技術は神聖オラクル帝国の秘匿技術だ。今回の技術交流がなければ技術の融合などという発想も生まれなかった。この機会に恵まれたことだけは幸運と言えるかも知れない。
さらにどういうわけか魔導術式は専門外だった俺が解析できるようになっている。不思議なことに知らない知識が頭の中から湧いてくるような感覚。ブリアント王国の限られた技術者しかわからない魔導銃の技術がなぜか理解できる。これはちょっと異常な気がする。”知らない知識が理由なくわかる”というのは少し怖い。 でも母を助ける目的のために目をつむろう。自治政府の貴族たちも今は母がうまく立ち回って翻弄している。それも何時までももつという保障はない。
「決めた。俺は新兵器『機巧銃』を開発し母さんをたすけるんだ」
そうして俺は一ヶ月寝る間も惜しんで研究開発に時間をつぎ込んでいった。




