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マギカギア大戦   作者: 東山幸
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西方防衛編 1章―3節 『頑張り屋のスノウちゃんを助けたら懐かれたらしい』

 数十の商店が建ち並ぶ活気のある場所にやってきた。……はずだったのだが。


「人が退いてるような……」


 買い物に来た客はそそくさと帰路につき、商店は急いで店じまいの準備に入っている。どういうことだ。まさか俺がきたからとかじゃないよな。だったらどんだけ嫌われてるんだ。泣くぞ。

 悲観的な思いに囚われていると一部で喧騒が聞こえてくる。


「貴様、協力しないっていうのか」

「税金はすでに十分といえるほどにおさめています。これ以上持って行かれたら商売どころか生活が成り立ちません」


 見ていて俺は頭を抱えたくなる。帝国からきたハンスたちが役人のように税を強制徴収しようとしていた。

 あいつらほんとどうしようもないな。

 そしてこの騒動の根幹には中心にいるフィシャー侯爵令嬢ノーマが関わっていることが見てわかった。


「どうして拒否するのですか。我が領内には恵まれない人々が大勢いるのです。彼らに食糧の配給をするため善意の手を差し伸べようとは思わないのですか」


 さすが箱入りお嬢様だ。見事なまでに現状がわかっていない。それでは一時的には良くても根本的な解決にはならない。そもそもにして徴収したそのお金もフィシャー侯爵の社交パーティーなどの遊興費用に消えていくだろう。商人もそれがわかっているからなおさらに出し渋る。


「いいから出せ」

「そんな横暴な」


 ザコンたちは何様のつもりなのか。他国の人間が商人たちから商品を持ちだしてしまった。いつから王国の役人になったのか。呆れてなにも言えない。

 そもそもにしてこの都市の商人も生活が苦しい中で商売をしている。衰退しつつあるこの街の生活基盤を守るため善意で商売を続けてくれている。でなければもっと儲かる都市にうつってしまうべきなのだ。

 ノーマは差し押さえた商品を見て嬉しそうに勘違いをした。


「ありがとうございますわ。これで貧しい人たちに炊き出しをすることができます」


 まるで商人側から自主的に提供されたような口ぶりだ。本気で言ってるのか?

 そんなノーマをハンスたちは鼻の下を伸ばしてノーマ嬢を褒め称えている。

 

「さすがノーマ嬢。お優しい。まるで天使のようだ」


 確かに愛くるしい。誰もがふりかえりそうな容姿ではある。きっと貴族社会でも縁談の話がひっきりなしだろう。

 だが俺の脳裏には先ほど出会った銀髪の少女が未だに頭から離れない。だからだろうか。冷めた思考で眺めることができていた。

 あの子のほうが可愛かったからな。名前聞けば良かったかもな。

 そんな考え事をしている間にノーマたちは次なる商店に徴収を行っていた。


「やめてください。それを持って行かれたらうちは仕入れもできなくなります」

「知ったことじゃない」


 今度は若い少女の逼迫した声がする。視線を向ければ知り合いだった。このベルモンテでも堅実で住民に寄り添った商売をする若い商人で『此花スノウ』ちゃんだ。ブリアント王国東側にある海の向こうにあるという幻の国家『瑞穂神国』出身だという。

 黒髪と小柄な容姿、年齢のわりに落ち着いていて丁寧な接客からご近所さんに愛されている。何より両親を失っても頑張る姿に住民が励まされ、スノウちゃんもそんな周りの善意の手助けを借りてお店を切盛りしている。

 おいおい、スノウちゃんからも徴収するのか。それは鬼畜すぎやしないか。


「きゃ」


 乱暴に突き飛ばされて尻餅をついた着物の少女スノウちゃん。

 あいつらほんとにやりやがった。

 これには周囲の住民たちの敵意も一気にはねあがった。

 まずい。本当に暴動になりかねない。

 俺は動くことを決めた。急いで周囲を見回し考えを巡らせる。どうやって一触即発の状況をおさめればいいのか。近くを見回すとちょうど世話になっている肉屋のおっちゃんと目が合った。ふと、悪巧みを思いつく。これならいけるかもな。

 俺はおっちゃんに話を持ちかけた。


「すみません。ちょっと協力してほしい」


 ノーマたちを指差し、いたずらっ子のような笑みを作ると察してくれたおっちゃんが気前よく頷く。周りの商売人たちにとってもスノウちゃんは娘のように可愛がっている存在だ。話す前から思い切りのいい返事をくれる。

 この人いい人だな。

 そして、その後に提案した作戦を耳打ちするとおっちゃんは目を見開いて驚くがニヤリと笑って快諾してくれた。

 いやあ、この数ヶ月妙に姑息な手を思いつくんだよなあ。我ながらあくどい策だ。まあ、相手はハンスたちだし遠慮しないでやらせてもらおうか。

 ――――――

 ――――


「おっと」

「ぬわっ」


 お金の入った袋を持ったザコンと俺はぶつかる。その拍子に落ちた袋を取り上げるとスノウちゃんに渡す。


「これスノウちゃんのだったよね」

「あ、はい」


 スノウちゃんがこちらを心配そうに見てくる。矢面に立ち、かばおうとするこちらを逆に案じてくれる表情だ。心優しいスノウちゃんに俺は心配ないと視線を返した。


「おいこら、ユリス。てめえそれは俺らのものだぞ」


 ザコンが殴りかからんばかりに詰め寄ってくる。対して意味がわからないと俺は首をかしげる。


「はあ、さっきからみていたけどさ。どう見てもこのお店のお金だろう。それを勝手に取ったら窃盗だぞ。そんなこともわからないのか」

「ちがう。これは税の取り立てだ。邪魔するのか?」


 おい、税の取り立てとか言っちゃったよ。こいつバカか。役人を語ったらそれだけで法にふれるはずだけどなあ。

 滅茶苦茶な言い分に周囲の人々の目も冷ややかだ。俺は挑発の意味も込めて首を振って溜め息をこぼす。


「はあ、お前は帝国から派遣されてきたただの技術者だろ。何の権限があって税の取り立てができるんだ?」

「そ、それは」


 言い返せないザコンに変わり、ハンスが前に出てきた。


「ユリス、お前生意気だぞ。お前の上司で貴族の俺様に逆らう気か?」

「他国で違法な徴税官ごっこをしていたと発覚すれば国際問題ですよ。本国に知れれば大問題だ。話をすり替えないで下さい」

「お、おまええええっ」

 

 顔を真っ赤にして怒りの血潮を頭にためるハンス。血管が切れないか心配になるレベルだ。そこにノーマが擁護の声を上げる。


「それは誤解ですよ、ユリス様」

「ノーマ様、お久しぶりでございます」


 一応領主の娘なので俺は丁寧に挨拶をする。それでも(いん)(ぎん)()(れい)な空気が出るのは仕方ない。この険悪な状況だからな。


「私たちは皆さんから善意を集めさせて頂いているのです。けっして徴収ではありません」

「恐れながら申し上げます。でしたら相手の同意なくことに及ぶのはお控えになるべきでしょう。特にこの子は今両親なく、若い身で必死に店を切り盛りしているのです。彼女の手にあるお金を取っては路頭に迷わせ、施しを受ける側となってしまいます」

「まあ、それはたいへんご苦労をされたことでしょうね」

「そのとおりです。ノーマ様が知らなかったのですね。これは教えていなかった周囲の者の不手際でしょうか」


 ノーマのメンツを守れるように誘導しつつ、ハンスたちに責任が集中するように俺は避難の目をザコンに向ける。


「それでも周囲の目から見た場合、あなた様の悪評に繋がります。ここは寛容な対応をお願いしたく存じます」


 その言葉を聞いてノーマは周囲に目を向けようやく空気を読んだのか、フワリと人形のように美しい笑顔でいった。


「助かりましたわ。今後の参考にさせて頂きましょう。――皆さん、屋敷に戻りましょう」


 ノーマの侍女がこちらを睨んだ後、恭しく礼をして去って行く。これに納得のいっていなかったのがハンスたちだ。特にハンスの怒髪天を突くような様子を(そん)(たく)したザコンは俺に近づくと脅してくる。


「お前、最近妙に反抗的になったよな。わかってんのか。後でおぼえてろよ」

「はて、何のことでしょうか。最近物忘れが激しくて……」

「ふざけるなっ」


 我慢できなくなったザコンにおもいっきり突き飛ばされた。そして”運悪く”、ハンスたちが取り上げた商品の山に勢いよく倒れ込んだ。俺はその場から動かない。


「おい、いつまで倒れているつもりだ」


 ハンスが追い打ちで蹴りを入れてくるが自身の靴についた赤黒い液体を見て後ずさる。


「うわあっ、なんだこれは、血?」


 視線を向けたハンスは血だまりに沈む俺を見て更に慌てた。商品の山の中にあった短剣が無造作に突き出ていてそこに血がべったりと付着していたのだ。そして、腹部を押さえて蹲る俺に周囲の住民たちはザワついた。


『おい、もしかして傷害か』

『いや、殺人じゃ……』

『通報した方がいいんじゃないか。これはもう犯罪だろ』

 

 肉屋のおっちゃんを始めとして住民たちが騒ぎ始める。これに慌てたのがハンスたちだ。


「ち、ちがう。こいつが勝手に怪我をしたんだ。俺は悪くない」

「くそ、ここにいたらまずい。帰るぞ」


 ハンスはザコンを置いて慌てフィッシャー侯爵の屋敷に向かう。それはいざとなったら貴族の権力を頼り匿ってもらう意味もある。


「ま、待ってくれ」


 ザコンも遅れて逃げて行く。集めたお金や商品は回収されず残ったままだ。


「ユリスさん、大丈夫ですか」


 スノウちゃんが止血用の布を持って駆け寄ってくる。しかし俺は手で制して遠慮する。


「ごめん、心配かけた。でも必要ないんだ。だってこの血は血糊だからね」

「ほへっ」


 なんとも可愛らしい声が漏れ俺は微笑ましくなった。だまして申し訳ない。


「駆けつける前にそこの肉屋のおっちゃんから家畜の血をもらって懐に血糊袋を忍ばせていたんだよ。演技だから怪我してないだろ」

「よかった。ユリス様になにかあったらとおもうと私……」


 全ては取られた商品とお金を取り戻す策だとようやく気がついたようだ。スノウちゃんは安どのため息を落とした。

 他人のために泣くスノウちゃんはこの荒れた時代にあっては珍しくピュアな子だ。抱きついてきた彼女の背中をさすると震えているのがわかる。

 怖かったのかもな。そっか。まだ12才ぐらいの少女だもんなあ。

 ひとしきり泣いた後は泣き晴れた顔を上げて丁寧にお礼を言う。


「ありがとうございました。是非お礼をさせて下さい、ユリス様」


 血糊で汚れた手にも関わらず両手で手を取り、潤んだ瞳で彼女は俺を見つめていた。

 あれ? そういや敬称呼びになってないか。しかも妙に熱っぽい視線向けてきてるんですけど?

 ……どうしてこうなった。

 

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